瀕死の帝国、アメリカ:中東から追い出される
<記事原文>America, An Empire on its Last Leg: To be Kicked Out from the Middle East?
ミシェル・チョスドフスキー
グローバル・リサーチ 2020年1月7日
(翻訳:寺島メソッド翻訳グループ;新見明 2020年1月30日)

アメリカの中東での軍事覇権計画は危険な地点に達している。
1月3日アメリカ大統領の命令でなされたIRGC将軍ソレイマニの暗殺は、イランに対する戦争行為に等しいものである。
ドナルド・トランプ大統領はソレイマニを「危急の、邪悪な攻撃」を図ったとして非難した。「我々は昨夜、戦争を阻止するため行動を起こした。我々は戦争を始めた訳ではない・・・ 我々は彼の行動を阻止し、彼を葬り去ったのだ。」
米国防長官マーク・T・エスパーはそれを「決定的防衛行動」と言った。POTUS(アメリカ合衆国大統領)よって命令された作戦はペンタゴンによって実行された。「ゲームは変化したのだ」とエスパーは述べた。
メディアが認識していないのは、イラクでもシリアでも、ソレイマニ将軍がISIS-ダーイシュの掃討に中心的役割を果たしたことだった。
ソレイマニ将軍の指揮下イラン革命防衛隊コッズ部隊(IRGC)はISIS-ダーイシュ傭兵に対して真の反テロリズム作戦を展開していたのだ。傭兵たちは、アメリカやその同盟国によって資金援助され、訓練され、リクルートされていたのだ。
トランプの「戦争阻止」行動計画は、アメリカのISISやアルカイダ系の歩兵を「守る」ことであった。
アメリカの違法な暗殺
ソレイマニ将軍の暗殺はトランプ大統領側の犯罪行為である。しかし、違法なアメリカの外国政治家暗殺活動については、長い歴史がある。
過去の違法な殺害とソレイマニ将軍の暗殺との違いは、アメリカ大統領が公式に彼の殺害命令を下したことである。
これは危険な前例を残すことになる。これは「秘密」というより「公然」と行われたものである。つまり、CIAもしくは、アメリカによる秘密作戦は、ワシントンの代わりに行動するアルカイダ系を支援していたということである。
重要なのは、実際、大統領命令による違法な暗殺行為を定式化(「合法化」)したのは、トランプではなくオバマであったことである。
そしてもし、[オバマ]大統領が誰かを、アメリカ市民を含めて、法的な
手続きなしで殺すことができるとしたら、彼はどんな権力を持っている
のだろう。民主主義と大統領独裁の間の公式的区別は全くなくなって
しまう。(ジョセフ・キショア, wsws.org, October 31, 2012)
トランプの反応:さらなる軍隊を中東へ
ペンタゴンは「中東へ数千の増派をしている」と発表したが、イラク議会の投票は、全会一致で直ちに全米軍の撤退を求めることになったのだ。
その立法は、イラク政府にイラク領土における外国勢力の存在を終わらせ、イラクの空、陸、海の使用を阻止ことを求めるものである。

Note: Death to America: refers to the US Government, Not the American People
(注:アメリカに死を:はアメリカ政府に対してであり、アメリカ市民に対してではない)
逆流:逸脱、オバマの空襲(2014年~2017年)
現在イラク議会はオバマ政権との2014年の腐敗した合意を見合わせている。その合意はアメリカにイスラム国(ISIS・ダーイシュ)に対する偽の反テロリズム作戦を行わせるためにアメリカをイラクに引き入れたのだ。イスラム国は、米・NATOとサウジアラビアがUAEの支援を得て資金援助され、訓練され、リクルートされた外国人傭兵集団からなっているのだ。
イラク議会の決定はこの点で重要である。この作戦は、イラク戦争(1991年、2003年、2014年)の第3局面を正当化する口実としてオバマ政権によって用いられた。反テロリズム作戦を偽装してオバマによって2014年6月開始され、殺害と破壊の新たな局面が開始されたのだ。
なぜアメリカ空軍はイスラム国を一掃できなかったのか。イスラム国は、最初から最先端のトヨタのピックアップトラックは言うまでもなく、通常小火器を装備されていていた。

