ルーラ氏の勝利は、ブラジルにとってはいいことだが、革命と呼べるには程遠い。
<記事原文 寺島先生推薦>
Lula’s victory is good for Brazil, but far from a revolution
The veteran leftist is back in power after a narrow win, but his power to bring change is very limited
経験豊富な左翼政治家が、辛勝で政権に復帰したが、ルーラ氏がもつ変化を引き起こす力は非常に限られたものだ。
筆者:ブラッドリー・ブランケンシップ(Bradley Blankenship)
出典:RT
2022年11月1日
Bradley Blankenship is an American journalist, columnist and political commentator. He has a syndicated column at CGTN and is a freelance reporter for international news agencies including Xinhua News Agency.
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年11月25日

選挙管理委員会が、現職のジャイール・ボルソナロ大統領を破り、次期大統領に選出されたことを報告したことを祝福しているブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領。ブラジルのサンパウロにて。2022年10月30日撮影。© AP Photo/Andre Penner
ブラジルの大統領選の結果が届いたが、その結果は世界各国方大きな注目を浴びた。略称であるルーラという名前で知られているルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ氏が、得票率50.9%を獲得し、得票率が49.1%だった現職のジャイール・ボルソナロ大統領を破り、選挙戦を制した。この結果は、事前に行われていた世論調査による見通しの通りだった。私が当RTにこの話題について書いた最新の記事で引き合いにだした私の親友は、ありがたいことに、今回は涙にくれることはなく、電話で歓喜あふれる声で話してくれた。
その理由は、いま私がかいつまんで書いた通り、ルーラ氏が勝利したことが、ブラジルにとって大きな前進になるからだ。この勝利により、貧富格差は縮まり、南アメリカのこの国が、世界の飢餓国から抜け出せる一撃になり、国民に対する社会福祉が拡大し、ブラジルは世界の地政学上重要な地位を占めるというふさわしい姿に戻れる可能性がでてきたからだ。さらに期待されることは、ブラジルの自然、つまりアマゾンの熱帯雨林が保護されることにもつながる可能性がでてきたのだ。よく「地球の肺」と称され、酸素を大気中に送り出し、炭素を吐き出す役割を果たしているそのアマゾンが、守られる可能性が出てきたのだ。
数週間前に書いた記事で示した通り、ルーラ氏の勝利は、ラテンアメリカや世界にとって非常に重大な意味がある。というのも、ボルソナロ氏は、ヤンキー(米)帝国の走狗として働き、ブラジルは、ラテンアメリカにおいて、ベネズエラの弱体化や、いわゆる「薬物との戦い」の拡張などの役目を果たしてきたからだ。ルーラ氏の勝利により、南アメリカ大陸は中国との事業を増やし、たとえばブラジルが、中国主導の一帯一路構想(BRI)に参加することもあるかもしれない。

関連記事:Lula defeats Bolsonaro in Brazilian election
もしあなたが私と同様に、多極化主義や人類の平和的な発展や、世界の安定に価値を置く人であったとすれば、ルーラ氏の勝利を喜ぶことに十分な理由を持てるだろう。しかし、過剰な期待をすることはやめ、現状に対する現実的な視点を持ち続け、ルーラ氏が大統領としてできることには限界があることを悟るべきだ。私の友人で元同僚にカミラ・エスカランテという、現在プレスTVのラテンアメリカ特派員をしている人がいる。カミラが大統領選の結果が出る前に、こんなかなり正確な書き方をしていた。「ブラジルでは、社会主義は選挙の争点にはならない」と。
カミラの見立てを言い換えると、ブラジル国民は自国の社会階級秩序を抜本的に改革することは望んでいないし、 そのような政策を掲げた勢力には、票を投じることさえない、ということだ。 カミラが書いていたように、「帝国主義」という言葉は今回の大統領選の選挙運動期間中、使われることすらなかったのだ。そして国民は、社会階級秩序の抜本的な見直しは求めていないし、ラテンアメリカ全体から見ても、各国国民はそんなことは求めていないのだ。社会階級秩序の改革といった呼び掛けがなされることは、本当にない。 ラテンアメリカ地域の、ブラジルでも、その他の国々でも、4カ国(キューバ、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア)以外は、そのような改革が行われることはないだろう。
