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ケネディ・ニクソン・トランプ。厄介な大統領たちは排除されてきた。

<記事原文 寺島先生推薦>

How Troublesome Presidents Are Disposed of

出典:ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)のブログ

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2023年1月21日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月31日

 タッカー・カールソンは、優れた12分間のニュース記事を出してくれた。内容は、CIAがケネディ大統領とニクソン大統領を排除した手口についてだった。読者の皆さんには、この動画を、2~3度見ることをお勧めする。そうすれば、中身がぐっとよくわかり、すべての友人や親戚に伝えられるようになると思うからだ。この12分の動画ほど、しっかりとしていて、重要な情報を教えてくれるものはどこにも存在しないだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=MgXq8S02NJc

 カールソンは、バイデンはもはや支配者層からは役立たずだと思われていて、現在排除される方向にあると考えているようだ。

 私はもう何十年も前から、ケネディとニクソンという両大統領の大統領職からの追放劇について書いてきた。だからこそ、私はわくわくした気持ちになったのだ。というのも、これらの事件から半世紀も経ったいま、タッカー・カールソンが、私が説明してきたことと同じ内容をこんな多数の視聴者に向かって説明してくれたのだから。米国民が目を覚まし、深くこの事件について目を向けるのであれば、我が国と米国民の自由を救うことはまだ不可能ではないだろう。

 ジョン・F.ケネディ大統領は米国統合参謀本部により殺害されたのだが、それはケネディが、自分が長をつとめている政府は真の政府ではないことに気づいてしまったからだった。ケネディの前職のアイゼンハワー大統領は、軍の元帥をつとめていたのだが、そのアイゼンハワーはこんな警告をしていた。それは民主主義のもとでの政府という存在が、軍産複合体により脅(おびやか)されているというものだった。ケネディ大統領はその状況に関して何らかの手を打つ意図を持っていた。当時は、大統領にはまだ権力があったからだ。しかしケネディは、様々なことを起こす前に倒されてしまい、CIAのアレン・ダレス長官と米国統合参謀本部議長のライマン・レムニッツアー大将を更迭することしかできなかった。しかもケネディ大統領は、レムニッツァー大将を排除しきることはできず、同大将はNATOの連合軍最高司令官に転任した。このダレスとレムニッツァーは両者とも、ケネディ殺害工作を指揮したと考えられている。

 米国史上において、ニクソン大統領ほど博識で、また他の国々から尊敬された大統領はいないだろう。同大統領は、他国の指導者たちとよく連絡を取り、歴史上の事実や現在起こっていることについての見識が深かった。しかしニクソン大統領も、ケネディやトランプ同様、大統領が持つ権力を高く見積もりすぎていた。ニクソンも軍産複合体から怒りを買ってしまったのだ。それはニクソンがソ連と軍縮で同意し、中国との国交を開いたからだ。私が1月19日の以下の拙論で再度触れた通りだ。https://www.paulcraigroberts.org/2023/01/19/washington-has-resurrected-the-threat-of-nuclear-armageddon/

 ケネディ大統領の暗殺は内部犯行であったのに、CIAの手先である各報道機関やウォーレン委員会が隠蔽したことがあまりに明白であったので、CIAはニクソンの際は、大統領を殺害するという手段には出られなかった。そのかわりに使った手口は、ワシントンポスト紙の記者に大統領抹殺工作の一翼を担わせるというものだった。ワシントンポストといえば、長年CIAの手先をしてきた新聞社だ。この記者が「ウォーターゲート」事件に関してニクソン大統領が捜査を受けたことを初めて報じ、この事件は、ニクソンを大統領府から追い出す口実に使われた。ニクソン大統領は、その前の大統領選挙において、米国史上最大の得票率をとっていたのにも関わらず。

 不動産業界の大物であるドナルド・トランプは、ワシントン当局のことや、当局の真の支配者について何も知らなかった。トランプは、ロシアとの関係の正常化を主張していたのだが、その主張がCIAと米国の影の支配層を敵に回すことになるとは思っていなかったようだ。そうして再び、報道機関が、トランプ追放の手先に利用されたのだ。それが、「ロシアゲート」であり、トランプに対する二度の弾劾訴追であり、「1月6日の議会議事堂襲撃事件」であり、現在渦中にある「ドキュメント・ゲート(機密文書持ち出し疑惑)」だ。

 大統領は、大統領警護部隊からも守られてはいない。観光客が撮影した動画にはっきりと映っているとおり、ダラスでケネディ大統領が乗っていた屋根のないリムジンの脇にいた大統領警護部隊は、上司から呼び出され、その場から離れた。この動画に、一人の警護人がその命令に抵抗していた様子が映っていた。そして、この動画を見れば、警護部隊が排除されたすぐ後に、ケネディが前方からの狙撃により、その銃弾が頭を通過し、殺害されたことがわかる。さらにこの動画によると、ケネディ婦人がリムジンの後ろから手を伸ばし、ケネディが撃たれた頭の後ろをつかもうとしていた。

 こんな否定できないはっきりとした証拠があるのにもかかわらず、ウォーレン委員会は、ケネディはオスワルドにより後方から撃たれたという判断を出した。そしてこのオスワルドとは、CIAが大統領殺害の責任を一身に背負わせるべく用意した偽の下手人だった。そしてそのオスワルドは、証言を行い、尋問を受ける前に、オスワルドは警察により収監中に、ジャック・ルビィ(ジャコブ・レオン・ルーベンザイン)により殺害された。このルビィは現在所在不明であり、彼は、警察により銃を所持した上でオスワルドの隣にいることを許されていた。

 お人好しな米国民のほとんどは、こんなありえない説明にまんまとひっかかってしまったのだが、知識階級の人々にはそうはいかなかった。だからこそCIAは、ニクソンに対してはケネディに行ったような物理的な殺人は犯さなかったのだ。CIAの手口は、配下のワシントン・ポスト紙を使って、ニクソンを政治的に抹殺することだった。それと同じやり方を、連中はドナルド・トランプを排除するときにも使っていた。

 米国民が、「自分は民主主義国家で生活している」と考えるのであれば、それはどうかしている。米国民はこれまで何度も簡単に騙され続けてきた。そんな国民だからこそ、自国と自由と希望を失ってしまったのだ。米国において、この3つは世界に誇れるものだったのに。

 いったいどれだけの米国民が、もはや自分たちが自由な国に住んでおらず、正体さえわからない人々に支配された下僕に成り下がっていることを理解できているのだろうか? 選挙など、見せかけの欺瞞に過ぎない。国民が選びたいと思っている人は決して大統領府には入れない。そして、大方の予想にたがえて大統領府に入った者(例えばトランプ)がいたとしても、排除されてしまう。

 米国市民の自由を創設してくれたトーマス・ジェファーソンは、自由は200年以上生きながらえることはできず、永続させるためには、流血の革命による再生が必要だと私たちに警告していた。

 私がこれまで生きてきた人生の中で、「自由」の意味はすっかり変わってしまった。米国創設の父たちが言っていた自由はもはや存在しない。これらの創設の父たちは、いまや「人種差別主義者だ」と非難されているありさまだ。彼らが言っていた自由とは、抑圧的な政府に対抗できるような自制力であり自由だった。今の自由は、黒人が商店から商品を略奪しても罰せられない自由であり、政府とその手下である報道機関が、真実や表現の自由や結集の自由を検閲し抑制できる自由であり、政府が自由権を行使した市民を、「暴動者」として、逮捕し投獄できる自由であり、政府とその手下である報道機関が、真実を語るものたちは「民主主義の脅威」であり、「偽情報」を拡散したとして有罪にできる自由であり、巨大製薬会社が定めた治療手順に反する治療法を使って患者を治療しようとする医師の免許を取り消すことができる自由になってしまった。

 ここ数十年のうちに生まれた人々には、今の米国がどれだけ崖っぷちに追いやられた状況なのかはわからないだろう。しかし、まだ本当の米国が存在した時代を生きた人々にとっては、そう映っている。 そして私たちの世代が死に絶えれば、かつての米国の姿を知る生存者は誰もいなくなってしまうだろう。
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ウィキリークスの公表した公電(複数):「NATOの意図は、ロシアが設定したレッドラインをすべて越えることだった。」

<記事原文 寺島先生推薦>

WikiLeaks Cables Reveal NATO Intended to Cross All Russian Red Lines

筆者:ドラゴ・ボスニック(Drago Bosnic)

INTERNATIONALIST 360

2023年1月20日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月31日

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「ウクライナはロシア包囲網を完成させる最後の砦」

 この1年近く、西側メディアの巨大なプロパガンダ・マシンは、「ロシアのウクライナにおけるいわれのない侵略」というシナリオを信じるように視聴者を操作してきた。その「報道」を大まかにまとめると、次のようになる。「2月24日、血に飢えたクレムリンの独裁者プーチンは朝から機嫌が悪く、これから夜明けを迎えようとしているキエフの自由と民主主義を攻撃することにした」。これは事実上すべての西側主流メディアが語らなければならないことであり、これに疑問を投げかけようと少しでも考えれば、即座に「取り消し」となる。「専門家」を装った宣伝マンたちは、数十年にわたる容赦ないNATOの拡張をロシアの反応とは無関係なものとして提示する任務を負って、政治トークショーに殺到した。表記

 ウィキリークスは、創設者ジュリアン・アサンジへのひどい仕打ちを含め、アメリカが10年以上にわたって閉鎖しようとしてきた組織だが、西側マスメディアが言っていることが現実からかけ離れているわけではないことを示す秘密公電(複数)を公開した。データによると、アメリカの高官はNATOの拡大がモスクワに与えた不満に気付いていただけでなく、それがロシアの反応につながるとさえ直接言っていた。アメリカはしばしば、現在の危機はプーチンの「ロシア帝国再建」の欲望の結果だと主張するが、ウィキリークスは、ワシントンDCに自滅的に従ったことで悪名高い彼の前任者ボリス・エリツィンでさえ、NATO拡大に警告したことを明らかにしている。

 約30年間、米国の歴代政権は、ウクライナのNATO加盟がモスクワにとって最後の藁となることを明確に警告してきた。数多くのロシア政府高官が、この深く分裂した旧ソ連の国を不安定にすると警告し続けた。こうした警告は公私ともに行われ、他のNATO加盟国や地政学の専門家、ロシアの野党指導者、さらにはモスクワの米国大使を含む一部の米国外交官からも繰り返し聞かれた。エリツィンはかつて、ビル・クリントン元大統領に、NATOの拡大は「もしそんなことをすれば、ロシアにとって屈辱以外の何物でもないのですよ」と語ったことがある。ユーゴスラビアへの侵略で悪名高いクリントンはこの警告を無視し、「東には一歩も行かない」約束してから10年も経たない1999年には、東欧の大半がNATOに加盟していたのである。

 このような侵攻にもかかわらず、プーチンは西側諸国との政治的関係を緊密にしようとし、START IIを批准し、NATOへの加盟を申し出さえしている。これに対してアメリカは、主要な軍縮条約からの一方的な離脱と、モスクワの地政学的裏庭となる国でのカラー革命で対抗した。2000年代半ばには、ロシアはその南と西の国境に、アメリカが支援する二つの敵対的な政権(ジョージアとウクライナ)に挟まれるようになった。NATOの主要加盟国であるドイツやフランスは、こんなことをすればモスクワの反応が必ずある、と警告していた。2005年9月のWikiLeaksが公開した公電にはこうある

 「フランス大統領顧問のモーリス]・グルドーモンターニュは、ウクライナのNATO加盟問題はモスクワにとって極めて敏感な問題であると警告し、ヨーロッパで戦争の原因となりうるものが残されているとすれば、それはウクライナであると結論づけた。ロシア政権の中には、我々が彼らの中核的な関心領域でやりすぎていると感じているものもいる。そのため、ロシアが1968年にプラハで見せたような動きを開始し、西側が何をするか見るかもしれないと考える向きもあった 」とある。

 WikiLeaksはさらに、ドイツ政府高官がNATOのジョージアとウクライナへの進出に対するロシアの反応、特に後者について同様の懸念を繰り返していたことを明らかにしており、外交官ロルフ・ナイケル(Rolf Nikel)は次のように述べている

 ジョージアは「熊の皮の上の虫」に過ぎないが、ウクライナは988年のキエフ大公国のウラジーミルに1世にまで遡る、ロシアとは切っても切れない関係にある。2008年1月付けの別の公電では、「イタリアはNATO拡大の強力な擁護者」だが、「ジョージアの統合を急ぐことでロシアを刺激することを懸念している」と書かれている。ノルウェーのヨナス・ガール・ストーレ首相も同様の発言をしたと、2008年4月の公電に書かれている。ロシアはNATOに発言権を持つべきではないと考えているにもかかわらず、「NATO拡大に対するロシアの反対を理解し、同盟はロシアとの関係を正常化するために努力する必要がある」と発言した。

 米国では、政府高官の中にもほぼ同じ評価を下す者がいた。ウィキリークスは、こうした警告をワシントンDCに提示したのは、他ならぬ元駐ロシア米国大使と現CIA長官であったウィリアム・バーンズだったことを明らかにしている。2007年3月の公電によると、バーンズはこう述べている:

 「NATOの拡大とアメリカのミサイル防衛は、ロシアが包囲されることへの古典的な恐怖を煽るものだ」。その数ヶ月後、彼はこう述べた。「ウクライナとジョージアの(NATO)加盟はロシアにとって「考えられない」苦境を意味し、モスクワはジョージアで十分な問題を引き起こし、ウクライナでNATO加盟を阻止するための政治的混乱を継続させるだろう 」。興味深いことに、バーンズはまた、ロシアと中国が以前より緊密な関係になったのは、大部分が「米国の『悪い』政策の副産物」であり、そういう中露関係は「継続するNATOの拡大が、中露をさらに接近させなければ」ずっと維持できなかったと述べている。

 2008年2月のバーンズの言葉

 「専門家によれば、ロシアはNATO加盟をめぐるウクライナの強い分裂を特に懸念しており、ロシア系住民の多くが加盟に反対している。そうなれば、ロシアは介入するかどうかを決めなければならない。その決断は、ロシアが向き合いたがっていない決断である」。

 2008年3月の別の公電では、「NATOのウクライナとジョージアの拡大に反対することは、ロシアの政策立案者、専門家、情報通の人々の間でほぼ完全に合意が得られている数少ない安全保障分野の1つである」と記されていた。ある国防専門家は、「ウクライナはロシアの包囲網を完成させる最後の砦」であり、「ウクライナのNATO加盟を、ロシアの政治エリートたちはすべて非友好的行為と捉えられていた」と述べている。他の数十の公電でも、NATOの侵攻が続けばロシアの外交政策が激変すると、ほぼ同じ評価をしている。

 しかし、大多数の米政府関係者は、政権に関係なく、すべての警告をただ否定し、「よく耳にする、古くさい、新しいものはない、大体予想がつく、おなじみの羅列、焼き直しで新しい内容はほとんどない」と繰り返し述べていた。驚くべきことに、前述した、モスクワの異議に対するノルウェーの理解に対してさえ、「ロシアの言い分を鸚鵡返ししたもの」とのレッテル貼りをした。多くのドイツ政府関係者の警告が、①ウクライナ国内の東西分裂は(ウクライナを)NATOに加盟させようと考えただけでも「危険」なことになるし、②「ウクライナを分裂させる」可能性がある、だった。一方アメリカ政府関係者は、これは一時的なもので、時間とともに変化していくと主張した。

 そして実際、政治的な西側諸国は、ウクライナを熱烈なロシア嫌いの国にするために数千億ドルを投資し、事実上、モスクワに照準を合わせた巨大な軍事的踏み台にしたのである。NATOは定期的に演習を行い、軍を広範囲に配置した。ロシアが反攻を開始した当時、同国に少なくとも複数の陸軍・海軍基地を建設中で、それを恒久化する計画さえあった。2019年、米国防総省が出資する有名なシンクタンク、ランド・コーポレーションは、ロシアに過度の負担をかける戦略の考案に焦点を当てた報告書を発表した。その一部を紹介する:

 「ロシアへの直接的な軍事攻撃に対するクレムリンの不安は非常に現実的で、その指導者を軽率で自滅的な決断に駆り立てる可能性がある・・・・ウクライナにさらに米国の軍事装備と助言を提供すれば、モスクワは新たな攻撃を仕掛け、さらにウクライナの領土を奪うことによって反応することになりかねない」。

 ウクライナ危機は包括的な対ロシア侵略の一区分であるというモスクワの主張を退けるのは、政治的な西側諸国から資金提供を受けている機関そのものが、現在の出来事は何年も、あるいは何十年も前に計画されていたと公然と認めている以上、かなり困難であると言えるだろう。そして、万が一、あり得ないことが起こり、ユーラシアの巨人(ロシア)が降伏し、西側の圧力に屈することになったら、アメリカ主導の世界に対する侵略はどこで止まるのだろうか。さらに悪い事態は、どれほどの時間をかければ、大惨事が発生してアメリカ主導の世界侵略を止めることになるのだろうか、ということだ。
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「プーチンは西側を読み誤った。彼が気づかなければハルマゲドンは近い」(P.C.ロバーツ)

<記事原文 寺島先生推薦>

“Putin Has Misread the West (And) if He Doesn't Wake Up Soon, Armageddon Is Upon Us”

ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)へのインタビュー
聞き手は、マイク・ホイットニー(Mike Whitney)

出典:グローバル・リサーチ(Global Research)

2022年12月20日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月17日 (管理人:誤って削除したため1月30日付けで再掲載しました。)

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 マイク・ホイットニー:あなたの考えだと、プーチンは戦争を早く終わらせるために、最初からもっと強力に軍事力を行使すべきだった、ということですね。それはあなたの意見として間違いありませんか? そしてあなたの意見がそうなら、終わりの見えないこの紛争を長引かせることの不都合な点は何だと思われますか?

 ポール・クレイグ・ロバーツ:ええ、あなたは私の立場を正確に述べてくれました。しかし、CNNを見たり、NPR*を聞いたり、ニューヨーク・タイムズを読んだりしている、洗脳された多くの人々にとって、私の立ち位置は「非アメリカ的」に見えるかもしれませんので、私の答えを述べる前に、私の背景を少し説明しましょう。 *米国公共ラジオ放送

 私は、20世紀の冷戦にさまざまな形で関わってきました:
① ウォールストリートジャーナルの編集者として、
② 当時、ジョージタウン大学の一部門であった戦略国際問題研究センターの寄附講座教授として。同僚には、国家安全保障顧問兼国務長官のヘンリー・キッシンジャー、国家安全保障顧問のズビグニュー・ブレジンスキー、そしてバージニア大学大学院で私の指導教授の一人だった国防長官兼CIA長官のジェームズ・シュレジンジャーがいました。
③ 冷戦時代の「現在の危険に関する委員会」のメンバーとして。
そして、
④ レーガン大統領の冷戦終結計画に対するCIAの反対について調査する権限を持つ大統領秘密委員会のメンバーとして。

 このような経歴を持つ私が、ロシアのプーチン大統領がアメリカの覇権を否定したことについて客観的な立場をとったとき、「PropOrNot」(適切か否か)というウェブサイトで「ロシアのカモ/スパイ」というレッテルを貼られていることに驚きました。このサイトは、アメリカ国務省、全米民主化基金、あるいはCIAそのものが資金を出した可能性があります。私がレーガン大統領の冷戦終結を助け、それによってCIAの予算と権限を縮小させた昔の恨みを忘れてはいなかったのですね。今でもCIAの私への行動はその真意を測りかねています。CIAは私を招いてCIAで演説させたのです。私は演説をしました。CIAの推論がなぜ間違っているのかの説明もしました。

 しかし、私の考えでは、最後は核のハルマゲドンに終わりかねない現在のゲームにおいて、プーチンは最も誠実なプレーヤーであり、おそらく最もお人好しなプレーヤーです。私の目的は、核のハルマゲドンを防ぐことであり、どちらかの側につくことではありません。レーガン大統領が「あの忌まわしい核兵器」を憎み、「目的は冷戦に勝つことではなく、それを終わらせることだ」と指示したことをよく覚えています。

 さて、マイクの質問ですが、これは的を射ています。プーチンを理解するためには、おそらく、生活、つまり、西側諸国がソ連に生活をどのように紹介したか、を思い出す必要があるでしょう。そして、ソ連に向けたアメリカの放送では、通りには金が敷き詰められ、食品市場には考えられる限りの美味なものがある西側の生活の自由を紹介しています。

 そのため、全員とは言わないまでも、多くのソ連人の心の中に、ロシア人のいる地獄に比べれば、西側世界の生活は天国であるという思いが生まれたのかもしれません。1961年、ウズベキスタンでバスに乗っていた時、肉の配達トラックが現れたのを覚えています。すべての車がそのトラックに続きました。配達店にはすでに数ブロックの長蛇の列ができていました。そんな光景をアメリカのスーパーマーケットの様子と比較すれば、西側の優位性は際立っています。ロシア人の西側への憧れがプーチンの気持ちを抑制していたことはほぼ間違いありません。プーチン自身、当時のアメリカとソ連の生活の違いに影響を受けているのです。

 プーチンはすぐれた指導者であり、人間的です。たぶん人間的すぎるのです。彼が直面している悪に対しては。プーチンはやりすぎではなく、やりなさすぎ、という私の立ち位置を見る一つの方法は、イギリスのチェンバレン首相が挑発に次ぐ挑発を受け入れてヒトラーを奨励したと非難された第二次世界大戦の時代を思い出すことです。私自身は、この歴史は誤りだと考えていますが、今でもそれが正しかったと考えている人は多いのです。プーチンは、いろいろな挑発をそのままにしています。実力行使はしないが、レッドライン(譲れない一線)を宣言しているにもかかわらず、です。その結果、彼の敷いたレッドラインはだれも信じていません。ここに一つの報告があります。

 RT、12月10日の記事です:
「米国はウクライナに、ロシア領内の標的に対する長距離攻撃を許可したと、タイムズ紙が情報筋として、12月8日(金)に報じた。このような攻撃が紛争をエスカレートさせることへの懸念を薄れさせ、国防総省は、この問題に対する姿勢を変えたようだ」と報じています。

 言い換えれば、プーチンは何もしないことで、ワシントンとそのヨーロッパの傀儡国家に、プーチンの言うことは本心ではなく、さらにひどい挑発行為でも際限なく受け入れる、と確信させています。それは制裁からウクライナへの西側の資金援助、武器供給、訓練、標的情報、ロシア国内を攻撃できるミサイルの提供、クリミア大橋への攻撃、ノルトストリーム・パイプラインの破壊、ロシア兵捕虜の拷問、ロシア連邦に再編入したウクライナ領ロシアへの攻撃、ロシア国内への攻撃と続いているのです。

 ある時点で、挑発がやりすぎてしまう。そのときがSHTF*です。
*Shit hits the fan(うんちが扇風機にあたる)の頭文字をとったもの。「大変な事態になったら」「秘密が公になったら」の意味。

 プーチンの目標は、戦争を回避することでした。したがって、ウクライナにおけるプーチンの限定的な軍事目標は、ドンバスからウクライナ軍を追い出すことであり、それは限定的な作戦でした。ウクライナの戦争基盤をそのままにして、西側から最新兵器を受け取って配備し、プーチンが紛争に投入した非常に限られた兵力をもたせたまま、より防御しやすいラインまでロシアを強制的に撤退させることができるという限定作戦でした。ウクライナの攻勢は、ロシアが敗北する可能性があることを西側に確信させ、この戦争をワシントンの覇権を阻む障害としてのロシアを弱体化させる主要な手段としました。英国の新聞は、クリスマスまでにウクライナ軍がクリミアに到着すると宣言しました。

 プーチンに必要だったのは、ロシアがウクライナの違反したレッドラインを完全に明確にするような素早い勝利でした。ロシアの軍事力を示すことで、すべての挑発行為を止めることができたでしょう。退廃的な西側諸国は、熊に手出しをしてはいけないことを学んだことでしょう。それとは真逆なことが起きました。クレムリンは西側諸国を読み誤り、ミンスク協定に8年を費やしたのです。この協定のことをドイツのメルケル元首相は、ロシアが容易に成功できたのに行動を起こさせないための欺瞞だったと述べています。プーチンは今、米国がウクライナ軍を創設する前にドンバスに介入しなかったのは自分のミスだったと私に同意しています。

 マイクの質問に対する私の最後の言葉は、プーチンは西側諸国を読み違えたということです。プーチンは、西側諸国の「指導者」の中に、間違いなくプーチンの利益のためにその役割を果たし、交渉できる合理的な人々がいるとまだ思っています。プーチンはウォルフォウィッツ・ドクトリンを読むべきなのです。プーチンがすぐに目を覚まさなければ、ハルマゲドンがやってきます。ロシアが降伏すれば話は別ですが。

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関連記事:核戦争は「心地よさのために近づきすぎている」。ジョー・バイデン、米国が "非核の脅威に対して核兵器を使用する "と発表

MW:私は、あなたがここで言っていることの多くに同意します。特に、ここです:
「プーチンは何もしないことで、ワシントンとそのヨーロッパの傀儡国家に、自分の言うことは本心ではなく、ますます悪化する挑発行為を際限なく受け入れると確信させています。」

 おっしゃる通りこれは問題です。しかし、それについてプーチンに何ができるか私にはわかりません。例えば、ロシア領内の飛行場に対するドローン攻撃。プーチンはポーランドの補給路を爆撃することで応戦するべきだったのでしょうか。それはフェアな対応に思えますが、NATOの報復やより広範な戦争を起こす危険性もあり、それがロシアの利益にならないことははっきりしています。

 プーチン大統領がまず500,000 人の戦闘部隊を配備し、キエフに向かう途中で多くの都市を平定していたら、おそらくこれらの引火点に直面することはなかったでしょう。しかし、いいですか、この戦争に対するロシアの世論は、当初は複雑でした。そして、ワシントンがロシアを敗北させ、ロシア政府を転覆させ、国境を越えて力を発揮できないほど弱体化させることを決定したことが明らかになるにつれ、はじめて、支持率が上昇したのです。プーチンの支持率が79.4%で、戦争への支持はほぼ100%であるのも、大多数のロシア国民が米国の意図を理解しているからです。私の考えでは、プーチンは戦争を維持するためにこの規模の支持が必要であり、従って、追加出動を延期したことはむしろプーチンに有利にさえ働いています。

 さらに重要なことですが、プーチンがこの対立の中で理性的なプレーヤーであると認識されなければなりません。これは絶対に必要なことです。プーチンは、国際法の範囲内で自制して行動する、慎重かつ合理的な行動者であると見なされなければなりません。そうでなければ、中国やインドなどの継続的な支持を得ることはできないでしょう。多極化した世界秩序を構築するためには、連合体の構築が必要です。それは衝動的で暴力的な行動によって損なわれてしまいます。そのことを忘れてはなりません。つまり、プーチンの "go-slow "アプローチ(あなたの言葉です)は、実は正しい行動だと思うのです。もしプーチンが海へ向かう道でシャーマン戦車*のようにウクライナを蹂躙して縦断していたら、新しい秩序を構築するために必要な制度や経済インフラを整備してくれる重要な同盟国を失っていたでしょうから。
*第2次大戦中アメリカが使った4人乗りで75mm砲を持つ中型戦車。(英辞郎)

 そこで、あなたに質問です。ロシアの勝利とはどのようなものでしょうか?ウクライナ軍をドンバスから追い出すだけなのか、それともロシア軍がドニエプル川以東をすべて掃討するのか?また、ウクライナの西部はどうでしょうか。西側地域が瓦礫と化したとしても、米国とNATOが対ロシア戦争の発射台として使い続けるならどうでしょう?

 私は、この先何年も戦闘が続くシナリオはたくさん想像できますが、外交的解決や休戦で終わるシナリオはほとんどないと思います。あなたはどう思いますか?

