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アジア太平洋NATO:戦火をあおる

<記事原文 寺島先生推薦>
An Asia-Pacific NATO: fanning the flames of war
出典:Pearls and Irritations  2023年7月8日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年8月14日
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「私の国アメリカは理解不能だ。誰が国を動かしているのかよくわからない。大統領だとは思いません」と、ジェフリー・サックスはオーストラリアのメルボルンで開催されたSHAPE(「人類と地球を救う」)のセミナーでの講演で述べている。「米国の行動は、我々を中国との戦争への道へと導いている。ウクライナにおける米国の行動と同じである」。

ジェフリ-・サックス
SHAPEでの講演
2023年7月5日

 皆さん、こんにちは。私をお招きいただいたことに感謝し、併せてSHAPEの統率力に感謝します。さきほど幸運にもアリソン・ブロイノウスキーとチュンイン・ムン両氏の話を聴くことができました。洞察力に富んだすばらしい発言でした。私はおっしゃったことすべてに完全に同意します。世界は狂ってしまいましたが、とりわけアングロ・サクソンの世界は恐ろしい状況です。世界の中にある私たちの英語圏という小さな片隅に、分別というものが少しでもあるのかどうかわかりません。もちろんアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのことです。

 今、私たちの国の政治には非常に悔やまれることがあります。深刻な狂気です。それは、残念ながら、アメリカに引き継がれた大英帝国主義の思考なのです。私の祖国アメリカは今、20年前、30年前と比べてみても、理解不能になっています。本当のことを言うと、いま誰が国を動かしているのかよくわかりません。アメリカの大統領ではないと思います。我々は将軍、つまり、安全保障体制によって運営されています。大衆は何も知らされていません。主流メディアでは外交政策について語られる嘘が日常的に溢れています。私はそれを聞いたり読んだりすることに耐えられません。ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙や主要なテレビ局が報じることは、来る日も来る日も、その100%が政府の偽情報扇動の繰り返しであり、これを打ち破ることはほぼ不可能となっています。

 いったいどうなっているのでしょうか。これは、いま先に話されたお二人からお聞きになったようにアメリカの狂気の問題なのです。自国の覇権を維持しようとする狂気です。軍事化された外交政策は、凡庸な知識人のように見えて、実は貪欲な将軍たちによる思考に支配されています。わずかの分別もありません。なぜなら、彼らの唯一の手口は戦争を起こすことだからです。

 そして彼らはイギリスに応援されていますが、残念なことに、私が大人になってからは、アメリカの覇権と戦争のためのアメリカ応援団として、ますます哀れな姿をさらしています。アメリカが何を言っても、イギリスはそれを10倍にして繰り返すでしょう。イギリス指導部は、これ以上ないほどウクライナ戦争を楽しんでいます。イギリスのメディアとイギリスの政治指導者にとって、それは大規模な第二次クリミア戦争*なのです。
*1853~56年、ロシアが南下政策を積極化させ、オスマン帝国に宣戦したことに対し、イギリスとフランス及びサルデーニャがオスマン帝国を支援して列強間の戦争となった。ロシアが敗北し、パリ条約で講和、オスマン帝国の領土は保全され、ロシアのバルカン方面での南下はいったん抑えられた。(世界史の窓)


 さて、オーストラリアとニュージーランドがどうやってこの愚かさに陥っているのかは、私にとってもあなたにとっても非常に奥深い疑問です。そんな馬鹿げたことは止めるべきです。しかし、政治家たちに指示したのはファイブ・アイズと治安当局だったのではないかと思います。彼らは、政治家たちがこれに関与している範囲において『まあ、このようにしなければならない』と言ったのでしょう。オーストラリアは私たち米国の安全保障国家ですが、私たちの政治家が必ずしもこれに大きな役割を果たしているとは思いません。ところで、米国の外交政策には当の国民の役割は全くありません。私たちは議論も討論もせず、1000億、いまや1130億ドルにもなる支出を認める法案への投票についても討論はありませんでした。それにもかかわらず、実際にはウクライナ戦争にはるかに多くのお金が費やされています。

