グレン・ディーセン: ドイツの経済危機は、自傷行為の興味深い研究対象
<記事原文 寺島先生推薦>
Glenn Diesen: Germany's developing economic crisis is a fascinating study in self harm
著者:グレン・ディーセン(Glenn Diesen)
出典:RT
2022年7月9日
<記事飜訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年7月31日

ロシアを制裁することによって、ドイツは自身のビジネスモデルを破壊してしまった。今、ドイツは経済的破局の可能性に直面している。
ドイツは30年ぶりに初めて月次貿易赤字を計上したばかりで、ドイツ労働組合連盟のトップは、エネルギー不足と価格の高騰の結果、国内の主要産業が永久に崩壊する可能性があると警告している。ドイツが欧州連合の経済の原動力であった黄金時代はすでに終焉を迎えている。
30年間、ドイツの産業の競争力は安価なロシアのエネルギーの輸入によって強化され、ヨーロッパ最大の国[ロシア]もまたドイツの技術や製造品の重要な輸出市場となった。それまでの数世紀、ドイツの生産力とロシアの巨大な資源が、ヨーロッパ大陸の主要な勢力軸を作るというのが、ヨーロッパ政治の重要なテーマであった。
ドイツとロシアの関係はその後、常にジレンマを抱えていた。2つの巨人のパートナーシップは、英米などのライバル国への挑戦となる一方、ドイツとロシアの対立は、かつてイギリスの地理学者ジェームズ・フェアグリーヴが「クラッシュゾーン(衝撃吸収帯)」と呼んだ中・東欧を変えてしまった。
現在のウクライナにおけるNATOとロシアの代理戦争は、19世紀から20世紀にかけてのこのジレンマが今もなお当てはまることを示している。しかし21世紀は、世界がもはやヨーロッパ中心ではなくなっているという点で大きく異なっている。
モスクワが目指した独ロ協力は、包括的な大欧州を構築することであったが、現在は大ユーラシアを構築するための露中協力に取って代わられている。エネルギーや天然資源の輸出は東方へ向けられ、重要な技術や工業製品は東方から輸入されるようになっている。
自傷行為というケーススタディ
ドイツの経済危機は、自傷行為の興味深いケーススタディである。1990年代初頭、モスクワがドイツの再統一を支援した後、ボン(当時ベルリン)が「主権平等」と「不可分の安全保障」に基づく汎欧州安全保障構造に関するモスクワとの合意を放棄したため、相互の信頼関係は失われた。それどころか、ドイツはNATOの拡張主義を支持し、欧州大陸最大の国家を排除した汎欧州システムを構築した。
その結果、ドイツ・NATOとロシアの間で、中・東欧への影響力をめぐる数世紀にわたる歴史的な対立が復活し、新しいヨーロッパの分水嶺がどこに引かれるかが争われることになった。ベルリンが2004年のオレンジ革命と2014年のキエフ・マイダンを支援して親西欧・反ロシア政権を樹立した後、ウクライナはロシアのエネルギーの中継地として当てにならなくなった。
しかし、ドイツは、ロシアの輸送ルートを多様化するいくつかの構想に反対して、自国のエネルギー安全保障を損なった。ベルリンはロシアのエネルギー依存を減らすと繰り返し脅したが、その結果は、ロシアが東方で輸出市場を探す動機付けとなった。
2015年2月のミンスク合意2は、その前年に欧米が支援したウクライナのクーデターに伴う紛争を解決するための妥協案であった。ベルリンは和平協定を交渉したが、その後7年間、協定を妨害したり「再交渉」したりしようとするアメリカの試みに付き合わされることになった。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長が最近になって公に認めたように、この軍事ブロックは、この期間をロシアとの紛争に備える時間として使うことになったのである。
2022年2月に、モスクワがドンバスの独立を認め、ウクライナを攻撃することで対応すると、ドイツはパイプライン「ノルド・ストリーム2」をキャンセルし、ガスプロムの自国領土内の子会社を掌握し、ロシアのエネルギーに対する制裁を発表した。何年も前から、ロシアはドイツへのエネルギー供給を削減するという、恐れていた「エネルギー兵器」を使うのではないかという憶測があった。しかし、結局はドイツが経済的苦痛を自分自身に与えたので、その必要はなかったのである。
