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2021年の選挙で日本の政治はどうなるか?

2021年の選挙で日本の政治はどうなるか?

<記事原文 寺島先生推薦>

The Prospect of Political Change in Japan – Elections 2021

Asia-Pacific Research

2021年10月15日

ギャバン・マコーマック(Gavan McCormack)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2021年11月5日



要約:2021年後半の日本は、9月の自民党総裁選(事実上の首相選出)と10月の衆議院議員選挙という2つの重要な選挙に直面する。本稿では、総裁選で勝利し、10月31日の衆院選で戦いに挑む岸田文雄が変化をもたらすことはほとんどない、との論を立てる。岸田文雄政権には、2012年から2021年までの安倍政権や菅政権と同じ主要人物が含まれており、米国主導の反中政策を継続する可能性が高い。また、米国だけでなく、英国、フランス、オーストラリア、さらにはドイツを含む主要国の軍艦を東シナ海に呼び寄せて、大幅な軍拡と多国籍軍事演習を行うことが特徴である。本稿では、現在の傾向を考察し、大きな変化は望めないとしながらも、長年続いた自民党支配の秩序を揺るがす可能性のある市民主導の挑戦に注目している。

*

オリンピック・パラリンピック、COVIDパンデミック、そして政治

 2021年後半、日本ではオリンピック・パラリンピックのてんやわんやとCOVIDパンデミックの激動の後、9月29日に自民党総裁選、10月31日に衆議院議員選挙という2つの選挙が行われる。どちらの選挙においても、安倍晋三(2012-2020年)と菅義偉(2020-2021年)という2人の首相が、オリンピック・パラリンピックとパンデミックへの対応で国をまったくけん引できなかったという事実が、何らかの形で反映されることになる。支配層は、オリンピックという壮大な祭典が世界を平和と復興(2011年の福島の地震、津波、原子力発電所のメルトダウンから、そして2020-21年のCOVIDパンデミックから)の時代に導き、自民党が選挙で勝利し、「平和」条項(第9条)を削除した憲法改正への道を切り開くと考えていた。しかし、ことはそのようには運ばなかった。

 2013年に日本が国際社会に対して、福島の問題は「アンダーコントロール」状態にあると断言してから8年後、日本はオリンピック・パラリンピックが完全に「安全・安心」なモードで行われるのだと、きっぱり言い切った。しかし、オリンピックがピークを迎えた2021年夏には、2013年の祝賀ムードと2021年の「自宅待機」「三密を避けること」と間の食い違いが明らかになった。菅総理の支持率は、2020年9月の約70%から2021年8月には30%を下回った。高みに立ち、国民の批判や要求を受け付けない菅は、2020年8月に引き継いだスキャンダル、欺瞞、そして腐敗が毒ガスのようにもうもうと立ちこめていた状態を、任期中着実に悪化させたのである。

 国政選挙が近づいてくると、彼の立場は危うくなった。自民党総裁選では、「COVID対策に専念したい」という理由で不出馬を表明したが、誰も信じなかった。他ならぬ政府が行った世論調査(1)でも、選挙があれば与党自民党は議席を失い政権を失う可能性があるとの報告があった。8月に行われた横浜市長選挙では、無所属の政権批判者が首相の側近に18万票(12%の差)という異例の大差をつけて勝利した。菅が自民党総裁選、つまり首相選に立候補しないことを表明したのは、自民党からの圧力に屈したからである。彼は自民党のお荷物となり、事実上クビになったのである。

 しかし、人が変わってもそれは政策の変更を意味するものではなかった。2021年9月に行われた菅総理の後継者選挙では、4人の候補者全員が、安倍・菅政権の基本方針の継続を掲げていた。そのような考えでは、アメリカにとって日本は相変わらず従属的な奉仕をする国になる。大浦湾(沖縄県辺野古)に海兵隊の基地を建設するなどの大規模プロジェクトは、地元の反対、その費用が嵩むこと、この地域の地質や地震に弱いことなどにお構いなく、絶対的な優先順位を持っている。ワシントンの指示があり、軍事優先、反中国の姿勢に疑義を挟む余地はない。

