ワシントンのユーラシア地政学を形作るブレジンスキーの亡霊
2018年5月14日
F. William Engdahl

これまで実に一匹狼として振る舞ってきたトランプ大統領だが、その最も顕著な特徴の一つは、ツイートやスキャンダルという意図的な煙幕を消し去ると、実際の政策展開が、少なくとも1992年にさかのぼるワシントン地政学の基本戦略に、どれほど忠実に従っているかという点だ。これはイラン核合意離脱という最近の嘆かわしい、全く違法で一方的な決定にも当てはまる。ロシアに対する容赦ない冷戦的な悪魔化キャンペーンや、陰険な新経済制裁の実施もそうだ。トランプ政権が中華人民共和国に対して徐々に始まった貿易戦争もそうだ。
アメリカのトランプ大統領は、衝動だけで行動するとか、予測できないとかいう、広く信じられている考えとは逆に、事実は逆だろうと私は考えている。トランプ政権の戦略的地政学的政策は、大統領本人のものではなく、権力者、つまり実際に支配をしていて、時に陰の政府と呼ばれる恒久的支配体制によるものなのだ。その政策の地政学が、一体誰を大統領にするのかかなりの程度まで決定しているのだ。
現在のワシントン外交政策が最初、公式に構築されたのは、1992年、父親ブッシュの下で、ディック・チェイニーが国防長官だったときのことだ。ソ連が崩壊し、ブッシュは意気揚々とアメリカが唯一の超大国だと宣言した。チェイニーの国防副長官、ポール・ウォルフォウィッツが、1994年-1999年の防衛戦略ガイダンスの策定責任者だった。それは無遠慮なもので、後にテッド・ケネディ上院議員によって、帝国主義者的と批判されたほどだ。編集されていないウォルフォウィッツ・ドクトリンの中で、“我々の第一の目的”は“旧ソ連地域であれ、他の地域であれ、かつてソ連がもたらした脅威のような新たなライバルの再出現を防ぐことだ。… 統合的に管理すればグローバル・パワーを生み出すに十分な資源がある地域を、いかなる敵対的勢力にも支配させないよう、我々は尽力しなければならない”とある。ジョージ・W・ブッシュの下、2002年のイラク戦争の準備段階で、単独覇権主義と予防戦争の行使がアメリカ政策の中心だと宣言することによって、ウォルフォウィッツ・ドクトリンはブッシュ・ドクトリンとして再浮上した。
基本的地政学
この記事の題名に戻って、現在のトランプの下でのアメリカ外交・国防政策が一体何であるかを解き明かすために、故大統領顧問ズビグニュー・ブレジンスキーの1997年の著書『ブレジンスキーの世界はこう動く―21世紀の地政戦略ゲーム』から引用しよう。これは、ブッシューウォルフォウィッツ・ドクトリンの基になるブレジンスキーの地政学的挑戦と予防戦争という考え方を、現在アメリカ一極支配に抵抗する勢力が現れているという文脈のなかで、適応したものに他ならない。
もちろん、ブレジンスキーは、ジミー・カーターの対ソ連軍アフガニスタン戦争の立案者だった。つまりその戦争は、CIAとサウジアラビア諜報機関とパキスタンISIがムジャヒディン・イスラム主義テロリストを訓練して行われたのだ。
1997年ブレジンスキーは、“ユーラシアを支配したり、アメリカにも挑戦するユーラシアの挑戦者が決して出現したりしないようにすることが極めて重要だ”と書いていた。彼は更に言明した。“最も危険なシナリオの可能性は、イデオロギーではなく、不満を互いに補完し合いながら団結した‘反覇権’同盟だ。つまり中国、ロシア、おそらくはイランの大連合だ。この不測事態を避けるため、ユーラシア外周の東西と南から同時に、アメリカは戦略地政学的手腕を発揮する必要がある。”
これに、ロシアと中国が、アメリカ覇権に対する最大の潜在的脅威と規定する最新のペンタゴン国家防衛戦略文書を加え、その後2015年にイラン経済制裁を解除して以来、ロシアと中国とイランの間の、特にシリアでのつながりが深まっていることを考慮すると、ワシントンが一体どう対処しているのかが明確になる。この三国は、私が言うところの「唯一の覇権国アメリカに敵対するユーラシアの挑戦」なのだから、連中はロシア・中国・イランを粉砕するために総力を挙げて取り組んでいるのだ。
ブレジンスキーが指摘した通り、支配継続というアメリカの目的にとって、ロシアと中国とイランの間に、人種的、宗教的、あるいは他の差異があることは問題ではない。2001年9月以来アメリカ外交政策は、この三国が国家主権の防衛のため、こうした差異にもかかわらず一層協力せざるを得ないように強いている。
