fc2ブログ

産業壊滅と破産の瀬戸際にある欧州

<記事原文 寺島先生推薦>

Europe at the Gates of Deindustrialization and Ruin

筆者:ミッション・ヴェルダッド(Mission Verdad)

出典:INTERNATIONALIST 360° 

2022年10月16日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年11月9日


前代未聞の過酷な産業崩壊が進む欧州 (画像はル・モンド紙から)

 ウクライナでの戦争(この戦争の原因を作ったのは米国とNATOだが)勃発後、西側のほとんどの国々は、米国政府と足並みを揃え、前例のない規模で、ロシアに対する強圧的な措置を課すことを決めた。そのせいで、ロシア・欧州間の関係は悪化し、経済危機とエネルギー危機はますます深刻になっている。

  欧州連合(EU)各国政府は、悲観的な状況にあるのに、モスクワ当局に対して第二弾の「制裁」を準備している。気づいていないの意図的なのかは分からないが、このような動きは、欧州の未来を暗澹たるものにするしかないものだ。

 エネルギー危機について言えば、欧州内の諸工場での電気代は大幅に増加し、ロシアのエネルギーに大きく依存していた多くの製造業者は、産業活動が麻痺させられている。 経済面でいえば、欧州大陸内での高いインフレが、労働者たちが賃上げを求めて、ストライキを行う原因となっている。

 これらの様々な要因の影響を受け、欧州における生産費用は高騰し、脱産業化の過程が進行している。もっともそれは、新自由主義的な政策により、既に進行中だったことではあるが。


ドイツから逃げ出す諸企業

 経済的利益を守るため、もともと欧州で自社産業をたちあげてきた多くの強力な企業が「逃げ出し」はじめ、比較的生産費用がより安く済む国々に移転している。この現象は、特にドイツで顕著だ。 中国の新華社通信が再掲した、ドイツのハンデルスブラット紙の最近の記事によると、米国は60社以上のドイツ企業に、オクラハマ州での投資を持ちかけ、利益を増やすよう声をかけている。その企業は、ルフトハンザ社、シーメンス社*、アルディ社*、フレゼニウス社*である。 この4社だけで、最近の投資額をほぼ3億ドル増やしている。
[訳注]*シーメンス社、ミュンヘンにある電機メーカー
*アルディ社、ドイツに基盤を置くデスカウントストアのチェーン企業
*フレゼニウス社、ドイツ・ヘッセン州に本拠を置く医療機器の製造・販売会社

 この記事の解説によると、同じことが製薬業界や自動車業界でも起こっているという。バイエル社は、1億ドルかけて、ボストンに生物技術センターを建築し、化学会社のエボニック・インダストリーズ社は、2億ドルかけてインディアナ州に生産センターを建てる計画だ。フォルクスワーゲン社は、2027年まで、米国に710億ドルを投資する予定で、BMW社はサウスカロライナ州で、電気自動車に関する新しい一連の投資を始めるとしている。

 中国も、ドイツの諸企業が熱い視線を送っている国だ。ドイツの化学会社BASF社は、100億ユーロを投資し、湛江(たんこう)市に世界水準の統合基地を建設する予定で、先月初旬、その最初の計画が開始されたばかりだ。


BASF


中国南部湛江市で建設中のBASFの基地の航空写真(写真は新華社通信提供)

 7月、ドイツのザクセン州のミヒャエル・クレッチマー知事は、ディー・ツァイト紙に、ロシアを孤立させ、ロシアとの経済協力関係を断つことは、ドイツにとって危険な行為である、と語っていた。さらに同知事は、「制裁」がドイツの経済とエネルギーの安全保障に悪影響を及ぼすことを懸念し、モスクワ当局との関係には、「現実主義」を取るべきであるとし、EUが和平交渉を進めることで、ウクライナでの武力対立を停止すべきだ、とも語っていた。

 「我が国の経済体制は、完全に崩壊の危機にあります。慎重に動かなければ、ドイツは非産業化してしまう可能性があります」と同知事は警告していた。

 ドイツに届けられる天然ガスの3分の1以上は、産業界で消費されていて、ロシア・ウクライナ間の武力衝突が起きる前は、ロシアがドイツの天然ガスの半分以上を提供していた。米国とEUが原因を作った政治的及び技術的な状況のせいで、ここ数週間ロシアからの供給量が減少したため、ドイツ政府は厳しい現実に直面させられている。その現実とは、中期的に見て、ドイツは、ロシアからの天然ガスを諦めることはできないという現実だ。いくらここ数年、ドイツが最も力を入れている政策が、エネルギー移行計画という「大義」を掲げているにしても、そうなのだ。


産業界が警鐘を鳴らしているイタリア

 イタリアでは、北部と中央部の諸企業が、経済の非産業化が起こることに警鐘を鳴らしている。その原因は、ガスと電気の価格が法外に高騰し、国家の安全保障が脅かされていることだ。 エミリア・ロマーニャ、ロンバルディア、ピエモンテ、ベネト地域のイタリア産業総連合 (Confindustria) の会長たちの見積もりによると、生産費用は、最良で360億ユーロになるとしているが、410億ユーロにまで達する可能性もある、とのことだ。

 8月30日 、イタリアの産業生産の中枢部が集中している4地域の行政の経済開発部門の代表者たちの会合が開かれたが、この連合会の各地域の代表である、アナリサ・サッシ、フランセスコ・ブッゼラ、マルコ・ゲイ、エンリコ・カラロの4氏は、現在のエネルギー価格は、「尋常ではない高さで、しかも急激に高騰している」と語り、生産活動の完全閉鎖を阻止できる唯一の可能性は、欧州議会による介入しかないと述べた。