1.選挙

 菅義偉が安倍晋三の後を継いで首相になった2020年9月、私は多くのコメンテーターとともに、安倍旧体制が国家運営のハンドルをしっかり握っているので、変化はほとんどないだろうと予想した(2)。菅はこの1年の在任に別れを告げたので、その判断に誤りがないことははっきりした。9月29日、100万人の保守派自民党党員の中から党総裁に選ばれた岸田文雄は、菅総理に代わって首相指名を受けた。自民党は新仏教主義の公明党とともに国会で多数を占めているので、おおよそ国民100人のうち1人がたまたま自民党に所属している国民が党首を選ぶことは、新しい首相を選ぶことでもあるのだ。そして、岸田はほぼ即座に総選挙実施を求めた。


 
 10月31日に予定されている選挙で、自民党は健闘するだろう。いつもそうなのだ。5月の時事通信世論調査によれば、有権者の自民党支持者は32.2%。不支持の44.6%よりもはるかに少ない。しかし自民党の集票マシンは半世紀以上の成功によって磨かれた強大な力があるので、それで十分だろう(3)。それに人口の半分近くが投票に行かないこともある(4)。全人口で見れば、ごく少数派にすぎない自民党党員が総裁選と31日の総選挙で今後数年間、たぶんそれ以上の期間、日本の針路を決めることになる。

 2020年の菅は人気があった。しかし元外務・防衛大臣で、2012年以降の安倍晋三政権の中心人物である岸田は新たな方向性を示すことも、国民の人気を博すことないだろう。党首選に先立つ数週間の世論調査では、岸田の支持率は13%と18.5%にとどまり、本命の河野太郎(それぞれ43%と48.6%)を大きく下回っていた(5)。河野は、ソーシャルメディア上で明確な発言をする人物であり、ジョージタウン大学を卒業して英語も堪能であったが、党内の古参の支持者、特に安倍陣営の支持を得られなかった(6)。河野は、安部/菅在任中の、犯罪につながる可能性のある行為の正式調査を公開で行う意向をほのめかした。それで彼の当選の目はなくなった。しかし、逆説的でより長期的な視野からみた結果として、(岸田が首相であった方が)10月の衆議院選挙で反自民党勢力が勢力を得て、安倍・菅政権(現在は安倍・菅・岸田政権)を打倒できる可能性は高まるだろう。河野が当選していればそんなわけにゆかなかっただろう。

 9月と10月の選挙について、今の私は、自分の考えがまとまらない:日本の半世紀以上にわたる事実上の一党独裁体制は終焉を迎えようとしているのだろうか?日本の国家は、1951年のサンフランシスコ条約とそれと同時に締結された安保条約が基礎となって成り立っている。それ以来、自衛隊や自民党などの長期的な米国支配の装置を設置・管理するために、CIAをはじめとする米国機関が積極的に介入してきた。1954年に設立された「自衛隊」は、それからの数十年間で、世界で最も強力な軍隊の一つ(おそらくナンバー5)に成長した(7)。しかし、サンフランシスコで確立された米国は保護者、日本は非武装・被保護という関係は、特に安倍・菅政権(2012年~2021年)の下で、日本の軍事力が米国主導の条約・同盟軍に増強・統合される相互同盟へと着実に変容し、「自衛」の解釈はますます緩くなっている。

 ワシントンは何十年もの間、日本に「正常化」のプロセスを求めてきた。安倍政権下の日本は、2014年に9条の新解釈を採用し、集団的自衛権の行使が必要な場合(つまり、日本の最も重要な同盟国である米国からの要請があった場合)には、自衛隊を動員することができるとした。これは、日本の憲法を空洞化して、平和主義の第9条という現在の障害(日米の立案者たちは長い間そう見てきた)を克服し、日本を「普通の」国、すなわち将来の「有志連合」に戦力を動員することができる総合的な軍事・総合大国に変えることに等しい。

 2015年、安倍政権はこの新解釈に基づいて安全保障関連法案を導入した。安部政権にとってたいへん決まりの悪い事態となったのは、その年の6月、政府から国会に招致された3人の著名な専門家が揃って「違憲」と証言したことだ。憲法学者たちが圧倒的に違憲だと言ったにもかかわらず、この法律は採択され、将来の紛争状況における日本軍の行動を規定することになった。

