ICCによるプーチンへの逮捕状は米国務省が資金提供した研究所の虚偽の報告書に基づいている。
<記事原文 寺島先生推薦>
ICC’s Putin arrest warrant based on State Dept-funded report that debunked itself
ICC(国際刑事裁判所)が出したプーチン大統領への逮捕状は、米国務省が資金提供した報告書に基づくものだが、それは虚偽である。
筆者:ジェレミー・ロフレド、マックス・ブルメンタール
(Jeremy Loffredo and Max Blumenthal)
出典:グレーゾーン(GRAYZONE)
2023年3月31日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年4月12日

1.国際刑事裁判所(ICC)は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、ウクライナの子どもたちをロシア国内の収容所ネットワークに「強制移送」したとして、逮捕状を発行した。この逮捕状は、米国国務省の資金援助を受けている「イェール大学人道研究所(HRL*)」の報告書に基づくものである。
* Humanitarian Research Lab
2.米国人ジャーナリストのジェレミー・ロフレド氏は、問題となっているロシア政府主催のキャンプのひとつを訪れた。モスクワ郊外にある「The Donbas Express(ドンバス急行)*」で、ロフレド氏は紛争地域の若者たちに会った。彼らは無料の音楽指導を受け、安全な環境にあることに感謝しながら、生き生きと過ごしていた。本記事では、彼の独占映像レポートを掲載する。
* 「ドンバス急行」は、ウクライナ、ドンバス地域の青少年を集めて、音楽など文化教育を行う施設。
3.「イェール大学人道研究所」の報告書に関する当サイト「Grayzone」による論評記事では、報告書の内容が、ICC(国際刑事裁判所)の令状に含まれる多くの主張と矛盾していることが判明した。また、イェール大人道研究所の所長ナサニエル・レイモンドがメディアに登場した際に発した扇動的な発言の虚偽も裏付けられた。
4.ロフレド氏とのインタビューで、イェール大学人道研究所のレイモンド所長は、ロシアで進行中の大規模な「人質事件」について、CNNのインタビューでの誘拐の主張をさらに否定し、彼が調査したキャンプのほとんどは「テディ・ベア」*のような文化プログラムだったことを認めた。また、米国情報機関との協力関係も明らかにした。
* テディベア(熊のぬいぐるみ)と名付けられた音楽教育プログラム。ドンバス地域の青少年のためのもの。
3月17日、国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン検事総長は、ロシアのプーチン大統領とマリア・ルロヴァ=ベロヴァ「子どもの権利担当委員」に対する逮捕状を提出した。この逮捕状は、プーチンとロルヴァ=ベロヴァがウクライナの子どもたちをロシア連邦内の「収容所ネットワーク」に「不法送還」したことを非難するもので、欧米では煽情的な論評が相次いだ。
米国議会で最も積極的にロシアとの戦争を応援していると思われるリンゼイ・グラハム上院議員は、こう宣言した。「プーチンは、少なくとも16,000人のウクライナの子どもたちを家族から誘拐し、ロシアに送った。これはまさに第二次世界大戦でヒトラーがやったことだ。」
CNNのファリード・ザカリアはグラハム上院議員と同じ意見で、ICCの令状はプーチンが「実際にヒトラーの脚本にそって行動している部分がある」ことを明らかにしたと述べた。
ICCの検察官は、イェール大学の人道研究所(HRL)が作成した研究に基づいて逮捕状を取ったようだ。イェール大学人道研究所の研究は、バイデン政権が2022年5月に設立したロシア高官の訴追を進めるための組織である国務省の「紛争・安定化作戦局」から資金提供と指導を受けている。
イェール大学人道研究所のナサニエル・レイモンド所長は、CNNのアンダーソン・クーパーとのインタビューで、自身の報告書が「数千人の子どもたちが人質状態にある」という証拠になると主張した。彼はホロコーストを引き合いに出して、「私たちは21世紀に見られる最大の子ども収容所のネットワークのことを問題にしているのだ」と主張した。
しかし、この報告書の共著者であるジェレミー・ロフレドとのインタビューや、イェール大学人道研究所の自身の論文の中で、レイモンド所長は、子供の人質についてメディアに対して行った大げさな主張の多くを否定している。共著者ロフレドとの電話会談でレイモンド所長は、彼のチームが調査したキャンプの「大部分」が「主に文化教育―言うなれば、テディベア文化・音楽教育のようなもの」であったことを認めた。
イェール大学人道研究所の報告書も同様に、調査したキャンプのほとんどが、恵まれない青少年のために無料のレクリエーション・プログラムを提供しており、その親たちは「継続する紛争から子供を守る」「住んでいる場所では手に入らないような栄養のある食べ物を確保する」ことを求めていたことを認めている。同報告書によると、ほぼすべてのキャンプ参加者は、両親の同意のもとに参加した後、適時に帰宅していたそうだ。国務省が資金提供した報告書はさらに、「子供の虐待を示す文書はなかった」と認めている。
イェール大学人道研究所の調査はすべて、マクサー(米国宇宙技術会社)の衛星データ、テレグラムの投稿、ロシアメディアの報道に基づいて行われ、その解釈はグーグル翻訳に頼り、時には引用記事を誤認していた。国務省が資金を提供したこの調査団は、論文のために現地調査を行わなかったことを認め、「現地での調査は行わないので、収容所での取材は要求していない」と述べている。
ICCの逮捕状のきっかけとなったイェール大学の調査員とは異なり、(ジャーナリストの)ロフレド氏はモスクワにあるロシア政府のキャンプを自由に取材することができた。そこはまさにイェール大学人道研究所つまりはICC―がウクライナの子ども人質の「再教育キャンプ」として描いてきたような場所だったが、彼が発見したのは、一流の講師から母国語のロシア語で無料のクラシック音楽のレッスンを受ける幸せな参加者でいっぱいのホテルだった。レイモンド氏はその若者達を「テディベア」と呼んでいた。
モスクワ郊外にある音楽キャンプ「The Donbas Express」で、若者たちはロフレド氏に、ウクライナ軍による長年にわたる砲撃と包囲のキャンペーンから避難できたことに感謝している、と語った。ドンバスの戦争から逃れることで、子どもたちは、イェールHRLとICCがほとんど関心を示さない悪夢のような軍事衝突から逃れたのだ。
