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インドで巻き起こる農民の抗議活動「農作物の抜本的改革」案の代償は計り知れないものとなる

<記事原文 寺島先生推薦>Farmers’ Protest in India: Price of Failure Will be Immense. “The Plan to Radically Restructure Agrifood”
コリン・トッドハンター著

グローバル・リサーチ
2021年2月7日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年3月5日


 今世界で起こっているのは、ひと握りの巨大企業が、どんな食物を育てるのか、どんな風に育てるのか、どんな農薬を使うのか、誰が売るかを決めてしまっているのが現状だ。この流れの中には、化学物質が添加されている加工度の高い食品も含まれており、その食品が、最終的には業界をほぼ独占している巨大スーパーマーケット・チェーンやファースト・フード店に並べられることになる。これらのスーパーマーケットやファースト・フード店は企業型農業に依存している。

 巨大店舗の棚に並べられている食品の商標は様々あるように見えるが、これらの商標を所有しているのはひと握りの食品会社であり、それに伴い原料の生産は比較的狭い範囲の物に限られている。同時に、選択肢がたくさんあるように見せられていることには、貧しい国々が食品安全保障の犠牲を強いられているから成り立っているのだ。これらの貧しい国々は、農業の生産構造を作り替え、農作物を輸出するために、以下の組織に特別待遇を図るように強いられているのだ。つまり、世界銀行や、IMF(国際通貨基金)や、WTO(世界貿易機関)や、世界規模で展開しているアグリビジネス(農業関連産業)への優遇である。

 メキシコでは、超国家規模の食料販売業者や加工業者が、食料の流通網を押さえ込み、各地域で流通していた食品を追いやり、安価な加工食品を流通させることになっている。そして政府もその動きを直接支援している。自由貿易・投資協定の締結が、この流れに決定的な役割を果たし、さらに、市民の健康が壊滅的な打撃を受けることにもつながった。

  メキシコ合衆国保健省は,2012年に食の安全と栄養に関する報告を出している。それによると、1988年から2012年の間に、20歳から49歳までの女性で太りすぎである人の割合が25%から35%に上昇し、同年代で肥満状態にある女性の割合は、9%から37%に上昇したとのことだ。5歳から11歳までのメキシコの子どもの約29%は太りすぎであり、11歳から19歳までの青年層では35%にのぼることがわかった。いっぽう、学童の10人に1人が貧血の症状を示していた。

 国連の「食への権利」で以前、特別報告者をつとめていたオリビエ・デ・シュッターは、以下のように結論づけている。すなわち、「通商政策によって、長期間、棚で保存できる加工食品や精製食品への依存が顕著になり、フルーツや野菜などの新鮮で腐りやすい食べ物の消費は避けられるようになる」と。さらにシュッターはこう付け加えている。「メキシコで起こっている太りすぎや肥満は避けることができたかも知れない」と。

 NPO法人「グレイン」の2015年の報告によると、北米自由貿易協定(NAFTA)によって、食品加工業への直接投資が行われるようになり、メキシコ国内に世界規模で展開するアグリビジネスやメキシコ国内に全国規模で展開する食品会社を出現させただけではなく、メキシコの小売業界の構造を変えてしまったと言う。(具体的には、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの展開によってである)。

 NAFTAは、外国企業が企業の49%以上の株式を所有することを禁じる法律を撤廃させた。さらには、国内企業の生産割り当て最低ラインを確保する法律を禁じ、外国の投資家が初期投資で利益や運用益を得る権利を拡大した。1999年の時点で、米国企業はメキシコの食料加工業に53億ドルを投資していた。これは12年間で25倍伸びた計算になる。

 米国の食品会社は、メキシコでティエンダ(街角にある店)と呼ばれる零細商店の食品流通網を手中におさめ始めた。このため、栄養価に乏しい食品の普及がすすんだ。それはこれらの企業が、そのような食品の小さな町や共同体に住む貧困層の人たちへの販売を促進したからだ。2012年の時点で、これらの企業による販売網は、ティエンダを押しのけ、メキシコの食品のおもな販売元となった。