多極化時代におけるエスカレーション・コントロール
エスカレーション・コントロールとは、緊張を高めて敵対国にコストをかけ、必要な譲歩を得たところで緊張を緩める能力である。一極集中の時代には、西側諸国は敵対国が降伏せざるを得なくなるまで圧力を強めることができたので、エスカレーションを支配することができた。NATOの拡大主義、戦略的ミサイル防衛、非対称的な経済的相互依存は、ロシアに対してこの力を強化した。
現在の世界秩序において、ロシアを制裁することは、中国やインドのような国家に膨大な市場シェアを明け渡すことを意味し、モスクワを強制的に服従させることにはならない。ドイツが安価なロシア製燃料に代わる高価なエネルギーの確保に躍起になっている間に、モスクワは大欧州から大ユーラシアへと移行しつつあり、今や中国やインドに生産物を安値で売りつけている。
その結果、ドイツの産業は、アジアの産業に対して競争力を失うことになる。
ロシアがエネルギー輸出を多様化できる一方で、西側諸国がエネルギー輸入を多様化する能力は、一極集中時代の他の政策によって損なわれてきた。ベネズエラとイランに対する西側の制裁は、必要な時に西側を支援する能力と意欲を失わせてきた。同様に、リビアへの侵攻とそれに続くナイジェリアなどの国の不安定化により、アフリカ諸国による穴埋め能力も低下している。
一方、米国はシリアの石油を没収している。米国がシリアの領土の不法占拠をやめれば、シリアのエネルギー輸出ははるかに増えるはずだが。
失敗の二の舞
欧米諸国は、持続不可能な債務、インフレの暴走、競争力の低下、さらにはエネルギー危機によって、経済危機に直面している。エスカレーションはロシアよりもドイツを傷つけるので、論理的に考えれば、ドイツは、一極集中時代の初期に結ばれた汎欧州安全保障協定を破棄するという決定を再検討することによって、エスカレーションを防ぐことができるだろう。
しかし、ベルリンの指導者たちは、イデオロギー的な熱情にかられて、失敗した政策を二転三転させ、理性はどこかに消えてしまった。
Glenn Diesen: Germany's developing economic crisis is a fascinating study in self harm
著者:グレン・ディーセン(Glenn Diesen)
出典:RT
2022年7月9日
<記事飜訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年7月31日

ロシアを制裁することによって、ドイツは自身のビジネスモデルを破壊してしまった。今、ドイツは経済的破局の可能性に直面している。
ドイツは30年ぶりに初めて月次貿易赤字を計上したばかりで、ドイツ労働組合連盟のトップは、エネルギー不足と価格の高騰の結果、国内の主要産業が永久に崩壊する可能性があると警告している。ドイツが欧州連合の経済の原動力であった黄金時代はすでに終焉を迎えている。
30年間、ドイツの産業の競争力は安価なロシアのエネルギーの輸入によって強化され、ヨーロッパ最大の国[ロシア]もまたドイツの技術や製造品の重要な輸出市場となった。それまでの数世紀、ドイツの生産力とロシアの巨大な資源が、ヨーロッパ大陸の主要な勢力軸を作るというのが、ヨーロッパ政治の重要なテーマであった。
ドイツとロシアの関係はその後、常にジレンマを抱えていた。2つの巨人のパートナーシップは、英米などのライバル国への挑戦となる一方、ドイツとロシアの対立は、かつてイギリスの地理学者ジェームズ・フェアグリーヴが「クラッシュゾーン(衝撃吸収帯)」と呼んだ中・東欧を変えてしまった。
現在のウクライナにおけるNATOとロシアの代理戦争は、19世紀から20世紀にかけてのこのジレンマが今もなお当てはまることを示している。しかし21世紀は、世界がもはやヨーロッパ中心ではなくなっているという点で大きく異なっている。
モスクワが目指した独ロ協力は、包括的な大欧州を構築することであったが、現在は大ユーラシアを構築するための露中協力に取って代わられている。エネルギーや天然資源の輸出は東方へ向けられ、重要な技術や工業製品は東方から輸入されるようになっている。
自傷行為というケーススタディ