無料の音楽レッスン、「精神的な豊かさ」、戦争からの安全、そして米国の非難:「the Donbas Express」への訪問記
私ジェレミー・ロフレドが2022年11月にロシアの青少年音楽キャンプを訪れたとき、私は、私が目撃したような利他的なプログラムを、米国政府が政治的戦争を進めるためにすぐに利用することになるとは思いもしなかった。
当時、私は前職の「Rebel News(抵抗ニュース)社」の仕事でモスクワに滞在し、街中の一般人に街頭インタビューを行っていた。
私はロシアの音楽界に影響力のある奥さんを持つ人に会った後、モスクワの南西45マイルにある、米国国務省が資金援助した研究者が「再教育キャンプ」と表現しているプログラムを見学するように誘われた。ポクロフスコエという町にあるソ連時代のホテルで、私はプーチンに対するICCの逮捕状の中心となっている、いわゆる施設のひとつに入ることになった。
私が訪れた時には、ロシア政府はこのホテルを、ドネツクとルガンスクの分離独立共和国出身の子どもたちのための臨時宿泊施設に作り替えていた。私が訪れたthe Donbas Expressと呼ばれるセンターは、音楽芸術に興味を持つ子どもたちにクラシックのためのトレーニングを提供することに重点を置いていた。この企画に本国の紛争から家族を守りたいという親たちが自分の子どもたちを参加させていた。

プロのバイオリニストであり、the Donbas Expressの講師でもあるピーター・ルンドストレム氏は、「国家大統領基金の支援のおかげで、ドネツクとルガンスク地方から80人の子どもたちを連れて来ることができました。彼らは才能ある若い音楽家で、12日間ここに滞在しています。彼らはここで生活し、優れた音楽教師からレッスンを受けます。コンサートを開催することもあります。そして教育を受けるのです」。
米国務省が資金提供したイェール大学人道研究所の報告書は、重大な欠陥があり、現場での裏付けを求めなかったにもかかわらず、the Donbas Expressに登録された子供たちの経験について、1つだけ正しいことを述べている。彼らはこの企画に参加していることを秘密にする可能性があることだ。ウクライナ当局の目には、たとえ無料の音楽レッスンのためであっても、ロシアに旅行するという単純な行為は、敵に協力することに等しいと映るのだ。
報告書にもあるように、「ウクライナの多くの家族は、自分たちが(ウクライナから)ロシアへの協力者と見られることを恐れて、(キャンプや学校の)体験を公にしたがらない」と言う。
The Donbas Expressに関わった学生たちについて、ルンドストレムは、「ウクライナでこのような子供たちに何が行われているかを理解してもらうために(そのことを話すと)...ロシア人やロシア国家から何らかの援助を受けた子供たちは...単に殺されてしまうでしょう」と述べている。

The Donbas Expressでのコンサートの様子
この若者たちは、人生の大半を、日常的に死の脅威と隣り合わせで生きてきた。ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻するまでの8年間、ドンバスのロシア系住民は、米国が支援するキエフの民族主義政府の手による定期的な砲撃に耐えてきた。2022年2月以前にも、この内戦によって、私がthe Donbas Expressで出会った子どもたちを含む何千人もの市民が命を落としている。
「もちろん、(the Donbas Expressに在籍する若者の)多くは、この紛争によって大きな被害を受けました」と、ルンドストレムは言う。「彼らの多くは家を失いました。親族や友人を失った人もいます。紛争地では、実際、彼らは音楽の専門的な勉強を続けることができません。ドネツクでは、フィルハーモニーや一般教育機関が機能していないのです」。
国務省が資金提供したイェール大学人道研究所の報告書は、the Donbas Expressのような合宿所を開放するロシアの動きが戦争犯罪に相当するとアメリカ人に思わせるだろうが、私がそこで出会った学生たちはそこを去りたがらなかったのだ。
「もちろん、彼らは皆、このプログラムの継続を望んでいます。もちろん、彼らはこのプログラムが続くことを望んでいます。しかし、私たちができるのは、このような小さなことだけです。私たちは将来、またこのようなことをするかもしれません」とルンドシュトレムは私に語った。

私は、the Donbas Expressの学生2人とカメラで話をした。この学生はどちらもこのプログラムへの感謝の言葉を口にしていた。
ドネツクの学生は「私は招待されて、寛大な招待を受けてここにいます。モスクワに来れるなんて思ってもみませんでした。私は、精神的な豊かさや魂の浄化に役立つコンサートに出演するために、お手伝いをしてきました。そして、音楽演奏の技能を高めるためにここに来ました」。
「ここで、周囲に何があっても音楽の勉強を続けるのは、それが私たちに安らぎを与えてくれるからです」と、もうひとりのドンバス出身の若者は私に言った。
このプログラムに参加する他の生徒と同様、音楽家を目指す彼らが育ったのは、ロシア正教の宗教宗派を禁止し、ロシア語の禁止を求め、国内のロシア系住民を激しく攻撃したウクライナ政府に対して公然と反抗する地域であった。
講師によれば、the Donbas Expressに在籍する学生の全員ではないにせよ、そのほとんどがロシア国家を意識しているそうだ。「彼らはこの(愛国的な)歌を持っています。<祖国が帰ってくる>という歌です」とルンドシュトレムは述べている。「この80人の子供たちは、みんなこの歌を叫んでいました。ただこの歌を叫んでいるだけなのです」。

しかし、先生は「私たちは政治的な理由で(the Donbas Expressを)組織しているわけではありません」と強調した。「例えば、『ロシアよ永遠に!』と言うためにここにいるのではないのです。私たちは子どもたちを助けるためにここにいます。でももちろん、私たちはロシア人です」。
ウクライナ東部からthe Donbas Expressのようなプログラムに参加した子供たちの政治的共感とロシア人であるという民族的背景については、国務省出資のイェール大学人道研究所報告書では、ほんの少ししか言及されていない。

イェール大学人道研究所の報告書の内容はICCの逮捕状と矛盾する
国務省が後援するイェール大学人道研究所所長、ナサニエル・レイモンドは2023年2月16日、CNNのアンダーソン・クーパー360に出演し、「ウクライナの子どもたちのためのアンバー・アラート*」と称する発表を行った。
*AMBER Alert 児童(未成年者)誘拐事件及び行方不明事件が発生した際、テレビやラジオなどの公衆メディアを通じて発令される緊急事態宣言(警報)の一種(ウィキペディア)