 ポール・クレイグ・ロバーツ: マイク、プーチンがなぜウクライナ紛争に対してあのような接近法を取るのか、その理由を、あなたははっきりさせたのだと思います。でも、私はプーチンが自分のアプローチに自信を失いつつあると思います。戦争に接近する際の注意は不可欠です。しかし、戦争が始まると、敵が同盟国とその支持を得る見込みがある場合は特に、迅速に勝利しなければなりません。プーチンが用心し過ぎたせいで、ロシアのドンバス救出を8年遅らせ、その間にワシントンがウクライナ軍を創設して装備し、クリミアのように2014年に簡単に救出できたはずのものが、1年になんなんとする現在の戦争に変わってしまったのです。プーチンが戦争に慎重であったために、ワシントンと西側メディアは、プーチンに不利な物語を作って、状況を支配し、アメリカとNATOは直接参加して戦争を拡大するための十分な時間を得ました。今ではラブロフ外相がそれを認めています。戦争は、ロシア自身への直接攻撃へと拡大しています。

 これらのロシアへの攻撃は、親欧米のロシア人リベラル派をプーチンと連携させるかもしれません。しかし、腐敗した第三世界のアメリカの傀儡国家がロシアを攻撃する能力を持っているということは、ロシアの愛国者にとって受け入れがたいものです。戦闘的ロシア人は、母なるロシアを攻撃する能力がウクライナにあることに、プーチン政権の失敗を見るのです。

 最大の人口を抱える中国は、アメリカが無差別に武力行使するのを目の当たりにしています。そういった武力行使をしても、アメリカ国内外からワシントンに対してどうこうという動きはないのです。中国もインドも弱腰ロシアと同盟を結びたいとは思いません。

 これも申し上げておきます。ワシントンとNATOは、20年に及ぶ、完全に嘘と秘密の意図に基づいた、中東と北アフリカでの戦争で、世論の制約を受けませんでした。かつてロシアの一部だったドンバスをネオナチの迫害から救うために、ロシア国民の支持の欠如をプーチンが恐れる理由は何でしょう?もしプーチンがそれを恐れなければならないとしたら、それは、ロシアで活動している米国の資金提供によるNGOがロシア人を洗脳していることを容認しているプーチン自身の間違いだということなのです。

 いや、プーチンは報復行動に関与すべきではありません。ポーランド、ドイツ、英国、米国にミサイルを送り込む必要はありません。プーチンがすべきことは、ウクライナのインフラを閉鎖して、たとえ西側の援助があっても、ウクライナが戦争を継続できないようにすることです。プーチンはこれをやり始めていますが、まだ十分ではありません。

 プーチンはドンバス救済のために軍隊を派遣する必要はなかったというのが本当のところです。アメリカの傀儡であるゼレンスキーに1時間の最後通牒を送り、降伏しない場合は通常の精密ミサイルと必要なら空爆でウクライナの電力、水、輸送インフラ全体を停止させ、キエフに特殊部隊を送ってゼレンスキーとアメリカの傀儡政権を公開処刑にする、それだけで良かったのです。

 (そうしていれば)ロシアの大学や公立学校で自国ロシアへの憎悪を教えている劣化した西側かぶれの人間たちへの影響は電撃的なものになったでしょう。ロシアに手を出すことの代償は、ウクライナがクリスマスまでにクリミアに到着するとか言っているバカどもには明らかになったでしょう。NATOは解散していたでしょう。アメリカはすべての制裁を解除し、愚かな戦争狂の新保守主義者たちを黙らせたでしょう。(そうすれば)今頃世界は平和になっていたことでしょう。

 ご質問の内容は、プーチンがいろいろ失敗したあげく、ロシアの勝利とはどのようなものなのか、というものです。まず、ロシアの勝利があるのかどうかはわかりません。プーチンの推論と行動に慎重になっていることは、あなたが説明したように、ロシアの勝利を否定する可能性が高くなります。それどころか、交渉によって非武装地帯ができ、韓国の未解決紛争のように、紛争がいつ発火するかわからないような状態になってしまう可能性があります。

 一方、プーチンが防衛システムで迎撃できないロシアの極超音速核ミサイルの全面配備を待っていて、ワシントンに続いて核兵器の先制使用に動けば、プーチンは西側諸国を警戒させ、ロシアの軍事力を使って紛争を瞬時に終わらせることができる力を手に入れることになります。

 MW:非常に良い指摘をされていますが、私はやはり、プーチンのゆっくりとしたアプローチが、国内外での国民の支持を集めるのに役立ったと思います。しかし、もちろん、私が間違っている可能性もあります。中国とインドが「弱腰のロシアとは手を組みたくない」というあなたの主張にはどうしても賛成できません。私見では、インド、中国両首脳はプーチンを、おそらく前世紀最大の主権擁護者である聡明で信頼できる政治家として見ています。インドも中国もワシントンの強圧的な外交には飽き飽きしており、世界最大の自決と独立の推進者となった指導者の努力を高く評価しているのでしょう。彼らが一番望まないのは、ワシントンの「うなずき」なしには何も決められないヨーロッパの指導者たちのように、おずおずとした下男になることでしょう。(原注:今日の早い時間に、プーチンは、EUの指導者たちは、自分たちがドアマット*のように扱われることを許していると述べた:
*玄関前の靴拭い。「いつも踏みにじられている人」の意。

プーチン:「今日、EUの主要な友人であるアメリカは、ヨーロッパの非工業化に直結する政策を進めています。それに対して、(ヨーロッパは)アメリカという主君に対して一応は文句を言います。時には憤慨しながら、『なぜ、こんなことをするんだ?』という具合に。私は聞きたい。何を期待していたのですか? 相手の靴磨きを甘受する人間に、他にどんなことが起こるのでしょうか?」

 ポール・クレイグ・ロバーツ: マイク、私は、ロシアが中国とインドの友人として選ばれていることに同意します。私が言いたかったのは、中国とインドは、ワシントンの干渉から自分たちを守ってくれる強力なロシアを見たいということです。中国とインドは、プーチンが時折見せる迷いやためらいに少し不安を覚えます。プーチンの行動原則は、もはや西側諸国では尊重されていないのです。

 プーチンの言う通り、ヨーロッパ諸国、カナダ、オーストラリア、日本、ニュージーランドの政府はすべてワシントンの飼い犬です。プーチンは、ワシントンが操る人形連中が、この役割をぬくぬくと喜んで果たしていることに気づいていません。したがって、プーチンが彼らの従属性を叱り、独立を約束させることなどほとんどできない相談です。最近、読者から、人は流布する物語にしたがう傾向があるという1950年代のアッシュ実験や、エドワード・バーネイズによるプロパガンダの分析が活用されていることを教えてもらいました。また、1970年代にある政府高官から聞いた話ですが、「ヨーロッパ諸国の政府は我々の思い通りに動いている。我々は彼らを所有している。彼らは我々に報告してくれる」。

 言い換えれば、操り人形たちはぬるま湯に身を置いています。プーチンは、自分が率先して動き、範を示すだけでは、この状態を打ち破ることは非常に難しいでしょう。


 MW:最後の質問は、米国経済に関するあなたの幅広い知識を活用し、米国の経済的弱さがロシアを挑発するワシントンの決断の要因になる可能性についてお聞きしたいと思います。この10ヵ月間、多くの識者がNATOのウクライナへの拡大がロシアにとって「存立危機事態」を引き起こしていると言っているのを耳にしました。ただ、同じことが米国にも言えるのでしょうか。ジェイミー・ダイアモンド*からヌリエル・ルービニ**までが、2008年の全システム・メルトダウン(完全崩壊)よりも大きな金融の大混乱を予測しているようです。メディアも政治家も、ロシアとの対決を強く求めているのは、そのためでしょうか?米国が世界秩序の中で高貴な地位を維持するためには、戦争しかないと考えているのでしょうか?
*アメリカ合衆国の実業家。アメリカ合衆国の四大銀行の一つであるJPモルガン・チェースの会長および最高経営責任者を務めている。また、ニューヨーク連邦準備銀行においては2007年よりクラスA取締役を務めている。( ウィキペディア)
** アメリカ合衆国の経済学者。ニューヨーク大学の教授である。( ウィキペディア)


 ポール・クレイグ・ロバーツ: 政府が経済の失敗から目を背けさせるために、戦争に向かうという考え方はよくあります。しかし、あなたの質問に対する私の答えは、アメリカの覇権がその動機であるということです。ウォルフォウィッツ・ドクトリンはそれを明確に述べています。このドクトリンは、アメリカの外交政策の主要な目標は、アメリカの一国主義の制約となりうるいかなる国の台頭も阻止することだ、とも述べています。2007年のミュンヘン安全保障会議でプーチンは、ロシアは自国の利益を米国の利益に従属させることはないと明言しました。

 ワシントンには、核戦争に勝てると信じている狂った新保守主義者がいます。彼らは、米国の核兵器政策を、先制攻撃を受けた側の報復能力を低下させることに焦点を当てた先制攻撃モードとして作り上げてきました。米国は現在ロシアとの戦争を探っているわけではありませんが、不測の事態に陥る可能性はあります。新保守主義者の作戦は、①ロシアで問題を引き起こし、国内問題を発生させ、クレムリンの注意をワシントンの権力行使からそらし、②プロパガンダでロシアを孤立させ、そして、③ひょっとするとジョージアやウクライナで行われたように、ロシア国内またはベラルーシのような旧ロシア属国でカラー革命を引き起こさせることまで、この3つです。人々は、プーチンがロシア軍を送り込んで阻止した、アメリカが仕掛けたジョージア軍による南オセチアへの侵攻を忘れてしまいました。ロシア軍の到着によって沈静化したカザフスタンの最近の騒動も忘れてしまいました。クレムリンを毟(むし)り取り続ける計画なのです。ワシントンにウクライナのマイダン革命のような成功を常にもたらすことはないにしても、一連の出来事はクレムリンの時間とエネルギーを消耗させ、政府内に反対意見をもたらす、という陽動作戦として首尾よく進んでいます。しかもそれは軍事的な緊急事態の計画を必要とします。ワシントンがシナリオを管理しているため、事件はロシアを侵略者として貶(おとし)め、プーチンを「新たなヒトラー」として描写することにもなります。ロシア人選手の競技会からの排除、ロシア人作曲家の楽曲のオーケストラによる演奏の拒否、ロシア文学の排除、ロシアとの協力の拒否など、プロパガンダの成果はかなりのものです。これは、ロシア人にとって屈辱的なことであり、国民の政府に対する支持を低下させかねません。ロシアのスポーツ選手、アイススケート選手、芸能人、そしてそのファンにとっては、たいへんな不安と苛立ちがたまることになるでしょう。

 とはいえ、ウクライナでの紛争は、意図的であろうとなかろうと、全面戦争に発展する可能性があります。これが私の懸念であり、クレムリンの限定的なゆったり作戦が誤りであると考える理由です。ワシントンの挑発が行き過ぎになる機会を提供しすぎているのです。

 経済的な要素もあります。ワシントンは、自分の支配下にあるヨーロッパ帝国が、エネルギー依存やビジネス関係からロシアとの関係を緊密化させることを阻止しようと考えています。実際、経済制裁は、ワシントンの経済・金融覇権に代わってヨーロッパを脱工業化するものだと説明する人もいます。こちらをご覧ください。

*
This article was originally published on The Unz Review.
Paul Craig Roberts is a renowned author and academic, chairman of The Institute for Political Economy where this article was originally published. Dr. Roberts was previously associate editor and columnist for The Wall Street Journal. He was Assistant Secretary of the Treasury for Economic Policy during the Reagan Administration.
He is a regular contributor to Global Research.
Michael Whitney is a renowned geopolitical and social analyst based in Washington State. He initiated his career as an independent citizen-journalist in 2002 with a commitment to honest journalism, social justice and World peace.
He is a Research Associate of the Centre for Research on Globalization (CRG).
Featured image is from The Last Refuge
The original source of this article is Global Research
Copyright © Dr. Paul Craig Roberts and Mike Whitney, Global Research, 2022
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アメリカは諜報収集作戦のために中国の細菌研究所に資金を提供した。(内部告発者)

<記事原文 寺島先生推薦>

US funded Chinese lab for intelligence op – whistleblower
America's technology transfer to China resulted in the Covid-19 pandemic, a former EcoHealth Alliance executive claims

アメリカの中国への技術移転がCovid-19のパンデミックを招いたと、エコヘルス同盟の元幹部が主張

2022年12月5日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月30日

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武漢ウイルス研究所に到着したSARS-CoV-2ウイルスの起源を調査する世界保健機関(WHO)のチーム


 内部告発者によれば、米国が資金提供している外国での生物研究は、生物兵器の能力を評価するための「巨大な諜報収集活動」であるようだ。
 中国でコウモリのコロナウイルスを収集し、遺伝子操作することは、最終的にSARS-CoV-2(Covid-19を引き起こす感染症)を偶然に放出することにつながったと、彼は考えている。

 アンドリュー・ハフ博士(Dr. Andrew Huff)は、かつてエコヘルス同盟(EcoHealth Alliance)の副会長として働いていた。このNGOは、世界中のバイオ研究プロジェクトに米国の税金を流すことに関与してきた。
 その中の一つ、武漢ウイルス研究所(WIV)で行われたものがCovid-19パンデミックの起源であり、北京とワシントンの両方が大規模な隠蔽に関与していると、彼は主張している。土曜日、英国のタブロイド紙『サン』は、ハフ氏が近日中に出版する本の中で詳述しているこの疑惑を報じた。

 彼の暴露によると、2009年にエコヘルス同盟はPREDICTと呼ばれるプログラムを立ち上げた。海外援助機関USAIDから資金提供を受けたこのプログラムは、有害となりうる病気のサンプルを世界中で収集することを目的としており、表向きは、人類に起こりうる大発生に備えるためのものであった。ハフ氏によれば、武漢の研究所はこのプログラムの海外パートナーの一つで、コウモリのコロナウイルスを研究していたとのことである。 

 ハフ氏すなわち米軍の生物兵器脅威評価の経歴を持つ内部告発者によれば、PREDICTプログラムは本来、収集すべきデータを収集しておらず、外国の生物兵器研究所の能力を評価するための諜報収集活動のように見えたという。
 

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関連記事:米国の「軍事生物活動」は世界の脅威―ロシア


 ハフ氏は、武漢ウイルス研究所WIVにおける機能獲得研究(GoF:Gain-of-function)のための2014年の資金提供提案の評価にも関与していた。
 この研究は、エコヘルス同盟を通じてアメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)から資金提供されたものだ。
 機能獲得(National Institutes of Health)とは、病原体を改変して、感染性をはじめとするさまざまな潜在的な機能を強化することである。その表向きの根拠は、科学者が新しい菌株を研究し、同様の適応が自然に出現する前にそれを阻止する方法を見つけることができるからである。

 「エコヘルス同盟は......私が在職中にSARS-CoV-2という病原体の開発を担当した」とハフ氏は主張する。彼は、アメリカから伝授された技術で、このウイルスは武漢の研究所で作られ、偶然に一般大衆に漏れたと信じている。

 このコロナ騒ぎは、「エコヘルス同盟が中国を失敗させるように仕組んだと考えるのが妥当だろう」と彼は言い、中国の研究所は有能な人材の不足に苦しんでおり、米国政府関係者もそれをよく承知していたと主張した。

 コロナウイルスが中国の研究所から流出したという「研究所漏洩」説は、ドナルド・トランプ米大統領(当時)が広めたものである。トランプ氏は中国との貿易戦争の中で、この主張をした。
 米国の大手メディアやハイテク連中は、当初、「偽情報」のレッテルを貼り、この説を公論の場で封じ込めようとした。

 世界保健機関(WHO)は、Covid-19の起源を調査し、自然進化が最も可能性が高いと結論づけた。北京も、動物から人への偶発的な感染が最も妥当な説であるとし、「研究所漏洩」疑惑を「嘘」だと非難してきた(ただし最近はアメリカの研究所から流出したとする説を主張し始めている)。

<訳注> 
  エコヘルス同盟は、米国を拠点とするNGO非政府組織であり、表向きは「新たな感染症から人、動物、および環境を保護する」ことを使命としている。
 ハフ博士(元エコヘルス同盟副会長)は、コロナウイルスは武漢ウイルス研究所から流出したとする説を、上で主張しているわけだが、
 他方、ジェフリー・サックス博士(米国コロンビア大学教授、最近は有名な医学誌ランセット「コロナウイルス特別調査委員長」として、コロナウイルスがアメリカの研究所から流出した可能性があると主張し、話題を呼んでいる。
 いずれにしても、このコロナ騒ぎは、「エコヘルス同盟が中国を失敗させるように仕組んだと考えるのが妥当だろう」とハフ氏が主張していることは、極めて興味深い。
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中国か、ファイブ・アイズ諸国(米・英・加・豪・NZ)か、それとも? Covidの世界的流行の責めを負わされるべきなのは誰なのか?

<記事原文 寺島先生推薦>

Beijing, the Five Eyes or Something Else? Who’s to Blame for the Covid Pandemic

筆者:マシュー・エレット(Matthew Ehret)

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出典:Strategic Culture

2021年5月19日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月30日

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 コロナウイルスの世界的流行が始まった当初から、このウイルスが自然に進化した結果出現したことではないことを示す証拠が現れ始めていた。WHOやネイチャー誌やランセット誌の編集者たちは、自然由来だと考えているようだが、しかしこのウイルスの起源は、別のようだ。

 このウイルスが自然由来ではないことに初期の段階で気づいた人々の中に、中国の趙立堅外交部報道官がいた。同報道官が世界に衝撃波を与えることになったのは、ラリー・ロマノフの筆による2件の記事を引用したからだった。この記事は、「特定の遺伝子を標的にする」ウイルスの存在の可能性について述べたもので、実際このウイルスは、イランやイタリアや多くのアジアの人々が持つ遺伝子型に対して、他の遺伝子型と比べて不釣り合いに悪い影響を与えていた。趙報道官は、生物兵器の専門家であるフランシス・ボイルや著名な疫学者であるリュック・モンタニエやジュディ・ミコヴィッツと歩調を合わせたが、彼らに同調する学者や科学者や研究者が世界中で増え、この一団に属するものは皆、このウイルスは明らかに人間の手が加えられた遺伝子配列をしていると考えていた。しかし、Covidが研究室由来であるようだという点については、皆が同意していたが、その研究室が、中国のものなのか、それとも米国管理下のものなのかについては、不明だった。

 この研究室由来説において、もうひとつの明らかな疑問が浮上した。それは、このウイルスの漏出は、事故のせいなのか、それとも意図的な工作だったのかという点だ。

 現在、西側の地政学上の取り組みとして、疫病の世界的流行を想定した演習が、恒常的に開催されている。具体的には、2000年の「暗黒の冬」演習を先駆けとし、2011年のロックフェラー財団主催の「ロックステップ」演習、さらには世界経済フォーラム主催の「イベント201」演習だ。(それぞれの演習の間にもさらに数十もの演習が実施されてきた)。こんな状況であるので、このウイルスの漏出が意図的なものだったことは、十分に考えられる仮説だった。

 ではいったい誰が、動機と手段と手口をもって、世界全体に影響を与えるようなこのような工作を行ったのだろうか?


武漢由来説の始まり

 2020年2月、武漢研究室漏出仮説が報道機関の見出しを飾り始めた。それは、アンソニー・ファウチ博士が米国の生物兵器研究所から武漢のウイルス研究所に、コロナウイルスの機能獲得実験装置のいくつかを移転したという証拠が明らかになったことを受けてのことだった。この武漢ウイルス研究所というのは、中国に存在するBSL(生物学研究の各付け段階のこと)が4である2つの研究所のうちの一つであり、このような機能獲得研究が実施できる装備を備えていた。

 2020年6月、リチャード・ディアラヴ卿(MI6の元本部長)が、武漢研究所由来説を高らかに支持した際、何か腑に落ちない点があった。ディアラヴ元本部長は、生物兵器に関する知識をあきらかに持っていた。同本部長は、米国防総省が世界各地で手広く生物兵器研究所を有していることをよく知っていたはずだ。さらに人々の意識を別の方向にそらす手口もよくわかっていたはずだ。それは彼自身が、英国諜報機関の最高位として種々の工作を行ってきた、影を知っている一筋縄ではいかない経歴をもっているからだ。ディアラヴ元本部長は以下のような工作事案をすべて取り仕切っていたのだ。「(ウランの一種である)イエローケーキ(をイラクが手にしている)」という怪しげな書類を使ってイラク戦争を始めた工作も、MI6が出した、リビア政府とシリア政府が神経ガスを使ったという嘘の報告書を使った工作も、よく承知していたはずだ。さらには、米国内でのカラー革命を狙った工作であったといえるロシアゲートについても、主要な中身を目にしてきたはずだ。さらにディアラヴ元本部長は、英国のポートン・ダウン研究所のことについても了解していたはずだ。この研究所ではスクリパリ事件(イギリスのスパイをしていたロシアのスクリパリが薬物により重体になった事件)で使用されたノビチョクという薬品を製造していた。

 ディアラヴ元本部長が武漢由来説を後押ししたことで、世間に警鐘を発することになったのだが、時間が経過しても、この研究室由来仮説を「法廷に持ち込める」ものにするような決定的な証拠は出てこなかった。この点において、ディアラヴ元本部長による工作はうまく作用したといえる。というのも、ファウチ指揮下のNIH(国立衛生研究所)から武漢研究所に実験装置が送られたという事実が新聞の見出しを賑わせたことで、多くの人々の胸に、このことが「決定的な証拠」であると焼き付けられたからだ。

 話を次に進める前に、思い出していただきたい重要な点がある。それは、実証的な証拠がないというだけでは、一方の当事者の無実を証明できないということだ。それは実証的な証拠が一つあったとしても、他方の当事者の有罪である証明にはならないのと同じことだ。


武漢研究所由来説が再度出回る
 
 ここ数週間、武漢研究所漏出説が、再び激しく語られるようになった。ランド・ポール(共和党議員)とファウチがこの件について行った5月10日の論争により、火に油を注ぐ結果となった。ポール議員はファウチ博士が武漢ウイルス研究所に資金を出していたことを問いただしたのだ。スカイ・ニュースの5月7日の報道によると、 中国の広報誌が、Covidをもとにした生物兵器が出回っているという話を書いていたという。3月26日、米国疾病管理予防センターのもとセンター長であるロバート・レッドフィールドが武漢研究所由来説を支持することを示唆した。そして、ファウチ管理下のNIHが、エコ・ヘルス財団を通じて、中国のコロナウイルス研究に資金(60万ドルが武漢に渡ったという)を出していた領収書の画像のことがこの2月(2021年)から広まっている。なぜ1年も経ってから、このような事実があらゆるところで明るみされて広まっているのかを訝しく思う人もいるだろう。

 西側の大手メディアも独立系メディアは、右派左派関係なく、中国を非難しようとするこの船に飛び乗った。その際、中国がこのウイルスを事故で流出させたのか、意図的に漏出させたのかは関係なく中国がやり玉に挙げられていた。(ただし明らかなことは、武漢研究所由来説が世間に受け入れられるのと同時に、世間は、この漏出が意図的なものであったという結論になびいたという事実だ)。しかしここで再度、私は以下の問いを問わざるを得ない。それは、「世論を間違った方向に誘導したり、陽動作戦を行ったり、人々の感情を統制しようとする工作がはびこっているこの世界において、いま見せられている手がかりだけで判断して、このウイルスの世界的流行の裏には中国政府がいる、いや別の真犯人が見つかるだろうなどという結論を出すことは果たして正しいのだろうか?」という問いだ。


中国の指導者層はCIAを非難

 2021年2月9日、中国の中国疾病予防管理センターの主席科学者である曾光(ソウ・コウ)氏も、中国の報道機関との対談の中で、「陰謀論クラブ」へ入会した。同氏は、西側の多くの人々が主張している「中国の武漢研究所がウイルスの起源である」という説を否定した上で、曾氏はSarsCov2ウイルスが研究室由来であるという説を軽く見てはいけないという考えを示した。さらに、米国の生物兵器研究所が世界各地に幅広く点在していることを指摘(併せて、第二次大戦以降、米国が必要以上に軍備を増強している流れの中で、米国の生物兵器の使用頻度の記録を明らかにもした)した後、曾氏は以下のように問いかけた。

 「生物研究所はすでに世界各地にあるのに、米国内にはなぜこんなに多くの研究所が存在するのだろうか? 目的は何なのか? 多くの点において、米国は他諸国に公明さと透明性を要求しているが、それで明らかになるのは、米国自身がいちばん怪しいという事実だけだ。今回、新型コロナウイルスの問題の対処について、米国が名声を得たかどうかは関係なく、米国は勇気を持って、公明さと透明性を見せるべきだ。米国は世界に対して自国の真の姿を明らかにする責任があるはずで、覇権主義的な考えにとらわれて、このウイルスの件について隠蔽したり、他諸国に責任をなすりつけるべきではない。」

 中国の华春莹(か・しゅんえい)外交報道官は曾氏の主張と同調し、米国防総省が世界各地に拡散している生物兵器研究所のことを指摘し、こう語った。

 「強調したいことは、米国が事実を真に尊重するのであれば、フォート・デトリック基地の生物研究所や海外に存在する200を超える生物研究所の詳細を明らかし、WHOの専門家を招いて、米国内でこのウイルスの起源の追跡調査を行い、世界各国からの懸念に対して、本気で対応すべきだ、という点です。」

 国防総省が取り仕切った生物兵器戦争の歴史や規模に目を向けようとしない傾向にある人々は、中国当局の複数の関係者によるこれらの主張を無視しがちだが、その傾向を支える根拠は無数にある。その根拠を一つあげると、ファウチやゲイツが腐敗していると考えるのはたやすいことであり、この武漢研究所由来説はファウチとゲイツの関与だけではなく、両者が中国政府と結びついていることも示唆することだ。どうして両者が結びつくのかと言うと、洗脳された西側のほとんどの人々は、中国政府も、他国に借金を押しつけ、大量虐殺行為を行い、共産主義のもとでの帝国主義を取っていて、西側の価値観を破壊してしまうという悪事を行っていると信じているからだ。

 中国のCDC(疾病管理予防センター)の所長が述べた、近年の世界史や現在の世界秩序における基本的な事実を簡単に振り返れば、私の考えでは、中国の武漢研究所に罪がなすりつけられたと考えることができる。以下、私のこの推測を支える5つの要因を述べることにする。


要因その1 人口削減計画の昔と今

 多くの人々はこの事実に向き合おうとしたがっていないが、人口削減計画は、こんにちの単極支配による世界政策において、隠れた原動力となっている。この動きは、第2次世界大戦時にも見られたものだ。当時、ロックフェラー財団、メイシー財団、シティ・オブ・ロンドン、ウオール街は、ファシズムと優生学(人口を抑制する科学)の台頭を支援していた。これらの勢力は、前者を世界大恐慌による経済危機を奇跡的に解決するものであり、後者を政府が崇拝すべき新しい科学の伝導と捉えていたのだ。

 こんにち、この計画は、「第4次産業革命」「脱炭素経済」「グレート・リセット」などの言葉で形成された新しい「超人間主義(tramnshumanist)*」運動という仮面を被って生き続けている。この計画の主要標的は以下のふたつだ。1)各主権国家を統合する機構と、2)世界の「人口過密地域」。その焦点は、中国、インド、南米、アフリカ。
* 超人間主義とは、科学技術により現在の人間の形態や限界を超克した知的生命への進化の継続と加速を追及する生命哲学のこと

 このような主張を、本能的に「陰謀論」ということばで片付けようとする人々には、1974年にヘンリー・キッシンジャー卿が書いた悪名高い「NSSM-200報告書:米国の安全保障と海外利益にとっての世界規模の人口拡大」にさらっと目を通していただきたい。この暴露文書は、米国の外交政策を、「どう発展させるかという哲学」から、「人口抑制という新しい考え方」に変換させることまで提唱している。この報告書においてキッシンジャーが警告していたのは、「将来の人口を適切な数に抑えようとするのであれば、1970年代と80年代に、出生率を抑えるという措置に着手し、効果を出すことが喫緊の課題だ。 (金融面の)支援が他諸国に与えられる際は、人口の増加という要因を考慮すべきだ。食糧支援や農業支援が、人口抑制戦略を慎重に進める際に不可欠な要素だ。希少な資源を配分する際には、その国が人口抑制に向けてどのような手順をとっているかを考慮すべきである。その際、強制的な措置を取る必要があるという見方をしなければならない場合もでてくるだろう」ということだった。

 キッシンジャーのねじれた論理においては、米国が外交政策においてそれまで何度も取ってきた、「産業や科学を発展させる手段を貧困諸国に供与することで飢餓を終わらせようとする」という考え方はあまりにも愚かな政策だとされていた。

 根っからのマルサス主義者であるキッシンジャーは、貧困諸国が自立できるよう援助することは、世界の均衡を乱すことになると考えていた。というのも、その結果生じた新たな中流階級により消費が拡大し、それらの中流階級が自国内で手に入れることのできる戦略的資源を用いるようになると、世界の仕組みは加速度的に崩れていく、と考えたからだ。

