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キューバ製の5つのCOVID-19ワクチン


<記事原文 寺島先生推薦>

Cuba’s Five COVID-19 Vaccines

The Full Story on Soberana 01/02/Plus, Abdala, and Mambisa

Global Research

ヘレン・ヤッフェ(Helen Yaffe)著
2021年5月30日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年6月10日



 
 医療資源が限られているにも関わらず、キューバは今、世界でたった23しかない、第三相の臨床実験まで達しているコロナウイルスワクチンのうち、2つのワクチンの開発に携わっている。 しかも、あと3つのワクチンがそれに続こうとしている。ヘレン・ヤッフェ氏(グラスゴー大学所属)が、「ソベラナワクチン」や、「アブダラワクチン」や、「マンビサワクチン」がどのような効果をもたらすのか、このようなワクチンが、キューバ国内や国外でどのように導入されているか、キューバが時間や障害との戦いの中でどのようにこれらのワクチンを製造してきたかなどについて、以下に説明している。

(ここからヤッフェ氏による記事)
 キューバにCOVID-19が到来したとき、キューバ政府は直ちに包括的な公共医療体制と、世界トップクラスの生物工学分野に力を入れた。この毅然とした対応のおかげで、キューバは、感染率においても、致死率においても、非常に低い水準を保つことができた。2020年、1120万人の人口を持つキューバで、コロナウイルス感染例は12225件、死者数は146名だった。これは西半球の国々で最も低い水準だ。しかし2020年11月に、空港を再開したことにより、新しい流行が生まれ2021年1月の1ヶ月間で、2020年全体の数を超える状況が生まれてしまった。それでも2021年3月24日の時点で、キューバの感染者数は7万人以内におさまっており、死者数は408名だ。致死率は100万人につき35名という低さだ。いっぽう例えば英国では100万人につき1857名だ。感染致死率ついては、キューバはたったの0.59%だ。ちなみに世界平均は2.2%で、英国では2.9% だ。


 その時までに、キューバの「ヘンリー・リーブ国際機関」から、医療専門家からなる57組の医療派遣団が126万人のコロナウイルス患者の治療を行うために40カ国に派遣されていた。さらに2万8000人のキューバの医療専門家たちが世界66カ国で活動を行っている。その後2021年3月に、キューバは自国で製造した2つのCOVID-19ワクチンの臨床第3相実験を開始した。さらにほかに3つのワクチンの臨床実験についても進行中だ。このようなことが成し遂げられたのは、本当に尋常ではないことだ。というのも、2017年から米国政府は、60年間にわたるキューバの封鎖を強めるために、240件の新しい制裁や、対抗策や、措置を加えてきた中でのことだからだ。これらの措置のうち50件程度は、このパンデミック中に課されたものであり、そのせいでキューバの医療分野だけでも2億ドルの損害が出た。

 キューバのCOVID-19ワクチンの全貌

 現在世界では200ほどのCOVID-19ワクチンが開発中であり、そのうち23のワクチンが臨床実験の第3相まで到達している(2021年3月25日時点)。キューバ以外のラテンアメリカ諸国が自国製のワクチンを開発できていない中で、第3相に到達した23のワクチンのうち2つがキューバ製だ。具体的には、ソベラナ02ワクチンと、アブダラワクチンだ。さらにキューバには、第3相までは行かないが、臨床実験中の3つの別のワクチンがある。具体的にはソベラナ01ワクチンと、ソベラナプラスワクチンと、マンビサワクチンだ。ではいったいどうやって、キューバはこんな短期間で5つものCOVID-19ワクチンを開発することができたのだろうか?
 
 キューバの生物工学分野は独特だ。それは全くの政府所有機関であり、私的利益が入り込む隙はない。それ故、公共医療の必要に応じて改革が行われ、自国市場で利益を得ようとする動きはない。何十もの研究機関や開発機関が、競争するのではなく協力して、資源や知識を共有している。そのため研究や新しい考えが、すぐに臨床実験や改善につなげられるようになっている。キューバは、自国内で消費する医薬品のうち60~70%を自国内で生産することができる。それは、米国による封鎖措置や、国際市場における医薬品の高価さのせいでそうなったのだ。さらに、大学や、研究機関や、医療システムの間で、情報や、人員が絶え間なく、包括的に回っている。これら様々な状況が、キューバのCOVID-19ワクチン開発に不可欠な要素となっている。

キューバのCOVID-19ワクチンの効果は?

