ヴォロディミール・ゼレンスキー(ウクライナ大統領)、その悪しき素顔
<記事原文 寺島先生推薦>
Volodymyr Zelensky: The Dark Side of the Ukrainian President
(ヴォロディミール・ゼレンスキー:ウクライナ大統領の暗い側面)
筆者:ガイ・メタン(Guy Mettan)
出典:INTERNATIONALIST 360°
2022年6月23日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年8月2日
スイスの国会議員でTribune de Genèveの前編集長であるガイ・メタンは、ウクライナの大統領を演じる曲芸師の肖像を描く。彼は、この大衆エンターテイナーがいかにしてバンデリスト(ステパン・バンデラの信奉者)の味方となり、彼らのために独裁政権を樹立した経緯を明らかにしている。
「Héros de la liberté(自由のヒーロー)」、「Hero of Our Time(現代の英雄)」、「Der Unbeugsame(不屈の人)」、「The Unlikely Ukrainian Hero Who Defied Putin and United the World(プーチンに食ってかかり、世界を統一した希代のウクライナ人ヒーロー)」、「Zelensky, Ukraine in blood(ゼレンスキー、血みどろのウクライナ)」:欧米のメディアや指導者たちはもはやどんな最上級の言葉でウクライナ大統領を賞賛していいかわからないほど、「軍事的指導者」「民主主義の救世主」に奇跡的に変身したこの芸人の「驚くべき復活力」に魅了されているのである。
この3ヶ月間、ウクライナの国家元首(ゼレンスキー)は、ずっとトップニュースで報じられてきた。カンヌ映画祭の開幕を飾り、各国の議会で演説をした。自分より10倍も力のある同じ国家元首に祝意を述べたり、訓戒をたれたりした。こんな幸福感や戦術感覚は彼以前のどんな映画俳優も政治指導者も知らないものだった。
この『Mr.ビーン』*まがい人物の魔力にどうしても魅了されてしまうのは、彼が、にやにや笑いと極端な羽目外し(例えば、店の中を裸で歩いたり、自分の性器を使ってピアニストのふるまいをするなど)で大衆の気持ちを鷲掴みにした後、そのおふざけと耳障りなダジャレはやめて、灰緑色のTシャツと1週間の無精髭、そして一から十まで真面目な言葉を使いながら、ロシアという邪悪な熊に包囲されている軍隊に活力を与えようとしたからだ。
『Mr.ビーン』*・・・(ミスタービーン、Mr. Bean)は、イギリスのテムズテレビ(ITV系)にて1990年から1995年まで放送されたコメディ・TVシリーズ。(ウイキペディア)
2月24日以降、ヴォロディミール・ゼレンスキーは、疑いなく、国際政治における類まれな才能を持つアーティストであることを証明した。彼のコメディアンとしてのキャリアを追ってきた人々は、彼の天性の即興のセンス、模倣の能力、演技における大胆さを知っていたので、そんなことは驚きでもなんでもなかった。2018年12月31日から2019年4月21日までの数週間で、ゼレンスキーという政治家を作り出そうとする勢力と、金に糸目を付けないオリガルヒの寄付を動員して、ポロシェンコ元大統領のような手強い相手を選挙運動で打ち負かしたやり方は、すでに彼の才能が彼個人の範囲にはとどまっていなかったことを証明していた。しかし、当時はまだ小手先だったのだ。しかし今や、ゼレンスキーの才能な全開している。
二枚舌の天才
しかし、よくあることだが、表舞台が舞台裏と同じということはほとんどない。スポットライトは、見せるよりも隠すことの方が多い。そしてここでお見せする絵は「素晴らしい!」というのではまったくない:彼の国家元首としての実績も、民主主義の擁護者としてのふるまいも、「申し分ない!」というのとは正反対だ。
ゼレンスキーの二枚舌の才能は、大統領に選出されたらすぐ発揮されるような類のものだ。そう、彼は、汚職に終止符を打ち、ウクライナを進歩と文明の道に導き、とりわけロシア語圏のドンバスとの和平を約束し、73.2%の得票率で当選したしている。しかし、当選するやいなや、その公約をことごとく裏切り、2022年1月には支持率が23%にまで落ち込み、主要な対立候補2人に追い越されるまでになった。
2019年5月から、オリガルヒのスポンサーを満足させるために、新大統領に選出されたゼレンスキーは、土地売却の猶予期間が国のGDPに数十億ドルの損失を与えた可能性があったという口実で、4000万ヘクタールの優良農地を対象とした大規模な土地民営化計画乗り出そうとしている。2014年2月の親米クーデター以降に始まった「脱共産化」「脱ロシア化」プログラムをきっかけに、国有資産の民営化、財政緊縮、労働法の規制緩和、労働組合の解体という大作戦を開始し、ゼレンスキーが候補者だった時に言った、ウクライナ経済の「進歩」「西欧化」「正常化」がどういうものかを理解していなかった大多数のウクライナ国民を怒らせているのである。2020年の一人当たりの所得が、ロシアの10,126ドルに対して3,726ドル、1991年にはウクライナの平均所得がロシアのそれを上回っていた国だから、この対比は喜べる代物ではない。そして、ウクライナ人が、この嫌になるほど繰り返された新自由主義的改革に拍手を送らなかったことも理解できる。
文明化への進展に関しては、別の法令の形をとることになる。つまり、それによって2021年5月19日に、ウクライナ語の支配を保証し、公共生活、行政、学校、企業のすべての領域からロシア語を禁止することが実効性をもつ。民族主義者は大満足だろうが、南東部のロシア語を話す人々にとっては寝耳に水だ。
濡れ手に粟のスポンサー
汚職に関する記録は、こんなものではない。2015年、ガーディアン紙は、ウクライナはヨーロッパで最も腐敗した国であると評価した。2021年、ベルリンに本拠を置く西側のNGO、トランスペアレンシー・インターナショナルは、ウクライナの汚職度を世界122位とし、軽蔑すべきロシア(136位)に迫った。ロシアという野蛮人を前にして、模範的美徳を任ずる国としては、胸を張れる数値ではない。汚職はいたるところにある。省庁、行政、公共企業、議会、警察、そしてキエフポスト紙によれば、汚職防止司法高等裁判所でさえも汚職がある。また、裁判官がポルシェで移動しているのを見るのも珍しくない、と同紙は報じている。
