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プーチン大統領が、地政学ジャングルの掟を書き換えた


<記事原文 寺島先生推薦>
Putin Rewrites the Law of the Geopolitical Jungle

Strategic Culture
2021年4月24日

ペペ・エスコバー( Pepe ESCOBAR)著

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年5月15日

 プーチン大統領のロシア連邦議会での演説 (これは、事実上一般教書演説にあたる)は、柔道の技のように見事な技だった。これを聞いた大西洋の向こう側のタカ派たちは、唖然としたことだろう。

 プーチン大統領は、1時間半の演説の大部分を内政に関する問題に使った。具体的には、プーチン大統領は、ロシア政府が、貧困に苦しむ人々を救済するためにどんな対策を立てようとしているかについて詳細に述べた。その対象は、低所得の家庭や、子供たち、シングルマザーたち、青年研究者たち、恵まれない人々についてだった。その対策として、例えば近い将来、無料で医療がうけられる制度を導入することに触れたが、これは、ゆくゆくはベーシック・インカムの導入も見据えたものだろう。

 もちろんプーチン大統領は、現状の非常に不安定な国際関係についても触れないわけにはいかなかった。その件については、彼は手短に済ませる方法を選んで、大西洋主義者たちの広めているロシア嫌いを牽制したが、インパクトはかなりあったようだ。

 まず、プーチン大統領は大前提を明らかにした。すなわち、ロシアの政策は、「平和を守り、我がロシア市民の暮らしの安定と安全を保証し、我が国の安定した発展を確実なものにすることです」と語ったのだ。

 さらに、「我が国との対話を望まず、自分勝手な傲慢なやり方を選ぶ勢力に対しては、我が国は毅然とした対応をとる方策を模索するつもりです」とも語った。

 その点に関してプーチン大統領が名指しで非難したのは、「政治的な意図のもとでの不法な経済制裁」についてであり、このような行為は「さらにもっと危険な状況」につながると警告した。実際、そうした状況を西側諸国は隠して語らないのではあるが、プーチン大統領は「最近、ベラルーシにおいてクーデターを遂行し、ベラルーシの大統領を暗殺しようという動きがありました」と述べ、「これは完全に危険信号を突破したということです」と語気を強めた。

 ルカシェンコ大統領を暗殺しようという企みは、ロシアとベラルーシの秘密工作員により明らかにされた。彼らは何名かの関与者を拘留したが、その関与者はほかでもなく米国の秘密工作員から支援を受けていた。予想通り、米国務省は、この事件への関与を否定している。

 以下はプーチンの発言だ。「この陰謀に関わって拘留された関与者たちの証言は、取り上げる価値があります。彼らは、ミンスクの封鎖を準備していました。具体的には、インフラ基盤や、通信手段の封鎖も含む、ベラルーシの首都の電力システムを完全に封鎖する準備をしていたのです。つまり、大規模なサイバー攻撃の準備が行われていたということになります」

 そうなれば、非常に不快な真実と向き合わねばならない。「もちろん、このような事態が生じた理由は、ロシア側が申し出ていた情報やサイバーの安全を守る分野での国際的な話し合いを持つ提案を、西側諸国が何度も何度も拒んできたこととは無関係ではないと思いますが」

「素早く、激しく、倍で返す」

 プーチン大統領は、「ロシアに対する攻撃」が、「スポーツ、しかも新しいスポーツ」と考えられ、どれだけ大きな声でロシアを攻撃できるかのゲームのようになってしまっていると語った。ここで、プーチン大統領は、ジャングル・ブックのたとえ話を本格的に持ち出したのだ。「ロシアは、理由なしにあちこちで攻撃されています。もちろん、おべっか使いのタバキ(ジャッカル)がシア・カーン(虎)の周りをうろついたように、あらゆる種類のこざかしいタバキたちが、虎の周りを駆け回っています。現状はキップリングの『ジャングル・ブック』とまったく同じです。虎の周りを吠え回ってご主人様に仕えようというタバキたち。キップリングというのは偉大な作家でした」