 世界で開発中のCOVID-19ワクチンには5つの種類がある。

 (1)ウイルス・ベクター・ワクチン。SARS-CoV-2ウイルスの遺伝子物質を届けるよう操作された、COVIDウイルスとは無関係で無害のウイルスを使用するワクチン。(例として、オックスフォード大学とアストロゼネカ社が共同製作したワクチンや、ロシアのガマレヤ研究所が製作したスプートニクⅤワクチン)
(2)mRNA(メッセンジャーリボ核酸)ワクチン。免疫反応を引き起こすタンパク質を体内で製造する方法を人体の細胞に伝えるワクチン。(例として,ファイザー社が製造したワクチンや、モデルナ社が製造したワクチン)
(3)不活性ワクチン。不活性のSARS-CoV-2ウイルスを内包したワクチン (例として、中国のシノバック社とブラジルのブタンタン社の共同ワクチンや、中国のシノファーム社のワクチンや、インドのバラットバイオテク社のワクチン)
(4)生ワクチン。弱化SARS-CoV-2 ウイルスを内包したワクチン (例として、インドのコードジェニッククス社のワクチン)
 (5)たんぱく質ワクチン。免疫反応を引き起こすCOVID由来のたんぱく質を内包したワクチン(例として、米国ノババックス社のワクチンや、 フランスのサノフィ社と英国のグラクソスミスクライン社共同ワクチン)

 現在臨床実験が行われているキューバの5つのワクチンは、すべて(5)のたんぱく質ワクチンだ。
 つまり、これらのワクチンは、人間の細胞と結合するためにウイルスが使用するスパイクたんぱく質の粒子を運んでいるということだ。この粒子は、このような結合を阻害する中和抗体を生み出すものだ。

 マレーネ・ラミレス・ゴンザレス医師が、「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル誌」に書いた説明によれば、キューバのワクチンは亜粒子ワクチンであり、「もっとも経済的な方法の一つであり、キューバが一番ノウハウと製造基盤を多く持っているワクチンの種類だ。(これらのワクチンはCOVIDの病原体の)一部だけを基盤にして、細胞の受容体(受容体結合部)と結合させるものだ。この受容体も、非常に大量の中和抗体を生み出すことになる」とのことだ。さらに ゴンザレス医師が付け加えたのは、キューバのワクチンはこのような方策をとっているという事実だけではなく、ソベルナ02は、COVIDワクチンの中で特徴的な理由がほかにもあるということだ。それは、破傷風の不活性ウイルスと、病原体受容体結合部位を結合させ、免疫反応を高めようとする方法だ。 このようなやり方のために、ソベルナ02は、唯一存在するCOVID-19の「生ワクチン」なのだ。

 バイオ・キューバ・ファーマの研究員のイダニア・カバレロ氏が、メールで以下のような指摘を行っている。「これらのワクチンは何十年にもわたる感染症に関する医学研究の成果である」と。

(ここからイダニア・カバレロ氏の引用)

 キューバでは、感染症による致死率は、COVIDパンデミック期間でも1%を切っていた。今、キューバは11種類のワクチンを用いて、13件の疾病に関するワクチン接種を行っている。そのうち8件は、キューバ国内で製造されたものだ。ワクチン接種計画の成果で、6件の疾病がなくなった。このような技術を用いて製造されたワクチンは、生後一か月の子どもたちにまで投与されている。
(引用おわり)

 ソベラナワクチンは、「分子免疫学および生物学的製剤国内センター」と協力してフィンレイ協会が製造している。ソベルナという名称は「主権」という意味を表す。これは、キューバにとって、経済的や政治的に大切な考え方を反映した名称だ。このような国内製造がなければ、キューバは外国製のワクチンを手に入れることに苦労しなければならないだろう。というのも、国際市場における外国製のワクチンは高価であり、しかも長年にわたる米国による禁輸政策もあるからだ。これらのワクチンは、上級哺乳類の体内に、遺伝子情報を注入することで活動するワクチンだ。ソベルナプラスワクチンは、COVID-19から回復した患者に対して、初めて行われる臨床実験となる。