 2020年の安倍政権の最後の取り組みとして、「攻撃が差し迫っている場合」に敵のミサイル基地を攻撃できる兵器の取得に向けた動きを開始することが挙げられている(8)。このような先制攻撃の正当化ほど、憲法第9条にとんでもなく反するものはないだろう。

 ドナルド・トランプとジョー・バイデンの下で、米国は日本に対し、米国の完全なパートナーとなり、米国、日本、インド、オーストラリアという中国を封じ込めて対峙する「クワッドQuad」の要となることを求めている。2015年の安保法制のような法改正は、日本が立憲平和国家、市民民主主義国家から国家安全保障国家への転換を進める役割を果たしている。総勢24万7千人の自衛隊は、米国の軍隊の延長線上にあり、日本が訓練し、組織し、費用を負担しているが、米国の指示の下、主に米国の目的のために活動している。自衛隊が独立して行動することは考えられない。

 日本にとって、米国との同盟関係は国策の最上位に位置する。その下で、安倍政権(2012年~2020年)と菅政権(2020年~2021年)は、戦争演習、基地建設、米軍機・イージス駆逐艦・ミサイル・対ミサイルシステムの購入を最大限に進めてきた。2013年の国家安全保障会議の設置に続き、秘密保護法(2013年)、安全保障関連法(2015年)、共謀罪(2017年)、ドローン規制法(2021年)、土地利用規制法(2021年)などに関する法律を次々と採択した。この最後の2021年6月に採択された「土地利用規制法」という土地管理法は、戦前の日本の土地管理システムと並べて論じる人もいる。この法律では、主要な施設(軍事基地、原子力発電所、主要な通信基地)の周辺に、監視・統制のための「観測地域」を指定することになっている。特に沖縄の人々は、反基地運動を締め付け、管理するために、自分たちがこの法案の主要なターゲットになるのではないかと疑っている。
 
 米国の日本批判は、日本が基本的に十分な支出をしていないというものであるが、日本の大量の武器購入(米国が日本に頼れる領域)によって、その声は小さくなっている。(最近では、約230億ドルでF-35Bを105機購入し、日本の航空自衛隊における同機の数は147機になった)。日本に駐留する米軍は、米国の指揮下にある日米統合部隊として、日本の部隊と一緒に行動することが多くなっている。

2.軍事演習

 現在、世界的な有志連合が形成されており、米国のリーダーシップの下、中国の動きを現状のままに止め、米国の世界的な覇権をいかなる挑戦からも守るという決意で団結している。東アジアでの軍事演習のテンポが加速している。2021年1月から5月の間だけでも、日本の海上自衛隊は23回、ほぼ週1回のペースで多国間の演習に参加している(9)。過去1年間に亘る大規模演習は次の通り:

 大規模な東アジア軍事演習、2020-2021
</strong>
a)「鋭利な刃」作戦21(10)


2020年10月26日から11月5日

9,000名の米海軍/空軍/陸軍/海兵隊の軍人と37,000人の自衛隊員。沖縄海域。

b)「ラ・ペルーズ(La Perouse)21」作戦

2021年4月
日本、フランス、アメリカ、オーストリア、インド
東インド洋(ベンガル湾)
 
 フランスの原子力空母シャルル・ド・ゴール(3万8千トン、261メートルの滑走路)をはじめ、原子力攻撃型潜水艦エメラルド、水陸両用ヘリ空母トネール、ステルス・フリゲート艦スルクーフなどが参加:フランスがインド太平洋地域において、7千人の兵員、15隻の軍艦、38機の航空機を含む強力な軍事的駐留を常態的に維持していることを示している(11)。

c)「アーク21」作戦

 日本、フランス、アメリカ、オーストラリア
 2021年5月11日から17日、「島嶼回復」
「鹿児島沖」

d )「オリエント・シールド21」作戦

 2021年6月7日から7月11日
 米陸軍、陸上自衛隊(3,000人の隊員)
 「相互運用性を強化し、多領域および領域間共通作戦行動を検査し、改良するために」日本全国にある複数の基地で実施。

e)「タリスマン・セイバー作戦21」

 2021年6月25日から8月7日
 クイーンズランド(オーストラリア)のショールウォーター湾を中心、そして珊瑚海近辺
 米海兵隊(総勢8,000人)、陸上自衛隊(総勢8,000人)、英国海軍、オーストラリア陸軍(同時に韓国、カナダ、ニュージーランドから少数部隊)

