民主党内「進歩派」の大きなうねり
Party at war with itself: DNC facing insurgency from its progressive base
RT Op-Ed 2018年9月13日
Dave Lindorff
(翻訳:寺島メソッド翻訳グループ 2018年10月23日)
<記事原文>https://www.rt.com/op-ed/438371-democrats-liberals-progressive-election/

デイブ・リンドルフはアメリカの受賞ジャーナリストで、元ビジネス・ウィークのアジア特派員。共同所有のジャーナリストニュースサイトThisCantBeHappening.netの創設者でもある。

シカゴ民主党全国委員会会合の外で抗議集会、2018年8月23日 © Scott Olson / Getty Images
ベテラン民主党議員マイケル・キャプアーノ氏(マサチューセッツ州)が最近惨敗したことは、有権者がリベラル派にうんざりし、もっと進歩的な候補者を求めていることを示している。
民主党の指導層は中道保守派で構成され、彼らはウォールストリートの大銀行、兵器産業そして医薬・医療業界からの献金を喉から手が出るほど欲しがっている。 その彼らが仰天したのは、無名で若いプエルトリコ人女性のアレクサンドリア・オカシオ・コルテスが、6月、ブロンクス・クイーンズ選挙区で10期務めた現職を予備選で打ち破ったことだ。 指導層をびっくりさせたのはそればかりではない。 アメリカ国内の様々な州議会、地方予備選で左翼と社会主義者の候補者が次々と勝利したのだ。
しかし、彼らの驚きは、今、激怒に変わっている。 先週ボストンでAyanna Pressleyが勝利を収めた。 彼女は社会主義者に支援された市会議員で、またしても10期目の現職、ただし今回は古典的なリベラル主流派国会議員である共和党のMichael Capuano氏に打ち勝った。
もし民主党の活動家たちが、彼らこそ選挙で自党への投票を期待できる層だが、筋金入りのリベラル派に見切りをつけ、超急進派、あろうことか社会主義者を支持したということになれば、1992年の選挙でビル・クリントン民主党候補が「第三の道」を掲げて以来、党を主導してきた新自由主義的な考え方である「コーポラティズム」の土台が揺らぐことになる。
党首脳部の昨今の苛立ちは隠しようもなくなっている。
8月23日、民主党全国委員会(DNC)はシカゴで3日間の会合を持った。 この会合の主要な議題は11月6日に予定されている議会選挙をどう勝利につなげるのか、ではなかった。党内左翼・進歩主義者たちの影響拡大をどう弱め、ストップさせるか、だったのだ。
最優先議題は止まらない進歩派の数々の勝利のことだった。 進歩派はこの間2つの特別選挙で勝利を物にしている。 ひとつは任期終了前に辞職したか、死亡した議員の補欠選挙、もうひとつは11月の議会選挙の州議会、連邦議会の党候補者を決める予備選においてである。
進歩派の応援を受け、さらには独立系社会主義者で2016年の大統領予備選でヒラリー・クリントン上院議員と闘ったバーニー・サンダース上院議員が生み出した運動から資金を仰ぐことまでしている候補者達がすべて、これらの補欠選挙、予備選挙で勝利しているわけではない。しかし、一部の候補者は党指導層がひやっとする所まで行ったし、オカシオ・コルテスを先頭に、勝利した候補者は数としては十分だ。近々のことでは、社会主義者ラシダ・トレイブがいる。彼女は予備選で勝利し、長年下院議員(デトロイト州選出)を務めたジョン・コニャーズ氏に取って代わり民主党指名候補となった。このことで党指導層の内心は穏やかでなくなった。進歩派は、さらに、ベテラン民主党上院議員(カリフォルニア州)ダイアン・ファインスタインを、州予備選の支援をしないことで、同議員を狼狽させることまでやってのけた。
