ウクライナ紛争はネオコンが引き起こした直近の大惨事
<記事原文 寺島先生推薦>
Ukraine Is the Latest Neocon Disaster
筆者:ジェフリー・D.サックス(Jeffrey D.Sachs)
出典:OTHER NEWS
2022年6月27日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年10月10日
ウクライナ戦争は、30年にわたるアメリカ新保守主義運動の集大成である。 この新保守主義者(ネオコン)にバイデン政権も牛耳られている。彼らはかつて、セルビア(1999年)、アフガニスタン(2001年)、イラク(2003年)、シリア(2011年)、リビア(2011年)でアメリカが選択した戦争を支持し、今回のロシアのウクライナ侵攻においてもロシアを挑発するという大きな仕事をした。これらネオコンがやったことは紛れもない大失敗だが、それでもバイデンは自分のチームにネオコンを配した。 その結果、バイデンはウクライナ、米国、そして欧州連合を、またもや地政学的な大失敗へと導こうとしている。もしヨーロッパに洞察力があれば、このようなアメリカの外交政策の大失敗から自らを切り離すだろう。
ネオコン運動は、1970年代にシカゴ大学の政治学者レオ・ストロース(Leo Strauss)とイェール大学の古典学者ドナルド・ケーガン(Donald Kagan)の影響を受けた数人の名前のよく知られた知識人のグループを中心に発生した。 ネオコンの指導者には、ノーマン・ポドホルツ(Norman Podhoretz)、アーヴィング・クリストル(Irving Kristol)、ポール・ウォルフォウィッツ(Paul Wolfowitz)、ロバート・ケイガン(Robert Kagan)(ドナルドの息子)、フレデリック・ケイガン(Frederick Kagan)(ドナルドの息子)、ビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)(ロバートの妻)、エリオット・エイブラムス(Elliott Abrams)、そしてキンバリー・アレン・ケイガン(Kimberley Allen Kagan)(フレデリックの妻)などがいる。
ネオコンの主要なメッセージは、米国は世界のあらゆる地域で軍事的に優位に立たなければならず、いつの日か米国の世界または地域の支配に挑戦する可能性のある地域の新興勢力、特にロシアと中国に立ち向かわなければならない、というものである。 この目的のために、米国の軍事力は世界中の何百もの軍事基地にあらかじめ配置され、米国は必要に応じて、望む戦争を導く準備をしなければならない。 国連は、米国の目的に役立つときだけ、米国が利用するものである。
この手法は、ポール・ウォルフォウィッツが2002年に国防総省のために書いた国防政策指針(DPG)草案で初めて明言されたものである。 この草案は、ドイツの統一に続いてNATOの東方拡大を行わないことを、1990年、ドイツのハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー(Hans-Dietrich Genscher)外相が明確に約束したにもかかわらず、米国主導の安全保障ネットワークを中・東欧に拡大することを求めたものである。 ウォルフォウィッツはまた、アメリカの望む戦争を主張し、アメリカが懸念する危機に対して、単独であれ、独立して行動する権利を擁護している。 ウェスリー・クラーク将軍によれば、ウォルフォウィッツはすでに1991年5月、イラクやシリアなど旧ソ連の同盟国での政権交代作戦をアメリカが主導することをクラークに明言していたという。
ネオコンは、2008年にジョージ・W・ブッシュ・ジュニアの下で米国の公式政策となる以前から、ウクライナへのNATO拡大を唱えていた。 彼らは、ウクライナのNATO加盟が米国の地域的・世界的支配の鍵になると考えていたのである。 ロバート・ケイガンは、2006年4月、ネオコンのNATO拡大の手順を詳述している:
「ロシアと中国は、旧ソ連圏における "カラー革命 "に自然なものはなにもない、と見ており、世界戦略的に重要な地域における西側の影響力を促進するために、西側が支援したクーデターであるとしか考えていない。 彼らの見方はそんなに間違っているのだろうか?西側民主主義諸国が推進し支援するウクライナの自由化の成功は、同国をNATOやEUに編入するための前段階、つまり西側の自由主義覇権の拡大に過ぎないかもしれないのだろうか?」