レイモンド所長は、ホロコーストを連想させるように、彼と彼のチームが「21世紀に見られた最大の数の収容所」を発見したと主張し、この発見は「大量殺戮の証拠」となり得るとした。
レイモンド所長は「彼らは彼らをロシア人に仕立て上げようとしている」と語り、「ロシア当局は、ウクライナの子どもたちを家族から強制的に引き離し、強制的な軍事訓練を施している」と主張した。
「何千人もの子供たちが人質になっている」と、国務省の支援を受けたイェール大学の研究者は宣言した。
CNNのクーパーは憤懣やるかたない表情で、「これは本当に気持ち悪い」とつぶやいた。これは病気だ」と。
しかし、レイモンド所長が国務省を代表して指示した2023年2月14日の調査の実際の内容は、彼の主張する「人質事件」と相反するものだった。
レイモンド所長が多くの青少年キャンプ内の状況について無知であることは、彼や彼の同僚がキャンプを訪れようとしなかったことに起因しているかもしれない。また、キャンプに参加した子どもたちやその親、スタッフに連絡を取ろうともしなかった。
「イェール研は、目撃者や被害者へのインタビューは行わず、オープンソース*で入手できる特定の情報のみを収集する」と報告書に記されている。研究者が、ある子どもが家に戻ったかどうかに関する公開情報を特定できない場合、その子どもの現在の状況を把握することは困難となる。同様に、イェール大学人道研究所は現地での調査を行わないため、キャンプへの直接取材は要求していない。
* コンピュータプログラムの著作権の一部を放棄し、ソースコードの自由な利用および頒布を万人に許可するソフトウェア開発モデル(ウィキペディア)
つまり、ICCのプーチンへの逮捕状を伝えた研究者は、現地調査を行わず、子どもたちの状況に関する具体的な情報を得ることができなかったことを認めている。
実際、論文では「キャンプに参加した子どもたちの多くは、予定通り家族のもとに戻っているようだ」と認めている。
また、報告書の中に埋もれているのは、次のような開示である。「キャンプに連れて行かれた多くの子どもたちは、親の同意を得て数日から数週間の合意された期間だけ送られ、当初の予定通り親のもとに戻される」。
「これらの親の多くは低所得者であり、子供のために無料の旅行を利用したかった」と、イェール大学人道研究所/国務省の論文は続けている。さらに「ある者は、進行中の戦闘から子供を守りたい、衛生状態の良い場所に行かせたい、住んでいる場所では手に入らないような栄養価の高い食べ物を食べさせたい、と考えていた。また、単に自分の子供が休暇を取れるようにと願う親もいた」とも。
では、子供たちが自発的にキャンプに参加し、ほとんどが期限内に戻され、ほとんどの親が「意味のある」同意をして、子供たちが健康な食べ物で安全な場所にいられることに感謝していたとしたら、レイモンドがCNN出演時に主張した「大量虐殺の証拠」はどこにあったのか。
イェール大学人道研究所/国務省の論文によると、「この報告書で参照されたキャンプの中には、性的・身体的暴力を含む子どもの虐待を示す文書はない」という。
報告書の引用には、ロシアのマガダンという町で行われた2週間のサマー・キャンプ(夏季合宿)に関するRIA Novosti*の記事へのリンクが含まれている。この記事で引用された子ども、ポリーナ・ツヴェトコワは、Donbas Expressの参加者が提供したものと同じような、はっきりとした肯定的な感想を語っている:
* リアノーボスチ。かつて存在したロシアの国有通信社で、現在はRTのロシア国内向放送局(ウィキペディア)
「空港から車で移動している間、私たちは地元の風景にとても感動しました。私は野原を歩き、花を摘むのが好きです。自然を見るのはとても面白いんです。あらゆる種類の美しい景色を見ることができます。車を走らせていると、山から小さな川が流れているのが見えました。とても美しい、景色がとにかく素敵なんです」。
イェール大学人道研究所/国務省の論文は、引用したRIA Novostiの記事にあるサマーキャンプの参加者の喜びの声を省略している。その代わりに、「子供たちはバス、列車、民間航空機、そして少なくとも1つのケースではロシアの航空宇宙軍によって(キャンプに)運ばれてきた」と主張するために、この記事を利用したのである。
CNNに出演したときと同様、レイモンド所長の国務省後援の報告書は、「何千人もの(ウクライナの)子どもたちが人質状態にある」という彼の主張全体を崩壊させる一つの事実を覆い隠している。それは、イェール人道研究所/国務省の報告書で言及された子どもたちのほぼ全員が、キエフの民族主義政権との対立でロシア側についた家庭や地域出身のロシア民族であるということだ。
RIA Novostiの記事で言及されたキャンプに参加した若者たちは、2014年にウクライナから分離し、2022年に正式に独立を宣言したドネツク共和国の町、ジュダノフカ出身だった。しかし、ICCと他のすべての公式西側情報源は、これらの若者を単に「ウクライナ人」と呼び、あたかも彼らがロシア軍に占領された親キエフ派の地域から強制的に引き出され、ロシアの収容所内で洗脳を受けたかのように言及した。
イェール大学人道研究所/国務省は、若者対象の合宿参加者の政治的・民族的背景については一点だけ言及している。「ウクライナの多くの家族は、ロシアへの協力者と見られることを恐れて、(キャンプでの)経験を公にしたがらない」という指摘である。
イェール大学人道研究所/国務省の論文の著者たちは、これらの家族の安全に対する関心が全くないことを示しただけでなく、ウクライナ政府によって拷問されたり殺されたりする可能性のある紛争地帯に即座に帰還させるよう呼びかけるきっかけを作った。
2022年2月、ウクライナ軍が分離主義共和国への攻撃を激化させたタイミングでドネツクから500人の孤児が避難したことについて、著者はこう書いている。「当時ロシア政府が公にした理由は、いわゆるドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)に対するウクライナ軍による攻撃の脅威のためであるとされていた」。
この主張を裏付けるために提供された引用は、ドンバス・インサイダーによる報告で、2022年2月19日にウクライナ軍がドネツクの民間地域への砲撃を強化し、住宅、養鶏場、変電所を破壊し、800人の住民が電気の使えない状態になったことを詳細に伝えている。ドネツク人民共和国でのウクライナによる43回目の停戦違反であった。その5日後、ロシア軍はウクライナに侵攻し、「非武装化」の使命を発表した。
では、ドネツクの紛争地域からロシア連邦内の安全な場所に孤児を脱出させることは、レイモンド所長が主張するように「誘拐」という犯罪になるのだろうか。
