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ペルシャ湾岸諸国は自らの地政学的立ち位置を自決し始めている

ペルシャ湾岸諸国は自らの地政学的立ち位置を自決し始めている
<記事原文 寺島先生推薦>
The Persian Gulf is Now Taking an Independent Geopolitical Stance

ジャーナル・ネオ 2022年4月22日

ビクトル・ミヒン(Viktor Mikhin)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年5月25日


 
 いま新しい現実として起こっているのは、バイデン政権が、ロシアによるウクライナへの特殊作戦にあからさまに介入し、キエフのナチ政権に対して政治的に支援するだけではなく、武器の供給まで行うことにより、既に新しい世界戦略に着手し始めていることだ。 このような戦略を取れば、世界の他の超大国(主にロシアと中国)との衝突の激化は明らかに避けられなくなるだろう。米国が、大規模な包囲作戦として、軍や武器を敵国となるこれらの超大国の国境付近に配置しようと力を入れている中でのことだ。米国がいま特に注意を払っているのは、昔からの米国の同盟諸国との関係再建や、同盟諸国の新たな増加だ。この世界戦略を推し進めることにより米国政府が求めていることは、敵諸国との紛争の勝利と、 同盟諸国との関係を強化することである。

 この視点から見れば、今のウクライナ危機は、米国の新世界戦略とそれ以外の様々な代替案とを試すリトマス試験紙の意味合いを持っているということだ。米国の現在の政界においては、大多数が現政権を支持しており、ジョー・バイデンも最善を尽くしているのだが、 今のところこのウクライナ危機への対応に関して世間をひとつにまとめることは上手くいっておらず、バイデンによる政策の中では例外的な状況になっている。バイデン政権が取っている方向性は、欧州諸国に対して「調整と協力」の考え方をもとにしている場合もあれば、ただ単に命令を下している場合もある。いずれにせよ、ウクライナに最新兵器を渡して「ウクライナ人が最後の一人になるまで」戦うよう促しているが、その目的は、そうすることで米国の軍産複合体がかつてない規模での高い利益を新たに手にすることだ。 米国がこのような立場を取っていることを確信させるような発言を、既に引退している米国のチャス・フリーマン(Chas Freeman)元大使が行っている。フリーマンいわく「ウクライナで米国は宣戦布告なしの戦争をロシアと戦っているが、その目的は米国が世界の覇権を維持するためだ」とのことだ。フリーマンの考えでは、米国当局があからさまにロシアと戦う素振りを見せれば、 ロシア政権は特殊作戦を開始して、米国が設立し武装させたウクライナのネオナチ軍を打ち破ろうとするだろう。 現状についてのこのフリーマンのことばはまさに、「米国はウクライナ人が最後の一人になるまでロシアと戦う」姿勢のあらわれだ。

 しかし、このウクライナ危機が西側諸国に与えている結果と、中東や全イスラム世界が見せている反応は全く異なっている。今回のウクライナ危機が明らかにしたのは、米国と米国の同盟国であるイスラム諸国との間にある数多くの矛盾点だ。イスラム諸国は、西側から厳しい圧力をかけられている中でも、ロシアとの関係を反故にしたくはないのだ。それと同時にEUや米国が課している大規模な対ロシア制裁のおかげで、ロシア政府とアラブ諸国との協力関係が促進されているのだ。そのような現状を伝える最新の例をあげると、西側諸国と米国の提案による国連人権理事会でのロシアの資格剥奪の決議に対する動きだ。その決議に対して100カ国がロシアの立場を支持したのだ。投票を棄権した国々や、ロシアの資格剥奪に反対票を投じた国々もあり、投票自体に参加しない国々もあった。ロシア政府を支持した国々の中には、多くのイスラム諸国が含まれていた。具体的にはイラン、スーダン、イラク、レバノン、シリアなどの多くの国々だ。