 多国籍演習ではないが、それと同等のインパクトがあったのが、英国最大かつ最高級の軍艦である航空母艦クイーン・エリザベスの来日だ。

f)「クイーン・エリザベス」

 英国航空母艦クイーン・エリザベス(56,000トン、全長280メートル)
 2021年9月と10月に、米国の駆逐艦とオランダのフリゲート艦を伴い、米国空軍のF-35B統合型攻撃用戦闘機を搭載して、9月に日本を訪問し、「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた取り組みの一環として」米国、オランダ、カナダ、日本の軍艦と隣接する海域で共同演習を行い、大きな反響を呼んだ。日本の岸信夫防衛大臣は、「中国の軍事力と影響力が増大する中、欧州諸国がインド太平洋地域に関与することは、平和と安定の鍵となる」と歓迎した。2021年10月2日と3日にも、沖縄南西海域で行われた多国間演習に、空母4隻(HMクイーン・エリザベス、USSロナルド・レーガン、USSカール・ヴィンソン)と海上自衛隊の護衛艦「いせ」、さらにカナダ、ニュージーランド、オランダの軍艦13隻からなる強大な部隊で参加した(12)。

g)バイエルン(ブランデブルグ級ドイツフリゲート艦)
 最近の様々な演習で「スエズの東」に進出(あるいは復帰)する英仏の海軍部隊が参加したのに続き、ドイツも「アジア太平洋戦略」を宣言し、2021年11月に行われる海上自衛隊の東シナ海演習にフリゲート艦「バイエルン」(3,600トンと控えめ)を派遣することになっている(13)。

  軍艦が東シナ海を軍事演習で出入りする際には、偶然にせよ意図的にせよ、衝突の可能性が生じる。最も極端なシナリオでは、人が住めない(無人の)小さな尖閣諸島(釣魚島)の領有権に対する日本と中国の対立した主張が引き金になる可能性もある。世界の「大国」(米国、英国、日本、フランス、そして反対側に中国)が、尖閣の風化した岩に相反する主張を押し付け、そのために地域と世界の平和を危険にさらすことは、想像を絶するものである。

3.隙間を埋める-国境に軍隊を配置

 日本は、沖縄を中心とした東シナ海の既存基地の改修・強化に多額の費用を投じる一方で、防衛の「隙間」を埋めることにも注力しており、九州と台湾の間にある一連の島々を軍事化して、軍用・民間を問わず中国の船舶の太平洋への出入りを、場合によっては、阻止しようとしている。

 中国を脅威と見なすようになったのは、2009年から2011年の民主党政権からである。2010年12月に閣議決定された「防衛計画大綱」では、中国の軍事的近代化を「日本を取り巻く安全保障環境」の一部と位置づけ、従来の「基礎的な防衛力」の概念に代わる「動的な防衛力」の概要を示した。

 2011年8月、民主党政権は、中国に対する「抑止力の窓」を閉じるために、自衛隊の部隊を配備する決定を発表した。2012年末には、南西諸島の防衛が「最優先」とされた。2012年12月からの安倍首相と菅首相の下で、自民党はこの姿勢をさらに強化した。

 このような中国の「脅威」に対する考え方は、間違いなく日本でも強まっており、それに伴って、外務省や最近の政府の中には、このような「脅威」には、重要な、できれば圧倒的な対抗力を持って中国と対峙し、アメリカをそのような措置に結びつけるためにあらゆる手段を講じるしかないという考えがある。しかし、このような考え方が、日本政府内部で一般的というわけではない。中国の軍事力だけでなく、中国の存在と世界的な経済大国としての台頭に反対するという米国の政策の過激さは、おそらく日本では広く共有されているわけではない。日中両国は歴史的、地理的に結びついており、その結びつきを絶つような行為は想像を絶するほど悲惨なものになるため、何とかして折り合いをつけなければならないと主張する人が多い。安倍政権下の2020年初頭に予定されていた習近平の日本訪問は、COVIDのために無期限延期となった。習近平訪日は、岸田にとって首相就任以前から優先順位が高い事案だった。