ゼレンスキーの主なスポンサーであるイホル・コロモイスキー(Ihor Kolomoïsky)は、ジュネーブに住み、港を見下ろす豪華なオフィスを構えているが、蔓延する汚職から利益を得ているこういったオリガルヒたちとは桁を異にしている:2021年3月5日、おそらくアンソニー・ブリンケンとしては他に選択の余地がなかったのだろう、「重大な汚職への関与」を理由に国務省が彼の資産を凍結し米国からの追放を発表したのである。たしかにコロモイスキーは、国営のプリヴァトバンクから55億ドルを横領した罪に問われていた。偶然にも、この善良なコロモイスキーは、ジョー・バイデンの息子ハンターを月5万ドルというささやかな報酬で雇い、現在デラウェア州検察の捜査を受けている石油保有会社ブリズマの主要株主でもあった。賢明な予防策:コロモイスキーはイスラエルでペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)となり、一部の証言によればグルジアで難民となっており、証言台に立つことはなさそうである。
このコロモイスキーこそ、ウクライナ躍進の立役者であり、ゼレンスキーの俳優としての全キャリアを作った人物で、2021年10月にマスコミによって明らかにされた「パンドラ文書」事件にも関与している人物である。「パンドラ文書」は、2012年以来、この罰当たりなオリガルヒが所有するテレビチャンネル1+1が、そのスターであるゼレンスキーに4000万ドルもの大金を支払っていたことを明らかにした。そしてゼレンスキーは、大統領に選ばれる直前、彼直近のクルィヴィーイ・リー市*(Kryvyi Rih)守備隊の助けを借りて、妻の名義で開設した外国口座にかなりの金額を慎重に移し、ロンドンに無申告のアパートを3つ、総額750万ドルで取得したことも明らかにしている。この守備隊とは2人のシェファ(Shefir)兄弟。一人はゼレンスキーのゴーストライターであり、もう一人は国家保安局の局長、そして共同制作会社Kvartal 95のプロデューサー兼オーナーだ。
クルィヴィーイ・リー市*・・・ウクライナのドニプロペトローウシク州クルィヴィーイ・リーフ地区にある都市。サクサハーニ川、インフレーツィ川の河岸に位置する。(ウイキペディア)
この「人民の奉仕者」(これは彼が出演した連続テレビ番組と政党の名前である)の非プロレタリア的な快適さへの嗜好は、ソーシャルネットワークに一時掲載され、確認されたが、反共謀事実確認者たちによって直ちに削除された。そこにはカルパチアの質素なスキーリゾートで冬の休暇を過ごすはずの彼が一泊数万ドルの南国の宮殿でくつろぐ姿を捉えた写真が掲載されていた。
節税技術や、物議を醸すオリガルヒとの頻繁な付き合いは、無条件に汚職撲滅を訴えていた大統領の公約に沿うものではない。また、憲法裁判所の厄介な存在だったオレクサンドル・トゥピツキー(Oleksandr Tupytskyi)長官を排除しようとしたり、前任者のオレクシャイ・ゴンチャルク(Oleksyi Goncharuk)がスキャンダルで退任した後に、デニス・シュミナル(Denys Chmynal)という無名の男を首相に任命したことも同じだ。しかしシュミナルにはウクライナで最も金持ちであるリナト・アフメドフ(Rinat Akhmetov)の工場の一つ(アゾフ大隊の英雄的自由戦士の最後の避難所となった有名なアゾフスタル工場)の運営者であるという長所があった。ロシア軍が降伏後に公開した無数のビデオに見られるように、この自由戦士とはSS帝国師団のヴォルフスアンゲル*、アドルフ・ヒトラーの言葉、卍を賛美するタトゥーを腕、首、背中、胸に入れた者たちだ。
ヴォルフスアンゲル*・・・Wolfsangel: は、2つの金属部品と接続チェーンで構成される、歴史的なオオカミ狩りの罠に触発されたドイツの紋章。 初期には、魔法の力が宿っていると信じられていたが、15世紀にドイツの王子とその傭兵の抑圧に対する農民の反乱の紋章として採用された後、自由と独立の象徴になった。(ウイキペディア)
アゾフ大隊の捕虜
華やかなヴォロディミルがウクライナの民族主義右派の最も極端な代表と和解したことは、ゼレンスキー博士*の異常なふるまいの最たるものではなかった。西側メディアは、大統領が突然ユダヤ人であることを再発見し、これをスキャンダラスなことと判断し、この共謀を直ちに最大限の悪意を持って否定したのである。ユダヤ人の大統領が、ごく少数のアウトサイダーとして紹介されているネオナチに共感するわけがない。プーチンの「非ナチ化」作戦を信用してはならない......。
ゼレンスキー博士*・・・7月3日のEnglish ISLAM Timesに掲載された同じ記事のタイトルは「Dr.Volodymyr & Mr.Zelensky」となっている。彼は博士号を取得していない。
そして事実は揺るがず、決して些細なものではない
ゼレンスキー個人がネオナチ思想やウクライナの民族主義的極右と親密であったことはないことは確かである。彼のユダヤ人の先祖は、たとえ比較的遠いところにあり、2022年2月以前に主張したことはなかったとしても、彼の側に反ユダヤ主義が存在しないことは明らかである。したがって、このゼレンスキーとネオナチ・極右との和解は彼への親近感を裏切るものではなく、ありふれた存在理由の問題であり、プラグマティズム(実用主義)と、身体的にも政治的にも生き残ろうとする本能、というだれでも理解できるこの二つの混合物である。
ゼレンスキーと極右の関係の本質を理解するには、2019年10月まで遡る必要がある。そして、これらの極右組織は、たとえ有権者の2%の重さしかないとしても、それでも100万人近くの非常に意欲的でよく組織された人々を代表し、多数のグループや運動に広がっており、その中でもアゾフ連隊(コロモイスキーが早くも2014年に共同設立し資金を提供、やはり彼だ!)が最もよく知られているにすぎないことを理解する必要がある。これに、Aïdar、Dnipro、Safari、Svoboda、Pravy Sektor、C14、National Corpsなどの組織を加えれば、完璧だ。