F-15E Strike Eagle.jpg
最初から、ノーベル平和賞受賞者オバマの空爆は、ISISを狙っていなかった。イスラム国が標的ではなかったという証拠がある。全く逆であった。空爆はイラクやシリアの経済的インフラを破壊することがねらいであった。
イスラム国の車両隊が、ピックアップトラックでシリアからイラクへ入るのをあらわした次の画像をご覧なさい。二つの国にまたがる200kmに渡る広い砂漠を横切っている。
この車両隊は2014年6月イラクに入った。

何の効果的な対空能力もないISISの車両隊を一掃するために、軍事的な見地から言っても何が必要とされるというのか。
軍事的知識がなくっても、常識でわかる。

もしアメリカ空軍がイスラム国旅団を一掃したかったのなら、彼らは、2014年6月シリアから砂漠を横切る時、トヨタのピックアップトラックの自動車隊を「絨毯爆撃」したはずだ。
シリア・アラビア砂漠は、何の障害もない土地である(右の地図参照)。最新の戦闘機(F15,F22Raptor,F16)で、軍事的な観点からも、直ちに、効果的な外科手術で「粉々に」なったはずで、数時間内にイスラム国の自動車隊は一掃されたはずである。
しかし、もしそうなっていたら、米空軍は3年にわたる(2014年~2017年)「守る責任」(P2R)空爆作戦を実行することができなかったであろう。
その代わりに我々が見たものは、無慈悲な空襲と爆撃だったのだ。それは、米軍主導の連合軍によるいわゆるモスル解放(2017年2月)とラッカ(1917年10月)解放で頂点に達したのだ。
だからイスラム国は優位に立ち、強力な米主導の19カ国の軍事連合によっては打ち負かされなかったと、我々は考えざるを得なかった。
イラクやシリアの人民が標的であった。オバマの爆撃はイラクやシリアの民間インフラを破壊することがねらいであった。
ISIS・ダーイシュはアメリカ侵略の標的では決してなかった。全く逆であった。彼らは欧米軍事同盟によって守られていたのだ。
米軍撤退:ヤンキー・ゴー・ホーム(2020年)
大きな米軍撤退は近い将来あり得ないが、「アメリカのテロに対する戦争」は危機に瀕している。アメリカがテロリストを追跡しているとは誰も信じていないのだ。
イラクやシリアでは、すべてのアルカイダ系、ISIS・ダーイシュ系の存在が米・NATO軍に支援されていることは誰もが知っていることなのだ。
READ MORE:A Major Conventional War Against Iran Is an Impossibility. Crisis within the US Command Structure
「ヤンキー・ゴー・ホーム」の過程が開始された。アメリカはイラクやシリアから追い出されるだけでなく、広く中東におけるその戦略的存在が脅かされている。そしてこれら二つの過程が密接に関連しているのだ。
今度は、トルコ、クエート、オマーン、エジプトを含むいくつかのアメリカの元同盟国が、イランとの関係を正常化したのだ。
トランプの懲罰的爆撃。それらは実行されるだろうか。
最近、トランプは警告した。もしテヘランがソレイマニ暗殺に反撃するなら、「イランの52カ所を攻撃する」と。それは「非常に素早く、かつ厳しいもの」となるだろう、と。

ドナルド・トランプは反撃したがっている。しかし彼には、彼も気づいてさえいない深刻な兵站の問題がある。
普通、イランに対するこの種の懲罰的作戦は、カタールのアル=ウデイド空軍基地に位置するアメリカ中央軍(USCENTCOM)の中東前線司令部の任務である。
「CENTCOM(中央軍)は、中東や一部中央アジアを拠点にするアフ
ガニスタンやイラクのような国々の米軍を管理している。その主要な
司令部はフロリダのタンパにあるが、日々の戦闘作戦はアル=ウデイ
ド空軍基地から行われている。」
11,000人の軍人を擁し、ドーハに近いアル=ウデイド空軍基地は「最も恒久的で、最も戦略的に配備された地球作戦部隊の一つである」(ワシントン・タイムズ)。それはアフガニスタン(2001年)、イラク(2003年)を含むいくつかの主要な中東戦争を指揮し、調整してきた。そこにはもちろんシリアも含まれていた。