 日本が中国の成長に深い懸念を抱いていることは疑いない。1991年に日本の4分の1だった中国のGDPは、2001年には日本を超え、2018年には3倍になった(14)。著名な民間の識者である寺島実郎氏は、日本の政策論議にリアリズムを注入することを呼びかけ、2020年時点の米中貿易額(5590億ドル)は、日米貿易額(1830億ドル)の3倍以上であると指摘している(15)。また、1994年に世界のGDPの17.9%を占めていた日本は、2020年には相対的に見て6%にまで縮小しているのに対し、中国は2016年頃にはすでに18%を超え、(OECDによれば)2030年代には27%に達する可能性があるとしている(16)。時計の針は簡単には戻らない。寺島は、この軌道を抑制し、中国を地域や世界のシステムから「切り離す」ための同盟システムの設計は不適切であり、不毛なものになるか悲惨な結果になる可能性が高いと見ている。このような現実主義が東京の政策決定者たちに浸透するかどうかは、まだわからない。

 安倍首相と菅首相は、奄美、宮古、石垣、与那国の各島に複数の自衛隊のミサイル部隊と沿岸監視部隊を追加し、さらに鹿児島市から南に約110キロ離れた西之表市の馬毛島に全く新しい総合的な自衛隊基地を計画するなど、「中国の脅威」シナリオに沿った変化のペースは、この10年間で大幅に加速した。

東シナ海における島基地

 馬毛島、8.5平方km、無人島、日本の3つのサービスの部隊(150~200人)が駐留する予定で、米空母艦載機の戦闘機のFCLP(field carrier landing practice艦載機着陸訓練)も実施される。しかし、2019年に国が民間所有者から島を購入し、その軍事的開発(2本の滑走路、港、弾薬庫、給油・整備施設)の計画を発表したものの、地元の反対は強い。西之表市は2017年に反基地派の市長を選出し、2021年に同市長を再選した。2021年後半の時点で、東京都と西之表市の睨み合いは未解決のまま続いている。

 奄美大島、306平方kms、人口73,000人、550人の陸上自衛隊員で地対艦ミサイル、迎撃ミサイル。2019年3月配置

 宮古島、204平方km、人口46,000人、700-800人の陸上自衛隊で対空/地対艦ミサイルそして迎撃ミサイル。2019年3月配置

 石垣島、229平方km、人口48,000人、500-600人の人員で対空/地対艦ミサイル部隊、2019年より構築中
 
 与那国島、28平方km、人口約2,000人、陸上自衛隊員160人の監視部隊をキャンプ与那国に2016年3月に配置

 その過程で、自衛隊は国防軍というよりも、アメリカ主導の世界的な反中国連合の構成要素となり、小さな島々に駐留する安全保障とミサイル部隊は、沖縄本島に集中している米軍、特に嘉手納の米空軍と普天間の海兵隊を補完することになる。もし日中戦争が勃発した場合、これらの島々の周辺の東シナ海で起こる可能性が高く、日本は中国の第一次防衛ラインの中に中国軍を封じ込めるように行動するだろう。もちろん、それは戦争行為である。

4.カブールショック

 2021年8月、世界は、ありとあらゆる武器で武装した巨大な多国籍連合を率いる世界的超大国が、AK-47で武装した宗教的狂信者のぼろぼろの集団にカブールから追い出される光景に目を奪われた。アメリカが支配しているグローバルシステムの中で、アメリカが多大な投資をしてきた国家から無念にも追われることがあるとすれば、どの国家もアメリカの安全保障を完全に信頼することはできないだろう。世界に向けたカブールからのメッセージがあるとすれば、それは次のようなものだろう:「アメリカの属国たち、警戒せよ!」

 アメリカがカブールから撤退したことによる衝撃が続く一方で、ワシントン、ロンドン、キャンベラで同時に発表された、アメリカやイギリスの原子力潜水艦の技術(将来的には2040年から2060年の間の不確定な時期に実際の潜水艦)をオーストラリアに移転するというAUKUS協定からは、別の種類の衝撃が広がった(17)。この新たなアングロサクソン連合の発表は、日本にとって苦い錠剤であったに違いない。というのも、オーストラリアが準核保有国として一段高い位置にあり、ワシントンに近いという、2段階の政治的恩顧主義秩序の構造を意味するからである。安倍首相とその関係者の頭の中には、「オーストラリアが原子力潜水艦を持てるのに、なぜ日本は持てないのか」という疑問があったに違いない。