ケイガンは、NATOの拡大がもたらす悲惨な意味合いを認めている。 彼はある専門家の言葉を引用して、「クレムリンは「ウクライナのための戦い」の準備を真剣にしている」と言っている。 ソ連崩壊後、米ロ両国は万が一の時の緩衝帯、そして安全弁として、中立的なウクライナを求めるべきだった。 しかし、ネオコンはアメリカの「覇権」を求め、ロシアは、一部は防衛のため、そして一部は自国の帝国主義を誇示するために、この戦いに参加したのである。 この戦争は、オスマン帝国に対してロシアが圧力をかけた後、イギリスとフランスが黒海でロシアの弱体化を図ったクリミア戦争(1853-6年)のような色合いを持っている。
ケイガンは、妻のビクトリア・ヌーランドがジョージ・W・ブッシュ・ジュニアの下でNATO大使を務めている間、私人としてこの記事を書いた。 ヌーランドは、ネオコン工作員の代表格である。 ブッシュのNATO大使に加え、2013年から17年までバラク・オバマの欧州・ユーラシア担当国務次官補を務め、ウクライナの親ロシア大統領ヴィクトール・ヤヌコヴィッチ(Viktor Yanukovych)の打倒に参加し、現在はバイデンの国務次官としてウクライナ戦争に対する米国の政策を指導している。
ネオコンの見解は、米国の軍事的、財政的、技術的、経済的優位性によって、世界のすべての地域で条件を決定することができるという、極めて誤った前提に基づいている。 これはネオコンの、驚くべき傲慢さと、驚くべきほど現状を軽く見ている立場を示している。1950年代以降、米国は参加したほぼすべての地域紛争で、その動きを阻まれたか、敗北してきた。 しかし、「ウクライナのための戦い」では、ネオコンはロシアの猛反対を押し切ってNATOを拡大し、ロシアとの軍事衝突を誘発する用意をしていた。というのも、彼らはロシアが米国の金融制裁とNATOの兵器によって敗北すると熱に浮かされたように信じているからだ。
キンバリー・アレン・ケイガンが率いるネオコン系シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、(ゼネラルダイナミクスやレイセオンといった国防関連企業の有力者に支援されて)ウクライナの勝利を約束し続ける。 ロシアの前進について、ISWは目新しくもないコメントを発表している:
「シエビエロドネツク(Sievierodonetsk)市をどちらが押さえるにしても、作戦・戦略レベルでのロシアの攻勢はそこでおそらく頂点に達し、ウクライナは作戦レベルでの反撃を再開し、ロシア軍を押し返す機会を得ることになるだろう。」
しかし、現実に起きていることは、そうではない。 欧米の経済制裁は、ロシアにはほとんど悪影響を与えていないが、それ以外の国には大きなブーメラン効果を与えている。 さらに、ウクライナに弾薬や武器を補給する米国の能力は、米国の生産能力の限界とサプライチェーンの途絶によって、深刻な打撃を受けている。もちろん、ロシアの工業能力はウクライナのそれを凌駕している。 戦前のロシアのGDPはウクライナの約10倍だったが、ウクライナは戦争で工業力の多くを失ってしまった。
現在の戦闘で最も可能性が高いのは、ロシアがウクライナの大部分を征服し、おそらくウクライナを内陸部に押しとどめる、もしくはそれに近い状態にすることであろう。 ヨーロッパと米国では、軍事的損失と戦争と制裁によるスタグフレーションの影響により、不満が高まるだろう。 米国で右翼のデマゴーグ(大衆扇動家)が台頭し(あるいはトランプの場合は政権に復帰し)、危険な拡大主義のもと米国の色あせた軍事的栄光を回復すると約束すれば、その連鎖的効果は壊滅的になりかねない。
このような惨事を招く危険を冒す代わりに、真の解決策は、過去30年間のネオコンの幻想を終わらせ、ウクライナとロシアが交渉のテーブルに戻り、NATOがウクライナの主権と領土の一体性を尊重し保護する実行可能な平和と引き換えに、ウクライナとジョージアへの東方拡大への関与を終了させることである。
記事原文はこちら
https://www.other-news.info/ukraine-is-the-latest-neocon-disaster/