アメリカのネオナチ、デイヴィッド・レーン(David Lane)のフレーズ(We must secure the existence of our people and a future for white children「私たちは民族の存在と白人の子供たちの未来を確保しなければならない」)の語数から名付けられたC14は、海外ではあまり知られていないが、ウクライナでは人種差別的暴力で最も恐れられている団体の一つである。これらのグループはすべて、2014年から2021年までウクライナの治安組織を無批判に支配したリーダー、アルセン・アヴァコフ(Arsen Avakov)元内相の主導で、多かれ少なかれウクライナ軍と国家警備隊に併合されたのだ。ゼレンスキーが2019年秋以降「退役軍人」と呼んでいるのは彼らである。
当選から数カ月後、この若い大統領は選挙公約を実現し、前任者が署名したミンスク合意を履行しようとドンバスに赴いた。2014年以来、1万人の死者を出してドネツク市とルガンスク市を砲撃してきた極右勢力は、この「平和主義者」大統領を疑っているため、最大限の慎重さをもって彼を迎えている。彼らは「降伏しない」というスローガンのもと、容赦ない平和反対キャンペーンを繰り広げている。あるビデオでは、青ざめたゼレンスキーが彼らに懇願している。「私はこの国の大統領だ。私はこの国の大統領だ。私は41歳だ。私はこの国の大統領だ。私はあなたのところに来て、銃を取り出してください、と言っているのです。」この動画はソーシャルネットワークで公開され、ゼレンスキーはたちまちヘイトキャンペーンのターゲットとなった。平和とミンスク協定の履行を願う彼の思いは、これで終わりを告げることになるのだろう。
この事件の直後、過激派勢力の小幅な撤退が行われ、その後、本格的に爆撃が再開された。
民族主義者十字軍
問題は、ゼレンスキーが彼らの脅迫に屈しただけでなく、彼らの民族主義的十字軍に加わっていることだ。2019年11月に遠征に失敗した後、彼はC14のリーダーであるイェベン・タラス(Yehven Taras)を含む複数の極右指導者を迎え、首相は殺人の疑いがあるネオナチのアンドリイ・メドベスコ(Andryi Medvedko)の側に立っている。また、戦時中にナチスドイツに協力し(戦後はCIAに協力)、ユダヤ人ホロコーストに参加した民族主義者ステパン・バンデラ(Stepan Bandera)への支援を宣言していることから、彼をナチスと非難するスペインのファンに対して、サッカー選手ゾルズィヤ(Zolzulya)を支持する。
民族主義的急進派との協力関係は確立している。昨年11月、ゼレンスキーは超国家主義団体Pravy Sektorのドミトロ・ヤロシュ(Dmytro Yarosh)をウクライナ軍最高司令官特別顧問に任命し、2022年2月からは後方でテロを繰り広げている義勇軍の長に就任させた。同時に、拷問を好むことから「絞殺者」の異名を持つオレクサンデル・ポクラド(Oleksander Poklad)をSBUの防諜部門長に任命した。戦争開始の2ヶ月前の12月には、Pravy Sektorのもう一人の指導者であるドミトロ・コツイバイロ(Dmytro Kotsuybaylo)司令官に「ウクライナの英雄」の称号が与えられ、戦争開始の1週間後には、ゼレンスキーはオデッサ地方知事を、超民族主義団体アイダー大隊の隊長マクシム・マーチェンコ(Maksym Marchenko)に交代させている。ベルナルド=アンリ・レヴィ(Bernard-Henri Lévy)が必ず一緒に行進するのはまさにこの団体だ。
極右に地位を与えてなだめたいのか?超愛国主義の共有か?それとも、新自由主義、大西洋主義、親欧米の右派と、ロシア人を粉砕し、国民党のリーダーであるアンドレイ・ビレツキー(Andryi Biletsky)元代議士の言葉を借りれば「世界の白人種を率いて、セム族(セム人)に導かれた劣等民族(人種)に対する最後の十字軍」を夢みる民族主義の極右との、単純な利害の一致なのだろうか。ゼレンスキーにこの質問をしたジャーナリストはいないので、よく分からない。
しかし、疑う余地のないのは、ウクライナ政権の権威主義的、犯罪的な傾向がますます強まっていることである。そのため、その狂信者たちは、自分たちの偶像をノーベル平和賞に推薦する前に、もう一度よく考える必要がある。メディアが見て見ぬふりをしている間に、ロシアのエージェント(工作員)、あるいは敵と共謀していると疑われる地方や国の選出議員に対する脅迫、誘拐、処刑作戦行動が実際に行われているのだ。
「ウクライナの裏切り者が一人減った! 彼は死体で発見された。人民裁判所で裁かれたのだ!」 内務大臣顧問のアントン・ジェラシェンコ(Anton Gerashenko,)は、テレグラムのアカウントで、小さな町クレムニナの市長で元代議士のヴォロディミル・ストロック(Volodymyr Strok)の殺害をこのように発表した。彼はロシア軍に協力した疑いがあり、誘拐され拷問された後、処刑された。3月7日、ゴストメル市長は、ロシア軍と人道的回廊を交渉しようとしたため、殺害された。3月24日、クピャンスク市長はゼレンスキーに、SBU工作員に誘拐された娘の解放を要請した。同時に、ウクライナの交渉担当者の一人が、国家主義的なメディアによって反逆罪で告発され、遺体で発見された。ロシアに占領されたことのない地域も含め、これまでに11人もの市長が行方不明になっているという。
禁止された反対党派
しかし、弾圧はそれだけにとどまらない。批判的なメディアはすべて閉鎖され、野党はすべて解党された。
2021年2月、ゼレンスキーは、親ロシア派と目される、オリガルヒのヴィクトル・メドヴェチュクが所有しているとされる3つの野党チャンネル、NewsOne、Zik、112 Ukraineを閉鎖した。米国務省は報道の自由に対するこの攻撃を歓迎し、「米国はロシアの悪質な影響に対抗するウクライナの努力を支持すると述べている...」と述べている 。2022年1月、開戦の1ヶ月前にNashは閉鎖された。戦争が始まると、政権は左翼のジャーナリスト、ブロガー、コメンテーター狩りに走った。4月初めには、2つの右派チャンネルも影響を受けた。Channel 5とPryamiyだ。もちろん、大統領令によって、すべてのチャンネルが政府寄りの単一の論調で放送することを義務づけられている。最近では、この国で最も人気のある批判的なブロガー、ウクライナのナヴァルニー(Navalny)ことアナトーリー・シャリー(Anatoliy Shariy)まで魔女狩りの対象になっており、彼は5月4日、ウクライナ政治警察の要請でスペイン当局に逮捕された。少なくとも独裁者プーチンに匹敵する報道機関への攻撃だが、欧米のメディアで報道されることは皆無だ...。