 地域連合会のこの4代表は、ガスと電気の費用が10倍になったことを報告書で記している。具体的には、2019年から2022年は45億ユーロだったのが、2023年には360~410億ユーロにまで高騰するとのことだ。イタリアでは前例のないこのような費用の高騰が起これば、産業は劇的に衰退し、イタリアの産業活動は完全に停止してしまうだろう。その際、一番大きな影響を受けるのが、中小企業なのだが、その危機は、外国に産業製品を輸出している大手企業にも影響を与えるだろう。

 その翌月、この産業連合会が発表したところによると、2023年の経済成長の見通しは、ゼロになるだろうという。 「私たちの経済は、複雑で、幾分暗く、面倒な方向に進むでしょう」と同連合会の代表であるフランセスカ・マリオッティ氏は、同連合会の研究センターが出した秋の経済予想を発表した際に語っていた。


記録的な企業倒産数を出しているフランス

 今年、ほぼ9千社のフランス企業が倒産しているが、この数は、ここ25年で最大だ、とラジオのフランスインホ局は、アルタレス社が出した数値を引用して報じた。

 今年の第3四半期、フランスでは、8950件の倒産手続きが取られたが、これは昨年の69%増しだった。アルタレス社によると、小規模店舗やレストランや美容院が、最も影響を受けたという。 2021年の同時期と比べると、レストランの閉店数は150%、美容所や美容院については94%増加している。

 アルタレス社はこの現状を、インフレの進行とサービス料金の高騰、そして国による企業支援措置の減少、さらには新型コロナウイルスの大流行後に消費者の習慣にやや変化が見られたことと関連付けている。

 昨年12月、ロシアからのエネルギー購入拒否運動が悪化する前のことだが、エネルギー消費者産業連合 (フランス語略称はUNIDEN)は次のように警告していた。「フランス国内の電気集中型産業は、価格状況が最悪になれば、近い将来、市場における供給の大部分を補充しなければならなくなるだろう」と。そしてその際の追加費用を、20億ユーロだと見積もっていた。

 UNIDENは、フランスで行われているエネルギー集中型産業を代表する団体であるが、食品業界、自動車業界、化学業界、セメントと石炭業界、建設業界、エネルギー業界、金属業界、製紙業界、運輸業界、ガラス業界も網羅している。この団体に加盟している諸企業は、フランス産業界の電気と天然ガスの7割を消費している。

 現在、フランスの燃料業界は、崩壊の瀬戸際にある。ガソリンスタンドの3割が、労働者たちによる大規模なストライキのために、ガソリンを所有していない。トタル社とエクソン・モービル社の労働者たちが激怒しているのは、現在のインフレ水準下、 補助金と援助なしでは今の給料で生活できない点だ。フランス当局は、堪忍袋の緒を切らせ、 ストライキを行っている労働者たちを、力づくで解散させ、従わなければ賃金カットも辞さない構えだ。


製油所の前で抗議活動を行っているフランスのトータル・エネルギー社とエクソン・モービル社の労働者たち( Photo: EFE )

 「労働組合が断固として合意の話し合いに応じないのであれば、必要な力を使って、できる手段を総動員して、精油作業を開始するしかありません。私が決める猶予期間は、時間単位、最大限許せて、日単位です。週単位ではありません。それでは時間がかかりすぎます」と、フランスのブルーノ・ル・メール金融大臣は述べている。


産業の経済的支柱なしで、欧州はどれほど継続できるだろうか?

  独・伊・仏、3カ国のこれらの事例は、ほんの数例を示したにすぎない。(これら3カ国の産業能力にとって、最も重要な事例だけ示したものだ)。そしてこれらの事例は、いま欧州連合が直面している一般的な現状を示すものだ。それは、非産業化が進行しているということである。

 産業の潜在能力が衰退すれば、失業率の高騰や、一般市民からの不満の増加といった、既に現れている直接の影響を招くだけでは済まない。それだけではなく、他国に依存して、不可欠な原料や部品などを入手しないといけない状況も生み出される。例えば、「錫とアルミの製造能力は、半分に抑え込まれ、金属の鋳造は衰退している」と欧州非鉄金属協会は発表している。

 このような状況が継続すれば、これらの天然資源を使って、これまで欧州大陸内で製造してきた原材料(例えば機械や航空機や車輪の部品など)を、アジアや米国からの輸入に置き換えなければならなくなるだろう。

 制裁による戦争を始めたことで、EU諸国は、自国主権を完全に手放すことになってしまった。この不当な制裁が課されるまでは、欧州の産業構造は、欧州大陸の各国が、ある一定の自決権を裁量できる力を維持できていた。しかし今は、欧州諸国の規則を決められるのは、欧州に原料や部品を供給する国になってしまいつつある。そのような原料や部品がなければ、欧州社会を維持してきた技術的な枠組みが回らなくなるからだ。

 米国は欧州にとって決定的な供給者になろうと、歩を進めてきた。そうなれば、EUが「米英にとっての下僕」という役割を担うことに甘んじざるをえなくなる。たとえ、英米の下僕になることが、欧州の人々にとって利益にならないとしてもである。
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

tmmethod

Author:tmmethod
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
リンク
最新記事
カテゴリ
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

月別アーカイブ
最新コメント