イェール大学人道研究所/国務省の研究者は、この用語の定義を極めて緩やかにしているようだ。2020年、レイモンド所長は、トランプ政権(バイデン政権も継続)の移民親から未成年者を引き離す政策を非難するワシントン・ポスト紙の社説を承認するツイートをしている。「言葉を濁すのはやめよう。トランプ政権は子どもたちを誘拐したのだ」、と。

「テディベア」合宿:インタビューでイェール大学人道研究所所長が「人質事件」の主張に反論、米情報機関との関係も公開
ナサニエル・レイモンド所長は、オックスファム*からハーバード大学のシグナル・プロジェクトまで、さまざまな国際NGOや大学で働いてきた技術者であり、ICC(国際刑事裁判所)の技術顧問チームを務めていたと主張している。イェール大学公衆衛生大学院の講師になる前は、スーダンのダルフール地方の窮状を有名にしたハリウッドの有名人、ジョージ・クルーニーの下で働いていた。クルーニーは、親イスラエル団体や、ダルフールに米軍を派遣すると脅したブッシュ大統領と一緒にキャンペーン活動した。
* オックスファム・インターナショナルは20の組織から編成される貧困と不正を根絶するための持続的な支援活動を90カ国移譲で展開している。(ウィキペディア)
2012年、レイモンド所長はガーディアン紙に「ジョージ・クルーニーのために宇宙から戦車を数えた」と軽口を叩き、人権侵害の疑いを記録するためにマクサー(米国の宇宙技術会社)の衛星技術を先駆的に利用したことについて触れた。
私ジェレミー・ロフレドは、レイモンド所長のイェール大学人道研究所がthe Donbas Expressのようなロシア政府の青少年プログラムに関する報告書を発行したことを知り、2022年11月にこれらのキャンプのひとつに行ったことがあると彼にメールで報告した。私は、自分の経験を彼と共有することに前向きであることを伝えた。彼は、電話で話すことに同意してくれた。
レイモンド所長は、2021年にイェール大学人道研究所に来たとき、アフガニスタン政府による少数民族ハザラ人に対する虐待を記録する国務省後援のプロジェクトを指揮していた、と説明してくれた。しかし、米国情報機関がロシアのウクライナ侵攻が迫っていることを警告し始めたため、ミッションはすぐに変更された。
レイモンド所長は、「私たちの最初の作戦構想は、実はアフガニスタンに関してだった。そして、ウクライナに迂回させられた。つまり、ハザラ人を監視するつもりだったが、この作戦に参加することになったんだ。そして、侵攻の2週間前に、待機して部隊を編成するように言われ、春には、良いことが起きることがわかった」と述べた。
レイモンド所長は、米国国家情報会議(NIC)がイェール大学人道研究所の彼のチームに対して、ウクライナ東部からロシア連邦に市民を移動させるロシア政府の作戦を記録するよう「多くの圧力」をかけてきたと付け加えた。
「私たちは、”よし、ではどうやってやるんだ?"という感じでした」と振り返る。「そして、夏から秋口にかけて、作戦構想を練り上げようとしました。そして、10月(2022年)になって初めて、その方法を理解したのです。そして、私たちがそれを実行したとき、ロシアのVPN*ネットワークに入り込み、まるでロシア市民が地元の市長のVK(ロシアのソーシャルメディア)アカウントを見ているように見えたのです」。
* VPN(Virtual Private Network)、仮想プライべート・ネットワークとも言う。公衆回線を用いてデータを暗号化し、通信の内容が漏れることを防ぐ接続方法。
レイモンド所長は、彼のチームは、ペンタゴンの米国インド太平洋司令部に頼って、「シベリアと東部の陣営を得るために、太平洋司令部の衛星アクセスを拡大した」と述べた。
研究チームがthe Donbas Expressのようなロシア国内のプログラムを訪問しようとしなかった理由を尋ねると、レイモンド所長は「私たちはペルソナ・ノン・グラータ*だ」と答えた。ロシアでは、私たちは米国諜報機関の延長線上にあると思われているのです」。
* 好ましからざる人物
米国情報機関や国務省と緊密に連携していることは認めたものの、レイモンド所長は、イェール大学人道研究所がウクライナによる残虐行為は除いて、ロシアによるとされる残虐行為に焦点を当てたのは、米国政府が資金提供しているからだという指摘を否定した。「ウクライナの残虐行為とされるものは、我々の手段ではおそらく見ることができない」と彼は主張した。「多くは捕虜を使った小部隊の事件だからだ。例えば、彼らは何人も膝を撃ち抜いたと言われている」、と。
レイモンド所長は、「ウクライナのでたらめ」の典型例として、ウクライナの穀物サイロに対するロシアの攻撃を記録した部隊の記録を挙げた。「ウクライナ人がやっていたと思われることは、彼らがサイロの下にリン酸アンモニウムの研究所があり、軍需品を製造していたことだ」と述べた。
彼は、「あの(爆)穴を作ることができるのは、基本的に爆弾工場だけだ」と言ったものの、レイモンドは、その疑いを確かめることは不可能だと主張した。
彼は、イェール大学人道研究所がロシア政府を追い詰めることだけに集中していた理由を、交通違反の比喩を使って説明した:「武力紛争法の観点からは、バス停留所での駐車違反になる。一方、ロシア軍はショッピングモールを16輪車で走り抜け、飲酒運転をしている」。
レイモンド所長は、ウクライナ軍が無防備な捕虜を射殺したり、軍事施設を隠すために民間インフラを利用したりすることが記録されるのを最小限に抑える一方で、ロシアの文化プログラムに民族的にロシア系の子供たちを連れてくる政策に焦点を当て、モスクワが「ロシア化」という犯罪的プロセスをとっていると非難した。
イェール大学人道研究所が調査したプログラムに参加した子どもたちのほとんどが、すでに自分たちをロシア人だと思っており、ウクライナの米国が支援する政府によって暴力の対象となっているロシア民族の分離主義地域の出身であり、紛争で破壊されて帰る家がない者もいるという事実について尋ねると、レイモンド所長は否定的な態度を示した。
「仮にそれが事実だとしても、戦争犯罪だ」とレイモンド所長は主張する。「ジュネーブ条約では、武力紛争の一方の当事国は、いかなる場合であっても、他方の当事国の子どもを養子にしたり、移したりすることはできない」、と。
レイモンド所長は、子どもたちの権利が侵害されているかどうかを判断する際に、子どもたちの民族的・政治的背景を考慮することはないが、イェール大学人道研究所の彼のチームが調査したキャンプの大半は、the Donbas Expressのように、「主に文化教育であり、言ってみればテディベア(若者)対象の教育」であることは率直に認めている。
