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気象兵器:「米軍による気候兵器の実験に要注意!」

<記事原文 寺島先生推薦>
Weather Warfare: “Beware the US Military’s Experiments with Climatic Warfare”
「気候兵器」は、気候変動に関する議題から除外されている。
筆者:ミシェル・チョスドフスキー教授
https://www.globalresearch.ca/author/michel-chossudovsky
出典:グローバル・リサーチ  2023年9月1日
初出:『エコロジスト』2007年12月号、グローバル・リサーチ2007年12月7日号
<記事飜訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年9月3日


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筆者による注

 「環境改変技術」とは、自然のプロセスを意図的に操作することによって、生物相、岩石圏、水圏、大気圏を含む地球、あるいは宇宙空間の力学、組成、構造を変化させる技術を指す。(環境改変技術の軍事的またはその他の敵対的使用の禁止に関する条約、国連、ジュネーブ、1977年5月18日)

 「米軍の科学者たちは、潜在的な兵器として気象システムの研究に取り組んでいる。その方法には、嵐を強化したり、地球の大気中で「大気の川」の向きを変えたりして、干ばつや洪水を引き起こすことを狙っている。(故ロザリー・バーテル)

 指向性エネルギー兵器(DEW)は53億ドル(2022年)の活況を呈しており、2027年には129億ドル(約1.6兆円)にまで拡大すると予測されている。この利益主導の軍需産業市場は、レイセオン、ノースラップ・グランマン、BAEシステムズ(plc)、ボーイング、ロッキード・マーチン、L3ハリス・テクノロジーズを含む6つの「国防請負業者」によって支配されている。

 「レイセオン社とBAEシステムズ社も米空軍に代わってENMOD技術に関与している」(ミシェル・チョスドフスキー、2023年8月)


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「数十億ドル規模の "指向性エネルギー兵器(DEW)"市場、軍用と"民生用"(?) この兵器DEWはハワイで使われたのか?」
(ミシェル・チョスドフスキー、2023年8月30日)

***

 私は2001年、アラスカのゴコナにあるHAARPアンテナ・システムに焦点を当て、環境改変技術(ENMOD)の研究を開始した。

 HAARP施設は、高度な能力を有し、1990年代半ばから全面的に稼働していた。

 HAARPは2014年に閉鎖されたが、環境改変技術(ENMOD)の技術はこの10年間でますます複雑になり、精度も高まっている。文書の多くは機密扱いになっている。

 米国では、指向性エネルギー兵器(DEW)が、DARPA(国防高等研究計画局)や空軍研究所、海軍研究局など、国防総省に関連する複数の機関によって研究されている。

 気候、地球工学、環境改変技術(ENMOD)に関する議論に関連して、The Ecologistが最初に発表したこの記事(2007年12月7日)は、概要と歴史を提供している。また、BAEシステムズ社やレイセオン社など、HAARP開発における民間軍事請負業者の役割も確認されている。

ミシェル・チョスドフスキー 2023年8月17日

***
 地球規模の気候変動に関する議論ではほとんど語られていないが、世界の天候は現在、新世代の高度化された電磁波兵器の一部として変更することができる。アメリカもロシアも、軍事利用のために気候を操作する能力を開発してきた。

 環境改変技術(ENMOD)は、米軍によって半世紀以上にわたって実用化されてきた。米国の数学者ジョン・フォン・ノイマンは、米国防総省と連絡を取りながら、冷戦真っ只中の1940年代後半に気象改変の研究を開始し、「まだ想像もつかないような気候戦争の形態」を予見した。ベトナム戦争では、1967年に始まったポパイ計画で雲を播く技術が使われた。その目的は、モンスーン期間を長引かせ、ホーチミン・ルート沿いの敵の補給路を遮断することだった。

 米軍は、気象パターンを選択的に変化させることができる高度な能力を開発した。高周波活性オーロラ研究プログラム(HAARP)の下で完成しつつあるこの技術は、戦略防衛構想(スター・ウォーズ)の付属物である。(HAARP施設は2014年に閉鎖されたが、それ以後も、より高度な施設が開発されている)軍事的見地から見れば、HAARPは大気圏外から作動する大量破壊兵器であり、世界中の農業を不安定化させることができる。

