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億万長者の支援をうけたヒューマンライツウォッチが、コロナが猛威を振るうなか、左翼政権にたいする破壊的制裁を求めて米国でロビー活動

<記事原文>
Billionaire-Backed Human Rights Watch Lobbies for Lethal US Sanctions on Leftist Govts as Covid Rages

ベン・ノートン 2020年4月17日
コンソーシアムニュース26巻、109号–2020年4月19日
<記事翻訳> 寺島美紀子・隆吉

『グレイゾーン』のベン・ノートンが、米帝国の手先としてはたらく「人権団体」HRWを徹底検証する。

写真:ヒューマンライツウォッチ事務局長のケネス・ロス。

 ヒューマンライツウォッチ(HRW)は、米国を代表するいわゆる人権団体であるが、中南米のいくつもの左翼政権に対して制裁を加え、その息の根を止めるよう米国政府にさかんにロビー活動をおこなってきた。たとえば同団体は、そうした左翼政権を不安定化させる攻撃的な政権転覆工作を加速させているとして、ドナルド・トランプ政権を称賛さえしている。

 またHRWのようなNGOはまた、標的を定めた制裁は軍事行動よりも好ましい代替手段であると表現している。しかし国際的な法律専門家のあいだでは、このような措置は何千人もの民間人の死につながる経済戦争の一形態であると広く認識されており、実際、無数の人びとの生活を破壊し、国々の経済全体に破壊をもたらしてきた。

 コロナウイルスの世界的流行が世界中に広がる中、民主的に選出されたニカラグアの左翼政権に対してトランプ政権が課した新たな制裁措置は、HRW活動家たちの大成果となった。この経済戦争の激化を歓迎した人びとの中には、HRWオーストラリア開発支援局長のステファニー・マクレナンもいた。マクレナンは、新たな制裁措置は「素晴らしいニュースだ」と語った。


 一方的な経済制裁は、政権転覆の標的となっている国々の経済を麻痺させ、彼らを米国支配の金融システムから排除し、米国寄りの政権を樹立できるようにすることを目的としている。それは、市民全体を集団的に罰することによって基本的人権を剥奪する行為である。米国政府は、国連や他の国際機関の承認もなしに、こうした高圧的な措置を日常的に実施している。
 米国が世界で一方的に仕掛けたこのような経済戦争に対して、HRWは異議申立をするどころか、米国がニカラグアへの攻撃をエスカレートさせたことを自分の功績だと讃えている。人口わずか600万人の小国が、壊滅的なCOVID-19の発生と闘い、骨の折れる「平和と和解」プロセスに取り組んでいるまさにそのときにである。

 2018年、トランプ政権はニカラグアの流血クーデターを支持した。ニカラグアでは右翼過激派が、国の治安部隊と左翼のサンディニスタ活動家たちを射殺・拷問・殺害し、建物を焼き払い、人びとを焼き殺した。政府を不安定化することを期待してのことである。しかし、このクーデターが失敗に終わったとき、 米国政府によって資金提供されたこの反政府勢力は、政権転覆という武器の次の手段として経済戦争(と経済的制裁)に舵を切った。
 ニカラグアの「人権」団体と自称しつつ右翼の反政府勢力と緊密に連携する組織が、このクーデター計画に大きな役割を果たした。彼らがでっち上げた突飛な統計を、企業メディアやHRWのような国際NGOが飽きもせず繰り返したからである。
 米国の経済制裁をHRWが断固として支持していることは、中南米の独立国家とくに社会主義国家に対して米国が圧力をかける手先として、同組織をいかに利用してきたかを明確に示している。HRWのようなNGOはどれも、経済戦争の代理戦争を自ら買って出て、ニカラグアのような国々が、米国の支援する不安定化キャンペーンによって悪化させられてきた社会的分裂を、再建したり癒したりすることを妨げている。

 同様の戦略はベネズエラでも見られる。ベネズエラは米国のクーデター計画の標的となっているもうひとつの中南米左翼国家である。カラカスの社会主義政府を悪者扱いすることに十数年を費やしてきたHRWは、現在カラカスに対してさらなる痛みをもたらす経済制裁を課すよう要求している。すでにこの国は、非人道的かつ国際法に反する一方的な米国の封鎖下にあり、少なくとも4万人、恐らく10万人もの民間人が死亡している。
 多くの学者や独立系の人権専門家たちは、ベネズエラに対する露骨な二重基準(ダブルスタンダード)についてHRWを長いあいだ批判してきた。2008年、米国の支援を受けたベネズエラ反政府勢力による妨害と暴力を隠蔽するため、HRWは大部の報告書を発表した。報告書では、右翼活動家たちの根拠のない主張を事実であるかのように無批判に繰り返し、その一方で彼ら右翼活動家たちの暴力を組織的に隠蔽していた。この疑わしい報告書に対して、100人以上の研究者が「学問の最低限の基準・公平さ・正確さ・信頼性を満たしていない」としてHRWを非難する公開書簡を発表した。