ICC’s Putin arrest warrant based on State Dept-funded report that debunked itself
ICC(国際刑事裁判所)が出したプーチン大統領への逮捕状は、米国務省が資金提供した報告書に基づくものだが、それは虚偽である。
筆者:ジェレミー・ロフレド、マックス・ブルメンタール
(Jeremy Loffredo and Max Blumenthal)
出典:グレーゾーン(GRAYZONE)
2023年3月31日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年4月12日

1.国際刑事裁判所(ICC)は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、ウクライナの子どもたちをロシア国内の収容所ネットワークに「強制移送」したとして、逮捕状を発行した。この逮捕状は、米国国務省の資金援助を受けている「イェール大学人道研究所(HRL*)」の報告書に基づくものである。
* Humanitarian Research Lab
2.米国人ジャーナリストのジェレミー・ロフレド氏は、問題となっているロシア政府主催のキャンプのひとつを訪れた。モスクワ郊外にある「The Donbas Express(ドンバス急行)*」で、ロフレド氏は紛争地域の若者たちに会った。彼らは無料の音楽指導を受け、安全な環境にあることに感謝しながら、生き生きと過ごしていた。本記事では、彼の独占映像レポートを掲載する。
* 「ドンバス急行」は、ウクライナ、ドンバス地域の青少年を集めて、音楽など文化教育を行う施設。
3.「イェール大学人道研究所」の報告書に関する当サイト「Grayzone」による論評記事では、報告書の内容が、ICC(国際刑事裁判所)の令状に含まれる多くの主張と矛盾していることが判明した。また、イェール大人道研究所の所長ナサニエル・レイモンドがメディアに登場した際に発した扇動的な発言の虚偽も裏付けられた。
4.ロフレド氏とのインタビューで、イェール大学人道研究所のレイモンド所長は、ロシアで進行中の大規模な「人質事件」について、CNNのインタビューでの誘拐の主張をさらに否定し、彼が調査したキャンプのほとんどは「テディ・ベア」*のような文化プログラムだったことを認めた。また、米国情報機関との協力関係も明らかにした。
* テディベア(熊のぬいぐるみ)と名付けられた音楽教育プログラム。ドンバス地域の青少年のためのもの。
3月17日、国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン検事総長は、ロシアのプーチン大統領とマリア・ルロヴァ=ベロヴァ「子どもの権利担当委員」に対する逮捕状を提出した。この逮捕状は、プーチンとロルヴァ=ベロヴァがウクライナの子どもたちをロシア連邦内の「収容所ネットワーク」に「不法送還」したことを非難するもので、欧米では煽情的な論評が相次いだ。
米国議会で最も積極的にロシアとの戦争を応援していると思われるリンゼイ・グラハム上院議員は、こう宣言した。「プーチンは、少なくとも16,000人のウクライナの子どもたちを家族から誘拐し、ロシアに送った。これはまさに第二次世界大戦でヒトラーがやったことだ。」
CNNのファリード・ザカリアはグラハム上院議員と同じ意見で、ICCの令状はプーチンが「実際にヒトラーの脚本にそって行動している部分がある」ことを明らかにしたと述べた。
ICCの検察官は、イェール大学の人道研究所(HRL)が作成した研究に基づいて逮捕状を取ったようだ。イェール大学人道研究所の研究は、バイデン政権が2022年5月に設立したロシア高官の訴追を進めるための組織である国務省の「紛争・安定化作戦局」から資金提供と指導を受けている。
イェール大学人道研究所のナサニエル・レイモンド所長は、CNNのアンダーソン・クーパーとのインタビューで、自身の報告書が「数千人の子どもたちが人質状態にある」という証拠になると主張した。彼はホロコーストを引き合いに出して、「私たちは21世紀に見られる最大の子ども収容所のネットワークのことを問題にしているのだ」と主張した。
しかし、この報告書の共著者であるジェレミー・ロフレドとのインタビューや、イェール大学人道研究所の自身の論文の中で、レイモンド所長は、子供の人質についてメディアに対して行った大げさな主張の多くを否定している。共著者ロフレドとの電話会談でレイモンド所長は、彼のチームが調査したキャンプの「大部分」が「主に文化教育―言うなれば、テディベア文化・音楽教育のようなもの」であったことを認めた。
イェール大学人道研究所の報告書も同様に、調査したキャンプのほとんどが、恵まれない青少年のために無料のレクリエーション・プログラムを提供しており、その親たちは「継続する紛争から子供を守る」「住んでいる場所では手に入らないような栄養のある食べ物を確保する」ことを求めていたことを認めている。同報告書によると、ほぼすべてのキャンプ参加者は、両親の同意のもとに参加した後、適時に帰宅していたそうだ。国務省が資金提供した報告書はさらに、「子供の虐待を示す文書はなかった」と認めている。
イェール大学人道研究所の調査はすべて、マクサー(米国宇宙技術会社)の衛星データ、テレグラムの投稿、ロシアメディアの報道に基づいて行われ、その解釈はグーグル翻訳に頼り、時には引用記事を誤認していた。国務省が資金を提供したこの調査団は、論文のために現地調査を行わなかったことを認め、「現地での調査は行わないので、収容所での取材は要求していない」と述べている。
ICCの逮捕状のきっかけとなったイェール大学の調査員とは異なり、(ジャーナリストの)ロフレド氏はモスクワにあるロシア政府のキャンプを自由に取材することができた。そこはまさにイェール大学人道研究所つまりはICC―がウクライナの子ども人質の「再教育キャンプ」として描いてきたような場所だったが、彼が発見したのは、一流の講師から母国語のロシア語で無料のクラシック音楽のレッスンを受ける幸せな参加者でいっぱいのホテルだった。レイモンド氏はその若者達を「テディベア」と呼んでいた。
モスクワ郊外にある音楽キャンプ「The Donbas Express」で、若者たちはロフレド氏に、ウクライナ軍による長年にわたる砲撃と包囲のキャンペーンから避難できたことに感謝している、と語った。ドンバスの戦争から逃れることで、子どもたちは、イェールHRLとICCがほとんど関心を示さない悪夢のような軍事衝突から逃れたのだ。
無料の音楽レッスン、「精神的な豊かさ」、戦争からの安全、そして米国の非難:「the Donbas Express」への訪問記
