いかにしてアメリカは「ノルド・ストリーム・パイプライン」を破壊したか(セイモア・ハーシュ)
<記事原文 寺島先生推薦>
How America Took Out The Nord Stream Pipeline
The New York Times called it a “mystery,” but the United States executed a covert sea operation that was kept secret—until now
ニューヨーク・タイムズはこの事件は「謎である」と報じているが、米国は秘密の海中作戦を実行した。そしてその秘密は守られてきた。今に至るまで。
筆者:セイモア・ハーシュ(Seymour Hersh)
出典:サブスタック(Substack)
2023年2月8日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年3月3日

米海軍の「潜水・救援センター」は、その名と同様、設置場所もあまり馴染みがないところにある。かつては田舎町だったフロリダ州パナマ市内の田舎道だった通りに位置している。今パナマ市は、フロリダ州の東南部のパンハンドル(各州の領域のなかで他州との境がフライパンの取っ手のように突出した地域)にあるアラバマ州との州境から70マイル南に位置する新しい保養地として脚光を浴びている。
そしてこのセンターの本部の建物は、その所在地と同様ごく普通だ。その建物は、第二次世界大戦後に建てられたくすんだコンクリート製の建物で、一見シカゴの西側にある専門高校にようなたたずまいだ。コインランドリーとダンス教室が、今は片側2車線ある通りを挟んだ向かい側にある。
このセンターでは何十年もの間、高い技術をもった深水にもぐる潜水士たちに訓練を施してきた。これらの潜水士たちは、世界中の米軍部隊での任務を果たしてきた人々であり、高い潜水技術を有し、善をなすことができる能力がある人々だ。たとえばC4爆弾を使用して、港や海岸からがれきや不発弾を除去するような行為だ。ただし悪事を働くことも可能だ。例えば、外国の石油採掘装置を爆破したり、海中発電所の吸入バルブを詰まらせたり、重要な運河の閘 (こう)門を破壊する行為などだ。パナマ市センターは、米国で2番目に大きなプールを所持していることを自慢しているが、もっとも優秀で、口が固く、潜水士の学校の卒業生である人々を採用するのにもっとも適した施設だった。そしてこのセンターから採用された人々が、昨年夏に成功裏にことを成し遂げたのだった。その任務とは、バルト海の海面下260フィート(約80メートル)で行われたあの作戦だった。
昨年6月、海軍の潜水士たちは、「BALTOP22」演習という名で知られているNATOの夏季の軍事演習を隠れ蓑として工作活動を行ったのだ。その際彼らは、遠隔装置により発弾できる爆弾をしかけていたのだ。そしてその爆発は、3か月後に実行された。その爆発により、4本あるノルド・ストリームというパイプラインのうち3本が破壊されたことを、この工作の計画を直接知る情報筋が明らかにしている。
4本のうちの2本は、2本合わせてノルド・ストリーム1という名で知られているが、このパイプラインは、ドイツと他の多くの西欧諸国に安価なロシアの天然ガスをもう10年以上供給してきたものである。のこり2本のパイプラインは、ノルド・ストリーム2という名で呼ばれていて、その当時は建築中で、稼働は始まっていなかった。当時は、ロシア軍が大規模な軍をウクライナ国境に送り込み、1945年以来欧州で最も血なまぐさい戦争が勃発しそうになっている状況下であり、ジョセフ・バイデン大統領には、これらのパイプラインは、ウラジミール・プーチンが、天然ガスを武器として用い、自身の政治的及び領土的野心を満たす手段であるかのように映っていた。
コメントを求められたエイドリアン・ワトソン大統領報道官はメールでこう回答している。「(米国がパイプライン爆破を行ったという)こんな話は間違いで、架空の話です」と。CIAのタミー・ソース報道官も、同様にこう記している。「こんな主張は全くの間違いです。」
バイデンがこれらのパイプラインを破壊することを決めたのは、9ヶ月以上に及ぶワシントンの国家安全保障会議内での行ったり来たりの議論を経てのことだった。その目的を達成する最善策が練られていたのだ。当時の議論のほとんどは、その任務をするかしないかではなく、どうすれば誰が実行したのかの手がかりを残すことなくやってのけるかについてだった。
パナマ市にあるこの潜水士学校を出た、高い技術を有する卒業生たちにこの任務を委託することには、重要な官僚的理由があった。それは、この潜水士たちが皆、海軍に所属していて、米軍特殊作戦司令部所属ではなかったことだ。後者であれば、その秘密作戦は議会に報告し、上院と下院の高い地位にある人々(いわゆる八人衆)に予め知らせなければならない。バイデン政権は、2021年下旬から2022年初旬にかけて練られていたこの計画が漏洩しないよう、細心の注意を払っていた。
バイデン大統領とその外交政策検討団であるジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官、トニー・ブリンケン国務長官、ビクトリア・ヌーランド国務次官(政治担当)は、この2本のパイプラインに対する敵意をずっと声にしていた。このパイプラインは、バルト海海中750マイル(約1200km)の長さがあり、エストニアとの国境付近にあるロシア北東部の2箇所の港にそれぞれ端を発し、デンマークのボーンホルム島を通って、ドイツ北部にまで連なっている。
このロシアからの直接経路があることで、ウクライナを経由しなくて済み、ドイツ経済は恩恵を受け、ロシアの安価な天然ガスを豊富に入手することで自国の諸工場を運営し、各家庭の暖房を賄い、余剰分を西側諸国に売ることでドイツは大きな利益を得ている。であるので、この破壊工作に米国政府が関わった手がかりを残してしまうと、「ロシアとの対立を最小限に抑える」という米国がドイツと交わした約束に背くことになってしまう。機密を守ることが重要たる所以だ。
完成当初から、ノルド・ストリーム1は、ワシントンや反ロシアの立場を取っている他のNATO諸国からは、西側による世界支配を脅かす存在であると捉えられてきた。ノルド・ストリームを支える持株会社は、ノルド・ストリームAG社であるが、この会社は、2005年にスイスでガスプロム社と提携関係を結んだ。このガスプロム社は、ロシア政府公認のロシアのガス貿易業社であり、株主たちに巨額の利益を齎(もたら)している会社だ。この会社を支配しているのは、プーチンの配下にあることで知られている新興財閥たちだ。ガスプロム社はこの会社の51%の株を所有しており、残りの41%は、欧州の4企業(フランスの1社、オランダの1社、ドイツの2社)と共有していて、安価な天然ガスをドイツや西欧諸国の分配業社へ販売する権利を持っている。ガスプロム社が得る利益はロシア政府と共有されていて、天然ガスや石油で得られる利益が、ロシアの年間予算の45%をも占める年も何年かあった。
米国の政治的な恐怖は現実的となった。プーチンにとっては、切望していた付加的な収入源を得ることになり、ドイツやその他の西欧諸国もロシアが供給する低価格の天然ガスに依存するようなり、欧州諸国の米国への依存が消えてしまうと考えられていた。実際、まさにその通りになったのだ。ドイツ人の多くはノルド・ストリーム1を、ヴィリー・ブラント元西独首相が唱えていた「東方外交政策(Ostpolitik theory)」の努力の成果の一つだとみていた。様々な取り組みの中でも、この東方外交政策こそが、第二次大戦後、破壊されていたドイツや他の欧州諸国の復興を可能にさせた政策だったのだ。つまり、安価なロシアの天然ガスを使うことで、西欧市場や貿易経済を繁栄させるという構想だ。
NATOやワシントンの視点からすれば、ノルド・ストリーム1は非常に危険なものであったが、2021年9月に建築が完成されたノルド・ストリーム2は、ドイツ当局が承認すれば、ドイツや西欧諸国に提供される天然ガスの量を二倍にすると考えられていた。さらにこの2つめのパイプラインができれば、ドイツの天然ガス消費量の5割以上を賄えるようになると考えられていた。ロシアとNATO間の緊張関係は、バイデン政権の侵略的な外交政策に裏打ちされて、悪化の一途をたどっていた。
ノルド・ストリーム2を阻止しようという動きは、2021年1月にバイデンが大統領職に就いたすぐ後から燃えさかった。当時、テキサス州選出テッド・クルーズ議員が率いる共和党上院議員団が、ブリンケン国務長官に対する公聴会でロシアの安価な天然ガスについて繰り返し警告を発していた。そのときまでには、上院議員の一団がある法案の通過に成功した。その法案は、クルーズ議員がブリンケン国務長官に言った言葉を借りれば、「(パイプラインを)軌道内で阻止した」法案だった。このことについては、当時アンゲラ・メルケル首相下のドイツ政府から、二つ目のパイプラインを稼働させるべく政治的および経済的な強力な圧力がかかることが予想された。
バイデンはドイツを抑えることができるだろうか? ブリンケンは、「できる」としたが、次期大統領のバイデンがこの件についてどう考えているかについての話し合いを持てていないとも語った。「バイデン次期大統領は、このことは良くないと捉えていることは認識しています。ノルド・ストリーム2のことです。」とブリンケンは語っていた。「私の認識では、バイデン次期大統領は使えるすべての手段を用いて、このパイプラインを利用することに前向きにならないよう、友好諸国を説き伏せる意図を持っておられるようです。」
