fc2ブログ

黒人層の支援でコロンビアに左翼政権が成立

<記事原文 寺島先生推薦>
How Black Colombia Helped to Bring the Left to Power

出典: INTERNATIONALIST 360°

2022年7月12日

著者:カルロス・クルツ・モスケラ (Carlos Cruz Mosquera)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年8月31日


ブエナヴェントゥラの若き黒人活動家たち

 主要なメディアは象徴となる政治家個人に焦点を当てるが、今日のコロンビアの歴史的瞬間は、グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)と彼の連合による奮闘だけに収斂されるものではない。原則的な取組によって有権者を獲得するための見事な選挙運動であったことは言うまでもないが、勝利の決定的な要因は、昨年の全国的なストライキであった。

 人種差別されてきた労働者階級の若者たちが勇敢に立ち上がったおかげで、国の動きは止まり、すべての急進派と進歩派は、変化を求める熱烈な叫びで一つにまとめあげられた。デモの結果は、いたるところで目にすることができる。多くの人が命を落としたこの運動がなければ、今日のような歴史的瞬間に私たちはいなかったであろうことは、ほとんど疑いの余地がないはずである。

 コロンビアの最近の選挙結果を理解するためには、より主流の説明ではやや不明瞭になっている人種と階級の力学を理解する必要がある。それは、私たちがしばしばトップダウンの視点で提示されるからである。下層大衆は、結局のところ、たんに歴史の臣下にすぎず、決して歴史を作り上げる側にはいない、そう彼らは我々に信じ込ませているのである。

 昨年の運動は、ある政府の法案に対する一部の人たちの反応として始まったが、徐々に広範で、より急進的な要求を持つものへと発展していった。人種差別されてきたコロンビアの労働者階級が直面している耐え難い物質的・社会的条件により蜂起が発生し、その過程で、左翼・進歩的運動の背中が押され、より過激な諸要求、そしてその時は不可能と思われていたもの、つまり左翼政権を受け入れさせたのである。

 歴史的に、コロンビアの紛争の根源に関する研究はかなり限定されたものだった。学者たちはしばしば、10年間(1948年から1958年)という硬直した時間軸に注目し、これをラ・ヴィオレンシア(La Violencia)と名づけて、現在の紛争はそこから始まったとみなしてきた。さらに、この紛争は自由党と保守党の間の確執から発生したという説もよく聞かれる。このような狭い見方は、この国の状況を独特なものとして形成する役割を担ってきた。あたかもこの紛争が本質的にコロンビア特有のものであり、私たちコロンビア国民の体液にある何かによって引き起こされたかのように思わされてきたのだ。

 実際は、暴力と紛争を生じさせた状況の要因は、資本主義の発展、国家の形成、そして重要なことだが、植民地支配の遺産にたどることができる。このような広い文脈の中で、コロンビア社会を悩ませている貧困、社会不安、暴力の状況は、決して特殊なものではない。程度の多少はあれ、このような紛争は資本主義世界システムに統合されたどこの国でも経験されることだ。

 コロンビアの紛争の激化は、19世紀中頃コロンビアの市場が世界システムに統合されたところまでたどることができる。また、異なる社会階級の間の社会的関係は、植民地時代から継承された力関係にまでたどれる。このことは、他の場所でもよく理解されており、今日でも世界中の社会的関係に影響を及ぼしている。

 別の言い方をすれば、今日、最悪の貧困と暴力に苦しんでいるコロンビアの黒人と、他の場所で、同様の状況に直面している人種的差別にさらされたコミュニティは、同じ世界史的流れの中にいることになる。

 近年、欧米諸国では、社会における多くの植民地主義の遺産に反対する運動が盛り上がっている。当局が黒人を標的にし、さらには殺害する方法を暴露した「ブラック・ライブズ・マター」運動から、植民地主義の遺産の銅像やその他のシンボルを取り壊し、この遺産がもたらす社会的・経済的結果に対処するよう求める声まで、さまざまな動きがある。植民地主義の遺産を解体するこの運動は、欧米諸国をはじめ世界各地で展開されている。

 昨年4月下旬、コロンビアの労働者階級の若者たちは、パンデミックの真っ只中、3ヶ月の全国ストライキに突入した。彼らもまた、コロンブスをはじめとする植民地主義者の銅像をいくつも倒した。コロンビアは、不条理にも、クリストファー・コロンブスにちなんで名づけられた。この事実は、名前とシンボルだけでなく、コロンビアの各コミュニティの社会的、経済的、政治的現実の中で、植民地支配の遺産が現在に至るまで残存していることを象徴するものだ。黒人活動家レナード・レンテリア(Leonard Renteria)と他の活動家たちは、全国ストの間、通りを封鎖した。