カミラによると、選挙結果の数値が示している通り、ルーラ氏を支持しても、さらに進んで労働者党(PT)まで支持する人は多くない。つまりルーラ氏が勝利するのに必要だったのは、「左翼」や「右翼」という伝統的な分け方で自身の政治的志向を決めていない人々と繋がることだった、ということだ。そしてそのような考え方は、ルーラ氏が選挙運動をするにあたり、いくつかの論点に影響を与えていた。その一例が中絶問題だ。 この件に関して、ルーラ氏はカトリック教会に申し入れを行った一方で、根っからの左派に対してはこう伝えていた。「キューバのように規制された社会は誰も求めていない」と。
もちろん、左翼の同好会から離れたところに位置する大多数の大衆から受け入れられていると考えていない人もいるだろうが、そうであれば米国ジョー・バイデン大統領が、ルーラ氏の勝利に対して即座に祝辞を送った事実を思い起こしてほしい。このような事実を受け流すことは容易いことだし、そんなことはよくあることかもしれないが、 重要だったのは、バイデン大統領が祝辞を送るまで、つまりルーラ氏の勝利を正当化するまでにかかった時間の速さだった。 なぜ重要かというと、報道によれば、ボルソーナロ側が、不正選挙があるかもしれないという話の種をまいていたからだ。このボルソーナロ現大統領がとった作戦は、ドナルド・トランプ前米大統領が行った、2021年1月6日に国会議事堂で起こった暴動に繋がる作戦を彷彿とさせるものだった。
なぜか今回のブラジルでの大統領選では、これまでよく目にしてきた現実とは違うことが起こっていた。これまでのように、米国や、CIAなどの米国関連の諜報機関が、ラテンアメリカの1国において右派のクーデター勢力に資金を出そうとはしていない。実際、ホワイトハウスの反応は、その真逆のようだ。米国は、もし何かがあるのであれば、その何かが起こる可能性があるだけでも、その兆しを阻止しようとするのに、今回は180度手のひらを返したかのようだ。以前ルーラ氏が、でっち上げの汚職容疑で投獄され、ルーラ氏の同士であったジルマ・ルセフ氏が大統領職から追放されたことが、米国の関与による明らかな「穏健なクーデター」だとされたのとは大違いだ。

関連記事: Brazilian presidential rivals head to runoff
米国はなぜ、ルーラ政権に敵対することから、表向きではあるが同政権を支持するようになったのか、という疑問が浮かぶだろう。その1つ目の答えは、既に述べた通り。ルーラ氏は、ブラジル社会を革命的に変革させるような選挙運動を展開してこなかったことだ。さらにルーラ氏は、米帝国に楯突くような姿勢も見せていなかった。ルーラ氏は、あまり過激な立場はとれない。というのも、副大統領候補が中道左派勢力から出ているからだ。
2つ目の答えは、ルーラ氏が多くの得票を得られたのは、ルーラ氏が中道派の人々と面会したからだ。とはいえ、これらの人々は、ルーラ氏を支持はしても、労働者党には投票しなかった。つまり、ルーラ氏が立法上できることは非常に限られたものになる、ということだ。それは、ボルソナロ氏のリベラル党(PL)が、ブラジル国会における最大党派であり、またリベラル党からは、ブラジル国内の主要な州の知事を出し、国民からの広い支持を集めているからだ
ボルソナロ支持層は、明らかに今回の大統領選の結果以上に幅広いということだ。
であるので、ワシントン当局からすれば、これでいいのだ。ワシントン当局は、南アメリカで最も大きい国ブラジルの国情が混乱し、 米国国境まで移民が押し寄せる状況を望むだろうか?それとも、以前の敵が選挙に勝ち、政権を取ったとしても、以前よりも丸くなっている状況に満足するだろうか?後者の方が都合がいいのは明らかだ。もちろんルーラ氏の勝利がブラジルにとって前進の一歩であるとは事実だ。しかし、その一歩は、本当にごく限られた一歩だ。
Lula’s victory is good for Brazil, but far from a revolution
The veteran leftist is back in power after a narrow win, but his power to bring change is very limited
経験豊富な左翼政治家が、辛勝で政権に復帰したが、ルーラ氏がもつ変化を引き起こす力は非常に限られたものだ。
筆者:ブラッドリー・ブランケンシップ(Bradley Blankenship)
出典:RT
2022年11月1日
Bradley Blankenship is an American journalist, columnist and political commentator. He has a syndicated column at CGTN and is a freelance reporter for international news agencies including Xinhua News Agency.