オカシオ・コルテスの場合、憤慨した党指導層(バラク・オバマ前大統領も含む)は勝利した彼女への支援を拒否した。一部の党指導層は予備選で大敗したクローリーが第三党として11月の選挙に出馬するという思いつきを軽く考えていた。クローリーのこの思いつきは進歩派の大きな怒りを買った。なぜなら、そうなればこの選挙区の有権者の圧倒的多数が民主党支持であるにも拘わらず、みすみす共和党に議席を譲る危険性が出てくるからである。(この思いつきは必要最低支持票も得られずボツになったようだ)
しかし、事態は一つの党が真っ二つに分裂する方向に進んでいる。一方は進歩派の活動家を基礎とするグループ。このグループが望んでいるのは、
① 国民的なヘルスケア
② 化石燃料の使用を減らす積極的行動と国の経済の基盤を非炭素エネル
ギー源に切り替えること
③ 国の永久戦争経済体制を終結し、オカシオ・コルテスが言っている「平和
経済」に転換すること
④ 国の最低賃金を少なくとも時給15ドル(現行のほぼ2倍)にすること
⑤ 企業が選挙候補者を支援することはやめること
もう一つのグループは硬化し、老齢化した党のエリート層で、党が選出した役員の多くがこの中に含まれる。彼らは進歩派グループが掲げる上記の要求のどれひとつも望んではいない。ただ、企業や金持ちから巨額の献金を集めるという点では足並みを揃える。そして多くの場合、同じ献金者が共和党の候補者たちにも巨額の融資をしているのだ。
数週間前、DNC(民主党全国委員会)は、まだ2ヶ月も経っていないのに、化石燃料産業から民主党への献金を禁止する決議を撤回する票決をした。これには進歩派の活動家たちも激怒した。「環境行動グループ350」の共同創設者であるジェイミー・ヘン氏が、この撤回について怒りを込めて書いている:「こんな風にふにゃふにゃと企業に擦り寄るから、民主党は選挙に勝てないんだ。」
ジャーナリスト、メディア批評家、そして草の根運動の進歩的活動組織である「RootsAction」の創設者の肩書きを持つジェフ・コーエン氏は民主党内のこの抗争の説明として、次のように語っている。
「2つの民主党があるようです。ひとつは党内エリート層です。彼らは献金企
業と企業メディアとの繋がりがあるので、要職に就き党を支配しています。
もうひとつは進歩的造反層で、民主党有権者の大半(共和党、民主党のい
ずれも支持しない無党派層を含む有権者の大半を含む)を代表しています。
経済・社会政策の大胆な変化を強く望んでいます。この2つの党派が今激
しく戦っているわけです。」
彼はこう予言しています。「1月、民主党内進歩的造反派は議会で議席を獲得することになるでしょう。これは前代未聞のことです。オカシオ・コルテス(ニューヨーク州), トレイブ(デトロイト州), イルハン・オマール(ミネソタ州)そして プレスリーらが新人として当選することになるからです。」
コーエン氏のグループは民主党の指導層の会議が行われているシカゴのホテルの外でピケを組織した。その会議で、恐らくこのピケに狼狽したのだろう、指導層は2020年の次期大統領候補指名プロセスにおいていわゆるスーパー代議員の投票は党大会の第一回投票では誰も行わない票決をした。2016年には714人ほぼすべてのスーパー代議員が党大会でクリントンに投票することになっていたので714票はすべて、州予備選が始まらない内に、彼女の票となった。それはそのまま彼女の総得票数に加算された。メディアは予備選挙の期間中、サンダース候補支援者に投票を手控えさせ、彼の総得票と予備選代議員の数が伸びないような役回りを演じた。結果は民主党員にとっては目を覆うばかりのものだった。共和党ドナルド・トランプが大統領に当選したのだ。それも当然のことで、サンダースが大統領候補者になっていたら、トランプに圧勝しただろう、というのが当時の世論調査だったのだのだから。