 HRW事務局長のケネス・ロスは、ニカラグアとベネズエラに対してさらなる経済制裁を求めることに先陣を切った。「米国の経済戦争をエスカレートさせろ」という彼の呼びかけは、HRW米州局長であるホセ・ミゲル・ビバンコによって声高に増幅された。
 ビバンコは中南米の右翼反政府勢力と緊密な同盟関係にあり、人権問題を装って彼らの最も強硬な立場を推進することで悪名高い人物だ。彼は、左翼諸国とのいかなる交渉の試みも断固として阻止しようとした。たとえばトランプ政権は、ニカラグア、ベネズエラ、キューバを「暴政のトロイカ」と呼んで経済制裁を加えた。ビバンコは経済制裁こそ「彼らが理解できる唯一の言語だ」と主張した。
 ビバンコは大量の文書を書き散らして、「中南米にわずかに残る社会主義政権に経済のハンマーを振り下ろせ」と米国議会にロビー活動をおこなってきた。彼の行動はHRWの使命であり本質である。それは、米国国務省が十分に民主的でないと見なしたすべての政権を不安定化させることであり、抑圧された人びとを懸念しているという隠れ蓑をまとっておこなわれてきた。


工作資金の出所。億万長者の冷血な戦士

 設立当初からHRWは国際的なNGOと米国政府のあいだの回転ドアとして機能してきた。米国の戦争や軍事介入に反対することを繰り返し拒否して、米国の同盟国に対しては明確なダブルスタンダードを示した。その一方で、米国による政権転覆の標的にされた独立諸国の犯罪や悪事とおぼしき事実に、執拗にまで執着してきた。
 HRWは冷戦の最中、ヘルシンキウォッチとして設立された。ヘルシンキウォッチは反ソビエトのロビー団体であり、米国政府と密接な関係をもち、フォード財団から資金援助を受けていた。そしてCIAの抜け道として長年奉仕してきた。

 ケネス・ロス事務局長は27年間HRWを指揮してきたが、これは彼が「独裁者」と嘲笑する指導者の大半よりもはるかに長い期間だ。ニューヨーク州南部地区連邦検事局の連邦検察官としてキャリアをスタートさせたロス事務局長は、一度もワシントンの外交政策から大きく逸脱したことはなかった。
 ロスは、2019年11月にボリビアで起きた極右軍事クーデター(モラレス大統領を排除した)を支持し、その後の軍事政権による先住民抗議者たちの大虐殺を軽視した。さかのぼって2011年、HRW事務局長は「保護責任ドクトリン」を賛美する論説を書いていた。そのドクトリンの主張は、米国と同盟国は、民間人を脅かしているとされる政権を破壊するために軍隊を派遣して転覆すべしというものである。たとえば、彼は、帝国主義的侵略をかばうために見え透いた煙幕を張って、リビアへのNATOの軍事介入を正当化した。その軍事介入で、それまで繁栄していた国リビアを破綻国家に変え、露天奴隷市場の本拠地にしてしまった。
(保護する責任:自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意志のない国家に対し、国際社会全体が当該国家の保護を受けるはずの人びとについて「保護する責任」を負うという新しい概念である。ジェノサイド・戦争犯罪・民族浄化・犯罪という4つの主要な懸念に対処するために、2005年の世界サミットで国連のすべての加盟国によって承認された。)

 今年1月、トランプ政権がイランの最高司令官カセム・スレイマーニを超法規的に処刑したことを、ロスは正当化すべく貢献した。これは、この地域を壊滅的な紛争に陥らせようとする恥知らずな戦争行為であった。また彼はここ数か月、中国政府に対する長年の憤懣を抑えきれず、中国政府をナチスドイツになぞらえたり、中国人を「殺人ロボット」だとほのめかした偽ビデオを拡散したりした。
 その間ずっと、ロスの組織HRWは自らを高潔で完全に公平な人権擁護団体だと宣伝してきた。そんな悪質な世界規模のブランド確立作戦が可能になったのは、反共産主義の億万長者ジョージ・ソロスからの1億ドルの助成金のおかげである。ソロスは、政権転覆産業の中心的な資金提供者であり、熱心な冷戦時代の戦士でもある。米国や西側と緊密に協力し、一連の「カラー革命」を通じて東欧の社会主義志向の政府を転覆させ、経済を民営化し、新たに資本主義国家となった国を欧州連合やNATOに統合するのを支援した。