標的ロシア…
最近の色々な出来事を、1997年ブレジンスキーによるユーラシアへの警告の視点から見てみよう。何の証拠も無しにロシアのせいにされたイギリスの偽スクリパリ毒ガス攻撃事件を、ワシントンは支持していた。またダマスカス郊外での偽化学兵器攻撃は、国連憲章や国際法のあらゆる前例を無視して、違法なアメリカ爆撃急襲の口実に利用された。あれは思い返して見れば、ロシアのあり得る反応を探るためのテストに他ならなかった。アメリカ・トマホークや他のミサイルが命中しようとしまいと、イスラエルや他のアメリカ同盟国が、シリア国内のイラン攻撃をエスカレートする前例が確立されたのだ。
更に、“壊滅的打撃を与える極悪非道の新たな経済制裁が、プーチンのオリガルヒ”に対して行われている。つまり世界第二位のアルミ・メーカー、ルサールのデリパスカのような者に対する経済制裁だ。ワシントンは、新経済制裁の口実をでっちあげようとさえしていない。連中の理由は、ロシア政府が“世界中で様々な悪意ある活動”に関与しているからだと言っているだけだ。
新経済制裁は、たとえ新経済制裁の前に購入したものであれ、制裁対象のロシア企業の株を保有している全ての欧米の銀行や投資家を罰するのだ。これは、あらゆる点で、戦争より酷くはないにせよ、武力戦争と同様、アメリカ財務省による極めて破壊的な新型金融戦争なのだ。911のすぐ後この手が開発され、以来、破壊兵器にまで磨きをかけられてきた。つまり経済的グローバリゼーションの下、世界が依然圧倒的に、貿易や中央銀行準備通貨で、USドルに依存しているという事実を利用しているのだ。
まずロシア人オリガルヒや企業に対する最新のアメリカ経済制裁では、将来、欧米資本市場で借り入れることが阻止されるだけではない。近年、対象にされたロシア企業に、何十億ドルも投資した非ロシア人投資家は、ロシア資産を保有しているかどで、精算を強いられ、二次的経済制裁の目に会っている。だから一体誰が買うというのだろうか? 既に主要EU証券決済機関の二社クリアストリームとユーロクリアは、制裁対象のロシア証券の決済を拒否するよう強いられている。彼らはロシア株を保有しているかどで、経済制裁にも直面する。たとえば、中国国営銀行が市場からドルを借りていれば、彼らは今や事実上、制裁対象のロシア企業と事業をすることを禁じられていることになるのだ。
標的中国…
ワシントンは、シリアとウクライナを巡って、プーチンのロシアに対する圧力を強化しながら、同時に、中国との貿易を最初の梃子として利用して、壊滅的経済戦争の初期段階を開始した。私が前の記事で指摘したように、ワシントンは、今後十年で主導的ハイテク製造国という立場に押し上げようとする中国の戦略を解体させることを狙っているのだ。この戦略は「中国製造2025」と呼ばれるもので、習近平の戦略目標、つまり一帯一路構想、経済シルク・ロード・プロジェクトの中核をなすものだ。
「中国製造2025」のもとで、ハイテクで世界のリーダーになろうとする中国の動きを標的に、ワシントンが一体何を計画しているかの一端が、アップル社に対する有力な挑戦者となる、中国の主要通信機器メーカーZTEと華為技術に対する扱いだ。4月、ZTEは通信機器をイランに売ったとされることで、ワシントンによる制裁対象となった。アメリカのサプライヤーは、極めて重要な部品を、中国ハイテク集団に供給することを禁じられている。だからアメリカから猶予を勝ち取ろうとしながらも、STEは一時的に操業を中止している。
標的イラン…
ドイツやフランスや他のEU諸国の猛烈な抗議にもかかわらず、トランプは一方的にイラン核合意を破棄した。狙いが、壊滅的打撃を与える経済制裁をイランに再び課して、2015年以来始まったかすかな進展を破壊させることなのは明らかだ。EUがイランとの合意を破棄するのを拒否しているにもかかわらず、アメリカによるイラン経済制裁が、イランと商売をしているEU企業の経済制裁もすると脅しているので、最終的にはEUの拒否は大して意味をなさない。