その数ヶ月後、二つ目のパイプラインが完成に近づく中、バイデンは急に目を開いた。その5月、驚くべき方向転換だったのだが、バイデン政権はノルド・ストリームAG社への制裁を解除し、国務省当局は、制裁と外交によりパイプラインを止めようとしてきたことが、「実現の望みが常にもてない取り組みであった」ことを認めた。報道によると、行政当局者たちは、密かにロシアからの侵略を受ける危険に直面していたウクライナのヴォロデミール・ゼレンスキー大統領に、米国によるこの動きを批判しないよう促していた。
この動きに対してすぐに反応があった。クルーズ議員が率いている共和党員の一団が、バイデンが決めた外交政策担当者をすべて否認し、防衛費の年間予算案の通過を秋下旬まで遅延させたのだ。後日、ポリティコ誌は、バイデンによるロシアの二つ目のパイプラインに対するこの急展開は、「アフガニスタンからの米軍撤兵という混乱状態よりもさらにひどい決定であるといえる。この決定によりバイデン政権の政策運営は大きな損害を受けることになった」と報じた。
11月中旬に、ドイツのエネルギー規制当局がノルド・ストリーム2の承認を保留にしたことにより、この危機は緩和されつつあったが、バイデン政権は危機を迎えていた。天然ガスの価格は数日のうちに8%急上昇した。それはドイツや欧州諸国がパイプラインからの供給が保留になることや、ロシアとウクライナ間の戦争が勃発することで、誰も望んでいない冷たい冬を迎えねばならなくなることを懸念してのことだった。ワシントンからは、オラフ・ショルツ独新首相がどんな立ち位置をとるのかが不明瞭だった。その数ヶ月前、アフガニスタンから米軍が引き上げた後、シュルツはフランスのエマニュエル・マクロン大統領の呼びかけに応じていた。マクロンは、プラハでの演説で、欧州諸国がもっと自発的な態度を取るように呼びかけていたのだ。それははっきりと、米国当局や、米国の気まぐれな動きに対する依存から距離を取るよう示唆する内容だった。
これら全ての状況の中で、ロシア軍はウクライナ国境付近に確実に、そして不気味に軍を配置しており、12月下旬には、10万以上の兵がベラルーシやクリミアから攻撃できる態勢が取られていた。ワシントンからの警戒はどんどん強められ、ブリンケンからは、兵の数は「すぐにでも倍増される」可能性があるとの見通しが出されていた。
米国政府の関心は再びノルド・ストリームに集まった。欧州諸国が安価な天然ガスを供給するパイプラインへの依存を続ければ、ドイツなどの国々がウクライナに、ロシアを敗北させるために必要な資金や武器の提供に後ろ向きになるのでは、という危惧をワシントンは持っていた。
まさにこの不安定な時期に、バイデン政権は、ジェイク・サリバンに省庁間の対策部隊を招集し、一つの計画を立てることを認可したのだ。
すべての選択肢が話し合いのまな板に置かれていたが、浮上した計画はたった一つだった。
計画段階
2021年12月、ロシアの戦車が初めてウクライナに潜入する2ヶ月前に、ジェイク・サリバンは新たに設置された対策委員会を招集した。この対策委員会には、統合参謀本部、CIA、国務省、財務省からの男女が参加していた。そしてこの委員会は、差し迫っていたプーチンによる侵略にどう対応するかについての提言を行うことが求められていた。
この会議はこれ以降続けられた一連の極秘会議の最初の会議と目されており、ホワイトハウスに隣接している 旧行政府ビルの最上階の安全な一室で開かれた。なおこのビルには、大統領情報諮問委員会 (PFIAB)の本部も置かれている。いつものたわいのないやりとりの後で、最終的には非常に重要な問題にぶち当たった。それは「この対策委員会が大統領に対して出す提言は、取り返しがつくような行為(例えば制裁や現在取られている制裁を強化するなど)でいいのか、それとも、取り返しがつかないもの、つまり元に戻せないような動的な行為が求められているのか?」という点だった。
この作戦の過程に直接関わっていた情報源によれば、出席者たちにとって明らかになったことは、サリバンがこの対策委員会に求めていたのは、2つのノルド・ストリームの破壊計画を思いつくことだったという事実と、サリバンが、大統領の意図を受けていたという事実だった。

主要人物たち。左からビクトリア・ヌーランド、アンソニー・ブリンケン、ジェイク・サリバン
その後の数回の会議で出席者たちが話し合ったのは、攻撃する方法についての選択肢についてだった。海軍の提案は、新たに発注された潜水艦を使って、 パイプラインを直接破壊することだった。空軍の案では遠隔操作できる遅延ヒューズを用いた爆弾を投下することだった。 CIAの主張は、やり方はどうあれ、すべては隠密に進めるべきだというものだった。関わっていた全ての人々がことの重大さを認識していた。「これは児戯ではありません」とこの情報源は語っていた。この攻撃の発生源が米国であることが突き止められれば、「戦争行為と見なされます。」
当時、CIAの長官はウイリアム・バーンズだった。この人物は元駐ロシア大使である穏健派で、オバマ政権下では国務副長官をつとめていた。バーンズはすぐにCIA関係委員会の参加を承認したのだが、その委員会の特別委員の中に、たまたま、パナマ市の海軍の深水潜水士たちがもつ能力に詳しい人がいた。その後の数週間かけて、CIAのこの関係委員会がとある秘密作戦の考察を開始し、深水潜水士たちを使ってパイプライン沿いで爆発を起こさせる計画を練ったのだ。
このような作戦は以前にも行われていた。1971年、米国諜報機関が未だに明らかにされていない情報源から、ロシア海軍の2つの重要な部隊が、ロシアの極東にあるオホーツク海中に埋められた海中ケーブルを通じて情報のやりとりをしているという事実を知らされた。このケーブルは、当該地域の海軍の司令官とウラジオストックのロシア本土の本部とを結ぶものだった。
CIAとNSA(国家安全保障局)の工作員たちから精選された一団が、ワシントン州内のある箇所に極秘裏に集められ、海軍の潜水士たち、改造潜水艦、深海救難艇を使ったある計画に取り組み、試行錯誤の末、そのロシアのケーブの居場所を特定することに成功した。潜水士たちは、優れた盗聴器をケーブルに取り付け、ロシア側の交信の傍受や、その交信の録音に成功したのだ。
NSAは、ロシア海軍の高官たちが 、自国の通信連携を過信していて、仲間たちと暗号を使わずにやりとりしていた事実を突き止めた。録音装置とテープは、毎月交換され、この作戦は10年間悠々と続けられていたが、ロシア語が堪能だった44歳のNSAのロナルド・ペルトンという名の一般人技術者により遮断された。1985年、ペルトンはロシアからの亡命者に密告され、刑務所に入れられた。ペルトンは、米国によるこの作戦をあきらかにしたことに対して、ロシア側からたった5000ドルしか支払われなかった。さらに彼はロシアに運用データを提供したことで3万5千ドルを受け取っているが、そのデータについては全く公表されていない。
アイビー・ベルズ(Ivy Bells)というコードネームで呼ばれていたこの作戦の成功は、革新的で同時に危険でもあったが、ロシア海軍の意図や計画に関する非常に貴重な情報を得ることにつながるものであった。
しかし、各機関を跨ぐこの対策部隊は、CIAが熱意をもって提案していた深海攻撃作戦には当初懐疑的であった。答えのない問題が山積していたからだ。バルト海は、ロシア海軍が頻繁に巡回しており、潜水作戦の隠れ蓑に使えそうな油田掘削装置もなかった。潜水士たちは、エストニアで、この使命の訓練をしなければならないのだろうか? エストニアと言えば、国境を挟んで、ロシアでこのパイプラインに天然ガスが搬入される箇所の真向かいにあるのだ。「こんな馬鹿げた作戦があるか!」とCIAは非難された。
この情報源によれば、「この作戦の考案過程においてCIAや国務省の関係職員たちの中には、こう語っていた者もいました。「そんなことをしてはダメだ。馬鹿げているし、もしバレてしまったら政治的には悪夢だ」と。
しかし、2022年の初旬に、このCIAの担当団は、サリバン指揮下の各機関を跨いだ対策委員会に再度以下のような報告を行っていた。「パイプラインを吹き飛ばす方法はある」と。
その次に起こったことは衝撃的だった。2月7日、それは避けることができないと思われていたロシアによるウクライナ侵攻まで3週間もない時期だったが、バイデンはホワイトハウスで、ドイツのオラフ・ショルツ首相と面会した。同首相は、躊躇いを見せていた時期もしばらくあったが、当時は既に米国と強固な関係を築いていた。面会後の記者会見において、バイデンは挑戦的な態度でこう言い放った。「ロシアが侵攻すれば、ノルド・ストリーム2はもはやなくなるだろう。我々かその終止符を打つつもりだ」と。
その20日前、ヌーランド国務次官も、バイデンと本質的に同じ声明を国務省の記者会見で出していたが、そのことはほとんど報じられなかった。これはある質問に対して彼女が答えたものだった。「今日皆さんにはっきりと申し上げます。ロシアがウクライナに侵攻すれば、何としてでもノルド・ストリーム2の稼働は止められることになるでしょう。」
このパイプライン破壊工作に関わっていた人々のうちの数名は両者の発言に狼狽した。というのも、この攻撃については間接的な言い回しをすべきであると考えられていたからだ。
「東京に原子爆弾を仕掛けておいて、我々はその爆弾を爆発させるつもりであると日本側に伝えるのと同じようなものでした」とその情報源は語っていた。「この計画は、ロシアによる侵攻の後で行われる選択肢とされていて、公的に広報されてはいませんでした。それなのにバイデンはそのことを分かっていなかったか、わかっていたのにわざと無視をしてこんな発言をしたのです。」
バイデンやヌーランドの失言がもし本当に失言であったとしたならば、計画を立てていた人々をイライラさせたかも知れない。しかし、彼らの発言は好機ともなったのだ。この情報源によれば、CIAの高官の中には、パイプラインの爆破が、「もはや機密作戦ではなくなったと言える。というのも大統領が、その爆破方法を知っていると公言したのだから」と考える人々もいた。