Ukraine Is the Latest Neocon Disaster
筆者:ジェフリー・D.サックス(Jeffrey D.Sachs)
出典:OTHER NEWS
2022年6月27日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年10月10日
ウクライナ戦争は、30年にわたるアメリカ新保守主義運動の集大成である。 この新保守主義者(ネオコン)にバイデン政権も牛耳られている。彼らはかつて、セルビア(1999年)、アフガニスタン(2001年)、イラク(2003年)、シリア(2011年)、リビア(2011年)でアメリカが選択した戦争を支持し、今回のロシアのウクライナ侵攻においてもロシアを挑発するという大きな仕事をした。これらネオコンがやったことは紛れもない大失敗だが、それでもバイデンは自分のチームにネオコンを配した。 その結果、バイデンはウクライナ、米国、そして欧州連合を、またもや地政学的な大失敗へと導こうとしている。もしヨーロッパに洞察力があれば、このようなアメリカの外交政策の大失敗から自らを切り離すだろう。
ネオコン運動は、1970年代にシカゴ大学の政治学者レオ・ストロース(Leo Strauss)とイェール大学の古典学者ドナルド・ケーガン(Donald Kagan)の影響を受けた数人の名前のよく知られた知識人のグループを中心に発生した。 ネオコンの指導者には、ノーマン・ポドホルツ(Norman Podhoretz)、アーヴィング・クリストル(Irving Kristol)、ポール・ウォルフォウィッツ(Paul Wolfowitz)、ロバート・ケイガン(Robert Kagan)(ドナルドの息子)、フレデリック・ケイガン(Frederick Kagan)(ドナルドの息子)、ビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)(ロバートの妻)、エリオット・エイブラムス(Elliott Abrams)、そしてキンバリー・アレン・ケイガン(Kimberley Allen Kagan)(フレデリックの妻)などがいる。
ネオコンの主要なメッセージは、米国は世界のあらゆる地域で軍事的に優位に立たなければならず、いつの日か米国の世界または地域の支配に挑戦する可能性のある地域の新興勢力、特にロシアと中国に立ち向かわなければならない、というものである。 この目的のために、米国の軍事力は世界中の何百もの軍事基地にあらかじめ配置され、米国は必要に応じて、望む戦争を導く準備をしなければならない。 国連は、米国の目的に役立つときだけ、米国が利用するものである。
この手法は、ポール・ウォルフォウィッツが2002年に国防総省のために書いた国防政策指針(DPG)草案で初めて明言されたものである。 この草案は、ドイツの統一に続いてNATOの東方拡大を行わないことを、1990年、ドイツのハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー(Hans-Dietrich Genscher)外相が明確に約束したにもかかわらず、米国主導の安全保障ネットワークを中・東欧に拡大することを求めたものである。 ウォルフォウィッツはまた、アメリカの望む戦争を主張し、アメリカが懸念する危機に対して、単独であれ、独立して行動する権利を擁護している。 ウェスリー・クラーク将軍によれば、ウォルフォウィッツはすでに1991年5月、イラクやシリアなど旧ソ連の同盟国での政権交代作戦をアメリカが主導することをクラークに明言していたという。
ネオコンは、2008年にジョージ・W・ブッシュ・ジュニアの下で米国の公式政策となる以前から、ウクライナへのNATO拡大を唱えていた。 彼らは、ウクライナのNATO加盟が米国の地域的・世界的支配の鍵になると考えていたのである。 ロバート・ケイガンは、2006年4月、ネオコンのNATO拡大の手順を詳述している:
「ロシアと中国は、旧ソ連圏における "カラー革命 "に自然なものはなにもない、と見ており、世界戦略的に重要な地域における西側の影響力を促進するために、西側が支援したクーデターであるとしか考えていない。 彼らの見方はそんなに間違っているのだろうか?西側民主主義諸国が推進し支援するウクライナの自由化の成功は、同国をNATOやEUに編入するための前段階、つまり西側の自由主義覇権の拡大に過ぎないかもしれないのだろうか?」
