新型コロナは英国の大学制度の致命的欠陥をさらけ出し、取り返しのつかない崩壊を招いている
<記事原文 寺島先生推薦>Covid-19 has exposed the fatal flaws in Britain’s university system and hastened its inevitable decline
リサ・マッカンジー著

Dr Lisa McKenzie is a working-class academic. She grew up in a coal-mining town in Nottinghamshire and became politicized through the 1984 miners’ strike with her family. At 31, she went to the University of Nottingham and did an undergraduate degree in sociology. Dr McKenzie lectures in sociology at the University of Durham and is the author of ‘Getting By: Estates, Class and Culture in Austerity Britain.’ She’s a political activist, writer and thinker. Follow her on Twitter @redrumlisa.
RT 論説面
2021年12月11日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年1月30日

今回のパンデミックのせいで、大学生たちはうつ病になり、大学のスタッフは燃え尽き症候群になってしまった。そして今回のパンデミックスか明らかにしたのは、高等教育制度における無数の課題だ。私自身大学講師の1人ではあるが、こう言わざるを得なくなっている。「この制度は全く崩壊の危機にある」と。
今学期の授業日も残すところあと少しになったが、英国での大学講師としてのキャリアを10年以上持つ私からしても、今年度ほどキツい1年はなかった。
9月以来、大学も大学生も、ニュースのネタから外されることはなかった。9月には、学生のあいだでのCovid-19の感染率が上がり続けていることがニュースになっていた。それから10月になると、ニュースの話題は、学生間の感染率の高さが、大学のある都市の人々に広がっていったことに移った。当時私はある記事を書いたのだが、その内容は、「感染が広がったことについて、頼むから学生たちを責めないでください。責められるべきなのは大学と政府です。両社の対応が悪く、危機に対する見通しも持てていなかったのですから」というものだった。
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Covid rates in uni towns across UK are raising tensions among locals, but don’t blame the students – it’s fatcat bosses’ fault
そして学期末を迎えた今、学生たちの精神状態についての新しい調査結果によれば、多くの学生たちはうつ病に苦しんでいることがわかっている。今私たちの頭をよぎるのは、マンチェスター大学で起こった、学生たちが学生寮に閉じ込められたという記事の見出しだ。さらにノッティンガムでは、学生たちに対して何千ポンドもの罰金が課された、という事件もだ。国のあちこちで学生たちが、自分たちは刑務所に入れられるかもしれないと噂している。というのも、大学が警察署を構内に入れて、立ち入り禁止の大学構内へ入ろうとする大学生たちを効果的に捕まえようとしているからだ。
想像にかたくないことだが、家族から離れて寮に一人閉じ込められている学生たちも、自宅で監禁状態になって必要な機器が不足している中、なんとかオンライ授業を受けようと苦心している学生たちも、心の中は不安でいっぱいのはずだ。
国中の同業者たちからも聞いたし、私自身実際に目にしたことでもあるのだが、自分のスマホを使ってオンライン授業を受けようとしている学生たちもいるようだ。というのも、彼らはラップトップのpcを持っていなかったり、大学からの学習ファイルを完全に受け取れる機器を持っていないからだ。学生支援センターも、都市封鎖措置やCOVIDによってもたらされたこれまでになかった課題に対応できる十分な資材を持っていない。
大学の学習支援センターのサイトをひとつでも見れば、大学当局も苦心していることが一目で分かる。私たちは、学習に関する支援や、精神的な支えが必要だという学生たちからの声に応えることに潰されそうになっている。大袈裟な話でも何でもなくて、本当にみんなが燃え尽きそうになっている。今私たちに必要なのは、英国市民6000万人のためのワクチンだけではなくて、6000万人の精神状態を支える糸なのだ。
こんなときに、大学で働いているすべての労働者たちに、大学の副総長から、これまでの苦労に感謝の意を伝えるメールが届くそうだ。ごめんなさい。はっきり言おう。今欲しいのは「ありがとう」じゃない。そんな言葉をもらっても嬉しくないし、それでは全く足りない。
今明らかになっている課題は、初めからあったものだ。長年にわたり蓄積されてきたものだ。大学側は、大学が行う事業を、物を売る行為と同じだと考えているのだ。何百万ポンドも使って販売戦略を行い、「ビジネス」をめぐって世界中の大学と競争している。(申し訳ないが、ここでいうビジネスとは学生たちのことだ)。
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Using Covid as justification to shut pubs is just another way to suppress Britain’s working class
大学の所在地の地方公共団体も学生から得られる収入に大きく依存するようになってきている。賃貸住宅業者も、いや近年では国際的に展開している不動産開発業者でさえも、世界各国から来る学生たちのおかげで大きな利益を得ている。このような構造だからこそ、学生たちも、大学当局で働く人々も、学生支援に関わる人たちも、上手く利用されているのだ。大学は今やハゲタカ資本主義が作り出した現代における「闇の悪魔の工場」に姿を変え始めたのだ。もはや大学はかつての「学び舎」ではない。
(訳注:「闇の悪魔の工場」とは17世紀の詩人ウィリアム・ブレイクの“ミルトン”という詩の一節。この詩は英国の愛国歌として親しまれている)
何十億ドルもかけてこしらえたきらきらした大学キャンパスは17世紀のウィリアム・ブレイクの時代の「闇の悪魔の工場」には見えない。「ショッピング・モール」に見える。今その大学は使われず、構内は空っぽで、情け容赦ない借金が、学生たちや大学で働く人々のクビの周りにかけられている。ここ英国では、卒業生たちは、学生時代に借りた3万ポンド強のローンの頭金が返せるくらい稼げる会社に就職できるよう苦労しているのだ。こんなむだにぴかぴかした大学の建物の建築費の支払いが、国民一人一人に回されているのだ。というのも、きっと大学は今回の危機で生じた借金返済の救助を国に頼むだろうからだ。
今回のパンデミックの結果明らかになったのは、すでに大学内部でくすぶっていた課題だけではない。もちろんそんな課題のせいで大学は今にも崩壊しようとしているのだが、もっと大事なことがある。それは、教育は公共の福祉として国民に提供されるべきもののはずだということだ。仕事を得るために証明書を授与する機関ではないのだ。
昨年、私は労働組合の一員として、14日間というこれまでにない日数をかけて行われたストライキに参加した。そのストライキで要求したのは、給料や労働条件の改善であり、高等教育の本質がますます危うい状況に置かれていることについての抗議するためだった。その結果、私のキャリアに傷がついてしまった。この10年間で私たちが目にしてきたのは、大学当局は物価の上昇や、政府からの補助金の減額や、想像できないくらいにふくれあがった学生が負っている借金などに苦しんでいるのに、大学のキャンパスは五つ星ホテルのように改装され、副総長や経営者は多額の報酬を受け取っているという構図だ。いっぽう、大学の警備員や清掃職員や食堂で働いている人々は、雀の涙のような給料でかつかつの生活を強いられている。
Covid危機が私たちに示したのは以下の3点だ。
①私たちの社会が実はどれほど病んだ状態にあるのか
②私たちが公共の福祉として受け取るべきものが何とわずかなものか
そして、
③市場資本主義に身を任せれば、どれだけ私たちの社会基盤が脆弱なものになるのか
だ。
リサ・マッカンジー著