 このような状況は、キッシンジャーや人間不信に陥っているマルサス主義信奉者たちには受け入れがたいものと思えた。彼らは、マルサスが提唱していた人類や政府に対するものの見方に共感していたからだ。


キッシンジャーが提唱した、「奴隷と主人」という関係で成り立つ国際社会

 キッシンジャーがニクソン政権下の国務長官として権力を手にしていたころ、壮大な戦略が新たに発表された。この戦略の目的は、世界の発展国と発展途上国の間に新たな「主人と奴隷という従属関係を創造すること」であった。そして重点的に捉えられていた発展途上国は、NSSM2000報告書で標的にされていた13カ国と中国であった。

 中国自身は自国が貧困から抜け出すために必要な西洋の技術を得ることができたが、その条件は、ロックフェラーと世界銀行の要求に従い、一人っ子政策を採用し、人口増加を抑制することだった。

 キッシンジャーは社会におけるこの新しい構図の構築に着手した。それは「もてるもの」、すなわち産業発展を遂げた消費者と、それ以外の大多数である「もたざるもの」、すなわち産業に従事する貧しい労働者階級とで成り立つ構図である。そして後者の階級は、停滞状況に置かれ、安い労働力として扱われ、自分たちがつくった商品を買う手段はないままに取り残されるべきだとされた。そして、それ以外の肌の色が濃い人々が住む世界の地域は、もっとひどい状況に置かれるべきだとされた。つまり、生産手段も消費手段も与えられず、常に飢餓や戦争に苦しみ、発展途上状態に止められるものとされたのだ。そして、これら暗黒の時代に取り残された地域を主として構成するのは、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国であり、資源が豊富なこの地域は、企業の仲買人や資本家たちに搾取された。これらの仲買人や資本家たちは、国民国家をもとにした「古くさい世界秩序」のもとでの世界秩序を運営しようとしていた。

 キッシンジャーが唱える世界秩序の形は、まったく活気のないものだった。というのも、人口の増加や技術の進歩が入り込む隙のない形のものだったからだ。文化大革命を行った毛沢東と四人組は、キッシンジャーのこの計画と非常に相性がよいと思えた。しかし毛沢東が亡くなり、正当な理由で四人組が投獄された後は、4つの近代化という名で知られている新たな長期戦略が推し進められた。これは周恩来が構想し、鄧小平が着手し、実行したものだ。この4つの近代化政策は、キッシンジャーが思っていたよりはるかに先見の明がある政策だった。


要因その2  現在中国は人口増加を肯定的に捉えて前進中

 どの観点から見ても、西側が破滅に向かって加速しつつある中、中国は急速に、反対の方向に向かっている。それは中国が、自国内では、長期の投資や技術発展の前進を広げようとしているからであり、一帯一路政策を通じて、近隣諸国に対しても広範囲にわたる取り組みを広げようとしているからだ。

 中国国民は、1979年から始められた壊滅的な一人っ子政策の傷がいまだに癒やされておらず、出生率を挙げるために、1夫婦から生まれる子どもの平均人数を2.1人にするという目標には程遠いが、中国は、2015年にはもつべき子どもの数を1人から2人に拡大したところであり、中国銀行の主席経済学者たちは、このような子どもの数の制限の全廃を求めている。現在中国は、政府の上からの方針として、エネルギー使用を増やすことで、経済を支え、成長させる政策を実行しているが、これは閉じる方向に進もうとしている西側の体制においては、もう何十年も全く見られてこなかった政策だ。

 しばしば忘れられているが非常に重要な事実は、中国とインドはともに、2009年12月のコペンハーゲンで行われたCOP-15*(国連気候変動枠組条約第15回締約国会合)において、決議を出させないように動いていたという点だ。この会合は、CO2排出削減目標を達成することに法的拘束力を持たせ、多くの社会において、脱炭素(および脱産業化)を求めることを法的に拘束することを約束させた会合であった。
* COP-15:原文ではCOP-14となっていますが、2009年12月にコペンハーゲンで行われたのはCOP-15なので、訂正しました。訳者

 ロンドンのガーディアン紙は、2009年、以下のような記事を出していた。「コペンハーゲンでの会合は大惨事だった。提案の大半は同意された。しかし実際に起こったことの真実は、この会合が決裂する危機にあることだ。それは、混乱の中で双方が非難し合う中で起こった。実際に起こったことはこうだった。中国が話し合いを台無しにして、意図的にバラク・オバマを侮辱し、ひどい「取引」を主張したせいで、西側諸国の首脳がその攻めを抱えたまま立ち去ったのだ。」

 明らかに中国とインドは、スーダンなどのアフリカ諸国(オックスフォード大学院からローズ奨学金を授与されているスーザン・ライスの厳しい監視のもとでの分断をまだ体験していなかった国々)の政府とともに、自国の産業や国家主権を犠牲にして、気候変動に応じた体制や気候変動を支持する研究者たちに屈しようとしていなかったのだ。このような気候変動説については、COP-15が開催されるほんの数週間前に、英国のイースト・アングリア大学の研究者たちによる不正が行われていたことが、「恥ずべきクライメート・ゲート事件*」として明らかになっていた。
  * クライメート・ゲート事件とは、メールの流出により、気候変動の研究を行っていたイースト・アングリア大学の研究者たちが、数値を操作していた疑いが生じた事件。

 中国やインドが、11年前にCOP-15の合意形成を止めようとしたことは賞賛されてしかるべき行為だったのだが、この劇的な事件を記憶にとどめている人はほとんどなく、当時両国が自国の国家主権を守ろうとして行っていたこの努力が、2013年の一帯一路構想の着想につながり、この構想が、多極体制をもとにした各国の同盟関係の構築の背骨となったことをわかっている人は、さらに少数だ。


要因その3 2020年のダボス会議でのソロスの発言:オープン・ソサエティ財団にとっての2大脅威:1)ドナルド・トランプ政権下の米国 2)習近平政権下の中国

 2020年1月のダボス会議での演説において、ソロスが狙いを定めたのは、トランプと習近平だった。この両者をソロスは、自分が所有するオープン・ソサエティ財団にとっての2大脅威であるとし、何としてでも止めなければならないと語ったのだ。2019年9月(ちょうどイベント201が開催されていた時だ)、ソロスはウォール・ストリート・ジャーナル誌に以下のように書いている。

 「オープン・ソサエティ財団創設者として、私が関心を持っているのは、習近平政権下の中国を潰すことだ。それは米国の国益よりも優先すべき事項である。今年上旬に行われたダボス会議で発言したとおり、私は中国が打ち立てようとしている「社会信用システム」*が、このまま拡大を続けるのであれば、開かれた社会体制(open societies)は中国内だけではなく、世界中で終わりを告げることになるだろう。」
* 中国政府が収集したデータに基づいて、全国民をランク付けし、「信用度」を点数化するシステムのこと。

 「中国ウイルス」という言葉にとりつかれるまでは、ドナルド・トランプは並々ならぬ努力で、重点的に中国と友好な関係を築こうとしていて、中国との間での最も重要な取引協定の一つの締結にこぎつけることにさえ成功し、その第一段階に突入したのが、ちょうどダボス会議でソロスが発言していた週のことだった。その第1段階は、米国で完成した商品の購入先として中国を市場に組み込むことであった。その目的のひとつは、米国内で失われていた製造業を再建することであった。米国の製造業は、50年以上もの間「脱工業化」され空洞化していた。キッシンジャーが、NAFTA(北米自由貿易協定)を、「冷戦終結後以降、どの勢力に属する国も採用している新たな世界秩序構築にむけた最も創造的な枠組みである」と評していたいっぽうで、トランプは反国家的な*条約(TPP)を再交渉して止めさせようとまでしていた。各国に独自の経済政策を形成する役割を与えるというのはここ25年間で初めてのことだった。
* 原文の anti-nation state は「反-[国家として本来あるべき状態]」と解しました。(訳者)

 もうひとつ思い起こすべき重要なことは、トランプが戦争を推進するタカ派に対抗しようとしていたことだ。これらの戦争推進派は、オバマが提唱したアジア基軸政策のもと、中国を軍事的に包囲することを進めていた。そしてその動きのせいで、核戦争が起こる脅威がいま現実となっている。トランプは、THAAD(終末高高度防衛)ミサイルにより中国を包囲する体制を解くことで、戦争の火種を消そうとしていた。このミサイルは、「北朝鮮による脅威」を口実に、何十年もかけて配置拡大が正当化されてきたものだ。しかし当局の本当の標的は、中国とロシア両国である事実は常に否定されてきた。トランプが金正恩との友好関係の構築に努力したことが、米国の太平洋軍事政策の方向性を変える非常に大きな分岐点となったことは、大方の人々にとっては実感がないかもしれないが、中国の知識階級はこの事実を見逃してはいなかった。

 ソロスとCIAが糸を引いた香港やチベット、新疆でのカラー革命工作は、今のところ中国を分断することには成功していないが、米国内での分断工作には成功している


要因その4  国防総省が世界規模で生物兵器研究を行っていることは事実

 中国は2カ所のBSL-4*研究所(どちらも自国領内に)を有していることを自負しているが、 米国防総省が運営する生物兵器研究所は世界各地に何十箇所も点在している。正確にその数を掴むことが困難であることは、アレクセイ・ムキン(ロシア政治情報センター局長)が2020年5月の聞き取り取材で答えている。
* BSL=biosafety level 細菌やウイルスを取り扱う施設の格付けで、レベル1から4まである。レベル4は最も防御レベルが高い。

「ロシア国防省によると、旧ソ連領内において、65カ所の米国の秘密生物兵器研究が稼働中であり、具体的には、ウクライナの15カ所、アルメニアの12カ所、ジョージアの15カ所、カザフスタンの4カ所で行われている。米国内では、このような研究は禁じられている。したがって、国防総省は、独自の法律で、違法行為を行っている。(その法の精神という意味では「違法」だが、法律の文面上では「違法」にならないようになっている)。これらの生物兵器研究の目的は、旧ソビエト社会主義共和国連邦領内に住んでいる人々を標的にした生物兵器を製造することにある。」

 2018年、詳細な取材を行うブルガリアのディリャーナ・ガイタンジーバ記者は、国防総省が数十億ドルの予算を使って、25カ国(加えて米国内の11カ所)に存在する生物兵器研究所を維持していることを報じた。このような研究施設は、2001年12月の炭疽菌事件以降急激に増加したという。5名の米国民が亡くなったこの事件により、生物兵器の所有を大幅に増加することが正当化され、2004年、チェィニー副大統領が提案したバイオシールド法(生物兵器防御法)の可決につながり、現在、生物兵器関連予算は500億ドルを超えている。

 さらに、2000年10月に出された政策文書がある。この文書は、ウィリアム・クリストル(元副大統領首席補佐官)、ジョン・ボルトン(元国連大使)、リチャード・パール(元国防政策委員会委員長)、ディック・チェイニー(元副大統領)、ポール・ウォルフォウィッツ(元国防副長官)、エリオット・アブラムス(元国務次官補)、ドナルド・ラムズフェルド(元国防長官)の共著であり、題名は、「米国の防衛再建(RAD)」だった。この文書に明示されていたのは、新たな米国の世紀においては、「戦争は、新しい方面で発生するだろう。 具体的には、宇宙戦、ネット上の戦争、それとおそらく病原体を使う戦争だ。生物兵器を使った戦争が発展すれば、特定の遺伝子型を「標的」にすることも可能になるだろう。そうなれば、生物兵器を使った戦争は、テロ戦争に使う道具ではなく、政治的に使い勝手の良い方策に昇華する可能性がある」という内容だった。


要因その5  世界規模の感染大流行を使った戦争演習の筋書きは、Covidに対する国際社会の反応への準備を前提として書かれていた。真犯人は中国ではない。

 これまで実施されてきた、生物兵器を使った戦争の演習の裏にいる実行者のことを考えてみよう。その演習とは、2000年6月に開催された「暗黒の冬」演習であり、2010年5月にロックフェラー財団が発表した「ロックステップ」演習であり、世界経済フォーラムとゲイツ財団とCIAが行ったイベント201といった感染症の世界的流行に対する演習のことだ。これらの演習を取り仕切ってきた実行者たちと中国の間には因果関係はないと思われる。

 これらすべての要因からすれば、この工作は中国に狙いを定められたもので、実際中国が一番の標的にされていたものと考えれば、私は腑に落ちる。

 こんな無責任な形で新種のウイルスを漏出させることによって、中国にとってどんな利益があるというのか? このウイルスのせいで、自国経済は打撃を受け、不安定な世界の金融経済への打撃はさらに強められ、国際社会の安定性を支える基盤が破壊されているというのに。それを中国がおこなったと考えるのは愚の骨頂だ。この数十年のあいだ、中国が成し遂げてきたすべてのことを振り返れば、中国は常に安定や長期的な発展や国際社会において双方が得をすることを求めていたことがわかるのだから、なおさらのことだ。

 中国が成し遂げてきたこのような業績を、傲慢な帝国主義が支配しているファイヴ・アイズ加盟諸国(米・英・加・豪・ニュージーランド)や大西洋両岸諸国同盟が成し遂げたことは目にしたことがない。

 大西洋両岸諸国を仕切っている財閥たちは、確かに中国流の中央集権体制にあこがれを持っているし、行動主義のもとでの社会信用システムといった体制を崇拝さえしている。しかし彼らの中国に対する崇拝の念は、そこで終わってしまうのだ。キッシンジャーやゲイツ、カーニー、シュワブといった連中はみな、中国が成し遂げてきたことを忌み嫌い、恐れている。中国の業績とは、発展であり、貧困の終結であり、人口の増加であり、国家銀行制度であり、長期にわたる信頼の創成だ。そして中国は全方面での産業経済を打ち立て、自国の主権を守ろうとしている。そしてその相棒はロシアだ。この両国はユーラシア多極同盟のもと、強固に結びついている。
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ウクライナ側の防衛線:これらの防衛線が破られればどうなるだろうか?

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukranian Defense Lines: What Happens When They Are Breached

筆者:アラバマの月(Moon of Albama)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2023年1月11日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月28日



 ソレダルはロシア軍の手に落ちた。バフムト (アルチョモフスク) もすぐにそうなるだろう。

 本記事は、ドネツク州とリシチャンシク州という2州の中に引かれているウクライナ側の2つめの防衛線が破られたことを伝える記事だ。以下の地図を使って説明しよう。

 一つ目の地図が示しているのは、2022年4月1日までにロシア軍が占領した地域だ。(キエフ地方のものは入っていない)。

 ロシアは、ドネツク・ルガンスク両人民共和国からの5万人の兵の支援を受け、10万人程度という小規模の軍により侵攻した。対するウクライナ側の正規軍は25万規模であり、その数はすぐに45万人に達し、さらには65万人となった。これらの兵は、予備軍とウクライナ領土防衛隊から動員された。最初の数週間、ロシア軍は巨大な土地を占領したが、そこを維持するための兵士の数は十分とは言えなかった。

 その時点で、ロシアはまだトルコで開かれたウクライナとの交渉が、いい方向に向かうことに希望を託していた。その希望がかなうことを確信していたロシア軍は、すでにキエフ周辺から兵を引き始めていた。しかし、英国のボリス・ジョンソン首相から電話が入り、その後訪問を受けたウクライナ政府は、交渉を中止し、ロシアが決して同意しないような要求を突然突きつけてきた。キエフから撤退したロシア軍はそのまま撤退し、ウクライナ東部に移動。そこでウクライナ軍側の最初の防衛線(黄色)への攻撃を開始した。

2022年4月1日


 この最初の防衛線は、のちに作られた防衛線と同様に、主要都市を結ぶ鉄路や通信経路に沿って伸びていた。上の地図で、最初の防衛線を形成している諸都市は北から南に、セヴェロドネツィク市、リシチャンシク市、ポパスナ市、スビトロダルスク市だ。2022年7月1日、最初のウクライナ側の防衛線がロシア軍により破られ、ウクライナ軍は2番目の防衛線まで敗走した。ただ、最初の防衛線では、ロシアの特別軍事作戦は小規模な軍によって行われていたため、ロシア側にも犠牲者が出ていた。

2022年7月1日


 ウクライナ側の2番目の防衛線は、北から南に、シヴェルシク市、ソレダル市、バフムト市、ニューヨーク地区を通り、ドネツク人民共和国内のかつての休戦ラインに至る。

 このウクライナ側の2番目の防衛線においては、ロシア軍は損害を避けるため直接的な攻撃は行わないようにしていた。ロシア側は、北(地図で言うと灰色の部分)からウクライナ側の2番目の防衛線の後ろにあるドネツク地方を攻撃する作戦に出た。イジューム市とリマン市で行われた戦闘の理由は、そこだった。しかし、東西の向きに流れているシベルスキー・ドネツ川と同じ方向に広がっている北側の森林地帯や川そのものを超えるのは困難であることが判明した。重要な部隊にそこを越えさせようとする挑戦は何度か行われたが、失敗に終わっている。
 
 2022年8月の終わりに、疲れ果てたロシア軍は、防衛に重きを置いた体制を取り、「経済的な軍の使用」作戦に転じた。ドネツク州の北にあるハルキウ地方を抑えていた部隊の数は減らされた。残りの軍は、東の前線に移動され、その前線でのロシア側の防衛線の強化に充てられた。

 当時ウクライナ側は、ドニエプル川の北にあるヘルソン地方への攻撃を公表し、準備も行っていた。そしてその最終目標は、ドニエプル川を渡ってクリミアまで進軍することだった。これに対するロシア側の対応は、ハルキウ地方の北部にいた部隊の数を数千人規模にまで激減させ、残りの部隊を使ってヘルソン地方周辺の南部の陣を強化することだった。

 秋には、ヘルソン地方におけるウクライナ側の攻撃はすべて失敗し、多くの犠牲を払うことになった。しかし、米国の諜報機関は、ウクライナの司令官に、ロシア軍が抑えていたハルキウ地方を守るロシア軍が手薄であると助言したのだ。そのためウクライナの司令官は攻撃方向を北に変え、ハルキウ地方に進軍することに成功した。いっぽうそこに駐在していたロシア軍は、ずっと東に後退することになった。

 ウクライナ側のこの作戦は首尾良く進み、成功したように見えた。しかしこれほど早く進軍できたということは、ウクライナ側の砲兵隊の援護が、ほとんど存在しないほど薄くなってしまったということにもなる。この機会を利用して、退却しつつあったロシア軍は、あらかじめ計画されていた攻撃作戦に則って、自軍の砲兵隊を使って、ウクライナ側の前線部隊を攻撃した。ウクライナ側の攻撃部隊は、西から東に70キロメートルほど素早く進軍した後、多くの損害を出し、戦意を喪失した。ウクライナ側の攻撃部隊はロシア側の新しい防衛線(以下の地図上で、赤で示している)まで到達した。この防衛線には、2本の川が含まれており、突破するのは困難だ。いっぽう、ハルキウ地方の前線では、膠着状態が続いている。

2023年1月1日


 ハルキウ地方におけるウクライナ側の「勝利」により、ロシア政府は追加兵の動員に対して必要だった国民の支持を得ることができた。30万人程度の予備兵が招集された。7万人程度の人が志願兵として軍に参加した。軍事民間会社であるワグナー社は、5万人程度まで規模を増やした。2022年の最後の3ヶ月で、これらの新しく参加したすべての兵たちには、必要な武器や防具が供給され、戦争に向けた短期研修を受講した。

 この間、セルゲイ・スロヴィキン将軍が、ロシアの新しい司令官の座に着いた。同将軍は即座に、自身がいくつかの難しい決断をしなければならなくなることを警告していた。同将軍が言及していたのは、ドニエプル川の北にあるヘルソン地方の状況についてのことだった。川を渡ろうとするときに、米国が供給したミサイルの攻撃を常時受けていたことで、物資の輸送が非常に困難になっていた。同司令官は川の後ろまでの退却を決した。この作戦は非常にうまくいった。1万人を超える一般市民と、2万5千人程度の武装兵が、その地点から移動したが、損失はほとんどなかった。



 昨年の終わりに、前線が短くなったことと、新しい兵力が導入されたことで、ロシア軍は主導権を取り返した。ロシア軍は、ウクライナ側の2番目の防衛線に対して激しい攻撃を加え始めた。

 ソレダル市を占領することに成功したことで、この防衛戦は破られた。そのため、シヴェルシク市、ソレダル市、バフムト市、それとソレダル市の南部の状況は非常に厳しいものになった。現在、ウクライナ部隊も、物資も、この防衛線上にあった道路や鉄路を通れなくなっている。この防衛戦が破られたことで、ロシア軍はこの防衛線の西側に進軍できるようになり、北や南に進軍し、その防衛線の内部に、別の地域を抑えるための釜状の陣が取れるようになる。「防衛線を包み込む」という表現が、この過程を表すいい表現だろう。

 ウクライナ側の兵の数が大幅に少なくなる中、ウクライナは二番目の防衛線を放棄し、その西に3番目の防衛線を作らなければならなくなるだろう。



 ウクライナ側の3番目の防衛線は、北のスラビャンスクからクラマトルスク、ドルジュキウカ 、コンスタンチニフカを通り、ニューヨーク地区に至る線になるだろう。私の予想では、ウクライナ側の2番目の防衛線の敗北と消滅は3月の終わりになるだろう。

 ウクライナ側の3番目の防衛線が陥落するのは、おそらく今年の中旬になるだろう。その時点で残されたウクライナ軍はその後、3番目の西側にある小さな町々を繋いだ線に沿った4番目の防衛線を保持しようとするだろう。




 この4番目の防衛線が、ドネツク州におけるウクライナ側の最後の防衛線となるだろう。その防衛線は、9月の終わりには落ちているだろう。

 3番目と4番目の防衛線に対するロシア側の動きは、南からの援軍に支援されるだろう。南では、ザポリージャ地方やドネツク地方の未解放の地域がいずれ解放されるだろうからだ。

 これらの作戦とは別に、ロシアの司令官の手元には十分な数の部隊が存在しており、別の大きな攻撃を仕掛けることが可能だ。例えば、北からハルキウ地方に入り、現在は遙か東にあるロシア側の防衛線を攻撃している、ウクライナ軍を背後から襲うことも可能だ。

 ウクライナ駐留中のロシア軍の使命は、ロシアが独立国家であると承認している国々(ドネツク・ルガンスク両人民共和国)を解放することだった。さらに自分たちの居住地がロシア領であることに賛成票を投じた地域(ザポリージャ地方とヘルソン地方)の解放も含まれていた。
 
 ドネツク地方におけるウクライナ側の4つの防衛線がすべて破られれば、その使命は果たされたことになる。ただし、ドニエプル川の北にあるヘルソン地方の一部については別だ。この地域については、この地域だけに通用する別の作戦が必要となる。ロシアの司令官は、ウクライナ側の防衛線を保持しようとしてさらに多くのウクライナ側の部隊が破壊されるまで、この作戦の遂行を待つ気のようだ。

 今回の特別軍事作戦のもう一つの使命は、ウクライナを「非武装化」し、「非ナチ化」することだった。主要な諸都市を結んで引かれた防衛線をなんとしてでも保持しようとするウクライナ側の作戦は、大きな犠牲を生むことになった。ロシア側の砲撃力がウクライナ側よりも優れている理由は、枚挙にいとまがない。ロシア軍はその砲撃力を駆使して、防衛線を保持しようとするウクライナ軍を破壊しようとするだろうが、自軍側の損失はほとんど出ないだろう。

 今日(2023年1月11日)のウォール・ストリート・ジャーナル紙には、ついにこんな記事が出た。「ウクライナの戦い方では勝利はできない」と。

 西側(そしてウクライナ側の何名か)の当局者、兵士、専門家たちが、懸念を深めているのは、ウクライナ政府がバフムト戦においてロシア側に有利にことを進められていることだ。戦略的意義の薄い町にウクライナが頑なにしがみついているうちに、春に行う計画にしていた攻撃に必要な兵が奪われることになるかもしれない状況なのだ。バフムトの西の高台に新しい防衛線を引いて、そこまで退却した方がいいのではないかという声もある。その意図は、そのような撤退をしても、統率の取れた形で軍を組織でき、ウクライナ軍の戦闘能力を保持できるからだ。「私が言っているのではないですよ。“自軍にとって都合の良い場所に陣取っている敵と戦うべきだ”と考えたのはレオニダス1世なんです。」とバフムトで参戦中の一人のウクライナ側の司令官が、テルモピュレの闘いでペルシャ軍と闘ったスパルタの王を引き合いに出して述べている。 「今のところ、ロシア側とウクライナ側の損失を見比べれば、ロシア側が勝っています。このような状況が続けば、我が軍の兵は枯渇してしまうでしょう。

 このウクライナ兵が言っていることは正しい。しかし、戦い方を変えることになれば、動員に遅延が生じ、退却の手間もかかることになり、そこから局地的な反撃を開始することになる。そのためには多くの武器、戦車、歩兵戦闘車両が必要となるが、そのようなものはもはやウクライナ側にはない。さらにそのような戦い方の変更をすれば、そのような戦い方の訓練を受けた部隊や編隊が必要となる。ウクライナが実施した9度目の徴兵措置で召集された60歳くらいの年老いた郵便配達員が、たった2週間の訓練期間でそんな戦い方を会得するのは不可能だろう。

 もし、この戦争が始まる前に撤退した正規ウクライナ軍が、防衛線上の都市から撤退することを許され、機動的な複合兵器戦術を使って遅延-後退-反撃を行っていたなら、ことはうまく進んでいたことだろう。しかし、今ウクライナ軍はロシアの砲撃に破壊される一方になっている。それはウクライナ当局が何としてでも都市や防衛線を保持する戦術に固執しているからだ。米国は今になってやっと、ウクライナ軍に対して、複合兵器使用法と共同演習の訓練を開始する。ただ、今の状況への対処としては、全く不十分で、かつ遅すぎる措置だ。

 現在報じられている記事のことを言えば、今日NBCから以下のような偽ニュースの見出しが出た。

プーチンはたった3ヶ月で、ロシアによるウクライナで戦争の司令官の首を取り替えた!」

 ワレリー・ゲラシモフが、セルゲイ・スロヴィキンの任を引き継いだ。スロヴィキンは今後、ゲラシモフの副官の一人となる、とロシア国防相が1月11日(水)に伝えた。

 ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、ウクライナでの戦争を主導する司令官を、任命後たった3ヶ月で入れ替えた。ワレリー・ゲラシモフ将軍が、セルゲイ・スロヴィキンの後任をつとめることになる、とロシア国防相が、1月11日(水)にテレグラム上で発表した。この動きは、ウクライナ当局が、これまでの戦場での敗北を逆転するような、ロシアに対して新たな大攻撃を計画していると警告したことを受けてのものだった。

 上の記事は誤報だ。官位の呼び方が変わっただけだ。

Russians With Attitude @RWApodcast – 16:09 UTC · Jan 11, 2023 私の理解では、1から2に代わっただけだ。



 スロヴィキンが更迭や降格されたわけではなく、ゲラシモフが昇進したわけでもない。スロヴィキンはウクライナの戦場での指揮を執り続けることになる。今回の人事異動は、司令官が果たすべき責任を変えたわけではなく、特別軍事作戦全体の重要性を高め、この作戦を軍司令官の最優先課題に据えたということだ。
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「民主主義よ、永遠なれ!」 ブラジル大統領ルーラの就任演説

<記事原文 寺島先生推薦>

Democracy Forever! President Lula’s Inaugural Address to Parliament and the National CongressDemocracy Forever!

出典:INTERNATIONALIST 360° 

2023年1月1日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月28日

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ブラジル国民から大統領のたすきをかけられた後、国会議事堂で行われた演説の全文


 まず、皆さん一人ひとりに心からのご挨拶をしたいと思います。私の人生の中で最も困難な時期の一つであったにもかかわらず、「ルーラの自由行動」に代表されるブラジル国民から毎日受けた愛情や力を思い出し、それに報いたいのです。

 今日、私の人生で最も幸せな日のひとつであるこの日に、私があなたがたに贈る挨拶は、これ以上ないほど簡潔でありながら、同時にとても意味深いものです。

こんにちは、ブラジル国民のみなさん!