このノルド・ストリーム1および2の破壊計画は突然格下げになり、議会に通知する必要がある機密作戦から 米軍の支援のもとの極秘諜報作戦へと返還された。この情報源の説明によれば、法律上、「議会に報告する法的な必要性がなくなったのです。しなければいけないことは、ただ実行することのみになったのです。しかしこの作戦が秘密裏におこなわれるという条件は続いていました。ロシア側はバルト海において強力な監視体制を取っているからです。」
CIAの対策部隊の部員たちにはホワイトハウスとの直接接触することがなかったため、大統領の発言が本心である、つまりこの作戦にゴーサインが出されたのかどうかを確かめようと躍起になっていた。この情報源はこう回顧していた。「ビル・バーンが戻ってきて、こう言ったのです。”さあ、やるぞ”、と。」

ノルウェー海軍は早急に適切な場所を見つけ出した。それは、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れた浅瀬に位置していた。
実行段階
ノルウェーは、この作戦の基地として完璧な場所だった。
ここ数年間の東西危機の間に、米軍はノルウェー国内で基地を広げていた。ノルウェーは北太平洋沿いにロシアの西側と1400マイル国境を接しており、さらにロシアと北極圏を分け合っている。米国防総省は、地域との軋轢もある中で、高給の仕事や契約をノルウェー国内で作り出し、数億ドルを投資して、ノルウェー国内の米海軍と米陸軍の施設の改良と拡大に取り組んできた。最も重要なことは、その新しい仕事に遙か北の情報を入手する最新式の合成開口レーダーが含まれていた点だ。このレーダーは、ロシア国内の奥深いところまで侵入できるものだ。このレーダーの設置は、米国諜報機関が中国国内にある一連の長距離傍聴施設を喪失したのと同時期に行われた。
何年もの間建築中であった米国の潜水艦基地があらたに改修され、より実用化されるとともに、ますます多くの米国の潜水艦がノルウェーの軍人たちとともに活動し、250マイル東にあるロシアのコラ半島にある核兵器の要塞の監視や調査ができるようになった。さらに米国は、ノルウェー北部にあるノルウェー空軍の一基地を拡大し、ノルウェー空軍にボーイング製P8ポセイドン偵察機団を提供し、ロシア側のすべての情報の長距離からの傍受行動を強化した。
これらの米国の動きの反発として、昨年11月の議会において、ノルウェー政府はリベラル派や穏健派から怒りを買うことになった。それは政府が米国との間での補足防衛協力協定 (SDCA)を議会で通したことをうけてのことだった。新しい協定においては、特定のノルウェー北部の「合意地域」において、基地外で犯罪行為を犯した米軍兵士や、米軍基地の活動を妨害したと告発された、あるいは妨害したと見なされたノルウェー国民に対して米国の法律が適応されることが認められることになる。
ノルウェーは、1949年のNATO発足当初からの加盟国の一つであった。当時は冷戦が始まって間もない時機だった。今NATOの事務総長はイェンス・ストルテンベルグであるが、反共産主義を自認している人物であり、ノルウェーの首相を8年間つとめたのち、2014年に米国の支援でNATOの最高職に上り詰めた。同事務総長は、プーチンやロシアに関するすべてのことに強硬姿勢をとっており、ベトナム戦争時は、米国の諜報機関と協力したこともある。それ以来米国から厚い信頼を得ているのだ。「米国の手にすっぽり合う手袋のような人物だ」とこの情報源は語っている。
いっぽうワシントンでは、計画立案者たちは、自分たちがノルウェーに行く必要があることを認識していた。「連中はロシアを毛嫌いしていましたし、ノルウェー海軍には優秀な船乗りや潜水士がごろごろいました。彼らは何十年間もの経験があり、深海での石油や天然ガスの爆破を行うにはぴったりの適性を持っていました」とこの情報源は語っている。さらにこのノルウェー海軍の猛者たちは秘密を守るという点においても信頼できる人々だった。 (ノルウェー側にも別の関心があった。それは米国の手引きにより、ノルド・ストリームが破壊されれば、ノルウェーの天然ガスを欧州諸国に売れるという魂胆だった。)
3月のある時点で、この対策委員会の数名の委員が空路ノルウェー入りし、ノルウェーの秘密情報機関や海軍の人々と面会した。最重要課題の一つは、バルト海のどの箇所が、爆弾を埋め込むのに最適な場所であるかという物であった。ノルド・ストリーム1と2は、それぞれ二つのパイプラインで構成されていて、その二つのパイプラインは、ほとんどの部分において1マイル以上離れていない。そして最終的には、ドイツの北西部にあるグライフスヴァルト港まで流れ込んでいる。
ノルウェー海軍はすぐに適切な場所を見つけ出した。それは、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れた沖の浅瀬だった。これらのパイプラインは、1マイル以上離れた状態で、たった260フィートの深さしかない海床沿いに伸びている。それならば潜水士たちが十分潜れる範囲内だ。これらの潜水士たちはノルウェーのアルタ級掃海艇出身で、酸素と窒素とヘリウムが排出される空気ボンベを着けて潜水し、加工されたC4爆弾を4本のパイプラインに付着させ、コンクリートの保護膜をかぶせる作業をやってのけるくらいのことはできる潜水士たちだった。この作業は、冗長で消耗性の高い危険な作業になるであろうが、ボーンホルム島にはもうひとつの利点があった。それは大きな海流が流れていないことだ。それがあると、潜水作業はより困難な作業になっただろう。

少しの調査活動を行っただけで、米国側はクタクタになった。
この時、パナマ市内にあるあまり有名ではない、米海軍の深水潜水団が再び脚光を浴びることになったのだ。パナマ市内にある潜水士学校の訓練士たちは先述のアイビー・ベル作戦に関わっていたのだ。しかしこの事実は、アナポリスの海軍兵学校の優秀な卒業生達には、消したい過去であると映っていた。というのも通常これらの卒業生たちが望んでいるのは、海軍特殊部隊(SEAL)や戦闘機の操縦士や潜水艦乗組員の任をえることだからだ。「地味な任務(black shoe)」、例えば水上艦の司令部員の一員というあまりみなが望まない任以外にも、少なくとも駆逐艦や巡洋艦や水陸両用艦での任務も常にあるのだから。そんな任務の中で一番格好よくないのが、潜水して爆弾を仕掛けるという任務なのだ。この任務についた潜水士たちがハリウッド映画の主題になることも、人気雑誌の表紙を飾ることもないだろうからだ。
「深海を潜水する能力を有した潜水士たちの間の結束は固く、その潜水士たちの中で最も優秀な潜水士たちだけがこの工作に採用され、ワシントンにあるCIAからの召喚に応じるよう伝えられたのです」とこの情報源は語っていた。
実行箇所と実行方法を確定したノルウェー側と米国側にはもう一つの懸念事項があった。それは、ボーンホルム島沖の海中下で尋常ではない行動が行われれば、スウェーデンやデンマークの海軍がそのことに気づき、各政権に報告する可能性があることだった。
デンマークも、NATO発足当初からの加盟国であり、英国と特別なつながりがある諜報機関を有する国のひとつとして知られている。またスウェーデンは、NATO加盟に向けて手を挙げており、 水中下での音波センサーや磁気センサー体系において重要な技術を有しており、その技術を使ってロシアの潜水艦の追跡に成功したこともある。ロシアの潜水艦はスウェーデン領内にある離島諸島に出没することがあったが、スウェーデンのこの技術のために、水面に姿を現さざるを得なくなることもあった。
ノルウェー側は米国側と歩調を合わせ、デンマークやスウェーデンの高官と接触し、 この地域で行われる可能性のあるこの潜水計画についてのあらましを伝えておくべきだと主張した。そうすれば、高い地位にある当局者が介入することで、海中で異常があった報告を指揮系統網から除外することが予想された。そんな報告が通ってしまえば、このパイプライ破壊計画が水の泡になってしまうからだ。「デンマークやスウェーデンの関係者たちに伝えられたことと、実際にこれらの関係者が把握していたことの間には、わざと食い違いがあるようにされていました」とこの情報源は私に語っている。(この件についてノルウェー大使館に問い合わせたが、反応はない。)
ノルウェー側は、ほかの障害を解決する重要な役目を果たしていた。ロシア海軍は、海中の爆弾を検出し、爆発を起こさせることができる高い監視技術を有しているとして知られていた。そのため、ロシアの監視体制が、米国の爆破装置を自然現象と捉えられるような欺瞞を講じる必要があった。そのためには、海中の特定の塩分濃度に対応する必要があった。その細工はノルウェー側が行った。
さらにノルウェー側は、この工作の実行時期はいつかという最重要課題の解決の鍵も握っていた。実は、この21年間、毎年6月に米国の第6艦隊が主催するNATOの大規模な演習がバルト海で行われていた。この第6艦隊の旗艦は、イタリアのローマの南にあるガエータに駐留しているのだが、この演習にはバルト海沿岸の多くの同盟諸国の戦艦も参加している。6月に行われた今回の演習は、バルト海作戦22(Baltic Operations 22)や、BALTOPS22という名称で知られている。ノルウェー側の提案は、爆弾を仕掛けるこの工作の理想的な隠れ蓑としてこの演習が使えるのでは、というものだった。
いっぽう米国側は或る一つの重要なことを提供した。それは、第6艦隊の計画立案者たちを説得して、この演習に、パイプライン爆破工作に関わる調査と演習を加えることだった。 海軍が明らかにしている演習内容には、第6艦隊が海軍の「研究および戦争センター」と共同して行う演習が含まれていた。この海中での演習は、ボーンホルム島の海岸沖で行われるものとされていて、この演習には爆弾を埋め込むためのNATOの潜水士たちも関わっており、最新の水中技術を駆使して、パイプライを検出し破壊する一団と協働することになっていた。