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年11月25日

選挙管理委員会が、現職のジャイール・ボルソナロ大統領を破り、次期大統領に選出されたことを報告したことを祝福しているブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領。ブラジルのサンパウロにて。2022年10月30日撮影。© AP Photo/Andre Penner
ブラジルの大統領選の結果が届いたが、その結果は世界各国方大きな注目を浴びた。略称であるルーラという名前で知られているルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ氏が、得票率50.9%を獲得し、得票率が49.1%だった現職のジャイール・ボルソナロ大統領を破り、選挙戦を制した。この結果は、事前に行われていた世論調査による見通しの通りだった。私が当RTにこの話題について書いた最新の記事で引き合いにだした私の親友は、ありがたいことに、今回は涙にくれることはなく、電話で歓喜あふれる声で話してくれた。
その理由は、いま私がかいつまんで書いた通り、ルーラ氏が勝利したことが、ブラジルにとって大きな前進になるからだ。この勝利により、貧富格差は縮まり、南アメリカのこの国が、世界の飢餓国から抜け出せる一撃になり、国民に対する社会福祉が拡大し、ブラジルは世界の地政学上重要な地位を占めるというふさわしい姿に戻れる可能性がでてきたからだ。さらに期待されることは、ブラジルの自然、つまりアマゾンの熱帯雨林が保護されることにもつながる可能性がでてきたのだ。よく「地球の肺」と称され、酸素を大気中に送り出し、炭素を吐き出す役割を果たしているそのアマゾンが、守られる可能性が出てきたのだ。
数週間前に書いた記事で示した通り、ルーラ氏の勝利は、ラテンアメリカや世界にとって非常に重大な意味がある。というのも、ボルソナロ氏は、ヤンキー(米)帝国の走狗として働き、ブラジルは、ラテンアメリカにおいて、ベネズエラの弱体化や、いわゆる「薬物との戦い」の拡張などの役目を果たしてきたからだ。ルーラ氏の勝利により、南アメリカ大陸は中国との事業を増やし、たとえばブラジルが、中国主導の一帯一路構想(BRI)に参加することもあるかもしれない。

関連記事:Lula defeats Bolsonaro in Brazilian election
もしあなたが私と同様に、多極化主義や人類の平和的な発展や、世界の安定に価値を置く人であったとすれば、ルーラ氏の勝利を喜ぶことに十分な理由を持てるだろう。しかし、過剰な期待をすることはやめ、現状に対する現実的な視点を持ち続け、ルーラ氏が大統領としてできることには限界があることを悟るべきだ。私の友人で元同僚にカミラ・エスカランテという、現在プレスTVのラテンアメリカ特派員をしている人がいる。カミラが大統領選の結果が出る前に、こんなかなり正確な書き方をしていた。「ブラジルでは、社会主義は選挙の争点にはならない」と。
カミラの見立てを言い換えると、ブラジル国民は自国の社会階級秩序を抜本的に改革することは望んでいないし、 そのような政策を掲げた勢力には、票を投じることさえない、ということだ。 カミラが書いていたように、「帝国主義」という言葉は今回の大統領選の選挙運動期間中、使われることすらなかったのだ。そして国民は、社会階級秩序の抜本的な見直しは求めていないし、ラテンアメリカ全体から見ても、各国国民はそんなことは求めていないのだ。社会階級秩序の改革といった呼び掛けがなされることは、本当にない。 ラテンアメリカ地域の、ブラジルでも、その他の国々でも、4カ国(キューバ、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア)以外は、そのような改革が行われることはないだろう。
