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ビル・ゲイツが考えるCOVID-19との闘いの現状 ――ワクチンを大量配布するつもりだったアフリカは症例数と死亡率が低すぎる、とゲイツは思わず漏らしてしまった

<記事原文>

ジェフリー・クルーガー著

タイム誌
2020年12月22日 1:00 PM EST

What Bill Gates Thinks About the State of the Fight Against COVID-19

<記事翻訳>寺島美紀子・隆吉
2021年1月29日

 ビル・ゲイツはまだタッチダウンダンスを考えているわけではない。闘いがまだ終わってもいないのに勝利宣言をしてしまって、世界で最も難解な問題と戦うことに人生を捧げることはできないからだ。しかし、今朝、ゲイツが発表した書簡は「これらの突破作戦が2021年を2020年よりも良いものにする」という見出しだが、それをみると、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の共同議長ゲイツが、今後1年、特にCOVID-19に関しては、かなり悲観的な気持ちを持っていることは明らかだ。

 タッチダウンは、アメリカンフットボールやカナディアンフットボールの得点方法の一つである。ランプレイ、パスプレイ、キックオフ、パントリターン、その他ターンオーバーのリターンで、敵陣のエンドゾーンまでボールを運ぶことを言う。

 『ゲイツ書簡』は、1月に予定されている財団の公式『年次報告書』発行の1か月前に出たもので、パンデミックの最近の経過については楽観的になるべきことがたくさんあるが、同様に、いくつか用心すべきことが残っていると見ている。しかし明らかに、ゲイツが意を強くしているのは、最近、モデルナ社のワクチンとファイザー・バイオNテック社のワクチンの緊急使用が承認されたこと、そして、マスクとソーシャルディスタンスが、当面ワクチンが開発されるまでのあいだ、ウイルス拡散を遅らせるのに非常に効果的だという、明らかなローテクの事実だった。

 「2020年の科学的進歩の速度を振り返ると、私は唖然とする。人類は今年COVID-19に関して世界がやってきたと比べれば、どんな病気に関しても1年でこれほど進歩したことはなかった」とゲイツは書いている。

 ゲイツ財団は、みずから2014年以来ずっとモデルナ社とファイザー・バイオNテック社の両方のワクチンの基礎となるmRNA技術の研究に資金提供してきているので、その飛躍的な速度には功績があったのだと自慢もできよう。この技術は効果的であるだけでなく、抗体反応を誘発するスパイク蛋白質を、時間をかけて研究室で製造するよりも、mRNA注射によって体自身が作り出すことができるため、ワクチン製造が容易になるからだ。

 しかし、だからといって、パンデミックにブレーキをかけるために世界が必要とする50億~100億回分のワクチンを簡単に製造できるわけではない、とゲイツは推定している。ゲイツによると、地球上のすべてのワクチン会社を合わせても、複数の病気に対するワクチンは毎年60億回分しか生産されていないという。生産を加速させる一つの方法は、セカンドソース契約と呼ばれるもので、ゲイツ財団が仲介と資金調達を支援してきた。この契約では、ファイザー社のようなワクチン開発企業と川下のメーカーが提携し、川上の企業が発明した薬を川下のメーカーが製造する。大量生産に長けた自動車会社が第二次世界大戦中に戦車やその他の軍備を製造するために再編成したように、世界最大のワクチンメーカーであるインド血清研究所のような高生産性の医薬品メーカーが、アストラゼネカ社と提携して、アストラゼネカ社が開発中のワクチンを大量生産するというようになってきた。

セカンドソース (Second source) とは、ある会社が市場に供給しているオリジナル製品に対し、他社が供給している同じ仕様の製品のこと。

 「彼らはすでに生産を開始しているので、もしアストラゼネカ社のワクチンが承認されれば、低所得国や中所得国でも使用できるようになるだろう」とゲイツは書いている。「そして、ゲイツ財団が財政的リスクの一部を引き受けたので、もし承認されなかったとしても、インド血清研究所が完全な損失を被る必要はない」

 もちろん、配布は難所となることもあり得る。一握りの製造工場で100億回分のワクチンを生産することと、それを数十億人の腕に注射することは別問題である。ゲイツ財団はすでに16の製薬メーカーと協力して、ワクチンが広く公平に配布されるようにしている。ワクチンが国内に到着した後、ワクチンの配布業務を引き受けなければならない国の政府と緊密に協力して、である。

 ゲイツは、2020年の表向きの失敗の中には、実際には重要な成功を収めたものもあるという事実に意を強くしている。COVID-19の治療に効果があることが証明されている薬剤は、デキサメタゾンやモノクローナル抗体など、これまでに数種類しかない。しかし、パンデミックが始まった当初は、そのような薬が何千種類もあった可能性があった。その中から数種類の新薬を見つけることは、ゲイツ財団、マスターカード、ウエルカムトラストの三者が協力して「COVID-19 感染症の治療推進プロジェクト」を開発し、製薬業界にすでに存在するスキャン技術を活用して数千種類の候補となる化合物を高速でスクリーニングすることで、計り知れないほど容易になった。しかしその大多数は失敗した。

 「それには失望したが、有益な失望だった」とゲイツは書いている。「そのおかげで、医療現場は何百万ドルもの費用が省けたし、ある会社から別の会社へ行き、次から次へと化合物をテストするという手間が1年か2年分は省けたのだ」

 COVID-19の監視も、自宅での検査が開発されたおかげで簡単になってきている。この検査のおかげで、迅速な診断が可能になり、パンデミックの象徴的な侮辱の一つとなってしまった痛みを伴う鼻の綿棒を使う必要がなくなる。また、同財団が55か国への展開を支援している携帯電話サイズの機器も開発中で、プライバシー保護のため、患者からのサンプルを検査し、陽性または陰性の結果を自動的に (患者の身元なしで) 中央データベースにアップロードして、病気が蔓延している地域の監視を迅速化している。

 最後に、ゲイツは、サハラ砂漠以南のアフリカの大部分——パンデミックが猛威を振るった場合、世界のどの地域よりも大きな打撃を受けることが多い——は、症例数と死亡率が比較的低く、実際には逃れつつあると強調する。その理由の一つは、アフリカ人がアフリカ以外のほとんどの国に比べて若く、若者は病気の症状が軽い傾向があることだ。また、アフリカ大陸の広大な農村地域では屋内で過ごす時間が少なく、家族や群衆が同じ空気を吸う機会が少ないことも一因である。

 明らかに、これはいずれもパンデミックに勝利したことを意味するものではなく、勝利が近づいていることを意味するものでもない。しかし、それは私たちが闘いの終盤戦に突入したことを意味している。このパンデミックが始まった当初、ゲイツはブログで「これは世界大戦のようなものだ。今回のばあい違っているのは、われわれ全員が同じ側にいるということだがね」と書いた。とはいえ、それはあまりにもバラ色の解釈だったかもしれない。パンデミックのように人間が限界にまで追い込まれたとき、私たちはいつも最善の行動をとるわけではないが、研究者、製造業者、そして一般のひとびとは、ほとんどがこの課題に真摯に取り組んできた。そして、この世界大戦は、まもなく勝利するように見える。

 (訂正、12月23日: この記事の以前のバージョンでは、『ゲイツ財団の年次報告書』はメリンダ・ゲイツが書くと述べていたが、じっさいは、ビルとメリンダの二人で書いている。記事ではまた彼らが財団の共同理事であると述べていたが、じっさいは共同議長である。)

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