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ウクライナ側の防空体制の現状とは:ウルフ大佐への聞き取りの取材

<記事原文 寺島先生推薦>
The Current State of Kiev’s Air Defenses: Interview with Colonel Wolf

筆者:ドラゴ・ボスニック(Drago Bosnic)
出典:INTERNATIONALIST 360° 2023年5月22日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年5月30日



ロシアの「キンジャール」超音速ミサイルが、ウクライナ側の米国製「パトリオット」防空システムを破壊


 ここ数週間、キエフ政権の防空施設についての記事が一面を飾っているが、実際に起こっている問題については報道がなされていない。西側諸国政府は、手下の大規模宣伝装置を動員して、ウクライナのネオナチ軍事政権に供給されたSAM (地対空ミサイル)システムをもてはやし、超音速ミサイルなどのロシア側の武器を撃ち落としたという馬鹿げた記事を報じた。西側じゅうでこのような嘘情報が溢れだし、それと同時に情報戦争といっていい空気が漂っていたが、好戦的な西側勢力は、有能な専門家たちにこんなトンデモ話を納得させることはできていなかった。そう言いきれる根拠の一つとして特筆すべき事実は、「撃墜された」という話の「決定的証拠」は完全に一笑にふされる話であり、ただの噂話にすぎない程度のものであるということだ。

 しかし、キエフ政権の防空体制の実情をよりきちんと理解するため、私たちは再度ウルフ大佐に話を聞くことにした。この大佐は、退役軍人であり、ユーゴスラビア(後にはセルビア)軍の防空隊の一員だった人物だ。ウルフ大佐は、軍で40年以上勤務し、職業上の経験や長年の戦闘体験(1990年代の米・NATOによるユーゴスラビア・セルビア侵攻に対する戦闘体験も含む)のおかげで、大佐は現状の詳細を理解することができている。以前私たちがウルフ大佐に行った聞き取り取材は、ちょうど一年前に記事になったのだが、その中で大佐はロシアによる特殊軍事作戦(SMO)に対する見解を示してくれていた。今回の主題は、SMOの主要な敵の動きについてであり、西側が最新の地対空ミサイル・システムを供給したことにより、戦場の状況にどう影響するかについて、だ。


 大佐、再度貴殿にお越しいただき、聞き取り取材に応じてくださり感謝しています。まずは基本的なことからお伺いします。キエフ政権軍の防空体制は今後弱まるとお考えですか? それとも、そうならないよう西側は武器の供給を続けるのでしょうか?

 まずは、皆さんと尊敬すべき読者の皆さんにお礼を言わせてください。再びみなさんと話せる機会が持てて光栄です。今回の話題は私の一番気になる話題だからなおさらです。この件に関しては、私は人生においていちばん力を入れて取り組んできたことなのです。言わせていただきたいのは、報道機関が防空体制について報じるのを聞くと、笑ってしまうことがよくあるということです。そして、防空システムをあんなにも強引に単純化して伝えているので、皆が(防空)体制というのはこんなにも重大で魔法のような効果があると考えてしまって、西側からあのような防空システムが届けば、最大限の範囲で効果を発揮して、すべてを破壊できる、と思わされている状況にも笑うしかないことがよくあります。
さらに、標的というのは様々であり、それぞれの対処法が必要だということもみなさんお分かりではないようです。例えば、弾道ミサイルを攻撃するのと、ドローンや戦闘機を標的にするのでは、やり方は全く異なります。防空システムというのはとても複雑なので、一度の聞き取り取材で語り尽くすことはできません。ですので私はなるべく簡単に、なるべく分かりやすくお話するように努めます。

