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中東のソーシャルメディアが映し出すウクライナ危機

中東のソーシャルメディアが映し出すウクライナ危機
<記事原文 寺島先生推薦>
Crisis in Ukraine Through the Prism of Middle Eastern Social Media

ジャーナル・ネオ
2022年4月13日

ユーリー・ジニン(Yuriy Zinin)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年5月8日


 ロシアがウクライナで行っている特殊作戦については、中東地域のソーシャルメディア上で盛んに論じられ続けている。中東の地元政治専門家たちは、インターネット上でこの紛争がどのように見られているかや、この紛争がどのような印象を持たれているかについて、生活様式や政治体制が異なる様々な地域において追跡調査を行っている。

 モロッコの研究者によれば、その捉えられ方は様々であることが、利用者たちの反応やコメントやブログを書いている人々の投稿記事から明らかだ、とのことだ。 この傾向は、人々の政治的思想的傾向や主張が入り交じるアラブ諸国ならではのことだと言える。ただし今回のウクライナでの出来事に関しての批判は、モスクワに対してではなく、米国とその同盟諸国の方により多くの矢が向けられているようだ。

 このような声が上がっていることには多くの理由がある。その主要な理由のひとつは、いま起こっていることから受け取れる感情が、かつて西側諸国がアラブ地方を支配していたときの記憶と切り離せないことだ。 この点に関して、アラブ地方は苦い体験をしてきたため、この決して癒されることのない傷が多かれ少なかれ、西側に対する批判に繋がっているのだ。

 この何十年間にもわたって形成されてきた反西側感情が、いま新しい意味を持ちつつある。だからこそアラブ世界に住む多くの人々が米国の主張を受け入れようとしていないのだ。その主張とは、現在ウクライナで起っていることに関して、米国が国際法や各国の主権について訴えている主張のことだ。米国が主張している国家主権や諸国が持つべきそのような権利が、パレスチナやイラクやリビアの場合、米国により侵害されてきたことに対して批判の声が巻き起こっているのだ。さらに最初から、そしてずっと以前から、ウクライナの指導者層は西側との関係を強めることに賭けてきたのだ。

 今のウクライナ政権が使っている言葉は、ロシアの敵諸国やロシアの不幸を望んでいる国々から借りてきた言葉だ。この言葉を聞いたアラブの人々は、以下のような正当な疑問を持っている。「ロシアと闘っているウクライナの国家主義者たちは、自己防衛のために闘っているのだろうか?それともその逆で、米国やNATOに必死に気を使っているのだろうか?」

 注目すべきことは、今ウクライナで起こっていることやそれに対する西側諸国の反応と、中東での紛争との比較が、ソーシャルメディア上で行われていることだ。そして国際社会からの両者に対する反応が同じではないことについてだ。

 西側のメディアはキエフ政権に肩入れした報じ方に力を入れているが、このことが、西側メディアが何に道徳的基盤を置いているかについてアラブ諸国が疑念を持つことに繋がっている。ウクライナ国民たちの苦しみを全面に押し出す記事やテレビ報道により、その報道に接する人々に同情心を持たせようとする意図が余りにあからさまなので、これらの報道が、ソーシャルメディアの発信者たちの間に真逆の効果を生み出している。
 ブログを書く人々が皮肉っているのは、欧州がウクライナからの難民たちに救いの手を差し伸べているのに、ウクライナからの難民よりずっと苦しんでいるシリアやリビアやアフガニスタンからの難民が置かれている状況には沈黙を保っている点だ。アル・ジャジーラの報道によると、この件が、西側が世界に自身の文化の冷酷さを示す機会になってしまっているとのことだ。つまり西側は、人種差別と二重基準に依存した社会だということを示してしまっている、というのだ。

 ソーシャルメディアの利用者たちによると、世界中のメディアやネット空間はウクライナでのこの紛争について騒ぎ立てているが、本当に何が起こっているかについては語らず、隠していることの方がずっと多いとのことだ。ウクライナの工作員たちが、偽情報の拡散や事件の偽造を行っていることがネット上で見つかっている。