 ワシントンポスト紙のデイビッド・イグナチオ記者は1991年に、ソロスを「かつてはCIAが私的におこなっていたことを今では公の場でおこなっている」「あからさまな工作員」の中心人物だと命名した。「ソロスはいわゆる『民主化』運動グループへ資金提供と心情的支援をおこない、反政府戦闘員を訓練し、共産主義政権の転覆のために働いている」と。
 ソロスは右翼にとってはちょっとしたボギーマンとなっていて、ばかげた陰謀論や反ユダヤ主義的な暴言で標的にされているものの、そのオリガルヒ(財閥)は西側諸国の中道左派勢力からは幅広く庇護をあたえられ、新自由主義的な政権転覆活動に資金提供をしてきている。
 HRWの共同設立者のひとりであるアリア・ネイアは、団体の設立後、ソロスのオープンソサエティ財団の会長になった。もうひとりの共同設立者であるロバート・L・バーンスタインは、ネイアがその財団の設立に協力したことを最も高く評価し、その回顧録の中で次のように書いた。「アリア・ネイアがHRWの発展のために果たした役割はいくら誇張しても足りないだろう」と。



 HRWの億万長者スポンサーであるソロスは、ロス事務局長と同様、中国に対して強硬な立場をとっている。そして中国が新自由主義的政策をとっているにもかかわらず民主主義への「致命的な危険」と呼び、中国政府を弱体化・不安定化させ、共産党を政権の座から追い出そうとする団体に資金を注ぎ込んでいる。



ウォールストリートお得意の権利団体、それがHRW

 ソロスのような億万長者(オリガルヒ)の惜しみない支援のおかげで、HRWの活動家たちは、ニューヨーク市のエンパイアステートビルにあるHRWの豪華なオフィススペースで仲間のエリートと親しく交わっている。この豪華な本部から三つのフロア全体を見下ろしながら、HRWの活動家たちは、彼らが「独裁的」だと見なす諸外国政権への圧力を強める方策を練っている。
 エンパイアステートビルは2013年に、この賃借人を讃えるため、「ヒューマンライツウォッチに敬意を表する鮮やかな青」にビル壁面をライトアップした。実はその4年前、ビルの経営陣が中華人民共和国の建国60周年を記念する決定をしたとき、HRWの関係者はそれを非難して経営陣に怒りの公開書簡を送っていたのであった。



 HRWの新自由主義的な政治的志向は、人権について非常に限定的な理解しかもっていない億万長者スポンサーのイデオロギーをそのまま反映している。だからその人権団体の認識からは、植民地化された人びとが占領者に武力で抵抗する権利や、労働者が組織化したり組合を結成したりする権利が抜け落ちている。
 HRWは北半球の白人住民に対する懸念しかもちあわせていないので、米国の警察によって残忍に殺害された米国黒人については当然ながら沈黙する。東欧でNATOが支援した「カラー革命」への参加者に対する弾圧に比べれば、米国黒人への弾圧など無いに等しい、とまで言っている。
 社会主義諸政権とその構成員である労働者中心の選挙民を、HRWはさかんに貶め弱体化させている一方、企業国家の米国と緊密に協力してきた。実際、HRWは2018年3月にウォール街でナスダック証券取引所開設40周年を祝う鐘を鳴らした。
 「ヒューマンライツウォッチは、人権と法の支配が守られるところでこそ、ビジネスが繁栄することを知っています」と、HRWグローバルイニシアチブ局長のミンキー・ワーデンはツイートした。人権も法の支配も守られていない米国において、なにひとつ皮肉をまじえることもなしに、である。



 HRWの小切手に署名する億万長者はソロスだけではない。サウジアラビアのオリガルヒもいる。サウジのオリガルヒが従業員たちを虐待した事件をHRWは文書で記録したにもかかわらず、その後、HRWはその口止め料として多額の現金をそのオリガルヒから受け取った。そのことで今は非難を浴びている。そのうえ、ケネス・ロスはサウジのこの億万長者からの献金47万ドルを個人的に管理していた。献金を個人管理するなどというこの非常に疑わしい決定の責任をしぶしぶ認めたのは、虐待と口止め料という事実が公式に暴露されてからのことであった。

