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マリウポリの劇場爆破は、ウクライナのアゾフ過激派がNATOの介入誘導のために仕組んだのか?

マリウポリの劇場爆破は、ウクライナのアゾフ過激派がNATOの介入誘導のために仕組んだのか?
<記事原文 寺島先生推薦>
Was bombing of Mariupol theater staged by Ukrainian Azov extremists to trigger NATO intervention?

The GRAYZONE

マックス・ブルメンタール-2022年3月18日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年3月27日


 欧米メディアは「ロシア軍はウクライナのマリウポリにあるドネツク学術地域劇場を意図的に攻撃した」と報じ、さらに「そこには民間人がたくさんいて敷地内には「子供」と書かれた標識もある」と述べている。

 爆撃とされるものは、ちょうどウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が米国議会に飛行禁止区域の設定を訴えたときに起こったのだが、その爆撃によってロシアとの直接軍事対決を求める声が高まっただけでなく、ジョセフ・バイデン大統領がロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪人」と決めつけるきっかけともなった。

 しかしよく状況を見てみると、3月16日の事件の3日前にマリウポリの地元住民は、この劇場が建物とその周辺地域を支配している公然たるネオナチ「アゾフ大隊」による偽旗攻撃の場になるのではないかと警告していたことがわかる。

 人道回廊を通って脱出した市民は、その場所でアゾフによって人間の盾として拘束されていたが、アゾフ戦闘員が退却する際に劇場の一部を爆発したと証言している。ロシアの大規模な空爆で建物が灰になったという主張にもかかわらず、すべての市民は命からがらだったが脱出したようだ。

 劇場への攻撃の映像は、本稿執筆時点ではまだ見ることができず、破損した建物の写真のみがある。ロシア国防省は、同劇場への空爆を否定しており、同劇場には軍事的価値がなく、3月16日に同地域で空爆は行われなかったとしている。

 ウクライナでのロシアの軍事行動はマリウポリの人道的危機を引き起こしたが、ロシアが劇場を標的にしても何も得られなかったことは明らかだ。ところが、ロシア民族を含む民間人でいっぱいの建物を標的にしたとなると、ロシアが事実上、悪評判という打撃をさらに受けることは確実だ。

 一方、アゾフ大隊は、ロシアがやったとされる劇的で悲惨な攻撃から利益を得る立場にあった。その戦闘員はマリウポリ周辺から完全に撤退し、「脱ナチス化」に躍起になっているロシア軍の手で残忍な扱いを受ける可能性に直面しているので、彼らの唯一の希望はNATOの直接介入を誘発することにあるように見える。

 同様の絶望感がゼレンスキーが議会で行った綿密に練られた演説用台本にも感じられた。彼はマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの 「私には夢がある」 の演説を引き合いに出し、苦しんでいる民間人を描いた沢山の制作ビデオを再生して飛行禁止区域の必要性を訴えたのだった。

 ウクライナ政府は、ロシアの悲惨な戦争犯罪に対する欧米の人々の怒りを煽ることで、ロシア軍と直接対決することに躊躇するバイデン政権を動かす圧力をかけることを明らかに狙っている。

 しかし、キエフのこれまでで最も感情的な主張―ロシアが劇場内でうずくまっている罪のない子供たちを故意に爆撃したという主張は、マリウポリ住民の証言や、建物への偽旗攻撃を明確に予見させるテレグラムメッセージが広く閲覧されたことによって打ち消された。



2015年、アゾフ大隊が運営するサマー・キャンプで軍事訓練を受ける子どもたち

マリウポリで絶望を深めるアゾフ大隊の戦闘員、欧米の軍事介入を懇願
 
 南東部の戦略的な港湾都市マリウポリは、2014年からアゾフ大隊に押さえられている。その掌握以来、超国家主義準軍事の政治・軍事拠点としての役割を担ってきた。そしてその間、ドネツク離脱共和国の親ロシア分離主義者への攻撃を行っていた。

 2013年から14年にかけてのユーロマイダン・クーデターで、デモ隊に街頭活動をさせた極右活動家たちから集められたアゾフ大隊は、内務省によって正式にウクライナ国家警備隊に編入されている。この大隊は、公然とファシストを組織するアンドリー・ビレツキーによって創設されたもので、彼は「世界の白色人種を率いて、セム人主導の劣等人種(Untermenschen)に対する最後の聖戦を行う」と宣言している。