 みなさん、どうもありがとう! みなさんは選挙戦の前、選挙戦の最中、そして選挙後に政治的暴力に直面しました。みなさんはSNSを通し、さらには街頭に立ち、晴れた日も雨の日も貴重な一票を獲得するために活動してくれました。

 みなさんは勇気をもって私たちのシャツを身に着けてくれました。同時にブラジル国旗も振ってくれました。暴力的で反民主的な少数派が私たちの肌の色を検閲し、すべてのブラジル人のものである緑と黄色のブラジル国旗を自分たちだけのものにしようとした状況の中でのことでした。

 飛行機で、バスで、車で、トラックの荷台で、近くから、遠くから、この国の津々浦々から来てくれたみなさん。バイクで、自転車で、そして徒歩で、この民主主義の祭典のために、まさに希望の宣伝隊をしてくれたみなさん。

 しかし、他の候補者を選んだ方々にも申し上げたい。私は、2億1500万人のブラジル人のために政治を行いますが、それは私に投票した人のためだけではありません。

 私は、すべての人々のために政治を行います。分裂と不寛容の過去という後方鏡(バックミラー)を通してではなく、私たちの明るい共通の未来を見つめて政治を行います。

 永久に戦争状態にある国、あるいは心が通い合わない生活を送る家族、そんなものがいいと思う人などいません。ヘイトスピーチや多くの嘘の流布によって壊された友人や家族との絆を取り戻すときが来たのです。

 ブラジル国民は、民主的な体制で生きることを拒む、急進化した少数派の暴力を拒絶しています。

 憎しみ、虚偽のニュース、銃や爆弾はもうたくさんです。ブラジル国民は、働き、学び、家族の世話をし、幸せになれる平和を望んでいます。

 選挙の論争は終わりました。10月30日の勝利後の声明で、国を統合する必要性について述べたことを繰り返します。

 「ブラジルの基盤は2つではありません。私たちは一つの国、一つの国民、偉大な国家なのです。」

 私たちは皆、ブラジル人であり、決してあきらめないという同じ美徳を共有しています。

 たとえ、花びらを一枚一枚抜かれても、植え替えをすれば春が来ることを私たちは知っているのです。そして、春はもうそこまで来ています。

 今日ブラジルは喜びに満ち溢れています。希望を持って腕を組み合っています。

親愛なる友人のみなさん

 私は最近、2003年に初めて大統領に就任したときの演説を読み返しました。それを読んでみると、ブラジルがどれほど後退したかがほんとうによくわかりました。

 2003年1月1日、まさにこの広場で、親愛なる副大統領のジョゼ・アレンカルと私は、ブラジル国民の尊厳と自尊心を回復させるという公約を掲げ、それを実行しました。最も必要とする人々の生活環境を改善するために投資すること、そしてそれを実行したのです。健康と教育に細心の注意を払うこと、そしてそれを実行したのです。

 2003年に私たちが取り組むと誓った主な公約は、不平等と極度の貧困との闘い、この国のすべての人に毎日朝昼晩の食事をとる権利を保障することでした。そして私たちはこの公約を果たし、飢餓と悲惨な状態を終わらせ、不平等状態を大幅に減らしました。

 残念ながら、20年後の今日、私たちは、埋めたと思っていた過去に戻りつつあります。私たちが行ったことの多くは、無責任かつ犯罪的な方法で元に戻されたのです。

 不平等と極度の貧困が再び増加しています。飢餓が復活したのです。それは運命の力でもなく、自然の営みでもなく、神の意志でもありません。

 飢餓の復活は、ブラジル国民に対して行われた、最も深刻な犯罪です。

飢餓は不平等の娘であり、ブラジルの発展を遅らせる大きな悪の母です。不平等があると、この大陸的な大きさを持つ私たちの国は、お互いがお互いを認めない自分だけの世界に分割され、ちっぽけな国になってしまいます。

 一方では、すべてを手に入れることができるごく一部の人々の世界があります。片や、何もかもが不足している多数の人々の世界。そして、年々貧しくなっている中間層の人々の世界です。

 団結すれば、私たちは強いのです。分断された状態では、私たちの国はいつも、絶対に手の届かない未来の国のままでしょう。国民は永久に負債を抱えて生きることになります。

 もし私たちが未来を今日築きたいのなら、もしすべての人が十分に発展した国で暮らしたいのなら、こんな不平等状態は許されるはずがありません。

 ブラジルは偉大な国です。国の本当の偉大さは、その国の人々の幸福の中にあります。そして、こんな不平等の中では、誰も本当の意味で幸せにはなれません。

友人のみなさん、

 私が「統治する」と言ったのは、「大切にする」という意味です。統治する以上に大事なことです。私はこの国とブラジル国民を大きな愛情を持って大切にします。

 ここ数年、ブラジルは再び世界で最も不平等な国のひとつとなりました。街角でこれほどまでに人々が見捨てられ、落胆した様子をしているのを私たちが目にするのはずっとなかったことです。

 子供の食べ物を探しにゴミを掘り起こす母親たち。

 寒さと雨と恐怖と向き合いながら野外で寝泊まりする家族。

 学校に通い、子供としての権利を十分に発揮すべきときに、お菓子を売ったり、お金を無心する子供たち。

 信号待ちで「助けてください」と書かれた段ボールの看板を掲げている失業者たち。

 飢えをしのぐための骨を求め、肉屋の門前に並ぶ行列。そして片や、輸入車や自家用ジェット機を購入するための行列も。

 このような社会の深い溝は、真に公正で民主的な社会の構築や、近代的で豊かな経済の実現を阻むものです。

 こういった理由で、副大統領のジェラルド・アルクミンと私は、本日、皆さんとすべてのブラジル国民の前で、あらゆる形態の不平等と日夜闘う任務に取り掛かります。

 所得、性別、人種における不平等。雇用市場、政治的代表権、国家公務員の経歴における不平等。健康、教育、その他の公共サービスを受けることにおける不平等。

 最高の私立学校に通う子供と、学校も未来もなくバス停で靴磨きをする子供との間の不平等。贈られたばかりのおもちゃに喜ぶ子供と、クリスマスイブに飢えで泣く子供との間にある不平等。

 食べ物を捨てる人と残飯しか食べない人の間の不平等。

 受け入れがたいのは、この国の5%の富裕層が他の95%の所得と同じだということです。

 ブラジルの億万長者6人が、国内の最貧困層1億人の資産に匹敵する財産を持っています。

 最低賃金労働者が、超富裕層が1ヶ月で収入と同じ金額を受け取るには19年かかるということ。

 そして、高級車の窓を開けたとき、陸橋の下に身を寄せ、何一つ持たない兄弟姉妹たちが目に入らないとしても、そんなことは意味がありません。現実は、身近などんな街角にもあるのです。

友よ。

 私たちが偏見や差別、人種差別の中で生き続けることは容認できません。ブラジルは多くの肌の色を持つ国であり、すべての人が同じ権利と機会を持つべきです。

 誰一人、二流市民にはさせません。誰一人も国家からの支援に差がつけられることをなくします。誰一人として肌の色の違いで直面する困難に差が出ることをなくします。

 そのため、私たちは人種平等省を再興し、奴隷制の過去の悲劇的な遺産を葬り去ろうとしているのです。

 先住民族は、自分たちの土地に線が引かれる違法で略奪的な経済活動の脅威から解放される必要があります。また、彼らの文化を守り、尊厳に敬意を払い、その持続可能性を保証する必要があります。

 彼らは開発の障害ではなく、河川や森林の守護者であり、国家としての偉大さの根幹を成す存在なのです。だからこそ私たちは、500年にわたる不平等と戦うために、先住民族省を設立するのです。

 私たちは、女性へ憎しみに満ちた抑圧をそのままにしておくことはできません。女性たちは街頭や家庭で日々暴力にさらされています。

 同じ仕事をしているのに、女性が男性より低い給料をもらい続けているのは受け入れがたいことです。政治、経済、あらゆる戦略的分野において、女性にこの国の意思決定機関でより多くの活躍の場を確保する必要があります。

 女性はなりたいものになり、いたい場所にいなければなりません。そのために、私たちは女性省を復活させるのです。

 私たちが選挙に勝利したのは、不平等とそれが引きずるものと戦うためでした。そして、それが私たちの政府の偉大な証となるのです。

 この根本的な戦いから、変貌した国が生まれるでしょう。偉大で、繁栄し、強く、公正な国。万人の、万人による、万人のための国。誰一人置き去りにしない、寛大で連帯感のある国です。

親愛なる同志たち、親愛なる仲間たち

 私は、すべてのブラジル人を大切にします。特にそれを最も必要としている人たちを大切にすることを再度約束します。この国の飢餓はもう一度終わらせるのです。貧しい人々を骨と皮の状態から、きちんと予算の恩恵に浴する状態に戻すのです。

 私たちは、計り知れない遺産を持っています。それはブラジル人一人ひとりの記憶の中に今も生きています。この国に革命をもたらした公共政策の受益者であろうとなかろうと関係ありません。

 私たちは過去に生きることに興味はありません。ですから、懐旧(ノスタルジー)とは距離を置きます。私たちの遺産が、常に、私たちがこの国のために築き上げる未来を映し出す鏡となります。

 歴代政権下で、ブラジルは記録的な経済成長と、歴史上最大の社会的包摂を両立させました。世界第6位の経済大国となり、同時に3600万人のブラジル人が極度の貧困から脱け出しました。

 私たちは、署名入りの労働カードとすべての権利が保証された2,000万人以上の雇用を創出しました。私たちは、最低賃金を常にインフレ率以上に再調整しました。

 私たちは、ブラジルを商品や原材料だけでなく、知性や知識の輸出国にするために、幼稚園から大学までの教育への投資において記録を更新しました。

 私たちは、高等教育の学生数を2倍以上に増やし、この国の貧しい若者たちにも大学の門戸を開きました。白人の若者も、黒人の若者も、先住民の若者も、大学の学位は手の届かない夢だったのが、医者になったのです。

 私たちは、不平等を大きな争点の1つと戦いました。健康になる権利です。なぜなら、生命に対する権利は、銀行にあるお金の量を人質とすることはできないからです。

 私たちは、薬を必要とする人々に薬を提供する「大衆薬局」と、大都市の郊外や遠隔地に住む約6,000万人のブラジル人に医療を提供する「もっと多くの医師を!」を創設しました。

 私たちは、すべてのブラジル人の口腔内を大事にするために、「笑顔のブラジル」を創設しました。

 私たちは、SUS(「スス」、健康保険制度)という我が国唯一の健康制度を強化しました。そして、この機会に、パンデミック時のSUSの専門家たちの偉大な仕事ぶりに特別な感謝を捧げたいと思います。彼らは、致死的なウイルスと無責任で非人道的な政府に同時に勇敢に立ち向かいました。

 私たちの食卓に届く食料の70%を担っている家族農業と中小農家に、私たちは政府として投資しました。そして、毎年、いろいろな投資先を確保し、記録的な収穫を得る農業経営を無視することなく、これを実行しました。

 気候変動を抑制するための具体的な対策を講じ、アマゾンの森林伐採を80%以上減らしました。

 ブラジルは、不平等や飢餓との闘いにおいて世界の基準としての地位を固め、その積極的で誇り高い外交政策によって国際的に尊敬されるようになりました。

 私たちは、国の財政に責任を持ちながら、これをすべてやり遂げることができました。私たちは、公金に対して無責任なことは決してしていません。

 毎年財政を黒字化し、対外債務を解消し、約3700億ドルの外貨準備を積み上げ、国内債務をほぼ半分に減らしました。

 私たちの政府では、これまでも、これからも、(無駄な)支出は一切ありません。私たちは、これまでも、そしてこれからも、最も貴重な財産であるブラジル国民に投資していきます。

 残念ながら、13年間で築いたものの多くは、その半分以下の時間で破壊されてしまいました。まず、2016年のディルマ大統領に対する政権転覆工作(クーデター)によって。そして、国土破壊を進めた政府の4年間の遺産を歴史が許すことは絶対にないでしょう:

① 70万人のブラジル人がCovidで死亡しました。

② 1億2500万人の人々が、中程度から極度の食料不足で苦しんでいます。

③ 3300万人の人々が飢えようとしています。

 これはほんの一部の数字に過ぎません。実際は単なる数字、統計、指標では収まりません。みんな人間なのです。悪政の犠牲となった男性、女性、そして子どもたちです。その悪政も2022年10月30日という歴史的な日に、ついに国民によって倒されました。

 2カ月にわたって前政権の中枢を探った移行内閣の専門部会は、悲劇の実像を明らかにしました。

 この数年間、ブラジル国民が被ったのは、ゆっくりと進行する大量虐殺の積み重ねでした。

 その例として、移行内閣が作成した、まさに混沌(カオス)のような状態を記録した100ページに及ぶこの報告書から少し引用してみます。報告書にはこう書かれています:

 「ブラジルは女性殺人の記録を更新し、人種平等政策は深刻な挫折を味わい、若者政策が廃止され、先住民の権利がこれほどまでに侵害されたことは、最近の歴史上なかった。

 2023年度から使用される教科書はまだ出版されておらず、Farmácia Popular(大衆薬局)では薬が不足し、COVID-19の新型に対応するワクチンの在庫もない。

 学校給食の購入資金が不足し、大学では学期を修了できない恐れがあり、民間防衛や事故・災害防止のための資金もない。この停電のツケを払っているのは、ブラジル国民だ。」

 親愛なる友よ、

 この数年間、私たちは間違いなく、歴史上最悪の時代のひとつを生きてきました。影と不安と多くの苦しみの時代。しかし、この悪夢は、国の再民主化以来最も重要な選挙において、主権者の投票によって終わりを告げました。

 ブラジル国民が民主主義とその制度に責任をもっていることを証明した選挙です。

 この民主主義へ向かう途轍もない勝利のおかげでは、私たちは前向きになれます。そして私たちの間の違いを忘れさせてくれます。そんな違いなど私たちを永遠に結びつけるものに比べれば取るに足らないほどちっぽけなものです。すなわちそれはブラジルへの愛であり、私たち国民への壊れることのない信頼です。

 今こそ、希望と連帯、そして隣人への愛の炎を再び燃え上がらせるときです。

 今こそ、ブラジルとブラジル国民を再び大切にする時です。雇用を創出し、最低賃金をインフレ率以上に再調整し、食料の価格を引き下げる時です。

大学にさらに多くのワクチン枠を創り、健康、教育、科学、そして文化に多額の投資をしてください。

 今は消えてしまった前政府の怠慢によって放棄されたインフラ工事とMinha Casa Minha Vida(「私たちの家、私たちの生活」)*を再開してください。
*2009年3月にルーラ政権によって創設されたブラジルの連邦住宅プログラム。所得が1,800レアルまでの家庭には自分の家またはアパートの取得を補助し、所得が9,000レアルまでの家庭には物件の入手条件の敷居を下げる。 2018年、カイシャ・エコノミカ・フェデラル紙は、この事業によって1,470万人が物件を購入したと報告している(ブラジル人口の7%)。(ウィキペディア)

 今こそ、投資を呼び込み、ブラジルを再工業化する時です。気候変動と再び戦い、バイオマス(生物の総量)、特にアマゾンの荒廃をきっぱりと止めましょう。

 国際的な孤立状況を打破し、世界のすべての国との関係を回復します。

 不毛な恨みを抱いている場合ではありません。今こそ、ブラジルは前を向き、再び微笑む時なのです。

 このページをめくり、私たちの歴史に新しい決定的な章を共に刻もうではありませんか。

 私たちの共通の課題は、すべてのブラジル人のために、公平で、包括的で、持続可能で、創造的で、民主的で、そして主権を持った国家を作ることです。

 私は選挙期間中、ずっと言い続けてきました。ブラジルにはやり方がある。そして、移行内閣が明らかにした破壊を前にしても、私はもう一度、確信を持って言います:

 ブラジルは良い国です。それは私たち、私たち全員にかかっています。

 私は任期の4年間、350年以上にわたる奴隷制の後進性を克服する努力を、ブラジルのために、毎日尽くしてゆきます。この数年間に失われた時間と機会を回復させます。世界におけるブラジルの地位を回復させます。そして、ブラジル人一人ひとりが再び夢を見る権利を持ち、その夢を実現する機会を得られるようにします。

 ブラジルを再建し、変革するために、みんなで力を合わせる必要があります。

 この国を不平等にしているすべてのものに対して全力で戦ってこそ、この国を本当に立て直し、変革することができるのです。

 この課題は、一人の大統領や一国の政府だけが担うべきものではありません。社会全体を巻き込んだ不平等に対する広範な戦線を形成することが急務であり、必要なのです:

 労働者、企業家、芸術家、知識人、知事、市長、議員、組合、社会運動、階級団体、公務員、リベラルな(個人の自由を重んじる)専門家、宗教指導者、そして一般市民から成る広範な戦線です。

 団結と再建の時です。

 だからこそ私は、より公正で強固な、そして民主的なブラジルを望むすべてのブラジル人に、不平等に対する大きな集団的努力に参加するよう呼びかけるのです。

 最後に、皆さん一人ひとりにお願いします。今日の喜びが、明日の、そしてこれから来るすべての日の戦いの原材料となりますように。今日の希望が、すべての人に分け与えられるパン種となりますように。

 そして、民主主義を妨害し破壊しようとする過激派によるいかなる攻撃に対しても、平和と秩序のもとに、常に対応できるようになりますように。

 ブラジルのための戦いにおいて、私たちは敵が最も恐れる武器、すなわち嘘を克服した真実、恐怖を克服した希望、そして憎悪を克服した愛を用いるでしょう。

ブラジル万歳。そして、ブラジル国民よ、万歳。

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ルーラ大統領の国民会議に向けた就任演説(2023年1月1日)

 私は、この国民議会に出席するのは3回目です。ブラジル国民の皆様からいただいた信任に感謝します。私は、ジェラルド・アルクミン副大統領と、ブラジルのために共に働いてくれる閣僚たちとともに、共和国憲法への忠誠を誓う気持ちを新たにしています。

 私たちが今日ここにいるのは、ブラジル社会の政治的良心と、この歴史的な選挙戦を通じて私たちが形成した民主主義的戦線のおかげです。

 今回の選挙では、民主主義が偉大な勝利者でした。かつてないほど大規模な官民を動員した動きに打ち克ちました。それは投票の自由に対する最も暴力的な脅威でした。有権者を操作し困惑させるために企てられた最もひどい嘘と憎悪に満ちた運動でした。

 国家の資源が、権威主義的な権力事業のためにこれほど流用されたことはありませんでした。公共の機械がこれほどまでに共和制の支配から脱線させられたことはありませんでした。有権者が経済力と産業規模で流布される嘘によって、これほどまでにがんじがらめになったことはありませんでした。

 あらゆる(困難な)状況にもかかわらず、投票箱の判断が全国に広まったのは、投票の捕捉と集計の効率性において国際的に認められている選挙制度のおかげでした。司法、特に上級選挙裁判所の勇気ある態度は、投票箱の真実がその反対者の暴力に打ち勝つための基本的なものでした。

下院議員のみなさま、

 私は、1988年の憲法制定議会に参加したこの下院本会議に戻り、国民の利益と国家主権のために、社会的、個人的、集団的権利の最も幅広い枠組み憲法に記すために、民主的にここで戦った闘争を、感動をもって思い起こします。

 20年前、私が初めて大統領に選ばれた時、副大統領のジョゼ・アレンカル氏とともに、就任演説を「変革」という言葉で始めました。私たちが意図した変革は、憲法上の教訓を具体化することでした。まず、飢餓のない、尊厳ある生活を営む権利、雇用、健康、教育が確保できるようにすることです。

 私はその時、「ブラジルのすべての男女が1日3食を食べられるようになれば、私の人生の使命は達成される」と言いました。

 今日、この約束を繰り返さなければならないのは、克服していた惨状が進み、飢餓が復活している中にあって、近年、この国に押し付けられている荒廃の最も深刻な事態と言ってもいいからなのです。

 今日、私たちがブラジルに伝えるメッセージは、希望と再建です。1988年以来、この国が築き上げてきた権利、主権、および開発という偉大な建造物は、近年、組織的に取り壊されてしまいました。私たちは、この権利と国家の価値という建物を再建するために、あらゆる努力を傾けるつもりです。

紳士、淑女のみなさま、

 2002年、私たちは、希望が恐怖に勝ったと言いました。それは労働者階級の代表が国の運命を司るという前例のない選挙に直面し、恐怖を克服したという意味でした。8年間の政権運営で、私たちは恐怖が杞憂であることを明らかにしました。そうでなければ、私たちは再びここにいることはないでしょう。

 労働者階級の代表が、持続可能な方法で、すべての人、特に最も貧しい人々の利益のために経済成長を促進するために、社会と対話することが可能であることが示されたのです。予算や政府の決定に労働者や最貧困層を含め、最も幅広い社会参加によって、この国を統治することが可能であることが示されたのです。

 今回の選挙戦を通じて、市民権、基本的権利、健康、教育を促進する公共政策が破壊された結果、苦しんでいる人々の目に希望が輝いているのを見ました。私は、寛大な祖国、息子や娘に機会を与える祖国、積極的な連帯が盲目的な個人主義よりも強い祖国の夢を見たのです。

 政府移行局から受けた診断結果は、ひどいものでした。医療資源は枯渇しています。教育、文化、科学、技術は解体されました。環境保護は台無しにされました。学校給食、予防接種、公安、森林保護、社会扶助のための資源は何も残されていません。

 彼らは、経済、公的資金、企業や起業家、外国貿易への支援の運営を混乱させました。国有企業や公的銀行を荒廃させ、国有財産を手放しました。国の資源は、超過利潤を求める人間や公企業の民間株主の強欲を満たすために収奪されました。

 私は、この恐ろしい廃墟の上で、ブラジルの人々とともに、国を再建し、再びすべての人の、すべての人のためのブラジルを作るという決意を固めたのです。

紳士淑女のみなさま、

 私は、このような財政難に直面し、ただ生きていくために国家を必要とする膨大な層の人々を支援できるような提案を国民議会に提出しました。

 下院と上院が、ブラジル国民の緊急な困窮事態に敏感に反応したことに感謝します。権力の調和を歪める事態に直面した連邦最高裁判所と連邦会計検査院の極めて責任ある態度を心に銘記します。

 私がそうしたのは、飢えている人に我慢を求めるのは、公平でも正しくもないからです。

 いかなる国家も、国民の不幸を踏み台にして、立ち上がることはなく、また立ち上がることもできません。

 国民の権利と利益、民主主義の強化、そして国家主権の回復は我々の政府の柱となるでしょう。

 この取り組みは、ボルサ・ファミリア計画の刷新、強化、公平性を保証し、それを最も必要とする人々に奉仕することから始まります。私たちの最初の行動は、3,300万人を飢餓から救い、今日終わりつつある国家破壊の計画の最も重い負担を負っている1億人以上のブラジル人を貧困から救い出すことが目的です。

紳士淑女のみなさま、

 今回の選挙過程は、異なる世界観の対比によっても特徴づけられました。私たちは、国の運命を民主的に定義するための連帯と政治的・社会的参加を中心に据えていました。彼らの中心行動は、個人主義、政治の否定、個人の自由と称する名目で行われる国家の破壊でした。

 私たちが常に守ってきた自由は、尊厳を持って生きる自由、表現、デモ、そして組織の完全な権利を持って生きる自由です。

 彼らが説く自由とは、弱者を抑圧し、相手を虐殺し、文明の法より強い者の法を押し付けるものです。その名は、野蛮です。

 私は、(政治への関わりという)旅を始めた当初から、自分の出自にしっかりとこだわりつつ、自分が形成された政治陣営よりも広い戦線の候補者にならなければならないことを理解していました。この戦線は、この国への権威主義の復活を防ぐために確立されました。

 今日から、情報公開法が再び施行され、「透明の表玄関(Transparency Portal)」がその役割を再開し、公共の利益を守るために共和制的管理が行使されます。私たちは、国家を個人的・思想的な意図に従わせようとした人々に復讐するつもりはありませんが、法の支配を保証します。過ちを犯した者は、正当な法的手続きの下で、被告としての十分な権利を持って、その過ちに答えることになります。ファシズムに扇動された敵に直面して、私たちが受けた負託は、憲法が民主主義に付与する権限を用いて守られるでしょう。

 憎しみには、愛で応えましょう。嘘には、真実で応えましょう。テロと暴力には、法とその最も厳しい結果で対応しましょう。

 再民主化の風の下で、私たちは言いました:独裁はもういらない!と。今日、私たちが克服した恐ろしい試練の後、私たちはこう言わなければなりません:民主主義よ、永遠に!と。

 これら言葉を確かなものにするためには、我が国の民主主義を確固たる基盤の上に再構築する必要があります。民主主義は、憲法に書かれた権利をすべての人に保証する限りにおいて、国民によって守られるものです。

紳士淑女のみなさま、

 本日、私は、行政機関の構造を再編し、政府が再び合理的、共和的、民主的に機能するようにするための措置に署名します。国の発展における国家機関、公的銀行、国有企業の役割を救いあげます。環境的・社会的に持続可能な経済成長の方向へ、官民の投資を計画します。

 27州の知事との対話を通じて、無責任に中断された建設計画を再開するための優先順位を定めます。Minha Casa, Minha Vida (公共住宅事業)を再開し、ブラジルが必要とする速さで雇用を創出するための新しいPACを構築します。国内消費市場の活性化と拡大、貿易、輸出、サービス、農業、工業の発展のために、国内外を問わず、投資への融資と協力を求めていきます。

 この新しい循環(サイクル)では、BNDES(ブラジル国立経済社会開発銀行)を中心とする公的銀行と、成長と技術革新を誘発するペトロブラス*のような企業が基本的な役割を果たすことになるでしょう。同時に、雇用と所得の最大の担い手である中小企業、起業家精神、協同組合主義、創造経済を後押ししていきます。
*ブラジルの国営石油会社

 経済の歯車は再び回り始め、その中心的な役割を果たすのが国民の消費活動です。

 私たちは、最低賃金の恒久的評価方針に戻ります。そして、いいですか、INSS(国立社会保障院)に行列を作らなければならないあの恥ずべき状態に、もう一度終止符を打つことを確約します。私たちは、政府、組合中央、企業の三者構成で、新しい労働法について対話を行うつもりです。社会的保護とともに雇用の自由を保証することは、この時代における大きな課題です。

紳士淑女のみなさま、

 ブラジルという国は、その潜在的生産力を放棄するには大きすぎます。燃料、肥料、石油プラットホーム(利用環境施設)、マイクロプロセッサー(極小電子部品)、航空機、そして人工衛星などを輸入するのは意味がありません。産業化とサービスの提供を競争力のある水準で再開するための技術力、資本、そして市場は十分にあります。

 ブラジルは世界経済の最前線に立つことができますし、そうあるべきです。

 技術革新を支援し、官民の協力を促し、科学技術を強化し、適切な費用での資金調達を保証する産業政策によって、デジタル移行を明確にし、ブラジルの産業を21世紀に導くことは、国家の責任であると言えるでしょう。

 未来は知識産業に投資する人たちのものであり、科学技術革新省、民間・国立銀行、研究推進機関とともに、生産部門、研究所、大学との対話で計画された国家戦略の目標となるでしょう。

 他のいかなる国も、ブラジルが持っているバイオエコノミー(生物経済)の創造性と生物多様性に基づく環境大国となるための条件を持っていません。私たちは、持続可能な農業と鉱業、より強力な家族農業、より環境に優しい産業へのエネルギーと生態系の移行を開始します。

 私たちの目標は、アマゾンの森林破壊をゼロにし、劣化した牧草地の再利用を促進するとともに、電気生成部門で温室効果ガスの排出をゼロにすることです。ブラジルは、戦略的農業の先進性を維持・拡大するために、森林伐採をする必要はないのです。

 私たちは、土地での繁栄を奨励します。創造し、植え、収穫する自由と機会は、これからも私たちの目標であり続けます。私たちが認めることができないのは、それが無法地帯になるということです。私たちは、力を持たない人々に対する暴力、森林伐採、環境破壊を許さないでしょう。それらはすでにこの国に多くの害を与えてきています。

 これが、先住民族省を設立した理由のひとつですが、それだけではありません。太古の昔からここにいる人たちほど、私たちの森を知り尽くし、森を守ることができる人はいないのです。区画整理された土地は、それぞれ環境保護のための新しい領域です。このようなブラジル人に対し、私たちは敬意を払わなければならないし、歴史的な負債を負っています。

 先住民族に対して行われたすべての不正を撤回しましょう。

紳士淑女のみなさん、

 国家は、それがどんなに強い印象を私たちに与えようと、統計だけでは計れません。人間と同じように、国家はその国民の魂によって真に表現されるものです。ブラジルの魂は、私たち国民の比類なき多様性と、その文化的表現にあります。

 私たちは文化省を再創設し、近年啓蒙主義によって妨害されていた文化財を大事にしようとする機運と文化財に近づく権利に関する政策をもっと力を入れて再開させたいと思っています。