 HRWがリベラルな組織とつながりあるとか、また不法占領されたパレスチナ地域におけるイスラエルの残虐行為を批判したとかを理由に、ときには保守派がHRWを攻撃することもあったが、HRWは米国議会で最も軍国主義的な上院議員のひとりに敬意を表している。
 2018年、上院議員ジョン・マケインが死去すると、HRWは、米国侵略戦争の熱烈な支持者であるこの共和党の政治家を「哀れみ深い人物」だともてはやした。マケインの遺産とは、彼の言う「人権擁護」の行為に他ならないとすら言ったのである。
 またHRWは、国際法の下では明らかに違法である米国によるイラク侵略に反対することも拒否した。(イラク戦争が始まった後になってようやく、そのNGOは反対の声を上げた。もはや反対しても安全であり目に見える影響を与えないことが保証された時になって、であった)
 同様にHRWは、米国が支援したサウジアラビアによるイエメン戦争に対して、その終結を求める声明を繰り返し拒否してきた。米国が支援したサウジ軍によるイエメンでの残虐行為を文書で記録してきたにもかかわらず。

 米国による政権転覆戦争に関して声高に反対することから身を引いたHRWであったが、HRWが人権侵害国だと主張する国々には経済制裁を課すよう、米国や他の西側諸国政府にさかんに働きかけている。
 HRWは、自分たちがロビー活動の対象としている制裁は、もっぱら政府関係者や組織を「標的にした」ものであり民間人を傷つけるものではないと主張している。この主張を覆す最高の証拠は、ベネズエラとイランの住民にとっての現実である。これらの国々は米国の制裁によって国際金融システムから締め出され、コロナ禍の中ではとくに食料・医薬品・医療機器を輸入するのに必要な資産を奪われ、多くの人びと、とくに貧しい人びとの生活や命は地獄に落とされたようなものになっている。
 HRWは珍しくイランに関して、米国の制裁がもたらす破壊的な影響を認めた報告書を提出したことが一度だけあった。しかし、それも制裁の廃止を求めたのではなかった。制裁に原則的に反対したのではなく、その実施方法を批判しただけで、すでに存在する措置について「明確化」するよう求めただけである。
 HRWは、ワシントンの「公式の敵」に対してさらに積極的な制裁をするようロビー活動をおこなっているが、米国が支援する抑圧的な右翼政権に対しては、同じような懸念の一片ほども示さない。HRWはこれらの国々の人権侵害については散発的に報告しているものの、とうてい一貫したものではない。



 写真:HRW米州局長ホセ・ミゲル・ビバンコがともに写真に収まるのは、米州機構(OAS)事務総長ルイス・アルマグロ。彼もまた政権転覆のロビイストである。


「ニカラグアに制裁を」:トランプにロビー活動

 トランプ政権は、民主的に選出されたニカラグアのサンディニスタ政権の転覆に専念しており、2018年の暴力的なクーデター計画を支持し、この小さな国を「国家安全保障への脅威」と呼び、連続数回にわたる制裁を要求した。これはニカラグア経済を麻痺させ、貧困層や労働者階級にどうにもならないほど酷い悪影響を与えた。
 米国政府は2020年3月5日、ニカラグアに新たな制裁措置を加えた。今回は同国の警察を標的にしたものであった。
 多くのHRWの活動家がこれに応じて、公にトランプ政権を称賛した。かつて米国政府に勤務していたことのあるHRW職員のひとりは、ニカラグアの右派メディアの特集頁に制裁を称賛する論評を掲載した。
 かつて『グレイゾーン』はこれについて報じたことがある。HRWがどうやって米国政府と米州機構と手をたずさえ、ニカラグアのクーデターに参加した凶悪犯罪者たちを釈放するよう、いかに精力的にロビー活動をおこなったか、を詳しく説明していたのである。実はワシントンが資金提供をした右翼反政府勢力のリストを使って、HRWはその犯罪者たちを「政治犯」であると偽ったのである。その結果、サンディニスタ政権は国際的な圧力キャンペーンに譲歩して彼らを恩赦することに同意したのだが、釈放されたひとりの男は妊娠中のガールフレンドを刺殺し、冷血にも殺害してしまった。
 HRWはこのスキャンダルについて何もコメントしておらず、その行動を後悔している様子も見せていない。その代わりに、この「人権」団体は、選挙で民主的に選ばれたニカラグア政府に対して、より積極的な国際的制裁行動を求める呼びかけを増幅させた。

 3月17日、 致命的なコロナウイルスのパンデミックの真っ最中に、HRW米州局に所属するミーガン・モンテレオーネは、ニカラグア警察に対する新たな制裁措置に関して、トランプ政権を称賛する記事を発表した。
 モンテレオーネはHRWのウェブサイトに掲載されている公式略歴の中で次のように記している。「HRWに入社する前は、米国司法省で国際問題専門官を務めていた」。つまりこれは、ワシントンとこのいわゆる非政府組織とのあいだに回転ドアが実際に存在していることの一例である。