Dr Lisa McKenzie is a working-class academic. She grew up in a coal-mining town in Nottinghamshire and became politicized through the 1984 miners’ strike with her family. At 31, she went to the University of Nottingham and did an undergraduate degree in sociology. Dr McKenzie lectures in sociology at the University of Durham and is the author of ‘Getting By: Estates, Class and Culture in Austerity Britain.’ She’s a political activist, writer and thinker. Follow her on Twitter @redrumlisa.
RT 論説面
2021年12月11日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年1月30日

今回のパンデミックのせいで、大学生たちはうつ病になり、大学のスタッフは燃え尽き症候群になってしまった。そして今回のパンデミックスか明らかにしたのは、高等教育制度における無数の課題だ。私自身大学講師の1人ではあるが、こう言わざるを得なくなっている。「この制度は全く崩壊の危機にある」と。
今学期の授業日も残すところあと少しになったが、英国での大学講師としてのキャリアを10年以上持つ私からしても、今年度ほどキツい1年はなかった。
9月以来、大学も大学生も、ニュースのネタから外されることはなかった。9月には、学生のあいだでのCovid-19の感染率が上がり続けていることがニュースになっていた。それから10月になると、ニュースの話題は、学生間の感染率の高さが、大学のある都市の人々に広がっていったことに移った。当時私はある記事を書いたのだが、その内容は、「感染が広がったことについて、頼むから学生たちを責めないでください。責められるべきなのは大学と政府です。両社の対応が悪く、危機に対する見通しも持てていなかったのですから」というものだった。
ALSO ON RT.COM