 アゾフの戦闘員は、ナチスに影響を受けたWolfsangel(狼用かぎ針)のシンボルをユニフォームや旗に付けていて、そのイデオロギー的目標を隠すことはない。アゾフはFBI米国議会、そして自らの戦闘員によってネオナチ部隊と認定され、数々の卑劣な人権侵害に関与してきたにもかかわらず、米国とカナダの軍事訓練指揮官と公然と協力してきた。

 このアゾフをプーチンはマリウポリの基地をウクライナの「脱ナチス化」キャンペーンの最前線としてマークし、彼らがドンバスのロシア系民族を絶滅させようとしていると非難している。2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、同市は激しい市街戦の場となり、ロシアの特殊部隊とドネツク人民共和国の民兵軍が、アゾフの陣地に砲撃を浴びせながらブロック単位で支配権を争う戦いを繰り広げている。

 3月7日、マリウポリからアゾフ大隊のデニス・プロコペンコ司令官がカメラに映り、緊急メッセージを英語で発表した。アゾフの公式YouTubeチャンネルで公開された映像の中でプロコペンコは、時折聞こえる砲撃音の中で、ロシア軍がマリウポリの住民に対して「集団虐殺」を実行していると宣言した。

 プロコペンコ司令官は、西側諸国に対して「ウクライナ上空を最新兵器で支援する飛行禁止区域を作る」ことを要求した。プロコペンコの訴えから、アゾフの立場が日に日に危うくなっていることは明らかだった。

 2022年3月第2週、ロシア軍がアゾフの陣地を急速に縮小させるなか、アゾフの兵士は、マリウポリのドネツク学術地域劇場の衣装ホールに高齢の民間人や女性、子どもを誘導したようだ。

 3月11日に薄暗い建物内で撮影されたビデオでは、地元の男性が「1000人の市民が中に閉じ込められている」と訴え、脱出のための人道的な回廊を要求している様子が映し出されている。しかし、ビデオに映っていたのは、ごく一部の民間人たちだけだった。

 「私はこんなことはやめてほしいと言ってるんです。住民を、そして女性、子供、負傷者を避難させる通路を与えてください」と眼鏡をかけた男性が(下の写真)がビデオの中で訴えている。

3月11日、マリウポリの劇場前。アゾフの兵士(左)が地元の男性とともに現れた。

 ロシアが侵攻を開始して以来、アゾフ大隊の兵士がマリウポリから市民が出るのを阻止する様子が撮影されてきた。準軍事的な検問所を突破しようとする男性を車から無理やり連れ出し、残忍な暴行を加えることさえあった。多くのマリウポリ住民の証言を信じるなら、アゾフは彼らの多くを人間の盾として使っていたことになる。



マリウポリ劇場事件の数日前、偽旗 「挑発」の恐ろしい警告

 3月12日、恐怖のメッセージが流れた。ロシアの新聞「コムソモリスカヤ・プラウダ」のマリウポリ特派員、ドミトリー・ステシェンによるテレグラム・チャンネルでの報告だった。

 ステシェンによると、地元住民は、マリウポルのトルコ製モスク「カヌニ・スルタン・スレイマン」へのロシア軍の爆撃は「トルコを戦争に巻き込む」ための偽旗だと言い、今度はマリウポルの劇場への偽旗攻撃が迫っていると警告したという。

 テレグラムのメッセージは次のようなものであった。

 「マリウポリの読者が送ってくれたものを見てください。もしその情報が検証可能であれば、(メディア向けに)強調する必要があります」。

「ゼレンスキーはマリウポリで2つの[偽旗]挑発を準備しています!!!! その一つは、アクメトフが建てたモスクに隠れていたトルコの市民に対するもので、この挑発は、ニジニャーヤ(下)キルボカの[ジンステヴァ]バルカの位置から、モスクの敷地を砲撃するウクライナの砲兵によって、すでに開始されています。ゼレンスキーは、EU、米国、英国をロシア連邦との戦争に引きずり込むことができませんでした。今、ゼレンスキーはトルコを戦争に引きずり込もうとして、爆発的な感情的性格と、信者が神聖な神社に感じる愛に望みを託しています」。