最近のトランプによるイランとの核合意破棄の一環として、アメリカは、中国や日本やEU諸国など他の国々に、イラン石油のあらゆる購入契約をやめるのに180日間の猶予を与えた。イランからの何十億ドルの航空機購入注文があったエアバスなどのヨーロッパ企業は、キャンセルを強いられるだろう。8月6日にUSドル購入や金や他の金属による貿易は、航空や自動車産業と同様に制裁される予定だ。11月4日以降、アメリカの経済制裁は、イランの金融・石油企業を標的にして、以前アメリカ財務省経済制裁リスト対象だった個人に対しても経済制裁が再開される。
明かな狙いは、正確に狙を定めた経済制裁という壊滅的新兵器を使用することだ。これはアメリカ財務省によって、イランの脆弱な経済を危機に陥れるべく計画されたものだ。同時に、NSC顧問ジョン・ボルトンは、新たなカラー革命のこころみを開始するため、イランのテロ組織、ムジャヒディン・ハルク(MEK)のを再活性化を主張しているという報道もある。MEKは2012年、クリントン国務長官によって、アメリカ国務省のテロ・リストから外されている。
アメリカ中央軍(CENTCOM)
各国の具体的な詳細や、各国に対するワシントンの行動から離れて全体を俯瞰すると、ユーラシアの三大国ーロシア・中国・イランは、系統的に標的にされており、これまでのところ、程度の差はあれ成功していることが見えてくる。
2月末、アメリカ中央軍(CENTCOM)の司令官ヴォーテル陸軍大将が、DoD Newsのインタビューに応じた。そこで、ロシアを取り上げ、特にロシアのシリア関与や、中国の新一帯一路構想や、ジブチや他の場所の中国軍事基地を例にあげるのに加え、ヴォーテル大将は、両国のイランとの結びつきに触れた。ヴォーテル大将は「ロシアも中国も、イランと多次元のつながりを開拓している。そして包括的共同作業計画のもとでの国連経済制裁解除が、イランが上海協力機構加盟申請を再開する道を開いた」と述べた。
皮肉にも、事実上の三正面戦争の同時開始は、現時点では経済戦争のレベルだとは言え、三大国が、一層密接に協力するという戦略原則を生み出している。中国はイラン石油の最大購入国だ。ロシアは、軍事備品を供給しており、それ以上のことも交渉中だ。この三国(中国・イラン・ロシア)のいずれにとっても、ワシントンの地政学的三正面戦争を目の前にして、不信や差異がどうであれ自己保存の目的で、これまでになかった以上に協力する以外に選択肢はないのだ。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書で、オンライン誌“New Eastern Outlook”に独占寄稿している。
<記事原文>
<New Eastern Outlook>
https://journal-neo.org/2018/05/14/brzezinski-s-ghost-shapes-washington-eurasia-geopolitics/
<グローバル・リサーチ>
https://www.globalresearch.ca/brzezinskis-ghost-shapes-washington-eurasia-geopolitics/5640506
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<新見コメント>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
F. William Engdahl「ワシントンのユーラシア地政学を形作るブレジンスキーの亡霊」2018.5.14を「寺島メソッド翻訳NEWS」のアップしました。
今回も「マスコミに載らない海外記事」から非常に重要な記事だったので、翻訳し直してみました。長い修飾語句を短くしたり、二つの文に分けてみたりしましたが、果たしてどれだけ読めるようになっているか心配です。皆様のご指摘をお待ちしております。
次になぜこの「ブレジンスキーの亡霊」の記事が重要かという点です。
前回の翻訳はProf. James Petras「帝国の征服への道: 和平と軍縮協定」でしたが、ここでは「和平合意」が武装解除の手段になっている点を、リビア、イラク、シリア、イラン、コロンビア革命軍(FARC)等を例に解き明かしてくれました。