しかし問題が一つある。アル=ウデイド空軍基地のアメリカ中央軍の前線基地は、カタールにあることである。2017年6月以来、カタールは「敵との休戦状態」である。カタールはイランの堅固な同盟国になったのだ。
メディアも外交政策や軍事の評論家も認識していないことは、アル=ウデイド軍事基地の米中央軍(USCENTCOM)の前線基地本部は、事実上「敵の領土の中にある」ことである。そしてPOTUS(アメリカ大統領)はこの状況に全く気づいていないのだ。
やっと2・3ヶ月前に(2019年10月)、ペンタゴンはアル=ウデイドの米中央軍前線基地を中東の別のところに移動させない決定をしたのだ。
「カタールはいつもすぐれたパートナーであった。我々が作戦指令を
するこの基地は、巨大な基地であり、米中央軍(CENTCOM)はどこに
も移転する意思はない」と中央軍の副司令官チャンス・サルツマンが
述べた。
いい加減な情報、欠陥軍事計画なのか?カタールは「すぐれたパートナー」ではない。2017年6月以来、カタールは事実上イランの同盟国になったのだ。
さらに最近、両国はイラン・カタール軍事同盟を構築する議論をしているのだ。

(敵領土に位置する)アル-ウデイドが中東の別の地域に移動できないことを決定したので、その時ペンタゴンは、アル=ウデイド空軍・宇宙作戦部隊を南カロライナへ移動するシナリオを構想した。「7,000マイル離れた南カロライナへだ」。それはシミュレーションに過ぎなかった。「一時的転換」は24時間続いただけだった。
教訓:中東での「前線基地」なしには中東で「戦争を効果的に行う」ことはできない。「南カロライナ試験」は、お笑いぐさに近い。
アメリカの軍事計画者はやけになっているのか。
湾岸協力機構(GCC)が崩壊した2017年5月以来、ペンタゴンはアメリカ中央軍基地(その空軍爆撃能力を含む)を敵陣営(カタール)から、より広い中東地域にある「友好地域」(つまりサウジアラビアやイスラエル)へ移動できなかった。

軍事評論家がいま認めるところでは、イランとの紛争の際に、アル=ウデイドは直接の標的になってしまうことだ。「基地」の防衛システムは低空クルーズ・ミサイルやドローンに対して防衛装備が悪いと言われている。
大統領閣下:イランに近い同盟国の領土から、イランの懲罰的爆撃を一体どうやって始めるのか。
戦略的観点からそれは全く意味をなさない。そしてこれは氷山の一角にすぎない。
爆撃やミサイル攻撃が、デイゴ・ガルシアや米航空母艦、潜水艦などと同様、中東の他の米軍基地(下図参照)から発射され得るが、アル=ウデイドの地域米中央軍(USCENTCOM)(フロリダ、タンパ)前線基地は、ネブラスカのオファット空軍基地の米戦略司令部(USSTRATCOM)本部と連携して指令構造で重要な役割を演じているのだ。