 モンテレオーネの論説は、ニカラグアの右翼反政府勢力の代弁者(拡声器)である『コンフィデンシャル』のウェブサイトに掲載された。このサイトは米国政府から多大な資金提供を受け、ワシントンと密接に協力している。
 『コンフィデンシャル』は依怙贔屓をカモフラージュすることさえしない。攻撃的で党派的であり、ニカラグアの選挙で民主的に選ばれた政府を毎日のように「不当な政権」とか「独裁政権」と言い続けている。

 『コンフィデンシャル』はカルロス・フェルナンド・チャモロが所有しているウェブサイトである。チャモロはニカラグアで最も権力をもつチャモロ一族のオリガルヒで、右派の野党党首を次々と輩出してきた。彼はニカラグアのビオレータ・チャモロ前大統領の息子であり、10年に及ぶ米国のテロ戦争と経済封鎖の後に政権を握った保守派である。
 『コンフィデンシャル』は2018年のニカラグアでの暴力的なクーデター未遂を強く支持し、米国が支援するクーデター謀議者らが、政府の治安部隊や左翼活動家たちおよびサンディニスタ政権の支持者とその家族を殺害しテロ行為をおこなう際の、事実上の応援部隊として機能した。
 HRWは、この2018年のクーデター未遂で、米国が支援する暴力的な反政府勢力を全面的に支持した。人権擁護団体であるはずのこの団体は、この暴力行為について、逆にニカラグア政府のほうを全面的に非難し、ワシントンが応援したことによってクーデター策謀者たちが犯した凶悪犯罪を隠蔽し、そうした暴力行為をなかったことにしてしまった。
 モンテレオーネは『コンフィデンシャル』紙上では、HRWがむき出しの偏見を行使したことをそのまま引き受けて、その記事は一度も反政府勢力の暴力の波には言及せず、「米国の新たな制裁は、正義を待っている犠牲者に希望を与える」とまで言明した。

 実際、HRWはトランプ政権の新たな制裁措置を自らの大手柄だと吹聴した。モンテレオーネは、「2019年、ヒューマンライツウォッチは、指名された三人の政府高官のうち二人に制裁を勧告した」と書いた。
 モンテレオーネは、その論説で米国政府(彼女の前の雇用主)まで引用し、米国財務省の高度に政治的な告発を「紛れもない」事実として扱った。
 「新たな制裁措置は、責任者たちの責任を問うだけでなく、現在進行中の虐待を抑制するのにも役立つ前向きな一歩である」と、そのHRW米州局所員は書いている。
 彼女は、より多くの国に制裁を課すよう呼びかけることで、ニカラグアの反政府勢力の代弁者『コンフィデンシャル』紙上で彼女の論説の結論を次のように締めくくった。「米州各国政府と欧州各国政府がこのメッセージを補強し、オルテガ政権に圧力をかけ続けることが重要である。そうすれば過去および現在進行中の虐待の責任を負う政府高官たちに標的を絞った制裁を採択することにつながるだろう」
 『コンフィデンシャル』はモンテレオーネの記事をスペイン語に翻訳し、ニカラグア警察を誹謗中傷する政治風刺漫画と一緒に掲載した。彼女の論説はまた、右翼的なHRW米州局長ホセ・ミゲル・ビバンコによってツイッター上で宣伝された。かくしてビバンコは、中南米の保守的な反政府勢力と密接に協力し、彼らの行動戦略を国際舞台で推進している。

 2020年3月19日、何千人もの米国人がCovid-19の世界的流行病で死亡しているのに、米国連邦政府は自国民を助けるために実質的に何もしていなかったときであったが、そのときにHRW事務局長ケネス・ロスは、ニカラグアに対する新たな制裁で、トランプ政権は「わずかなりとも人権を守るための説明責任を果たした」と称賛した。(これは、ケネス・ロスが世界保健機関WHOを「中国に対して過度に甘い」と非難したわずか一週間後のことだった。コロナを制圧した中国を批判し、コロナで手抜きをしているトランプを称賛したわけである。)



 HRW米州局員ミーガン・モンテレオーネが、HRWでの経歴として記載しているただひとつの記事は『Infobae』に掲載された「反サンディニスタ長編物語」である。『Infobae』はアルゼンチンに拠点を置く右翼オリガルヒ所有の頑強な右翼ウェブサイトである。ニカラグアの野党メディア同様、『Infobae』もその記事の中でニカラグアの民主的に選ばれた政府を「レジーム(独裁政権)」だと表現している。
 モンテレオーネのニカラグア左翼政権への執拗なまでの憎悪は、彼女のツイッターアカウントを見ても明らかであり、彼女のツイートのほとんどすべてが反ニカラグアの投稿である。どうやら中南米はおろか、世界の他の国々も、人権を侵害している国は全くないらしい。
 HRWの同僚たちもモンテレオーネと同様に、トランプ政権がニカラグアに課した新たな制裁措置を称賛した。その中には、HRWメディア局次長のエマ・デイリーとHRW欧州メディア局次長のヤン・クーイが含まれている。