 ステシェン記者が伝えるマリウポリ住民からの警告は、48万人以上のテレグラムユーザーに見られている。そのメッセージは以下の通りである。また、こちらから(リンク先)でも見られる。



 3月12日、AP通信などの西側メディアは、マリウポリのトルコ式モスクがロシアによって砲撃され、子供を含む80人の民間人が中にいたとするウクライナ政府の主張を繰り返して報じた。

 一方で、トルコの国営メディアは、ウクライナ政府は欧米の記者に間違った情報を与えていると指摘した。カヌニ・スルタン・スレイマン・モスクは完全に無傷だっただけでなく、ロシアの砲撃を一度も受けていないのだ。

 モスクの協会長であるイスマイル・ハシオグル氏は12日、トルコのアンダルー通信に「私たちのモスクは無傷のままだった」と語った。

 マリウポリの劇場にはまだ民間人がいっぱいいて、次に狙われる標的になっていた。



AP通信 (上) はマリウポリのモスクに関するウクライナ政府の主張に全面的に依拠し、トルコのメディア (下) はモスクのトップにインタビューした内容を掲載した。報道内容は真逆である。

ゼレンスキーが議会に軍事介入を懇願する最中に、劇場襲撃のニュース

 マリウポリのモスクをロシアが攻撃したという誤情報が論破されたことが伝えられてから48時間足らずで、ようやく街の周辺に人道回廊が開かれるようになった。何千人もの市民がロシア軍の陣地に向かって飛び立ように逃げたことで、飛行禁止区域を強制するためにマリウポルの住民を担保に取っていたアゾフ大隊はさらに弱体化することとなった。

 3月16日、ロシアの猛攻でアゾフの軍が崩壊する中、有名なコメディアン俳優でもあるウクライナ大統領ゼレンスキーはビデオに登場し、驚愕する米国議員たちの前で、入念な台本と演出でプレゼンを行った。

 「私には夢があります。これは今日、皆さん一人ひとりが知っている言葉です。私はそれが必要だと言えます。私は空を守る必要があるのです」とゼレンスキーは訴えた。ウクライナ大統領は、アメリカで最も尊敬されている反戦活動家キング牧師の最も有名な言葉を引用して飛行禁止区域の必要性を訴えたのだ。それは核武装したアメリカとロシアの軍隊を直接対決を引き起こすことになりかねないものだった。

 そのゼレンスキー演説からわずか数時間後に、ロシアがマリウポルの劇場を空爆したというニュースがアゾフ大隊の報道部から直接届いた。

 アゾフの報道部門は、他の報道機関が存在しないところで、攻撃を受けたとみなされる現場の情報を独占して、そこで破壊された建物の写真を世界中のメディアに流した。

 下の画像の右下には、「アゾフ大隊」の透かし文字がはっきりと確認できる。この写真はSky Newsなどの国際的な報道機関に再掲載されたが、そのときには準軍事組織のブランドは切り取られていた。サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙がこの画像を掲載した際には、この透かし文字は取り除かれ、「AP経由アゾフ大隊」と信じさせた。



 事件に関するウクライナ政府の説明を英語メディアが初めて大衆に伝えた人物の一人が、キエフを拠点とする米国で手解きを受けたイリヤ・ポノマレンコ記者であった。彼はロシアによる侵攻が始まって以来、100万人以上のツイッターフォロワーを集めることに成功していた。




 ポノマレンコはそのときキエフ・インディペンデント紙に勤めていたのだが、この新聞はウクライナにおけるアメリカの最も強力な情報兵器の一つとして機能してきた。この新聞は、アメリカの情報機関から切り離されたNED(国家民主主義基金)と、EUから資金提供を受けているEED(欧州民主主義基金)からの「緊急助成金」の援助を受けて設立されている。

 彼について言えば、ポノマレンコはアゾフ大隊のことを「戦友」と呼び、「敵陣」の近くで戦闘員と一緒に「いまひと休みしてるんだ」と自慢げに語っている。

 マリウポリからのニュースに触発されて感情の渦に巻き込まれたかのように、ジョセフ・バイデン大統領はロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪者」「殺人独裁者」「純粋な凶悪犯」と非難し始めた。

 次にヒューマン・ライツ・ウォッチはどうなっていたかと言うと、このNGOは「ロシアの攻撃でマリウポリ劇場が打撃を受け、数百人が避難」 というタイトルを付けたにわか作りの記者発表を発表した。億万長者が支援しているこのNGOは、襲撃後にマリウポリの住民への聞き取り調査を行っていないことを認め、ロシアの責任を示す証拠は提示していない。事実、このNGOがロシアを犯人と名指しした唯一の情報源は、ウクライナのドネツク州知事だった。

 ロシア軍は、血に飢え、政治的に破壊的だったで、子どもたちで埋め尽くされていることで知られる建物を意図的に標的にしたのだろうか? それとも、マリウポリ住民が4日前から予測していたように偽旗作戦が実行されたのだろうか?

