現在の世界的危機で「露-中-米」協力体制というウォレス/ルーズベルトが考えた壮大な計画が復活することになるかもしれない。#「エルベの誓い」
<記事原文 寺島先生推薦>
Might the Current Global Crisis Revive the Wallace/FDR Grand Design for Russia-China-USA Cooperation? #MeetingOnTheElbe
us-russia-org
2020年4月26日

By Matthew Ehret
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2020年7月26日
4月14日、プーチン大統領は、2020年1月15日の呼びかけを改めて繰り返した。つまり、国連安全保障理事会の5つの核保有国が主導し、国連憲章の原則に導かれた新たな体制を構築する、という内容だ。クレムリンはこう述べた:
「この会議は明確なビジョンを持つ会議として[ロシア]大統領によって始められたものであり、当然のことながら、現在危機管理のために広く使用されているテレビ会議形式では、このような明確なビジョンを持つ会話をするために必要な雰囲気を醸成することはできません。安全保障理事国5カ国の首脳会談となればなおさらです。」
プ-チンは以前こういう意図を持った会議を次の様な言い方で述べていた:
「国連創設国は手本を示すべきです。人類の保全と持続可能な発展のために特別な責任を負うのは核保有5カ国です。これら5カ国はまず、世界大戦の前提条件を取り除くことから始め、現代の国際関係の政治的、経済的、軍事的側面を十分に考慮した、地球の安定を確保するための最新のアプローチを開発すべきです。」
プーチンは声明のわずか2日前、トランプ大統領と3日間で3回目の電話会談を行い、コロナウイルス蔓延の防止策や原油価格、両国が国家的な優先課題として強く掲げている宇宙探査や月面採掘などの協力体制について話し合った。
ロシアは近年、中国の「一帯一路」(BRI)構想の枠組みへの参入に本腰を入れてきた。両国のこの動きは、2015年以降ユーラシア経済連合が①BRIと統合されてきたこと、②伝統的には東西に延びていたBRI構想が高緯度圏へ拡張され、新たな、期待をそそる「北極シルクロード」と統合されること、などを契機としている。こういったことを背景として、国連創設国の残り三カ国(アメリカ、イギリス、フランス)はそれぞれ、ロシアと中国が今後10年間月面開発で協力するために結んだ協定に、この三カ国も宇宙分野での共通目標を見つけることが多くなっている。こういった方向性は、何十年も前には見られなかったもので、月面の採掘、小惑星防衛、探査などがその内容となっている。
①宇宙圏を前提とした多極新システム②COVID-19と戦うための健康シルクロード③北極シルクロードでの協力を創り出すなどの息を呑むような推進力を基礎にして、今は、非常に重要でありながらも見落とされがちな歴史を見直す良い機会であると私は考えている。こういった見直しを行うと、プーチン大統領が現在求めている列国の様々な考えを連携させるという方向性は、フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領(以下FDR)と彼の忠実な協力者だったヘンリー・A・ウォレス副大統領が主導的役割を果たした時期、つまり1941年から1944年の間に確立されたものであることがわかる。それに驚く必要はない。ヘンリー・A・ウォレス副大統領は「米―露-中」世界秩序という壮大な計画を考えていた。これは大西洋憲章に掲げられた原則を基礎にしたものであり、その内容はウォレスが1942年に行った演説「庶民の世紀」で明確に述べられているからだ。
多極世界秩序へ向けたウォレス/ルーズベルトの闘い
ルーズベルト政権下の副大統領として執務する傍ら、ウォレスは1944年に出版した『太平洋で私たちがすべきこと』という本の中で次のように書いている:
「アメリカにとっても、中国にとっても、ロシアにとっても、中国とロシア、中国とアメリカ、ロシアとアメリカの間に平和で友好的な関係が存在することは極めて重要である。中国とロシアはアジア大陸でお互いに補完し合い、さらに両国は共に太平洋でアメリカを補完し、補強するのである。」
1944年の別の論文『民族は二つ―友好関係は一つ』(サーベイ・グラフィック誌)の中で、ウォレスは、ベーリング海峡を横断する交通機関の接続によるインフラ整備を中心とした米露の北極周辺の関係の運命について次の様に述べている:
「すべての国の中で、ロシアには①急速に増加する人口、②天然資源、③専門技術があっという間に広まること、という鬼に金棒の取り合わせがある。シベリアと中国には他には例を見ないような豊かな未開拓地がある。1942年の春、モロトフ(ロシアの外務大臣)がワシントンにいた時、私は彼に、カナダ、アラスカ、シベリアを経由してシカゴとモスクワを結ぶ高速道路と航空路の複合路線(いつか実現したらいいと私は思っている)について話しをした。モロトフは、「この仕事は一国ではできない」との意見を述べた後、「あなたと私が生きている間にこの仕事を達成させよう」と言った。このようなアメリカの西部開拓者精神とロシアの東部開拓者精神を結びつける具体的な絆があれば、将来の平和に大きな意味を持つだろう。」
ウォレスは、欧米人には稀な、長期的な思考とアジアの精神に対する気配りを見せて、次の様に書いている:
「アジアは動き出した。アジアがヨーロッパに不信を抱いているのは、その『優越感』のためだ。我々はアジアに我々を信頼する理由を与えなければならない。特にロシアと中国に対しては、両国の庶民の未来に信頼を寄せていることを示さなければならない。私たちは、中国とロシアの両方に力を貸すことができ、力を貸すことで、私たち自身と私たちの子供たちにも力を貸すことになるのだ。今日のロシアと中国との関係を計画する際には、40年後の世界情勢を考えなければならない。」
で、どこで間違ったのか?