資料:スタティスタ
カタールとアメリカは、アル=ウデイド空軍基地に関して長期的な相互協力条約を結んでいるが、カタールはイランだけではなく、米軍「敵」でアル=ハマスやヒズボラとも軍事協力合意を持っている。
ワシントンにとって問題点は、アル=ウデイドのあるカタールが、ガザ
を基盤とするイスラム抵抗運動(ハマス)とも親しいが、それはヒズボ
ラの指導者とも親しい・・・[カタールも]イランとも親しい関係にあるこ
とだ。実際、もしカタールが中東にアメリカ最大の軍事基地を持ってい
なかったら、これらの行為の多くを阻止するアメリカから圧力が加えら
れたであろう。
そして締めくくりとして、カタールはロシアとも友人であることだ。2017年6月サウジアラビアとの断絶の後すぐに、航空防衛に関して軍事技術協力合意がモスクワで調印された。
トルコのインジルリク空軍基地
「敵との休眠状態」が、1950年に米空軍によって建設されたインジルリク空軍基地に関しても広がっている。インジルリク空軍基地は、中東における米・NATOが主導するすべての作戦で戦略的役割を演じてきた。
約5000人の空軍兵士を抱えたアメリカ空軍は、今ロシアやイラン両国と同盟関係にある国(つまりトルコ)に駐留しているのだ。トルコとイランは隣国であり、親しい関係にある。対照的に、反乱軍を支援するアメリカとトルコは、北シリアでお互いに戦っているのだ。
2019年12月中旬、トルコ外相メヴリュット・チャヴシュオールは爆弾発言をした。トルコがロシアのS-400ミサイル防衛システムを購入したことでアメリカがかなりの制裁を加えたので、アメリカは二つの戦略的空軍基地(インジルリクとキュレジク)が使えなくなることをほのめかしたのだ。
アメリカの通常戦争能力
いくつかの理由から、中東でのアメリカの覇権は、進展する軍事同盟構造の結果、部分的に弱まってきた。
アメリカの指令能力は弱まった。二つのこの地域の最大の戦略空軍基地、つまりインジルリクとアル=ウデイド(カタール)は、もはやペンタゴンの指令下にはない。
イランに対する戦争が、ペンタゴンで計画されているが、現在の状態で、陸、海、空軍を同時に含む全面的電撃戦(通常戦争)は不可能である。
アメリカはそのような作戦を実行する能力を持っていないが、様々な形の「限定戦争」が、ミサイル攻撃、いわゆる「鼻血作戦」(戦術核兵器の使用を含む)を含めて考慮されている。同時に政治的不安定化工作やカラー革命(それはすでに進行中)、そして経済制裁と同様、金融市場の操作、新自由主義マクロ経済改革(IMFや世銀を通して課される)が考慮されている。
イランに対する核兵器オプション
そして通常戦争の範囲において核兵器オプションが構想されているが、それはまさにアメリカの弱さのためである。そのような選択は、必ずエスカレートせざるを得ないのだ。
無知と愚かさが、作戦決定の要素である。外交政策評論家エドワード・カティンによれば、「狂った人々は狂ったことをする」という。
政策決定の主要な立場にいる狂った人々とは誰なのか。
トランプ外交政策アドバイザー:マイク・ポンペオ国務長官、国家安全保障会議アドバイザー、ロバート・オ・ブライアン、ブライアン・フック、(イランの特別代表でアドバイザーのポンペオ)らがトランプ大統領にイランに対して戦術核兵器(B61バンカー・バスター)を使用する「鼻血作戦」を提言することができる。それをペンタゴンは「爆発は地下であるので一般市民には無害である」と類別しているのだ。
ペンタゴンが称する「鼻血作戦」は、(低量で、「使いかってのよい」戦術核兵器を使う)軍事作戦の考え方をあらわしている。それは最小限の被害であるとされている。しかしそれは嘘である。戦術核兵器は、広島原爆の3分の1から12倍の爆発力があるのだ。
原子力科学者会報(2019年7月)による
アメリカとイラン間の緊張は、アメリカが核兵器使用の可能性がある
軍事的衝突に向けて急旋回している。イランの様々な不均衡な戦闘
能力は、すべてアメリカに対して効果的なように作られ,そのような
対決に備えて作られている。現在のアメリカの核に対する姿勢は、
トランプ政権に少なくとも通常戦において戦術的核兵器使用を公言
させていることだ。現政権の何人かは、ペルシャ湾岸の石油ハブで
決定的で、素早い勝利を収めることが、アメリカの利益であると考え
ている。だから核兵器を使うことによって勝利するのだと。
アメリカ・イラン戦争戦争が核攻撃をする可能性が高まっていると我々
は考える・・・
重要なことは戦術核兵器の使用が、最高司令官の承認を必要としないことだ。その承認はただいわゆる戦術核兵器次第である。
原子力科学者会報の警告にもかかわらず、現在の状況はアメリカの「鼻血」戦術核兵器作戦に有利には働いていない。
アメリカ空軍の戦術核兵器倉庫は、ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコを含む非核保有国に、国家管理の軍事基地で貯蔵され、配備されている。

ハンス・クリステンセンとマット・コルダ(2019年、原子力科学者会報)によれば、アメリカは230の戦略核兵器を持っているとされている。その中で、ヨーロッパの非核保有国が約18の戦術核兵器を配備している。核弾頭のついた約50のB61バンカー・バスター爆弾は、トルコ司法権下にあるインジルリク空軍基地に貯蔵され、配備されている(上図参照)。
結論
◾アメリカ大統領は戦争犯罪を犯した。
◾失敗した「テロ戦争」物語
◾弱体化した軍事司令部構造
◾弱体化する同盟
◾敵との休戦
◾予想できない外交政策評論家
◾欺瞞と失敗
この重大事に、アメリカの最も強力な武器は、ドル化政策、ネオリベラル経済改革、金融市場を操作する能力である。
The original source of this article is Global Research
Copyright © Prof Michel Chossudovsky, Global Research, 2020
ミシェル・チョスドフスキー
グローバル・リサーチ 2020年1月7日
(翻訳:寺島メソッド翻訳グループ;新見明 2020年1月30日)