現在、米朝和平会談が、「リビア方式」行われるかどうか問題になっています。「リビア方式」とは、武装解除してから制裁を解除する方式で、カダフィが軍を解体し、長距離弾道ミサイルなどを放棄した見返りに2003年外交的合意が調印されました。しかしアメリカはトリポリを狙った米軍基地を縮小することはなく、2011年にリビアは米・NATOによって破壊され、破綻国家にされてしまいました。
北朝鮮はそのことがわかっているから、段階的非核化を主張しています。
今回の翻訳「ブレジンスキーの亡霊」では、アメリカによる経済制裁がどのような形で行われているかを明らかにしてくれます。
経済制裁といっても、ロシアだけ、イランだけを経済制裁するだけではない。ロシアやイランと取引している国や企業をも巻き込んで行われる。現在EUがアメリカのイラン核合意破棄に反対しているが、イランと取引している企業も現在の取引をキャンセルさせられるのだ。アメリカに反対して取引を続ければいいではないかと考えがちだが、そういう場合アメリカから取引停止やドルの決済ができなくする制裁が加えられる。アメリカとの大きな取引を犠牲にしてまで、イランと取引するのはリスクが大きすぎる。だからイランと取引する国や企業は、イランとのエアバス契約をキャンセルしたり、イランとの石油取引をやめざるを得なくさせられるのだ。
ジョン-パーキンス『エコノミック・ヒットマン』ではアメリカは、まずは経済援助によって借金漬けにして言うことをきかせ、それでもだめなら、「ジャッカル」という暗殺者が従わない指導者を抹殺する。最終的な従わせる手段として「戦争」を仕掛けるということが著者自らの体験から書かれている。
しかしこの間の二つの翻訳は、上記3段階の侵略方法に加えて、「和平合意」が武装解除の手段となり、「経済制裁」によって他の国をも巻き込んで敵対国の弱体化を図るアメリカのやり口を明らかにしてくれる。このことを理解しておかないと、米朝会談による和平の進展を見誤ることになる。
アメリカにとっては「和平」が目的ではない。経済侵略か、軍事侵略しかあり得ない。だからトランプの「経済制裁」と「和平合意」は、彼の気まぐれのアメリカ第一主義だけから見るのではなく、ブレジンスキーのユーラシア一極支配の一環として、ロシア、イラン、中国を封じ込めるために行われていることを理解しておく必要がある。
F. William Engdahl

これまで実に一匹狼として振る舞ってきたトランプ大統領だが、その最も顕著な特徴の一つは、ツイートやスキャンダルという意図的な煙幕を消し去ると、実際の政策展開が、少なくとも1992年にさかのぼるワシントン地政学の基本戦略に、どれほど忠実に従っているかという点だ。これはイラン核合意離脱という最近の嘆かわしい、全く違法で一方的な決定にも当てはまる。ロシアに対する容赦ない冷戦的な悪魔化キャンペーンや、陰険な新経済制裁の実施もそうだ。トランプ政権が中華人民共和国に対して徐々に始まった貿易戦争もそうだ。
アメリカのトランプ大統領は、衝動だけで行動するとか、予測できないとかいう、広く信じられている考えとは逆に、事実は逆だろうと私は考えている。トランプ政権の戦略的地政学的政策は、大統領本人のものではなく、権力者、つまり実際に支配をしていて、時に陰の政府と呼ばれる恒久的支配体制によるものなのだ。その政策の地政学が、一体誰を大統領にするのかかなりの程度まで決定しているのだ。
現在のワシントン外交政策が最初、公式に構築されたのは、1992年、父親ブッシュの下で、ディック・チェイニーが国防長官だったときのことだ。ソ連が崩壊し、ブッシュは意気揚々とアメリカが唯一の超大国だと宣言した。チェイニーの国防副長官、ポール・ウォルフォウィッツが、1994年-1999年の防衛戦略ガイダンスの策定責任者だった。それは無遠慮なもので、後にテッド・ケネディ上院議員によって、帝国主義者的と批判されたほどだ。編集されていないウォルフォウィッツ・ドクトリンの中で、“我々の第一の目的”は“旧ソ連地域であれ、他の地域であれ、かつてソ連がもたらした脅威のような新たなライバルの再出現を防ぐことだ。… 統合的に管理すればグローバル・パワーを生み出すに十分な資源がある地域を、いかなる敵対的勢力にも支配させないよう、我々は尽力しなければならない”とある。ジョージ・W・ブッシュの下、2002年のイラク戦争の準備段階で、単独覇権主義と予防戦争の行使がアメリカ政策の中心だと宣言することによって、ウォルフォウィッツ・ドクトリンはブッシュ・ドクトリンとして再浮上した。