ケイガンは、NATOの拡大がもたらす悲惨な意味合いを認めている。 彼はある専門家の言葉を引用して、「クレムリンは「ウクライナのための戦い」の準備を真剣にしている」と言っている。 ソ連崩壊後、米ロ両国は万が一の時の緩衝帯、そして安全弁として、中立的なウクライナを求めるべきだった。 しかし、ネオコンはアメリカの「覇権」を求め、ロシアは、一部は防衛のため、そして一部は自国の帝国主義を誇示するために、この戦いに参加したのである。 この戦争は、オスマン帝国に対してロシアが圧力をかけた後、イギリスとフランスが黒海でロシアの弱体化を図ったクリミア戦争(1853-6年)のような色合いを持っている。
ケイガンは、妻のビクトリア・ヌーランドがジョージ・W・ブッシュ・ジュニアの下でNATO大使を務めている間、私人としてこの記事を書いた。 ヌーランドは、ネオコン工作員の代表格である。 ブッシュのNATO大使に加え、2013年から17年までバラク・オバマの欧州・ユーラシア担当国務次官補を務め、ウクライナの親ロシア大統領ヴィクトール・ヤヌコヴィッチ(Viktor Yanukovych)の打倒に参加し、現在はバイデンの国務次官としてウクライナ戦争に対する米国の政策を指導している。
ネオコンの見解は、米国の軍事的、財政的、技術的、経済的優位性によって、世界のすべての地域で条件を決定することができるという、極めて誤った前提に基づいている。 これはネオコンの、驚くべき傲慢さと、驚くべきほど現状を軽く見ている立場を示している。1950年代以降、米国は参加したほぼすべての地域紛争で、その動きを阻まれたか、敗北してきた。 しかし、「ウクライナのための戦い」では、ネオコンはロシアの猛反対を押し切ってNATOを拡大し、ロシアとの軍事衝突を誘発する用意をしていた。というのも、彼らはロシアが米国の金融制裁とNATOの兵器によって敗北すると熱に浮かされたように信じているからだ。
キンバリー・アレン・ケイガンが率いるネオコン系シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、(ゼネラルダイナミクスやレイセオンといった国防関連企業の有力者に支援されて)ウクライナの勝利を約束し続ける。 ロシアの前進について、ISWは目新しくもないコメントを発表している:
「シエビエロドネツク(Sievierodonetsk)市をどちらが押さえるにしても、作戦・戦略レベルでのロシアの攻勢はそこでおそらく頂点に達し、ウクライナは作戦レベルでの反撃を再開し、ロシア軍を押し返す機会を得ることになるだろう。」
しかし、現実に起きていることは、そうではない。 欧米の経済制裁は、ロシアにはほとんど悪影響を与えていないが、それ以外の国には大きなブーメラン効果を与えている。 さらに、ウクライナに弾薬や武器を補給する米国の能力は、米国の生産能力の限界とサプライチェーンの途絶によって、深刻な打撃を受けている。もちろん、ロシアの工業能力はウクライナのそれを凌駕している。 戦前のロシアのGDPはウクライナの約10倍だったが、ウクライナは戦争で工業力の多くを失ってしまった。
現在の戦闘で最も可能性が高いのは、ロシアがウクライナの大部分を征服し、おそらくウクライナを内陸部に押しとどめる、もしくはそれに近い状態にすることであろう。 ヨーロッパと米国では、軍事的損失と戦争と制裁によるスタグフレーションの影響により、不満が高まるだろう。 米国で右翼のデマゴーグ(大衆扇動家)が台頭し(あるいはトランプの場合は政権に復帰し)、危険な拡大主義のもと米国の色あせた軍事的栄光を回復すると約束すれば、その連鎖的効果は壊滅的になりかねない。
このような惨事を招く危険を冒す代わりに、真の解決策は、過去30年間のネオコンの幻想を終わらせ、ウクライナとロシアが交渉のテーブルに戻り、NATOがウクライナの主権と領土の一体性を尊重し保護する実行可能な平和と引き換えに、ウクライナとジョージアへの東方拡大への関与を終了させることである。
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