この粛清は、政党に対してはさらに厳しいものであった。ゼレンスキーの主な反対者たちは壊滅させられた。2021年春、プーチンに近いとされる中心的な反対者メドベチュクの自宅が荒らされ、本人は自宅軟禁となった。4月12日、このオリガルヒ代議士は、非公開の場所に強制的に留め置かれ、明らかに薬物を投与され、訪問者たちは必ずテレビに映され、アゾフスタル守備隊の解放との交換を提示された。これはジュネーブ条約をすべて無視した行動だ。彼の弁護士たちは脅迫され、彼を弁護することをあきらめ、当局に近い人物の肩入れをしなければならなかった。
昨年12月、反逆罪で訴えられたのは、世論調査で上昇していたペトロ・ポロシェンコ(Petro Poroshenko)だった。2021年12月20日15時7分、SBU(ウクライナ保安庁)の公式サイトに、国家反逆罪とテロ活動支援の罪で容疑者として掲載されたのである。前大統領ポロシェンコは、「ウクライナのエネルギーをロシアとロシアに支配された疑似共和国の指導者たちに依存させた」と非難された。
3月3日、リズヴィツィア左翼の活動家がSBUに襲撃され、十数人が投獄された。そして3月19日、ウクライナの左翼全体が弾圧にさらされた。政令により、11の左翼政党が禁止された:生活の党、左翼反対派、ウクライナ進歩社会党、ウクライナ社会党、左翼連合、社会党、シャリイ党、われら、国家、野党ブロック・ボロディミル・サルド。
他の活動家、ブロガー、人権擁護者は、ジャーナリストのヤン・タクシュール(Yan Taksyur)、活動家のエレナ・ブレジナヤ(Elena Brezhnaya)、MMAボクサーのマキシム・リンドフスキー(Maxim Ryndovskiy)や、2014年5月2日のオデッサ労働組合会館でのポグロムで父親が黒焦げになって死亡した弁護士のエレナ・ヴィアチェスラヴォヴァ(Elena Viacheslavova)を逮捕し拷問している。
このリストを完成させるには、キエフの通りで民族主義者たちに裸にされ、公衆の面前で鞭打たれた男女、処刑される前に殴られ足を撃たれたロシア人捕虜、殺される前に目に穴を開けられた兵士、キエフ近くの村でロシア人捕虜を処刑した(彼らの指導は決して捕虜は作らないと自慢していた)グルジア軍団のメンバーを挙げればよいだろう。ウクライナ24チャンネルでは、軍の医療サービス責任者が「ロシア人男性は人間以下でゴキブリよりたちが悪いから、全員去勢しろ」という命令を出したと語っている。最後に、ウクライナはクリアビュー社の顔認識技術を多用して死んだロシア人を特定し、その写真をロシアのソーシャルネットワークに流し嘲笑の対象にしている...。
アカデミー賞受賞俳優
ウクライナの運命を司る民主主義と人権の擁護者の軍隊が行った残虐行為の引用や映像は非常に多いので、例を挙げるときりがない。しかし、このような野蛮な振る舞いはロシア人だけのせいだと思い込んでいる世論に対してこんなことを言っても、退屈でありかえって逆効果だろう。
このため、どのNGOも何の警戒感も持たず、欧州評議会も沈黙し、国際刑事裁判所も調査せず、報道の自由団体も沈黙している。4月初めにブチャを訪れたご親切なヴォロディミルが語ったことに、彼らはよく耳を傾けていないのだ:
「もし我々が文明的な解決策を見いだせなければ、我々の国民を知っての通り、彼らは非文明的な解決策を見出すだろう。」
ウクライナの問題は、その大統領が、自ら望んでか意に反してかはわからないが、世界中の群衆から崇拝される快感に浸るために、国内では過激派に、国外ではNATO軍に権力を譲り渡したことにある。ロシア軍の侵攻から10日後の3月5日、フランスのジャーナリストにこう言ったのは彼ではなかったか。「今日、私の人生は美しい。私は自分が必要とされていると信じています。私は自分が必要とされていると信じている。これこそ私の人生の最も重要な意味だと感じている。自分がただ呼吸し、歩き、何かを食べているのではないと感じられること。それが生きていることなのです!」
繰り返そう:ゼレンスキーは優れた俳優だ。1932年の『ジキルとハイド』役をやった俳優のように、この10年のアカデミー賞最優秀男役賞を受賞するにふさわしい。しかし、2019年に防げたはずの戦争から国を立て直すという任務に直面したとき、現実への復帰は難しいかもしれない。
Sources
«The Comedian-Turned-President is Seriously in Over His Head», Olga Rudenko, New York Times, February 21, 2022 (Opinion Guest from Kyyiv Post).
«How Zelensky made Peace With Neo-Nazis», and «Zelensky’s Hardline Internal Purge», Alex Rubinstein and Max Blumenthal, Consortium News, March 4 and April 20, 2022.
«Olga Baysha Interview about Ukraine’s President», Natylie Baldwin, The Grayzone, April 28, 2022.
«President of Ukraine Zelensky has visited disengaging area in Zolote today», @Liveupmap, 26 October 2019 (Watch on Twitter).
«Qu’est-ce que le régiment Azov?», Adrien Nonjon, The Conversation, 24 mai 2022.
«Public Designation of Oligarch and Former Ukrainian Public Official Ihor Kolomoyskyy Due to Involvement in Significant Corruption», Press statement, Anthony J. Blinken, US Department of State, March 5, 2021.
«Petro Poroshenko notified of suspicion of treason and aiding terrorism», Security Service of Ukraine, 20 December 2021.