 米空軍の文書AF2025最終報告書によれば、気象改変は 「戦争をする兵士に、敵対者を打ち負かしたり、威圧したりするための幅広い可能性のある選択肢を提供する」 ものであり、その能力は洪水、ハリケーン、干ばつ、地震の誘発にまで及ぶという:

 気象改変は、国内および国際的な安全保障の一部となり、一方的に実行される可能性がある......攻撃的および防衛的な応用が可能で、抑止力の目的で使用されることさえある。地上に降水、霧、嵐を発生させる能力、宇宙気象を修正する能力...そして人工気象を作り出すことはすべて、統合された一連の(軍事)技術の一部である」。*(『戦力増強装置としての天候:2025年の天候を支配する』)。

 1977年、国連総会は 「広範囲で、長期的、または深刻な影響を及ぼす環境改変技術の軍事的またはその他の敵対的使用」を禁止する国際条約を批准した。同条約は「環境改変技術」を「生物相、岩石圏、水圏、大気圏を含む地球、または宇宙空間の力学、組成、構造という、自然界の流れを意図的に操作することによって変化させるあらゆる技術」と定義した。

 1977年条約の内容は、1992年のリオでの地球サミットで署名された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)で再確認されたが、軍事利用のための気象改変に関する議論は科学的タブーとなっている。

 軍事評論家はこのテーマについて無言である。気象学者はこの問題を調査せず、環境学者は京都議定書の温室効果ガス排出量にだけ注目している。軍事的・諜報的意図の一環として気候や環境が操作される可能性は、密かに知られているが、国連が支援する気候変動に関するより広範な議論の一部にはなっていない。


HAARP計画

 1992年に設立されたHAARPは、アラスカのゴコナに拠点を置き、高周波電波を通して電離層(大気の上層)に大量のエネルギーを送信する高出力アンテナ群である。その建設には米空軍、米海軍、国防高等研究計画局(DARPA)が資金を提供した。空軍研究所と海軍研究局が共同で運営するHAARPは、「電離層の制御された局所的な変化」を作り出すことができる強力なアンテナ装置である。公式ウェブサイト(www.haarp.alaska.edu)によると、HAARPは「電離層の温度に局所的な小さな変化を誘発し、HAARPの設置場所かその近くにある他の観測装置で物理的反応を研究する」ために使用される。

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HAARPのアンテナ群

 しかし、国際公衆衛生研究所(International Institute of Concern for Public Health)のロザリー・バーテル会長は、HAARPは次のように機能していると言う:

「電離層に大きな混乱を引き起こし、致命的な放射線が地球を襲うのを防ぐ保護層に、穴だけでなく長い切り傷を作ることができる巨大な熱源発生器(ヒーター)」

 物理学者のバーナード・イーストランド博士は、これを「これまでに作られた中で最大の電離層ヒーター」と呼んだ。

HAARPはアメリカ空軍によって研究計画として発表されているが、軍事文書によれば、その主な目的は、気象パターンを変化させ、通信やレーダーを混乱させることを目的とした「電離層の変形」であることが確認されている。

 ロシア下院の報告は次のように述べている:

「米国はHAARP計画の下で大規模な実験を行い、宇宙船やロケットに搭載された無線通信回線や機器を破壊し、電力網や石油・ガスパイプラインに重大な事故を引き起こし、地域全体の精神衛生に悪影響を与えることができる兵器を作ることを計画している」1*。

 アメリカ空軍から出された声明を分析すると、考えられないことが指摘されている。

世界戦争の武器として、気象パターン、通信、電力システムを秘密裏に操作し、アメリカが地域全体を混乱させ、支配することを可能にする

 気象操作は卓越した先制攻撃兵器である。敵国や「友好国」に知られることなく、経済や生態系、農業を不安定化させることができる。また、金融市場や商品市場に大混乱を引き起こすこともある。農業の混乱は、食糧援助や、アメリカや他の西側諸国からの輸入穀物への依存度を高める。