 これまでのところ、この件については議会でさえ1時間も組織的な議論が行われておらず、ましてや公の場でもその議論はおこなわれていません。ただ私の推測では、あなた方の安全保障体制こそがオーストラリアにおけるこの動きの推進力であり、彼らは首相やその他の人々にこう言っているのでしょう。「これが最高の国家安全保障なのです。これはアメリカが私たちに言ったことです。あなた方の安全保障装置について、私たちが見ているものを説明しましょう。もちろん、このことを広く一般に漏らすことはできませんが、これは本質的には世界での生き残りをかけた闘いなのです」。

 現在世界中で経済顧問としてこの活動に 43 年携わっている私自身が目にするものすべてが、この彼らの発言がバカげたものであることを示唆しています。 こうした動きを理解するために人々が注目するのに興味深いと思うのは、ハーバード大学での私の元同僚であるロバート・ブラックウェル大使とアシュリー・テリスが2015年3月に外交問題評議会のために書いた非常に説得力がある記事です。現在起こっていることの計画がかなり直接的に述べられているので、そこからいくつかの抜粋を読みたいと思います。これが米国での物事の仕組みであり、その中に将来の計画が示されています。

 米中関係がどうなるかは基本的には2015年に知らされています。関係悪化は計画されたものであり、その場しのぎではありません。そこで、2015年にブラックウェルとテリスが書いたものを紹介しましょう。まず、「建国以来、米国は一貫して、さまざまな競争相手に対して優位な力を獲得し、それを維持することに重点を置いた壮大な戦略を追求してきた。最初は北米大陸、次に西半球、そして最後に世界的に」。そして、「世界全体における米国の優位性を維持することは、21世紀の米国の大戦略の中心的な目的であり続けるべきである」と主張しています。

 では、米国の目標は何か。目標は非常に単純で、世界における米国の優位性です。ブラックウェルとテリスは中国に対する目標達成計画を提示しました。彼らは私たちに何をすべきか教えてくれます。

 その計画項目をご紹介しますが、かいつまんでの紹介です。「中国を意識的に排除する手段によって、米国の友好国と同盟国の間で相互利益を増大させる新たな特恵貿易協定を作成する」。オバマ大統領はTPPで既にこの計画を始めていました。国内の政治的反対を押し切ることはできませんでしたが。第二は、中国の戦略能力を阻止するために「米国の同盟国と協力して、中国に対する技術管理体制を構築する」ことです。第三は、「中国の周辺にいる米国の友好国や同盟国の権力政治能力」と「中国の反対を無視して、アジアの周辺地域に沿って効果的に戦力を発揮するように米軍の能力を向上させる」ことです。

 この計画項目で特に注目に値するのは、それが2015年に作られたものだということです。実際に実行されている段階的な行動計画なのです。このような外交問題評議会(CFR)による米国の政策の伏線は、最近の歴史でもよく知られています。1997年、CFRの機関誌『フォーリン・アフェアーズ』において、ズビグニュー・ブレジンスキーはNATO拡大の時系列を正確に示し、特にそのNATO拡大にはウクライナを含める意向が書かれていました。もちろん、このNATO拡大計画はウクライナ戦争に直結しており、まさにNATO拡大をめぐるロシアとアメリカの代理戦争となるものです。

 さて、あなた方にウクライナ戦争をもたらした友人や天才たちは、今度はあなたの隣国で新たな戦争を起こそうとしています。ムン教授が指摘したように、北大西洋条約機構は、東アジアにも事務所を開き始めています。ここは厳密には北大西洋ではありませんね。

 これが私たちの現状です。ひとつの主な理由を見つけることはとても簡単とは言えません。少なくともアメリカでは、オーストラリアがどのような国なのかはよくわかりませんが、アメリカとほぼ同じであると予想されます。そこでは、この問題について誠実に向き合って、国民的な議論がなされていないからです。政策は、安全保障機構、軍産複合体、「頭脳集団」の連携網によって完全に所有されています。これらは実際にはワシントンの頭脳集団では決してありません。ほとんどすべての資金が軍産複合体から出ているのです。

