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「激戦区」と化しているラボティノ:なぜロシアとウクライナは南部前線にあるこの小さな集落をめぐってこんなにも激しく闘っているのか?

<記事原文 寺島先生推薦>The Rabotino ‘meat grinder’: Why are Russia and Ukraine fighting so fiercely over a tiny village on the southern front?
ウクライナ側が占領したと主張するザポリージャ地方の小さな村落で何が起きているのか?
筆者:ウラジスラフ・ウゴルヌイ(Vladislav Ugolny)
出典:RT  2023年9月9日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年9月19日



© RT/ RT


 8月中旬以来、ウクライナ統治下の都市オレホフとロシア統治下のトクマクの間にあるザポリージャ地方に位置する小さな村ラボティノが激しい戦闘の場となっている。

 ウクライナ側にとって、この田舎は、反撃を測る上で残念かつ予想外の尺度となった。8月末、ウクライナの報道機関は国防省の報告を引用し、同村の完全な支配を確立したと報じた。フランス訪問中、ドミトリー・クレバ外務大臣は、この「戦略的に重要な入植地」の「英雄的な占領」について語り、側面の制圧を確立すれば、ウクライナ軍が「メリトポリとクリミア国境」に到達する道が開かれる、と主張した。

 しかし、ウクライナ側の勝利宣言は時期尚早だった。この間、ロシア国防省は戦闘が続いているこの村落の喪失に関する報道を否定していた。戦闘の激しさにより、両国はウクライナ国軍第82旅団(AFU)やロシア軍第76師団などの精鋭空挺部隊をラボティノに移送せざるを得なくなった。

 この村は「グレーゾーン(どちら側が抑えたかを明確にできない地域)」に位置しており、ロシア軍とウクライナ軍がそれぞれ村の南と北の郊外に配置されている。

ラボティノの位置

 ラボティノは、ウクライナ軍の基地となっているオレホフから12km離れたところにある。2022年春、AFU(ウクライナ軍)はなんとかこの地で戦線を安定させ、今年6月に始まった反攻のための兵力を蓄積し始めた。


©RT/RT

 ロシア軍の基地であるトクマク市は、ラボティノから22kmの距離にある。一見この距離は短く見えるが、軍にとって防御するのは困難だ:2本の防衛線、地雷原、準備された砲兵陣地、その他の防御手段が、トクマクと現在の戦闘現場の間に存在するからだ。さらにトクマクは、敵が他の戦線を突破した場合に全方位からの警備が必要となる要塞なのだ。

ラボティノの重要性

 ラボティノは、ウクライナが計画しているトクマク攻撃を目指すための最初の入植地であり、ロシアの第一線の防衛線に先行する。理論的には、ウクライナ軍がもっとうまく行動していれば、すぐにラボティノを占領でき、ロシア軍は第一線の防衛に集中することになっていただろう。


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 しかし、ウクライナの反撃はこの地域で行き詰まり、AFUは主力をヴレメフスキー地区(ザポリージャ州とドネツク人民共和国の分岐点)の方向に移そうとさえした。ラボティノは長期にわたる戦闘の場となり、双方に死傷者が発生し、ウクライナ側は多くの西側装備を失なった。その結果、前回の国勢調査が行なわれた2001年には人口わずか480人しかいなかったこの村が、報道機関で大きく取り上げられるようになった。現在、ラボティノの存在は、ウクライナ戦争の情勢を見守る人々に広く知られるようになった。

ウクライナ側の損失

 9月5日のロシア国防大臣セルゲイ・ショイグの声明によると、ウクライナは反撃開始以来推定6万6000人の兵士を失なったという。さらに、ラボティノ付近ではわずか1日で170人が殺害された、と伝えられている。死傷者は日に日に増加している。9月7日のロシア当局からの報告によると、わずか24時間以内にロシア軍はラボティノでのAFUによる14回の突破の試みを撃退し、その結果ウクライナ側は戦闘員110名を失なった、とのことだ。

 人員の損失や負傷者数や死者数については、はっきりと確認することは不可能だが、破壊された装備を数えるのははるかに簡単だ。ラボティノでは、AFUは NATO諸国から受け取った新しい装備を使用した (まだ納入されていない米国のM1エイブラムス戦車を除く) が、その多くを失なった。