カミラによると、選挙結果の数値が示している通り、ルーラ氏を支持しても、さらに進んで労働者党(PT)まで支持する人は多くない。つまりルーラ氏が勝利するのに必要だったのは、「左翼」や「右翼」という伝統的な分け方で自身の政治的志向を決めていない人々と繋がることだった、ということだ。そしてそのような考え方は、ルーラ氏が選挙運動をするにあたり、いくつかの論点に影響を与えていた。その一例が中絶問題だ。 この件に関して、ルーラ氏はカトリック教会に申し入れを行った一方で、根っからの左派に対してはこう伝えていた。「キューバのように規制された社会は誰も求めていない」と。
もちろん、左翼の同好会から離れたところに位置する大多数の大衆から受け入れられていると考えていない人もいるだろうが、そうであれば米国ジョー・バイデン大統領が、ルーラ氏の勝利に対して即座に祝辞を送った事実を思い起こしてほしい。このような事実を受け流すことは容易いことだし、そんなことはよくあることかもしれないが、 重要だったのは、バイデン大統領が祝辞を送るまで、つまりルーラ氏の勝利を正当化するまでにかかった時間の速さだった。 なぜ重要かというと、報道によれば、ボルソーナロ側が、不正選挙があるかもしれないという話の種をまいていたからだ。このボルソーナロ現大統領がとった作戦は、ドナルド・トランプ前米大統領が行った、2021年1月6日に国会議事堂で起こった暴動に繋がる作戦を彷彿とさせるものだった。
なぜか今回のブラジルでの大統領選では、これまでよく目にしてきた現実とは違うことが起こっていた。これまでのように、米国や、CIAなどの米国関連の諜報機関が、ラテンアメリカの1国において右派のクーデター勢力に資金を出そうとはしていない。実際、ホワイトハウスの反応は、その真逆のようだ。米国は、もし何かがあるのであれば、その何かが起こる可能性があるだけでも、その兆しを阻止しようとするのに、今回は180度手のひらを返したかのようだ。以前ルーラ氏が、でっち上げの汚職容疑で投獄され、ルーラ氏の同士であったジルマ・ルセフ氏が大統領職から追放されたことが、米国の関与による明らかな「穏健なクーデター」だとされたのとは大違いだ。

関連記事: Brazilian presidential rivals head to runoff
米国はなぜ、ルーラ政権に敵対することから、表向きではあるが同政権を支持するようになったのか、という疑問が浮かぶだろう。その1つ目の答えは、既に述べた通り。ルーラ氏は、ブラジル社会を革命的に変革させるような選挙運動を展開してこなかったことだ。さらにルーラ氏は、米帝国に楯突くような姿勢も見せていなかった。ルーラ氏は、あまり過激な立場はとれない。というのも、副大統領候補が中道左派勢力から出ているからだ。
2つ目の答えは、ルーラ氏が多くの得票を得られたのは、ルーラ氏が中道派の人々と面会したからだ。とはいえ、これらの人々は、ルーラ氏を支持はしても、労働者党には投票しなかった。つまり、ルーラ氏が立法上できることは非常に限られたものになる、ということだ。それは、ボルソナロ氏のリベラル党(PL)が、ブラジル国会における最大党派であり、またリベラル党からは、ブラジル国内の主要な州の知事を出し、国民からの広い支持を集めているからだ
ボルソナロ支持層は、明らかに今回の大統領選の結果以上に幅広いということだ。
であるので、ワシントン当局からすれば、これでいいのだ。ワシントン当局は、南アメリカで最も大きい国ブラジルの国情が混乱し、 米国国境まで移民が押し寄せる状況を望むだろうか?それとも、以前の敵が選挙に勝ち、政権を取ったとしても、以前よりも丸くなっている状況に満足するだろうか?後者の方が都合がいいのは明らかだ。もちろんルーラ氏の勝利がブラジルにとって前進の一歩であるとは事実だ。しかし、その一歩は、本当にごく限られた一歩だ。
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