 西側諸国がロシアに対して課している制裁のおかげで、ロシアはアラブ諸国と協力関係を結ぶ大きな機会を得ることになった。具体的には、武器貿易やITの特別専門家の入国などだ。少なくともこの理由のため、イスラム諸国はロシア政府と揉めごとを起こしたくないのだ。というのもロシアとの関係強化には実用的な理由が十分あり、望ましい展望がひらけることに気づいているからだ。それは西側諸国がヒステリックにロシアをさらに悪者にしようとしている中でも、その展望が見えているのだ。さらにロシアは中国やブラジル、インド、アラブ、アフリカ諸国と持続可能な貿易関係を結んでおり、西側の制裁によって石油や天然ガスの価格が上昇したことで、ロシアには安定して外貨が流入している。それと同時に、「ロシア、ブラジル、インド、中国、南アフリカは、他の無数の国々とともに、既に新しい金融体制の開発に力を入れて取り組んでいる。その金融体制は西側の金融体制と同規模のもので、米国の影響力、とくにSWIFT(国際銀行間通信協会)の影響力からも逃れることができる体制である」とロシアのアントン・シルアノフ(Anton Siluanov)財務大臣は語っている。 さらにロシアは(西側から)独立した格付け機関の設立も計画しており、支払い体制を統合し、輸出や輸入において自国通貨を使用することを目指している。

 これらすべてのことが明確に示しているのは、米国の拡大主義者たちがたてた計画が不首尾に終わり、ペルシャ湾岸諸国からの必要な支持を得ることができなかったことだ。ペルシャ湾岸諸国は、以前は米国政府を支持し、米国のもとでの世界支配に大きく貢献してきたのに、だ。米国がペルシャ湾岸の米国の同盟諸国をあからさまに軽視することが明白になってきたのは、米国が世界戦略におけるペルシャ湾岸諸国の地位や役割の見方を変えてからだ。このことがよりはっきりしてきたのは、ジョー・バイデンが2021年大統領職に就いてからであり、特にアフガニスタンから駐留軍を不名誉にも、突然引き上げることにしてからだ。この出来事のせいで、米国はこれまでの同盟諸国を簡単に裏切る国だという印象がついてしまった。

 多くのアラブの政治家たちの意見では、2015年に(イランと米露など6カ国間の)核合意がペルシャ湾岸諸国に犠牲を払わせる形で合意された事実があったのにも拘わらず、バイデン政権は核計画に関してイランに大幅な譲歩を行う用意があると見ている。アラブ諸国の考えでは、米国によるこの動きは、「イランの野望を抑え込むのではなく、湾岸地域におけるイランの地位や軍事的可能性を強めることになる」としている。このことに加えて、最近になって米国政府が、イランが支援しているイエメンのフーシ派抵抗勢力をテロ組織であると認定しなかった事実もある。国連安全保障理事会はこの勢力を「テロリスト」と呼んでおり、さらにフーシ派抵抗勢力はイエメンの保護を目的に多くの湾岸諸国に対して活動を広めている中でのことだ。バイデン政権がさらに目指しているのは、サウジアラビアやアラブ首長国連邦に対して近代兵器の供給をある程度までに制限しようとしていることだ。両国はつい最近まで米国が信頼を置く同盟国であり、両国が米国の軍産複合体にとって多額の儲け口になっていたのにも拘わらず、である。

 今回のウクライナ危機が明らかにしたのは、米国と湾岸諸国間の乖離が広まっているということだ。これらの多くの湾岸諸国は米国との同盟関係から離れ始めており、現状において頼りにできるのは自国のみだということを実感したのだ。何よりもこの状況を示す証は、バイデン政権の現状の政策を受け入れることをペルシャ湾岸諸国が拒否していることだ。この地域の2大国であるサウジアラビアとアラブ首長国連邦が特にそうなのだ。特筆すべきは、両国が米国からの圧力に屈さず、反ロシア同盟に参加せず、米国政府の要求に応じて石油生産を増加することには応じず、これまでのようには西側諸国の利益を重視しようとしていないことだ。