制裁はニカラグアの民間人を殺す

 ヒューマンライツウォッチがニカラグアに対して制裁を強く要求したのは、これが初めてではなかった。実際、この「人権」団体は、ニカラグアという小さな国の右翼反政府勢力のために活発にロビー活動をおこなってきた。
 HRW米州局長のホセ・ミゲル・ビバンコは、ニカラグアのサンディニスタ政権を弱体化させることへの執念とともに、この地域の左翼諸国に対して露骨な偏見を示してきた。
 2019年6月、ビバンコは米国連邦議会で証言し、「ニカラグア政権の高官に対する、資産凍結を含む、標的を絞った制裁を発動する」よう、立法機関にロビー活動をおこなった。



 議会証言に関する公式プレスリリースの中で、HRWは同日、次のように明言した。「米国議会は、ニカラグア政権の高官に対して渡航禁止や資産凍結などの標的を絞った制裁を課すよう、トランプ政権に圧力をかけるべきである」
 HRWは、ニカラグアの右翼反政府勢力がクーデターを企てた際におこなった極端な暴力については一切言及せず、代わりに死傷者のすべてを政府のせいにした。

 このいわゆる人権団体はまた、トランプ政権が以前におこなったニカラグアへの制裁を称賛し、プレスリリースで「HRWは、米国財務省が2018年の7月と12月、人権侵害と汚職に関与した5人のニカラグア人に制裁を課した際に、グローバル・マグニツキー法が成功裡に適用された」と述べ、支持を表明した。
(2009年、ロシアの税理士セルゲイ・マグニツキーは、ロシア税務当局が関与する2億3千万ドルの詐欺を調査したが、逆に詐欺を犯した当人として非難され、拘留後、モスクワの刑務所で死亡した。この法律の主な目的は、マグニツキーの死に責任があると考えられていたロシア当局者に、米国への入国と銀行システムの使用を禁止することであった。2012年12月、オバマ大統領が署名。
 2016年以降、世界的に適用される法として、米国政府が人権侵害者と見なす者を制裁し、資産を凍結し、米国への入国を禁止することを認めている。訳註)

 HRWはさらに一歩進んで、米国議会の議員らに、米国が支持するニカラグア反政府指導者たちと会合をもつように促し、次のように述べた。「HRWはまた米国議会に勧告した。ニカラグアからワシントンにやって来る人権擁護活動家・活動家・ジャーナリスト・反政府勢力と定期的に会合をもち、ニカラグアの状況を正しく理解してバランスを保ってほしい」
 議会証言のわずか一週間後、HRWとビバンコは、「ニカラグアの弾圧:抗議者や反政府勢力に対する拷問・虐待・起訴」と題する報告書の中で、ニカラグアへの制裁を課すことをトランプ政権に求める声を再燃させた。この報告書はクーデター未遂を完全に隠蔽し、右翼反政府勢力の怪しげな噂話と流言を無批判に繰り返したものであった。
 同報告書に付随する新たなプレスリリースで、HRWは米国政府だけでなく欧州や中南米の他の政府からも制裁措置を求めて、その声を拡大した。
 「米国政府および欧州各国政府はニカラグアの政府高官に標的を絞った制裁を課すべきだ」とHRWは書いた。
 この「人権」団体は、「渡航禁止や資産凍結など標的を絞った制裁を受けるべきニカラグア政府高官のリスト」を提供した。リストの中には、ダニエル・オルテガ大統領や多数の警察・治安当局者の名前があった。これらのニカラグア政府高官のほとんどは、過去も、また引き続き現在も、米国政府から制裁措置を受けている。
 英語とスペイン語の両方で、ビバンコはさらなる経済戦争を求めるこの要求を拡散した。



ビバンコ:「ニカラグア政権と交渉はできない」

 HRWの米州局長であるホセ・ミゲル・ビバンコは、中南米の右翼の中で最大利益を追求する立場のいくつかを自分にも適用している。彼はニカラグア政府との交渉に公然と反対し、可能な唯一の行動は経済戦争であると主張した。
 英語では、ビバンコの言葉は一見慎重で筋が通っているように見える。しかしスペイン語では、手袋を外していよいよ決闘だとばかり、右翼中南米活動家におなじみの過激で大げさなレトリックを披露している。ビバンコは定期的に、民主的に選出されたニカラグア政府をスペイン語で「不当な政権」とか「独裁政権」などと呼んでいる。
 「オルテガ(大統領)とムリーリョ(副大統領)の血まみれの独裁政権と交渉することはできない」とビバンコは2019年3月にツイートした。「交渉ではなく制裁を倍加しなければならない」