 この比喩が「二枚重ね」であることに気づいた人はもっとびっくりするだろう。というのは、作者キップリングが生きていた19世紀の地政学というのは、大英帝国と帝政ロシアの間で「グレート・ゲーム」が行われていた時期であり、キップリングは英国側のプロパガンダの広告塔をつとめていたのだ。
(訳注:グレート・ゲームとは、19世紀に中央アジアをめぐって繰り広げられた英露間の覇権争いのこと)
 プーチン大統領は再度以下のことを強調せざるを得なかった。「私たちは対話の橋を焼き落としたいとは全く思っていません。しかし、私たちが無関心であるか、私たちが弱いというふうに勘違いをして、そのような橋を完全に焼き落としたり、吹き飛ばそうとさえする勢力があるのであれば、その勢力は、ロシアからの迅速で激しい反撃を目にすることになるでしょう」

 さあここで地政学ジャングルにおける新しい掟の登場だ。その掟の後ろに控えているのは、イスカンデル・ミサイル氏、カリブル・ミサイル氏、アバンガルド・ミサイル氏、戦艦ペレスヴェート氏、キンザル核弾頭ミサイル氏、サーマット・ミサイル氏、ジルコン・ミサイル氏などロシアが誇る優秀な紳士たちだ。どれも超高音速のスピードなどで、記録を残している優秀なものたちだ。ロシアという大熊にちょっかいをだそうとするものたちが、ロシアを怒らせてしまったのだ。「私たちの国防力が実力行使したことを後悔する事態が生じるかもしれません。私たちの国防軍が実力行使を行って後悔することはずっとなかったのですが」

 ここ数週間で事態は驚くように進展している。中米アラスカ会談。桂林でのラブロフ-王毅外相会談NATO会談イランと中国の戦略会議。習近平国家主席の博鰲アジアフォーラムでの演説こうした進展が今全く新しい現実に融合しつつあるのだ。米国という怪獣リバイアサンが、一方的に、有無を言わせぬ鉄の意志を突き通す時代は終わったのだ。

 それでもまだ、そのような時代の風を感じられないロシア嫌いの人々に対して、冷静で、穏やかで、落ち着き払ったプーチン大統領は、以下のような厳しい言葉を発しなければならなかった。「明らかに、私たちはいままでずっと耐えてきました。責任感と、プロ意識と、自信と、誇りをもって、私たちの立ち位置や、常識を正しくとらえ、何か事を決める際に、正しく進む道を選んできました。しかし私は、どんな勢力にも、ロシアが考えているいわゆる「レッドライン」を踏み越えようなどと、考えて欲しくないのです。しかしもしそうなった場合には、そのたびに私たちは毅然とした決断を行います」

 現実の政策について話を戻したプーチン大統領が再び強調したのは、「核保有5カ国」が果たすべき「特別な使命」についてであった。さらに、この件に関してプーチン大統領は、「戦略兵器に関する問題」について真剣な論議が必要であると語った。これは、この呼びかけに同意するかについて、バイデンーハリス政権に対する公開質問であると考えていいだろう。バイデンーハリス政権の後ろには、ネオコンと「人道的帝国主義者」たちという「有毒なカクテル」のような一団が隠れているのだ。

 プーチン大統領の発言:「このような交渉の目的は、世界が武力衝突なしで共存できるための環境作りをすることではないでしょうか。そのためには、軍事力の均衡が基礎になると思われます。大陸間弾道ミサイルや、重爆撃機や、潜水艦のような戦略兵器にとどまらず、私はここを強調したいのですが、その装備にかかわりなく、戦略的な問題を解決できるすべての攻撃および防衛システムについても交渉すべきです」

 習近平国家主席が、博鰲アジアフォーラムで語った内容がほとんどグローバル・サウスについての問題に向けられていたのと同様に、プーチン大統領も「私たちはこれまで密接な関係を築いてきた、上海協力機構や、BRICSや、独立国家共同体や、集団安全保障条約の同盟国との連携を深めていく」ことを強調した。さらに、「ユーラシア経済連合の枠組みでの共同プロジェクト」について、「各国の発展についての問題を解決する有効な手段」であると賞賛した。