«Un maire ukrainien prorusse enlevé et abattu», Michel Pralong, Le Matin, 3 mars 2022
Source
Swiss Standpoint
Volodymyr Zelensky: The Dark Side of the Ukrainian President
(ヴォロディミール・ゼレンスキー:ウクライナ大統領の暗い側面)
筆者:ガイ・メタン(Guy Mettan)
出典:INTERNATIONALIST 360°
2022年6月23日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年8月2日
スイスの国会議員でTribune de Genèveの前編集長であるガイ・メタンは、ウクライナの大統領を演じる曲芸師の肖像を描く。彼は、この大衆エンターテイナーがいかにしてバンデリスト(ステパン・バンデラの信奉者)の味方となり、彼らのために独裁政権を樹立した経緯を明らかにしている。
「Héros de la liberté(自由のヒーロー)」、「Hero of Our Time(現代の英雄)」、「Der Unbeugsame(不屈の人)」、「The Unlikely Ukrainian Hero Who Defied Putin and United the World(プーチンに食ってかかり、世界を統一した希代のウクライナ人ヒーロー)」、「Zelensky, Ukraine in blood(ゼレンスキー、血みどろのウクライナ)」:欧米のメディアや指導者たちはもはやどんな最上級の言葉でウクライナ大統領を賞賛していいかわからないほど、「軍事的指導者」「民主主義の救世主」に奇跡的に変身したこの芸人の「驚くべき復活力」に魅了されているのである。
この3ヶ月間、ウクライナの国家元首(ゼレンスキー)は、ずっとトップニュースで報じられてきた。カンヌ映画祭の開幕を飾り、各国の議会で演説をした。自分より10倍も力のある同じ国家元首に祝意を述べたり、訓戒をたれたりした。こんな幸福感や戦術感覚は彼以前のどんな映画俳優も政治指導者も知らないものだった。
この『Mr.ビーン』*まがい人物の魔力にどうしても魅了されてしまうのは、彼が、にやにや笑いと極端な羽目外し(例えば、店の中を裸で歩いたり、自分の性器を使ってピアニストのふるまいをするなど)で大衆の気持ちを鷲掴みにした後、そのおふざけと耳障りなダジャレはやめて、灰緑色のTシャツと1週間の無精髭、そして一から十まで真面目な言葉を使いながら、ロシアという邪悪な熊に包囲されている軍隊に活力を与えようとしたからだ。
『Mr.ビーン』*・・・(ミスタービーン、Mr. Bean)は、イギリスのテムズテレビ(ITV系)にて1990年から1995年まで放送されたコメディ・TVシリーズ。(ウイキペディア)
2月24日以降、ヴォロディミール・ゼレンスキーは、疑いなく、国際政治における類まれな才能を持つアーティストであることを証明した。彼のコメディアンとしてのキャリアを追ってきた人々は、彼の天性の即興のセンス、模倣の能力、演技における大胆さを知っていたので、そんなことは驚きでもなんでもなかった。2018年12月31日から2019年4月21日までの数週間で、ゼレンスキーという政治家を作り出そうとする勢力と、金に糸目を付けないオリガルヒの寄付を動員して、ポロシェンコ元大統領のような手強い相手を選挙運動で打ち負かしたやり方は、すでに彼の才能が彼個人の範囲にはとどまっていなかったことを証明していた。しかし、当時はまだ小手先だったのだ。しかし今や、ゼレンスキーの才能な全開している。
二枚舌の天才
しかし、よくあることだが、表舞台が舞台裏と同じということはほとんどない。スポットライトは、見せるよりも隠すことの方が多い。そしてここでお見せする絵は「素晴らしい!」というのではまったくない:彼の国家元首としての実績も、民主主義の擁護者としてのふるまいも、「申し分ない!」というのとは正反対だ。
ゼレンスキーの二枚舌の才能は、大統領に選出されたらすぐ発揮されるような類のものだ。そう、彼は、汚職に終止符を打ち、ウクライナを進歩と文明の道に導き、とりわけロシア語圏のドンバスとの和平を約束し、73.2%の得票率で当選したしている。しかし、当選するやいなや、その公約をことごとく裏切り、2022年1月には支持率が23%にまで落ち込み、主要な対立候補2人に追い越されるまでになった。
2019年5月から、オリガルヒのスポンサーを満足させるために、新大統領に選出されたゼレンスキーは、土地売却の猶予期間が国のGDPに数十億ドルの損失を与えた可能性があったという口実で、4000万ヘクタールの優良農地を対象とした大規模な土地民営化計画乗り出そうとしている。2014年2月の親米クーデター以降に始まった「脱共産化」「脱ロシア化」プログラムをきっかけに、国有資産の民営化、財政緊縮、労働法の規制緩和、労働組合の解体という大作戦を開始し、ゼレンスキーが候補者だった時に言った、ウクライナ経済の「進歩」「西欧化」「正常化」がどういうものかを理解していなかった大多数のウクライナ国民を怒らせているのである。2020年の一人当たりの所得が、ロシアの10,126ドルに対して3,726ドル、1991年にはウクライナの平均所得がロシアのそれを上回っていた国だから、この対比は喜べる代物ではない。そして、ウクライナ人が、この嫌になるほど繰り返された新自由主義的改革に拍手を送らなかったことも理解できる。
文明化への進展に関しては、別の法令の形をとることになる。つまり、それによって2021年5月19日に、ウクライナ語の支配を保証し、公共生活、行政、学校、企業のすべての領域からロシア語を禁止することが実効性をもつ。民族主義者は大満足だろうが、南東部のロシア語を話す人々にとっては寝耳に水だ。
濡れ手に粟のスポンサー
汚職に関する記録は、こんなものではない。2015年、ガーディアン紙は、ウクライナはヨーロッパで最も腐敗した国であると評価した。2021年、ベルリンに本拠を置く西側のNGO、トランスペアレンシー・インターナショナルは、ウクライナの汚職度を世界122位とし、軽蔑すべきロシア(136位)に迫った。ロシアという野蛮人を前にして、模範的美徳を任ずる国としては、胸を張れる数値ではない。汚職はいたるところにある。省庁、行政、公共企業、議会、警察、そしてキエフポスト紙によれば、汚職防止司法高等裁判所でさえも汚職がある。また、裁判官がポルシェで移動しているのを見るのも珍しくない、と同紙は報じている。