 数日後、企業メディアの一枚岩『ユニビジョン』(米国におけるスペイン語テレビ局)とのソフトボールインタビューで、ビバンコは「ダニエル・オルテガが理解できる唯一の言葉は、制裁と国際的圧力だけだ」と主張した。(彼はこの強硬姿勢をこれまでも何度も繰り返してきた)



 ビバンコの上司(ニューヨーク市にいるケネス・ロス事務局長)と同様、ビバンコはときおり米国とその同盟国に対して申し訳程度の批判をしてみせる。しかし、米国の包囲下にある左翼諸政権に照準を定めているときとは明らかに不釣り合いな手緩いものである。HRW米州局長ビバンコのツイッターフィードの調査をしたところ、彼はブラジル、コロンビア、ホンジュラス、ボリビアについてはほとんど発言していないことがわかった。この四か国は、どれも恐ろしい人権侵害を日常的にやっている独裁的な右翼政権であるにもかかわらずである。しかし、ビバンコは毎日のようにベネズエラ、ニカラグア、キューバ、さらにはメキシコの左翼指導者たちに対してヒステリックな攻撃をしかけている。
 ビバンコは何度も何度も何十回もニカラグアとベネズエラに対する制裁を求め、一方で既存の米国政府の制裁を英語とスペイン語の両方で称賛している。





 ビバンコはニカラグアの右派メディアの強硬な論説記事を頻繁にシェアしている。彼はさらに米国政府が支援する「シビック・アライアンス」のようなニカラグア反政府勢力からのプレスリリースを増幅し、彼らの制裁要求をツイートしているので、HRWがこうした極右政治勢力にお墨付きを与えることになっている。



ベネズエラへのさらなる制裁

 HRWが経済戦争のためにロビー活動をおこなってきた国はニカラグアだけではない。ベネズエラとその左翼政権に対して極端な偏見を抱いてきた長い歴史がある。
 HRW事務局長であるケネス・ロスは、ニコラス・マドゥロ大統領をしばしば「独裁的」と非難している。同様にHRW米州局長ホセ・ミゲル・ビバンコは、ベネズエラとその政府高官に対する制裁措置の拡大を恒常的に求めている。



 2018年9月、トランプ政権が、すでに息の根を止めるような対ベネズエラ制裁をさらに拡大すると、ビバンコは歓声を上げ、「マドゥロ政権に対する本日の制裁は、この政権が政治的に孤立しており、正当性が欠如していることを露呈している」と書いた。

 2019年6月、米国の経済制裁によって少なくとも4万人のベネズエラの民間人がすでに死亡しているとの有力エコノミストによる報告書が発表された。にもかかわらず、その二か月後、ビバンコは怒りをあらわにした。ニカラグアに対しておこなったのと同じネオコン的なレトリックを繰り返し、HRW米州局長ビバンコは欧州の各国政府にもトランプに従うよう呼びかけたのである。
 「マドゥロが理解していると思われる言語は、標的を絞った制裁だけだ。欧州諸国がそれを課す時がきた」とビバンコはツイートした。



 これ以前にもトランプ政権はベネズエラを激しく攻撃し、厳しい制裁を課した。
 ビバンコは、この2017年7月の経済的攻撃を歓迎し、ベネズエラの民主的に選ばれたニコラス・マドゥロ大統領を「独裁者」と揶揄した。



 ビバンコは、ノーム・チョムスキーのような著名な左翼知識人を攻撃するためにベネズエラを利用したこともある。強硬なネオコンの立場をとって、ビバンコはツイートした。
 「イデオロギーのせいで、チョムスキーとその友人たちは、ベネズエラについて無意味なことを言っている」と。
 「ベネズエラには民主主義はない」とビバンコは宣言した。「ベネズエラの問題は『偏向』ではない。政権が反対意見を弾圧しているのだ」
 また、この自称「人権の第一人者」は強力な制裁を断固として支持し、「米国とカナダによる制裁は、貧困層に害は与えない。特定の政府高官を標的にしているだけだからだ」と言明した。
 この明らかに虚偽の主張は、信頼できる国際人権専門家たちによって反証されている。ベネズエラ政府に対する国際的な制裁は、政府が金融システムから締め出され、また米国による二次的な制裁を受けることを恐れている企業とは取引できないことから、ベネズエラが医薬品や医療機器を輸入することができなくなっている、と国際人権専門家たちは警告している。