 一言で言えば、「ロシアが考えている“偉大なユーラシア”という概念に即した事実上の融合政策」だということだ。

「緊張が戦時状態ほどに高まっている」

 上記のようなプーチン大統領の発言と、「ロシアからの脅威に対応する」ための「国家緊急事態」宣言をしている米国大統領令(EO)を比べてみてほしい。

 この大統領令は、ウクライナ政府がドンバス地方やクリミア半島を奪回したいと考えている事に対して、「対策を取る」とバイデン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に約束したことと直接つながっている。(正確には、バイデン大統領ではなく、イヤホンやテレプロンプターを通してどう振る舞うかをすべてバイデン大統領に陰で指示しているあの連中が出した大統領令なのだが)

 ロシアのOFZ(ロシア連邦発行のローン債権)を購入することは、制裁の対象となっている。さらには、スプートニクⅤワクチン製造に関わっている企業の一つからワクチンを購入することも、制裁の対象だ。それでも厳しい制裁は激しさを増し、これからは米露二重国籍をもつ人々も含めて、すべてのロシア人が、通常のピザに特別な権威からの承認があるというかなり特別な事情がなければ、米国領内に入国できなくなる可能性もある。この大統領令には、目が飛び出るほどびっくりするような措置もいくつか書かれている。例えば、ロシア国籍を持つ人は誰も、米国内で資産を所有する権利が事実上認められなくなる、とある。どのような米国在住者も、米国の治安を乱す活動に関わっているロシアの工作員とみなされた人々はみな、そういった制裁を受ける可能性がある、ということだ。大統領令の副段落のさらに副段落の(C)項に、その対象について、こう詳しく書かれている。すなわち、 「米国内外の民主的な手続きや、民主的な組織を損ねる活動や、考え」を持つものである、と。このような表現はあまりに曖昧すぎて、国際関係におけるロシア政府を支持するようなメディアをすべて消し去るための口実に使える表現である。

 ロシアの新聞社ヴェドモースチ紙によると、このような被害妄想が漂う雰囲気の中では、ロシアの大企業であるネット検索会社のヤンデックス社や、コンピューターセキュリティ会社のカスペルスキー社などが深刻な打撃を受けつつある、とのことだ。それでもまだ、ロシア政府はこの程度の制裁で驚いてはいけないようだ。米国の政府関係者によれば、最悪の制裁がこのあと来る、とのことだ。具体的には、ロシアが露独間に建設している天然ガスパイプラインのノルド・ストリーム2に関する二件の制裁の法案が米国司法省の承認をすでに得ている。

 決定的なことは、この大統領令が、ロシア政府の政治的立場を報じることはすべて「米国の民主主義」を脅かすことになる、と捉えていることだ。一流の政治専門家であるアラステア・クルーク氏が記述している通り、この大統領令は「戦時中、敵国の市民に対してとられる手続き」だ。さらに、クルーク氏はこう付け加えた。「米国のタカ派たちは、ロシア政府に対する姿勢を強固なものにしている。米露間の緊張やロシアに投げかけられている言葉は.戦時中の様相を呈してきた」と。

 プーチンが連邦議会の演説で語った内容を、ネオコンや人道的帝国主義者たちという「気の狂った有毒な」連中が深刻に受け止めるかどうかが問われているのが現状だといえる。この陰謀団は、ロシアと中国両方をいじめるのに熱中しているのだから。

 しかし、今、実際、或る尋常ではない状況が起こりつつある。「緊張緩和」とでも呼べるべき状況だ。

 プーチン大統領の連邦議会での演説の前からすでに、ウクライナ政府と、NATOと、米国防総省はあきらかにロシアからの示唆的な警告を受け取っていた。ロシア政府は、ドンバス地方やクリミア半島の国境付近に大規模な2つの軍団(陸軍と空軍)を派遣していた。もちろん、カスピ海から黒海に海軍も配置していた。NATOは、これらのロシア軍と一線を交えることなど夢にも思っていないだろう。