この演習は、効果的な演習になるとともに、巧妙な隠れ蓑にも使えるものだった。 そして、パナマ市で訓練していた潜水士たちがその任務を果たし、BALTOP22演習の最後に、48時間後に爆発する時限爆弾のついたC4爆弾が取り付けられることになっていた。つまり、米国側もノルウェー側のすべての関係者は、その最初の爆発が起こる前に既に現地から姿を消している状態になっていたのだ。
実行日のカウントダウンが始まっていた。「時計がカチカチとなっていて、私たちはこの使命の完遂が近づいていることを実感していました」と同情報源は語っていた。
そんな時、ワシントンが考え直したのだ。爆弾がBALTOP演習中に取り付けられる決定は変わっていなかったが、 ホワイトハウスが懸念したのは、爆発の二日前に演習が終わるという日程では、米国がこの工作に関わったことが明白な事実になってしまうことだった。
代案として、ホワイトハウスは新しい要求を出した。それは、「現地の実行者たちが、命令が出された後でパイプラインを爆破する方法をおもいつくこと」だった。
計画立案団の団員の中には、大統領のこの優柔不断な態度に憤慨し、立腹しているものもいた。パナマ市からきた潜水士たちは、既に何度も パイプラインにC4爆弾を仕掛ける演習を済ませていた。そしてその実行はBALTOP演習中に行う予定だった。そんな中で、ノルウェー側はバイデンの要求を満たすような方法を思いつくよう求められたのだ。つまり、バイデンが指定した時間にうまく爆破を実行できるような方法のことだ。
使命を果たす際に、思いつきの、実行直前での変更が命じられる状況への対応にはCIAは慣れていた。しかし今回の場合、新たな懸念が生じ、この工作自体の必要性と正当性に対して疑念を呈する関係者もいた。
大統領からのこの秘密の命令により、CIAはベトナム戦争時に追い込まれた窮地の記憶がよみがえった。当時のジョンソン大統領は、反ベトナム戦争の風潮が高まる 中で、CIAに規定違反の行為を行うような命令を下したのだ。その規定とは、米国内部でCIAが工作を行うことに関する規定だった。ジョンソン大統領が出した指令は、春までに反戦活動指導者たちが、ロシアの共産主義勢力の影響を受けていないかを探るというものだった。
最終的にCIAはこの指令に従い、1970年代じゅうずっとCIAがこの指令の遂行に嬉々として取り組んでいたことが明らかになった。その後、ウォーターゲート事件を受けた新聞報道により、CIAが米国市民の身辺調査活動を行っていたこと、外国の指導者たちの暗殺に関わっていたこと、チリのサルバドール・アジェンデ下の社会主義政権の弱体化を密かに工作していたことが明らかにされた。
これらの暴露により、1970年代中旬、アイダホ州選出のフランク・チャーチが議長であった上院の一連の公聴会にCIAが呼び出されるという劇的な状況が展開され、その場で当時CIAの長官であったリチャード・ヘルムズが明らかにした事実は、その行為が法律違反であったとしても、CIAは大統領が求めていることを実行する義務があるということだった。
公にされていない非公開の証言において、ヘルムズは後悔の色を見せながら、こう語っていた。大統領から秘密の指令を受けた場合は、「 ほとんど無原罪懐胎*(Immaculate Conception)を受けたかのように、使命をはたすことができるのだ」と。さらに、「そのような無原罪懐胎を与えられることが正しいのか、間違っているのかは別にして、 (CIAは)政府の他のどの組織とも違う規則や勤務規則のもとで動いている」とも語っていた。実際上院での公聴会において、ヘルムズはCIAの長官として働いてきたのは、憲法のためではなく、大統領(Crown)のためだったと証言している。
* 聖母マリアが神からの保護により何の汚れも受けないままでイエスを懐胎したことを指す。
ノルウェーで仕事をしていた米国の関係者たちは、同様の状況下で工作に取り組んでいて、責任感を持ってこの新たな問題の対応に当たり始めていた。つまり、どうやってバイデンの指令を受けて、遠隔操作によるC4爆弾を爆発させるかという問題についてだ。この工作は、ワシントンが考えているよりもずっと難しい仕事だった。ノルウェーの工作団には、大統領がいつ実行ボタンを押すのかを知る由などなかった。数週間後のことなのか? それとも半年以上、いや、もっと後になるのか?
パイプラインに仕掛けられたC4爆弾の爆発は、航空機からソノブイ*が投下された直後に引き起こされることになっていた。しかしその工作の実行過程には、最新の信号加工技術が必要とされた。いつかどこかで、実行時間を遅延させる装置が、4本のパイプラインのどれかに据え付けられれば、事故的に爆発が引き起こされる可能性があった。その原因は、交通量の多いバルト海内では、複雑に絡み合う雑音が生じているからだ。例えば、付近や遠くを航海する船舶、水中下の採掘、地震の発生、波、あるいは海中生物などが発する雑音だ。このような雑音が爆発を誘発しないように、ソノブイがひとたび投下された際に、独特な低さを持つ周波数を持つ音波が、そのソノブイから発せられるようにしなければならない。そう、フルートやピアノが奏でるような周波数の音波だ。爆発を遅延させる装置がそのような音波を認識できるようにし、事前に決められていた実行時間を遅らせることで、爆発の誘発を遅らせようという作戦だ。 (バイデンが出した遅延命令のせいで起こったノルウェーの工作団が直面していた問題について、「ほかの信号では爆発を誘発しないくらいの強い信号が必要だ」と、MIT(マサチューセッツ工科大学)の科学・技術・国家安全保障政策の名誉博士であるセオドル・ポストル氏が私に教えてくれた。同氏は、米国防総省海上作戦部長の科学顧問もつとめている。さらに、「海中の爆発が起こるまでの時間が長くなればなるほど、危険度は高くなるだろう。というのも、海中には爆発を誘発するような信号が無作為に存在しているからだ」とも。)
* 水中聴音または反響定位のため、航空機から水中に投下して使用する小型のソナー(水中を伝播する音波を用いて、水中・水底の物体に関する情報を得るための装置
2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が通常の運航であると装って、ソノブイを投下した。その信号が海中に広がり、まずノルド・ストリーム2、その後ノルド・ストリーム1に伝わった。その数時間後、高い爆破力を持つC4爆弾の爆発が誘発され、4本のパイプラインのうち3本が稼働できなくなった。数分後、閉ざされたパイプラインに残っていたメタンガスが海面上で広がっている様子が目撃され、なにか取り返しのつかないことが起こっていることが世界中に知れ渡ることになった。
結末
パイプラインの爆破直後は、米国の報道機関はこの事件を未解決の謎であるという報じ方をしていた。考えられる犯人として、ロシアが何度も言及されていたが、それはホワイトハウスから意図的に漏洩された情報によるところが大きかった。しかし、ロシアがなんの得にもならないこんな自傷行為を行ったかの動機については、はっきりとされないままだった。数ヶ月後、ロシア当局がこのパイプラインの補修費用の見積もりを静かに公表した際、ニューヨーク・タイムズ紙はこのニュースを、この事件の「裏に誰がいるかについては様々な仮説が出されている」と報じていた。米国のどの主要新聞もバイデンやヌーランド国務次官が発していた警告について深く取材しようとはしなかった。
自国にとって大きな儲け口となるこのパイプラインをロシアが自ら破壊した理由が明らかにされることは決してない中、大統領が行った行為であると考える方が合理的であると考えさせるような発言が、ブリンケン国務長官の口から発せられた。
昨年9月の記者会見で、西欧諸国のエネルギー危機が悪化することについて問われたブリンケン国務長官は、今は良い状況にあると述べていた。
「今は、ロシアへのエネルギー依存から脱せられる千載一遇の好機を迎えています。そうなれば、ウラジミール・プーチンが、エネルギーを武器として利用し、野望を前進させる手段を失わせることになるのです。今回の事件は非常に重要であり、この先何年も有効となる戦略を持ち出せる好機なのです。ただ現在、我が国がどんな手段を使っても取り組もうとしている課題は、今回の事件の発生に我が国の国民が誰一人関わっていなかった、さらには、世界の誰も関わっていなかったという事実を明らかにすることなのです。」
もっと最近のことになるが、ビクトリア・ヌーランドは最新のパイプラインの活動が止められたこと満足感を示していた。上院外交委員会での公聴会での発言において、ヌーランドはテッド・クルーズ上院議員にこう語っていた。「貴殿と同じように、私も、行政府もそうだと思いますが、ノルド・ストリーム2の現状に満足しています。こういう言い方がお気に召すかと思いますが、いまノルド・ストリーム2は、海底に沈むただの鉄の塊になっているのです。」
この情報源は、冬が近づく中で行われた、ガスプロム社所有の1500マイルの長さを持つパイプライン破壊工作の決定について、ブリンケンやヌーランドよりもずっと洗練された見方を示していた。彼は大統領について、こう語っていた。「そうですね・・・。あの人が2つのボールを持っていたことは認めないといけないですね。最終的に大統領は実行する方のボールを投げることを決めて、実行したんです。」
ロシア側がこの工作に対応できなかった理由を聞かれたこの情報源は、冷たくこう言い放った。「多分ロシア側は、米国がしたのと同じことができる能力を欲していたのではないでしょうか」と。
さらにこの情報源は言葉を続け、「よくできた巧妙な隠蔽作戦でした。この機密作戦の裏には、この分野の専門家たちが配置され、秘密の信号を使った工作に必要な装置が準備されていました」と述べた。
「実行の決定に至るまでの過程が唯一の落ち度でした。」