 お伺いの件ですが、私が強く言いたいのは、各国の軍の様々な分野で使われている武器の相互通用性の重要性についてです。簡単に言えば、地対空ミサイル・システムの効果を最大限に発揮させるためには、防空体制内やそれ以外の軍組織において通用できる必要があるということです。この条件が満たされていなければ、通信の不具合や通信不足が生じ、誤作動が起こりやすくなり、職務上、このような不具合は命に関わる問題になります。
 これまでもウクライナ軍内部では、このような状況は比較的よく起こっていたことでした。かつてはウクライナの地対空ミサイル・システムのほとんどはソ連時代のものであり、長年使われていなかったため、使用法が忘れられていて、不始末もあったのですが、武器の相互通用性はしっかりとしていたのです。
 ウクライナ軍が自国の戦闘機やヘリコプターを撃墜した事例も少なからずありました。「自軍による誤爆事故」というものです。
 しかし、ウクライナが今NATOの防空システムをより多く手に入れたことで、このような問題は増える可能性があります。というのも、西側の防空システムとソ連時代の防空システムの間に相互通用性がない、あるいは通用性がないのに無理に通用させる場合も出てくる可能性があるからです。他の多くの武器と同様、この行為は非常に危険です。そうなってしまう主な理由は、NATOとソ連・ロシアの間には、防空に対する考え方に大きな違いがあることです。

 ロシアと西側の防空体制に対する考え方の違いについて、簡単にお話くださいますか?

 もちろんいいですよ。大きな違いは、防空をどれだけ優先しているかと、その考え方をどう進めているかの点にあります。地対空ミサイル・システムだけのことではないのです。

 NATOが主に力を入れているのは、制空権を確保することですが、ソ連(及び今のロシア)は、大規模な戦争においては、常に制空権を完全に確保しようとすることに力を注いでいるわけではありません。 その点において、西側諸国は通常防空を、軍において補助的なものとして捉えています。他方ロシア側は、防空を軍の方針の主要部として捉えています。具体的には、これらの防空能力を駆使して、大規模で複雑で十分に統合された体制がとれることを目指しているのです。そして何か問題が生じた時は、防空部だけで対応できるようにすることも目指しています。
 このようなことが、実際に戦争が起こった際や大規模な戦争が起こった際だけではなく、常時から目指されています。そのことを念頭に置けば、私が理解に苦しんだのは、西側の地対空ミサイルシステムは、ソ連時代のものよりウクライナ軍にとって役に立つものであると考える人々が存在することです。このことについては、私は今も理解できていません。

 その話についてはこの後すぐに必ず取り上げますが、その前にご意見をお伺いしたいのは、ウクライナの重要な基盤施設をロシア軍が攻撃することによる影響により、地対空ミサイルシステムの供給者という観点から、西側諸国政府の見通しがどう変わっているかという点についてです。

 そうですね。先ほど西側の防空に対する考え方について話しましたが、だからといって、西側の防空システムを過小評価してはいけません。このことは、NATOがウクライナ軍にNATOのミサイルを送ろうとしている点についても当てはまります。この先ミサイルの供給は必ず比較的安定化するでしょう。このような状況は、ロシア軍にとっては確実に脅威です。
 しかし、 ウクライナ軍の防空体制全般の能力は、 この先必ず激しく弱化するでしょう。その理由は単純、ミサイルにあります。ご存知の通り、ウクライナの地対空ミサイルシステムのほとんどはいまだにソ連時代のものであり、そのようなソ連時代のミサイルを大量生産できる国は、世界でロシアだけなので、ウクライナ軍がミサイル不足になることは避けられません。S-300PTミサイルやS-300PSミサイルなどについては、まさにそうです。そしてこれらのミサイルは、長距離地対空ミサイル・システムの中でウクライナがいちばん多く所有しているミサイルなのです。これはロシアの特殊軍事作戦の開始前の状況でしたが、これらのミサイルが大量に破壊された今も、その状況は変わっていないでしょう。
 これらの防空システムが大きく依存しているのが5V55系列ミサイルであるのは、この系列のミサイルが、ソ連軍や後のウクライナ軍の備蓄の中で一番多い型だったからです。

 ワシントン・ポスト紙ファイナンシャル・タイムズ紙など西側諸国の報道機関でさえ、このような状況を警告しています。興味深いことに、さきほど相互通用性の問題について触れられていましたよね。この問題はソ連時代の武器とNATOの武器との間の相互通用性に限られているとお考えですか?それとも、西側の様々な軍事システムについてもこの問題が拡大するとお考えですか?