 残りの二つのワクチンである、アブダラワクチンと、マンビサワクチン(鼻から入れる、針を使わないワクチン)は、遺伝子工学と生物工学センター(CIGB)が製造したものだ。アブダラという名前は、国民的英雄である詩人のホセ・マルティの名からとられたものであり、マンビサという名前は、19世紀後半にスペインの植民地支配と戦った兵団の名からとられたものだ。これらのワクチンは、より進化していない単細胞微生物(ピキア酵母)に遺伝子情報を挿入するものだ。 CIGBには、長年の経験と、素晴らしい記録があり、例えばB型肝炎ワクチンはキューバで25年前から使われている。

 キューバのCOVID-19ワクチンは、医薬品や生物医学の分野における何十年間もの経験と専門知識の基盤の元で成り立ったものだ。


 
 様々なワクチンの開発に力を入れることにより、関連機関は、医療資源の取り合いになることを避けているのだ。カバレロ氏の説明によれば、「キューバには2つのそれぞれ独立したワクチン製造網を維持する力がある。国内で、年間9千万本以上のワクチンが必要なのに、同時に国内市場だけではなく、輸出用のワクチンも製造している」とのことだ。キューバのワクチンは1セットで3度の接種が必要なのだが、摂氏2~8度で安定するワクチンなので、特別な冷蔵装置などにかかる費用は要らなくて済んでいる。

 キューバの第3相臨床実験はどのように進んでいるか?

 3月の後半までには、ソベラナ02ワクチンも、アブダラワクチンも、臨床実験の第3相に入っていた。それぞれ、Covid-19の発生率が高い地域で、何万人もの成人が、実験に協力した。ソベラナ02ワクチンの臨床実験は首都ハバナで、アブダラワクチンについては、サンティアーゴ・デ・クーバ 市や、グアンタナモ市で実施されている。第3相臨床実験を受けた人々の分析や、事後観察については、2022年の1月まで継続され、ワクチンが伝染を防ぐことができるかとか、免疫はどのくらいの期間続くかなどの接種後の長期の事後観察が調査されることになっている。これらの長期の事後観察は、世界中のワクチン製造業者が、運用中のワクチンを普及させることが緊急に求められているため、答えることができない問題になっている中のことだ。

 さらに、ハバナの15万人の医療従事者が、「介入研究」の一環として、ソベラナ02の注射を受けることになっている。この「介入研究」とは、臨床実験の1種であり、臨床実験の第2相で、その医薬品の安全が保証されたことを受けて認可される研究だ。さらにキューバ西部で、もう12万人の医療従事者が、この先数週間でアブダラワクチンを接種することになっている。それ以外の首都における介入研究は、ハバナで170万人が受けることになっているが、これはハバナの成人の大多数に当たる人数だ。彼らが2021年の5月下旬までにはワクチンを打つ事になっている。つまり、その時点で200万人のキューバ国民がワクチンを接種していることになる。

 これらの臨床実験がうまく行っていると見込まれれば、国中でのワクチン接種計画が6月から始まり、まずは基礎疾患の有無や年齢(まずは60歳以上の人々から接種が始まるであろう)により優先的に接種が行われるだろう。2021年の8月下旬までには、キューバ政府は600万人のキューバ国民にワクチン接種を完了させることを目標としている。これはキューバの全人口の半数に当たる。キューバは2021年の終わりまでには、すべての国民にワクチンを接種することができた世界でわずかしかない国の一つになることを目指している。

 キューバの医療専門家たちがさらに自信を持っているのは、変異種に対しても、自分たちにはワクチンの製造法や、技術や、手順をうまく適応させるだけの能力と経験がある、ということだ。しかし今のところは、5歳から18歳のこどもに関する研究を立ち上げることや、ソベラナ01ワクチンや、ソベラナプラスワクチンの第2相の臨床実験を始めることが先決だ。