私ジェレミー・ロフレドが2022年11月にロシアの青少年音楽キャンプを訪れたとき、私は、私が目撃したような利他的なプログラムを、米国政府が政治的戦争を進めるためにすぐに利用することになるとは思いもしなかった。
当時、私は前職の「Rebel News(抵抗ニュース)社」の仕事でモスクワに滞在し、街中の一般人に街頭インタビューを行っていた。
私はロシアの音楽界に影響力のある奥さんを持つ人に会った後、モスクワの南西45マイルにある、米国国務省が資金援助した研究者が「再教育キャンプ」と表現しているプログラムを見学するように誘われた。ポクロフスコエという町にあるソ連時代のホテルで、私はプーチンに対するICCの逮捕状の中心となっている、いわゆる施設のひとつに入ることになった。
私が訪れた時には、ロシア政府はこのホテルを、ドネツクとルガンスクの分離独立共和国出身の子どもたちのための臨時宿泊施設に作り替えていた。私が訪れたthe Donbas Expressと呼ばれるセンターは、音楽芸術に興味を持つ子どもたちにクラシックのためのトレーニングを提供することに重点を置いていた。この企画に本国の紛争から家族を守りたいという親たちが自分の子どもたちを参加させていた。

プロのバイオリニストであり、the Donbas Expressの講師でもあるピーター・ルンドストレム氏は、「国家大統領基金の支援のおかげで、ドネツクとルガンスク地方から80人の子どもたちを連れて来ることができました。彼らは才能ある若い音楽家で、12日間ここに滞在しています。彼らはここで生活し、優れた音楽教師からレッスンを受けます。コンサートを開催することもあります。そして教育を受けるのです」。
米国務省が資金提供したイェール大学人道研究所の報告書は、重大な欠陥があり、現場での裏付けを求めなかったにもかかわらず、the Donbas Expressに登録された子供たちの経験について、1つだけ正しいことを述べている。彼らはこの企画に参加していることを秘密にする可能性があることだ。ウクライナ当局の目には、たとえ無料の音楽レッスンのためであっても、ロシアに旅行するという単純な行為は、敵に協力することに等しいと映るのだ。
報告書にもあるように、「ウクライナの多くの家族は、自分たちが(ウクライナから)ロシアへの協力者と見られることを恐れて、(キャンプや学校の)体験を公にしたがらない」と言う。
The Donbas Expressに関わった学生たちについて、ルンドストレムは、「ウクライナでこのような子供たちに何が行われているかを理解してもらうために(そのことを話すと)...ロシア人やロシア国家から何らかの援助を受けた子供たちは...単に殺されてしまうでしょう」と述べている。

The Donbas Expressでのコンサートの様子
この若者たちは、人生の大半を、日常的に死の脅威と隣り合わせで生きてきた。ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻するまでの8年間、ドンバスのロシア系住民は、米国が支援するキエフの民族主義政府の手による定期的な砲撃に耐えてきた。2022年2月以前にも、この内戦によって、私がthe Donbas Expressで出会った子どもたちを含む何千人もの市民が命を落としている。
「もちろん、(the Donbas Expressに在籍する若者の)多くは、この紛争によって大きな被害を受けました」と、ルンドストレムは言う。「彼らの多くは家を失いました。親族や友人を失った人もいます。紛争地では、実際、彼らは音楽の専門的な勉強を続けることができません。ドネツクでは、フィルハーモニーや一般教育機関が機能していないのです」。
国務省が資金提供したイェール大学人道研究所の報告書は、the Donbas Expressのような合宿所を開放するロシアの動きが戦争犯罪に相当するとアメリカ人に思わせるだろうが、私がそこで出会った学生たちはそこを去りたがらなかったのだ。
「もちろん、彼らは皆、このプログラムの継続を望んでいます。もちろん、彼らはこのプログラムが続くことを望んでいます。しかし、私たちができるのは、このような小さなことだけです。私たちは将来、またこのようなことをするかもしれません」とルンドシュトレムは私に語った。

私は、the Donbas Expressの学生2人とカメラで話をした。この学生はどちらもこのプログラムへの感謝の言葉を口にしていた。
ドネツクの学生は「私は招待されて、寛大な招待を受けてここにいます。モスクワに来れるなんて思ってもみませんでした。私は、精神的な豊かさや魂の浄化に役立つコンサートに出演するために、お手伝いをしてきました。そして、音楽演奏の技能を高めるためにここに来ました」。
「ここで、周囲に何があっても音楽の勉強を続けるのは、それが私たちに安らぎを与えてくれるからです」と、もうひとりのドンバス出身の若者は私に言った。
このプログラムに参加する他の生徒と同様、音楽家を目指す彼らが育ったのは、ロシア正教の宗教宗派を禁止し、ロシア語の禁止を求め、国内のロシア系住民を激しく攻撃したウクライナ政府に対して公然と反抗する地域であった。
講師によれば、the Donbas Expressに在籍する学生の全員ではないにせよ、そのほとんどがロシア国家を意識しているそうだ。「彼らはこの(愛国的な)歌を持っています。<祖国が帰ってくる>という歌です」とルンドシュトレムは述べている。「この80人の子供たちは、みんなこの歌を叫んでいました。ただこの歌を叫んでいるだけなのです」。

しかし、先生は「私たちは政治的な理由で(the Donbas Expressを)組織しているわけではありません」と強調した。「例えば、『ロシアよ永遠に!』と言うためにここにいるのではないのです。私たちは子どもたちを助けるためにここにいます。でももちろん、私たちはロシア人です」。
ウクライナ東部からthe Donbas Expressのようなプログラムに参加した子供たちの政治的共感とロシア人であるという民族的背景については、国務省出資のイェール大学人道研究所報告書では、ほんの少ししか言及されていない。

イェール大学人道研究所の報告書の内容はICCの逮捕状と矛盾する
国務省が後援するイェール大学人道研究所所長、ナサニエル・レイモンドは2023年2月16日、CNNのアンダーソン・クーパー360に出演し、「ウクライナの子どもたちのためのアンバー・アラート*」と称する発表を行った。
*AMBER Alert 児童(未成年者)誘拐事件及び行方不明事件が発生した際、テレビやラジオなどの公衆メディアを通じて発令される緊急事態宣言(警報)の一種(ウィキペディア)