 HAARPは、HAARPの特許を所有するレイセオン社、アメリカ空軍、イギリス航空宇宙システム(BAES)の英米連携事業の一環として開発された。

 HAARP計画は、この2つの防衛大手による先端兵器システムの共同事業のひとつである。HAARP計画は、アトランティック・リッチフィールド・コーポレーション社(ARCO)の子会社であるアドバンスト・パワー・テクノロジーズ社(APTI)によって1992年に開始された。APTI(HAARP特許を含む)は1994年にARCOからE-システムズ社に売却された。E-システム社はCIAと米国防総省と契約し、「大統領が核戦争を管理できる」「ドゥームズデイ・プラン(地球最後の日計画)」を準備した。その後、レイセオン社に買収され、世界最大の諜報請負会社のひとつとなった。BAES社は、2004年に海軍研究局と契約し、HAARPアンテナ群の先進段階の開発に携わった。

 132基の高周波送信機の設置は、BAES社から米国子会社のBAEシステムズ社に委託された。7月の『Defense News』の報道によると、この計画はBAES社の電子戦部門が請け負った。9月には、HAARPアンテナ群の設計、建設、作動に対して、DARPA(国防総省高等研究計画局)から技術的業績に対する最優秀賞を受賞している。

 HAARPシステムは全面稼働しており、多くの点で既存の通常兵器や戦略兵器システムを凌駕している。軍事目的に使用されているという確たる証拠はないが、空軍の文書は、HAARPが宇宙の軍事化に不可欠な要素であることを示唆している。アンテナはすでに定期的にテストされているはずだ。

 UNFCCC(気候変動に関する国際連合枠組条約)のもと、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「気候変動の理解に関連する科学的、技術的、社会経済的情報を評価する」任務を負っている。この任務には、環境戦争も含まれる。ジオ・エンジニアリング(地球工学)は認められているが、その根底にある軍事利用は、2,500人ほどの科学者、政策立案者、環境保護論者の専門知識と意見に基づく、何千ページにも及ぶIPCCの報告書や補足文書では、政策分析の対象にも科学的研究の対象にもなっていない。「気候兵器」は人類の未来を脅かす可能性があるが、IPCCが2007年のノーベル平和賞を受賞した報告書からは、さりげなく除外されている。
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パキスタン、イムラン・カーン解任を求める米国の圧力を示す極秘外交公報を確認

<記事原文 寺島先生推薦>
Pakistan Confirms Secret Diplomatic Cable Showing U.S. Pressure to Remove Imran Khan
筆者:リアン・グリム、ムルタザ・フセイン(Ryan Grim and Murtaza Hussain)
出典:グローバル・リサーチ(Global Research)  2023年8月22日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年9月3日





当初インターセプト紙が報じた外報は本物ではないと主張していたが、パキスタン当局は現在、この外報は陰謀を表すものではない、と主張

 1年半にわたり、パキスタン政権は、米国務省当局者がパキスタンのイムラン・カーン元首相を権力の座から排除することを奨励しているとされる外交公電の文言に悩まされてきた。インターセプト紙は先週、内部では暗号として認知されていた公電の内容を公表したが、その内容は、ウクライナ紛争に対するカーン氏の中立的な立場をめぐり、米外交官らがカーン元首相の解任を迫っていることを明らかにしたものだった。

 この記事が発表されて以来、この記事に対するパキスタンと米国の当局者の反応は擁護的かつ矛盾したものだった。

 パキスタン指導部はすぐに文書の信頼性に疑問の声を挙げ始めた。カーン元首相の野党勢力の一員であるビラーワル・ブットー・ザルダーリー元外務大臣は、公開された公電が「本物ではないだろう」とし、「白紙の紙切れにはどんなことでも入力できる」と主張していた。それでも同元外務大臣はカーン元首相を非難し、元首相は機密文書を漏洩した可能性があるとしてパキスタン公務機密法に基づいて裁かれるべきだ、と述べた。

 パキスタンのシェバズ・シャリフ前首相は、この外交公電のことが報じられた数日後、地元報道機関に対し、漏洩は「大規模な犯罪」であると述べたが、その内容が真実かどうかについての明言は避けた。しかし、その数日後、シャリフ前首相はガーディアン紙とのインタビューでこの公電の内容が正しいことを認めた。月曜日(8月21日)に暫定首相に政権を引き継いだシャリフ前首相は、「カーン元首相によると(その公電を)持っていたが、紛失した、とのことです。そして今その公電は、ウェブサイト上で掲載されています」と語った。