アメリカの中東での軍事覇権計画は危険な地点に達している。
1月3日アメリカ大統領の命令でなされたIRGC将軍ソレイマニの暗殺は、イランに対する戦争行為に等しいものである。
ドナルド・トランプ大統領はソレイマニを「危急の、邪悪な攻撃」を図ったとして非難した。「我々は昨夜、戦争を阻止するため行動を起こした。我々は戦争を始めた訳ではない・・・ 我々は彼の行動を阻止し、彼を葬り去ったのだ。」
米国防長官マーク・T・エスパーはそれを「決定的防衛行動」と言った。POTUS(アメリカ合衆国大統領)よって命令された作戦はペンタゴンによって実行された。「ゲームは変化したのだ」とエスパーは述べた。
メディアが認識していないのは、イラクでもシリアでも、ソレイマニ将軍がISIS-ダーイシュの掃討に中心的役割を果たしたことだった。
ソレイマニ将軍の指揮下イラン革命防衛隊コッズ部隊(IRGC)はISIS-ダーイシュ傭兵に対して真の反テロリズム作戦を展開していたのだ。傭兵たちは、アメリカやその同盟国によって資金援助され、訓練され、リクルートされていたのだ。
トランプの「戦争阻止」行動計画は、アメリカのISISやアルカイダ系の歩兵を「守る」ことであった。
アメリカの違法な暗殺
ソレイマニ将軍の暗殺はトランプ大統領側の犯罪行為である。しかし、違法なアメリカの外国政治家暗殺活動については、長い歴史がある。
過去の違法な殺害とソレイマニ将軍の暗殺との違いは、アメリカ大統領が公式に彼の殺害命令を下したことである。
これは危険な前例を残すことになる。これは「秘密」というより「公然」と行われたものである。つまり、CIAもしくは、アメリカによる秘密作戦は、ワシントンの代わりに行動するアルカイダ系を支援していたということである。
重要なのは、実際、大統領命令による違法な暗殺行為を定式化(「合法化」)したのは、トランプではなくオバマであったことである。
そしてもし、[オバマ]大統領が誰かを、アメリカ市民を含めて、法的な
手続きなしで殺すことができるとしたら、彼はどんな権力を持っている
のだろう。民主主義と大統領独裁の間の公式的区別は全くなくなって
しまう。(ジョセフ・キショア, wsws.org, October 31, 2012)
トランプの反応:さらなる軍隊を中東へ
ペンタゴンは「中東へ数千の増派をしている」と発表したが、イラク議会の投票は、全会一致で直ちに全米軍の撤退を求めることになったのだ。
その立法は、イラク政府にイラク領土における外国勢力の存在を終わらせ、イラクの空、陸、海の使用を阻止ことを求めるものである。

Note: Death to America: refers to the US Government, Not the American People
(注:アメリカに死を:はアメリカ政府に対してであり、アメリカ市民に対してではない)
逆流:逸脱、オバマの空襲(2014年~2017年)
現在イラク議会はオバマ政権との2014年の腐敗した合意を見合わせている。その合意はアメリカにイスラム国(ISIS・ダーイシュ)に対する偽の反テロリズム作戦を行わせるためにアメリカをイラクに引き入れたのだ。イスラム国は、米・NATOとサウジアラビアがUAEの支援を得て資金援助され、訓練され、リクルートされた外国人傭兵集団からなっているのだ。
イラク議会の決定はこの点で重要である。この作戦は、イラク戦争(1991年、2003年、2014年)の第3局面を正当化する口実としてオバマ政権によって用いられた。反テロリズム作戦を偽装してオバマによって2014年6月開始され、殺害と破壊の新たな局面が開始されたのだ。
なぜアメリカ空軍はイスラム国を一掃できなかったのか。イスラム国は、最初から最先端のトヨタのピックアップトラックは言うまでもなく、通常小火器を装備されていていた。