ゼレンスキーの主なスポンサーであるイホル・コロモイスキー(Ihor Kolomoïsky)は、ジュネーブに住み、港を見下ろす豪華なオフィスを構えているが、蔓延する汚職から利益を得ているこういったオリガルヒたちとは桁を異にしている:2021年3月5日、おそらくアンソニー・ブリンケンとしては他に選択の余地がなかったのだろう、「重大な汚職への関与」を理由に国務省が彼の資産を凍結し米国からの追放を発表したのである。たしかにコロモイスキーは、国営のプリヴァトバンクから55億ドルを横領した罪に問われていた。偶然にも、この善良なコロモイスキーは、ジョー・バイデンの息子ハンターを月5万ドルというささやかな報酬で雇い、現在デラウェア州検察の捜査を受けている石油保有会社ブリズマの主要株主でもあった。賢明な予防策:コロモイスキーはイスラエルでペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)となり、一部の証言によればグルジアで難民となっており、証言台に立つことはなさそうである。
このコロモイスキーこそ、ウクライナ躍進の立役者であり、ゼレンスキーの俳優としての全キャリアを作った人物で、2021年10月にマスコミによって明らかにされた「パンドラ文書」事件にも関与している人物である。「パンドラ文書」は、2012年以来、この罰当たりなオリガルヒが所有するテレビチャンネル1+1が、そのスターであるゼレンスキーに4000万ドルもの大金を支払っていたことを明らかにした。そしてゼレンスキーは、大統領に選ばれる直前、彼直近のクルィヴィーイ・リー市*(Kryvyi Rih)守備隊の助けを借りて、妻の名義で開設した外国口座にかなりの金額を慎重に移し、ロンドンに無申告のアパートを3つ、総額750万ドルで取得したことも明らかにしている。この守備隊とは2人のシェファ(Shefir)兄弟。一人はゼレンスキーのゴーストライターであり、もう一人は国家保安局の局長、そして共同制作会社Kvartal 95のプロデューサー兼オーナーだ。
クルィヴィーイ・リー市*・・・ウクライナのドニプロペトローウシク州クルィヴィーイ・リーフ地区にある都市。サクサハーニ川、インフレーツィ川の河岸に位置する。(ウイキペディア)
この「人民の奉仕者」(これは彼が出演した連続テレビ番組と政党の名前である)の非プロレタリア的な快適さへの嗜好は、ソーシャルネットワークに一時掲載され、確認されたが、反共謀事実確認者たちによって直ちに削除された。そこにはカルパチアの質素なスキーリゾートで冬の休暇を過ごすはずの彼が一泊数万ドルの南国の宮殿でくつろぐ姿を捉えた写真が掲載されていた。
節税技術や、物議を醸すオリガルヒとの頻繁な付き合いは、無条件に汚職撲滅を訴えていた大統領の公約に沿うものではない。また、憲法裁判所の厄介な存在だったオレクサンドル・トゥピツキー(Oleksandr Tupytskyi)長官を排除しようとしたり、前任者のオレクシャイ・ゴンチャルク(Oleksyi Goncharuk)がスキャンダルで退任した後に、デニス・シュミナル(Denys Chmynal)という無名の男を首相に任命したことも同じだ。しかしシュミナルにはウクライナで最も金持ちであるリナト・アフメドフ(Rinat Akhmetov)の工場の一つ(アゾフ大隊の英雄的自由戦士の最後の避難所となった有名なアゾフスタル工場)の運営者であるという長所があった。ロシア軍が降伏後に公開した無数のビデオに見られるように、この自由戦士とはSS帝国師団のヴォルフスアンゲル*、アドルフ・ヒトラーの言葉、卍を賛美するタトゥーを腕、首、背中、胸に入れた者たちだ。
ヴォルフスアンゲル*・・・Wolfsangel: は、2つの金属部品と接続チェーンで構成される、歴史的なオオカミ狩りの罠に触発されたドイツの紋章。 初期には、魔法の力が宿っていると信じられていたが、15世紀にドイツの王子とその傭兵の抑圧に対する農民の反乱の紋章として採用された後、自由と独立の象徴になった。(ウイキペディア)
アゾフ大隊の捕虜
華やかなヴォロディミルがウクライナの民族主義右派の最も極端な代表と和解したことは、ゼレンスキー博士*の異常なふるまいの最たるものではなかった。西側メディアは、大統領が突然ユダヤ人であることを再発見し、これをスキャンダラスなことと判断し、この共謀を直ちに最大限の悪意を持って否定したのである。ユダヤ人の大統領が、ごく少数のアウトサイダーとして紹介されているネオナチに共感するわけがない。プーチンの「非ナチ化」作戦を信用してはならない......。
ゼレンスキー博士*・・・7月3日のEnglish ISLAM Timesに掲載された同じ記事のタイトルは「Dr.Volodymyr & Mr.Zelensky」となっている。彼は博士号を取得していない。
そして事実は揺るがず、決して些細なものではない
ゼレンスキー個人がネオナチ思想やウクライナの民族主義的極右と親密であったことはないことは確かである。彼のユダヤ人の先祖は、たとえ比較的遠いところにあり、2022年2月以前に主張したことはなかったとしても、彼の側に反ユダヤ主義が存在しないことは明らかである。したがって、このゼレンスキーとネオナチ・極右との和解は彼への親近感を裏切るものではなく、ありふれた存在理由の問題であり、プラグマティズム(実用主義)と、身体的にも政治的にも生き残ろうとする本能、というだれでも理解できるこの二つの混合物である。
ゼレンスキーと極右の関係の本質を理解するには、2019年10月まで遡る必要がある。そして、これらの極右組織は、たとえ有権者の2%の重さしかないとしても、それでも100万人近くの非常に意欲的でよく組織された人々を代表し、多数のグループや運動に広がっており、その中でもアゾフ連隊(コロモイスキーが早くも2014年に共同設立し資金を提供、やはり彼だ!)が最もよく知られているにすぎないことを理解する必要がある。これに、Aïdar、Dnipro、Safari、Svoboda、Pravy Sektor、C14、National Corpsなどの組織を加えれば、完璧だ。
アメリカのネオナチ、デイヴィッド・レーン(David Lane)のフレーズ(We must secure the existence of our people and a future for white children「私たちは民族の存在と白人の子供たちの未来を確保しなければならない」)の語数から名付けられたC14は、海外ではあまり知られていないが、ウクライナでは人種差別的暴力で最も恐れられている団体の一つである。これらのグループはすべて、2014年から2021年までウクライナの治安組織を無批判に支配したリーダー、アルセン・アヴァコフ(Arsen Avakov)元内相の主導で、多かれ少なかれウクライナ軍と国家警備隊に併合されたのだ。ゼレンスキーが2019年秋以降「退役軍人」と呼んでいるのは彼らである。