 後者のように考えるのが正しい見方です。いま私たちの目の前で起こっていることは、私の良き友人が冗談めかして言っていたとおり、「戦時の武器万博」が開催されているようなものです。様々なNATOの軍事システムがウクライナ軍に送られている様子は、たしかに万博さながらです。「パトリオット」ミサイル、NASAMS(ノルウェーとアメリカが開発した中高度防空ミサイル・システム)、IRIS-T(ドイツの対空対ミサイル)、「Hawk(米国の対空対ミサイル)」など多種多様です。
 ソ連時代の様々なミサイルとこれらの「ミサイルの盛り合わせ」を合わせるということは、兵站上悪夢のようなもので、状況は悪くしかならないでしょう。
 よくしがちな間違いというのは、実際の数や様々な軍事システムを見比べるだけで、軍の実力を考えてしまうという見誤りです。しかし、兵站面や武器の操作のしやすさこそが、機械の「調子の良さ」にとって大事なことなのです。ソビエト社会主義共和国連邦の防空体制は広大な繋がりを有していて、防空面は非常に整ったものでした。その防空体制は現在でも(ウクライナ・ロシア両国で)存続しており、ロシア航空宇宙軍は、本質的には自国の防空体制と相対してしているということです。この防空体制はもう何十年も他に類を見ない優れものなのです。
 私が言い続けているのは、私の考えではNATOがこんな優れた防空体制に対抗できるわけがない、という点なのです。広大なSEAD (敵防空網制圧) という能力を有しているにせよ、です。これらの防空体制は昨年からずっと劣化の一途をたどっています。

もてはやされている米国の「パトリオット」地対空ミサイルについては、どのように評価されていますか?

 はい、書類上は、この「パトリオット」はとてもよい防空体制です。しかし、実際のところは、どんな武器も使ってみないとわからないのです。つまり、これまでのこのミサイルの実績を見てみると、そんなに褒められたものではないことがわかります。
 (湾岸戦争時の)「砂漠の嵐作戦」以来ずっと、米国は「パトリオット」に関して課題を持ち続けてきました。その課題の中には、様々なソフト面での課題が含まれていますし、さらには自国製の長距離ドローンやミサイルでさえ迎撃できないという課題もあります。
 加えて、最も基本的なミサイルであるS-300ミサイルと比べても、「パトリオット」にはいくつかの重大な欠陥があります。場所が検出されやすいこと、交戦距離の問題以外にも、「パトリオット」が迎撃できる標的の種類には限界があることもそうですし、 さらにもっと考慮すべき重要な問題があります。
 何より、S-300ミサイルのTEL(輸送起立発射機)がミサイルを発射する角度は90度ですので、このミサイルシステムを使えば、すべての地域を網羅できることになる点が重要です。他方、「パトリオット」が網羅できるのはたった120度の範囲だけなので、S-300と同範囲を網羅するためには、より多くの発射装置が必要になります。
 近年、この問題がサウジアラビアで露呈しました。 廉価で単純なドローンやミサイルが、「パトリオット」の守備範囲を乗り超える事象が生じたのです。その理由は、「パトリオット」は北・北西方向(イラン方面)を標的としていたのですが、実際の標的物が逆方向(イエメン方面)から飛来したからでした。
 もうひとつの重要な点は、「パトリオット」が持つ移動中の標的を撃墜する能力についてです。「パトリオット」のABM(弾道弾迎撃ミサイル)能力には、疑問が持たれていました。旧式のソ連型「スカッド」系統ミサイルに対しても、です。
 そしてこの場合、私たちが主に話題にしているのは、基本的な迎撃ミサイルのことですが、これらの迎撃ミサイルは進路が予測できるため、比較的簡単に動きの予測ができ、追跡もできます。
 しかし移動中の標的は、これらの予測をすべて無効化することができます。ミサイルが軌道を変えてしまえば、迎撃ミサイルの飛行通路に基づく計算がすべて使えなくなってしまい、新たに計算をし直し、ミサイルに反応する時間は減じられ、追加の迎撃ミサイルを発射しなければならなくなります。この点だけても、そのような移動中の標的に対して、このミサイル・システムの効果を大きく低下させる原因になります。   
 さらに、この状況に超音速速度という要素まで加われば、迎撃するという使命は事実上不可能になります。まさにこのような状況こそ、先日私たちが目にした状況なのです。ウクライナ軍は、ロシアの「キンジャール」ミサイルを撃墜したと発表した時のことです。
 出回っている動画を見れば、何十機ものミサイルが同時に発射されていたことがわかります。ロシア軍が本当に超音速ミサイルを使って、ウクライナ側が使用していた作動装置を攻撃したのであれば、ウクライナ軍の決定の裏にどんな状況があったかの説明になります。この日に発射された全てのミサイルが「パトリオット」からのものだったかどうか、私には確認できませんが、様々な報道が本当であれば、ウクライナ軍は、一年間に生産するミサイルの6%分をたった数分、あるいは数秒で使用したことになります。
 さらにこの件は、先述した別の問題も提起しています。 つまり、西側諸国は、ウクライナがこんなミサイルの使い方をして、供給を持続できるかという点です。したがって、この「軍事システム盛り合わせ」には、S-300系統ミサイルの際には生じなかった、費用面の問題が生じるということです。