F-15E Strike Eagle.jpg
最初から、ノーベル平和賞受賞者オバマの空爆は、ISISを狙っていなかった。イスラム国が標的ではなかったという証拠がある。全く逆であった。空爆はイラクやシリアの経済的インフラを破壊することがねらいであった。
イスラム国の車両隊が、ピックアップトラックでシリアからイラクへ入るのをあらわした次の画像をご覧なさい。二つの国にまたがる200kmに渡る広い砂漠を横切っている。
この車両隊は2014年6月イラクに入った。

何の効果的な対空能力もないISISの車両隊を一掃するために、軍事的な見地から言っても何が必要とされるというのか。
軍事的知識がなくっても、常識でわかる。

もしアメリカ空軍がイスラム国旅団を一掃したかったのなら、彼らは、2014年6月シリアから砂漠を横切る時、トヨタのピックアップトラックの自動車隊を「絨毯爆撃」したはずだ。
シリア・アラビア砂漠は、何の障害もない土地である(右の地図参照)。最新の戦闘機(F15,F22Raptor,F16)で、軍事的な観点からも、直ちに、効果的な外科手術で「粉々に」なったはずで、数時間内にイスラム国の自動車隊は一掃されたはずである。
しかし、もしそうなっていたら、米空軍は3年にわたる(2014年~2017年)「守る責任」(P2R)空爆作戦を実行することができなかったであろう。
その代わりに我々が見たものは、無慈悲な空襲と爆撃だったのだ。それは、米軍主導の連合軍によるいわゆるモスル解放(2017年2月)とラッカ(1917年10月)解放で頂点に達したのだ。
だからイスラム国は優位に立ち、強力な米主導の19カ国の軍事連合によっては打ち負かされなかったと、我々は考えざるを得なかった。
イラクやシリアの人民が標的であった。オバマの爆撃はイラクやシリアの民間インフラを破壊することがねらいであった。
ISIS・ダーイシュはアメリカ侵略の標的では決してなかった。全く逆であった。彼らは欧米軍事同盟によって守られていたのだ。
米軍撤退:ヤンキー・ゴー・ホーム(2020年)
大きな米軍撤退は近い将来あり得ないが、「アメリカのテロに対する戦争」は危機に瀕している。アメリカがテロリストを追跡しているとは誰も信じていないのだ。
イラクやシリアでは、すべてのアルカイダ系、ISIS・ダーイシュ系の存在が米・NATO軍に支援されていることは誰もが知っていることなのだ。
READ MORE:A Major Conventional War Against Iran Is an Impossibility. Crisis within the US Command Structure
「ヤンキー・ゴー・ホーム」の過程が開始された。アメリカはイラクやシリアから追い出されるだけでなく、広く中東におけるその戦略的存在が脅かされている。そしてこれら二つの過程が密接に関連しているのだ。
今度は、トルコ、クエート、オマーン、エジプトを含むいくつかのアメリカの元同盟国が、イランとの関係を正常化したのだ。
トランプの懲罰的爆撃。それらは実行されるだろうか。
最近、トランプは警告した。もしテヘランがソレイマニ暗殺に反撃するなら、「イランの52カ所を攻撃する」と。それは「非常に素早く、かつ厳しいもの」となるだろう、と。

ドナルド・トランプは反撃したがっている。しかし彼には、彼も気づいてさえいない深刻な兵站の問題がある。
普通、イランに対するこの種の懲罰的作戦は、カタールのアル=ウデイド空軍基地に位置するアメリカ中央軍(USCENTCOM)の中東前線司令部の任務である。
「CENTCOM(中央軍)は、中東や一部中央アジアを拠点にするアフ
ガニスタンやイラクのような国々の米軍を管理している。その主要な
司令部はフロリダのタンパにあるが、日々の戦闘作戦はアル=ウデイ
ド空軍基地から行われている。」
11,000人の軍人を擁し、ドーハに近いアル=ウデイド空軍基地は「最も恒久的で、最も戦略的に配備された地球作戦部隊の一つである」(ワシントン・タイムズ)。それはアフガニスタン(2001年)、イラク(2003年)を含むいくつかの主要な中東戦争を指揮し、調整してきた。そこにはもちろんシリアも含まれていた。