スーパー代議員の決定は進歩派活動家にとって小さいが重要な勝利だった。何故なら次回の党大会の大統領候補指名は、党の指導層ではなく、予備選有権者と党員集会の参加者が決めた大統領候補を代議員が投票することがベースになるからだ。
一方、州レベルで言えば、相当数の進歩派(中には公然と社会主義者を名乗る者も)候補者がこの選挙シーズンで予備選を勝ち抜いた。たとえば4人の社会主義者が選出され、民主党候補としてこの11月ペンシルバニア州議会に立候補する。ペンシルバニアは2016年の大統領選において僅差でトランプ氏に勝利をもたらした州だ。登録有権者数で言えば、民主党が共和党を上回っているにもかかわらず、だ。
民主党が2016年に政権を取れず、僅差ではありながら上下両院で多数派になれなかった理由は、候補者に本気でやる気がなかったからだ、と党内進歩派は言う。ヒラリー・クリントン大統領候補しかり。議会候補者たちもその選挙資金を、銀行、軍事産業、ヘルスケア産業、通信業界、さらには化石燃料業界からの献金に頼り過ぎていたため、結局は「票は私たちに!私たちは共和党でもトランプでもありません!」みたいな、すかすかな選挙運動になってしまった、というのが進歩派の議論だ。
直近の経済不況で仕事を無くしていたブルーカラー層は怒り、いら立ち、怯え、何かもっと前向きで心が奮い立つようなものを探していたのだ。その多くは、長年民主党に投票していたにも拘わらず、民主党に背を向け、2016年にはトランプと彼が支援する議員候補者に票を入れた。海外に流出した仕事を「取り戻す」というトランプの公約が現実になってほしい、というはかない期待を抱きながら。一方、進歩派の多数はクリントンの歯切れの悪い「漸進的変化」という言い方に絶望するか、あるいは彼女の陣営の卑劣な攻撃に腹を立て、緑の党に票を入れるか、きっぱり棄権する決定を下したのだった。クリントン陣営は、民主党全国委員会(DNC)の黙認の下、進歩派バーニー・サンダース候補の造反的な選挙運動を弱体化させる動きをしていた。こんな事情があり、トランプは、ウィスコンシン、ミシガンそしてペンシルバニアのような、通常は民主党州と言われるいくつかの州で、僅差だが、決め手となる勝利を手にすることができた。
進歩派グループの心に今あるのは、民主党はもっとずっと左よりに政策の舵を切る必要があるという自分たちの主張が証明出来るかもしれない、という期待だ。そのためにはこの秋、中西部とおそらくは南部も含め、民主党支配層に属する候補者が敗北した州で、選挙に勝つ必要がある。
大きな試金石はテキサス州となるだろう。テキサス州の世論調査では、民主党進歩派のベト・オルークが共和党現職の上院議員テッド・クルーズと互角状態で、11月には勝利する可能性が十分にある、となっている。しかし、DNCの巻き返しもあり、予備選で進歩派の有力候補が予備選で敗退している。それはより保守的な現職、あるいは一番の対立候補に潤沢な支援資金が流れたからであり、またジョー・バイデン前副大統領やオバマ前大統領のような党指導者をより保守的な候補者の選挙応援に積極的に投入したからである。(オルークの場合、民主党は彼の立候補を支援しなければ、来年上院で多数派を取り戻すことなど望みうべくもない)
こういったことがすべて11月にどういう展開になるかはまだわからない。もし進歩派が言うように、民主党へ票を投じてくれる基盤となる人たちが望むのはもっと左寄りのきっぱりと反対を口にできる民主党であり、①医療費の社会負担、②最低賃金の引き上げ、③国の軍国主義政策と、国内で必要とされる社会的支出を犠牲にしたペンタゴン予算の止まることを知らない増額を止めること、などを前面打ち出すことを待っているのだ、というのが本当ならば、秋の選挙で進歩派候補者は大勝利を収め、民主党の伝統的保守派は、現職の一部も含め、敗北の憂き目をみることになるだろう。
それがどんな風に民主党の上下両院多数派奪回へのインパクトになるのか、現時点では予想は難しい。
RT Op-Ed 2018年9月13日
Dave Lindorff