 これら全ての状況を念頭に置けば、西側やウクライナ政権が、根拠なしにロシアの超音速武器に対する「パトリオット」ミサイルシステムの能力をもてはやしている持続不可能な裏にはどんな動機があるとお考えですか?

 はい。先述した私の友人が完璧なことばで総括したように、「戦時中万博」を開きたいという動機でしょう。大規模な戦争は全て、武器製造業者にとってみれば、自社の武器を売り込む最大の好機であり、今の危機的状況はまさにそういう状況です。実際今回の戦争はここ数十年なかった激しい戦争ですので、最も効果的であることが証明された武器システムは 、様々な業者にとって、この先長きに渡り大きな儲け口の契約を確保できることになるでしょう。「パトリオット」に特化して考えれば、情報戦争を起こせば、非常に必要とされているウクライナ軍の士気向上に繋がるだけではなく、これまで酷評されてきた「パトリオット」地対空ミサイルの評判の回復にもなるのです。そうなれば売上や株市場に貢献できます。

 ただしこの件には別の観点も存在します。ロシアの超音速武器が「標的に」されている理由は、世界からの名声や評判の問題と繋がります。
 アメリカ合衆国は、超音速武器については開発面でも配置面でもロシアによる大きく遅れをとっています。ロシア側が所有するこれらの超音速武器の評判を落とすことで、①米国はこれらのミサイルを「撃墜」する能力を有しており、②ロシアの超音速武器は「思われているほど優れたものではない」という2つの主張を支持してもらおうとしているのです。
 尊敬すべき読者の皆さんに、お考えいただきたいのは、ウクライナの防空体制はもう一年以上も稼働してきたのに、「パトリオット」ミサイルシステムが配置されるやいなや、ロシアの超音速ミサイルがやっと「撃墜された」という事実です。この件自体で、大きな疑問点が生じますし、撃墜したことを「証明」するために使われている「証拠」だけでも全く信頼の置けないものです。
 他方、「パトリオット」ミサイルシステムのまさに好敵手に当たるのが、S-300系統ミサイルなのですが、このミサイルは米国のSR-71「ブラック・バード」偵察機などが与える危険に対応するよう製造されています。その事実から、読者の皆さんによくお考えいただきたいのは、他の、特に西側の防空システムが、このS-300系統ミサイルと比べてどれほど効果があるのかという点についてです。

 大佐。,再度お越しいただき感謝いたします。ウクライナ軍の防空体制の現状について、お話を聞かせていただくという機会をくださり、ありがとうございました。

 こちらこそ、再度聞き取り取材を行ってくださり、ありがとうございました。皆さんと尊敬すべき読者の皆さんに再度お礼申し上げます。
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