しかし問題が一つある。アル=ウデイド空軍基地のアメリカ中央軍の前線基地は、カタールにあることである。2017年6月以来、カタールは「敵との休戦状態」である。カタールはイランの堅固な同盟国になったのだ。
メディアも外交政策や軍事の評論家も認識していないことは、アル=ウデイド軍事基地の米中央軍(USCENTCOM)の前線基地本部は、事実上「敵の領土の中にある」ことである。そしてPOTUS(アメリカ大統領)はこの状況に全く気づいていないのだ。
やっと2・3ヶ月前に(2019年10月)、ペンタゴンはアル=ウデイドの米中央軍前線基地を中東の別のところに移動させない決定をしたのだ。
「カタールはいつもすぐれたパートナーであった。我々が作戦指令を
するこの基地は、巨大な基地であり、米中央軍(CENTCOM)はどこに
も移転する意思はない」と中央軍の副司令官チャンス・サルツマンが
述べた。
いい加減な情報、欠陥軍事計画なのか?カタールは「すぐれたパートナー」ではない。2017年6月以来、カタールは事実上イランの同盟国になったのだ。
さらに最近、両国はイラン・カタール軍事同盟を構築する議論をしているのだ。

(敵領土に位置する)アル-ウデイドが中東の別の地域に移動できないことを決定したので、その時ペンタゴンは、アル=ウデイド空軍・宇宙作戦部隊を南カロライナへ移動するシナリオを構想した。「7,000マイル離れた南カロライナへだ」。それはシミュレーションに過ぎなかった。「一時的転換」は24時間続いただけだった。
教訓:中東での「前線基地」なしには中東で「戦争を効果的に行う」ことはできない。「南カロライナ試験」は、お笑いぐさに近い。
アメリカの軍事計画者はやけになっているのか。
湾岸協力機構(GCC)が崩壊した2017年5月以来、ペンタゴンはアメリカ中央軍基地(その空軍爆撃能力を含む)を敵陣営(カタール)から、より広い中東地域にある「友好地域」(つまりサウジアラビアやイスラエル)へ移動できなかった。

軍事評論家がいま認めるところでは、イランとの紛争の際に、アル=ウデイドは直接の標的になってしまうことだ。「基地」の防衛システムは低空クルーズ・ミサイルやドローンに対して防衛装備が悪いと言われている。
大統領閣下:イランに近い同盟国の領土から、イランの懲罰的爆撃を一体どうやって始めるのか。
戦略的観点からそれは全く意味をなさない。そしてこれは氷山の一角にすぎない。
爆撃やミサイル攻撃が、デイゴ・ガルシアや米航空母艦、潜水艦などと同様、中東の他の米軍基地(下図参照)から発射され得るが、アル=ウデイドの地域米中央軍(USCENTCOM)(フロリダ、タンパ)前線基地は、ネブラスカのオファット空軍基地の米戦略司令部(USSTRATCOM)本部と連携して指令構造で重要な役割を演じているのだ。