 シャリフ前首相もブットー・ザルダーリー元外務大臣も、パキスタン軍内部の情報筋からインターセプト紙に提供されたこの外交公電の漏洩にカーン元首相が関与した証拠を提供していない。調査を発表してから1カ月後の水曜日(8月16日)、パキスタン政府は外交公電に関する誤った取り扱いと悪用の疑いでカーン元首相を告訴した。

 シャリフ前首相は、文書の信頼性を確認したにもかかわらず、この公電には、カーン元首相を陥れようとする陰謀について書かれていなかった、と述べた。この公電には、米国の外交官らが、カーン元首相がロシアに対する「積極的中立」を主張していることについて激怒しており、カーン元首相が権力者の座に留まるのならば、パキスタンを「孤立させる」と脅している内容が書かれていたにもかかわらず、である。

 この相矛盾する三主張の展開―①公電が本物かどうかの信頼性を即座に疑問視→②反逆行為に相当する文書漏洩を行ったとしてカーン元首相を非難→③公電の本文には大したことは書かれていなかったとの付言ーが、先週のパキスタンと米国務省の対応を特徴づけるものだ。

 米国側についていうと、国務省は米国がカーン元首相に権力の座から追放するよう圧力をかけたとの同元首相の主張をずっと否定していた。漏洩された公電の内容が暴露された後、米国務省当局者らはインターセプト紙に対し、この外交公電が本物かどうかについては明言できないとしながらも、この公電の内容は、米国がパキスタン政界においてカーン元首相か反対勢力かどちらかの側に立っていることを示すものではない、と主張した。国務省のマット・ミラー報道官はインターセプト紙への声明で、「この公電の内容には、パキスタンの指導者が誰であるべきかについての米国の立場が示されているわけではありません」と述べた。

 記者会見でこの文書についてさらに追及されたミラー報道官は、この公電で交わされていた内容が正しいかどうかを尋ねた記者に対し、「ほぼ正確です」と述べた。

 報道によると、刑務所にいるカーン元首相にかけられる圧力は激しくなるいっぽうだ、という。同元首相は現在汚職容疑で懲役3年の刑で服役中だが、支持者らはこの刑は政治的動機によるものだ、としている。カーン元首相に対する攻撃は、外報公電を漏洩した疑いに対する今週の暴力的な捜査で、最高潮に達した。

 同元首相の支持者に対する広範な弾圧は続いており、元首相の政党への関与や5月に国内で起きた一連の反軍デモに参加した容疑により、今も数千人が拘留されている。

 一方、米国政府は、この弾圧はパキスタン政府の「内部問題」であるという立場を取っているが、カーン元首相の排除を画策したとされるパキスタン軍との関係は継続中だ。

 この公電の開示、そしてカーン元首相がその公電の中身について述べていた内容が真実だったことが明らかになれば、つまり、カーン元首相が権力の座から追放されれば「すべてが許される」という米国務省当局者の発言が真実であることが明らかになれば、パキスタンの政治危機についての風向きが変わる可能性がある。この公電の内容はすでにパキスタンの報道機関で大きな話題となっている。

 カーン元首相自身の政治的運命は現在、軍主導の現政府が同元首相とその支持者に対する復讐をどこまで追求する決意をしているかに大きくかかっている。公電の内容の暴露と、カーン元首相の政党に対する暴力的な弾圧が明らかに軍内部に亀裂を生じさせたことは、カーン元首相が昨年権力の座から追放されて以来、パキスタンを襲っている危機をさらに高めるだけである。
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中央アジアは新しい大いなるゲームにおける主要な戦場

<記事原文 寺島先生推薦>
Central Asia is the prime battlefield in the New Great Game
筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:The Cradle   2023年8月18日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年9月3日


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写真提供:The Cradle


ロシアと中国がこの地域の政治的・経済的支配者であり続ける限り、中央アジアのハートランドは米国とEUの脅威、賄賂、カラー革命の標的であり続けるだろう。

 サマルカンド、ウズベキスタン―歴史的なハートランド、つまり中央ユーラシア―は新たな大いなるゲームとして、アメリカと、戦略的相互関係にある中国・ロシアとの間で既に戦闘状態にあり、今後もその主要な戦場となるだろう。