 メキシコでは、食の主権が失われたことで、メキシコの人々の健康状態は壊滅的に悪化し、多くの小規模農家たちが生活手段を失ってしまった。それを後押ししているのが、米国からの余剰商品の流入だ。(これらの余剰商品は、米国政府からの補助金によって実際の生産コストよりも安く生産されている)。

 NAFTは、メキシコの何百万人もの農家や、酪農家や、零細小売業で働く人たちを破産に追い込んでいる。そのため、何百万人もが移住労働者として流出した。

インドにとっての警告

 インドの農民たちは、メキシコで起こったことを警告とすべきだろう。インドの農民たちは、新しい3つの農業法案に対する抗議活動を続けている。その法案とは以下の3点を実現させようというものだ。
①契約農業という形態で、農作物を完全に企業の傘下におくこと。
②政府による農民たちへの支援体制を大幅に削減すること。
③輸入食品への依存(後に米国との貿易協定により強化されることになる)を高め、大規模な(オンラインによる)販売を強化すること。

 インドの地方市場や零細小売業者の行く末を知りたいのであれば、米国財務大臣のスティーブン・ムニューシンの2019年の発言を聞けば十分だろう。スティーブンによれば、アマゾン社が、「米国内の小売業を破壊してしまった」とのことだ。

 そしてインドの農家たちの行く末を知りたいのであれば、1990年代の状況を思い出せば十分だろう。当時、IMFや世界銀行は、1200億ドルの融資を行う見返りに、インド政府に農業に対する何億ドルもの支援金をやめるよう助言していたのだ。

 インドは、政府所有の種子供給システムを解体し、補助金を減らし、農業協同組合を停止させ、外貨獲得のための輸出用商品作物の栽培には報奨金を出すよう助言を受けた。その対策の一部には、土地に関する法律の改定も含まれており、それによって農地が売られ、企業用農業用地にまとめられることが可能になった。

 この計画は外国企業が農業分野を取り込むためのものであり、先述した政策にもとづいて、効果的に独立農民たちを弱体化させ、追い出すことになった。

 今日までこの潮流は、ゆっくりと進行してきた。しかし、最近の法改正は、何千万人もの農民たちに致命傷を負わせることになる可能性がある。これこそが、アマゾン社や、ウォルマート社や、フェイスブック社や、カーギル社や、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド社や、ルイス・ドレフュス社や、バンジ社など世界規模で展開している農業技術・種子・農業化学関連企業がずっと欲してきたものを与えることになるのだ。またこの法改正により、インド最大の資産家であるムケッシュ・アンバニや、インド6番目の資産家であるゴータム・アダニに対して、小売業・アグリビジネス・物流における利益を提供することにもなるのだ。

 現在進行中の抗議活動中ずっと、農家たちは催涙ガスを発射され、中傷され、打ちのめされている。ジャーナリストのサツヤ・サガは、こう書いている。「政府の助言者たちが恐れているのは、自分たちが抗議活動を起こしている農民たちに強く対応することができていないように見えてしまうことだ。そうなれば、外国の農作物の投資者からよく思われず、その投資者から農業分野へ大金が流れ込むことが止まってしまう。その大金は経済全体にも使われるからだ」と。

 そのお金は本当に「大金」なのだ。フェイスブック社は昨年、ムケッシュ・アンバニ 所有のジオ・プラットフォームズ社(電子商取引会社)に550億ドルを投資している。グーグル社も、45億ドルを投資している。現時点で、アマゾン社とインドのフリップカート社(ウォルマート社がその81%の株式を所有している)の二社で、あわせてインドの電子商取引誌上の60%以上を支配している。これらの国際的な投資家たちは、現在の農業法改正が廃案になれば、大きな損失を被るだろう。インド政府も同じだ。