 軍産複合体とその傘下にある政治に圧力を加える企業は、私が教えている東海岸の大学を乗っ取っています。私はハーバード大学で20年以上教え、現在はコロンビア大学で教えていますが、大学における情報機関の影響力は、私の経験ではかつてないほど大きくなっています。これらはすべて、あまり世間に知られることなく、ほとんど静かな政権転覆のように起こっています。議論もなく、公の政治もなく、正直さもなく、文書も公開されていません。すべてが秘密であり、機密であり、少し不可解でもあります。私はたまたま世界中の国家元首や閣僚と関わる経済学者であるため、公式の「物語」や蔓延する嘘を見破るのに役立つ多くのことを聞き、多くのことを目にしています。

 私が経験したようなことは、公の場では一切お目にかかれません。そこで、ウクライナ戦争についてひとこと述べますと、戦争は完全に予測可能であり、1990年初頭に遡るNATO拡大に基づく米国の覇権計画の結果でした。米国の戦略は、ウクライナを米国の軍事軌道に乗せることでした。ブレジンスキーは、1997年に著書『世界チェスボード(The Global Chess Board』の中で再び戦略を示しました。ウクライナなしのロシアは重要ではないと彼は主張しました。ウクライナはユーラシアの地理的要であると彼は書いているのです。興味深いことに、ブレジンスキーはアメリカの政策立案者に対して、ロシアと中国を同盟関係に追い込むことがないように注意を促しました。実際、それは米国の利益に反するものであり、ブレジンスキーはそれが決して起こらないとはっきり信じていた。しかし、実際はそうなっています。米国の外交政策は無能であるだけでなく、非常に危険で誤った考えを持っているからです。

 1990年から91年の間、私はたまたまゴルバチョフの顧問であり、1991年から94年の間は、ボリス・エリツィンとレオニード・クチマの顧問でしたので、その期間は、ペレストロイカの末期からソビエト連邦解体後のロシアとウクライナの独立の初期に及んでいます。私は何が起きているのかを注意深く見ていました。そこで私が見たのは、アメリカがロシアの安定化を支援することには全く無関心であることでした。

 1990年初頭からの米国の安全保障体制の構想は、米国主導の一極化、すなわち米国の覇権主義でした。1990年初頭、米国はソ連経済、次いでロシア経済の安定化を目的とした支援策を拒否する一方で、NATOの拡大を計画し始めましたが、これは米独がゴルバチョフとエリツィンに約束したこととは正反対でした。したがって、ウクライナを含むNATO拡大問題は、1990年初頭に始まった米国の行動計画の一部であり、最終的にはウクライナ戦争につながりました。

 ところで、アメリカは、2014年のウクライナの親ロシア派大統領の失脚に深く関与していました。そう、これはクーデターであり、アメリカにとって重要な政権交代作戦だったのです。私はたまたまその一部を見たことがあり、アメリカのお金がマイダンの支援に注ぎ込んだことを知っています。このような米国の干渉は不快で不安定なものであり、NATOをウクライナとジョージアに拡大するという行動計画のすべての部分でした。

 プーチン大統領は外交的対応を進めましたが、米国やNATO同盟国は何度も拒否しました。国連安全保障理事会で承認されたミンスク2協定も同様の対応をしましたが、ウクライナに無視されています。

 2021年12月17日、プーチンは交渉の基礎となる完全に合理的な文書「米ロ安全保障協定草案」を交渉のテーブルに置きました。核となったのはロシアのNATO拡大停止要求だったのですが、悲劇的なことに、アメリカはそれを無視したのです。2021年12月の終わりにホワイトハウスに電話して、安全保障担当の高官と話し、「交渉する。NATOの拡大を止める。戦争を避ける好機がある」と訴えました。もちろん、無駄です。米国のプーチンへの正式な回答は、NATO拡大はロシアと交渉の余地がないというものであり、ロシアの発言権はまったくありませんでした。