 元々の「大いなるゲーム」は、19世紀末にイギリス帝国とロシア帝国の対立だった。そして実際に、その対立は消えることはなかった。米英協商対ソビエト連邦の対立へと変わり、その後は米-EU対ロシアの形に転化した。

 1904年に帝国主義的なイギリスによって概念化されたマッキンダーによる地政学的なゲームによれば、ハートランドはまさに「歴史の転換点」であり、21世紀においても過去の世紀と同じくその役割が再び活性化され、多極性の重要な推進要因として新たに浮上した。

 そのため、中国、ロシア、アメリカ、EU、インド、イラン、トルコ、そして日本(その担当範囲はさほど広くはない)など、すべての主要な大国がハートランド/中央ユーラシアで活動しているのは驚くにあたらない。中央アジアのうち4つの「スタン」国が上海協力機構(SCO)の正式メンバーとなっている。つまりカザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、そしてタジキスタンだ。また、カザフスタンのように、近い将来BRICS+のメンバーになる可能性のある国もある。

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中央アジアの地図

 ハートランドにおける影響力を巡る主要な地政学的直接対立は、政治、経済、そして金融の多岐にわたる領域で、アメリカと露中の間で展開されている。

 帝国主義的な手法は、何よりも脅威と最終通告を優先させる。つい4か月前、アメリカの国務省、財務省、外国資産統制局(OFAC)の使節団がハートランドを訪れ、露骨な、あるいは奥歯に物が挟まったような脅しの「贈り物」を携えて各国を回った。その主なメッセージは、いかなる方法であれロシアと協力するか、取引を行う場合、それは二次的な制裁の対象だ、というものだった。

 ウズベキスタンのサマルカンドとブハラでの企業との非公式な会話、そしてカザフスタンにおける非公式な接触からは、次のような傾向が浮かび上がってくる:アメリカは、手段を選ばずにハートランド/中央アジアを銃口で支配しようとするだろう、と誰もが気づいているようだ、ということ。


古代シルクロードの王たち

 ハートランド内で現在の勢力争いを観察するには、サマルカンドという伝説的な「東のローマ」とも言われる場所ほど適した場所はまずない。ここは古代ソグディアナ*の中心に位置しており、中国、インド、パルティア、そしてペルシャの歴史的な貿易の交差点であり、東西の文化的傾向、ゾロアスター教、そしてイスラム前後の動向の極めて重要な結節点だ。
*ソグディアナは、中央アジアのアムダリヤ川とシルダリヤ川の中間に位置し、サマルカンドを中心的な都市とするザラフシャン川流域地方の古名。バクトリアの北、ホラズムの東、康居の南東に位置する地方。現在のウズベキスタンのサマルカンド州とブハラ州、タジキスタンのソグド州に相当する。(ウィキペディア)

 4世紀から8世紀にかけて、東アジア、中央アジア、西アジアの間の隊商交易を独占したのはソグド人だった。彼らは絹、綿、金、銀、銅、武器、香料、毛皮、じゅうたん、衣類、陶磁器、ガラス、磁器、装飾品、半貴石、鏡などを運んだ。巧妙なソグド商人は遊牧王朝の保護を利用して、中国とビザンツ帝国間の貿易に力を入れた。

 歴史的に非常に長いサイクルを論じる中国の能力主義的エリートたちは、上記のすべてを非常によく理解している。それが「新しいシルクロード」として知られ、約10年前に中国の習近平国家主席によってカザフスタンのアスタナで発表されたBRI(一帯一路構想)の背後にある主要な要因だ。北京は西側隣国と再接続し、全ユーラシアの貿易と連結性の向上に向けた必要な経路を計画している。

 北京とモスクワは、ハートランドとの関係に関しては戦略的協力の原則の下で補完的な焦点を持っている。両国は1998年以来、中央アジアとの地域安全保障と経済協力に携わってきた。2001年に設立された上海協力機構(SCO)は、ロシアと中国の共同戦略の具体的な成果であり、ハートランドとの持続的な対話の場でもある。