ドイツの経済危機は、自傷行為の興味深いケーススタディである。1990年代初頭、モスクワがドイツの再統一を支援した後、ボン(当時ベルリン)が「主権平等」と「不可分の安全保障」に基づく汎欧州安全保障構造に関するモスクワとの合意を放棄したため、相互の信頼関係は失われた。それどころか、ドイツはNATOの拡張主義を支持し、欧州大陸最大の国家を排除した汎欧州システムを構築した。
その結果、ドイツ・NATOとロシアの間で、中・東欧への影響力をめぐる数世紀にわたる歴史的な対立が復活し、新しいヨーロッパの分水嶺がどこに引かれるかが争われることになった。ベルリンが2004年のオレンジ革命と2014年のキエフ・マイダンを支援して親西欧・反ロシア政権を樹立した後、ウクライナはロシアのエネルギーの中継地として当てにならなくなった。
しかし、ドイツは、ロシアの輸送ルートを多様化するいくつかの構想に反対して、自国のエネルギー安全保障を損なった。ベルリンはロシアのエネルギー依存を減らすと繰り返し脅したが、その結果は、ロシアが東方で輸出市場を探す動機付けとなった。
2015年2月のミンスク合意2は、その前年に欧米が支援したウクライナのクーデターに伴う紛争を解決するための妥協案であった。ベルリンは和平協定を交渉したが、その後7年間、協定を妨害したり「再交渉」したりしようとするアメリカの試みに付き合わされることになった。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長が最近になって公に認めたように、この軍事ブロックは、この期間をロシアとの紛争に備える時間として使うことになったのである。
2022年2月に、モスクワがドンバスの独立を認め、ウクライナを攻撃することで対応すると、ドイツはパイプライン「ノルド・ストリーム2」をキャンセルし、ガスプロムの自国領土内の子会社を掌握し、ロシアのエネルギーに対する制裁を発表した。何年も前から、ロシアはドイツへのエネルギー供給を削減するという、恐れていた「エネルギー兵器」を使うのではないかという憶測があった。しかし、結局はドイツが経済的苦痛を自分自身に与えたので、その必要はなかったのである。
多極化時代におけるエスカレーション・コントロール
エスカレーション・コントロールとは、緊張を高めて敵対国にコストをかけ、必要な譲歩を得たところで緊張を緩める能力である。一極集中の時代には、西側諸国は敵対国が降伏せざるを得なくなるまで圧力を強めることができたので、エスカレーションを支配することができた。NATOの拡大主義、戦略的ミサイル防衛、非対称的な経済的相互依存は、ロシアに対してこの力を強化した。
現在の世界秩序において、ロシアを制裁することは、中国やインドのような国家に膨大な市場シェアを明け渡すことを意味し、モスクワを強制的に服従させることにはならない。ドイツが安価なロシア製燃料に代わる高価なエネルギーの確保に躍起になっている間に、モスクワは大欧州から大ユーラシアへと移行しつつあり、今や中国やインドに生産物を安値で売りつけている。
その結果、ドイツの産業は、アジアの産業に対して競争力を失うことになる。
ロシアがエネルギー輸出を多様化できる一方で、西側諸国がエネルギー輸入を多様化する能力は、一極集中時代の他の政策によって損なわれてきた。ベネズエラとイランに対する西側の制裁は、必要な時に西側を支援する能力と意欲を失わせてきた。同様に、リビアへの侵攻とそれに続くナイジェリアなどの国の不安定化により、アフリカ諸国による穴埋め能力も低下している。
一方、米国はシリアの石油を没収している。米国がシリアの領土の不法占拠をやめれば、シリアのエネルギー輸出ははるかに増えるはずだが。
失敗の二の舞
欧米諸国は、持続不可能な債務、インフレの暴走、競争力の低下、さらにはエネルギー危機によって、経済危機に直面している。エスカレーションはロシアよりもドイツを傷つけるので、論理的に考えれば、ドイツは、一極集中時代の初期に結ばれた汎欧州安全保障協定を破棄するという決定を再検討することによって、エスカレーションを防ぐことができるだろう。
しかし、ベルリンの指導者たちは、イデオロギー的な熱情にかられて、失敗した政策を二転三転させ、理性はどこかに消えてしまった。
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