 キューバと中国が目指しているのは、「パン・コロナ」という名のCOVID-19の複数の株種にも対応するワクチンの製造だ。

 キューバのCIGB(遺伝子工学と生物工学センター)も、中国の同業者たちとタッグを組んで、「パン・コロナ」と呼ばれる新しいワクチンについて研究をしている。このワクチンは、コロナウイルスの様々な変異種に効果があるよう製造されたワクチンだ。このワクチンの考え方は、「ウイルスの一部を使うことにより、免疫の発生に刺激を与える」というものだ。キューバは経験と人員を提供し
、中国は装着資源を提供する。両国の共同研究は、中国雲南省の揚州共同生物工学革新センターで行われる予定だ。同センターは、キューバの専門家たちが設計した装置や研究室を使って昨年設立された。CIGBのグアラド・ギーエン生物医療科学部長によると、このような両国の取り組みは「この先出現するであろうコロナウイルスの変異種による緊急医療事態から人々を守ることができるようになるだろう」とのことだ。この計画は、20年間に渡る、キューバと中国の医療における協力体制のおかげで成り立っているのであり、生物工学部門で5つの合弁事業が存在している。




グローバル・サウスのためのワクチン

 キューバの医療専門家たちは世界知的財産機関(WIPO:World Intellectual Property Organisation )からこの26年以上のあいだに10個の金メダルを授与されている。キューバの医療専門家たちが製造した生物工学の生産物は、パンデミックが始まる前からすでに49カ国に輸出されていた。その中には、ラテン・アメリカ諸国における、子どもの予防接種プログラムで使用されたワクチンも含まれていた。キューバの主張によれば、キューバのCOVID-19ワクチンも、他国に輸出する意向があるとのことである。このことは、低所得の国々や、中所得の国々に希望をもたらすものだ。これらの国々は、自国民のために、大企業の製薬会社が要求している高価格(1回の接種料金が10ドルから30ドルする)のワクチンを購入する金銭的余裕がないのだ。さらに悪いことに、米国の多国籍企業であるファイザー社の場合、「ラテンアメリカ」いじめをしたことが最近非難されたばかりだ。同社は将来のワクチンに関する訴訟費用に対して、その国の資産(大使館や軍基地)を担保にすることを条件にしていたのだ。

 イランのパスツール研究所の同意を受けて、10万人のイラン国民がソベラナ02の第3相の臨床実験を受けることになっている。ベネズエラでも、さらに6万人が第3相の臨床実験をうけることになっている。メキシコや、ジャマイカや、ベトナムや、パキスタンや、インドなど他の国々も、キューバのワクチンに対する関心を表明している。さらに(アフリカの55カ国すべてを代表する組織である)アフリカ連合も、だ。キューバは、COVID-19ワクチン輸出に関して、輸出先の国々の支払い能力を考慮して、ワクチンの価格を柔軟に設定するようだ。それは、海外への医療専門家の派遣サービスの値段設定で行われてきたことと同じだ。

 キューバが成し遂げてきたことは素晴らしいが、先述のメールで、カバレロ氏が強調していたように、「米国による不当な経済封鎖措置がなかったら、キューバはもっと大きな、もっとよい結果を得られていた可能性がある」のだ。キューバが医療に使っている費用は、米国や英国が医療に使っている費用と比べればわずかなものだ。しかし乏しい資源を有効に使うことにより、キューバは世界的パンデミックに対して、非常に効果的な対策を積み重ねることができてきたのだ。キューバの成功の鍵は、国家が一人一人の国民に対して医療介入を行っていることだけではない。むしろその医療介入の質が鍵なのだ。キューバの社会主義体制は個人の利益よりも社会福祉を優先するようできているのだ。
 
 他国は、キューバのこのような取り組みから学ぼうとはしないかもしれない。しかし、パンデミック時のキューバの国際的な援助政策を見れば、世界的な問題の解決には、世界的な協力と団結が効果的だということがわかるだろう。

*

Helen Yaffe is a lecturer in economic and social history at the University of Glasgow, specialising in Cuban and Latin American development, and a visiting fellow of the LSE Latin America and Caribbean Centre. She is the author of Che Guevara: The Economics of Revolution and co-author with Gavin Brown of Youth Activism and Solidarity: the Non-Stop Picket against Apartheid. Her book We Are Cuba! How a Revolutionary People Have Survived in a Post-Soviet World was published in 2020 by Yale University Press.

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