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米国、ニジェールで板挟み

<記事原文 寺島先生推薦>
The US is caught in a dilemma with Niger
筆者:スコット・リッター(Scott Ritter)
出典:RT  2023年8月15日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年8月22日

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スコット・リッターは元アメリカ海兵隊の情報将校であり、『ペレストロイカ時代の軍縮:軍備管理とソビエト連邦の崩壊』という著書がある。彼はソビエト連邦でINF条約を実施する検査官として勤務し、湾岸戦争中にシュワルツコフ将軍の下で働き、1991年から1998年まで国連の兵器検査官として勤務した。
@RealScottRitter@ScottRitter


先週、アメリカ合衆国の臨時副国務長官ビクトリア・ヌーランドは、過去2年間で3回目となるニジェール訪問をおこなった。

 今回、ヌーランドはアフリカの国に滞在したのは、7月26日の軍事クーデターに対応するためだった。このクーデターにより、憲法に基づいて選出された大統領モハメド・バズムは、新たに形成された「国土保護のための国民評議会」傘下で活動する一団の軍の将校たちによって追放された。この評議会は、大統領護衛の指揮官であるアブドゥラフマン・チアニ将軍が率いている。彼は、その後、自らを新たな国家元首である宣言した。

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 ヌーランドは、追放された大統領バズムと新政権の指導者であるチアニ将軍との会談を求めた。しかし、両者から(会談を)拒否された。代わりにチアニ将軍の軍最高司令官であるムーサ・サラウ・バルム将軍と緊迫した対話をおこなった。彼女はバルムとの会話を「率直」で「困難」だったと評した。しかし、ヌーランドはニジェールのクーデターを率直にクーデターとは呼ばず、それを国内政治の一時的な問題と見なし、アメリカから適切な圧力をかけることで克服できるものとして扱った。

 このアメリカなりの言い方の裏には、法律的な理由がある。法的に、アメリカがニジェールのクーデターをクーデターと認識すれば、現在ニジェールに駐留する約1,100人のアメリカ軍人とニジェール軍の対等な関係にあるすべての軍事的相互作用、およびその他のアメリカ資金援助は全て中止されなければならないのだ。問題の法律(公法117-328の第K部門の第7008条として知られる)は、国、国外の作戦、そして関連する計画(SFOPS)を支えるために議会が充当する資金について、「正当に選出された政府の首脳が軍事クーデターまたは布告によって失脚した国の政府に直接的財政援助を義務づけ、あるいは消費することは一切できない」と明確に規定している。

 ヌーランドは、チアニ政府代表団との2時間にわたる議論の中で、現在アメリカとの関係が中断されているものの、それが永久的に停止されているわけではないことを明確にした。会議後の映像記者会見で、ヌーランドは大統領バズムを大統領に復帰させられなかった場合の影響を強調した。ニジェールの特殊部隊将校であるバルムは、米国の軍事学校で訓練を受け、ニジェールでの米軍訓練担当者たちと広く交流していた。バルムの個人的な経験は、今日の米国の西アフリカにおける軍事的存在と使命の基盤として機能している。

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READ MORE:Victoria Nuland, Washington’s ‘regime change Karen’, wants to speak to the manager in Niger

 アメリカ、フランス、および他のヨーロッパの同盟国は、西アフリカのサヘル地域におけるイスラム過激主義との長年にわたる戦いを展開してきた。ニジェールは、2つの主要なアメリカの基地を受け入れており、1つはニジェールの首都ニアメの外にある「101基地」として知られるもので、もう1つはアガデズ(サハラ砂漠の南端に位置する都市)に位置する「201空軍基地」だ。両基地は、MQ-9 リーパー ドローンや固定翼機による米国の情報収集、監視、偵察(ISR)作戦、および共同特殊作戦航空部隊による飛行などを支援しており、また他の米国の軍事作戦、軍事空輸、特殊部隊の訓練部隊も支援している(フランスもニジェールにおいて1,000人以上の軍事拠点を維持しており、さまざまな欧州連合(EU)諸国から数百人の軍事人員も存在している)。

 隣国のマリでアメリカ、フランス、EU、そして国連の軍事力が崩壊し、チャドでの軍事クーデターの影響もあり、ニジェールはサヘル地域におけるアメリカ主導の対テロ対策の最後の拠り所として浮上している。もしアメリカがクーデターのためにニジェールとの関係を断つことになれば、この地域でのアルカイダとイスラム国によるテロの脅威に対抗するための西側の対テロ対策は一切なくなるだろう。

 ワシントンの観点からすると、アメリカとニジェールの軍事間支援の途絶によって生じる最大の脅威は、イスラム原理主義に触発されたテロの潜在的な拡散ではなく、むしろロシアの影響力だ。特に、ロシアの外交政策目標と同調する形で行動すると思われる私設軍事会社であるワグナー部隊による軍事安全保障支援が懸念されている(クレムリンもチアニ政府も、ニジェールでのワグナー活動報告について何も語っていない)。

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READ MORE:Washington worried about Wagner in Africa-Blinken

 先月のロシア・アフリカサミット前、プリゴジンは、6月23日から24日の未遂に終わった反乱事件(この事件によりドンバスでのワグナーの活動が停止)の後にベラルーシに移動したワグナー部隊と会っている。その際、彼はアフリカが将来のワグナーの活動において果たす重要性を強調している。ワグナー部隊は、その存在が中央アフリカ共和国、リビア、マリを含むいくつかのアフリカ諸国で報告されている。ニジェールのクーデターを指導した上位軍人たちは、マリでワグナーの関係者と会い、ワグナーとニジェールの間の安全保障協力について協議したと言われている。ニジェールのクーデター政府との会議中、ビクトリア・ヌーランドは、ワグナーがニジェールで展開する可能性を懸念すべき材料として取り上げ、ワグナーはアフリカの安全保障に有害な役割を果たしている、とニジェールの関係者に伝えたことが報告されている。ワグナーとニジェール代表者間の会議が報告されたことは、ヌーランドのメッセージが彼女の招待主(ニジェール政府)に届かなかったことを示している。

 アメリカ合衆国は、米国援助を法的に受け取ることができない国の政府との関係を維持したいという願望と、第7008条によって米国とニジェールの関係を断絶する必要がある場合に生じる結果との間で板挟みになっているようだ。ヌーランドも彼女の上司である国務長官のアントニー・ブリンケンもまだ口にしていない選択肢がある。2003年初頭、米国議会は第7008条を改正し、国務長官が「米国国家安全保障上の利益」を理由に権利放棄を求めることができるようにしたのだ。

 こうした権利放棄に関して、アメリカには2つの大きな障壁がある。第一に、バズム大統領を再び政権に返すためにアメリカが費やした多大な政治的資本だ。これを今ひっくり返すことは、バイデン政権がやりたがらない現実政治へ同意するようなものだろう。第二に、ニジェールは今後の選択肢を評価した結果、以前にアメリカと享受していた緊密な関係を維持する興味をもはや持っていない可能性がある。ニジェールは、マリ、ブルキナファソ、そしてギニアと同様に、フランスとの植民地主義後の関係の衣を脱ぎ捨てた。この関係は、西アフリカとサヘル地域における米国の国家安全保障政策と密接に関連していた。米国とニジェールの関係の運命の時は刻まれている。ビクトリア・ヌーランドや他のアメリカの高官たちがこの結果を変えるためにできることはほとんどないようだ。
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