疑わしき兆候、ウクライナ政府の物語のボロが出始める

 アゾフ大隊は現場での功績を撮影する上品ぶった記者団を自慢し、兵士たちはソーシャルメディア上で自分たちの最も本当のものとは思えない陳腐な動画さえ公開しているが、劇場爆破の映像はどこにも見つからなかった。

 アゾフがウクライナ国内外のメディアに提供する写真には、必ずと言っていいほど、爆撃されたマウリポリの劇場は写っているが、人の姿は、生きているか死んでいるかに拘わらず、映っていることはない。

 空爆の前日、3月15日、マリウポリの劇場前で軍人の男性たちが写真に収まっていた。女性の姿はどこにも写っていない。男たちは、建物の側面に荷台を置き、劇場の敷地を横切って大きな物を運び、モミの木を切り倒している様子が写っている。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチの劇場事件に関する報告書によると、攻撃後に集められた地元の証言はなく、男たちは 「直火で食べ物を調理し、バケツで水を集めていた」と書かれている。

 下の写真にあるように、翌日、爆撃された場所と同じ場所に荷台などが積まれていた。





 劇場はひどい損傷を受けているように見える。ポノマレンコ記者はそれについて「ロシアが建物を爆撃して灰にしたんだが、死者は一人も出なかった」と述べている。

 「奇跡だ」とキエフ・インディペンデントの記者はほほえんだ。



 ABCニュースは3月17日、7分間にわたってニュースと政治的コメントを織り交ぜながら、劇場から市民は全員救出されたが、「まだ何百人も行方不明だ」と訴えた。ウクライナのウィキペディアのページで再現されている控えめな大きさの劇場のデータでは、最大収容人数は680人であり、その地下にどうやって「数百人」を収容できたのかは疑問である。

 さらにABCは、劇場はロシアの砲撃によって攻撃されたと報道し、ポノマレンコや他の多くの人々が主張しているような「ロシアの空爆」ではないと主張した。

 一方、ウクライナのメディアは、この事件に対して混乱を表明している。地方放送局0629は、劇場にいたとされる1000人の市民が謎の失踪を遂げたことについて、攻撃とされる前日にザポロジェ市に避難したと説明を試みたが、「公式の検証情報を待っているところであり、結論を急ぐべきではない」とも述べた。

 マリウポリの住民がロシア軍の人道回廊を通って市外に流出するにつれ、逃げ惑う市民に対するアゾフの冷酷な攻撃、そして地元の劇場での大規模なごまかしについての証言が出始めた。

 「(アゾフ兵が)去るとき、彼らは劇場を破壊した。」

 3月17日、ある若い女性がアブハジアン・ネットワーク通信社(ANNA)にマリウポリ市内の状況について、告発的な証言をした。

 「アゾフの戦闘員は、私たちの後ろに隠れていただけです」と彼女は記者に語った。「私たちは彼らの人間の盾だったのです。彼らは、私たちの周りのすべてを破壊し、私たちを外に出さなかったのです。私たちは15日間、地下室で子供たちと一緒に過ごしました...彼らは私たちに水も何も与えませんでした」。

 アゾフ大隊が地元の防空壕の前に戦車を置いたことについては、その女性は次のように説明した。「アゾフ大隊が去っていくとき、彼らが劇場を破壊したんです。榴散弾を持った人たちが運ばれてきたのよ」。


 アゾフがマリウポリの市民を人質にしているという証言に多くの避難民が賛同し、人道回廊を通って脱出する際には銃撃を受けたとも語った。

 「彼らはすべてを燃やしたのよ」とある老女はロシアのメディアに語った。「あの人たちは私のアパート全体を爆撃したのよ...。彼らは押し入り、今そこに座って火炎瓶を作っているのよ。私は中に入って自分の物を取りたかったんですが、あの人たちは私に言いました。「だめだ、おまえに用はない」って」。