 民主的な文化政策は、批判を恐れたり、自分のお気に入りだけを選んだりすることはできません。すべての花を咲かせ、創造性の果実を収穫し、検閲や差別なしに、誰もがそれを楽しむことができるようにしましょう。

 アフリカの祖先の汗と血で築かれた国で、黒人と褐色肌の人々が貧しく抑圧された多数派であり続けることは容認できません。私たちは、人種平等推進省を創設し、健康、教育、文化における黒人と褐色肌の人々のための政策の再開に加え、大学や公務員における定員割り当て制の政策を拡大しています。

 同じ仕事をしても、女性の賃金が男性より低いのは容認できません。男性中心の政治の世界で、女性が認められないことも、容認できません。女性が街頭や職場で平気で嫌がらせをされることも、容認できません。女性が家庭の内と外で暴力の犠牲になっていることも、容認できません。私たちはまた、ここ何世紀も続く不平等と偏見の牙城を取り壊すために、女性省を再創設しています。

 一人の人間だけが悪者にされる国には、真の正義は存在しないでしょう。人権省は、すべての市民が、公的・私的サービスの確保、偏見からの保護、公権力からの保護において、その権利を尊重されるように保証し、行動する責任を負うことになります。市民権とは、民主主義の別名です。

 法務・公安省は、平和が最も必要とされる場所において、連合体の権限と組織を調和させ、平和を促進するための行動を起こします。すなわち、それは貧しい地域社会においてであり、組織犯罪や民兵、暴力の被害を受けやすい家族の内部においてです。暴力がどこから来るのかは問いません。

 私たちは、ブラジルの家庭に多くの不安と害をもたらした、武器と弾薬の入手を拡大する政令を撤回します。ブラジルは武器を増やしたいのではなく、国民のために平和と安全を望んでいるのです。

 神の庇護のもと、私は、ブラジルでは、信仰はすべての家庭、さまざまな寺院、教会、礼拝に存在することができることを再確認し、この任務を開始します。この国では、誰もが自由に宗教性を発揮することができるのです。

紳士淑女のみなさま、

 もう終わろうとしていますが、Covid-19の大流行は歴史上最も大きな悲劇のひとつでした。ブラジルほど、人口比で死亡者数が多い国は他にありません。ブラジルは、単一保健制度の能力により、健康上の緊急事態に最もよく対処できる国の一つです。

 この逆説は、否定論者政府の犯罪的な態度、反啓蒙主義、生命への無頓着さによってのみ説明できます。この大量虐殺の責任は明らかにされなければならないし、罰せられないで済ますことはできません。

 今、私たちにできることは、パンデミックの犠牲となった約70万人の親族、両親、孤児、兄弟、姉妹に連帯することです。

 SUS(健康保険機構)は、1988年の憲法で作られた機関の中で、おそらく最も民主的な機関です。そのため、それ以来最も迫害され、また、支出上限と呼ばれる馬鹿げた制度によって最も損害を受けてきました。この制度は撤回されなければなりません。

 私たちは、基本的な医療を保証するために保健医療予算を回復させ、大衆薬局、専門医療の確保を促進するつもりです。教育予算を再建し、大学の増設、技術教育、インターネット利用の普遍化、保育所の拡大、全日制の公教育への投資を行います。これこそ、真に国の発展につながる投資です。

 私たちが提案し、投票によって承認された形は、責任、信頼性、予測可能性への取り組みを必要とし、私たちはそれをあきらめることはないでしょう。予算、財政、金融の現実主義、安定性の追求、インフレの抑制、契約の尊重をもって、私たちはこの国を統治してきました。

 他のやり方はありえません。それをさらにもっとよいものにしなければならないでしょう。

紳士淑女のみなさま、

 今回の選挙では、世界の目がブラジルに注がれていました。ブラジルが再び気候危機との闘いにおける主導者となり、民主的な手順を踏みながら、所得分配を伴う経済成長を促進し、飢餓と貧困と闘うことができる、社会的・環境的に責任ある国の模範となることを、世界は期待しています。

 メルコスール*をはじめとする南米統合の再開、ウナスール**の再活性化など、この地域における主権的な協調の事例を通じて、私たちが主人公たらんとする姿勢は具体化されるでしょう。その上で、米国、欧州共同体、中国、東欧諸国などの主要国との誇りある活発な対話が可能となるでしょう。BRICSの強化です。アフリカ諸国との協力です。そして我が国が追いやられている孤立を打破することが可能になるのです。
*1991年のアスンシオン条約と1994年のウロ・プレト議定書により設立された、南アメリカの貿易圏である。 日本語では、南米南部共同市場または南米共同市場と訳される。日本の外務省やJETRO、JICAなどは、前者を用いることが多い。 アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイが正加盟している。(ウィキペディア)
**南米諸国連合(UNASUR: スペイン語: Unión de Naciones Suramericanas)は、2007年に結成された「同一通貨、同一パスポート、一つの議会」を目指す南アメリカの政府間機構。南米国家共同体ともいう。事務局はエクアドルのキト、南米議会はボリビアのコチャバンバ、南米銀行(英語版)はベネズエラのカラカスに所在。2010年代に入ると組織を牽引してきた各国のリーダーが相次いで退陣。国際会議の開催が行われなくなった上に複数の加盟国が脱退したため、組織として停滞傾向にある。(ウィキペディア)


 ブラジルは自国の支配者、運命の支配者にならなければなりません。主権国家に戻らねばならないのです。私たちは、アマゾンの大部分と広大なバイオマス(生物総量)、大規模な帯水層、鉱床、石油、クリーンなエネルギー源に対して責任を負っています。主権と責任によって、私たちはこの偉大なものを人類と共有することができるのです。連帯です。絶対に従属ではありません。

 ブラジルの選挙から導き出された意義として、ついに、(ブラジルという)民主主義の模範とも言える国が直面してきた様々な脅威が目に見えてきました。地球上のいたるところで、権威主義的な過激派の波が、透明な統制の及ばない技術的手段によって憎悪と嘘を広めながら、その形を明確にしています。

 私たちは表現の自由を完全に守り、信頼できる情報を入手できる民主的な事例を作り、憎しみと嘘の毒を接種する手段の責任を追及することが急務であると認識しています。これは、戦争、気候危機、飢餓、地球上の不平等を克服するのと同様に、文明の課題です。

 私は、ブラジルと世界のために、政治がその最高の意味において、そしてそのあらゆる限界にもかかわらず、異なる利害の間の対話と合意の平和的構築のための最良の方法であるという確信を再確認するものです。政治を否定し、政治の価値を下げ、犯罪化することは、専制政治への道につながります。

 私の最も重要な使命は、今現在、私が受けた信頼を守り、未来や困難を克服する能力への信頼を決して失わない、苦しんでいる人々の希望に応えることです。国民の力と神のご加護のもと、私たちはこの国を再建していきます。

民主主義、万歳!

ブラジル国民、万歳!

ご清聴ありがとうございました。

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翻訳:Internationalist 360°

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ポーランドの元将軍がウクライナ難民の「動員」を提案

<記事原文 寺島先生推薦>

Polish general proposes ‘mobilizing’ Ukrainian refugees
Even 100 Western-made tanks would not help Kiev defeat Moscow’s forces, the former Land Forces commander believes

西側製の戦車が100台あったとしても、ウクライナ軍がロシア軍を倒すことはできないであろう、とこの元陸軍司令官は考えている。

出典:RT

2023年1月19日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月26日



2022年12月20日、アルチョモフスク市内のウクライナ兵たち© Global Look Press / Cover Images


 西側諸国は、ロシアとの戦争から国外に逃れたウクライナの難民を「動員」し、訓練を施し、前線に送るべきだと、ポーランドの退官将軍であるヴァルデマール・スクルジプチャク氏が木曜日(1月19日)に述べた。ただし、ウクライナが勝利を手に入れるために西側にできることがあるかどうか、ポーランド陸軍の元司令官である同氏が疑念を表明した。

 NATO は、ウクライナ「軍」をポーランド、ドイツ、フランスで結成することを始めるべきであると、スクルジプチャク氏はポーランドの報道機関である「Wポリティチェ社」に語り、西側はウクライナに戦う気があるかどうかを問うことさえもすべきではない、とも付け加えた。「動員し、徴兵し、軍に入れる。それだけだ」と同氏は語った。

 しかし、ポーランド国防省顧問や国防副大臣をつとめた経歴のある同将軍は、ウクライナがこの先迎えるであろう厳しい状況について語った。



関連記事:ワグナー軍事民間会社がドンバスで重大な戦果を挙げたと発表


 「ウクライナ側にはこの戦争に勝てる軍事的な機会はありません」と同氏は述べ、ロシアに勝てる唯一の方法は、政治的や経済的にロシアを「窒息」させるしかないとも語った。スクルジプチャク氏は、近代的な西側製の戦車を供給したとしても、戦場ではほとんど効果がないという考えを示した。

 「100台の戦車があっても状況は変わらない。ロシアはウクライナに対して何倍も有利な状況を構築している。ウクライナ側に100台のレオパルト戦車があったとしても、ロシアには勝てないだろう」と同将軍は述べた。




関連記事:米国はウクライナからの武器の要求をほぼ受け入れずーポリティコ誌の報道


 ポーランドとフィンランドは、ドイツ製レオパルド2の戦車をウクライナに送ることを考えていた。英国もチャレンジャー2戦車10台を送ると約束していた。ドイツは、このような考えにはずっと抵抗しており、ドイツの同意なしに、ドイツ製の軍事装置をウクライナに送ることは不当であると警告していた。

 スクルジプチャク氏の捉え方によると、ドンバス地方に関してはロシアがしっかりと抑えており、この地域を失えば、ウクライナは「農業国」に陥ってしまう、とのことだ。さらに同氏は、ロシアがウクライナ全土を手中に入れる計画をたてているという考え方には疑念を表明し、実行不可能だとした。

 西側による軍事支援はウクライナ側を、「戦えるが勝てない」状況に追いやるのみだ、と同将軍は述べ、「すべてのウクライナ国民を戦場で死なせる」つもりか、と疑問を呈した。

 ロシアは昨年2月にウクライナへの軍事作戦を開始したが、その理由はドンバス地域の人々を守るためであり、さらにウクライナが2014年から15年に定められたミンスク合意を履行しないからだとしていた。いっぽうウクライナは、ロシアによる攻撃は完全に謂われのないものだと主張している。

 ロシアが何度も西側に対して警告してきたのは、ウクライナに武器を送ることは、戦争を長引かせ、ロシアとNATOが直接に戦火を交える危険を増やすことにしかならないという点だ。
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ロシアは、ドニエプルのミサイル爆発でウクライナを非難

<記事原文 寺島先生推薦>

Russia blames Ukraine for deadly Dnepr missile blast
The tragedy would never have happened if Ukraine had not illegally stationed air defenses in a residential area, Moscow's UN envoy said.

ウクライナが住宅地に防空手段を不法に設置しなければ悲劇は起こらなかった、とモスクワの国連特使は述べた。

出典:RT

2023年1月18日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月25日


ロシア連邦のワシーリー・ネベンジャ国連特使© Spencer Platt / Getty Images / AFP


 ウクライナによる国際人道法を無視した行為により、南東部に位置するドニエプル市のミサイル爆発が恐ろしい結果をもたらすことになった、とロシアのワシーリー・ネベンジャ国連常任特使は火曜日(1月15日)に述べた。

 国連安全保障理事会でのウクライナでの人権問題についての記者会見で発言したネベンジャ特使は、先週住宅で起こったミサイル事件について触れ、少なくとも45名が亡くなり、79名が怪我をしたと述べた。さらに同特使は、西側は「この事件の真の背景、つまりこの事件が、ウクライナ当局によって起こされたものである」ことについては一切口をつぐんでいる、と述べた。

 ネベンジャ特使の説明によると、「エネルギー基盤施設を狙ったロシアのミサイルが、ウクライナの航空防衛設備により撃ち落とされた」とのことだ。さらに、この航空防衛設備が「国際人道法上の規範に反して住宅地に設置されていた」ため、「このミサイルは住宅に落下した」と同特使は付け加えた。

 ウクライナ当局が国際法を遵守していたのであれば、「こんな悲劇は決して起こらなかっただろう」とネベンジャ特使は主張した。さらに、ウクライナ当局が、「ロシアの特別軍事作戦が実行された原因について触れるような、現実的な条件で交渉する用意があったならば、ロシアがウクライナの基盤施設を標的にする必要はなかっただろう」とも述べた。



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 さらに同特使は、「ドネツク地方の諸都市で、ウクライナ空軍による空爆がほとんどやむことなく続けられ、数え切れない犠牲者を出していることについて、何の非難の声も上げて」いないとして、西側諸国を非難した。

 「このミサイル事件に関しては、キエフ政権は、意図的に軍事施設が存在しない住宅地を標的にしていた」とネベンジャ特使は述べた。

 1月14日、ロシアはミサイル攻撃を行ったが、これは、「ウクライナの軍事指揮統制部や関連するエネルギー施設」を標的にしたものだったと、ロシアの国防相は述べている。同日、一発のミサイルがドニエプル市内の住宅地に着弾した。

 この事件を受けて、ウクライナのヴォロデミル・ゼレンスキー大統領の顧問を務めていたオレクシイ・アレストビッチ氏は、その発射体が住宅建築に落下したのは、ウクライナの航空防衛設備が撃ち落としたためだと述べた。この発言が多くのウクライナ当局者からの怒りを買い、アレストビッチ前顧問は辞任に追い込まれた。元顧問はさらに、自身の発言が、「重大な間違いだった」と謝罪した。

 ロシア当局は10月上旬、ウクライナ側の生活基盤施設への爆撃を強化したが、その理由は、ウクライナ側が戦略的に重要なクリミア橋爆撃行為などのロシア領内での破壊工作を繰り返し行っているためだとしていた。

 「ロシア軍は、住宅や社会基盤施設を標的にはしていない。攻撃目標は軍事施設に限定されている」と、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者団に語った。
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ウクライナ、原子力発電所に武器を貯蔵―ロシアの主張

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukraine storing weapons at nuclear plants – Russia
Kiev is using the facilities as cover for stockpiles of Western-made munitions, Moscow's foreign intelligence chief says

ウクライナ当局は原子力発電所を、欧米製軍需品を備蓄する隠し場所として使用している、とロシアの対外情報庁長官が発言

出典:RT

2023年1月23日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月25日


ウクライナのロブノ原子力発電所© Wikimedia

 ウクライナ軍は西側が供給したミサイルや大砲の砲弾を原子力発電所内で備蓄している、とロシアのセルゲイ・ナルイシキン対外情報庁長官が月曜日(1月23日)に述べた。同長官によると、ウクライナは原子力発電所を軍需品備蓄の隠し場所として使っているとのことだ。

 「ウクライナ軍は、西側が供給した武器や弾薬を原子力発電所の敷地内で保管しているという信頼できる情報がある」とナルイシキン長官は、同対外情報庁のウェブサイトに投稿した。さらに同長官よると、その武器の中には、対外防空体系で使用される米国製のHIMARS(M142 高機動ロケット砲システム )発射機用のロケットとミサイル、そして「大口径砲」もあるとのことだ。

 ナルイシキン長官によると、12月最終週だけでも、「強力な武器」を積んだ数台の自動車が、鉄路でロブノ原子力発電所に届けられていたという。「ウクライナ側は、原発事故の危険性がわかっているため、ロシア軍は原子力発電所には攻撃してこないという計算に基づいて行動している」と同情報庁長官は語った。

ウクライナの対空ミサイルが「進路を外す」事件が再度起きてしまえば、その備蓄された武器が激しく爆発し、原子力発電所が破壊されることになるが、その悲劇の責任をロシア側に押しつけるということは常に考えられることだ。

 昨年2月のロシア・ウクライナ間の紛争勃発以来、ロシア側もウクライナ側も、原子力発電所の安全について懸念を表明している。国際原子力機関(IAEA)は先週、ロブノ原子力発電所を監視下に置き、ウクライナ国内の他施設の専門家たちを常駐させることを確約している。

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 ロシアは、欧州最大規模の原子力発電所であるザポリージャ原子力発電所を砲撃したとしてウクライナ軍を非難している。同原子力発電所は、同名のザポリージャ地方に位置しており、その地方は以前ウクライナ領であった三地方とともに、9月の住民投票の結果、ロシアへの編入が決まった地方である。

 ウクライナ当局はその原子力発電所を標的にしたことは否定し、ロシアがその原子力発電所を軍事基地として利用し、兵たちを隠していると主張していた。ロシア当局は、重装武器が同原子力発電所に配備されたことはないが、その原発が戦争の前線に位置していることから、少数の武装した警備員が同原子力発電所の安全を維持している、としている。


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ドイツ外相、法律の「穴」がロシアを保護していると発言

<記事原文 寺島先生推薦>

German FM says ‘hole’ in law protects Russia

Annalena Baerbock wants rules changed so the West can judge Moscow for Ukraine “aggression”
アンナレナ・バーボック独外相は、西側諸国がモスクワのウクライナ「侵略」を裁けるよう、規則の変更を望んでいる

出典:RT

2023年1月16日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月25日



アンナレナ・バーボック独外相© Andreas Gora - Pool/Getty Images


 現行の国際法には抜かりがあり、西側がウクライナに「侵攻」したロシアを罰することができないため、「新しい法体制」が必要である、とアンナレナ・バーボック独外相は、月曜日(1月16日)に述べた。これは同外相が、ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)での演説の中で述べたもので、オランダを訪問中のことだった。

「私たちは、ウクライナや他の同盟諸国と協力して、ウクライナに対する侵攻を犯罪行為として審議する法廷を設置することについて話し合いました」とバーボック外相が述べた、とドイツ国営放送のドイチェ・ヴェレ(DW)が報じた。

 このような法廷は、ウクライナ国内法に基づいて設置されることになるが、国際的な要素を採り入れることができる。「ウクライナ国外の友好諸国からの資金面での支援や検察官や裁判官の派遣が可能になり、公平性や正当性が保てる」とのことだ。

 バーボック外相によると、既に先週、この考えについてウクライナのドミトリー・クレバ外相とも話し合っており、このような提案は、「私から見ても理想的な形ではない」としながらも、「現行の国際法には穴がある」ため、そのような手続きが必要となっていると述べた。



関連記事: 「有権者の思いがどうあれ」ドイツは、ウクライナを支援する―ドイツ外相の発言


 バーボック独外相は、この演説について、先週のツイートではさらに踏み込んで、国際法には、「説明責任という観点から、侵略という犯罪行為に対する記述が欠けている」と述べた。この投稿において同外相は、ローマ規程(ICC設立時に決められた規程)を書き換え、侵略行為が犯罪と認められるのは、その侵略の被害を受けた国が、ICC の管轄内にあるという条件だけで可能な形にできるよう求めていた。

 ICCが、ウクライナで行われたとされる残虐行為を捜査し、刑を執行することは可能だが、これまでロシア側もウクライナ側も、それらの行為がローマ規程違反に当たるとして、裁判を起こす構えは見せていない。ウクライナは、ICCに対して「特別免除」を付与し、ウクライナ領内で行われた戦争犯罪をICCが裁けるような体制をとっている、とDWは報じている。

 キエフ当局は、ロシアの政権指導部を戦争犯罪の裁判にかけることを前提のひとつとしなければ、和平交渉に応じない姿勢を示している。ロシア側はこのような要求は、「意味がない」と斥け、このような裁判は全く不当なものである、と主張している。

 ICCは、旧ユーゴスラビアで行われた戦争犯罪を裁いた特別裁判 (ICTY)を手本にして設立された。この特別裁判は、NATO諸国の資金援助のもと、捜査や裁判が行われ、判決が下された。2002年、ローマ規程が施行される前に、米国議会は、米国民がICCに協力したり、米国市民がICCの裁判にかけられることを禁止する法案を可決していた。さらにこの米国軍人保護法(ハーグ侵略法という名でも知られている)の規定によれば、「必要かつ適切な全ての手段を駆使して」、拘束されたいかなる米国民(同盟諸国民も含めて)をICCから解放するとされている。
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ウクライナ紛争の「戦犯」バイデンを弾劾せよ(米民主党ケンタッキー州知事候補)

<記事原文 寺島先生推薦記事>

Impeach ‘war criminal’ Biden over Ukraine – US Democrat
Kentucky gubernatorial candidate Geoffrey Young has accused the president of perpetuating an “illegal proxy war”

ケンタッキー州知事候補のジェフリー・ヤング氏は、大統領が「違法な代理戦争」を永続させていると非難している。

2023年1月15日

記事翻訳 <寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月24日

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先月、ウクライナ大統領ウラジミール・ゼレンスキー氏がワシントンを訪問した際、ホワイトハウスに迎え入れるジョー・バイデン米国大統領。© Getty Images / Drew Angerer


 米国ケンタッキー州の知事選に立候補しているジェフリー・ヤング氏(Geoffrey Young)は、ジョー・バイデン氏がウクライナや他の国々で戦争犯罪を犯していると非難し、旧ソ連共和国(=ウクライナ)でロシアに対する違法な代理戦争を行ったとして大統領を弾劾すべきであると述べた。

 ヤング氏はツイッターの投稿で「ジョー・バイデン(民主党の戦争犯罪人)はウクライナ、イエメン、シリア、イラクなどでの戦争犯罪のために直ちに弾劾されるべきだ。」 と述べた。そしてさらに「もちろん、ウクライナでロシアに対する違法な代理戦争を続けていることに対してもだ。1945年以降のすべての米大統領(トランプを含む)も全員、戦争犯罪人だ」と付け加えた。

 MIT(マサチューセッツ工科大学)で学んだ経済学者で、州政府の環境エンジニアとして働いてきたヤング氏は、昨年、ケンタッキー州議会第6区で民主党の指名を受け、波紋を広げた。彼は選挙期間中、モスクワとの「合理的な」和平案を追求することで、ロシアとの核戦争防止に貢献すると公約した。また、キエフ政権を「ナチスの傀儡政権」と呼び、CIAは排除されるべき「今日の世界で最悪のテロ組織」であると述べた。

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関連記事:米国は「最後のウクライナ人まで」ロシアと戦わせるつもりだ(モスクワ発)


 ヤング氏は5月にケンタッキー州の民主党予備選挙で勝利した後、11月の中間選挙で現職の共和党下院議員アンディ・バーに挑戦するため立候補した。しかし民主党は氏に対する支持を拒否した。氏が、バイデン大統領は無謀にも中国を挑発し、シリアとイラクに違法に軍隊を配備し、ウクライナと一緒になってロシアに対する「共同交戦国」となっていると非難したからである。このような行為はアメリカをロシアによる「攻撃対象国*」にしかねないとヤング氏が批判したので、それが民主党幹部を遠ざけたのであった。
*co-belligerent 正式の同盟条約を結んでいない共同戦争参加国

 先の2022年中間選挙から1週間も経たないうちに、66歳のヤング氏は、自らを「平和民主党」と称し、2023年のケンタッキー州知事選への出馬を表明した。現職の民主党知事であるアンディ・ベシア(Andy Beshear)を「まだ起訴されていない重罪人」だと非難し、落選させることを狙っている。

 ヤング氏はウクライナ紛争を米国とNATOの「勝つ見込みのない戦い」と呼び、2021年12月にモスクワからの和平提案を拒否したバイデン政権を非難している。「ロシアがこの戦争に負けることはありえないし、ウクライナとNATOがそれに勝つこともありえない」と彼は先週述べている。


私のまとめ:ウクライナ&NATOはまだ決定的に負けていて、ロシアはまだ決定的に勝っている。これは2022年3月の始めから今日までずっとそうである。ロシアがこの戦争に負けることはありえないし、ウクライナ&NATOが勝つこともありえない。
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ウクライナはもう時間切れだ。米元高官2名の主張

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukraine running out of time – former US officials

コンドリーザ・ライスとロバート・ゲイツは、更なる武器の供給は、ウクライナを苦しませることになるとの考えを主張

出典:RT

2023年1月7日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月24日



元部下のロバート・ゲイツ元国防長官(左)とコンドリーザ・ライス元国務長官と話しているジョージ・W. ブッシュ元大統領(右)© Getty Images / Chip Somodevilla


 ロバート・ゲイツ元国防長官とコンドリーザ・ライス元国務長官は、ウクライナの経済と軍はほぼ完全に西側からの緊急援助に依存していて、 劇的な状況の転換がなければ、ウクライナが勝てる好機は失われるだろうと認めた。

 ウクライナの「経済は崩壊状態にある」とこの元外交官と国防総省の元最高幹部は、土曜日(1月7日)にワシントン・ポスト紙に寄稿した。

 ウクライナの「軍事力と経済は、現在西側からの救援にほぼ完全に依存している」と両氏は続け、ウクライナが近い将来戦果を収めなければ、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と休戦交渉をするよう、西側から圧力を受けることになるだろうと主張していた。なお、ウクライナの指導者であるゼレンスキーは、この休戦交渉の検討を繰り返し拒んでいる。

 秋以降、前線では比較的膠着状態が続いてきたが、ここに来てロシア軍は、敵のウクライナを、バフムート/アルチェモフスク戦線において粉砕している。米国の傭兵団の司令官は先日、この戦線においてウクライナは、「尋常ではない数の戦死者」を出していると明言しており、ウクライナのカナダ大使であるヴァディム・プリスタイコ氏は、ウクライナ側の戦死者は、「多数」で「不明なほどである」としていた。

 ウクライナ政府は春に大規模な攻撃を行うことを明言しているが、ライス・ゲイツ両氏は、ウクライナが今の戦いを持ちこたえられるのは、「月単位ではなく週単位」の可能性がある、と書いている。

 最後に両氏は、ウクライナにさらに多くの、そしてさらに重装な武器を送ることを勧めていた。米国は2月以来、ウクライナに1100億ドル相当以上の軍事支援や経済支援を既に行ってきているが、両氏は米国政府は重戦車を供給する必要はない、と指摘している。ドイツなど「他の同盟諸国」が、米国の代わりにそのような武器を補給すべきだと両氏は主張していた。


関連記事:Ukraine conflict at 'critical point' – Biden

 金曜日(1月6日)、バイデン政権は、ウクライナに50機のブラッドリー歩兵戦闘車両を供与する予定であると発表した。この戦車は今までウクライナに送られた武器の中でもっとも近代的なものであり、総額30億ドルの武器支援の一環である。フランスも、車輪付きの「軽戦車」を多数供与すると誓約しており、ドイツは40機のマルダー歩兵戦闘車両の供与を約束している。

 しかしウクライナ政府は、さらに必要だとしている。先月(12月)のエコノミスト誌でのインタビューで、ウクライナのヴァレリー・ザルジニー将軍は、攻撃作戦を行うには、さらに300機の戦車と700機までの歩兵戦車両と500機の榴弾砲が必要だと述べていた。この数は、英国やドイツのこのような武器の全ての在庫の数を越えたものだ。

 これまでロシアは、ウクライナに武器を「注入」しても、結局はこの紛争の解決に何の効果もなく、戦闘を長引かせ、更なる流血を呼ぶだけだ、と主張し続けている。
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CDCは致命的なワクチンの副作用を調査せよ(米下院議員)

<記事原文 寺島先生推薦記事>

CDC must investigate deadly vaccine side effects – lawmaker
The US health agency had earlier acknowledged that Pfizer’s shots could adversely affect the elderly

米国保健機関は、ファイザー社の注射が高齢者に悪影響を与える可能性があることを以前から認めていた。

出典:RT

2033年1月14日

記事翻訳 <寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月24日


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フロリダ州マイアミのジャクソン記念病院で、ファイザーのコロナワクチンを注射器に充填する医療従事者(2021年10月5日) © AP / Lynne Sladky


 下院通商委員会のキャシー・マクモリス・ロジャーズ委員長は、米国疾病管理予防センター(CDC)に対し、ファイザー社の新型コロナワクチンと高齢者の脳卒中に関連がある可能性を「迅速に調査する」よう要請しました。CDCはその危険性を認めたが、生後6カ月以上のすべての人にブースター接種を受けることを引き続き推奨しています。

 CDCは金曜日(1月13日)に、ファイザーの二価ワクチン接種と、それを受けた65歳以上の成人の脳卒中の増加との間に関連があることを示唆する報告があったことを発表しました。同センターは、これらの報告を調査するとしながらも、「真の臨床的な危険」があることは「非常に考えにくい」とし、生後6カ月以上の人は関係なくワクチンを接種すべきだと主張しました。

 米国食品医薬品局(FDA)は今週、ファイザーがこの注射を市場に出す前に人間での試験を実施しなかったにもかかわらず、生後6カ月以上の乳児にこの二価のブースター注射を使用することを許可しました。


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関連記事:ツイター・ファイルがコロナの検閲キャンペーンを詳しく説明


 「過去3年間の透明性の欠如は、公衆衛生機関に対するアメリカ人の信頼を失墜させました」とマクモリス・ロジャーズ氏は金曜日に声明で述べました。「CDCとFDAは、ワクチンの安全性を監視する体制を持っており、その体制はこの安全性の予備的な警告を確認している」と彼女は続けました。今、これらの機関は、ワクチンが報告された脳卒中を引き起こした可能性があるかどうか、公明で透明な方法で、迅速に調査する必要があります」。

 共和党のマクモリス・ロジャーズ氏は、CDCとFDAの両方が、彼女の委員会で証言するために召集されるだろうと付け加えた。「そうすれば、アメリカ人の公衆衛生機関に対する信頼を回復するのを助ける長い道のりを私たちは歩み始めることができます」。

 FDAがファイザーのワクチンの緊急使用許可を初めて出してから、2年以上が経過しました。正式な承認は2021年末に行われましたが、その後、副作用の報告が表面化しました。このワクチンは、特に若い男性で心不全危険が高まるとの報告があり、こうした懸念を受けて、多くの欧州諸国がブースター接種の計画を停止しています。

 さらに、コロナワクチンは、2021年にファイザーCEOのアルバート・ブルラが自社製品は 「コロナの感染予防に100%有効」と主張したにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症の感染阻止に効果がないことが判明しています。
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CIAがブラジルで「マイダン蜂起」を企てた理由

<記事原文 寺島先生推薦記事>

Why the CIA attempted a‘Maidan uprising in Brazil
The failed coup in Brazil is the latest CIA stunt, just as the country is forging stronger ties with the east.