 アラビア語のウェブサイト「ミスバー」は、2019年からオンライン空間での偽情報の発見や暴露を専門としてきたサイトだ。このミスバーがウクライナによる偽情報の発信に関して活発に反応している。ここ数週間、ミスバーはウクライナでのこのようなかなりの多くの件案について調査し、検証済みの文書情報をもとに明らかにしている。

 ミスバーが明らかにした偽情報の中で特筆すべきは、ウクライナのスームィ町でロシア軍が焼いたとされて投稿された複数の家屋のいくつかの写真だ。ミスバーによると、これらの写真は2020年2月2日にウクライナのトランスカルパチア地方のイルシャバ市で起こった火災後の写真にほかならなかった。他の例を上げると、キエフでウクライナにより攻撃されたとされたロシアの装甲車両の映像だ。実の所、これはニセモノだった。この映像は、2014年にウクライナで起こった民衆による抗議活動の際、デモ隊がウクライナ軍の装置に火炎瓶を投げつけている映像だった。

 アラブ首長国連邦の政府報道機関の指摘によると、ウクライナ大統領は大規模な西側の応援団の助けを借りて、ロシアの攻撃による一般市民の犠牲者の数を水増しする手口を使っているとのことだ。さらに 「戦争犯罪」の証拠として上げられた多くの写真は、合成写真であったことも判明している。アルジェリアの新聞社であるル・ジュネ・アンダパンダン(Le Jeune Indépendant)紙は、ブッチャでの大虐殺事件のでっちあげを、「大西洋主義者たちによるロシアを悪者にするための新しい嘘だ」と報じている。

 「アラブ界隈(Arab street)」(訳注:大衆の意見や考えの隠喩。アラブの世界ではStreet は大衆の意見交換の場としてとして主要な場所であったことに由来する)では、国際体制を信頼できないという声が上がっている。というのも、その国際体制のもとで、アラブ地域は危機的状況に置かれ、ウクライナへは救援の手が急いで差し伸べられているのに、多くのアラブ諸国で起こったことや、今でも起こっている都合の悪いことについては目を向けようとはしていないからだ。

 サウジアラビアの新聞社であるアル・オカズ(Al-Okaz)紙によると、アラブの大衆も、文化的な指導者層もウクライナ寄りではなく、ロシア寄りの立場をとっているとのことだ。同紙はその理由を、アラブが西側に対して持っている敵意のせいであり、その敵意はアラブとイスラエル間の紛争において、西側がこの70年間以上ずっとイスラエルを支援してきたことから生まれたものだとしている。だからこそキエフ政権との紛争においてアラブがロシアを支持しているのは論理的な動機のもとでのことだ、という論調だ。

 「ウクライナでのロシアの軍事行動は特別な意義を持つ」と語るアラブの作家もいる。 この作家は、「この紛争は長年待ち続けてきた煌めきであり、この煌めきがきっかけとなって、 これまで世界が体験してきた、不確かで、“政治の流れに翻弄されてきた”時代を乗り越えることができるのでは」と期待している。

 覇権を追求する政策に凝り固まった西側全体の特徴としてあげられることは、諸国の富を略奪し、制裁を課すことで諸国の自発的な意志を粉砕しようとすることだ。さらに西側諸国は、自分たち以外の「極」の出現も阻止しようとしている。その「極」は、諸国が自国の経済や機関を成長させることにより少しずつ打ち立ててきたものだ。そうやって諸国は、自国の国力を拡大し、国際社会の力の均衡の中で居場所を手にしてきたのだ。それなのにこのような極が生じる度に、西側は既得権益を維持しようという確固たる決意のもと、 これらの極を粉砕してきた。常に西側は、自分たちが世界の中心であり続けている確信が持てる鍵を手元に置いておきたがってきたのだ。

 ウクライナの件だけではなく、世界各地で国家間の関係が入り乱れ、複雑化しているという事実は、 ある変化が起ころうとしている前触れだ。その変化とは、ここ数十年間、世界の存在の基盤としてきた体制の機能不全を正そうという変化だ。

Yuri Zinin, a senior researcher at the Center for Middle Eastern Studies, Institute of International Studies of the Moscow State Institute for International Relations, exclusively for the online magazine “New Eastern Outlook”.
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