 中央アジアの「スタン」諸国がそれにどのように反応するかは、多層的だ。たとえば、経済的に脆弱で、安価な労働力の提供者としてロシア市場に強く依存しているタジキスタンは、公式には西側とのあらゆる種類の協力を含め、あらゆる協力を歓迎する「開放(オープンドア)」政策を採っている。

 カザフスタンとアメリカは戦略的な友好関係のための評議会を設立した(最後の会合は昨年末に行われた)。ウズベキスタンとアメリカも2021年末に設立された「戦略的パートナーシップ対話」を持っている。タシケントには、人目を引く商業中心地を通して、アメリカ企業が非常に目立っている。ウズベキスタンの村の角々の店にはCokeとPepsiがあることは言うまでもない。

 EUは、特にカザフスタンで、乗り遅れまいとしている。カザフスタンでは外国貿易の30%以上(390億ドル)と投資の30%以上(125億ドル)がヨーロッパから来ている。ウズベキスタンの大統領シャフカト・ミルジヨエフは、5年前に国を開放したことで非常に人気があり、3か月前にドイツを訪れた際には90億ドルの貿易契約を取得している。

 中国の一帯一路構想が10年前に始まって以来、比較して言えば、EUはハートランド地域に約1,200億ドルを投資した。それは悪くない数字(外国投資の総額の40%に相当する)だ。しかし、それでも中国の取り組みには及ばない。


トルコは、本当は何をしようとしているのか?

 ハートランド地域における(アメリカ)帝国の焦点は、広大な石油とガス資源があるから、予測どおりだが、カザフスタンに置かれている。アメリカとカザフスタンの貿易は、中央アジア全体の86%(額にすれば、昨年でたったの38億ドル)だった。この数字を、アメリカのウズベキスタンとの貿易がわずか7%であることと比較されたい。

 中央アジアの4つの「スタン」国の大半は、SCO(上海協力機構)では「多面的外交」を実践しており、帝国の不要な怒りを引きつけないように努力している、との議論は当を得ている。カザフスタンはその一環として「バランスの取れた外交」を採用しており、これは2014年から2020年までの同国の外交政策構想となっている。

 ある意味で、アスタナ(カザフスタン政府)の新しい標語は、前大統領ヌルスルタン・ナザルバエフの約30年にわたる統治中に確立された「多元的外交」と一部つながっている。カシム・ジョマルト・トカエフ大統領の下で、カザフスタンはSCO(上海協力機構)、ユーラシア経済連合(EAEU)、そして一帯一路構想(BRI)の加盟国だが、同時に(アメリカ)帝国の策略に対して24時間365日警戒しなければならない。結局、2022年初頭のカラー革命の企てからカシム・ジョマルト・トカエフを救ったのは、モスクワとロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の迅速な介入だった。

 中国としては、その投資は集合的なやり方でおこなわれる。この方式は、たとえば、わずか3か月前に開催された中国中央アジア5+1サミットなどの高レベルの会議で確立されている。

 それから、テュルク諸国機構(OTS、以前はテュルク評議会として知られていた)という極めて興味深い事例もある。これはトルコ、アゼルバイジャン、および3つの中央アジアの「スタン」(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギススタン)を結ぶ組織だ。

 このテュルク諸国機構(OTS)の主要な目標は、「テュルク語を話す諸国間の包括的な協力を促進すること」だ。しかし、実際のところ、ハートランド地域ではトルコ製品を宣伝する、たまに見かける広告看板以外にはほとんど目に見える成果はない。2022年春にイスタンブールの事務局を(私が)訪れた際、具体的な回答は得られなかった。「経済、文化、教育、交通などの事業計画」や、さらに重要なこととして「関税」についての漠然とした言及はあったのだが。

 昨年11月、サマルカンドで、テュルク諸国機構(OTS)は「簡略化された関税回廊の設立に関する協定」に署名した。だからと言って、ハートランド地域全体に小規模なシルクロードを形成することができるかどうかを語るのはまだ時期尚早だ。