 岸田は、2012年12月に始まり、2020年から2021年まで菅政権で継続した安倍政権の第3期を率いることになった。安倍首相とその側近である麻生太郎元副総理、甘利明自民党幹事長のいわゆる「トリプルA」を中心に、安倍首相の弟である岸信夫が防衛庁長官に、安部の弟子である極右の高市早苗が政調会長に就任している。

 安倍晋三は1993年に初めて国会議員になって以来、30年近くにわたって国家の舵取りをしてきた。安倍晋三は、1993年に国会議員になって以来、30年間にわたって国家の舵取りをしてきた。政府のトップではないときでも、彼の意思は「忖度」(anticipatory compliance, the mentality of underlings who hasten to carry out the will of their superiors even before it has been expressed)の原則に基づいて事実上の命令として扱われてきた。1993年からは岸田文雄、1996年からは菅義偉がその忠実な子分である。新内閣の議席の約半分が新人で占められているため、「トリプルA」を中心とする一握りの大物の政策的影響力が特に大きくなることが予想される。

5.十月の見通し

 10月4日、岸田が予想通り10月31日の総選挙の実施を決定したとき、岸田政権の支持率は49%で、1年前に菅政権が誕生したときよりも約30ポイント低かった。しかし、それは必ずしも自民党の対立候補への支持を高めるものではなかった。軍国主義は、本格的な軍国主義に伴う社会現象を伴わずに、ほとんど気づかれずに進んでゆく。政府に対する日本の国民意識は「不満」であり、政府に「戦争への突入」を望んでいるわけではない。様々な世論調査によると、野党の支持率の合計は10%から20%程度になると言われており、野党が政府を樹立するためには、選挙期間中に相当な数の不満分子を集めなければならない。

 日本が世界に示す顔に安倍(現在は安倍-菅-岸田)の印が張り付いている間は、平和、持続可能性、正義、平等といった人類が直面する重要かつ普遍的な問題に敏感な声は、世界的な言論の場ではほとんど聞かれない。彼らが率いている日本は、何十年もの間、日本の歴史(近隣諸国に対する犯罪を含む)についてのナショナリスト的な威勢の良さ、天皇を中心とした国家の儀式へのこだわり、そしてワシントンへの隷属が混在していることが目立っている。今の世界の流れは、(日本と世界にとって)、より暗く、より右翼的で、より危険な方向に向かっていて、民主主義や、平和志向や、市民が中心となる社会の建設などの方向とは、ますます相容れない方向に向かっているようで、これまでの米国主導で動いてきた歴史上最も強くその傾向が見られている。

 しかし、自民党が主導する、日本をどうするのかという基本的方式や優先事項に対する反発はもちろん存在し、安倍政権が憲法上の平和主義から逸脱していることへの不安を背景に拡大している。1990年代と2009年には、地方自治体や国政による下からの改革の重要な取り組みが行われてきたが、米国に対する従属的な奉仕を不動のものとしている国政によって、常に妨害されてきた。2021年の選挙に向けて、「平和と立憲主義のための市民連合」(通称「市民連合」)は、「命を大切にする政治への転換」の一環として理念を策定し、2021年9月8日に主要野党(立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組)の党首によって合意された(18)。この合意文書に、日本の「米国の言いなり国家」としての地位や米国との関係については明確に言及されていないが、立憲主義への回帰と平和志向の地域的・世界的役割の採用を求めることを通じて、その暗黙のメッセージは明確であった(19)。

 「市民連合」は現在、平和や憲法に関する問題で野党の統一戦線を張り、複数の問題について最近の政府の政治的、場合によっては刑事的責任を追及するために結集している。専門家たちは、2017年の選挙で野党がこのような統一戦線に基づいて組織されていたら、43議席ではなく106議席で自民党・公明党の候補者を打ち負かすことができただろうと指摘している(20)。次の選挙(10月31日)では、立憲主義者が団結すれば、政府の大物議員を脅かすこともできるだろう(21)。