 インドが新自由主義経済に門戸を開いた1990年代から、インドはますます外国資本の流入への依存体制が強まっている。政策は、外国からの投資を引きつけ、保持し、「市場の信頼」を維持できるかどうかで決定されてきた。つまり、国際資本の要求を引き受けることによって、政策が決定されてきたということだ。このようにして、「外国からの直接投資」が、モディ政権の究極の目標となっているのだ。

 だからこそインド政府が、抗議活動を行っている農民たちに「強く」出ているように見せかける必要があるのは当然のことなのだ。というのも、国際市場で食品を買うために、外国からの資金を引きつけ、外貨準備金を保持することがいまだかつてなく必要とされているからだ。そのような状況は、インド政府が、農作物の価格を安定させるための緩衝在庫制度をやめ、食に関する政策の責任を私企業に任せるようになってしまうと起こってしまうことなのだ。

 インド国内における農作物を抜本的に改革しようという計画は、農業分野を「近代化する」という偽りの名目で世間に流布されている。そして、この計画を実行するのは、自称「資産創出家」である、ザッカーバーグや、ベゾスや、アンバニだ。確かに彼らは富を作り出した経験は豊富だ。でも、それは自分の資産のためだ。

 任意団体であるオックスファムの最近の記事「不平等なウイルス」によると、ムケッシュ・アンバニは、2020年3月から10月までの間に資産を倍増させた、とのことだ。インドでのコロナウイルス関連のロックダウン措置により、億万長者たちは資産を約35%増やしたのに、2020年4月だけで、1時間ごとに17万人が職を失ったのだ。

 さらにオックスファムの報告によると、ロックダウン措置に先立つ2017年に生み出された富の73%が、1%の富裕層に分配された、とのことだ。いっぽう人口の半数を占める、6億7千万人の極貧層は、たった1%しか富を増やしていない、とのことだ。

 さらに、インドの億万長者たちの資産は、ここ10年でほぼ10倍になっており、彼らの総資産額は2018年から2019年の会計年度のインドの総予算よりも高額だ。

 これらの「資産創出家」たちが、誰のための資産を生み出そうとしているかは明らかだ。「ピープルズ・レビュー」というサイトで、タンモイ・イブラヒムはインドの億万長者富裕層に関する記事を書いている。その記事で、イブラヒムは、アンバニとアダニの2人に深く焦点を当てている。インドにおける縁故資本主義の概略を述べることで、その記事が明らかにしたのは、モディ政権の「資産創出家」たちが完全な自由裁量を与えられ、国庫金や、国民や、環境を略奪することができているいっぽう、本当に富を創出する人々(それはとりわけ農民たちだ)が、生きるための闘いを強いられている、という現状である。

 現在の闘争を政府対農民という構図で見るべきではない。メキシコで起こったことと同じことがインドで起こるとしたら、その影響は農民だけではなく国中で見られるようになる。具体的には人々の健康状態は悪化し、生計手段は失われることになるのだ。

 よく見てほしいのは、インドにおける肥満率がここ20年で3倍になっている事実や、インドが急速に糖尿病大国や心疾患大国となっている事実である。国内家庭健康調査(NFHS-4)によると、2005年から2015年の間に、肥満の人の数は2倍になっており、5歳から9歳までの子ども世代でさえ5人に1人が発育不良状態にあることがわかった。

 しかしこんな状況は、これから先、降りかかる被害の一部に過ぎないだろう。そして、その被害は、農業分野を大金持ちたちに手渡してしまうことから起こるのだ。つまり、億万長者の資本家であるムケッシュ・アンバニゴータム・アダニや(彼らは外国資本に従属し、自国民から搾取して富を得ようという売国奴だ)、ジェフ・ベゾス(世界一裕福な人物)や、マーク・ザッカーバーグ(世界第4位の資産家)や、カーギル一族 (所有資産は14億ドル)や、ウォルマート一族(米国一裕福な一族)に売り渡すのである。

 これらの人々が、インドの農作物分野の富を吸い取ろうとしているのだ。いっぽうで何百万人もいる零細農家たちや、家族経営の小売業者たちの生活はずたずたにされ、さらにはインドの人々の健康状態も冒されているのだ。

 

 

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