(翻訳:寺島メソッド翻訳グループ 2018年10月23日)
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デイブ・リンドルフはアメリカの受賞ジャーナリストで、元ビジネス・ウィークのアジア特派員。共同所有のジャーナリストニュースサイトThisCantBeHappening.netの創設者でもある。

シカゴ民主党全国委員会会合の外で抗議集会、2018年8月23日 © Scott Olson / Getty Images
ベテラン民主党議員マイケル・キャプアーノ氏(マサチューセッツ州)が最近惨敗したことは、有権者がリベラル派にうんざりし、もっと進歩的な候補者を求めていることを示している。
民主党の指導層は中道保守派で構成され、彼らはウォールストリートの大銀行、兵器産業そして医薬・医療業界からの献金を喉から手が出るほど欲しがっている。 その彼らが仰天したのは、無名で若いプエルトリコ人女性のアレクサンドリア・オカシオ・コルテスが、6月、ブロンクス・クイーンズ選挙区で10期務めた現職を予備選で打ち破ったことだ。 指導層をびっくりさせたのはそればかりではない。 アメリカ国内の様々な州議会、地方予備選で左翼と社会主義者の候補者が次々と勝利したのだ。
しかし、彼らの驚きは、今、激怒に変わっている。 先週ボストンでAyanna Pressleyが勝利を収めた。 彼女は社会主義者に支援された市会議員で、またしても10期目の現職、ただし今回は古典的なリベラル主流派国会議員である共和党のMichael Capuano氏に打ち勝った。
Read more![]() ボストンの最近の番狂わせ、進歩派の波が民主党を襲う。 |
もし民主党の活動家たちが、彼らこそ選挙で自党への投票を期待できる層だが、筋金入りのリベラル派に見切りをつけ、超急進派、あろうことか社会主義者を支持したということになれば、1992年の選挙でビル・クリントン民主党候補が「第三の道」を掲げて以来、党を主導してきた新自由主義的な考え方である「コーポラティズム」の土台が揺らぐことになる。
党首脳部の昨今の苛立ちは隠しようもなくなっている。
8月23日、民主党全国委員会(DNC)はシカゴで3日間の会合を持った。 この会合の主要な議題は11月6日に予定されている議会選挙をどう勝利につなげるのか、ではなかった。党内左翼・進歩主義者たちの影響拡大をどう弱め、ストップさせるか、だったのだ。
最優先議題は止まらない進歩派の数々の勝利のことだった。 進歩派はこの間2つの特別選挙で勝利を物にしている。 ひとつは任期終了前に辞職したか、死亡した議員の補欠選挙、もうひとつは11月の議会選挙の州議会、連邦議会の党候補者を決める予備選においてである。
進歩派の応援を受け、さらには独立系社会主義者で2016年の大統領予備選でヒラリー・クリントン上院議員と闘ったバーニー・サンダース上院議員が生み出した運動から資金を仰ぐことまでしている候補者達がすべて、これらの補欠選挙、予備選挙で勝利しているわけではない。しかし、一部の候補者は党指導層がひやっとする所まで行ったし、オカシオ・コルテスを先頭に、勝利した候補者は数としては十分だ。近々のことでは、社会主義者ラシダ・トレイブがいる。彼女は予備選で勝利し、長年下院議員(デトロイト州選出)を務めたジョン・コニャーズ氏に取って代わり民主党指名候補となった。このことで党指導層の内心は穏やかでなくなった。進歩派は、さらに、ベテラン民主党上院議員(カリフォルニア州)ダイアン・ファインスタインを、州予備選の支援をしないことで、同議員を狼狽させることまでやってのけた。
オカシオ・コルテスの場合、憤慨した党指導層(バラク・オバマ前大統領も含む)は勝利した彼女への支援を拒否した。一部の党指導層は予備選で大敗したクローリーが第三党として11月の選挙に出馬するという思いつきを軽く考えていた。クローリーのこの思いつきは進歩派の大きな怒りを買った。なぜなら、そうなればこの選挙区の有権者の圧倒的多数が民主党支持であるにも拘わらず、みすみす共和党に議席を譲る危険性が出てくるからである。(この思いつきは必要最低支持票も得られずボツになったようだ)