 様々な側面から色々な事実が伝わってきている。フランス政府も、ドイツ政府も、ウクライナ政府がロシア軍と衝突する可能性を危惧して、その事態を避けようとEUやNATOを通したロビー活動を行った。

  そのとき誰か(たぶんジェーク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官だろう)が、バイデンのイヤホンが壊れていないかの検査のためにこんなことをつぶやいたにちがいない。「世界からの米国に対する“信頼”を保持しようとして核保有国のトップを侮辱して回るのはよろしくないでしょう」と。その後、今や有名になった「“バイデン”からプーチンへの電話事件」が起こったのだ。その電話で、バイデンはプーチン大統領に気候サミットへの参加を促した。その電話での高尚な約束事のほとんどは、口先だけだろう。米国防総省がこの先もこの地球を汚す実行者であり続けるだろうから。

 さあ、米国政府がロシア政府と話し合いが持てる経路を少なくとも一つは見つけられたかもしれない。だが同時にロシア政府は、ウクライナ・ドンバス・クリミア問題が終わったなどという幻想はこれっぽっちも抱いていないだろう。プーチン大統領が、連邦議会での演説でウクライナ問題について全く触れなかったにしても、だ。さらにロシアのショイグ防衛庁長官が、西側との緊張緩和を命じたとしても、だ。

 常につかみどころない存在であるロシア軍関係の専門家アンドレ・マルチャノフ氏は、嬉々として以下のように記述している。「EUと米国が、“ロシアはウクライナを求めていない”と考え始めた時は、文化の違いを感じた。ロシアが求めているのは、ウクライナが腐敗し、ロシアへの打撃にならないように後腐れなくウクライナが内部崩壊することなのだ。西側がこの集団的暴行の清算の代金を払うことも、ロシアがウクライナをバントゥスタンにしてしまう計画に入っているのだ」

訳注:バントゥスタンとは、アパルトヘイト政策の批判をかわすために、かつて南アフリカ共和国が、黒人たちに与え、自治を認めた居住地域のこと。

 プーチン大統領が演説の中でこの「他民族自治居住区(=ウクライナのこと)」に触れなかったという事実が、マルチャノフの分析の裏付けになっている。「レッドライン」という用語を使っている以上、プーチン大統領の胸三寸は常に変わらない。つまり、ロシアの西の国境にNATOの基地を置かせることをロシアは許さないということだ。フランス政府も、ドイツ政府もそのことは理解している。しかしEUはその現実から目をそらしているのだ。NATOもこの現実を認めようとはしない。

 このような問題について考えると、常に同じ決定的な問いに直面するのだ。それは、プーチン大統領が、ちょっとしたおふざけには目をくれず、ビスマルク(19世紀にドイツを統一した宰相のこと)と孫子を結びつけた戦法を選択し、独露間で長く続く協定(“同盟と呼ぶにはほど遠くてもよい)を結ぶことができるかという問題だ。ノルド・ストリーム2は、この戦法を動かす車輪の中心だ。だからこそ、米国のタカ派たちはこのパイプラインに狂ったように目くじらを立てているのだ。

 次に何が起ころうが、実際上「鉄のカーテンの第2弾」が進行中であるので、状況はそう変わらないだろう。制裁はまだまだ行われるだろう。熱い戦争にはいたらずとも、ロシアという大熊にあらゆる石が投げつけられてきたのだ。さあ、本当に見物だ。「外交手腕により、ロシアとの緊張を緩和」しなければならない状況において、米国政府がどんな一手を見せるだろう。

 世界の覇権者として君臨してきた米国は大規模なPR作戦を繰り出す方法を見いだすかもしれない。そして、外交的手腕を発揮して最終的にはこの袋小路を抜け出せることに成功するかもしれない。そうなれば、戦争はきっと回避できる。だから、腰の低いジャングル・ブックの冒険者たちはこう助言されてきたのだ。「面白そうな事があれば挑戦してみて。そうなれば、きっと“迅速で、激しい倍返し”を食らうことになるよ」と。

 

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