当選から数カ月後、この若い大統領は選挙公約を実現し、前任者が署名したミンスク合意を履行しようとドンバスに赴いた。2014年以来、1万人の死者を出してドネツク市とルガンスク市を砲撃してきた極右勢力は、この「平和主義者」大統領を疑っているため、最大限の慎重さをもって彼を迎えている。彼らは「降伏しない」というスローガンのもと、容赦ない平和反対キャンペーンを繰り広げている。あるビデオでは、青ざめたゼレンスキーが彼らに懇願している。「私はこの国の大統領だ。私はこの国の大統領だ。私は41歳だ。私はこの国の大統領だ。私はあなたのところに来て、銃を取り出してください、と言っているのです。」この動画はソーシャルネットワークで公開され、ゼレンスキーはたちまちヘイトキャンペーンのターゲットとなった。平和とミンスク協定の履行を願う彼の思いは、これで終わりを告げることになるのだろう。
この事件の直後、過激派勢力の小幅な撤退が行われ、その後、本格的に爆撃が再開された。
民族主義者十字軍
問題は、ゼレンスキーが彼らの脅迫に屈しただけでなく、彼らの民族主義的十字軍に加わっていることだ。2019年11月に遠征に失敗した後、彼はC14のリーダーであるイェベン・タラス(Yehven Taras)を含む複数の極右指導者を迎え、首相は殺人の疑いがあるネオナチのアンドリイ・メドベスコ(Andryi Medvedko)の側に立っている。また、戦時中にナチスドイツに協力し(戦後はCIAに協力)、ユダヤ人ホロコーストに参加した民族主義者ステパン・バンデラ(Stepan Bandera)への支援を宣言していることから、彼をナチスと非難するスペインのファンに対して、サッカー選手ゾルズィヤ(Zolzulya)を支持する。
民族主義的急進派との協力関係は確立している。昨年11月、ゼレンスキーは超国家主義団体Pravy Sektorのドミトロ・ヤロシュ(Dmytro Yarosh)をウクライナ軍最高司令官特別顧問に任命し、2022年2月からは後方でテロを繰り広げている義勇軍の長に就任させた。同時に、拷問を好むことから「絞殺者」の異名を持つオレクサンデル・ポクラド(Oleksander Poklad)をSBUの防諜部門長に任命した。戦争開始の2ヶ月前の12月には、Pravy Sektorのもう一人の指導者であるドミトロ・コツイバイロ(Dmytro Kotsuybaylo)司令官に「ウクライナの英雄」の称号が与えられ、戦争開始の1週間後には、ゼレンスキーはオデッサ地方知事を、超民族主義団体アイダー大隊の隊長マクシム・マーチェンコ(Maksym Marchenko)に交代させている。ベルナルド=アンリ・レヴィ(Bernard-Henri Lévy)が必ず一緒に行進するのはまさにこの団体だ。
極右に地位を与えてなだめたいのか?超愛国主義の共有か?それとも、新自由主義、大西洋主義、親欧米の右派と、ロシア人を粉砕し、国民党のリーダーであるアンドレイ・ビレツキー(Andryi Biletsky)元代議士の言葉を借りれば「世界の白人種を率いて、セム族(セム人)に導かれた劣等民族(人種)に対する最後の十字軍」を夢みる民族主義の極右との、単純な利害の一致なのだろうか。ゼレンスキーにこの質問をしたジャーナリストはいないので、よく分からない。
しかし、疑う余地のないのは、ウクライナ政権の権威主義的、犯罪的な傾向がますます強まっていることである。そのため、その狂信者たちは、自分たちの偶像をノーベル平和賞に推薦する前に、もう一度よく考える必要がある。メディアが見て見ぬふりをしている間に、ロシアのエージェント(工作員)、あるいは敵と共謀していると疑われる地方や国の選出議員に対する脅迫、誘拐、処刑作戦行動が実際に行われているのだ。
「ウクライナの裏切り者が一人減った! 彼は死体で発見された。人民裁判所で裁かれたのだ!」 内務大臣顧問のアントン・ジェラシェンコ(Anton Gerashenko,)は、テレグラムのアカウントで、小さな町クレムニナの市長で元代議士のヴォロディミル・ストロック(Volodymyr Strok)の殺害をこのように発表した。彼はロシア軍に協力した疑いがあり、誘拐され拷問された後、処刑された。3月7日、ゴストメル市長は、ロシア軍と人道的回廊を交渉しようとしたため、殺害された。3月24日、クピャンスク市長はゼレンスキーに、SBU工作員に誘拐された娘の解放を要請した。同時に、ウクライナの交渉担当者の一人が、国家主義的なメディアによって反逆罪で告発され、遺体で発見された。ロシアに占領されたことのない地域も含め、これまでに11人もの市長が行方不明になっているという。
禁止された反対党派
しかし、弾圧はそれだけにとどまらない。批判的なメディアはすべて閉鎖され、野党はすべて解党された。
2021年2月、ゼレンスキーは、親ロシア派と目される、オリガルヒのヴィクトル・メドヴェチュクが所有しているとされる3つの野党チャンネル、NewsOne、Zik、112 Ukraineを閉鎖した。米国務省は報道の自由に対するこの攻撃を歓迎し、「米国はロシアの悪質な影響に対抗するウクライナの努力を支持すると述べている...」と述べている 。2022年1月、開戦の1ヶ月前にNashは閉鎖された。戦争が始まると、政権は左翼のジャーナリスト、ブロガー、コメンテーター狩りに走った。4月初めには、2つの右派チャンネルも影響を受けた。Channel 5とPryamiyだ。もちろん、大統領令によって、すべてのチャンネルが政府寄りの単一の論調で放送することを義務づけられている。最近では、この国で最も人気のある批判的なブロガー、ウクライナのナヴァルニー(Navalny)ことアナトーリー・シャリー(Anatoliy Shariy)まで魔女狩りの対象になっており、彼は5月4日、ウクライナ政治警察の要請でスペイン当局に逮捕された。少なくとも独裁者プーチンに匹敵する報道機関への攻撃だが、欧米のメディアで報道されることは皆無だ...。
この粛清は、政党に対してはさらに厳しいものであった。ゼレンスキーの主な反対者たちは壊滅させられた。2021年春、プーチンに近いとされる中心的な反対者メドベチュクの自宅が荒らされ、本人は自宅軟禁となった。4月12日、このオリガルヒ代議士は、非公開の場所に強制的に留め置かれ、明らかに薬物を投与され、訪問者たちは必ずテレビに映され、アゾフスタル守備隊の解放との交換を提示された。これはジュネーブ条約をすべて無視した行動だ。彼の弁護士たちは脅迫され、彼を弁護することをあきらめ、当局に近い人物の肩入れをしなければならなかった。