しかし、事態は一つの党が真っ二つに分裂する方向に進んでいる。一方は進歩派の活動家を基礎とするグループ。このグループが望んでいるのは、
① 国民的なヘルスケア
② 化石燃料の使用を減らす積極的行動と国の経済の基盤を非炭素エネル
ギー源に切り替えること
③ 国の永久戦争経済体制を終結し、オカシオ・コルテスが言っている「平和
経済」に転換すること
④ 国の最低賃金を少なくとも時給15ドル(現行のほぼ2倍)にすること
⑤ 企業が選挙候補者を支援することはやめること
もう一つのグループは硬化し、老齢化した党のエリート層で、党が選出した役員の多くがこの中に含まれる。彼らは進歩派グループが掲げる上記の要求のどれひとつも望んではいない。ただ、企業や金持ちから巨額の献金を集めるという点では足並みを揃える。そして多くの場合、同じ献金者が共和党の候補者たちにも巨額の融資をしているのだ。
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数週間前、DNC(民主党全国委員会)は、まだ2ヶ月も経っていないのに、化石燃料産業から民主党への献金を禁止する決議を撤回する票決をした。これには進歩派の活動家たちも激怒した。「環境行動グループ350」の共同創設者であるジェイミー・ヘン氏が、この撤回について怒りを込めて書いている:「こんな風にふにゃふにゃと企業に擦り寄るから、民主党は選挙に勝てないんだ。」
ジャーナリスト、メディア批評家、そして草の根運動の進歩的活動組織である「RootsAction」の創設者の肩書きを持つジェフ・コーエン氏は民主党内のこの抗争の説明として、次のように語っている。
「2つの民主党があるようです。ひとつは党内エリート層です。彼らは献金企
業と企業メディアとの繋がりがあるので、要職に就き党を支配しています。
もうひとつは進歩的造反層で、民主党有権者の大半(共和党、民主党のい
ずれも支持しない無党派層を含む有権者の大半を含む)を代表しています。
経済・社会政策の大胆な変化を強く望んでいます。この2つの党派が今激
しく戦っているわけです。」
彼はこう予言しています。「1月、民主党内進歩的造反派は議会で議席を獲得することになるでしょう。これは前代未聞のことです。オカシオ・コルテス(ニューヨーク州), トレイブ(デトロイト州), イルハン・オマール(ミネソタ州)そして プレスリーらが新人として当選することになるからです。」
コーエン氏のグループは民主党の指導層の会議が行われているシカゴのホテルの外でピケを組織した。その会議で、恐らくこのピケに狼狽したのだろう、指導層は2020年の次期大統領候補指名プロセスにおいていわゆるスーパー代議員の投票は党大会の第一回投票では誰も行わない票決をした。2016年には714人ほぼすべてのスーパー代議員が党大会でクリントンに投票することになっていたので714票はすべて、州予備選が始まらない内に、彼女の票となった。それはそのまま彼女の総得票数に加算された。メディアは予備選挙の期間中、サンダース候補支援者に投票を手控えさせ、彼の総得票と予備選代議員の数が伸びないような役回りを演じた。結果は民主党員にとっては目を覆うばかりのものだった。共和党ドナルド・トランプが大統領に当選したのだ。それも当然のことで、サンダースが大統領候補者になっていたら、トランプに圧勝しただろう、というのが当時の世論調査だったのだのだから。
スーパー代議員の決定は進歩派活動家にとって小さいが重要な勝利だった。何故なら次回の党大会の大統領候補指名は、党の指導層ではなく、予備選有権者と党員集会の参加者が決めた大統領候補を代議員が投票することがベースになるからだ。