失敗に終わったブラジルでのクーデターは、CIAの最新の策略である。それは、ブラジルが東側と強い絆を築こうとしているときに起こった。

筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)

エスコバール

出典:The Cradle

2023年1月10日

出典:The Cradle

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>

2023年1月23日

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 元米国情報当局者は、1月8日にブラジリアで行われたマイダン*の雑な再現がCIAの作戦であることを確認し、イランにおける最近のカラー革命の試みと結びつけた。
*ウクライナで2014年に起こったマイダン・カラー革命を指す。

 日曜日(1月8日)、右派のジャイル・ボルソナロ前大統領の支持者とされる人々が、ブラジルの議会、最高裁、大統領官邸を襲撃し、警備用バリケードが手薄な箇所から侵入し、窓を叩き割り、貴重な絵画などの公共物を破壊しながら、当選したルイス・イナシオ「ルーラ」ダ・シルヴァ大統領を標的とする政権転覆計画の一環として軍事クーデターを呼びかけた。

 米国の情報筋によれば、性急な計画のもと行われたと思われるこの作戦をいま行う理由は、ブラジルがBRICS仲間であるロシア、インド、中国とともに、世界の地政学で再び地位を確立しようとしているからであるという。

 このことは、CIAの計画者たちが、ニューヨーク連銀のクレディ・スイス*銀行の戦略家だったゾルタン・ポズサーの熱心な読者であることを示唆している。ポズサーは、12月27日に発表した「戦争と商品負債」という画期的な記事の中で、「多極化した世界秩序は、G7の首脳ではなく、『東のG7』(BRICS加盟諸国)によって構築されている。なお、"BRICS "は本当はG5とすべきだが、『BRICStantion(拡大BRICS)』が進行しつつあるために、私が勝手に5を7に付け替えた」と述べている。
*クレディ・スイスは、スイス、チューリッヒに本拠を置く世界有数の金融機関
 
 彼はここで、アルジェリア、アルゼンチン、イランがすでにBRICS、いやその拡大版「BRICS+」への参加を申請し、さらにサウジアラビア、トルコ、エジプト、アフガニスタン、インドネシアが関心を示しているという報道について言及した。

 米国の情報筋は、CIAがブラジルで行ったマイダンと、イランで最近行われた一連の街頭デモが、新たなカラー革命の一環としてCIAの手によって行われたことを、並列して説明している。「ブラジルとイランにおけるこれらのCIAの作戦は、2002年にベネズエラで行われた作戦を参考に行われている。このベネズエラの暴動では、暴徒がウゴ・チャベスを拉致することに成功した。」


「東のG7」の登場

 CIAのトップに配置されたシュトラウス派のネオコンは、共和党や民主党といった政治的所属に関係なく、「東のG7」(つまりそれは、近い将来のBRICS+の体制のことだ)が急速に米ドルの軌道から外れていくことに憤慨している。

 米国大統領選への出馬への関心を表明したばかりのシュトラウス派のジョン・ボルトンは、南半球が新たな多極化体制の中で急速に再編成される中、トルコをNATOから追い出すよう要求している。

 ロシアのラブロフ外相と中国の秦剛外相は、中国主導の一帯一路構想(BRI)とロシア主導のユーラシア経済連合(EAEU)の融合を発表したばかりである。これは、21世紀最大の貿易・接続性・開発プロジェクトである「中国新シルクロード」が、さらに複雑になり、拡大し続けていることを意味する。

 このことは、米ドルに代わる新たな国際貿易通貨の導入が、すでに様々な段階で設計されていることを意味している。BRICSの内部での議論とは別に、ユーラシア経済連合(EAEU)と中国との間に設置された協議チームが重要な方向性のひとつとなっている。この協議が終了すれば、BRI-EAEUの友好諸国はもちろん、拡大したBRICS+にも提示されることになる。

 2000年代には、ロシアのプーチン大統領や中国の胡錦濤前国家主席と並んで、自国通貨建て貿易を含むBRICSの役割の深化を提唱したルーラが、途中中断はあったものの、これで三期目となる大統領としてブラジルを率いることは、BRICS+にとって大きな追い風となろう。

 ポズサーが定義した「東のG7」としてのBRICSは、新自由主義者と同様に、シュトラウス派のネオコンにとっても忌み嫌われる存在であることは言うまでもない。

 米国は、ロシアと中国の戦略的パートナーシップによる協調的な行動によって、ゆっくりと、しかし確実により広い意味でのユーラシア大陸から追い出されつつある。

 ウクライナはブラックホールであり、そこでNATOは、アフガニスタンが「不思議の国のアリス」のように見えるような屈辱に直面している。ワシントンから脱工業化を迫られ、米国の液化天然ガス(LNG)を途方もなく高い値段で買わされている弱々しいEUには、帝国が略奪するための必須資源もない。

 地理経済学的には、アメリカから見た「西半球」、特に巨大なエネルギー資源を持つベネズエラが重要な標的となる。そして地政学的には、この地域の主役はブラジルである。

 国際法や主権概念とは無関係に、ワシントンが 「我々の裏庭」と呼び続けるラテンアメリカで、中国やロシアの貿易拡大や政治的影響力を阻止するためにあらゆる手段を講じるのが、シュトラウス派のネオコンである。新自由主義があまりにも「あらゆるものを含み」、シオニストが鉤十字をつけるような時代で、モンロー主義*が強化されて復活したのである。
*モンロー主義とは、1823年、ジェームズ・モンローによって提唱され、アメリカ合衆国が、ヨーロッパ大陸に対して、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸の相互不干渉を提唱したことを指す。


すべては「緊張の戦略*」のため

*緊張の戦略とは、極右勢力や極左勢力の暴力を止めるのではなく、むしろ奨励することにより、市民たちに強力な政府を受け入れさせる戦略のこと。1960年代から1980年代にイタリアで取られた戦略として知られている。

 例えば、ブラジルのマイダンの手がかりは、フォートゴードン基地の米陸軍サイバー司令部で得ることができる。最近の大統領選挙を前に、CIAがブラジル全土に何百人ものスパイを配備したことは周知の事実であり、「緊張の戦略」の脚本に忠実だった。

 CIAの通信は2022年半ばからフォートゴードンで傍受されていた。そのときの主要目的は、『ルーラは不正行為によってしか勝てない』という話を広めることだった。

 CIAの作戦の主要な標的は、あらゆる手段でブラジルの選挙結果の信用を失墜させ、現在解明されつつある、あらかじめ用意されていた以下のような話に道を開くことであった。その話とは、敗北したボルソナロがブラジルから逃げ出し、ドナルド・トランプ前米大統領のマー・ア・ラゴ邸に避難するというものだ。実際、スティーブ・バノンの助言を受けたボルソナロは、ルーラの就任式を欠席してブラジルを脱出したが、それは遅かれ早かれ刑務所に入るかもしれないことを恐れているからであった。ところで、彼はマー・ア・ラゴではなく、オーランドにいる。

 かつてマイダンで挙げた成果にさらに味付けを加えたものが、この日曜日に起こったことだったのだ。CIAは、ブラジリアで2022年1月8日に起こったことを、2021年1月6日にワシントンで起こったこと(訳者:トランプ支持者たちによる米国国会議事堂襲撃事件)の映し鏡であるかのように工作したのだ。そしてもちろん、ボルソナロとトランプの間につながりがあることを人々の心に刻み込む目的もあった。

 ブラジリアの1月8日の手口の素人っぽさは、CIAの計画者たちが自分たちの筋書きで道に迷い込んでしまったことを示唆している。この茶番劇は、予想できるものであったはずだ。ポズサーの記事は、ニューヨークとワシントン政界を行き来している人なら誰でも読んでいるはずだから。

 はっきりしているのは、米国の強力な支配階級の一部の派閥にとって、何としてもトランプを排除することは、BRICS+におけるブラジルの役割を潰すことよりも重要だということである。

 「ブラジルのマイダン」の内部要因について言えば、小説家ガブリエル・ガルシア・マルケスの言葉を借りれば、すべてが「予言されたクーデターの年代記」にのっとって語られ、ことが進んでいたのである。特に、ソーシャルネットワーク上でこの事件を示唆する津波のような投稿があったことを考えれば、ルーラ周辺の治安組織がこれらの出来事を予見できなかったはずはない。

 だから、穏便に行動しようとする申し合わせがあったに違いない。そして、何かあったときの予防として、大きな棍棒を用意しておくこともしなかったのだ。ただ、新自由主義的ないつものおしゃべりだけが聞こえてきたのだ。

 何しろ、ルーラ内閣は閣僚の衝突が絶えず、数カ月前にはボルソナロを支持していた勢力がいるなど、混乱状態にある。ルーラは「国民統合政府」と呼んでいるが、どちらかといえば、つぎはぎ細工のようなものである。

 世界的に著名な物理学者で、NATO諸国での長期滞在を経て帰国したブラジル人分析家のクアンタム・バードは、「あまりにも多くの役者が登場し、あまりにも多くの利害が対立している」ことを指摘している。ルーラの閣僚の中には、ボルソナール支持者、新自由主義者、気候変動への介入主義者、アイデンティティ政治*の実践者、政治的新参者、社会運動家など、ワシントン帝国の利益とうまく連携している人たちが大勢いる」。
*ジェンダー、人種、民族、性的指向、障害などの特定のアイデンティティマイノリティーに基づく集団の利益を代弁して行う政治活動。(Wikipedia)


CIAに扇動された「過激派」が徘徊する

 もっともらしい筋書きの一つは、ブラジル軍の強力な部隊が、いつもはシュトラウス派のネオコン・シンクタンクやグローバル金融資本に仕えているが、国民の大規模な拒絶反応を考えると本当のクーデターを起こすことができず、せいぜい「ソフトな」茶番劇で済ませなければならなかったということである。このことは、この自己顕示欲が強く、腐敗しきった軍部が、いかにブラジル社会から孤立しているかを物語っている。

 クオンタム・バードが指摘するように、深く憂慮すべきことは、1月8日を非難することで各方面が一致した一方で、誰も責任を取らなかったことだ。これは、「研ぎ澄まされた珊瑚と飢えた鮫がはびこる浅瀬で、ルーラが事実上一人で航海していることを示している」という。

 ルーラの立場は、「自分の政府や関係当局の強力な支援もなく、たった一人で連邦政府の介入を決定したことは、即興的で無秩序で素人臭い対応を示している」ともバードは付け加えている。

 CIAが煽った「過激派」が何日も前からソーシャルメディアで公然と 「抗議」を組織していた後で、このようなことが起こったのだ。

 CIAの古い手口は相変わらずである。南半球で指導的な立場にある国のひとつであると誰もが認めるブラジルを転覆させることがこんなに簡単にできることは、いまだに信じられないことである。2021年初頭のカザフスタンや、ほんの数ヶ月前のイランを思い出してほしい。

 ブラジル軍の自己顕示欲の強い一派は、自分たちが国を支配していると信じているかもしれないが、もしルーラを支持する多くの大衆が1月8日の茶番劇に対して全力で街頭に出れば、軍の無力さが図らずも刷り込まれてしまうだろう。そして、これはCIAの作戦であるから、指示を出しているCIAは、手下である熱帯の国のブラジルの軍に、知らぬ存ぜぬを演じるように命令するだろう。

 残念ながら、未来は不吉である。米国の体制は、中国に次ぐ最高の潜在力を持つBRICS経済圏にあるブラジルが、ロシアと中国の戦略的友好関係と同調して、全面的に復活することを許さないだろう。

 ブラジルを含む「東のG7」が、世界の帝国支配が消え、米ドルの宗主権を終わらせる動きを見せれば、地政学的ジャッカルとハイエナとして認定されているシュトラウス派のネオコンと新自由主義者は、さらに凶暴化するだろう。
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「くるみ割り人形」:チャイコフスキーは世界で最も有名な曲のひとつであるこのバレエ音楽をいかに創り上げたか?

<記事原文 寺島先生推薦>

‘The Nutcracker’: How Tchaikovsky created one of the world’s most famous ballets
The masterpiece was first staged 130 years ago.

この傑作バレエは130年前に初演された。

筆者:アナスターシャ・サフロノーバ(Anastasia Safronova)

出典:RT

2022年12月31日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月23日

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© Aleksandr Kryazhev / Sputnik

 今年、「くるみ割り人形」は誕生から130周年を迎えた。ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの音楽にのせたこの傑作は、世界で最も有名なバレエであることは広く知られている。クリスマスや新年を祝うのに、「金平糖の踊り」や「トレパーク(ロシアの踊り)」は欠かせない。だから、「くるみ割り人形」が最初に公開された時、かなり冷ややかな目で迎えられたのは不思議なことである。




「このバレエを頭から消し去りたい」

 「くるみ割り人形」への取り掛かりは、チャイコフスキーにとって簡単なものではなかった。1890年、帝国劇場(現サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場)の館長イワン・ヴセヴォロフスキーから、1幕のオペラと2幕のバレエの注文を受ける。翌年、チャイコフスキーは作曲に取りかかるが、彼の手紙から察するに、この年は彼にとってかなり鬱憤の多い時期であったようだ。

 チャイコフスキーは、バレエよりもオペラに夢中になっていたらしい。彼はヘンリク・ヘルツのデンマークの戯曲「ルネ王の娘」を選び、「イオランタ」というタイトルのオペラを作曲しはじめた。チャイコフスキーは手紙の中で、「イオランタ」に「恋をしている」ことを書いている。そして、この作品がいかに魅力的であり、「観客を泣かせることができる」と期待していることを記している。一方、「くるみ割り人形」には「うんざり」と嘆き、何とか「頭から消し去りたい」と思っていたようだ。

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1892年マリインスキ劇場での「くるみ割り人形」の一場面© Sputnik

 チャイコフスキーはこのバレエの筋書きを自分で選んだわけではなく、ヴセヴォロフスキーと帝国劇場の振付師マリウス・プティパから発想をもらったのである。「くるみ割り人形」の物語は、ドイツのロマン派作家E.T.A.ホフマンによって書かれ、1816年に出版されたのが最初である。バレエ版の「くるみ割り人形」しか知らない人にとったら想像以上に、暗くて不気味な物語である。1844年にフランスの作家アレクサンドル・デュマが話を改変し、より軽く、子供向きの物語に仕上げている。

 振付家のマリウス・プティパはフランス人で、ドイツ語は話せなかったので、バレエにはフランス語版を使った。プティパは当初、台本にフランス革命を盛り込むよう求め、フランス革命時に流行した歌と踊りの「カルマニョール」を盛り込んだりもしていた。しかし、その後、その中身が変更され、革命との関連は一切なくなった。

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1892年マリインスキ劇場での「くるみ割り人形」の一場面© Sputnik

 「イオランタ」と「くるみ割り人形」は、どちらも1891年12月に上演される予定だった。しかし、チャイコフスキーにはもっと時間が必要だった。その年の4月、彼は弟に宛てて、自分が苦しんでいる「危機」について書き、ヴゼヴォロフスキーを「怒らせないよう」、1892年から1893年の上演期にオペラとバレエを上演させてほしいと頼んだことを明らかにした。チャイコフスキーは、「彼らは、私が座って5分でオペラを作曲できると考えているのだ」と叫んだ。実際、この時期は作曲家チャイコフスキーにとって多忙な時期であった。この年の5月にはアメリカに渡り、ニューヨークのカーネギーホールの開館式に参加した。


独特の効果を持った楽器

 しかし、「くるみ割り人形」への取り組みは、当初の失望を乗り越えるものをはらむことになった。チャイコフスキーはパリを訪れた際、パリ市民であるハルモニウム製作者オーギュスト・ムステルが発明し、フランスの作曲家エルネスト・コーションが初めて使用したチェレスタという全く新しい楽器を発見する。

 チャイコフスキーは、この楽器のサンクトペテルブルクへの輸送を指示する際、手紙の中で「私はこれ(チェレスタ)を誰にも見せないことを希望します」と書いている。「リムスキー=コルサコフやグラズノフがこの楽器を知って、私より先にその独特の効果を使うことを恐れているのです」。特筆すべきは、この手紙に書かれている二人が、ロシアの超有名な作曲家であることだ。

 チャイコフスキーは「金平糖の妖精の踊り」の音楽でチェレスタを使用した。




様々な反応

 チャイコフスキーは、このバレエの原稿を「熱に浮かされたように急いで」、そして自分の力量に「常に疑問を抱きながら」仕上げたと回想している。

想像力の衰えを感じながら、苦労してこのバレエを私は作曲した。

 チャイコフスキーは「『くるみ割り人形』は、前作のバレエ『眠れる森の美女』よりも『比べ物にならないほど酷い』」と嘆いている。



 1892年、振付師プティパは「くるみ割り人形」の仕事を助監督であったレフ・イワーノフに譲った。彼が振付を完成させた。12月に上演されたこのバレエは、非常に複雑な反応を見せた。批評家たちは「子供っぽい」「退屈だ」と言い、また「センスがない」とも非難した。

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関連記事:「今日はジャイブ、明日は反逆罪で訴えられる」:共産主義の弾圧を乗り越え、100周年を迎えたロシアのジャズ。


 それでもこのバレエは上映品目として残り、やがてサンクトペテルブルクを越えていく。1919年、モスクワのボリショイ劇場で「くるみ割り人形」は初めて上演された。その後、何度も改訂され、改訂のたびに物語が微妙に変化している。ボリショイ劇場の芸術監督を長く務めたユーリ・グリゴローヴィチが1966年に上演した「くるみ割り人形」は、最も成功した改訂版のひとつだと多くの批評家は考えている。現在もボリショイ劇場で上演されているが、新年期の公演チケットを入手するのは至難の業だ。

 マリインスキ劇場では、1934年にヴァシリー・ヴァイノーネンが創作した「くるみ割り人形」が現在も上演されているが、新しい舞台では芸術家ミハイル・チェミキンと振付家キリル・シモノフによる現代版も上演されている。

 後者の方が、伝統的な解釈より少し暗い感じがする。グリゴローヴィチ版とヴァイノネン版は、少女マリー(ロシア名マーシャ、クララと呼ばれることもある)が眠りに落ち、くるみ割り人形とネズミの軍団との戦いに参加する夢を見るという甘い童話である。そして、くるみ割り人形は王子に変身し、マリーをお菓子の国へと連れて行く。しかし、ケミキンとシモノフによる改訂版は、大人たちに誤解された孤独な子供の物語である。マーシャは想像の世界に逃げ込もうとし、くるみ割り人形との旅の果てに、巨大なケーキの上で砂糖の置物に変身するのだ。

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関連記事:ソ連崩壊後のロシアでは、新年はクリスマスよりも大きな祝祭日となっている。なぜ、そうなったのか?


世界中で上演される「くるみ割り人形」

 海外の観客に「くるみ割り人形」が紹介されるようになったのは、20世紀に入ってからである。当初は、世界的に有名なバレリーナ、アンナ・パブロワとその一行、そしてセルゲイ・ディアギレフのバレエ・リュス団員によって、バレエの断片が上演されただけだった。ディアギレフは、絶望的な財政状況を打開するために、伝統的なバレエで長期間大当たりする作品を作ろうと考え、チャイコフスキーの「眠れる森の美女」という別のバレエに賭けることにした。しかし、その作品は成功しなかった。しかし、彼の弟子であるジョージ・バランシンは、「くるみ割り人形」で、大成功を収めることになる。

 一方、バランシンに先立つ1934年には、ロシア革命で国外に逃亡した振付家ニコラス・セルゲイエフがロンドンで「くるみ割り人形」を上演している。現在、英国ロイヤル・バレエ団で上演されているのは、レフ・イワーノフの原振付の伝統に忠実なピーター・ライトの1984年版である。

 アメリカでは、1954年に上演されたバランシン版「くるみ割り人形」が旋風を巻き起こした。1944年、ウィリアム・クリステンセンがサンフランシスコ・バレエ団で上演したのが最初ではない。1944年、ウィリアム・クリステンセンがサンフランシスコ・バレエ団のために上演したものだ。しかし、「くるみ割り人形」を大当たりさせたのはバランシン版であり、今では毎年、全米で圧倒的な成功を収めている。1993年のクリスマス映画「ホーム・アローン」で主演をつとめたマコーレー・カルキンがくるみ割り人形を演じた際にも、この改訂版が使用された。




「キャンセル文化」の犠牲

 これだけの成功を収め、100年以上の歴史を持つにもかかわらず、「くるみ割り人形」は最近、「キャンセル文化」に苦しむ古典芸術作品の仲間入りをした。2021年、ベルリン国立バレエ団は、中国と東洋の踊りをめぐる懸念から、このバレエをクリスマスの上映品目から除外した。この演目には「人種差別的な要素」が含まれていると懸念したのだ。同じ年、スコットランド・バレエも いわゆる「文化を不適切な固定観念で捉えること」の排除に取り組むことを決めた。この目的のために、中国とアラビアに影響を受けた場面の衣装と振付を更新し、「風刺的要素を取り除く」ことにした。

 しかし、さまざまな葛藤や障害があっても、「くるみ割り人形」は世界中の舞台からすぐに消えることはなさそうである。その成功の秘密はどこにあるのだろうか。ソ連初期の重要な振付師で、革命後のクラシックバレエの遺産を多く残したとされるフョードル・ロプーホフは、このように説明している。「「くるみ割り人形」は非常に複雑だ。問題は、この物語をどう演じるかではなく、どう解釈するかです。その深みに沈み込んでゆくことです。そうしないと失敗しますよ」。
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孔子はマルクスと結婚するだろうか? 中国政治における正統性の追求

<記事原文 寺島先生推薦>

Will Confucius Marry Marx? The Quest for Legitimacy in Chinese Politics

筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)

出典:Global Research

2023年1月5日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月23日

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この記事の初出は2020年10月11日のアジア・タイムズである。


 中国の学者であるランシン・シャンは、『中国政治における正統性の探求』(The Quest for Legitimacy in Chinese Politics,) という本を書いた。この本は東西の政治的・歴史的格差に橋をかけようとする、ここ数十年で最も素晴らしい取り組みである。

 本書が喚起する議論の妥当性を短いコラムで示すことは不可能である。ここでは、その重要な論点をいくつか取り上げてみることにする。特に、それが中国恐怖症にいろいろ心を揺さぶられている環太平洋地域の事情通の読者の心に届くことを願いながら。

 シャンは根本的な矛盾に切り込んでいる:中国は、40年にわたる持続可能で歴史に残る好景気を享受しているにもかかわらず、民主的な正統性を欠いていると多くの西側諸国から非難されている。

 彼は、中国問題の主要な原因を2つ挙げている:

 「一方では、習近平が「儒教的正統性」や伝統的な「天命」を回復しようとする文化復興プロジェクトがある;他方、習近平はいかなる政治改革も始めない。なぜなら、既存の政治体制、すなわち、主にボルシェビキ・ロシアという国外に源を発する支配体制を維持することが最優先であるから。」

 そう、そこが難しいところ:「2つの目的は全く相容れない」。

 シャンの主張はこうだ。大多数の中国人(その国家組織と国民全体)にとって、この「国外に源を発するシステム」を永久に保持することは不可能。特に今は文化復興が「中国の夢」に焦点を当てているから。

 言うまでもなく、西側の学者たちはこの筋書きを完全に見逃している。西洋の政治学と「ヨーロッパ中心主義の歴史学」下での中国解釈にしがみついているからだ。シャンが本書で試みたのは、「ポスト啓蒙主義の用語法が生み出す概念的・論理的な罠に嵌らないよう、注意深く舵取りをすること」である。

 そのため、彼は「複数のマスターキーワード」の分析に重点を置いている。これは表意文字からそのまま取り出した素晴らしい概念である。そのキーワードとは、正統性、共和制、経済、外交の4つである。本書では、正統性(中国語で「hefa」)に焦点を当てている。


法が道徳を目的とする時

 シャンが「政治的正統性問題の元祖思想家」マックス・ウェーバーを論破していく様子を辿るのは楽しい。ウェーバーは「儒教の体系をかなりいい加減に研究した」と非難されている。彼は、儒教は平等、調和、良識、美徳、平和主義だけを強調するものであり、資本主義的な競争心を育むことなどあり得ないと主張していたからだ。

 シャンは、ギリシャ・ローマの伝統の始まりから、政治は常に空間的な概念―ポリス(都市や都市国家)という言葉に反映されている―と切り離せないと明言する。他方、儒教の政治概念は、「完全に時間的なものであり、支配者の日々の道徳的行動によって正統性が決定されるという動的な考えに基づいている」。

 シャンは、hefa(正統性)が実際には二つの概念を含んでいることを示す:「適合」と「法」―「法」は道徳に優先する。

 中国では、支配者の正統性は天命(Tian Ming)に由来している。不当な支配者は必然的に天命を失い、支配する権利を失う。これは「手続きに基づく議論ではなく、行為に基づく動的な議論」だとシャンは主張する。

 本来、天命とは、「天 tian (キリスト教の全知全能の神を擁する天ではなく)が、その道徳的資質と善良かつ公正な統治能力に基づいて皇帝に統治権を与える、という古代中国の信仰」である。

 その優れた点は、天命は神とのつながりや高貴な血統を必要とせず、時間的制約はまったくないことだ。中国の学者たちは、天命を権力の乱用に対抗するための手段だと解釈してきた。

 全体的に重要なポイントは、西洋と異なり、中国の歴史観は直線的ではなく、循環的である:     「正統性とは、実際、終わりのない道徳的な自己調整プロセスである」。

関連記事:中国パワーの限界。米中関係は2020年の大統領選挙に左右される

 シャンは次に、正統性についての西洋の理解と比較する。彼はジョン・ロックに言及し、ロックは、政治的正統性を被支配者の明示的・暗黙的な民衆の同意から導き出すとした。その違いは、中国人はキリスト教のように制度化された宗教を持たずに、「民衆の一般意志という世俗的な権威を通じて、つまり、彼らは人権の神性や『社会契約』といった架空の政治理論の力を借りずに正統性という動的な概念を」作り上げたことである。

 シャンの説に耳を傾けると、ライプニッツは、これを「中国人の自然神学*」と表現し、それはたまたまキリスト教の基本的教義と衝突しなかったことを、私たちにどうしても思い起こさせる。
*訳註:原文では出生神学(natal theology)となっているが、natural theologyの誤記と思われる。なお、ラテン語の表記は、theologia naturalis である。(Wikipedia)

 シャンは、また、天命が帝国とは無関係であることを説明する:「国民を移住させるために海外領土を獲得したことは中国の歴史上一度もなく、そんなことをしても支配者の正統性を高めることにはほとんどつながらない」。

 結局、天命は「『東洋の専制君主』の釈明にすぎない」と断じ始めたのは、大半はモンテスキューが原因だが、啓蒙主義者たちであった。シャンは、「近代以前のヨーロッパと非西洋世界との豊かな交流」が、「啓蒙主義以降の歴史家たちによって意図的に無視された」ことを指摘している。

 このことは我々を苦い皮肉に誘うことになる:「現代の「民主主義の正統性」はひとつの概念として、他のタイプの政治体制の正統性を否定する機能しか持ちえないが、 「天命」には他の統治モデルを軽んじる要素はまったくない」。「歴史の終わり」*なんてその程度のものだ。」。
*訳注:米国の政治経済学者フランシス・フクヤマに『歴史の終わり』(原題The End of History and the Last Man)という著作がある。彼はそこで、国際社会において民主主義と自由経済が最終的に勝利し、それからは社会制度の発展が終結し、社会の平和と自由と安定を無期限に維持するという仮説を提示している。(Wikipedia)


産業革命がないのはどうして?