 それでも、彼らが次に何を考え出すかに注目することは有意義だ。彼らの憲章は「外交政策問題について共通の立場を開発すること」、「国際テロリズム、分離主義、過激主義、および国境を越える犯罪との戦闘のための行動の調整」、そして「貿易と投資のための有利な条件を作成すること」を最優先にしているからだ。

 トルクメニスタンは、その絶対的な地政学的中立を強く主張する特異な中央アジアの「スタン」だ。たまたまテュルク諸国機構(OTS)の傍聴人(オブザーバー)国だ。また、注目すべきはキルギスの首都ビシュケクに拠点を置く遊牧文明センターだ。


ロシア‐ハートランドの謎を解く

 欧米の対ロシア制裁は、ハートランドの多くの国に利益をもたらす結果となった。中央アジアの経済はロシアと密接に結びついているため、輸出は急増した。ちなみに、その量はヨーロッパからの輸入量と同じだ。

 ロシアを去ったかなりの数のEU企業がハートランドに再び腰を落ち着けた。それに伴い一部の中央アジアの大富豪たちがロシアの資産を買収する動きがあった。同時に、ロシアの軍隊の動員が進行しているため、ほぼ間違いなく何万人もの比較的裕福なロシア人がハートランドに移住した。他方、さらに多くの中央アジアの労働者が、特にモスクワとサンクトペテルブルクで、新しい仕事を見つけた。

 例えば、昨年、ウズベキスタンへの送金は160億9000万ドルに急増:そのうち85%(約145億ドル)はロシアで働く労働者からのものだった。欧州復興開発銀行によれば、ハートランド地域全体の経済は2023年には好調な5.2%、2024年には5.4%成長する見込みだ。

 この経済的活況はサマルカンドでも一目瞭然だ。サマルカンドは今日、巨大な建設と修復の現場となっている。完璧に新しい、巾広い大通りがどこにでも現れ、緑豊かな景観、花々、噴水、広い歩道が備わっており、すべてがきれいに清掃されている。浮浪者も路上生活者(ホームレス)も麻薬中毒者もいない。衰退した西側の大都市からの訪問者は目を丸くしている。

 タシュケントでは、ウズベキスタン政府が壮大で見事なイスラム文明センターを建設中であり、汎ユーラシアのビジネスに大きな重点が置かれている。

 ハートランド全体での主要な地政学的方向性は、ロシアとの関係であることは疑いの余地がない。ロシア語はあらゆる生活の領域で依然として共通語となっている。

 まず、ロシアと7,500キロにわたるとてつもなく長い国境を共有している(それにもかかわらず国境紛争はない)カザフスタンから始めよう。ソビエト連邦時代、中央アジアの5つの「スタン」国は、実際には「中央アジアとカザフスタン」と呼ばれていた。なぜなら、カザフスタンの大部分が西シベリアの南部に位置し、ヨーロッパに近いからだ。カザフスタンは自己を本質的にユーラシアと考えており、ナザルバエフ時代からアスタナ(カザフスタン政府)がユーラシアとの統合を最優先にしていたのも驚くべきことではない。

 昨年、サンクトペテルブルク経済フォーラムで、トカエフ大統領はロシアのプーチン大統領に対面し、アスタナはドネツクとルガンスク人民共和国の独立を認めないことを伝えた。カザフスタンの外交官は、ドネツクとルガンスクが西側の制裁を回避するための通路として機能させるわけにはゆかないと強調し続けている。しかし影では、多くの場合、そのようなことは起こっている。

 キルギススタンは昨年10月に予定されていたCSTO(Collective Security Treaty Organization集団安全保障条約)の「強固な兄弟愛-2022」共同軍事演習を中止した。この場合の問題はロシアではなく、タジキスタンとの国境問題であることを述べておく価値がある。

 プーチンは、ロシア‐カザフスタン‐ウズベキスタンのガス連合を設立する提案をした。現時点では何も進展しておらず、実現しないかもしれない。

 こういった後退はすべて些細なものだと見なす必要がある。昨年、プーチンはしばらくぶりに中央アジアの5つの「スタン」国を訪問した。中国と同様に、彼らは初めて5+1サミットを開催した。ロシアの外交官やビジネスマンたちはハートランドの道を常に行き交っている。そして、忘れてならないのは、昨年5月、モスクワの赤の広場で行われた「戦勝記念日」パレードに、中央アジアの5つの「スタン」国の大統領たち自らが出席していたことだ。