 「誰があなたを襲って家に侵入したんですか」と聞かれたとき、その老女は「もちろん、ウクライナ人よ」と答えた。


 マリウポリからの脱出後にANNAの記者に呼び止められた男性は、涙をこらえながら、ウクライナ軍の陣地を指差した。「アゾフ、あのクソ野郎ども...みんなは避難しようとしたのに...アゾフは...みんなを処刑したんだ...化け物、カス野郎だよ...奴らは銃撃したんだ、バスごと撃ち殺したんだ...」。

 マリウポリから逃れた別の男性は「ウクライナ軍がわたしたちに発砲してきたんだ、人に向かって撃ってきたんだよ」と語った。「私たちの家に向かってだよ」。

 別の避難者は語っている。「ウクライナ軍はおれたちを街から出させなかった。足止めされてたってわけだよ。やつらは言うんだ、ウクライナ軍がやってきて、ロシアが人道回廊を開いたら、おまえたちはどんな状況であっても街から出ることはできないんだ。おまえさんたちはずっと人間の盾になるんだよ、って」。



レッドライン:シリアからの教訓

 マリウポリのドネツク学術地域劇場への爆撃は、地元住民が主張するように、NATOの介入を誘発するためにアゾフ過激派が実行した偽旗攻撃だったのだろうか。もしそうなら、ウクライナ政府が西側諸国を紛争に引き込むために行った利己的なペテンは、これが初めてではないし、これが最後でもなさそうである。

 劇場で事件が起きた3月16日、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は「ロシアが化学兵器、つまり大量破壊兵器を使用する可能性があるという現実的な懸念を持っている」と言明した。次の瞬間、ブリンケン氏はシリアを指さし、「我々は彼らが(化学兵器を)使用するか、使用を黙認するのを見た」と主張したのである。

 オバマ政権が「レッドライン」政策を実施したのはシリアだった。この政策は化学兵器による攻撃は自動的に米国の軍事的対応の引き金になると宣言するものだったが、これは、米国にダマスカスへの介入を強要するために、外国の支援を受けたシリア反体制勢力によって行われたと思われる一連の事件の舞台を設定した。

 2013年8月21日、ダマスカス郊外のグータで最悪の事件が発生した。明らかに反乱軍の支配地域と見られるところからサリン入りのロケット弾が複数の場所に撃ち込まれ、数百人の市民が死亡したのだ。するとオバマはシリア政府を非難して空爆の準備を始めたのだが、その後にシリア政権幹部がある情報をリークしたた。それは、ダマスカスを非難する情報は「スラムダンク」と呼べるほど確実な情報ではないというものだった。実はこの「スラムダンク」という言葉は、イラク戦争前夜にCIAが「イラクは大量破壊兵器を持っている」ことの確実性を表すために使われたものだった。ジャーナリストのセイモア・ハーシュは、その後、米国はグータで反乱軍の罪を指摘する重要な情報を集めていた報告した。ハーシュは、この情報によって、オバマがいわゆる「レッドライン」を放棄するように説得されたと報告している。

 ドナルド・トランプ大統領の下で、米国は2017年と2018年に化学兵器疑惑をめぐってシリアを空爆し、「レッドライン」を復活させようとした。しかし、いずれのケースでも重要な証拠からは、反政府勢力によって行われた自作自演の事件だったと指摘されている。2017年4月のカン・シェイクフンの事件の場合、トランプは情報を無視してシリア軍への空爆を開始した。そして、翌年のダマスカス郊外のドゥーマでは、OPCWの調査員は化学物質攻撃の証拠を発見しなかったが、米国当局が同組織に圧力をかけ、共倒れにしようとしたため、調査結果を加工・検閲させたのである。

 元米国中東大使がジャーナリストのチャールズ・グラスに語ったように、「"レッドライン "は偽旗作戦への公然の招待状だった」のである。

 マリウポリの劇場に対するロシアの攻撃という怪しげな疑惑は、バイデン政権のレッドラインを発動させることに失敗した。いま問題なのは、ウクライナ政府が、自軍の敗北を食い止めるために必要な飛行禁止区域の設定にどこまで踏み込むかだ。
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