 シャンの根本的な問い:「中国の成功は、欧米主導の世界経済システムに負うところが大きいのか、それとも自国の文化資源に負うところが大きいのか?」。

 そして、経済成長は西洋の自由民主主義のもとでのみ可能であるという神話を彼は丹念に論破していく。この神話は、繰り返しになるが、儒教は経済成長という任務には適していないとした啓蒙主義の遺産なのだ。

 1980年代から1990年代にかけて、シンガポール、香港、台湾、韓国といった東アジアの虎が台頭してきたとき、我々はすでにその神話の誤りを予感していた。さらに進んで、多くの社会科学者や歴史学者たちが、儒教は経済成長の刺激になり得ることを認めるようにさえなった。

 しかし、彼らは表面的な部分、つまり勤勉や倹約といった儒教の「核」とされる価値観にしか注目していない、とシャンは言う:「本当の「核」となる価値、儒教的な国家観や経済との関係はしばしば無視されている」。

 西洋において、一部の非欧米系の学者を除けば、中国が12世紀から19世紀後半まで世界を支配する経済大国であったことは、事実上、ほぼ完全に無視される。

 シャンが私たちに思い起こさせてくれるのは、私的所有権、自由な土地取引、高度に専門化した移動労働力など、市場経済が紀元前300年には中国で確立していたことだ。さらに「明時代の中国は、18世紀のイギリスの産業革命に不可欠だった大事な要素はすべて獲得していた」。

 このことは次のような根強い歴史的な謎に私たちを誘う:産業革命の開始が中国でなかったのはなぜか?
 シャンはその問い方を反転させる:なぜ伝統的な中国が産業革命を必要としたか?」

 再度シャンは次のことを私たちに思い起こさせる:「中国の経済モデルは、啓蒙主義の初期に非常に大きな影響を与えた。儒教的な経済思想がイエズス会によってヨーロッパに紹介され、自由放任主義(laisser-faire)などの中国的考え方が自由貿易思想につながった」と。

 シャンが示しているのは、どうして中国の政治・経済にとって対外経済関係はあまり重要でなかったのか、「中国の伝統的な国家観は、産業革命の基本的合理性と相容れない。というのも、産業革命の大量生産方式では国内市場だけでなく外国の領土征服も目指すことになるから」ということである。

 またシャンは、アダム・スミスの『国富論』のイデオロギー基盤が個人主義の自由主義に傾き始めるが、「孔子は個人主義に反対する立場を崩さず、経済の役割は特定の個人ではなく、全体として「人を豊かにする」ことにある」とも述べている。

 これらをまとめて考えると次の事実につながる:「現代の経済学では、西洋と中国の間の真の対話は最初からほとんど存在しない。なぜなら、啓蒙主義以後の西洋は、経済発展における「普遍的真理」と秘密を所有しているのは自分たちだけだ、と頭から信じて疑っていないから。だがそんなことは西洋以外の世界にとっては眉唾物とされてきた 」。

 中国で「経済」(jingji)が何を意味するのかを見てみると、もう一つのヒントが見つかる:「経済」(jingji)は、「単なる経済活動でもなく、商業活動でもないことを表す2文字の略語。「経済」は、「社会の日常生活を管理し、国家に十分な資源を提供すること」である。この考え方では、政治と経済は決して機械的に2つの領域に分離することはできない。政治体と経済体は有機的に結びついている」。

 だからこそ、中国が古代のシルクロードで大活躍していた頃も、対外貿易は 「経済全体の健全性や国民の幸福にとって重要な役割を果たすことはできない、と考えられていた 」のだ。


「無為」と「見えざる手」

 ここでシャンの主張の基本に立ち返る必要がある:西洋が自由市場を発明したのではない。自由放任主義(laisser-faire)は、アダム・スミスの「見えざる手」の前身であるフランソワ・ケネー(Francois Quesnay)が最初に概念化したものである。ケネーは当時、不思議なことに「ヨーロッパの孔子」と呼ばれていた。

 ケネーは『国富論』の9年前に書かれた『中国の専制君主』(Le Despotisme de la Chine)(1767年)で、学者に政治的権力を与えるという能力主義の考え方を率直に支持し、「啓かれた」中国の帝国制度を賞賛している。

 さらに実に興味深い歴史的な皮肉として、laisser-faireは道教の「無為自然」の概念から直接着想を得ていることをシャンは我々に思い起こさせてくれる。

 シャンが指摘しているのは、「アダム・スミスが、この laisser-faire(自由放任主義)を学ぶためにパリで出会ったケネーから深い影響を受け、「見えざる手」を考え出した時、wu wei(無為)の意味を正しく理解するようになったかもしれないこと、受動的ではなく主体的な経済システムを提案していること、そしてキリスト教の神学的側面は脇に置いたこと」である。

 シャンはロック、モンテスキューからスチュアート・ミル、ヘーゲル、ウォーラーステインの「世界システム」論までを検証し、驚くべき結論に到達した:「中国を典型的な「後進国」経済モデルとして捉えるのは、歴史的現実というよりも、西洋の文化的・人種的優越性の想像力に基づいて作られた20世紀のでっち上げであった」。

 しかも、ヨーロッパで「後方視的」という考え方が確立されたのは、実はフランス革命以降のことである:「それ以前は、"革命 "という概念は、常に "進歩的 "というよりもむしろ循環的な、つまり直線的な歴史的展望という側面があった。革命の本来の意味(「回転」を意味するラテン語revolutio)は、社会の進歩という要素を含んでいない。というのも革命とは、時の権力者に対して国民が反旗を翻したときに起こる政治権力や組織構造の根本的な変化を指すのだから」。


孔子はマルクスと結婚するか?

 そして、そのことは現代の中国に私たちを誘う。シャンは、共産党が「マルクス主義でも資本主義でもなく、その道徳的基準は儒教的価値体系とはほとんど関係がない」というのが中国の大衆的合意であることを強調する。その結果、天命は「深刻な損傷」を受けている。

 問題は、「マルクス主義と儒教を結婚させるのは危険すぎる」ということだ。

 シャンは、中国の富の分配の根本的な欠陥の実態は「富の生産に労働力を提供する人々からそうでない人々への、不公平な(そして違法な)富の移転の構造的プロセスを保証する制度にある」と指摘する。

 彼の主張:「儒教の伝統的価値観から逸脱しているから中国における所得分配の根源的な問題が生じる、という説明は、民主主義と公正な所得分配との間に明確な関連性を確立しようとしたウェーバー理論よりもすぐれた説明になっている」。


それでは何をすべきか?

 シャンは、19世紀に西洋が中国の問題に取り組んだ方法について、きわめて批判的の論じている:それは「ウェストファリアの権力政治の道を通って、暴力と西洋の軍事的優位の誇示によって」行われた。

 それがどのように裏目に出たか、私たちは誰も知っている。正真正銘の近代革命と毛沢東主義を招いたのである。シャンの解釈では、革命によって「平和と調和の伝統的な儒教社会が、凶暴なウェストファリア体制国家に変質した」ことが問題なのである。

 だから、1917年10月(訳注:ロシア革命)に触発された社会革命を通じてのみ、中国国家は「西洋に接近する本当の進展を開始した」のであり、我々西洋人が「近代化」と定義するものなのである。ちなみに、鄧小平ならどう言うだろうか。

 シャンの主張:現在の中国の複合制度は、「ロシア・ボルシェビズムという癌のような異質な器官に支配されており、多元的な共和制を構築するための抜本的な改革なくしては持続不可能である。しかし、この改革は伝統的な政治的価値を排除することを条件にしてはならない」。

 では、中国共産党は儒教とマルクス・レーニン主義をうまく融合させることができるのだろうか。中国独自の「第三の道」を切り開くことができるのか。それは、この後のシャンの著書の大きなテーマであると同時に、短期間では解答の出ない問いでもある。
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ツイッター社の新たな爆弾資料:米国諜報諸機関は、ロシアが選挙に干渉しているという嘘の主張を使って、どんなふうに巨大テック産業を跪かせたのか。

<記事原文 寺島先生推薦>

New Twitter bombshell: How American spies used false claims of Russian election interference to bring the tech giant to heel
Files reveal how the specter of Moscow's supposed underhand ways was used to subjugate the platform to the US Democratic Party

この文書は、米国民主党が自分の綱領に従属させるために、ロシア政府が秘密裏に動いていたという幻をどのように利用したか、を暴露している。

筆者:フェリックス・リブシッツ(Felix Livshitz)

出典:RT

2023年1月4日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月22日

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© Jakub Porzycki / NurPhoto via Getty Images

  #TwitterFilesというハッシュタグがつけられた2組のスレッド(連続投稿)において、今週(1月第1週)マット・タイビ記者が、明らかにした、いや暴露したといっていい内容は、メディア業界の巨大企業であるツイッター社が、米国の安全保障機関と共謀していたのではないかという疑惑についてだった。元ローリング・ストーン誌の記者であるタイビ氏が暴露した事実は、同社が米国の民主党から政治的圧力をきわめて巧妙にかけられたせいで、「ロシアがツイッターを攻撃道具として利用している」という嘘を、重要な要件であると認めさせられていた、ということだった。


なんとしてでも「ロシアの痕跡」を見つけよ

 一つ目のスレッドは、太字で「ツイッター社が諜報機関を中に入れた手口」という題がつけられていたが、このスレッドの内容が明らかにした事実は、ロシアによるボット*やネット荒しの干渉により、ドナルド・トランプが大統領に選ばれたという怪しげな説を2017年8月に大手メディアが激しく報じていたが、ツイッター社の幹部は邪悪なロシアの手先の人々でツイッター上があふれかえっている状況はなかったことを認識していたことだった。
*人間の行為を模して人間のように振る舞い、自動的・自律的に行動するソフトウェアやシステムなどのこと。


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関連記事: Twitter文書はどのように2020年米国選挙の結果を操作するFBI高官の役割を暴露したか


 内部のメールにおいて、ツイッター社の重役や、通信関連の専門家たちは、ロシアのボットにより、ツイッター上が乗っ取られているという考えなどほぼ一笑に付していたということがわかった。重役や専門家たちは2016年の大統領選に関する金の動きに「大きな相関関係」を見いだすこともできなかったし、「さらに大きな動き」なども全く検出できなかった。重役や専門家たちの見通しでは、行動を起こすべき対象となる利用者の数は25件以下であろうとしていた。そのような状況であるので、ツイッター社は、この件に関する報道に対して、無視だけすることを決めた。

 その翌月、ツイッター社は上院に対して、ロシアのアカウントの可能性がある22件のアカウントと、そのアカウントと「関連がある可能性がある」179件のアカウントを一時停止処分にしたと報告した。諜報委員会に所属している、民主党の大物であるマーク・ウォーナー上院議員は、即座に目立つような記者会見を開き、SNS業社である同社の対応を、「正直、どの段階においても不適切である」と非難した。

 このような圧力に加えて、さらに辛辣な圧力が、大統領候補となり二度負けたヒラリー・クリントンがかけてきたのだ。いわく、「もう、ツイッター社は、ツイッターがサイバー戦争の道具に使われている事実に向き合い、その事実を否定することはやめるべきだ」というものだった。これらの圧力により、SNS業社である同社は「ロシア対策委員会」という組織を立ち上げ、本腰を入れてこの件の調査に当たらされることになった。その後ツイッター社は、実際その調査を行ったが、その結果何も出てこなかった。内部での「総力を尽くした」調査にもかかわらず、クレムリン当局の関与が確認されたとされるアカウントが、「何かしらの行動を起こしていた証拠はなかった」とのことだった。

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Hillary Clinton © Chip Somodevilla / Getty Images

 結局、外部からの圧力により、「疑わしい」とされた何千ものアカウントからの投稿を手作業で点検した結果、ツイッター社が見つけた問題がありそうな投稿は、たったの32件で、そのうち17件がロシアと関連があり、何らかの広告費を出していたのはたったの2件だった。そのうちの一つがRTで、これは選挙前に、ツイッター社の方からRTに有利な条件を申し出ていたからだった。

 ここで再び、民主党内の高い地位にいる人々が、ツイッター社のこの調査結果にかみついてきたのだ。その後に起こったことは、常軌を逸した感情的な記事が嵐のように報じられたことだ。それらの記事では、ツイッター社がクレムリン当局による汚い仕事を邪悪な理由のもとで隠したり、嘘をついたり、犯罪行為に関する積み重ねられた情報を消すなどして、ツイッター上に上がっていた情報を隠したのではという疑惑が報じられていた。

 「ツイッター社は、FSB(ロシア連邦保安庁)と契約を結んでいたのだろうか…さもなくばツイッター上で、これほど効果的に偽情報を流せる仕組みは作れなかっただろう」と諜報委員会の顧問の一人であるトーマス・リッド教授は、ポリティコ誌の取材に答えていた。


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関連記事:戦争を売り込む:ドイツのメディアがいかに社会の過激派をあおり、ロシアとの交渉を阻むために働いているかを暴露する報告書


政治的な権力に対する屈服

 ロシアに関するこのような疑惑は、何ひとつ真実ではなかった。しかしこのような圧力のおかげで、民主党はツイッター社に出す政治広告費に規制をかけることにより、脅しをかけることができたのだ。そしてこの脅しは、同社にとっては、収入面で大きな影響を受けかねないものだった。そのため、同社の幹部たちは混乱状態に陥り、さらにここぞという時機に、諜報委員会が大手メディアにロシアのボットや荒しとされた何千ものデータベース(蓄積された情報)を漏出したことにより、この混乱に拍車がかかった。その結果同社は、報道機関の記者たちから激しい尋問の嵐を浴びることになった。

 ツイッター社はこれらの圧力がやむことなく、増えるだけだと実感していた。というのも、報道機関や政治家たちがロシアの関与が認められる証拠があるかどうかは考えずに、この件を大問題であると決めつけ、自分たちが求めているものを手にするまで、とにかく圧力をかけ続けていたからだ。そこで、同社は彼らに忖度し、ツイッター上でのボットや荒しは大問題であり、この先このような行為を根絶やしにするべく積極的に取り組むと公的に発表することになった。

 ただし内部においては、ツイッター社の重役たちは、ツイッター上での粗暴な行為に対して、非公式の秘密対策を立てていた。表向きには、投稿が削除されたり、利用者が排除されたりするのは「当社の裁量による」ものであるとされていたが、内部では、「米国諜報機関が、外国の支援によるサイバー攻撃であると見なした」あらゆるものは、議論の余地なく、「排除する」とされていたのだ。

 ところが実際には、ツイッター社は、米国の諜報員を積極的に内部に招き、投稿や利用者を穏健化する作業に携わらせていた。それは誰にも知られない形で行われていて、社内では、諜報員がそこに居続けることが共通理解となっていた。このように悪意を持って外部者を介入させる方策が本格的に行われるようになったのは、Covid-19が米国に到達したとき、そして次は、クレムリン当局による「偽情報」という亡霊が巨大な悪となったときだった。

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© Rafael Henrique / SOPA Images / LightRocket via Getty Images

 2020年2月、米国国務省諜報機関の一翼である「世界関与センター(Global Engagement Center)」は、「ロシアの偽情報作戦が、コロナ問題で利用されている」という報告書を出した。その報告書によると、モスクワ当局が統制し、中国やイランが拡大させたボットや荒しを行う広大な情報網により、「コロナウイルスは、製造された生物兵器であるとする」喧伝が終わることなく広められている、とのことだった。

 この報告書においては、一つのアカウントがボットや荒しであることを判定する基準は、信じられないことに、その利用者が中国の外交官を「二名以上」フォローしているかどうか、だった。ところが、その基準には、西側諸国政府当局者やCNNなどの報道機関を含む25万強が該当する。証拠に欠けるこんな脆弱な根拠であるにもかかわらず、大手メディアの記者たちは、この報告書の記載事項を支持するような記事を数え切れないほど出したのだ。


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 この時点で、ツイッター社の職員たちは、これまでの経験から、同センターの狙いが何なのかを推し量ることができたようだ。つまり、社内の「内容適正化部」に「潜入」しようというものなのだ。グーグル社もツイッター社もフェイスブックもこのような方策でFBIやDHS(米国国土安全保障省)などの米国政府組織に管理されていた。これらの巨大テック産業の重役たちはみな、同センターの介入に反対していたが、その何よりの理由は、同センターが、「米国の国益を推進するため」の「攻撃的な」情報操作を「強制する」ことだった。


屈辱のもとでの地獄

 民主党の幹部をなだめるために長年こびへつらってきたツイッター社が、反撃を始めた。会社内部の多くのメールのやりとりからわかったことは、様々な重役たちが、世界関与センターにツイッター上での情報に影響を与えさせることに対して深い懸念を示していた点だ。そして重役たちは当初、同社の内容適正化部の定期的な「産業会議」に参加させてほしいという、FBIからの要望を拒絶していた。重役たちは、同センターが内部介入することは、「重大な危険を生じさせる可能性がある…選挙戦が激化している今は特に」と考えていた。

 最終的に、FBIは妥協案を提示した。それは、CIAやNSA(国家安全保障局)や世界関与センターができることは、産業会議の話し合いの内容を聞くことだけで、会議に参加することはしない、というものだった。ツイッター社はその妥協案を飲んだが、幹部たちはすぐにその決定を後悔し始めた。しばらくすると同社は、米国当局から、ありとあらゆる件について、内容の検閲や、利用者の利用停止の要請を受けることになったのだ。

 さらに高じて、米国当局は、「個人的に気に入らないから」という理由で、利用者の利用停止の要請まで行うようになってきた。悪名高い下院諜報委員会のアダム・シフ委員長(民主党員)はツイッター社に対してポール・スペリー記者のアカウントを停止するよう依頼したことがあったが、その理由はスペリー記者が同委員会の活動を批判する記事を書いていたからだった。当初ツイッター社は同記者のアカウント停止を拒絶していたが、後に停止処分となった。

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Adam Schiff © Shawn Thew - Pool / Getty Images

 ほかの要請についても、ほぼすべてが即座に受け入れられた。世界関与センターからの要請でさえも、である。その中には、独立系報道機関のアカウントを停止する要求もあった。その根拠は、これらの報道機関が、「GRU(ロシア連邦参謀本部情報局)の管理下にある」や「ロシア政府」と関連があるという間違った主張だった。あるメールでは、CIAの一人の職員が、ツイッター社はそのうちどんな要求でものんでくれるようになるであろう、と記載していた。「その件に関する我が社の窓は閉まりつつある」と同社は述べていた。


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関連記事: 蔓延する疫病死。18世紀にモスクワで発生したペストが、Covid-19のパンデミックとどのように類似しているか?


 2020年の大統領選の数週間前、ツイッター社には非常の多くの役人や部署や工作員からの要求であふれかえっていたので、社員は混乱し、過重労働に追われていた。要求通りの動きが取られなかった際は、すぐにメールが入り、「対応したのか?」という問い合わせが入った。そしてまだ対応できていなければ、「なぜ?」「いつになる?」という問い合わせメールが届いていた。

 ある要求においては、FBIの職員がこう謝罪さえしていた。「貴社に過重な手間をおかけすることを前もってお詫びしておきます」と。激務に疲れ果てていたことが間違いない同社の上級弁護士が、内輪でこんな不満をこぼしていたこともあった。「オレのメールボックスは、クソみたいに溢れかえってるよ」と。

 以前この#TwitterFilesというハッシュタグのついたスレッドが明らかにしたのは、FBIがツイッター社に300万ドルを支払い、要求を受け入れさせていた手口についてだった。最も新しい暴露報告から明らかにわかることは、ツイッター社と同社の職員は、そのお金に見合わないような重労働をしいられていたことだ。この先の報告により、さらなる爆弾情報が明らかにされることは間違いないが、これまで長期にわたり隠されてきた事実が明らかになったことで、すべてのツイッター利用者は、このサイトが長年にわたり米国諜報機関の効果的な一翼を秘密裏に担ってきた事実を振り返るべきだ。そして、そのような状況が今もまだ続いていることが十分にありうることも。
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米国の監視の下で、日本は軍国主義に舵を切る

<記事原文 寺島先生推薦記事>

Under the US Watch, Japan Sets Sail for Militarization

筆者:サルマン・ラフィ・シェイク(Salman Rafi Sheikh)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2023年1月3日

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>

2023年1月20日

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 日本は12月16日、日本の防衛力と攻撃力を大幅に向上させることを目的とした新しい防衛戦略を発表した。これは、日本が「平和主義」国家となった第二次世界大戦以降、間違いなく最大の防衛力強化策である。新しい文書が示すように、日本は今、「平和主義」を捨て、日本の力を、そして日本の国益を守るために、日本国外で対応できる軍事力をより積極的に追求しようとしている。もはや、自衛のためだけではないのだ。簡単に言えば、日本の標的は太平洋全体とそれを取り巻くインド洋地域である。文書は、日本が 「最低限の自衛措置として、相手の領土で効果的な反撃を行う」 ことを可能にするためであることを明らかにしている。日本の指導者である岸田文雄が「歴史の転換点」と呼んだこの変化は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、中期防衛計画の3つの文書で示されている。

 これらの文書に示された詳細によると、日本は反撃能力と長距離極超音速兵器の開発に約370億米ドルを費やすことになる。また、米国製のトマホークミサイルを購入する予定である。そしてサイバー戦能力に70億ドル、宇宙能力の開発にも同額を投じる。全体として、日本は5年間で3,160億ドルを軍事費に費やすことになる。この支出によって、いわゆる「平和主義」の日本は、アメリカ、中国に次いで世界第3位の軍事費支出国になる。詳細が示すように、日本が攻撃された場合、あるいは友好国(台湾)への攻撃が日本の生存を脅かす場合、そして、その攻撃を撃退する適切な手段がない場合、そして武力行使が最小限にとどめられる限り、東京はこれらの武力行使に頼ることになる。

 この新戦略は、長距離ミサイル攻撃能力を獲得することに重点を置いている。「長距離」となると、日本が視野に入れるターゲットが明確になる。つまり、中国、ロシア、北朝鮮が標的に入る。岸田首相は、これが「我々が直面する様々な安全保障上の課題に対する答え」であると語った。

 ウクライナで進行中のロシアの特殊軍事作戦や台湾をめぐる緊張と非常に密接に結びついているが、これらの課題は自然なものでも解決できないものでもない。これらの課題はワシントン自身が、太平洋の同盟国である日本を刷新することで、世界の主導権を強化する方法として、日本に持ち込んできたものである。

 ここでのロシア・中国と米国の関連性は明白である。日本の戦略文書は、「ロシアのウクライナ侵攻」を国際法違反と呼び、中国がもたらす「戦略的挑戦」を「日本がこれまで直面した中で最大のもの」とみなしている。これらの変更は、第二次世界大戦後、いわゆる「平和主義」憲法を日本に押し付けた国であるアメリカによって、極めて迅速に支持されたのである。

 ラーム・エマニュエル駐日米国大使は声明で、「首相は、インド太平洋における安全保障提供国としての日本の役割について、明確な戦略的発言をしている」と述べ、「首相は、日本のdeterrence(抑止力)の『d』を大文字の『D』に付け替えた」と付け加えた。「我々は、日本の最新の戦略文書が発表されたことを歓迎する...これは、<国際ルールに基づく秩序>と<自由で開かれたインド太平洋>を維持するための日本の確固たる貢献姿勢を反映している」 とロイド・オースティン米国防長官は述べ、「我々は、反撃能力を含む地域の抑止力強化の新たな能力を獲得するという日本の決定を支持する」 とも付け加えている。

 このような、日本の軍事的野心、取得しようとする兵器システムの種類、そしてこの変化に対するアメリカの支持が意味しているのは、日本が第二次世界大戦の連合国側にしっかりと位置づけられているという事実だ。

 日本が、かつて自国に核兵器を落とした国の軍事的協力者となっていることや、その米国と同盟して、第二次世界大戦中に日本が(部分的に)占領していた国(中国)と相対している状況を考えれば、これは本当に大きな出来事である。

日本は本当に脅かされているのか?