 しかし、ビバンコのベネズエラ政府破壊への渇望はあまりにも過激なので、この制裁に従わない国連の人権専門家たちを猛攻撃している。

 2017年7月、トランプ政権がベネズエラを窒息させる制裁を加えた際、その措置があまりにも酷かったので、国連の「一方的な強制措置の悪影響に関する特別報告者」であるイドリス・ジャザリーからの反発を招いた。
 ジャザリーは制裁に関する国連の専門家として公式声明を発表し、「制裁はベネズエラの人びとの状況を悪化させることになり、すでに深刻なインフレとな食料・医薬品の大きな不足に苦しんでいる」と述べた。
 これらの制裁は「とりわけ民間人に壊滅的な影響を与える可能性がある」とジャザリーは警告した。
 これに対しHRW米州局長ビバンコは怒りをあらわにし、暴言を吐いて国連特別報告者を攻撃し、米国の制裁措置を擁護した。
 「くだらない」とビバンコはツイートした。彼は国連の専門家が「標的を定めた制裁と一般的な制裁を区別もできない」と主張した。
 ベネズエラの民間人へのこのような配慮は「マドゥロを助けることになる」と、この右翼HRW職員は宣言した



 その過程で、ビバンコはあからさまなダブルスタンダードを露呈した。
 2017年、ベネズエラ政府は右派の野党党首レオポルド・ロペスを逮捕した。なぜならロペスは、選挙で民主的に選ばれたチャベス政府に対する暴力の嵐、および米国の支援を受けた数多くのクーデター計画を、直接指揮していたからだ。
 しかし、ビバンコはベネズエラの司法長官タレク・ウィリアム・サーブを「ただの官僚だ」と評して、このロペス逮捕を厳しく非難した。
 HRW米州局長ビバンコによれば、ベネズエラという主権をもつ政府には、自国領土内でクーデターを起こした者を取り締まる権利はないが、米国政府と欧州諸国にはあらゆる形態の経済戦争でベネズエラを攻撃する権利があるというわけである。



エクアドルの現モレノ大統領を賛美し、左翼のコレア前大統領を悪魔化

 ホセ・ミゲル・ビバンコの偽善ぶりは、2019年7月に米国が支援する抑圧的なエクアドルの指導者レニン・モレノと友好的な会談をおこなったときにも明らかになった。
 「本日、レニン大統領にお会いできて光栄です」とビバンコは語り、米国が支援するこの指導者を高く評価した。



 左翼的な前大統領ラファエル・コレアは、モレノの仇敵であり、いつでも悪用できるお気に入りのボギーマンである。そのコレア前大統領が創設した進歩的な「市民革命党」のメンバーを、モレノ政権は組織的に検挙・逮捕・粛正・追放した。にもかかわらず、モレノ政権に対しHRWとビバンコは、ほとんど何ひとつ批判しなかった。
 モレノ政権は、諸地域の市長たちや「市民革命党」の幹部を含む、民主的に選出された数多くの政治家を投獄し、彼の政治的反対派を粛正した。その間ずっと、米国政府はモレノに強力な支援をあたえつづけ、モレノはそれを享受してきた。
 こうして米国政府は、在英エクアドル大使館内に亡命していたジャーナリストのジュリアン・アサンジに与えられていた亡命保護をようやく終わらせることができ、イギリス当局に引き渡すことに成功した。しかし、これは国内法および国際法に違反している。
 モレノ政権の治安部隊はまた、昨年10月に推し進めようとした新自由主義的な経済改革に抗議する数千人のエクアドル人を殺害・負傷・拘束した。
 ビバンコは、エクアドルのあからさまに抑圧的なこのモレノ政権を批判するどころか称賛した。また同時にビバンコは、民主的に選出されたエクアドルのコレア前大統領を「独裁者」だとまで言っているが、コレア前大統領がどのように民主的規範に違反したかについては何の説明もない。
 ニカラグアやベネズエラと同様に、ビバンコはエクアドルの右翼に対しても最も極端な立場を取ってきた。「レニンとコレアは水と油のようなものだ」とビバンコは断言した。「一方のコレアは独裁者であり、もう一方のレニンは民主主義者だ。一方は救世主的なナルシストであり、もう一方は民衆に耳を傾けるリーダーだ」



 地球上の他のどのようないわゆる人権団体にとっても、このようなあからさまなダブルスタンダードは、人権団体の信頼性に致命的な危機をもたらすであろう。
 しかし、選挙で民主的に選ばれた政府に対するクーデターを支援する億万長者から支援を受け、政権転覆のためのロビー団体と化しているHRWにとって、偽善は常にワシントンに迎合していることから必然的にうまれてくるものである。
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