 10月の選挙で自民党旧体制の岸田が勝利すれば、軍事費は大幅に増加することが予想される。選挙が発表されるやいなや、自民党は、防衛費を現在のGDPの約1%の水準から2倍以上に引き上げることを含む政策公約を発表した(22)。東アジアと西太平洋海域における反中国連合のアメリカ軍に融合される事態の継続が予想される。ワシントンに煽られて、日本はさらに戦争への準備を進めるだろう。寺島が提唱するようなリアリズムは、岸田政権では聞き入れられないだろう。

  あるいは、可能性は低いが、10月末に立憲民主党の連立政権が勝利し、枝野幸男氏が首相に就任した場合(まったく可能性がないわけではない)には、戦争に向かう現在の勢いは止められ、別の、真に代替可能な未来への窓が開かれるかもしれない。しかし、このような政府は、これまで一般的に取られてきた(対米従属的な)立場を乗り越えるような政策を策定する際に、その本気度を即座に試されることになるだろう。沖縄の大浦湾にある辺野古での海兵隊の建設作業の中断と中止を発表するだろうか?南西諸島の軍事化を中止・撤回するだろうか?米国および他の東アジア諸国の政府に対して、現在の紛争への勢いを逆転させ、サンフランシスコ講和条約後の地域的な軍縮と協力の枠組みを共に交渉するよう呼びかけるだろうか?

*

Gavan McCormack is emeritus professor of Australian National University, Fellow of the Australian Academy of the Humanities, and author of many works on modern East Asian history. He has often been translated into Japanese, Korean, and Chinese. His most recent book was The State of the Japanese State, London, Paul Norbury, 2019.

 

参考文献

(1)「自民党に衝撃の調査結果!衆議院60議席減でまさかの過半数割れ」日刊ゲンダイ。2021年8月25日

(2)“Japan’s new leader, Suga Yoshihide, will maintain the old regime,” Jacobin, September 2020

(3)時事世論調査「内閣支持32.2%。発足以来最低」。2021年5月14日

(4)The voting rate in the October 2017 Lower House election was 53.68, and in the Upper House election in July 2019 48.8 per cent.

(5)Mainichi shinbun poll of 19 September and Kyodo poll of 17-18 September. 

(6)For a perceptive comment on this election see Jake Adelstein, “’Reluctant’ Kishida to become Japan’s next leader,” Asia Times, September 29, 2021.

(7)Following US, Russia, China, and India, and surpassing France, UK, Germany etc. Global Firepower, “2021 Global Military Strength,” March 2021.

(8)Motoko Rich, “Japan’s been proudly pacifist for 75 years. A missile proposal changes that,” New York Times, 16 August 2020.

(9)As noted in the SDF journal Asagumo, and reported by military affairs critic Maeda Toshio, “Higashi Ajia INF joyaku to iu reariti,” Sekai, September 2021, pp. 148-157, at p. 151.

(10)US Pacific Fleet, Public Affairs, “Sword 21 embraces US-Japan exchange,” 6 November 2020. 

(11)Martine Bulard, “Is an Asian NATO imminent?” Le Monde Diplomatique, June 2021.

(12)Alex Wilson, “Three aircraft carriers train together near Okinawa as China ramps up pressure on Taiwan,” Stars and Stripes, 4 October 2021.

(13)「独艦艇、11月の日本寄港と共同訓練」。産経新聞。2021年6月5日

(14)寺島実郎「脳力のレッスン192、中国の巨大化・強権化を正視する日本の覚悟」

『世界』2018年4月号、pp. 42-47の p. 42.

(15)寺島実郎「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄、経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな」。『東京経済』。2021年6月22日

(16)OECD, “The long view: Scenarios for the world economy to 2060.” 

(17)Brian Toohey, “Australia’s nuclear submarine deal won’t make us any safer,” Pearls and Irritations, 13 October 2021.

(18)Well-known civil activist scholars, including Hosei University political scientist Yamaguchi Jiro and military affairs critic Maeda Tetsuo, play important roles in this constitutionalist front.

(19)「衆議院総選挙における野党共通政策の提言」。2021年9月8日

(20)池上彰・山口二郎「野党共闘への壁と選挙協力の限界とは」。『AERA』。2021年,10月18

(21)野上忠興。「自公を追い詰める逆転勝利。“64選挙区”野党4党は共闘加速、政策協定合意で“受け皿”に」。『日刊ゲンダイ』。2021年9月9日

(22)「防衛費、GDP比2%以上も念頭。自民が政権公約。力での対抗重視」


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