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キッシンジャー2014年3月---ウクライナ危機の解決は終わらせ方が決め手

<記事原文 寺島先生推薦>

To settle the Ukraine crisis, start at the end
ウクライナ危機を解決するには、どう終わらせるかから始める

筆者:ヘンリー・A・キッシンジャー(Henry A. Kissinger)

出典:ワシントン・ポスト紙

2014年3月5日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年7月4日

 ウクライナに関する公の議論は、対立のことについてばかり話し合われている。しかし、私たちは自分たちがどこへ行こうとしているのか、わかっているのだろうか。私はこれまで、大きな熱意と国民の支持を受けて始まった4つの戦争を見てきたが、そのすべてについて終わらせ方が分からず、そのうち3つは米国が一方的に撤退して終わってしまった。政策の試金石は、どのように始めるかではなく、どのように終わらせるかである。

 ウクライナの問題は、ウクライナが東側につくか西側につくかという対決として語られることがあまりに多い。しかし、ウクライナが生き残り、発展していくためには、どちらかの前線基地となるのではなく、その橋渡し役として機能することが必要である。

 ロシアが分かっておかないといけないことは、ウクライナを衛生国家に追いやり、それによってロシアの国境を再び広げようとしても、モスクワが自己欲求を実現しようとすれば、欧米からの報復を招くというこれまで何度も繰り返されてきた歴史の繰り返しにしかならないという事実だ。

 一方で、西側諸国は、ロシアにとってウクライナが単なる一外国ではありえないことを理解しなければならない。ロシアの歴史はキエフ大公国と呼ばれる国から始まった。ロシア正教もその国から広まった。ウクライナは何世紀にもわたってロシアの一部であり、それ以前から両者の歴史は絡み合っていた。ロシアが自由を求めて戦った最も重要な戦いのいくつかは、1709年のポルタヴァの戦いに始まるが、それはウクライナの地で戦われている。ロシアが地中海で力を発揮するための手段である黒海艦隊は、クリミアのセヴァストポリを長期租借して駐留している。アレクサンドル・ソルジェニーツィンやジョセフ・ブロツキーのような有名な反体制者でさえ、ウクライナはロシアの歴史の、いや、ロシアという国家の不可欠な一部であると主張している。

 EUは、ウクライナの対欧交渉において、官僚的な手法をとったため後手に回ったことと、戦略的に取るべき対策よりも各国の国内政治を優先させたことが、交渉を危機に陥れる一因となったことを認識しなければならない。外交政策とは優先順位を決める技術である。

 まず戦略的に対策を打ち出すべき対象はウクライナ人である。彼らは、複雑な歴史を持ち、多言語話者で構成された国に住んでいる。1939年、スターリンとヒトラーが戦利品を分け合う形で、西部はソビエト連邦に編入された。クリミアは人口の60%がロシア人で、ウクライナの一部となったのは1954年、ウクライナ出身のニキータ・フルシチョフが、ロシアとコサックの協定300年記念の一環としてクリミアを授与してからである。西側は主にカトリック、東側は主にロシア正教である。西側はウクライナ語を話し、東側は主にロシア語を話す。ウクライナの片方が他方を支配しようとすれば、これまでのように内戦か崩壊に至るだろう。ウクライナを東西対立の一部として扱うことは、ロシアと西側、特にロシアとヨーロッパが協力的な国際関係に入るという見通しを何十年にもわたって打ち砕くことになる。

 ウクライナは独立後わずか23年しかたっておらず、それ以前は14世紀以来、何らかの外国統治下にあった。当然ながら、ウクライナの指導者たちは妥協の技術も、ましてや歴史的展望も学んではいない。独立後のウクライナの政治を見ると、問題の根源は、ウクライナの政治家が、自分に反抗的な人たちに対して、最初は一方の派閥によって、次にはもう一方の派閥によって自分たちの意志を押し付けようとし合うことにあることがよくわかる。それが、ヤヌコビッチとその主要な政治的ライバルであるティモシェンコの間の対立の本質である。彼らはウクライナの両翼を代表し、権力を共有することを望んでいない。米国の賢明な対ウクライナ政策は、この2つの部分が互いに協力し合う道を模索することである。ひとつの派閥による支配ではなく、双方の和解を求めるべきである。

 ロシアも欧米も、そして何よりもウクライナの諸派も、この原則に基づいて行動していない。それぞれが状況を悪化させている。ロシアは、すでに多くの国境が不安定になっているときに、自らを孤立させることなく、軍事的な解決策を押し付けることはできないだろう。一方で、西側諸国にとっては、プーチンの悪魔化は政策ではなく、政策不在の証拠である。

 プーチンは、彼の不満が何であれ、軍事的な押しつけ政策は再び冷戦を引き起こすことを理解するようになるはずだ。米国は、ロシアを異常な存在として扱い、米国が定めた行動規範を辛抱強く教え込むことを避ける必要がある。プーチンはロシアの歴史を前提にした本格的な戦略家である。米国の価値観や心理を理解することは、彼の得意とするところではない。また、ロシアの歴史と心理を理解することは、米国の政策立案者の得意とするところではないのである。

 各方面の指導者は、面子を保つのを競うのではなく、どんな成果を取るかを検討することに立ち戻るべきだ。ここで、私が考える、双方の価値観と安全保障上の利益に合致する成果は次の通りである。

 1. ウクライナは欧州を含む経済的、政治的な関係を自由に選択する権利を持つべきである。

 2. ウクライナはNATOに加盟すべきではない。これは7年前、この問題が最初に浮上したとき、私が取った立場である。

 3. ウクライナは、その国民の表明された意思に適合するいかなる政府をも自由に樹立することができるはずである。賢明なウクライナの指導者ならば、自国のさまざまな地域間の和解政策を選択するだろう。国際的には、フィンランドに匹敵する姿勢をとるべきである。フィンランドは、その激しい独立性を損なうことなく、ほとんどの分野で西側と協力しているが、ロシアに対する組織的な敵対は慎重に避けている。

 4. ロシアがクリミアを併合することは、既存の世界秩序のルールと相容れない。しかし、クリミアとウクライナの関係をより摩擦の少ないものにすることは可能であるはずだ。そのために、ロシアはウクライナのクリミアに対する主権を認める。ウクライナは、国際監視団の立ち会いのもとで行われる選挙でクリミアの自治権を強化すること。その過程で、セヴァストポリの黒海艦隊の地位に関する曖昧な点を取り除くことも含まれる。

 これは原則であって、処方箋ではない。この地域に詳しい人なら、そのすべてがすべての当事者にとって好ましいものではないことはわかるだろう。試されるのは、絶対的な満足ではなく、バランスのとれた不満である。これら、あるいはそれに匹敵する要素に基づく何らかの解決策が得られなければ、対立への流れは加速され、その時はすぐにやってくることになるだろう。

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