一方、州レベルで言えば、相当数の進歩派(中には公然と社会主義者を名乗る者も)候補者がこの選挙シーズンで予備選を勝ち抜いた。たとえば4人の社会主義者が選出され、民主党候補としてこの11月ペンシルバニア州議会に立候補する。ペンシルバニアは2016年の大統領選において僅差でトランプ氏に勝利をもたらした州だ。登録有権者数で言えば、民主党が共和党を上回っているにもかかわらず、だ。
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民主党が2016年に政権を取れず、僅差ではありながら上下両院で多数派になれなかった理由は、候補者に本気でやる気がなかったからだ、と党内進歩派は言う。ヒラリー・クリントン大統領候補しかり。議会候補者たちもその選挙資金を、銀行、軍事産業、ヘルスケア産業、通信業界、さらには化石燃料業界からの献金に頼り過ぎていたため、結局は「票は私たちに!私たちは共和党でもトランプでもありません!」みたいな、すかすかな選挙運動になってしまった、というのが進歩派の議論だ。
直近の経済不況で仕事を無くしていたブルーカラー層は怒り、いら立ち、怯え、何かもっと前向きで心が奮い立つようなものを探していたのだ。その多くは、長年民主党に投票していたにも拘わらず、民主党に背を向け、2016年にはトランプと彼が支援する議員候補者に票を入れた。海外に流出した仕事を「取り戻す」というトランプの公約が現実になってほしい、というはかない期待を抱きながら。一方、進歩派の多数はクリントンの歯切れの悪い「漸進的変化」という言い方に絶望するか、あるいは彼女の陣営の卑劣な攻撃に腹を立て、緑の党に票を入れるか、きっぱり棄権する決定を下したのだった。クリントン陣営は、民主党全国委員会(DNC)の黙認の下、進歩派バーニー・サンダース候補の造反的な選挙運動を弱体化させる動きをしていた。こんな事情があり、トランプは、ウィスコンシン、ミシガンそしてペンシルバニアのような、通常は民主党州と言われるいくつかの州で、僅差だが、決め手となる勝利を手にすることができた。
進歩派グループの心に今あるのは、民主党はもっとずっと左よりに政策の舵を切る必要があるという自分たちの主張が証明出来るかもしれない、という期待だ。そのためにはこの秋、中西部とおそらくは南部も含め、民主党支配層に属する候補者が敗北した州で、選挙に勝つ必要がある。
大きな試金石はテキサス州となるだろう。テキサス州の世論調査では、民主党進歩派のベト・オルークが共和党現職の上院議員テッド・クルーズと互角状態で、11月には勝利する可能性が十分にある、となっている。しかし、DNCの巻き返しもあり、予備選で進歩派の有力候補が予備選で敗退している。それはより保守的な現職、あるいは一番の対立候補に潤沢な支援資金が流れたからであり、またジョー・バイデン前副大統領やオバマ前大統領のような党指導者をより保守的な候補者の選挙応援に積極的に投入したからである。(オルークの場合、民主党は彼の立候補を支援しなければ、来年上院で多数派を取り戻すことなど望みうべくもない)
こういったことがすべて11月にどういう展開になるかはまだわからない。もし進歩派が言うように、民主党へ票を投じてくれる基盤となる人たちが望むのはもっと左寄りのきっぱりと反対を口にできる民主党であり、①医療費の社会負担、②最低賃金の引き上げ、③国の軍国主義政策と、国内で必要とされる社会的支出を犠牲にしたペンタゴン予算の止まることを知らない増額を止めること、などを前面打ち出すことを待っているのだ、というのが本当ならば、秋の選挙で進歩派候補者は大勝利を収め、民主党の伝統的保守派は、現職の一部も含め、敗北の憂き目をみることになるだろう。
それがどんな風に民主党の上下両院多数派奪回へのインパクトになるのか、現時点では予想は難しい。
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