基本的地政学
この記事の題名に戻って、現在のトランプの下でのアメリカ外交・国防政策が一体何であるかを解き明かすために、故大統領顧問ズビグニュー・ブレジンスキーの1997年の著書『ブレジンスキーの世界はこう動く―21世紀の地政戦略ゲーム』から引用しよう。これは、ブッシューウォルフォウィッツ・ドクトリンの基になるブレジンスキーの地政学的挑戦と予防戦争という考え方を、現在アメリカ一極支配に抵抗する勢力が現れているという文脈のなかで、適応したものに他ならない。
もちろん、ブレジンスキーは、ジミー・カーターの対ソ連軍アフガニスタン戦争の立案者だった。つまりその戦争は、CIAとサウジアラビア諜報機関とパキスタンISIがムジャヒディン・イスラム主義テロリストを訓練して行われたのだ。
1997年ブレジンスキーは、“ユーラシアを支配したり、アメリカにも挑戦するユーラシアの挑戦者が決して出現したりしないようにすることが極めて重要だ”と書いていた。彼は更に言明した。“最も危険なシナリオの可能性は、イデオロギーではなく、不満を互いに補完し合いながら団結した‘反覇権’同盟だ。つまり中国、ロシア、おそらくはイランの大連合だ。この不測事態を避けるため、ユーラシア外周の東西と南から同時に、アメリカは戦略地政学的手腕を発揮する必要がある。”
これに、ロシアと中国が、アメリカ覇権に対する最大の潜在的脅威と規定する最新のペンタゴン国家防衛戦略文書を加え、その後2015年にイラン経済制裁を解除して以来、ロシアと中国とイランの間の、特にシリアでのつながりが深まっていることを考慮すると、ワシントンが一体どう対処しているのかが明確になる。この三国は、私が言うところの「唯一の覇権国アメリカに敵対するユーラシアの挑戦」なのだから、連中はロシア・中国・イランを粉砕するために総力を挙げて取り組んでいるのだ。
ブレジンスキーが指摘した通り、支配継続というアメリカの目的にとって、ロシアと中国とイランの間に、人種的、宗教的、あるいは他の差異があることは問題ではない。2001年9月以来アメリカ外交政策は、この三国が国家主権の防衛のため、こうした差異にもかかわらず一層協力せざるを得ないように強いている。
標的ロシア…
最近の色々な出来事を、1997年ブレジンスキーによるユーラシアへの警告の視点から見てみよう。何の証拠も無しにロシアのせいにされたイギリスの偽スクリパリ毒ガス攻撃事件を、ワシントンは支持していた。またダマスカス郊外での偽化学兵器攻撃は、国連憲章や国際法のあらゆる前例を無視して、違法なアメリカ爆撃急襲の口実に利用された。あれは思い返して見れば、ロシアのあり得る反応を探るためのテストに他ならなかった。アメリカ・トマホークや他のミサイルが命中しようとしまいと、イスラエルや他のアメリカ同盟国が、シリア国内のイラン攻撃をエスカレートする前例が確立されたのだ。
更に、“壊滅的打撃を与える極悪非道の新たな経済制裁が、プーチンのオリガルヒ”に対して行われている。つまり世界第二位のアルミ・メーカー、ルサールのデリパスカのような者に対する経済制裁だ。ワシントンは、新経済制裁の口実をでっちあげようとさえしていない。連中の理由は、ロシア政府が“世界中で様々な悪意ある活動”に関与しているからだと言っているだけだ。
新経済制裁は、たとえ新経済制裁の前に購入したものであれ、制裁対象のロシア企業の株を保有している全ての欧米の銀行や投資家を罰するのだ。これは、あらゆる点で、戦争より酷くはないにせよ、武力戦争と同様、アメリカ財務省による極めて破壊的な新型金融戦争なのだ。911のすぐ後この手が開発され、以来、破壊兵器にまで磨きをかけられてきた。つまり経済的グローバリゼーションの下、世界が依然圧倒的に、貿易や中央銀行準備通貨で、USドルに依存しているという事実を利用しているのだ。
まずロシア人オリガルヒや企業に対する最新のアメリカ経済制裁では、将来、欧米資本市場で借り入れることが阻止されるだけではない。近年、対象にされたロシア企業に、何十億ドルも投資した非ロシア人投資家は、ロシア資産を保有しているかどで、精算を強いられ、二次的経済制裁の目に会っている。だから一体誰が買うというのだろうか? 既に主要EU証券決済機関の二社クリアストリームとユーロクリアは、制裁対象のロシア証券の決済を拒否するよう強いられている。彼らはロシア株を保有しているかどで、経済制裁にも直面する。たとえば、中国国営銀行が市場からドルを借りていれば、彼らは今や事実上、制裁対象のロシア企業と事業をすることを禁じられていることになるのだ。