How America Took Out The Nord Stream Pipeline
The New York Times called it a “mystery,” but the United States executed a covert sea operation that was kept secret—until now
ニューヨーク・タイムズはこの事件は「謎である」と報じているが、米国は秘密の海中作戦を実行した。そしてその秘密は守られてきた。今に至るまで。
筆者:セイモア・ハーシュ(Seymour Hersh)
出典:サブスタック(Substack)
2023年2月8日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年3月3日

米海軍の「潜水・救援センター」は、その名と同様、設置場所もあまり馴染みがないところにある。かつては田舎町だったフロリダ州パナマ市内の田舎道だった通りに位置している。今パナマ市は、フロリダ州の東南部のパンハンドル(各州の領域のなかで他州との境がフライパンの取っ手のように突出した地域)にあるアラバマ州との州境から70マイル南に位置する新しい保養地として脚光を浴びている。
そしてこのセンターの本部の建物は、その所在地と同様ごく普通だ。その建物は、第二次世界大戦後に建てられたくすんだコンクリート製の建物で、一見シカゴの西側にある専門高校にようなたたずまいだ。コインランドリーとダンス教室が、今は片側2車線ある通りを挟んだ向かい側にある。
このセンターでは何十年もの間、高い技術をもった深水にもぐる潜水士たちに訓練を施してきた。これらの潜水士たちは、世界中の米軍部隊での任務を果たしてきた人々であり、高い潜水技術を有し、善をなすことができる能力がある人々だ。たとえばC4爆弾を使用して、港や海岸からがれきや不発弾を除去するような行為だ。ただし悪事を働くことも可能だ。例えば、外国の石油採掘装置を爆破したり、海中発電所の吸入バルブを詰まらせたり、重要な運河の閘 (こう)門を破壊する行為などだ。パナマ市センターは、米国で2番目に大きなプールを所持していることを自慢しているが、もっとも優秀で、口が固く、潜水士の学校の卒業生である人々を採用するのにもっとも適した施設だった。そしてこのセンターから採用された人々が、昨年夏に成功裏にことを成し遂げたのだった。その任務とは、バルト海の海面下260フィート(約80メートル)で行われたあの作戦だった。
昨年6月、海軍の潜水士たちは、「BALTOP22」演習という名で知られているNATOの夏季の軍事演習を隠れ蓑として工作活動を行ったのだ。その際彼らは、遠隔装置により発弾できる爆弾をしかけていたのだ。そしてその爆発は、3か月後に実行された。その爆発により、4本あるノルド・ストリームというパイプラインのうち3本が破壊されたことを、この工作の計画を直接知る情報筋が明らかにしている。
4本のうちの2本は、2本合わせてノルド・ストリーム1という名で知られているが、このパイプラインは、ドイツと他の多くの西欧諸国に安価なロシアの天然ガスをもう10年以上供給してきたものである。のこり2本のパイプラインは、ノルド・ストリーム2という名で呼ばれていて、その当時は建築中で、稼働は始まっていなかった。当時は、ロシア軍が大規模な軍をウクライナ国境に送り込み、1945年以来欧州で最も血なまぐさい戦争が勃発しそうになっている状況下であり、ジョセフ・バイデン大統領には、これらのパイプラインは、ウラジミール・プーチンが、天然ガスを武器として用い、自身の政治的及び領土的野心を満たす手段であるかのように映っていた。
コメントを求められたエイドリアン・ワトソン大統領報道官はメールでこう回答している。「(米国がパイプライン爆破を行ったという)こんな話は間違いで、架空の話です」と。CIAのタミー・ソース報道官も、同様にこう記している。「こんな主張は全くの間違いです。」
バイデンがこれらのパイプラインを破壊することを決めたのは、9ヶ月以上に及ぶワシントンの国家安全保障会議内での行ったり来たりの議論を経てのことだった。その目的を達成する最善策が練られていたのだ。当時の議論のほとんどは、その任務をするかしないかではなく、どうすれば誰が実行したのかの手がかりを残すことなくやってのけるかについてだった。
パナマ市にあるこの潜水士学校を出た、高い技術を有する卒業生たちにこの任務を委託することには、重要な官僚的理由があった。それは、この潜水士たちが皆、海軍に所属していて、米軍特殊作戦司令部所属ではなかったことだ。後者であれば、その秘密作戦は議会に報告し、上院と下院の高い地位にある人々(いわゆる八人衆)に予め知らせなければならない。バイデン政権は、2021年下旬から2022年初旬にかけて練られていたこの計画が漏洩しないよう、細心の注意を払っていた。
バイデン大統領とその外交政策検討団であるジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官、トニー・ブリンケン国務長官、ビクトリア・ヌーランド国務次官(政治担当)は、この2本のパイプラインに対する敵意をずっと声にしていた。このパイプラインは、バルト海海中750マイル(約1200km)の長さがあり、エストニアとの国境付近にあるロシア北東部の2箇所の港にそれぞれ端を発し、デンマークのボーンホルム島を通って、ドイツ北部にまで連なっている。
このロシアからの直接経路があることで、ウクライナを経由しなくて済み、ドイツ経済は恩恵を受け、ロシアの安価な天然ガスを豊富に入手することで自国の諸工場を運営し、各家庭の暖房を賄い、余剰分を西側諸国に売ることでドイツは大きな利益を得ている。であるので、この破壊工作に米国政府が関わった手がかりを残してしまうと、「ロシアとの対立を最小限に抑える」という米国がドイツと交わした約束に背くことになってしまう。機密を守ることが重要たる所以だ。
完成当初から、ノルド・ストリーム1は、ワシントンや反ロシアの立場を取っている他のNATO諸国からは、西側による世界支配を脅かす存在であると捉えられてきた。ノルド・ストリームを支える持株会社は、ノルド・ストリームAG社であるが、この会社は、2005年にスイスでガスプロム社と提携関係を結んだ。このガスプロム社は、ロシア政府公認のロシアのガス貿易業社であり、株主たちに巨額の利益を齎(もたら)している会社だ。この会社を支配しているのは、プーチンの配下にあることで知られている新興財閥たちだ。ガスプロム社はこの会社の51%の株を所有しており、残りの41%は、欧州の4企業(フランスの1社、オランダの1社、ドイツの2社)と共有していて、安価な天然ガスをドイツや西欧諸国の分配業社へ販売する権利を持っている。ガスプロム社が得る利益はロシア政府と共有されていて、天然ガスや石油で得られる利益が、ロシアの年間予算の45%をも占める年も何年かあった。
米国の政治的な恐怖は現実的となった。プーチンにとっては、切望していた付加的な収入源を得ることになり、ドイツやその他の西欧諸国もロシアが供給する低価格の天然ガスに依存するようなり、欧州諸国の米国への依存が消えてしまうと考えられていた。実際、まさにその通りになったのだ。ドイツ人の多くはノルド・ストリーム1を、ヴィリー・ブラント元西独首相が唱えていた「東方外交政策(Ostpolitik theory)」の努力の成果の一つだとみていた。様々な取り組みの中でも、この東方外交政策こそが、第二次大戦後、破壊されていたドイツや他の欧州諸国の復興を可能にさせた政策だったのだ。つまり、安価なロシアの天然ガスを使うことで、西欧市場や貿易経済を繁栄させるという構想だ。
NATOやワシントンの視点からすれば、ノルド・ストリーム1は非常に危険なものであったが、2021年9月に建築が完成されたノルド・ストリーム2は、ドイツ当局が承認すれば、ドイツや西欧諸国に提供される天然ガスの量を二倍にすると考えられていた。さらにこの2つめのパイプラインができれば、ドイツの天然ガス消費量の5割以上を賄えるようになると考えられていた。ロシアとNATO間の緊張関係は、バイデン政権の侵略的な外交政策に裏打ちされて、悪化の一途をたどっていた。
ノルド・ストリーム2を阻止しようという動きは、2021年1月にバイデンが大統領職に就いたすぐ後から燃えさかった。当時、テキサス州選出テッド・クルーズ議員が率いる共和党上院議員団が、ブリンケン国務長官に対する公聴会でロシアの安価な天然ガスについて繰り返し警告を発していた。そのときまでには、上院議員の一団がある法案の通過に成功した。その法案は、クルーズ議員がブリンケン国務長官に言った言葉を借りれば、「(パイプラインを)軌道内で阻止した」法案だった。このことについては、当時アンゲラ・メルケル首相下のドイツ政府から、二つ目のパイプラインを稼働させるべく政治的および経済的な強力な圧力がかかることが予想された。
バイデンはドイツを抑えることができるだろうか? ブリンケンは、「できる」としたが、次期大統領のバイデンがこの件についてどう考えているかについての話し合いを持てていないとも語った。「バイデン次期大統領は、このことは良くないと捉えていることは認識しています。ノルド・ストリーム2のことです。」とブリンケンは語っていた。「私の認識では、バイデン次期大統領は使えるすべての手段を用いて、このパイプラインを利用することに前向きにならないよう、友好諸国を説き伏せる意図を持っておられるようです。」
その数ヶ月後、二つ目のパイプラインが完成に近づく中、バイデンは急に目を開いた。その5月、驚くべき方向転換だったのだが、バイデン政権はノルド・ストリームAG社への制裁を解除し、国務省当局は、制裁と外交によりパイプラインを止めようとしてきたことが、「実現の望みが常にもてない取り組みであった」ことを認めた。報道によると、行政当局者たちは、密かにロシアからの侵略を受ける危険に直面していたウクライナのヴォロデミール・ゼレンスキー大統領に、米国によるこの動きを批判しないよう促していた。