 公開情報調査(OSINT)をおこなっているロスト・アーマーというサイトの調べによると、AFUはすでにドイツ製レオパルド戦車を2両、米国製M2ブラッドリー歩兵戦闘車を38両、 ストライカー装輪装甲車を4両失なっている。この一覧に加えられる最新戦車は、英国製チャレンジャー2戦車だ。この戦車は世界でもっとも近代的な戦車のひとつだ。この戦車が英軍で使用されてきたのは、1994年からのことで、「無敵の」戦車という評判を得てきた。これまで、この戦車が戦闘中に敵の攻撃により失なわれたことはなかった。例外は2003年のイラク戦争で「味方からの誤射」により失なわれたものだけだった。テレグラム上のチャンネルである「ロシアの春の戦争通信」によると、破壊することは不可能だとされていた英国製のこの戦車が、ロシアの「コルネット対戦車ミサイル」による砲撃を直接受けて、砲塔より下の部分が爆破した、という。
(動画は原文サイトからご覧下さい。訳者)

 上記の数字は目視確認に基づいており、航空によって破壊された装甲車両は考慮されていない。したがって、この数値は「信頼できる最小値」と見るべきだ。

補強合戦

 ラボティノでの戦闘が長引くにつれ、両軍とも予備兵力を移送し、緊急に戦闘に引き込む必要があった。ウクライナ軍は当初、数旅団のみ投入していたが、徐々に第116、第117、第118機械化旅団を投入し、8月中旬には切り札である第82航空強襲旅団を投入した。当初、この旅団はロシアの第一線の防衛線を突破した後にのみ戦闘に参加することになっていた。

 実際には、戦況は計画どおりに進まず、第82連隊の空挺部隊がラボティノを襲撃することになった。この「先鋭」(報道機関による)部隊が戦場に存在したことで、ロシア軍はより高価な西側装備を破壊することができた。

 ロシア側からいうと、以前にラボティノで戦っていた第42自動車化ライフル師団を救援するため、第7および第76航空攻撃師団を移管した。これらの部隊が現在、防衛の基盤を担っている。

ラボティノを今、支配しているのは?

 ラボティノの大部分は「グレーゾーン」状態にある。ウクライナ軍は入植地の北と北東の郊外に配置されている。いっぽうロシア軍は、主力部隊を同村の西と南に維持し、南郊外においては支配権を維持している。


©RT/RT

 ときどき、双方が敵を村から追い出そうとしている。AFUは入植地を完全に占領し、南方への攻撃の踏み台として利用するつもりだ。ロシア軍はラボティノの中心部で掃討作戦を行なうことがあるが、その目的は、ウクライナ側が入植するのを防ぎ、ウクライナ軍を高台の陣地まで撤退させるためだ。

ラボティノー新たな激戦区?

 ウクライナ側がラボティノのために戦い続けるという状況は、ロシア側にとって非常に都合がよい。というのも、ウクライナ側がラボティノに集中しているおかげで、ロシア作戦司令部は敵が予測不可能な決定を下すことを想定せずにすみ、この地域の防衛に集中することができるからだ。


関連記事:Ilya Kramnik: Here's why NATO isn't able to help Ukraine win

 同時に、たとえウクライナ人が入植地の制圧に成功したとしても、この村はウクライナ当局者が言うほど「戦略的に重要」ではないため、前線の状況は変わらないだろう。

 ラボティノとその東側にある平野は、ウクライナ軍がロシアの第一次防衛線の郊外に進出し、ヴェルボヴォエ地域の第一線の防衛線に到達することができた場所であるが、戦術的には不便な低地に位置している。いっぽうロシア軍は、第一線が建設されている高台を制圧しているため、容易に戦場を監視することができる。そのため、AFUがより深く進軍して補給路と避難路を伸ばそうとした際には、反撃を開始することができる。

 ラボティノの戦いに関して総じて述べれば、この小さな村を支配下におくことは、両側の損失の均衡から見ればさして重要ではない:つまり予備兵力の導入と移転の問題から見れば、だ。さらにウクライナ軍の残りの攻撃力がどれほどあるか、についてから見ても、この村の攻防はそれほど重要ではない。


筆者ウラジスラフ・ウゴルヌイはドンバス出身のロシア人ジャーナリスト。
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