標的中国…
ワシントンは、シリアとウクライナを巡って、プーチンのロシアに対する圧力を強化しながら、同時に、中国との貿易を最初の梃子として利用して、壊滅的経済戦争の初期段階を開始した。私が前の記事で指摘したように、ワシントンは、今後十年で主導的ハイテク製造国という立場に押し上げようとする中国の戦略を解体させることを狙っているのだ。この戦略は「中国製造2025」と呼ばれるもので、習近平の戦略目標、つまり一帯一路構想、経済シルク・ロード・プロジェクトの中核をなすものだ。
「中国製造2025」のもとで、ハイテクで世界のリーダーになろうとする中国の動きを標的に、ワシントンが一体何を計画しているかの一端が、アップル社に対する有力な挑戦者となる、中国の主要通信機器メーカーZTEと華為技術に対する扱いだ。4月、ZTEは通信機器をイランに売ったとされることで、ワシントンによる制裁対象となった。アメリカのサプライヤーは、極めて重要な部品を、中国ハイテク集団に供給することを禁じられている。だからアメリカから猶予を勝ち取ろうとしながらも、STEは一時的に操業を中止している。
標的イラン…
ドイツやフランスや他のEU諸国の猛烈な抗議にもかかわらず、トランプは一方的にイラン核合意を破棄した。狙いが、壊滅的打撃を与える経済制裁をイランに再び課して、2015年以来始まったかすかな進展を破壊させることなのは明らかだ。EUがイランとの合意を破棄するのを拒否しているにもかかわらず、アメリカによるイラン経済制裁が、イランと商売をしているEU企業の経済制裁もすると脅しているので、最終的にはEUの拒否は大して意味をなさない。
最近のトランプによるイランとの核合意破棄の一環として、アメリカは、中国や日本やEU諸国など他の国々に、イラン石油のあらゆる購入契約をやめるのに180日間の猶予を与えた。イランからの何十億ドルの航空機購入注文があったエアバスなどのヨーロッパ企業は、キャンセルを強いられるだろう。8月6日にUSドル購入や金や他の金属による貿易は、航空や自動車産業と同様に制裁される予定だ。11月4日以降、アメリカの経済制裁は、イランの金融・石油企業を標的にして、以前アメリカ財務省経済制裁リスト対象だった個人に対しても経済制裁が再開される。
明かな狙いは、正確に狙を定めた経済制裁という壊滅的新兵器を使用することだ。これはアメリカ財務省によって、イランの脆弱な経済を危機に陥れるべく計画されたものだ。同時に、NSC顧問ジョン・ボルトンは、新たなカラー革命のこころみを開始するため、イランのテロ組織、ムジャヒディン・ハルク(MEK)のを再活性化を主張しているという報道もある。MEKは2012年、クリントン国務長官によって、アメリカ国務省のテロ・リストから外されている。
アメリカ中央軍(CENTCOM)
各国の具体的な詳細や、各国に対するワシントンの行動から離れて全体を俯瞰すると、ユーラシアの三大国ーロシア・中国・イランは、系統的に標的にされており、これまでのところ、程度の差はあれ成功していることが見えてくる。
2月末、アメリカ中央軍(CENTCOM)の司令官ヴォーテル陸軍大将が、DoD Newsのインタビューに応じた。そこで、ロシアを取り上げ、特にロシアのシリア関与や、中国の新一帯一路構想や、ジブチや他の場所の中国軍事基地を例にあげるのに加え、ヴォーテル大将は、両国のイランとの結びつきに触れた。ヴォーテル大将は「ロシアも中国も、イランと多次元のつながりを開拓している。そして包括的共同作業計画のもとでの国連経済制裁解除が、イランが上海協力機構加盟申請を再開する道を開いた」と述べた。
皮肉にも、事実上の三正面戦争の同時開始は、現時点では経済戦争のレベルだとは言え、三大国が、一層密接に協力するという戦略原則を生み出している。中国はイラン石油の最大購入国だ。ロシアは、軍事備品を供給しており、それ以上のことも交渉中だ。この三国(中国・イラン・ロシア)のいずれにとっても、ワシントンの地政学的三正面戦争を目の前にして、不信や差異がどうであれ自己保存の目的で、これまでになかった以上に協力する以外に選択肢はないのだ。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書で、オンライン誌“New Eastern Outlook”に独占寄稿している。