この動きに対してすぐに反応があった。クルーズ議員が率いている共和党員の一団が、バイデンが決めた外交政策担当者をすべて否認し、防衛費の年間予算案の通過を秋下旬まで遅延させたのだ。後日、ポリティコ誌は、バイデンによるロシアの二つ目のパイプラインに対するこの急展開は、「アフガニスタンからの米軍撤兵という混乱状態よりもさらにひどい決定であるといえる。この決定によりバイデン政権の政策運営は大きな損害を受けることになった」と報じた。
11月中旬に、ドイツのエネルギー規制当局がノルド・ストリーム2の承認を保留にしたことにより、この危機は緩和されつつあったが、バイデン政権は危機を迎えていた。天然ガスの価格は数日のうちに8%急上昇した。それはドイツや欧州諸国がパイプラインからの供給が保留になることや、ロシアとウクライナ間の戦争が勃発することで、誰も望んでいない冷たい冬を迎えねばならなくなることを懸念してのことだった。ワシントンからは、オラフ・ショルツ独新首相がどんな立ち位置をとるのかが不明瞭だった。その数ヶ月前、アフガニスタンから米軍が引き上げた後、シュルツはフランスのエマニュエル・マクロン大統領の呼びかけに応じていた。マクロンは、プラハでの演説で、欧州諸国がもっと自発的な態度を取るように呼びかけていたのだ。それははっきりと、米国当局や、米国の気まぐれな動きに対する依存から距離を取るよう示唆する内容だった。
これら全ての状況の中で、ロシア軍はウクライナ国境付近に確実に、そして不気味に軍を配置しており、12月下旬には、10万以上の兵がベラルーシやクリミアから攻撃できる態勢が取られていた。ワシントンからの警戒はどんどん強められ、ブリンケンからは、兵の数は「すぐにでも倍増される」可能性があるとの見通しが出されていた。
米国政府の関心は再びノルド・ストリームに集まった。欧州諸国が安価な天然ガスを供給するパイプラインへの依存を続ければ、ドイツなどの国々がウクライナに、ロシアを敗北させるために必要な資金や武器の提供に後ろ向きになるのでは、という危惧をワシントンは持っていた。
まさにこの不安定な時期に、バイデン政権は、ジェイク・サリバンに省庁間の対策部隊を招集し、一つの計画を立てることを認可したのだ。
すべての選択肢が話し合いのまな板に置かれていたが、浮上した計画はたった一つだった。
計画段階
2021年12月、ロシアの戦車が初めてウクライナに潜入する2ヶ月前に、ジェイク・サリバンは新たに設置された対策委員会を招集した。この対策委員会には、統合参謀本部、CIA、国務省、財務省からの男女が参加していた。そしてこの委員会は、差し迫っていたプーチンによる侵略にどう対応するかについての提言を行うことが求められていた。
この会議はこれ以降続けられた一連の極秘会議の最初の会議と目されており、ホワイトハウスに隣接している 旧行政府ビルの最上階の安全な一室で開かれた。なおこのビルには、大統領情報諮問委員会 (PFIAB)の本部も置かれている。いつものたわいのないやりとりの後で、最終的には非常に重要な問題にぶち当たった。それは「この対策委員会が大統領に対して出す提言は、取り返しがつくような行為(例えば制裁や現在取られている制裁を強化するなど)でいいのか、それとも、取り返しがつかないもの、つまり元に戻せないような動的な行為が求められているのか?」という点だった。
この作戦の過程に直接関わっていた情報源によれば、出席者たちにとって明らかになったことは、サリバンがこの対策委員会に求めていたのは、2つのノルド・ストリームの破壊計画を思いつくことだったという事実と、サリバンが、大統領の意図を受けていたという事実だった。

主要人物たち。左からビクトリア・ヌーランド、アンソニー・ブリンケン、ジェイク・サリバン
その後の数回の会議で出席者たちが話し合ったのは、攻撃する方法についての選択肢についてだった。海軍の提案は、新たに発注された潜水艦を使って、 パイプラインを直接破壊することだった。空軍の案では遠隔操作できる遅延ヒューズを用いた爆弾を投下することだった。 CIAの主張は、やり方はどうあれ、すべては隠密に進めるべきだというものだった。関わっていた全ての人々がことの重大さを認識していた。「これは児戯ではありません」とこの情報源は語っていた。この攻撃の発生源が米国であることが突き止められれば、「戦争行為と見なされます。」
当時、CIAの長官はウイリアム・バーンズだった。この人物は元駐ロシア大使である穏健派で、オバマ政権下では国務副長官をつとめていた。バーンズはすぐにCIA関係委員会の参加を承認したのだが、その委員会の特別委員の中に、たまたま、パナマ市の海軍の深水潜水士たちがもつ能力に詳しい人がいた。その後の数週間かけて、CIAのこの関係委員会がとある秘密作戦の考察を開始し、深水潜水士たちを使ってパイプライン沿いで爆発を起こさせる計画を練ったのだ。
このような作戦は以前にも行われていた。1971年、米国諜報機関が未だに明らかにされていない情報源から、ロシア海軍の2つの重要な部隊が、ロシアの極東にあるオホーツク海中に埋められた海中ケーブルを通じて情報のやりとりをしているという事実を知らされた。このケーブルは、当該地域の海軍の司令官とウラジオストックのロシア本土の本部とを結ぶものだった。
CIAとNSA(国家安全保障局)の工作員たちから精選された一団が、ワシントン州内のある箇所に極秘裏に集められ、海軍の潜水士たち、改造潜水艦、深海救難艇を使ったある計画に取り組み、試行錯誤の末、そのロシアのケーブの居場所を特定することに成功した。潜水士たちは、優れた盗聴器をケーブルに取り付け、ロシア側の交信の傍受や、その交信の録音に成功したのだ。
NSAは、ロシア海軍の高官たちが 、自国の通信連携を過信していて、仲間たちと暗号を使わずにやりとりしていた事実を突き止めた。録音装置とテープは、毎月交換され、この作戦は10年間悠々と続けられていたが、ロシア語が堪能だった44歳のNSAのロナルド・ペルトンという名の一般人技術者により遮断された。1985年、ペルトンはロシアからの亡命者に密告され、刑務所に入れられた。ペルトンは、米国によるこの作戦をあきらかにしたことに対して、ロシア側からたった5000ドルしか支払われなかった。さらに彼はロシアに運用データを提供したことで3万5千ドルを受け取っているが、そのデータについては全く公表されていない。
アイビー・ベルズ(Ivy Bells)というコードネームで呼ばれていたこの作戦の成功は、革新的で同時に危険でもあったが、ロシア海軍の意図や計画に関する非常に貴重な情報を得ることにつながるものであった。
しかし、各機関を跨ぐこの対策部隊は、CIAが熱意をもって提案していた深海攻撃作戦には当初懐疑的であった。答えのない問題が山積していたからだ。バルト海は、ロシア海軍が頻繁に巡回しており、潜水作戦の隠れ蓑に使えそうな油田掘削装置もなかった。潜水士たちは、エストニアで、この使命の訓練をしなければならないのだろうか? エストニアと言えば、国境を挟んで、ロシアでこのパイプラインに天然ガスが搬入される箇所の真向かいにあるのだ。「こんな馬鹿げた作戦があるか!」とCIAは非難された。
この情報源によれば、「この作戦の考案過程においてCIAや国務省の関係職員たちの中には、こう語っていた者もいました。「そんなことをしてはダメだ。馬鹿げているし、もしバレてしまったら政治的には悪夢だ」と。
しかし、2022年の初旬に、このCIAの担当団は、サリバン指揮下の各機関を跨いだ対策委員会に再度以下のような報告を行っていた。「パイプラインを吹き飛ばす方法はある」と。
その次に起こったことは衝撃的だった。2月7日、それは避けることができないと思われていたロシアによるウクライナ侵攻まで3週間もない時期だったが、バイデンはホワイトハウスで、ドイツのオラフ・ショルツ首相と面会した。同首相は、躊躇いを見せていた時期もしばらくあったが、当時は既に米国と強固な関係を築いていた。面会後の記者会見において、バイデンは挑戦的な態度でこう言い放った。「ロシアが侵攻すれば、ノルド・ストリーム2はもはやなくなるだろう。我々かその終止符を打つつもりだ」と。
その20日前、ヌーランド国務次官も、バイデンと本質的に同じ声明を国務省の記者会見で出していたが、そのことはほとんど報じられなかった。これはある質問に対して彼女が答えたものだった。「今日皆さんにはっきりと申し上げます。ロシアがウクライナに侵攻すれば、何としてでもノルド・ストリーム2の稼働は止められることになるでしょう。」
このパイプライン破壊工作に関わっていた人々のうちの数名は両者の発言に狼狽した。というのも、この攻撃については間接的な言い回しをすべきであると考えられていたからだ。
「東京に原子爆弾を仕掛けておいて、我々はその爆弾を爆発させるつもりであると日本側に伝えるのと同じようなものでした」とその情報源は語っていた。「この計画は、ロシアによる侵攻の後で行われる選択肢とされていて、公的に広報されてはいませんでした。それなのにバイデンはそのことを分かっていなかったか、わかっていたのにわざと無視をしてこんな発言をしたのです。」
バイデンやヌーランドの失言がもし本当に失言であったとしたならば、計画を立てていた人々をイライラさせたかも知れない。しかし、彼らの発言は好機ともなったのだ。この情報源によれば、CIAの高官の中には、パイプラインの爆破が、「もはや機密作戦ではなくなったと言える。というのも大統領が、その爆破方法を知っていると公言したのだから」と考える人々もいた。