全国ストの間、通りを封鎖する黒人活動家レナード・レンテリアと他の活動家たち

 「開発」によって土地を追われ、恐怖にさらされた黒人コミュニティ、特に黒人女性は、国の主要都市であるボゴタ、メデジン、カリへの逃亡を余儀なくされている。そして、都市に住む黒人女性は、労働市場や社会一般で最も差別される層へと動かしがたく押し込められている。

 以上のような背景から、カリ市が昨年の全国的な抗議行動の震源地であり、抗議者に対する国家の暴力と弾圧が死や失踪につながる可能性が高かったという統計があることは驚くにはあたらない。(コロンビアの報道機関である)CODHESとProceso de Comunidades Negras(PCN)が発表した記事では、抗議デモの間、暴力のほとんどはカリ市、特にその黒人居住区で起こったことが示されている。

 コロンビア当局が、抗議行動を暴力的に弾圧するというのは今に始まったことではない。昨年の抗議活動のデータは、黒人や人種差別された人々が参加したことが、暴力や弾圧の激しさを増した要因であったことを浮き彫りにしている。

 抗議行動とその周辺に形成された運動を押しつぶそうと躍起になっていたのは、国家と伝統的な保守エリートだけではなかったことを指摘しておかなければならない。リベラル派や、より左寄りの進歩的な公職にある人々でさえも我関せずの態度だった。ストライキを組織した組合のリーダーは、彼らの見解では、手に負えなくなりつつあるとして、人々に抗議を放棄するよう呼びかけを始めた。彼らの見方からすれば、抗議行動はあまりにも無秩序で破壊的、暴力的であり、適切な指導者も組織も存在しなかったのだ。

 中には、犯罪組織が長期のストライキを主導したと言い出す者もいた。抗議していた若い、ほとんどが黒人の、貧しい混血のコミュニティは、自分らのストライキが何週間も維持できているのは、運動がよく組織されているからだと反論し、繰り返し自分たちの政治的要求を訴えた。

 抗議運動が無秩序だとか、諸要求に真面目さが欠けていたということではない。これらの要求が急進的すぎて、権力者や反権力をかかげる人々の耳には届かなかったということだ。

 抗議行動で前面に出たイデオロギーの違いは、この国で観察される大規模な物質的・社会的格差によって部分的に説明することができる。街頭に出た黒人、先住民、貧困層のコミュニティは、既存の政治・経済構造の抜本的な変革から失うものは少ない。中流階級のリベラルな進歩主義者、特に公の地位に就いている人々は、制度をあれこれいじくったり、公的な交渉をすることしか念頭にない。だから急進的な抗議や要求に二の足を踏んでしまうのだ。

 支持は得られなかったものの、昨年抗議した人々が、2世紀にわたって続いてきたエリート支配からの脱却を国に迫ったと主張するのは、あながち的外れなことではないだろう。現在、次期副大統領であるフランシア・マルケス(Francia Marquez)は、抗議行動に参加し、人種差別を受けた若者の要求を最も明確に表現したリーダーの一人であった。伝統的に選挙政治に関心のない人々の支持を集めた彼女の政治的能力は決定的なものである。



フランシア・マルケスの支持者たち。写真イヴァン・ヴァレンシア

 どれも偶然と見るべきではない。マルケスは、最も抑圧されたコミュニティの条件の中を生きてきた。だから彼女はこの国の根本的な変革への緊急性を体現しているのだ。実際、この国の多数派である黒人や先住民の地域、つまり忘れられ、無視されてきた地域でのかつてないほどの投票率が、この国初の左派政権の勝利を確かなものにしたのである。

 人種差別と階級差別が組み合わさって、多くの、おそらくは大半のコロンビア人が経験する「これでは生きてゆけない」という物質的・社会的状況を作り出している。こうした条件とそれを経験する人々が、この国の急進的な変革の先頭に立っていることは間違いない。彼女を取り巻く腰が引けたプロの政治家たちとは異なり、マルケスという存在は変革への動きと、その流れに乗ろうと躍起になっている新自由主義の日和見主義者との間に一線を画しているのだ。

 結局のところ、進歩的なこの新政権が、自分たちを政権の座に就けくれた大衆に報いることができる最も確実な方法は、この国を覆い続けている歴史的な人種と階級の分裂に早急に対処することである。そこまではゆかないにしても、若者たちの力を奮い立たせ今日の歴史的な政権交代をもたらしたのと同じ「これでは生きて行けない」という状況が、次の選挙で、実際、表に出てくることになるだろう。あるいは、もっと早い時期になるかもしれない。

La lucha es larga, comencemos ya!
戦いは長い、今こそ始めよ!
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

tmmethod

Author:tmmethod
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
リンク
最新記事
カテゴリ
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

月別アーカイブ
最新コメント