レイモンド所長は、ホロコーストを連想させるように、彼と彼のチームが「21世紀に見られた最大の数の収容所」を発見したと主張し、この発見は「大量殺戮の証拠」となり得るとした。
レイモンド所長は「彼らは彼らをロシア人に仕立て上げようとしている」と語り、「ロシア当局は、ウクライナの子どもたちを家族から強制的に引き離し、強制的な軍事訓練を施している」と主張した。
「何千人もの子供たちが人質になっている」と、国務省の支援を受けたイェール大学の研究者は宣言した。
CNNのクーパーは憤懣やるかたない表情で、「これは本当に気持ち悪い」とつぶやいた。これは病気だ」と。
しかし、レイモンド所長が国務省を代表して指示した2023年2月14日の調査の実際の内容は、彼の主張する「人質事件」と相反するものだった。
レイモンド所長が多くの青少年キャンプ内の状況について無知であることは、彼や彼の同僚がキャンプを訪れようとしなかったことに起因しているかもしれない。また、キャンプに参加した子どもたちやその親、スタッフに連絡を取ろうともしなかった。
「イェール研は、目撃者や被害者へのインタビューは行わず、オープンソース*で入手できる特定の情報のみを収集する」と報告書に記されている。研究者が、ある子どもが家に戻ったかどうかに関する公開情報を特定できない場合、その子どもの現在の状況を把握することは困難となる。同様に、イェール大学人道研究所は現地での調査を行わないため、キャンプへの直接取材は要求していない。
* コンピュータプログラムの著作権の一部を放棄し、ソースコードの自由な利用および頒布を万人に許可するソフトウェア開発モデル(ウィキペディア)
つまり、ICCのプーチンへの逮捕状を伝えた研究者は、現地調査を行わず、子どもたちの状況に関する具体的な情報を得ることができなかったことを認めている。
実際、論文では「キャンプに参加した子どもたちの多くは、予定通り家族のもとに戻っているようだ」と認めている。
また、報告書の中に埋もれているのは、次のような開示である。「キャンプに連れて行かれた多くの子どもたちは、親の同意を得て数日から数週間の合意された期間だけ送られ、当初の予定通り親のもとに戻される」。
「これらの親の多くは低所得者であり、子供のために無料の旅行を利用したかった」と、イェール大学人道研究所/国務省の論文は続けている。さらに「ある者は、進行中の戦闘から子供を守りたい、衛生状態の良い場所に行かせたい、住んでいる場所では手に入らないような栄養価の高い食べ物を食べさせたい、と考えていた。また、単に自分の子供が休暇を取れるようにと願う親もいた」とも。
では、子供たちが自発的にキャンプに参加し、ほとんどが期限内に戻され、ほとんどの親が「意味のある」同意をして、子供たちが健康な食べ物で安全な場所にいられることに感謝していたとしたら、レイモンドがCNN出演時に主張した「大量虐殺の証拠」はどこにあったのか。
イェール大学人道研究所/国務省の論文によると、「この報告書で参照されたキャンプの中には、性的・身体的暴力を含む子どもの虐待を示す文書はない」という。
報告書の引用には、ロシアのマガダンという町で行われた2週間のサマー・キャンプ(夏季合宿)に関するRIA Novosti*の記事へのリンクが含まれている。この記事で引用された子ども、ポリーナ・ツヴェトコワは、Donbas Expressの参加者が提供したものと同じような、はっきりとした肯定的な感想を語っている:
* リアノーボスチ。かつて存在したロシアの国有通信社で、現在はRTのロシア国内向放送局(ウィキペディア)
「空港から車で移動している間、私たちは地元の風景にとても感動しました。私は野原を歩き、花を摘むのが好きです。自然を見るのはとても面白いんです。あらゆる種類の美しい景色を見ることができます。車を走らせていると、山から小さな川が流れているのが見えました。とても美しい、景色がとにかく素敵なんです」。
イェール大学人道研究所/国務省の論文は、引用したRIA Novostiの記事にあるサマーキャンプの参加者の喜びの声を省略している。その代わりに、「子供たちはバス、列車、民間航空機、そして少なくとも1つのケースではロシアの航空宇宙軍によって(キャンプに)運ばれてきた」と主張するために、この記事を利用したのである。
CNNに出演したときと同様、レイモンド所長の国務省後援の報告書は、「何千人もの(ウクライナの)子どもたちが人質状態にある」という彼の主張全体を崩壊させる一つの事実を覆い隠している。それは、イェール人道研究所/国務省の報告書で言及された子どもたちのほぼ全員が、キエフの民族主義政権との対立でロシア側についた家庭や地域出身のロシア民族であるということだ。
RIA Novostiの記事で言及されたキャンプに参加した若者たちは、2014年にウクライナから分離し、2022年に正式に独立を宣言したドネツク共和国の町、ジュダノフカ出身だった。しかし、ICCと他のすべての公式西側情報源は、これらの若者を単に「ウクライナ人」と呼び、あたかも彼らがロシア軍に占領された親キエフ派の地域から強制的に引き出され、ロシアの収容所内で洗脳を受けたかのように言及した。
イェール大学人道研究所/国務省は、若者対象の合宿参加者の政治的・民族的背景については一点だけ言及している。「ウクライナの多くの家族は、ロシアへの協力者と見られることを恐れて、(キャンプでの)経験を公にしたがらない」という指摘である。
イェール大学人道研究所/国務省の論文の著者たちは、これらの家族の安全に対する関心が全くないことを示しただけでなく、ウクライナ政府によって拷問されたり殺されたりする可能性のある紛争地帯に即座に帰還させるよう呼びかけるきっかけを作った。
2022年2月、ウクライナ軍が分離主義共和国への攻撃を激化させたタイミングでドネツクから500人の孤児が避難したことについて、著者はこう書いている。「当時ロシア政府が公にした理由は、いわゆるドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)に対するウクライナ軍による攻撃の脅威のためであるとされていた」。
この主張を裏付けるために提供された引用は、ドンバス・インサイダーによる報告で、2022年2月19日にウクライナ軍がドネツクの民間地域への砲撃を強化し、住宅、養鶏場、変電所を破壊し、800人の住民が電気の使えない状態になったことを詳細に伝えている。ドネツク人民共和国でのウクライナによる43回目の停戦違反であった。その5日後、ロシア軍はウクライナに侵攻し、「非武装化」の使命を発表した。
では、ドネツクの紛争地域からロシア連邦内の安全な場所に孤児を脱出させることは、レイモンド所長が主張するように「誘拐」という犯罪になるのだろうか。