このノルド・ストリーム1および2の破壊計画は突然格下げになり、議会に通知する必要がある機密作戦から 米軍の支援のもとの極秘諜報作戦へと返還された。この情報源の説明によれば、法律上、「議会に報告する法的な必要性がなくなったのです。しなければいけないことは、ただ実行することのみになったのです。しかしこの作戦が秘密裏におこなわれるという条件は続いていました。ロシア側はバルト海において強力な監視体制を取っているからです。」
CIAの対策部隊の部員たちにはホワイトハウスとの直接接触することがなかったため、大統領の発言が本心である、つまりこの作戦にゴーサインが出されたのかどうかを確かめようと躍起になっていた。この情報源はこう回顧していた。「ビル・バーンが戻ってきて、こう言ったのです。”さあ、やるぞ”、と。」

ノルウェー海軍は早急に適切な場所を見つけ出した。それは、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れた浅瀬に位置していた。
実行段階
ノルウェーは、この作戦の基地として完璧な場所だった。
ここ数年間の東西危機の間に、米軍はノルウェー国内で基地を広げていた。ノルウェーは北太平洋沿いにロシアの西側と1400マイル国境を接しており、さらにロシアと北極圏を分け合っている。米国防総省は、地域との軋轢もある中で、高給の仕事や契約をノルウェー国内で作り出し、数億ドルを投資して、ノルウェー国内の米海軍と米陸軍の施設の改良と拡大に取り組んできた。最も重要なことは、その新しい仕事に遙か北の情報を入手する最新式の合成開口レーダーが含まれていた点だ。このレーダーは、ロシア国内の奥深いところまで侵入できるものだ。このレーダーの設置は、米国諜報機関が中国国内にある一連の長距離傍聴施設を喪失したのと同時期に行われた。
何年もの間建築中であった米国の潜水艦基地があらたに改修され、より実用化されるとともに、ますます多くの米国の潜水艦がノルウェーの軍人たちとともに活動し、250マイル東にあるロシアのコラ半島にある核兵器の要塞の監視や調査ができるようになった。さらに米国は、ノルウェー北部にあるノルウェー空軍の一基地を拡大し、ノルウェー空軍にボーイング製P8ポセイドン偵察機団を提供し、ロシア側のすべての情報の長距離からの傍受行動を強化した。
これらの米国の動きの反発として、昨年11月の議会において、ノルウェー政府はリベラル派や穏健派から怒りを買うことになった。それは政府が米国との間での補足防衛協力協定 (SDCA)を議会で通したことをうけてのことだった。新しい協定においては、特定のノルウェー北部の「合意地域」において、基地外で犯罪行為を犯した米軍兵士や、米軍基地の活動を妨害したと告発された、あるいは妨害したと見なされたノルウェー国民に対して米国の法律が適応されることが認められることになる。
ノルウェーは、1949年のNATO発足当初からの加盟国の一つであった。当時は冷戦が始まって間もない時機だった。今NATOの事務総長はイェンス・ストルテンベルグであるが、反共産主義を自認している人物であり、ノルウェーの首相を8年間つとめたのち、2014年に米国の支援でNATOの最高職に上り詰めた。同事務総長は、プーチンやロシアに関するすべてのことに強硬姿勢をとっており、ベトナム戦争時は、米国の諜報機関と協力したこともある。それ以来米国から厚い信頼を得ているのだ。「米国の手にすっぽり合う手袋のような人物だ」とこの情報源は語っている。
いっぽうワシントンでは、計画立案者たちは、自分たちがノルウェーに行く必要があることを認識していた。「連中はロシアを毛嫌いしていましたし、ノルウェー海軍には優秀な船乗りや潜水士がごろごろいました。彼らは何十年間もの経験があり、深海での石油や天然ガスの爆破を行うにはぴったりの適性を持っていました」とこの情報源は語っている。さらにこのノルウェー海軍の猛者たちは秘密を守るという点においても信頼できる人々だった。 (ノルウェー側にも別の関心があった。それは米国の手引きにより、ノルド・ストリームが破壊されれば、ノルウェーの天然ガスを欧州諸国に売れるという魂胆だった。)
3月のある時点で、この対策委員会の数名の委員が空路ノルウェー入りし、ノルウェーの秘密情報機関や海軍の人々と面会した。最重要課題の一つは、バルト海のどの箇所が、爆弾を埋め込むのに最適な場所であるかという物であった。ノルド・ストリーム1と2は、それぞれ二つのパイプラインで構成されていて、その二つのパイプラインは、ほとんどの部分において1マイル以上離れていない。そして最終的には、ドイツの北西部にあるグライフスヴァルト港まで流れ込んでいる。
ノルウェー海軍はすぐに適切な場所を見つけ出した。それは、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れた沖の浅瀬だった。これらのパイプラインは、1マイル以上離れた状態で、たった260フィートの深さしかない海床沿いに伸びている。それならば潜水士たちが十分潜れる範囲内だ。これらの潜水士たちはノルウェーのアルタ級掃海艇出身で、酸素と窒素とヘリウムが排出される空気ボンベを着けて潜水し、加工されたC4爆弾を4本のパイプラインに付着させ、コンクリートの保護膜をかぶせる作業をやってのけるくらいのことはできる潜水士たちだった。この作業は、冗長で消耗性の高い危険な作業になるであろうが、ボーンホルム島にはもうひとつの利点があった。それは大きな海流が流れていないことだ。それがあると、潜水作業はより困難な作業になっただろう。

少しの調査活動を行っただけで、米国側はクタクタになった。
この時、パナマ市内にあるあまり有名ではない、米海軍の深水潜水団が再び脚光を浴びることになったのだ。パナマ市内にある潜水士学校の訓練士たちは先述のアイビー・ベル作戦に関わっていたのだ。しかしこの事実は、アナポリスの海軍兵学校の優秀な卒業生達には、消したい過去であると映っていた。というのも通常これらの卒業生たちが望んでいるのは、海軍特殊部隊(SEAL)や戦闘機の操縦士や潜水艦乗組員の任をえることだからだ。「地味な任務(black shoe)」、例えば水上艦の司令部員の一員というあまりみなが望まない任以外にも、少なくとも駆逐艦や巡洋艦や水陸両用艦での任務も常にあるのだから。そんな任務の中で一番格好よくないのが、潜水して爆弾を仕掛けるという任務なのだ。この任務についた潜水士たちがハリウッド映画の主題になることも、人気雑誌の表紙を飾ることもないだろうからだ。
「深海を潜水する能力を有した潜水士たちの間の結束は固く、その潜水士たちの中で最も優秀な潜水士たちだけがこの工作に採用され、ワシントンにあるCIAからの召喚に応じるよう伝えられたのです」とこの情報源は語っていた。
実行箇所と実行方法を確定したノルウェー側と米国側にはもう一つの懸念事項があった。それは、ボーンホルム島沖の海中下で尋常ではない行動が行われれば、スウェーデンやデンマークの海軍がそのことに気づき、各政権に報告する可能性があることだった。
デンマークも、NATO発足当初からの加盟国であり、英国と特別なつながりがある諜報機関を有する国のひとつとして知られている。またスウェーデンは、NATO加盟に向けて手を挙げており、 水中下での音波センサーや磁気センサー体系において重要な技術を有しており、その技術を使ってロシアの潜水艦の追跡に成功したこともある。ロシアの潜水艦はスウェーデン領内にある離島諸島に出没することがあったが、スウェーデンのこの技術のために、水面に姿を現さざるを得なくなることもあった。
ノルウェー側は米国側と歩調を合わせ、デンマークやスウェーデンの高官と接触し、 この地域で行われる可能性のあるこの潜水計画についてのあらましを伝えておくべきだと主張した。そうすれば、高い地位にある当局者が介入することで、海中で異常があった報告を指揮系統網から除外することが予想された。そんな報告が通ってしまえば、このパイプライ破壊計画が水の泡になってしまうからだ。「デンマークやスウェーデンの関係者たちに伝えられたことと、実際にこれらの関係者が把握していたことの間には、わざと食い違いがあるようにされていました」とこの情報源は私に語っている。(この件についてノルウェー大使館に問い合わせたが、反応はない。)
ノルウェー側は、ほかの障害を解決する重要な役目を果たしていた。ロシア海軍は、海中の爆弾を検出し、爆発を起こさせることができる高い監視技術を有しているとして知られていた。そのため、ロシアの監視体制が、米国の爆破装置を自然現象と捉えられるような欺瞞を講じる必要があった。そのためには、海中の特定の塩分濃度に対応する必要があった。その細工はノルウェー側が行った。
さらにノルウェー側は、この工作の実行時期はいつかという最重要課題の解決の鍵も握っていた。実は、この21年間、毎年6月に米国の第6艦隊が主催するNATOの大規模な演習がバルト海で行われていた。この第6艦隊の旗艦は、イタリアのローマの南にあるガエータに駐留しているのだが、この演習にはバルト海沿岸の多くの同盟諸国の戦艦も参加している。6月に行われた今回の演習は、バルト海作戦22(Baltic Operations 22)や、BALTOPS22という名称で知られている。ノルウェー側の提案は、爆弾を仕掛けるこの工作の理想的な隠れ蓑としてこの演習が使えるのでは、というものだった。
いっぽう米国側は或る一つの重要なことを提供した。それは、第6艦隊の計画立案者たちを説得して、この演習に、パイプライン爆破工作に関わる調査と演習を加えることだった。 海軍が明らかにしている演習内容には、第6艦隊が海軍の「研究および戦争センター」と共同して行う演習が含まれていた。この海中での演習は、ボーンホルム島の海岸沖で行われるものとされていて、この演習には爆弾を埋め込むためのNATOの潜水士たちも関わっており、最新の水中技術を駆使して、パイプライを検出し破壊する一団と協働することになっていた。