昨年12月、反逆罪で訴えられたのは、世論調査で上昇していたペトロ・ポロシェンコ(Petro Poroshenko)だった。2021年12月20日15時7分、SBU(ウクライナ保安庁)の公式サイトに、国家反逆罪とテロ活動支援の罪で容疑者として掲載されたのである。前大統領ポロシェンコは、「ウクライナのエネルギーをロシアとロシアに支配された疑似共和国の指導者たちに依存させた」と非難された。
3月3日、リズヴィツィア左翼の活動家がSBUに襲撃され、十数人が投獄された。そして3月19日、ウクライナの左翼全体が弾圧にさらされた。政令により、11の左翼政党が禁止された:生活の党、左翼反対派、ウクライナ進歩社会党、ウクライナ社会党、左翼連合、社会党、シャリイ党、われら、国家、野党ブロック・ボロディミル・サルド。
他の活動家、ブロガー、人権擁護者は、ジャーナリストのヤン・タクシュール(Yan Taksyur)、活動家のエレナ・ブレジナヤ(Elena Brezhnaya)、MMAボクサーのマキシム・リンドフスキー(Maxim Ryndovskiy)や、2014年5月2日のオデッサ労働組合会館でのポグロムで父親が黒焦げになって死亡した弁護士のエレナ・ヴィアチェスラヴォヴァ(Elena Viacheslavova)を逮捕し拷問している。
このリストを完成させるには、キエフの通りで民族主義者たちに裸にされ、公衆の面前で鞭打たれた男女、処刑される前に殴られ足を撃たれたロシア人捕虜、殺される前に目に穴を開けられた兵士、キエフ近くの村でロシア人捕虜を処刑した(彼らの指導は決して捕虜は作らないと自慢していた)グルジア軍団のメンバーを挙げればよいだろう。ウクライナ24チャンネルでは、軍の医療サービス責任者が「ロシア人男性は人間以下でゴキブリよりたちが悪いから、全員去勢しろ」という命令を出したと語っている。最後に、ウクライナはクリアビュー社の顔認識技術を多用して死んだロシア人を特定し、その写真をロシアのソーシャルネットワークに流し嘲笑の対象にしている...。
アカデミー賞受賞俳優
ウクライナの運命を司る民主主義と人権の擁護者の軍隊が行った残虐行為の引用や映像は非常に多いので、例を挙げるときりがない。しかし、このような野蛮な振る舞いはロシア人だけのせいだと思い込んでいる世論に対してこんなことを言っても、退屈でありかえって逆効果だろう。
このため、どのNGOも何の警戒感も持たず、欧州評議会も沈黙し、国際刑事裁判所も調査せず、報道の自由団体も沈黙している。4月初めにブチャを訪れたご親切なヴォロディミルが語ったことに、彼らはよく耳を傾けていないのだ:
「もし我々が文明的な解決策を見いだせなければ、我々の国民を知っての通り、彼らは非文明的な解決策を見出すだろう。」
ウクライナの問題は、その大統領が、自ら望んでか意に反してかはわからないが、世界中の群衆から崇拝される快感に浸るために、国内では過激派に、国外ではNATO軍に権力を譲り渡したことにある。ロシア軍の侵攻から10日後の3月5日、フランスのジャーナリストにこう言ったのは彼ではなかったか。「今日、私の人生は美しい。私は自分が必要とされていると信じています。私は自分が必要とされていると信じている。これこそ私の人生の最も重要な意味だと感じている。自分がただ呼吸し、歩き、何かを食べているのではないと感じられること。それが生きていることなのです!」
繰り返そう:ゼレンスキーは優れた俳優だ。1932年の『ジキルとハイド』役をやった俳優のように、この10年のアカデミー賞最優秀男役賞を受賞するにふさわしい。しかし、2019年に防げたはずの戦争から国を立て直すという任務に直面したとき、現実への復帰は難しいかもしれない。
Sources
«The Comedian-Turned-President is Seriously in Over His Head», Olga Rudenko, New York Times, February 21, 2022 (Opinion Guest from Kyyiv Post).
«How Zelensky made Peace With Neo-Nazis», and «Zelensky’s Hardline Internal Purge», Alex Rubinstein and Max Blumenthal, Consortium News, March 4 and April 20, 2022.
«Olga Baysha Interview about Ukraine’s President», Natylie Baldwin, The Grayzone, April 28, 2022.
«President of Ukraine Zelensky has visited disengaging area in Zolote today», @Liveupmap, 26 October 2019 (Watch on Twitter).
«Qu’est-ce que le régiment Azov?», Adrien Nonjon, The Conversation, 24 mai 2022.
«Public Designation of Oligarch and Former Ukrainian Public Official Ihor Kolomoyskyy Due to Involvement in Significant Corruption», Press statement, Anthony J. Blinken, US Department of State, March 5, 2021.
«Petro Poroshenko notified of suspicion of treason and aiding terrorism», Security Service of Ukraine, 20 December 2021.
«Un maire ukrainien prorusse enlevé et abattu», Michel Pralong, Le Matin, 3 mars 2022
Source
Swiss Standpoint
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