イェール大学人道研究所/国務省の研究者は、この用語の定義を極めて緩やかにしているようだ。2020年、レイモンド所長は、トランプ政権(バイデン政権も継続)の移民親から未成年者を引き離す政策を非難するワシントン・ポスト紙の社説を承認するツイートをしている。「言葉を濁すのはやめよう。トランプ政権は子どもたちを誘拐したのだ」、と。

「テディベア」合宿:インタビューでイェール大学人道研究所所長が「人質事件」の主張に反論、米情報機関との関係も公開
ナサニエル・レイモンド所長は、オックスファム*からハーバード大学のシグナル・プロジェクトまで、さまざまな国際NGOや大学で働いてきた技術者であり、ICC(国際刑事裁判所)の技術顧問チームを務めていたと主張している。イェール大学公衆衛生大学院の講師になる前は、スーダンのダルフール地方の窮状を有名にしたハリウッドの有名人、ジョージ・クルーニーの下で働いていた。クルーニーは、親イスラエル団体や、ダルフールに米軍を派遣すると脅したブッシュ大統領と一緒にキャンペーン活動した。
* オックスファム・インターナショナルは20の組織から編成される貧困と不正を根絶するための持続的な支援活動を90カ国移譲で展開している。(ウィキペディア)
2012年、レイモンド所長はガーディアン紙に「ジョージ・クルーニーのために宇宙から戦車を数えた」と軽口を叩き、人権侵害の疑いを記録するためにマクサー(米国の宇宙技術会社)の衛星技術を先駆的に利用したことについて触れた。
私ジェレミー・ロフレドは、レイモンド所長のイェール大学人道研究所がthe Donbas Expressのようなロシア政府の青少年プログラムに関する報告書を発行したことを知り、2022年11月にこれらのキャンプのひとつに行ったことがあると彼にメールで報告した。私は、自分の経験を彼と共有することに前向きであることを伝えた。彼は、電話で話すことに同意してくれた。
レイモンド所長は、2021年にイェール大学人道研究所に来たとき、アフガニスタン政府による少数民族ハザラ人に対する虐待を記録する国務省後援のプロジェクトを指揮していた、と説明してくれた。しかし、米国情報機関がロシアのウクライナ侵攻が迫っていることを警告し始めたため、ミッションはすぐに変更された。
レイモンド所長は、「私たちの最初の作戦構想は、実はアフガニスタンに関してだった。そして、ウクライナに迂回させられた。つまり、ハザラ人を監視するつもりだったが、この作戦に参加することになったんだ。そして、侵攻の2週間前に、待機して部隊を編成するように言われ、春には、良いことが起きることがわかった」と述べた。
レイモンド所長は、米国国家情報会議(NIC)がイェール大学人道研究所の彼のチームに対して、ウクライナ東部からロシア連邦に市民を移動させるロシア政府の作戦を記録するよう「多くの圧力」をかけてきたと付け加えた。
「私たちは、”よし、ではどうやってやるんだ?"という感じでした」と振り返る。「そして、夏から秋口にかけて、作戦構想を練り上げようとしました。そして、10月(2022年)になって初めて、その方法を理解したのです。そして、私たちがそれを実行したとき、ロシアのVPN*ネットワークに入り込み、まるでロシア市民が地元の市長のVK(ロシアのソーシャルメディア)アカウントを見ているように見えたのです」。
* VPN(Virtual Private Network)、仮想プライべート・ネットワークとも言う。公衆回線を用いてデータを暗号化し、通信の内容が漏れることを防ぐ接続方法。
レイモンド所長は、彼のチームは、ペンタゴンの米国インド太平洋司令部に頼って、「シベリアと東部の陣営を得るために、太平洋司令部の衛星アクセスを拡大した」と述べた。
研究チームがthe Donbas Expressのようなロシア国内のプログラムを訪問しようとしなかった理由を尋ねると、レイモンド所長は「私たちはペルソナ・ノン・グラータ*だ」と答えた。ロシアでは、私たちは米国諜報機関の延長線上にあると思われているのです」。
* 好ましからざる人物
米国情報機関や国務省と緊密に連携していることは認めたものの、レイモンド所長は、イェール大学人道研究所がウクライナによる残虐行為は除いて、ロシアによるとされる残虐行為に焦点を当てたのは、米国政府が資金提供しているからだという指摘を否定した。「ウクライナの残虐行為とされるものは、我々の手段ではおそらく見ることができない」と彼は主張した。「多くは捕虜を使った小部隊の事件だからだ。例えば、彼らは何人も膝を撃ち抜いたと言われている」、と。
レイモンド所長は、「ウクライナのでたらめ」の典型例として、ウクライナの穀物サイロに対するロシアの攻撃を記録した部隊の記録を挙げた。「ウクライナ人がやっていたと思われることは、彼らがサイロの下にリン酸アンモニウムの研究所があり、軍需品を製造していたことだ」と述べた。
彼は、「あの(爆)穴を作ることができるのは、基本的に爆弾工場だけだ」と言ったものの、レイモンドは、その疑いを確かめることは不可能だと主張した。
彼は、イェール大学人道研究所がロシア政府を追い詰めることだけに集中していた理由を、交通違反の比喩を使って説明した:「武力紛争法の観点からは、バス停留所での駐車違反になる。一方、ロシア軍はショッピングモールを16輪車で走り抜け、飲酒運転をしている」。
レイモンド所長は、ウクライナ軍が無防備な捕虜を射殺したり、軍事施設を隠すために民間インフラを利用したりすることが記録されるのを最小限に抑える一方で、ロシアの文化プログラムに民族的にロシア系の子供たちを連れてくる政策に焦点を当て、モスクワが「ロシア化」という犯罪的プロセスをとっていると非難した。
イェール大学人道研究所が調査したプログラムに参加した子どもたちのほとんどが、すでに自分たちをロシア人だと思っており、ウクライナの米国が支援する政府によって暴力の対象となっているロシア民族の分離主義地域の出身であり、紛争で破壊されて帰る家がない者もいるという事実について尋ねると、レイモンド所長は否定的な態度を示した。
「仮にそれが事実だとしても、戦争犯罪だ」とレイモンド所長は主張する。「ジュネーブ条約では、武力紛争の一方の当事国は、いかなる場合であっても、他方の当事国の子どもを養子にしたり、移したりすることはできない」、と。
レイモンド所長は、子どもたちの権利が侵害されているかどうかを判断する際に、子どもたちの民族的・政治的背景を考慮することはないが、イェール大学人道研究所の彼のチームが調査したキャンプの大半は、the Donbas Expressのように、「主に文化教育であり、言ってみればテディベア(若者)対象の教育」であることは率直に認めている。
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