この演習は、効果的な演習になるとともに、巧妙な隠れ蓑にも使えるものだった。 そして、パナマ市で訓練していた潜水士たちがその任務を果たし、BALTOP22演習の最後に、48時間後に爆発する時限爆弾のついたC4爆弾が取り付けられることになっていた。つまり、米国側もノルウェー側のすべての関係者は、その最初の爆発が起こる前に既に現地から姿を消している状態になっていたのだ。
実行日のカウントダウンが始まっていた。「時計がカチカチとなっていて、私たちはこの使命の完遂が近づいていることを実感していました」と同情報源は語っていた。
そんな時、ワシントンが考え直したのだ。爆弾がBALTOP演習中に取り付けられる決定は変わっていなかったが、 ホワイトハウスが懸念したのは、爆発の二日前に演習が終わるという日程では、米国がこの工作に関わったことが明白な事実になってしまうことだった。
代案として、ホワイトハウスは新しい要求を出した。それは、「現地の実行者たちが、命令が出された後でパイプラインを爆破する方法をおもいつくこと」だった。
計画立案団の団員の中には、大統領のこの優柔不断な態度に憤慨し、立腹しているものもいた。パナマ市からきた潜水士たちは、既に何度も パイプラインにC4爆弾を仕掛ける演習を済ませていた。そしてその実行はBALTOP演習中に行う予定だった。そんな中で、ノルウェー側はバイデンの要求を満たすような方法を思いつくよう求められたのだ。つまり、バイデンが指定した時間にうまく爆破を実行できるような方法のことだ。
使命を果たす際に、思いつきの、実行直前での変更が命じられる状況への対応にはCIAは慣れていた。しかし今回の場合、新たな懸念が生じ、この工作自体の必要性と正当性に対して疑念を呈する関係者もいた。
大統領からのこの秘密の命令により、CIAはベトナム戦争時に追い込まれた窮地の記憶がよみがえった。当時のジョンソン大統領は、反ベトナム戦争の風潮が高まる 中で、CIAに規定違反の行為を行うような命令を下したのだ。その規定とは、米国内部でCIAが工作を行うことに関する規定だった。ジョンソン大統領が出した指令は、春までに反戦活動指導者たちが、ロシアの共産主義勢力の影響を受けていないかを探るというものだった。
最終的にCIAはこの指令に従い、1970年代じゅうずっとCIAがこの指令の遂行に嬉々として取り組んでいたことが明らかになった。その後、ウォーターゲート事件を受けた新聞報道により、CIAが米国市民の身辺調査活動を行っていたこと、外国の指導者たちの暗殺に関わっていたこと、チリのサルバドール・アジェンデ下の社会主義政権の弱体化を密かに工作していたことが明らかにされた。
これらの暴露により、1970年代中旬、アイダホ州選出のフランク・チャーチが議長であった上院の一連の公聴会にCIAが呼び出されるという劇的な状況が展開され、その場で当時CIAの長官であったリチャード・ヘルムズが明らかにした事実は、その行為が法律違反であったとしても、CIAは大統領が求めていることを実行する義務があるということだった。
公にされていない非公開の証言において、ヘルムズは後悔の色を見せながら、こう語っていた。大統領から秘密の指令を受けた場合は、「 ほとんど無原罪懐胎*(Immaculate Conception)を受けたかのように、使命をはたすことができるのだ」と。さらに、「そのような無原罪懐胎を与えられることが正しいのか、間違っているのかは別にして、 (CIAは)政府の他のどの組織とも違う規則や勤務規則のもとで動いている」とも語っていた。実際上院での公聴会において、ヘルムズはCIAの長官として働いてきたのは、憲法のためではなく、大統領(Crown)のためだったと証言している。
* 聖母マリアが神からの保護により何の汚れも受けないままでイエスを懐胎したことを指す。
ノルウェーで仕事をしていた米国の関係者たちは、同様の状況下で工作に取り組んでいて、責任感を持ってこの新たな問題の対応に当たり始めていた。つまり、どうやってバイデンの指令を受けて、遠隔操作によるC4爆弾を爆発させるかという問題についてだ。この工作は、ワシントンが考えているよりもずっと難しい仕事だった。ノルウェーの工作団には、大統領がいつ実行ボタンを押すのかを知る由などなかった。数週間後のことなのか? それとも半年以上、いや、もっと後になるのか?
パイプラインに仕掛けられたC4爆弾の爆発は、航空機からソノブイ*が投下された直後に引き起こされることになっていた。しかしその工作の実行過程には、最新の信号加工技術が必要とされた。いつかどこかで、実行時間を遅延させる装置が、4本のパイプラインのどれかに据え付けられれば、事故的に爆発が引き起こされる可能性があった。その原因は、交通量の多いバルト海内では、複雑に絡み合う雑音が生じているからだ。例えば、付近や遠くを航海する船舶、水中下の採掘、地震の発生、波、あるいは海中生物などが発する雑音だ。このような雑音が爆発を誘発しないように、ソノブイがひとたび投下された際に、独特な低さを持つ周波数を持つ音波が、そのソノブイから発せられるようにしなければならない。そう、フルートやピアノが奏でるような周波数の音波だ。爆発を遅延させる装置がそのような音波を認識できるようにし、事前に決められていた実行時間を遅らせることで、爆発の誘発を遅らせようという作戦だ。 (バイデンが出した遅延命令のせいで起こったノルウェーの工作団が直面していた問題について、「ほかの信号では爆発を誘発しないくらいの強い信号が必要だ」と、MIT(マサチューセッツ工科大学)の科学・技術・国家安全保障政策の名誉博士であるセオドル・ポストル氏が私に教えてくれた。同氏は、米国防総省海上作戦部長の科学顧問もつとめている。さらに、「海中の爆発が起こるまでの時間が長くなればなるほど、危険度は高くなるだろう。というのも、海中には爆発を誘発するような信号が無作為に存在しているからだ」とも。)
* 水中聴音または反響定位のため、航空機から水中に投下して使用する小型のソナー(水中を伝播する音波を用いて、水中・水底の物体に関する情報を得るための装置
2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が通常の運航であると装って、ソノブイを投下した。その信号が海中に広がり、まずノルド・ストリーム2、その後ノルド・ストリーム1に伝わった。その数時間後、高い爆破力を持つC4爆弾の爆発が誘発され、4本のパイプラインのうち3本が稼働できなくなった。数分後、閉ざされたパイプラインに残っていたメタンガスが海面上で広がっている様子が目撃され、なにか取り返しのつかないことが起こっていることが世界中に知れ渡ることになった。
結末
パイプラインの爆破直後は、米国の報道機関はこの事件を未解決の謎であるという報じ方をしていた。考えられる犯人として、ロシアが何度も言及されていたが、それはホワイトハウスから意図的に漏洩された情報によるところが大きかった。しかし、ロシアがなんの得にもならないこんな自傷行為を行ったかの動機については、はっきりとされないままだった。数ヶ月後、ロシア当局がこのパイプラインの補修費用の見積もりを静かに公表した際、ニューヨーク・タイムズ紙はこのニュースを、この事件の「裏に誰がいるかについては様々な仮説が出されている」と報じていた。米国のどの主要新聞もバイデンやヌーランド国務次官が発していた警告について深く取材しようとはしなかった。
自国にとって大きな儲け口となるこのパイプラインをロシアが自ら破壊した理由が明らかにされることは決してない中、大統領が行った行為であると考える方が合理的であると考えさせるような発言が、ブリンケン国務長官の口から発せられた。
昨年9月の記者会見で、西欧諸国のエネルギー危機が悪化することについて問われたブリンケン国務長官は、今は良い状況にあると述べていた。
「今は、ロシアへのエネルギー依存から脱せられる千載一遇の好機を迎えています。そうなれば、ウラジミール・プーチンが、エネルギーを武器として利用し、野望を前進させる手段を失わせることになるのです。今回の事件は非常に重要であり、この先何年も有効となる戦略を持ち出せる好機なのです。ただ現在、我が国がどんな手段を使っても取り組もうとしている課題は、今回の事件の発生に我が国の国民が誰一人関わっていなかった、さらには、世界の誰も関わっていなかったという事実を明らかにすることなのです。」
もっと最近のことになるが、ビクトリア・ヌーランドは最新のパイプラインの活動が止められたこと満足感を示していた。上院外交委員会での公聴会での発言において、ヌーランドはテッド・クルーズ上院議員にこう語っていた。「貴殿と同じように、私も、行政府もそうだと思いますが、ノルド・ストリーム2の現状に満足しています。こういう言い方がお気に召すかと思いますが、いまノルド・ストリーム2は、海底に沈むただの鉄の塊になっているのです。」
この情報源は、冬が近づく中で行われた、ガスプロム社所有の1500マイルの長さを持つパイプライン破壊工作の決定について、ブリンケンやヌーランドよりもずっと洗練された見方を示していた。彼は大統領について、こう語っていた。「そうですね・・・。あの人が2つのボールを持っていたことは認めないといけないですね。最終的に大統領は実行する方のボールを投げることを決めて、実行したんです。」
ロシア側がこの工作に対応できなかった理由を聞かれたこの情報源は、冷たくこう言い放った。「多分ロシア側は、米国がしたのと同じことができる能力を欲していたのではないでしょうか」と。
さらにこの情報源は言葉を続け、「よくできた巧妙な隠蔽作戦でした。この機密作戦の裏には、この分野の専門家たちが配置され、秘密の信号を使った工作に必要な装置が準備されていました」と述べた。
「実行の決定に至るまでの過程が唯一の落ち度でした。」
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