 米国がロシアの特殊作戦の開始後について予想していた推測や思惑とは食い違い、ペルシャ湾岸諸国は現在の米国主導体制を完全に支持する立場を取っていない。米国は、ロシア経済を厳しく封鎖しようと躍起になっている。米国政府の積極的な政策は現時点では、意志薄弱で聞き分けのよい欧州諸国には少なくとも功を奏しているようだが、ペルシャ湾岸諸国はそうはいっていない。国連安全保障理事会において、アラブ首長国連邦はロシアの特殊作戦に対して厳しい非難を行わず、サウジアラビアはバイデン政権が要求した石油増産には応じなかった。サウジアラビアとアラブ首長国連邦が見せたこの態度が示しているのは、ロシアと米国や欧州との関係において両国は中立を維持したいと考えているということだ。サウジアラビアやアラブ首長国連邦がごく自然にこのような立場に依拠していることは、ロシアを喜ばせるだけではなく、米国政府のペルシャ湾岸諸国に対する粗暴で不遜な態度に対する反応の現れだといえる。というのも、湾岸諸国の利益などは考慮していないバイデン政権は、たとえその外交政策が湾岸諸国の国家利益に反するものであっても、湾岸諸国が自動的に米国の要求に応じた外交政策をとることを期待しているからだ。

 全体的に見て、最近の出来事が再び明らかにした事実は、湾岸諸国は世界情勢において非常に重要な役割を担っているということだ。いま起こっている混乱状態のせいで、これらの湾岸諸国がロシアからの石油や天然ガスの輸出の代替国になるという好機になっている中でも、湾岸諸国が果たす役割の基盤になっているのはエネルギー資源だけではない。湾岸諸国が産出する天然資源(石油、天然ガス)が問題になると考えるのは全くの見当違いだ。現状が明らかに示しているのは、米国や一般的な西側諸国の思惑がどれだけ思慮に欠け、傲慢であるかという事実だ。というのも米国や西側諸国は「自分たちこそ湾岸地域のすべての紛争を解決してきた」と考えているからだ。湾岸諸国ははっきりと「自分たちが今でも重要な役割を担っている」ことを意志表示している。諸国の指導者たちは自国の開発計画に意欲的に取り組み、自国の利益と自国民の安全を保護することを目指している。湾岸諸国は西側の影響力に従うつもりはさらさらなく、米国が繰り出す戦争ゲームの駒の一つに使われることを許す気もない。この新しい状況において、米国は自国の計画を断念し、湾岸地域で破壊的な紛争を招くような挑発行為をやめ、新しい中東地域の出現に備えるべきだ。この新しい中東地域においては、湾岸諸国は米国の利益に慮ることなく、自国の利益を焦点にした戦略を自発的に追求するようになるだろう。

 今回のウクライナ危機がこれまでの関係を考え直す契機となったのは、ペルシャ湾岸諸国の存在意義がこれまでになく増し、米国と欧州による覇権に対抗できる勢力であるということが明白になったからだ。それはエネルギー資源に関しても、世界の市場の安定化という意味においても、である。当面の不安定な状況がさらに示しているのは、湾岸諸国には、外交政策や世界の超大国の国々との関係作りにおいて様々な代替案があるということだ。湾岸諸国は、米国が湾岸諸国の資源をかき集めることで、湾岸諸国のこの先の発展機会を阻害することは許さないだろう。そんなことをしても米国に奉仕し、米国に利益をもたらすことにしかならず、自分たちの国や、その資源が搾取されるだけだからだ。それなのに西側諸国はできるときでも全く支援の手をさしのべようとはしてこなかったのだ。こんにち、湾岸諸国は世界戦略に影響を与える力も意欲も有しており、自国の利益を守る決意も持っていて、米国や他の西側諸国との協力関係などあてにしてはいない。

Viktor Mikhin, corresponding member of RANS, exclusively for the online magazine “New Eastern Outlook”.

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