 ロシア外交は、中央アジアの「スタン」国をロシアの影響から引き離すという(アメリカ)帝国の大きな執念についてすべてを知っている。

 これ(ロシアの動き)は、公式の米国中央アジア戦略2019-2025を遥かに超えたものだ。アフガニスタンでの米国の屈辱と迫りくるウクライナでのNATOの屈辱により、その状況はヒステリー状態に達している。

 今日記憶している人はほとんどいないが、エネルギー分野の重要な前線において、トルクメニスタン-アフガニスタン-パキスタン-インド(TAPI)パイプライン(その後、インドの撤退によりTAPに縮小)は、アメリカ(強調は筆者)の新シルクロードの優先事項であり、2011年に国務省で考案され、当時の国務長官ヒラリー・クリントンによって提唱されたものだ。

 それは絵に描いた餅だった。最近、アメリカ人が何とか実現させたのは、競合する事業計画であるイラン・パキスタン(IP)パイプラインの開発を終わらせたことだ。イスラマバード(パキスタン政府)に無理矢理それを取り消させたのは、前首相イムラン・カーンをパキスタンの政治生活から排除するための法律闘争スキャンダルの後だった。

 それにもかかわらず、TAPI-IPパイプラインスタンの物語はまだ終わっていない。アフガニスタンは米国の占拠から自由であるので、ロシアのガスプロム社や中国の企業もTAPIの建設に非常に興味を持っている。このパイプラインは、中央アジアと南アジアの交差点に位置し、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)と結びつく戦略的な一帯一路(BRI)の結節点となるだろう。


全体として「異星人」西側

 ロシアがハートランド全体で通用することは知られている(将来もそうだろう)。同様に中国の打ち出す構想も持続可能な発展の例としては最高のものだ。中央アジアが抱えるさまざまな固有の問題への解決策を鼓舞する力がある。

 対照的に、(アメリカ)帝国が提供できるものは何だろうか?一言で言えば、分割統治だ。ISIS-Khorasan*などの地域のテロ組織を利用して、最も弱い中央アジアの地域、たとえばフェルガナ渓谷からアフガン・タジク国境までの地域において政治的な不安定化を引き起こすのだ。
*アフガニスタンを中心に活動するイスラム原理主義の軍事組織、テロ組織。 (ウィキペディア)

 ハートランドが直面する複数の課題は、バルダイ中央アジア会議などで詳細に議論されている。

 バルダイクラブの専門家、ルスタム・ハイダロフは、西側とハートランドとの関係について最も簡潔な評価を打ち出したのかもしれない:

「文化や世界観の面で、西側諸国とは私たちとは異なります。アメリカと欧州連合、中央アジアとの関係や和解の基盤となるような現象、出来事、または現代文化の要素は一つもありません。アメリカ人とヨーロッパ人は、中央アジアの人々の文化、精神、または伝統について何も知りませんので、私たちとの交流はできませんし、これからもできないでしょう。中央アジアは、経済的繁栄を西側のリベラル民主主義と結びつけることはありません。それは実質的にはこの地域の国々にとって異質な概念です」。

 このシナリオを考慮し、日ごとにますます熱烈になる新しい大いなるゲームの文脈で、ハートランドの一部の外交団が、中央アジアをBRICS+により緊密に統合することに非常に興味を持っているのは驚くことではない。それは来週南アフリカで行われるBRICSサミットで議論される予定のことだ。

 この戦略的な方程式は、ロシア+中央アジア+南アジア+アフリカ+ラテンアメリカといった形で表現され、再び「グローバル・グローブ」(ルカシェンコの言葉を借りれば)の統合の一例だ。すべては、カザフスタンがBRICS+の参加国として初めて受け入れられることから始まるかもしれない。

 その後、再活性化されたハートランドの帰還は、交通、物流、エネルギー、貿易、製造、投資、情報技術、文化、そしてシルクロードの精神、新旧を問わず、「人々の交流を通じて」、世界全体が舞台となる。
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