<記事原文>
<New Eastern Outlook>
https://journal-neo.org/2018/05/14/brzezinski-s-ghost-shapes-washington-eurasia-geopolitics/
<グローバル・リサーチ>
https://www.globalresearch.ca/brzezinskis-ghost-shapes-washington-eurasia-geopolitics/5640506
(上のサイトではブロックされている場合は、下のサイトで開けます)
<新見コメント>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
F. William Engdahl「ワシントンのユーラシア地政学を形作るブレジンスキーの亡霊」2018.5.14を「寺島メソッド翻訳NEWS」のアップしました。
今回も「マスコミに載らない海外記事」から非常に重要な記事だったので、翻訳し直してみました。長い修飾語句を短くしたり、二つの文に分けてみたりしましたが、果たしてどれだけ読めるようになっているか心配です。皆様のご指摘をお待ちしております。
次になぜこの「ブレジンスキーの亡霊」の記事が重要かという点です。
前回の翻訳はProf. James Petras「帝国の征服への道: 和平と軍縮協定」でしたが、ここでは「和平合意」が武装解除の手段になっている点を、リビア、イラク、シリア、イラン、コロンビア革命軍(FARC)等を例に解き明かしてくれました。
現在、米朝和平会談が、「リビア方式」行われるかどうか問題になっています。「リビア方式」とは、武装解除してから制裁を解除する方式で、カダフィが軍を解体し、長距離弾道ミサイルなどを放棄した見返りに2003年外交的合意が調印されました。しかしアメリカはトリポリを狙った米軍基地を縮小することはなく、2011年にリビアは米・NATOによって破壊され、破綻国家にされてしまいました。
北朝鮮はそのことがわかっているから、段階的非核化を主張しています。
今回の翻訳「ブレジンスキーの亡霊」では、アメリカによる経済制裁がどのような形で行われているかを明らかにしてくれます。
経済制裁といっても、ロシアだけ、イランだけを経済制裁するだけではない。ロシアやイランと取引している国や企業をも巻き込んで行われる。現在EUがアメリカのイラン核合意破棄に反対しているが、イランと取引している企業も現在の取引をキャンセルさせられるのだ。アメリカに反対して取引を続ければいいではないかと考えがちだが、そういう場合アメリカから取引停止やドルの決済ができなくする制裁が加えられる。アメリカとの大きな取引を犠牲にしてまで、イランと取引するのはリスクが大きすぎる。だからイランと取引する国や企業は、イランとのエアバス契約をキャンセルしたり、イランとの石油取引をやめざるを得なくさせられるのだ。
ジョン-パーキンス『エコノミック・ヒットマン』ではアメリカは、まずは経済援助によって借金漬けにして言うことをきかせ、それでもだめなら、「ジャッカル」という暗殺者が従わない指導者を抹殺する。最終的な従わせる手段として「戦争」を仕掛けるということが著者自らの体験から書かれている。
しかしこの間の二つの翻訳は、上記3段階の侵略方法に加えて、「和平合意」が武装解除の手段となり、「経済制裁」によって他の国をも巻き込んで敵対国の弱体化を図るアメリカのやり口を明らかにしてくれる。このことを理解しておかないと、米朝会談による和平の進展を見誤ることになる。
アメリカにとっては「和平」が目的ではない。経済侵略か、軍事侵略しかあり得ない。だからトランプの「経済制裁」と「和平合意」は、彼の気まぐれのアメリカ第一主義だけから見るのではなく、ブレジンスキーのユーラシア一極支配の一環として、ロシア、イラン、中国を封じ込めるために行われていることを理解しておく必要がある。
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