資料:スタティスタ
カタールとアメリカは、アル=ウデイド空軍基地に関して長期的な相互協力条約を結んでいるが、カタールはイランだけではなく、米軍「敵」でアル=ハマスやヒズボラとも軍事協力合意を持っている。
ワシントンにとって問題点は、アル=ウデイドのあるカタールが、ガザ
を基盤とするイスラム抵抗運動(ハマス)とも親しいが、それはヒズボ
ラの指導者とも親しい・・・[カタールも]イランとも親しい関係にあるこ
とだ。実際、もしカタールが中東にアメリカ最大の軍事基地を持ってい
なかったら、これらの行為の多くを阻止するアメリカから圧力が加えら
れたであろう。
そして締めくくりとして、カタールはロシアとも友人であることだ。2017年6月サウジアラビアとの断絶の後すぐに、航空防衛に関して軍事技術協力合意がモスクワで調印された。
トルコのインジルリク空軍基地
「敵との休眠状態」が、1950年に米空軍によって建設されたインジルリク空軍基地に関しても広がっている。インジルリク空軍基地は、中東における米・NATOが主導するすべての作戦で戦略的役割を演じてきた。
約5000人の空軍兵士を抱えたアメリカ空軍は、今ロシアやイラン両国と同盟関係にある国(つまりトルコ)に駐留しているのだ。トルコとイランは隣国であり、親しい関係にある。対照的に、反乱軍を支援するアメリカとトルコは、北シリアでお互いに戦っているのだ。
2019年12月中旬、トルコ外相メヴリュット・チャヴシュオールは爆弾発言をした。トルコがロシアのS-400ミサイル防衛システムを購入したことでアメリカがかなりの制裁を加えたので、アメリカは二つの戦略的空軍基地(インジルリクとキュレジク)が使えなくなることをほのめかしたのだ。
アメリカの通常戦争能力
いくつかの理由から、中東でのアメリカの覇権は、進展する軍事同盟構造の結果、部分的に弱まってきた。
アメリカの指令能力は弱まった。二つのこの地域の最大の戦略空軍基地、つまりインジルリクとアル=ウデイド(カタール)は、もはやペンタゴンの指令下にはない。
イランに対する戦争が、ペンタゴンで計画されているが、現在の状態で、陸、海、空軍を同時に含む全面的電撃戦(通常戦争)は不可能である。
アメリカはそのような作戦を実行する能力を持っていないが、様々な形の「限定戦争」が、ミサイル攻撃、いわゆる「鼻血作戦」(戦術核兵器の使用を含む)を含めて考慮されている。同時に政治的不安定化工作やカラー革命(それはすでに進行中)、そして経済制裁と同様、金融市場の操作、新自由主義マクロ経済改革(IMFや世銀を通して課される)が考慮されている。
イランに対する核兵器オプション
そして通常戦争の範囲において核兵器オプションが構想されているが、それはまさにアメリカの弱さのためである。そのような選択は、必ずエスカレートせざるを得ないのだ。
無知と愚かさが、作戦決定の要素である。外交政策評論家エドワード・カティンによれば、「狂った人々は狂ったことをする」という。
政策決定の主要な立場にいる狂った人々とは誰なのか。
トランプ外交政策アドバイザー:マイク・ポンペオ国務長官、国家安全保障会議アドバイザー、ロバート・オ・ブライアン、ブライアン・フック、(イランの特別代表でアドバイザーのポンペオ)らがトランプ大統領にイランに対して戦術核兵器(B61バンカー・バスター)を使用する「鼻血作戦」を提言することができる。それをペンタゴンは「爆発は地下であるので一般市民には無害である」と類別しているのだ。
ペンタゴンが称する「鼻血作戦」は、(低量で、「使いかってのよい」戦術核兵器を使う)軍事作戦の考え方をあらわしている。それは最小限の被害であるとされている。しかしそれは嘘である。戦術核兵器は、広島原爆の3分の1から12倍の爆発力があるのだ。
原子力科学者会報(2019年7月)による
アメリカとイラン間の緊張は、アメリカが核兵器使用の可能性がある
軍事的衝突に向けて急旋回している。イランの様々な不均衡な戦闘
能力は、すべてアメリカに対して効果的なように作られ,そのような
対決に備えて作られている。現在のアメリカの核に対する姿勢は、
トランプ政権に少なくとも通常戦において戦術的核兵器使用を公言
させていることだ。現政権の何人かは、ペルシャ湾岸の石油ハブで
決定的で、素早い勝利を収めることが、アメリカの利益であると考え
ている。だから核兵器を使うことによって勝利するのだと。
アメリカ・イラン戦争戦争が核攻撃をする可能性が高まっていると我々
は考える・・・
重要なことは戦術核兵器の使用が、最高司令官の承認を必要としないことだ。その承認はただいわゆる戦術核兵器次第である。
原子力科学者会報の警告にもかかわらず、現在の状況はアメリカの「鼻血」戦術核兵器作戦に有利には働いていない。
アメリカ空軍の戦術核兵器倉庫は、ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコを含む非核保有国に、国家管理の軍事基地で貯蔵され、配備されている。

ハンス・クリステンセンとマット・コルダ(2019年、原子力科学者会報)によれば、アメリカは230の戦略核兵器を持っているとされている。その中で、ヨーロッパの非核保有国が約18の戦術核兵器を配備している。核弾頭のついた約50のB61バンカー・バスター爆弾は、トルコ司法権下にあるインジルリク空軍基地に貯蔵され、配備されている(上図参照)。
結論
◾アメリカ大統領は戦争犯罪を犯した。
◾失敗した「テロ戦争」物語
◾弱体化した軍事司令部構造
◾弱体化する同盟
◾敵との休戦
◾予想できない外交政策評論家
◾欺瞞と失敗
この重大事に、アメリカの最も強力な武器は、ドル化政策、ネオリベラル経済改革、金融市場を操作する能力である。
The original source of this article is Global Research
Copyright © Prof Michel Chossudovsky, Global Research, 2020
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