Covid rates in uni towns across UK are raising tensions among locals, but don’t blame the students – it’s fatcat bosses’ fault
そして学期末を迎えた今、学生たちの精神状態についての新しい調査結果によれば、多くの学生たちはうつ病に苦しんでいることがわかっている。今私たちの頭をよぎるのは、マンチェスター大学で起こった、学生たちが学生寮に閉じ込められたという記事の見出しだ。さらにノッティンガムでは、学生たちに対して何千ポンドもの罰金が課された、という事件もだ。国のあちこちで学生たちが、自分たちは刑務所に入れられるかもしれないと噂している。というのも、大学が警察署を構内に入れて、立ち入り禁止の大学構内へ入ろうとする大学生たちを効果的に捕まえようとしているからだ。
想像にかたくないことだが、家族から離れて寮に一人閉じ込められている学生たちも、自宅で監禁状態になって必要な機器が不足している中、なんとかオンライ授業を受けようと苦心している学生たちも、心の中は不安でいっぱいのはずだ。
国中の同業者たちからも聞いたし、私自身実際に目にしたことでもあるのだが、自分のスマホを使ってオンライン授業を受けようとしている学生たちもいるようだ。というのも、彼らはラップトップのpcを持っていなかったり、大学からの学習ファイルを完全に受け取れる機器を持っていないからだ。学生支援センターも、都市封鎖措置やCOVIDによってもたらされたこれまでになかった課題に対応できる十分な資材を持っていない。
大学の学習支援センターのサイトをひとつでも見れば、大学当局も苦心していることが一目で分かる。私たちは、学習に関する支援や、精神的な支えが必要だという学生たちからの声に応えることに潰されそうになっている。大袈裟な話でも何でもなくて、本当にみんなが燃え尽きそうになっている。今私たちに必要なのは、英国市民6000万人のためのワクチンだけではなくて、6000万人の精神状態を支える糸なのだ。
こんなときに、大学で働いているすべての労働者たちに、大学の副総長から、これまでの苦労に感謝の意を伝えるメールが届くそうだ。ごめんなさい。はっきり言おう。今欲しいのは「ありがとう」じゃない。そんな言葉をもらっても嬉しくないし、それでは全く足りない。
今明らかになっている課題は、初めからあったものだ。長年にわたり蓄積されてきたものだ。大学側は、大学が行う事業を、物を売る行為と同じだと考えているのだ。何百万ポンドも使って販売戦略を行い、「ビジネス」をめぐって世界中の大学と競争している。(申し訳ないが、ここでいうビジネスとは学生たちのことだ)。
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大学の所在地の地方公共団体も学生から得られる収入に大きく依存するようになってきている。賃貸住宅業者も、いや近年では国際的に展開している不動産開発業者でさえも、世界各国から来る学生たちのおかげで大きな利益を得ている。このような構造だからこそ、学生たちも、大学当局で働く人々も、学生支援に関わる人たちも、上手く利用されているのだ。大学は今やハゲタカ資本主義が作り出した現代における「闇の悪魔の工場」に姿を変え始めたのだ。もはや大学はかつての「学び舎」ではない。
(訳注:「闇の悪魔の工場」とは17世紀の詩人ウィリアム・ブレイクの“ミルトン”という詩の一節。この詩は英国の愛国歌として親しまれている)
何十億ドルもかけてこしらえたきらきらした大学キャンパスは17世紀のウィリアム・ブレイクの時代の「闇の悪魔の工場」には見えない。「ショッピング・モール」に見える。今その大学は使われず、構内は空っぽで、情け容赦ない借金が、学生たちや大学で働く人々のクビの周りにかけられている。ここ英国では、卒業生たちは、学生時代に借りた3万ポンド強のローンの頭金が返せるくらい稼げる会社に就職できるよう苦労しているのだ。こんなむだにぴかぴかした大学の建物の建築費の支払いが、国民一人一人に回されているのだ。というのも、きっと大学は今回の危機で生じた借金返済の救助を国に頼むだろうからだ。
今回のパンデミックの結果明らかになったのは、すでに大学内部でくすぶっていた課題だけではない。もちろんそんな課題のせいで大学は今にも崩壊しようとしているのだが、もっと大事なことがある。それは、教育は公共の福祉として国民に提供されるべきもののはずだということだ。仕事を得るために証明書を授与する機関ではないのだ。
昨年、私は労働組合の一員として、14日間というこれまでにない日数をかけて行われたストライキに参加した。そのストライキで要求したのは、給料や労働条件の改善であり、高等教育の本質がますます危うい状況に置かれていることについての抗議するためだった。その結果、私のキャリアに傷がついてしまった。この10年間で私たちが目にしてきたのは、大学当局は物価の上昇や、政府からの補助金の減額や、想像できないくらいにふくれあがった学生が負っている借金などに苦しんでいるのに、大学のキャンパスは五つ星ホテルのように改装され、副総長や経営者は多額の報酬を受け取っているという構図だ。いっぽう、大学の警備員や清掃職員や食堂で働いている人々は、雀の涙のような給料でかつかつの生活を強いられている。
Covid危機が私たちに示したのは以下の3点だ。
①私たちの社会が実はどれほど病んだ状態にあるのか
②私たちが公共の福祉として受け取るべきものが何とわずかなものか
そして、
③市場資本主義に身を任せれば、どれだけ私たちの社会基盤が脆弱なものになるのか
だ。
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