 これは信じられないやり方です。なぜなら、それは戦争への直接の道になるからです。皆さんに理解してほしいのは、2月24日にロシアが侵攻したわずか一ヶ月後の2022年3月には、ウクライナにおけるこの戦争は交渉による合意によって早くも終結に近づいていたことです。ところが、この合意は、米国によって中止されました。というのも、この合意はウクライナの中立性に基づいていたからです。米国はウクライナに対し、戦い続け、交渉を打ち切り、中立を拒否するように命じていました。

 そして、私たちは核戦争の可能性に向けて激化し続ける戦争の中にいます。もしロシアが戦場で大敗を喫したら、それが起こるでしょう。ロシアは今のところ戦場で負けてはいませんが、もし負ければ核戦争に発展する可能性が高くなります。ロシアはドンバスとクリミアから追い出されて、おとなしく謝罪して帰国するつもりはないでしょう。ロシアは戦いを激化する必要があれば、そうするでしょう。つまり、私たちは今、非常に危険な連鎖的悪循環の中にいるのです。

 日本はこの連鎖の中に完全に飲み込まれています。そしてオーストラリアも同様です。オーストラリアがこの無謀な方法で利用されることを受け入れているのを見るのはとても悲しいことです。無謀で挑発的、そして費用のかかる方法で新たな軍事基地に巨額の費用を投じることは、オーストラリアに大きな負担を与えながら、米国の軍産複合体を養うことになるだけです。

 このような米国の行動は、ウクライナにおける米国の行動と同じように、我々を中国との戦争への道に向かわせています。アジア太平洋戦争になれば、さらに悲惨なことが起きるだけです。米国とその同盟国が中国と戦うという考えは、その意味、その愚かさ、そして無謀さにおいて、唖然とさせられます。これらはすべて、オーストラリアの安全保障上の真の利益とは完全に乖離しています。中国はオーストラリアにとって脅威ではありません。世界に対する脅威でもありません。

 私は、中国の歴史の中で中国が海外の国を侵略した例をひとつも知りません。ただ、モンゴル人が中国を一時的に統治し、日本を侵略しようとしたときを除いてですが。モンゴルによる侵攻は台風に負けましたが、それを除けば、中国は海外で戦争を始めたことはありません。それは中国の国策の一部ではないし、そのような戦争は中国の国益にもならないからです。
世界について私が心配しているのは、世界最強になることを目指している、極度に神経質になった米国の(安全保障上の)指導者たちだが、それは彼らが信じているやり方ではそうはなれないことです。これは情けないことですが、遠い昔の世界帝国の栄光を今も夢見るロンドンでは毎日称賛の声が上がっているのです。

 結論として、私が何をすべきかを言うのに1分かかることをご了解ください。

 第一に、ウクライナでの戦争は、バイデンが決断して、NATOがウクライナに拡大しないと発言する日には、終わる可能性がある。なぜなら、交渉による安全保障協定の基礎は30年前からあったが、これまでのところ米国によって拒否されていたからだ。

 第二に、アジアにNATO事務所を開設するという考えは、その愚かさゆえ唖然とさせられる。日本人にこの無謀な行動を止めるように言ってほしい。

 第三に、米国が台湾を武装させようと行動することは非常に危険であり、挑発的であり、意図的である。

 第四に、アジア太平洋地域で最も必要なのは、アジア太平洋諸国間の地域対話である。

 第五に、アジア太平洋地域はRCEP (東アジア地域包括的経済連携協定) を基礎とすべきである。RCEPは、特に気候変動問題、エネルギー政策、貿易政策、生活基盤施設への投資政策を中心に、中国、韓国、日本、ASEAN 10カ国、オーストラリア、ニュージーランドを一貫した枠組みでまとめるための正しい概念である。RCEPがうまく機能すれば、RCEPに参加する15カ国だけでなく、世界全体に利益をもたらすだろう。

 話が長くなって申し訳なかったですが、SHAPEがやっていることはとても重要です。あなた方は完全に正しい道を進んでいます。みなさんの努力が叶うことを願っています。
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