世界史のこの章については多くのことが言えるが、要するに、複雑な政治的クーデターが起きたのである。このクーデターにより、ウォレスは1944年にハリー・S・トルーマンに副大統領指名を奪われ、1945年4月12日にルーズベルトが不慮の死を遂げたことで、このトルーマンがホワイトハウスに居を構えることになった。
トルーマンの対露好戦的な態度が、ロシアは12億ドル出資して世界銀行へ加入するという1944年の合意内容が撤回される原因となり、チャーチルの「鉄のカーテン」演説は、「相互確証破壊(MAD)」という二極分化した力学を生み、「核の恐怖に支配された戦後」という容易には崩れない体制が定着することになった。トルーマンは、1947年春、「トルーマン・ドクトリン」を出し抜けに宣言した。この宣言は新冷戦下におけるロシアの拡大に対抗するアメリカの種々の絡み合いをもたらす対外政策であり、ロンドンが仕組んだギリシャとトルコの紛争にアメリカが巻き込まれたことに始まるものだ。トルーマンと歩調を合わせるようにチャーチルはミズーリ州フルトンでこう言ったのである:
「戦争を確実に防止することも、世界組織の継続的な発展も、私が「英語圏の人々の友愛的な絆」と呼んでいるものなしには得られない。これは、英連邦帝国とアメリカ合衆国との間の特別な関係を意味する。」
「トルーマン・ドクトリン」や「英米の特別な関係」は、ジョージ・ワシントンやジョン・クインシー・アダムスが提唱し、FDRやウォレスが採用した「対外的な絡み合い」を避けるための「原理共同体」政策が180°方向転換したことを示していた。
ウォレスの反撃
1946年に米ロ友好を呼びかける演説をしたことで商務長官を解任される前に、ウォレスは、新たな「アメリカのファシズム」の出現を警告した。その「新たなアメリカのファシズム」の出現は後にアイゼンハワーが1961年の軍産複合体演説で明確にすることになる。ウォレスは次のように述べた:
「戦後のファシズムは、逃れようもなく、アングロサクソン帝国主義へと、そして最終的にはロシアとの戦争に向けて着実に前に押し進められるであろう。すでにアメリカのファシストたちは、この「ロシアとの戦争」について話したり書いたりしており、ファシストたちは、特定の人種、信条、階級に対して内的な憎悪と不寛容を見せる口実として、この「ロシアとの戦争」を利用している。」
1946 年のソビエト・アジア・ミッションでウォレスは次のように述べた:
「わが国の若者たちが戦場で流した血がまだ乾いていないのに、これらの平和の敵どもは第三次世界大戦の基礎を築こうとしている。彼らの邪悪な企みを成功させてはならない。我々はルーズベルトの政策に従い、平和時においても、戦時中においても、ロシアとの友情を育むことで、彼らの毒を解毒しなければならない。」
ヘンリー・ウォレスは敵が望んだように姿を消すことなく、1948年の大統領選で第三党の候補者となり、愛国者や芸術家の支持を得た。その中でも特筆すべき人物は偉大なアフリカ系アメリカ人活動家/歌手のポール・ロブソンだ。彼が起こした行動を発端にしてマルチン・ル-サー・キング牧師の公民権運動が花開いたのである。ウォレスの大統領選時のいくつかの演説は、今日の世代を教育し、鼓舞することができる心を揺さぶる行動への呼びかけである。第二次世界大戦中は世界的なファシズム運動を止めるために英雄的に多くのことをしたばかりのアメリカ人が、戦後、アメリカ国内で新たなファシズムの出現を止めることに失敗し、チャンスがあったのにウォレスに投票しなかったことを思い起こさせられるのは悲劇的としか言いようがない。
最後の機会?
ジョン・F・ケネディは在任中の3年間にFDRとウォレスの精神を復活させようとしたが、彼は早々と暗殺され(続いて彼の弟ロバート・ケネディ、マルチン・ルーサー・キング、そしてマルコムXも暗殺された)、アメリカが真の立憲国となる目覚めは再度妨害された。
今日、ウォレスとFDRの下で実施されたニューディールを凝縮した精神によって推進されている偉大なインフラ計画が、①驚くべきBRI構想、②急速にその全体像が見えてきている北極シルクロード、③健康シルクロード、そして④宇宙シルクロードの中で活性化してきた。このようにして、ロシアと中国は、自分たちが過去半世紀にわたって世界が知っていたアメリカよりもさらにアメリカ的な存在になってしまったという皮肉な役割に気付くことになったのである。
そこで、現在の危機を私たちに与えられた絶好の機会と捉え、多極同盟と手を携えながら、ウォレス/FDR の壮大な計画をもう一度現実のものにすることを提案する。アメリカがもつ「もっと優れた立憲主義を!」という伝統は、アメリカがこういう方向に進むことをかつてないほど要求している。そして、新シルクロードに代表される「ウィン-ウィン協力」の精神は、飢饉、戦争、帝国という相互に関連した苦しみを世界から永遠に終わらせる鍵を握っているのだ。
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