 日米両国は、日本が安全保障上の大きな課題に直面していると主張している。しかし、誰が日本を脅かしているのだろうか。中国の主要な政治問題は、台湾に対するアメリカとの関係である。それは、東京自体には関係ない。しかし、東京は台湾をめぐる米中の緊張が高まっていることを、自国の利益に対する脅威と捉えている。尖閣諸島の領有権問題を除けば、日中関係には明白な緊張はない。この緊張は、中国を抑止するために日本の強力な軍事的対応を必要とするような、軍事的な火種になる恐れのない紛争に対するものである。

 「それなのに、なぜ日本は軍国主義に走るのか?」が重要な問いだ。その答えは、日本の外交・軍事政策を形成する力を有する米国を考慮に入れて説明されなければならない。そして米国がそのような力を持てている要因には、直接的なものと間接的なものの両方がある。

 直接的な要因としては、第二次世界大戦以降、アメリカは日本にとって覇権国であったことがあげられる。そして間接的な要因としては、米国が台湾問題に絡めて中国との緊張関係を作り出すことで、この地域に大きな安全保障問題を作り出していることがあげられる。そのため、この地域の国々が、米国から地政学的な圧力を感じさせられ、それに対応させられているのだ。

 同じようなことは、ロシアにも言える。ロシアの特殊軍事作戦は、NATOの拡張主義的な政策に対する反応である。このことはヨーロッパでもよく認識されており、フランスの指導者はすでに、ウクライナ危機を交渉によって終結させるために、ロシアの安全保障上の利益を考慮するよう呼びかけている。NATOが関与する紛争は、少なくとも直接的には日本とは関係がない。にもかかわらず、大平洋地域の問題にNATOの首を突っ込ませたのは米国の仕業だ。米国は、(ロシアが行ったとされた)ポーランドへのミサイル攻撃を受け、バリ島でNATOおよびG7の緊急首脳会議を開いたのだ。その緊急首脳会議は、インドネシアで開催されていたG20サミットにあわせて開催されたものだった。

 NATOがその管轄をはるかに超えた地域で活動するようになったことで、ヨーロッパでの紛争を世界的なものにしようという意図が明らかになった。これによって、現在の日本の軍事化を推進する重要な要因も説明できるし、この過程には、日本自身よりも米国の足跡の方がはるかに強く目に映る。
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バイデンは、ブラジルのルーラ大統領失脚作戦に躊躇

<記事原文 寺島先生推薦>

Biden Stoops to Conquer Brazil’s Lula

筆者:M.K.ブドラクマル(M. K. BHADRAKUMAR)

出典: INTERNATIONALIST 360°

2021年1月12日

<記事翻訳:寺島メソッド翻訳グループ>

2022年1月19日

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 ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領が政権に復帰したことで、ラテン・アメリカの経済発展における上位7カ国のうち6カ国において、左派が指導者となる状況が生まれた。

 1月9日(日)にブラジリアで起こった悲喜劇的な「暴動」は、突然終わりを迎えることになった。世界中から非難の声があがり、ことさらバイデン政権がこの抗議運動参加者に対して素っ気ない態度を示し、距離を取ろうとした時点で、この暴動の運命は決したのだ。たしかに、この暴動は「内戦」などではない。ただこの先、ブラジルでどんな新しい抗議活動が起こるかについては、予断を許さないところではある。

 この事件は、ラテン・アメリカにとっては警戒すべきものだ。というのも、「ピンクの波」の勢いが再び上昇しているからだ。ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領が先週(1月第1週)、政権に復帰したことで、ラテン・アメリカの経済発展における上位7カ国のうち6カ国において、左派が指導者となる状況が生まれた。しかしその振り子は激しく揺れ続けていて、ルーラの勝利は非常に僅差のもとでの勝利だった。

 政治的分極化の動きにより、ラテン・アメリカでの民主主義は弱体化しつつあり、多くの人々にとって妥協を尊重することがより難しくなっている。1980年代以来、ケインズ経済学に取って代わってワシントン・コンセンサス*が世界を席巻したことで、米国の意思が幅をきかせるようになり、ラテン・アメリカ諸国はドル建てで借金をし、自国の資本収支を自由化することで、外国の投資家の気を引く傾向が出てきた。
*ワシントン・コンセンサス----新古典派経済学の理論を共通の基盤として、米政府やIMF、世界銀行などの国際機関が発展途上国へ勧告する政策の総称。構造調整政策もその1つである。市場原理を重視するところに特徴がある。貿易、投資の自由化、公的部門の民営化、政府介入を極小化すること、通貨危機に対しては財政緊縮、金融引き締めを提言する。

 「ピンクの波*」は、このような失われた時代が温床となり起こったものだ。この時代には、ラテン・アメリカで新自由主義の嵐が吹き荒れたことで、経済は停滞し、貧困が広がり、社会や経済上の分断が深まった。すでにラテン・アメリカは、世界で最も不平等な地域となっていて、不労所得生活者階級が出現し、クーデターや武力闘争が生じている。ラテン・アメリカが必要としているのは、発展に向かう新しい手本であり、公正で持続可能な成長の手本だ。例えば、国家主導による産業化や地域の統合などだ。
*ピンクの波(pink tide)----ラテン・アメリカにおいて左派政権の成立が続くことによる地域の左傾化の現象を、「ピンク・タイド」と称する。「共産化」するほど過激ではないことからレッドではなくピンクという表現を用いている。1999年のベネズエラでのチャベス政権の成立後、2000年にチリのラゴス政権、02年にブラジルのルーラ政権、05年にボリビアのモラレス政権、06年にエクアドルのコレア政権と続々と左派系政権が成立し、「ピンク・タイド」と呼ばれた。

 ラテン・アメリカ経済はもはや米国に束縛されておらず、現在友好関係を結ぶ相手を模索しているところだ。ただし、米国政府がこれまでの歴史で見せていたような、自国の利益だけを考える隣国ではなくなった、と考えるのは甘すぎる。地質学や地理学がラテン・アメリカの運命には絡み合ってくるからだ。

  先日のガーディアン紙の社説面には、ラテン・アメリカは、世界の電池で使われるリチウムと白金の6割を生産しており、さらに世界最大の石油埋蔵量を誇る中、米国は「棍棒」外交を行おうとしていると記載されていた。この「棍棒」とは、テディ・ルーズベルトの有名な「棍棒を携え、穏やかに話す」という言葉から借用したものだ。1901年の演説で、米国の外交政策を述べた際に放ったことばだ。

 しかし、ラテン・アメリカの状況は驚異的に変わった。中国共産党中央委員会党歴史・文学研究所の研究員であるジン・チェンウェイが11月に書いていた通り、「地政学の観点からいけば、米国はラテン・アメリカを自国の影響下にある地域と見ていて、米国はラテン・アメリカに対する影響力をいつでも利用できると考えている。1980年代に米国は、ラテン・アメリカを、新自由主義推進の「実験場」として利用していた。その新自由主義に代わるものを模索する動きが、近年ラテン・アメリカで左翼の波が引き起こされている原動力となったのだ。この左翼の波は大きな成果を見せており、ラテン・アメリカでは地域統合の動きが促進され、逆に米国の影響力は弱められている。この動きの根っこにあるのは、米国の覇権主義に対する抵抗の経験が積み重ねられてきたことだ。新自由主義の導入が失敗に終わり、新自由主義に反対する風潮が、現在ラテン・アメリカで左傾化の流れを起こしている基本的な原因であり続けている。」

 米国の政治が米国のリベラル民主主義の弱点を明らかにしつつある危機の中で、いま、ラテン・アメリカ諸国が非西側の窓口を模索する動きが強まっていることは疑いがない。さらに、Covid-19に対する効果も意味もない対応が、資本主義をもとにした発展の弱点を明らかにした。サンパウロ・フォーラムや世界社会フォーラムが、新しい発信場として機能しつつある。

 前回大統領職を2期つとめた際、ルーラ氏は国民に対して、政治に参加するよう励まし、社会保障面の支出の拡大や非常に重要な経済部門への投資を行いながらも経済発展を調整し、国内労働者に対する規制を導入し、労働者には援助を与え、賃金を向上させ、雇用拡大により公正な社会作りを促進し、国際的な取り組み作りにも積極的に参画してきた。

 現在、ルーラ氏のもっとも大きな課題は、ブラジル社会が左翼と右翼に分裂し、異なる政治団体間での対立が存在することだ。もちろん、右翼が主流を占めている議会を再構築する必要があることもそうだ。

 そうとは言え、ルーラ氏はラテン・アメリカでの左派の台頭の波を、新しい頂点に導くことになるだろう。そうなれば間違いなく、キューバやベネズエラなどの左翼諸国家に対する世界からの風向きは改善され、ラテン・アメリカの外交の自立性が強化されることになるだろう。ルーラ氏は政治的な計画について以下のように記している:「私たちが提唱しているのは、新しい国際的な秩序の建設に向けて取り組むことです。その秩序において尊重されるのは、各国の主権や平和や社会的受容や環境的持続可能性などです。まさに、発展途上諸国が必要としているものを考慮に入れた秩序なのです。」

 南米大陸各国の政治的展望において根本的な変化が進行中のようだ。それを特に表しているのが、ルーラ氏がまず外交政策として打ち出した大きな一手だった。それは、ルーラ氏が1月24日にブエノスアイレスで行われるCelac(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)各国首脳会議への出席を決めたことだ。この会議には、キューバやベネズエラやニカラグアも参加する。この決定は、「分断して崩壊させる」という手口をラテン・アメリカで「通用」させる梃子を見つけるのは難しくなるぞ、という伝言を米国政府に伝えるものなのだ。

 重要なことであるが、バイデン大統領がブラジリアで起こった暴動に対しておこなった非難の口ぶりが、非常に厳しいものであったのだ。その理由には以下の3つの要因が働いたのだろう。一つ目。バイデン政権は、(2021年)1月6日の米国での「国会議事堂暴動事件」と同じようなものであると捉えることが、2024年の大統領選に向かっているバイデンにとって都合が良いと踏んだことだ。ブラジルでの暴動も、米国での暴動も 、保守政治活動協議会に源流を見ることができる。この協議会の定例会には、世界各国の保守派の活動家たちが参加し、米国保守派連盟が主催している。はっきりしていることは、ルーラ氏が極右の炎を押さえ込めるかどうかは、ブラジルやラテン・アメリカにとって非常に要であるだけではなく、米国の政治にとっても重要でありえるという事実だ。

 二つ目。ルーラ氏は暴動の責任者としてアグリビジネス(農業関連業社)に標的を絞っていることだ。環境団体によると、アマゾンで森林破壊や不法な採鉱を行っている人々が、この暴動の裏にいるという。それは、ルーラ氏が環境政策を180度転換させて、マリナ・シルバ、ソニア・グァジャジャラの両氏を大臣に据えたことを受けてのことだ。シルバ大臣は世界的に有名な環境活動家であり、グァジャジャラ大臣は先住民活動家である。

 ルーラ氏は、このクーデターに資金を提供したとしてアグリビジネスや不法採鉱マフィアを非難している。そして、バイデンによる気候計画とアマゾン川は、切り離せない関係にある。

 三つ目。ルーラ氏は、大統領に就任してから3ヶ月以内に中国と米国を公式訪問するとみられている。中国にとっての「旧友」であるルーラ氏なのだから、中国との経済や貿易の協力関係が深められることは間違いないだろう。左翼政権はたいてい米国から「距離」を取り、多様化し、抑制のとれた外交政策を主張するものだ。

 しかし実際の所、中国とブラジルの関係深化は、趨勢に沿ったものあり、両国の経済的補完性という点で強い内部推進力をもっている。 中国とブラジル両国での物流が、政府当局の基本概念により影響を受けたことはない。ボルソナロ政権下でも、中国とブラジル間の貿易は記録的な額に上っていて、コロナ禍にもかかわらず、2021年には1640億ドルに達していた。

 それにもかかわらず、両国の関係が深まることに米国が懸念を示しているのは、大国であるブラジルが、中国と同じ利益や責任を共有しているからだ。今は、左翼の波の高まりにより、米国の国際的な指導力が弱化し、ラテン・アメリカに対する米国政府の影響力が大きく浸食されつつあるのだ。(アルゼンチンもBRICSへの加盟を求めている)。

 ルーラ氏の勝利により、ラテン・アメリカ諸国の協力体制は大きく前進し、これまでにない新たな世界秩序の模索が始まるだろう。このような状況において、バイデン政権がもてる最善の希望は、ルーラ氏が穏健的な外交路線を追求し、巨大諸国間でバラ
ンスを取っていこうとする姿勢を見せるよう後押しすることだ。米国には、ルーラ氏が以前の2期大統領を務めた際、穏健な左翼的な執政をしていたことに期待する向きがあるようだ。
関連記事

ロシア国内での破壊工作はCIAの仕業。彼らはロシアの特別軍事作戦のずっと前から露国内で「緊張の戦略」を企んできた。

<記事原文 寺島先生推薦>

CIA’s Deadly “Strategy of Tension” to Destroy Russia
The USG planned subversion operations inside Russia well before Putin’s SMO.

ロシアを破壊するCIAの致命的な「緊張の戦略」
米国政府はプーチンの特別軍事作戦よりずっと前からロシア国内での破壊工作を計画していた。

筆者:カート・ニモ(Kurt Nimmo)

出典:Global Research

2022年12月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月19日


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 月曜日(12月26日)、ウクライナから約400マイル離れたサラトフ地方にあるロシア連邦エンゲルス空軍基地が、ロシアの特別軍事作戦の開始以来2度目の攻撃を受けた。

  「ロシア国防省は、事件は月曜日の未明に起こり、エンゲルス空軍基地で3人の軍人が破片により死亡した。その基地には10ヶ月に及ぶ戦争でウクライナへの攻撃開始に関与してきたTu-95とTu-160核搭載戦略爆撃機を収容されていたと発表した」との報道がAP通信からあった。

 ロシア国内では、エンゲルスのほか、クルスク、ブリャンスク市、ベルゴロド州スタラヤ・ネリドフカ村、リャザン州ディアギレヴォの軍事飛行場などでも多くの攻撃を受けている。



 ガス供給施設への攻撃は、ロシアがヤマル-ヨーロッパ給油管を通じてアゼルバイジャンへの供給を再開すると発表する前に発生した。

 企業に支配されている戦時偽情報拡散メディアは、この攻撃をウクライナによるものとしている。しかし、デイリー・エクスプレス紙によると、元「米軍特殊作戦要員」とされるジャック・マーフィー氏は先週、次のように述べたという。

 NATOとアメリカの情報機関がロシア国内で諜報員を動かしており、「混乱」を作り出すために重要な基板施設を標的にするよう指示しているという。ここ数ヶ月の間にロシア全土で、ショッピングセンター、ガス輸送管、燃料貯蔵所などが被害に遭っているが、これをマーフィー氏はCIAが指示した秘密の「破壊工作」であると指摘している。

 マーフィー氏は自身のウェブサイトで、「この作戦には、同盟国のスパイ組織が、モスクワのウクライナ侵攻を妨害するために、ロシア戦線の背後で秘密戦を展開しており、これには長年にわたってロシア国内で活動してきた潜伏工作員が関与している」と書いている

 元情報機関職員二名と元軍職員によれば、ロシアの現場におけるこれらの任務の遂行には、アメリカ人職員こそ関与していないが、諜報機関の準軍事士官が作戦を指揮・統制しているという。準軍事職員はCIAの特別活動センターに所属するが、実際はCIAの欧州指令遂行センターに配属されていると、2人の元情報当局者は述べている。元米国特殊作戦関係者によると、同盟国の情報機関を利用すれば、CIAが直接に関与していることが否定できるので、この方法は、ジョー・バイデン米大統領が空爆を承認する決定を下す上で不可欠な要素であったという。

 CIAが長い間、まさにこの種の破壊工作に関与してきたことを示す証拠はたくさんある。国家安全保障とCIAが設立される前、その前身である戦略遂行局(OSS)は1944年に破壊工作の手引き書を作成している。

 この手引き書の序文には「妨害工作には、綿密な計画と特別な訓練を受けた工作員を必要とする高度に技術的な政権転覆行為から、普通の市民である妨害者個人が行うことができる無数の単純な行為まである」と書かれている。

関連記事:「ロシアでの相次ぐ爆発の背後にはCIAがいる」。米陸軍特殊作戦を行ったことがある退役軍人は、情報機関とNATOの同盟国が妨害工作を行っていると主張する。

 それ以来、CIAは破壊工作の実行方法を磨いてきた。当時、国家安全保障会議に所属していた元米空軍長官のトーマス・C・リードは、彼の著書『奈落の底で:部内者が語る冷戦期の歴史(At the Abyss: An Insider's History of the Cold War)』の中で、CIAは、その悪名高い実権者、ウィリアム・ケイシーのもと、1982年に低迷するソ連経済を麻痺させることを狙った天然ガス輸送管爆発に責任があったと書いている。

 「ソ連のガス供給と西側からの外貨収入、そしてロシア国内経済を混乱させるために、ポンプ、タービン、バルブを動かすための輸送管制御プログラムを操作して、適切な間隔をおいて、ポンプの回転数とバルブの設定を初期状態に戻し、輸送管の接合部や溶接部が許容できる圧力をはるかに超える圧力を発生させるようにしていた」とリード氏は書いている。

 米国の国家安全保障アーカイブにも、CIAの破壊工作を詳述した文書が大量にある。その紹介文から。

 中央情報局(CIA)の秘密工作は、米国の外交政策における権力の前衛の一要素である。しかし、CIAは、自ら責任を負って酒場を銃撃するような、孤独な奇襲部隊員ではない。米国政府内の上級省庁をつなぐ集団が秘密戦争の最高司令部として機能しているのである。

 マーフィーは次のように指摘する。「米政府機関が行う秘密行動はいずれも、大統領令によって承認されなければならない」。したがって、バイデン大統領がロシア国内の破壊工作に署名したと考えて間違いないだろう。さらに、オバマ大統領はロシアの特別軍事作戦よりもずっと以前に、「ロシアに対する秘密行動のための所見」に署名しており、それは、「オバマ大統領が大統領職を辞める前のこと」であり、その所見には「元CIA職員によれば、破壊工作に関する文言が含まれていた」とのことだった。

 つまり、アメリカ政府は特別軍事作戦のかなり前からロシア国内の破壊工作を計画しており、実のところは、数十年にわたって、ソ連とその崩壊後のロシア連邦を標的とした破壊工作と秘密工作を継続していたのである。

 キエフでアメリカ政府が組織した政権転覆の後、「同盟国の諜報活動」がロシアで休眠していた諜報員を動かし始めた。その活動の「広範な組織網」には、そのような裏の活動を支援する基板組織として設立された偽装企業も含まれており、その多くは少なくとも20年前に設立されている。このことから明らかなのは、妨害工作は、少なくとも20年はロシアの特別軍事作戦に先行していたということだ。

 CIAは「待機軍」を編成し、表向きは、起こりそうもないソ連によるヨーロッパ侵略に対抗していたが、実際のところは、社会主義、共産主義、その他の左翼政党への投票から人々を遠ざけるためにテロ行為に関与していた。

 CIAの秘密部門である政策調整室は、フランク・ウィズナーの指揮の下、ヨーロッパの待機軍を設立した。CIAがグラディオ作戦と名付けられた準軍隊を立ち上げたのは、フランス(「プランブルー」)、イタリア、オランダ、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ノルウェー、ドイツ(元SS隊員のハンス・オットーが指揮)、ポルトガル、ギリシャ、スペイン、トルコといった国々だが、そこではあまねく、ロシアに対して課せられる「異例な戦い」についてNATOから訓練を受けたようである。

 冷戦時代、CIAはウクライナのネオナチや移民集団と密接に連携していた。プロジェクトAERODYNAMIC(エアロダイナミック:CARTEL、ANDROGEN、AECARTHAGEと呼ばれたこともある。1949年から1970年の間に行われた作戦)は反ソ連作戦に集中し、主な活動はプロパガンダの拡散に限定されたものであった。この作戦は、ウクライナにおけるロシア系民族の殺害という一つの目標を持っていた超国家主義者と密接に協力することを意味していた。


 1949年の時点で、CIAはウクライナ、さらにはベラルーシ、ポーランド、バルト海沿岸諸国をソ連を弱体化させるための作戦拠点として利用していた。ポリティコ紙によれば、レッドソックス作戦の目的は、「東ヨーロッパにおけるモスクワの計画について前例のないほど深い洞察を得ること、そして可能であれば、ソビエト帝国そのものを解体する手助けをすること」であったという。さらに、CIAは「ウクライナやバルカン半島の新興の民族主義運動を煽っていた」という。

 ヨーロッパの他の場所では、CIAは右翼過激派を勧誘してさまざまなテロ攻撃を行わせていたことが、イタリアのファシスト、ヴィンチェンツォ・ヴィンチグエッラの裁判で明らかになった。彼は極右の文化・議会外政治・準軍事組織であるOrdine Nuovo(「新秩序」)の一員であり、ナチスのヴァッフェン親衛隊と政治的信条を共有していた。

 新秩序運動は、左翼に罪を被せるテロ攻撃を行った。この攻撃には、1969年のミラノのフォンタナ広場爆破事件(16人死亡)、1970年のローマ-メッシーナ間列車爆破事件(6人死亡、100人負傷)が含まれる。これらのテロは、「緊張の戦略」と呼ばれていた。

 今回のCIA-NATOの破壊工作は、プーチンとロシア連邦を弱体化させ、倒そうとするこうした試みの一つに過ぎないとマーフィーは説明する。

 「2人の元米国特殊作戦関係者によれば、CIAが監督するNATOの同盟国の作戦は、西側諸国がロシアで行っているいくつかの秘密作戦の一つに過ぎないということだ。また別の元米軍関係者によると、2月のロシアの侵攻により警告を受けた他のヨーロッパの情報機関は、自国に長く眠っていた抵抗組織網[グラディオ作戦]を起動させ、今回はCIAの助けなしに、ロシア国内での工作を実行し続け、混乱を引き起こそうとしているという。さらに、広く報道されているように、ウクライナの諜報機関や特殊作戦部隊も、ロシア戦線の背後で独自の作戦を展開している。」

 要するに、ロシアを内部から攻撃しようとする多国籍の協調的な取り組みがあり、ロシアは間違いなくその取り組みを国家安全保障に対する脅威と考えている。プーチンは何度か、ロシアは実存的な脅威には戦術核兵器で対応すると発言している。

 プーチンと彼の将軍たちは、ウクライナでの戦闘をさらに激化させていくだろう。というのも、CIAとその破壊工作員がロシア内部の奥深くにある民間人と軍事標的を攻撃目標にしているからだ。「プーチン大統領は、ますます不安定になっている世界においてある種の安定性を保とうと実際に行動している。なぜなら、今の世界は、アメリカが世界の終わりにつながるような陰謀を駆使して、衰退しつつある自国による世界覇権を維持しようとしていることで混乱状況に追い込まれているからだ」とアンドリュー・コリブコはオリエンタル・レビュー誌に寄稿している。

 ロシアのウクライナにおける特別軍事作戦は、とりわけロシアの、もう少し広く言えば、この地域における国家安全保障のレッドライン(限界点)の整合性を維持するために最後の手段として開始されたものだった。アメリカ主導の西側諸国は、自分たちの一極覇権を回復しようとする壮大な戦略を追求する中で、その限界点を超えようとしていたのだ。

 この戦略は、アメリカ政府とそのいわゆる友好国にとって必須であり、ロシアと中国を潰すためにあらゆる手を尽くすことだ。なぜなら、この2大敵対勢力は、多極化した世界を確立しようとしているからだ。その多極化世界においては、強制的であり、しばしば人々を死に追いやるような新自由主義的な秩序のもとでの政治はなく、そのような政治を執り行うものも存在しない。具体的には、アメリカ政府の国家安全保障機関、CIA、国防総省、国内ではFBI、DHS(国土安全保障省)、さらにシリコンバレーの、異端者を破門し、国家が永遠に流し続ける戦争についての嘘の情報を拡散する巨大な情報産業企業が存在しない世界なのだ。

 米国政府が指揮するウクライナのロシア系民族に対する戦争は、2014年に民主的に選出されたロシア寄りの政府に対して組織された政権転覆に端を発するものだが、この戦争は、アフガニスタンでの戦争と同様に、行き詰まりと敗北が頑なに避けられないものとして現実に現れ、撤退(そんなふうに報じられることはないが)の決断が下されるまで続くだろう。そしてその後には、数十億ドルの価値の軍事機器が残り、戦争に協力してきた地元の人々の生活は見捨てられるのだ。

 不確定な未来のために、CIAはネオナチと同好の士による地下軍団を育て、ロシアが「(国民投票により)併合」したクリミア、ルハンスク、ドネツク、そしてまもなく(圧倒的多数でロシアへ「編入」された地域である)マリウポリ、ザポリージャ、クリビイ・リ、オデッサにおいて低強度のゲリラ戦に挑もうとするのだろう。

 ただしこうなるのは、この戦争の次の段階である。それは、物乞いのゼレンスキーと負債を抱えた彼の後援者であるアメリカ政府が、国境での闘いでロシアに勝つには、モスクワめがけていくつかの熱核兵器を投げ込まない限り不可能であると分かるときである。

 プーチンが核兵器の使用を決心したのは、戦争偽情報メディアが「彼は窮地に追い込まれた」と(事実を誤認して)勝ち誇って宣言したからではない。その一方で、アメリカ政府に関して言えば、貧困を誘発する新自由主義を拒否して世界が多極化することにより窮地に追い込まれれば、核兵器を暴発させ、地球上の生命を絶滅させる道を選ばないという保証はどこにもないのだ。
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プーチン大統領、異例の新年あいさつ

<記事原文 寺島先生推薦>

Putin gives unusual New Year address
Russia’s president has broken years-long tradition, addressing the nation from a military HQ

プーチン、新年のあいさつを異例な形で行う。
ロシア大統領は長年の伝統を破って、軍本部から国民へあいさつした。

出典:RT

2022年12月31日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月18日

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 ロシアのプーチン大統領は12月31日(土)、伝統的な年頭の挨拶を行い、この一年で国が直面した課題と達成した成果について国民に語りかけた。演説会場は、従来のクレムリン中庭での大統領の立ち姿とは大きく異なり、今年のプーチンは南部軍管区本部で年次メッセージを収録した。今回の訪問では、軍幹部との会談や、優秀な兵士への国家表彰も行われた。

 異例の長さの演説は、主に2月下旬に勃発した大規模な紛争であるウクライナで進行中の特別軍事作戦を中心に展開された。この劇的な出来事によって、ロシアは「私たちの多民族国家は、困難な時にいつもそうであるように、勇気と尊厳を示した」と述べ、ロシア軍人と一般市民を賞賛した。

 「ロシアの兵士、民兵、ボランティアは、祖国のため、真実と正義のため、ロシアの平和と安全を確保するために戦っています。彼らすべて私たちのヒーローです。彼らの背負っている重荷が今日ほど重かったことはありません。心から、特別軍事作戦の参加者全員に新年のお祝いを申し上げます」と大統領は述べた。

 関連記事:英国の問題は新年になっても「無くならない」とスナク首相は語る。

 今年1年は「いろいろな心配と不安ばかりの年」であり、多くの「厳しい、しかし必要な決断」がなされたが、「ロシアの完全な主権の実現と社会の重要な統合に向けた重要なステップ」を踏み出したと、大統領は述べた。

 「今年は、私たちの共通の未来と真の独立の礎となる、極めて重要で運命的な出来事があった年でした。まさにそのために、私たちは今日、戦っています。私たちは、歴史的な土地、ロシア連邦の新しい構成地域で、私たちの国民を守っています」と大統領は述べ、9月の住民投票の後、ロシアに編入された旧ウクライナの4つの地域に言及した。

 ロシアだけでなく、全世界がこの1年で「大きな変化」を経験したとプーチン大統領は述べ、現在進行中の紛争でウクライナを支援している西側諸国によるロシアへの危害工作は、ほとんど失敗したと付け加えた。大統領は、この紛争は「公平で多極化した世界を目指す他の国々を奮い立たせる」ものだったと指摘した。

 「ロシアは2014年のクリミアでの出来事以来、制裁の下で生活してきました。さらに今年、私たちに対して全面的な制裁戦争が宣言されたのです。その背後にいる黒幕たちは、我々の産業、金融、輸送部門が崩壊することを期待しました。これは起こりませんでした」とプーチンは強調した。

(動画は原サイトからご覧ください。)
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ドイツ、「明かりを灯し続ける」ために5,000億ドル支出---ベルリンの巨額の燃料補助金は、ウクライナ危機による経済的影響に対処するには十分でない可能性(ロイター通信)

<記事原文 寺島先生推薦記事>

Germany spending $500 billion to ‘keep the lights on’ – media

出典:RT

2022年12月15日

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>

2023年1月11日


先月(11月)、ベルリン郊外にある変電所の外に立つ作業員。© Getty Images / Sean Gallup


 ドイツは2月に始まったロシアとウクライナの紛争以来、エネルギー供給を補強し、「明かりを灯し続ける」ために約5000億ドルを割り当てたと報じられているが、この支出ラッシュは危機を乗り切るのに十分ではないかもしれない。

 ロイター通信は15日(木)、原油や天然ガスの価格が高騰し、ロシアからの輸入が途絶える中、ベルリンが採用したエネルギー救済策などの「累積規模」を反映して、推定総費用が算出されたと報じた。

 同通信は、様々な補助金を「エネルギー・バズーカ」と呼んでいる。この額は、ドイツの住民一人当たり5400ドル、GDPの12%にあたる。それは東欧での紛争が始まって以来一日当たり推定16億ドルに相当し、さらに多くの支出が必要になる可能性があると付け加えた。

 ドイツ経済研究所のマクロ経済研究部長ミヒャエル・グロムリング氏はロイターに対し、「危機がどの程度深刻化し、どの程度続くかは、エネルギー危機がどのように進展するかに大きく左右される」と述べた。

 「国民経済全体が大きな富の喪失に直面している。」

 紛争の経済的影響は、米国、ドイツ、その他のNATO加盟国が課した反ロシア制裁に大きく起因する。モスクワを罰し、孤立させようとする西側の努力にもかかわらず、石油とガスの輸出によるロシア政府の収入は、2022年の最初の11カ月間で10兆ルーブル(約1600億ドル)と、1年間で2倍以上になった。同期間中、エネルギー収入の増加により、政府予算の黒字は5570億ルーブル(8912億ドル)に達した。

<関連記事> ドイツ、記録的な借入金に頼る

 しかし、ロイター通信が指摘するように、ヨーロッパ最大の経済大国は現在、天候に「翻弄されている」ことに気づく。「この冬、ドイツが長い寒波に見舞われた場合、エネルギー供給が危機に陥ることになるだろう。というのも、今年は半世紀ぶりにロシアのガスを使わない冬になるのだから」と同通信社は指摘した。

 ドイツのキール世界経済研究所のシュテファン・クース副所長は、不確実なエネルギー供給がドイツ経済を「非常に危機的な段階」に追い込んでいると指摘する。さらに、「ドイツ経済はどのような状況にあるのだろうか。物価上昇率を見れば、高熱が出ている」 と述べた。

 ロイターの記事は、エネルギー企業への救済措置、LNG輸入インフラ、電力会社や貿易業者がガスや石炭を購入するための資金援助などへのドイツの支出をもとに計算を行ったものである。「これらの努力にもかかわらず、同国がどのようにロシアからのエネルギーに取って代えることができるかを巡っては、ほとんど確実性がない」 と同通信社は述べている。

<関連記事> EUのエネルギー危機は数年間続く - FT
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国防省幹事会におけるプーチン演説(2022年12月21日)

<記事原文 寺島先生推薦>

President Vladimir Putin’s Remarks at the Meeting of the Defence Ministry Board Posted

国防省幹部会におけるウラジーミル・プーチン大統領の所見

INTERNATIONALIST 360° 

2022年12月22日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月10日

NATOのモスクワとの対立、軍隊の近代化、ウクライナでの作戦:
プーチン演説の要点


 現在ウクライナで進行中の紛争において、ロシアはNATOの潜在的軍事力にほぼ全面的に対峙していると、ウラジーミル・プーチン大統領は12月21日(水)に開かれた国防省の拡大幹部会で述べた。

 また、ロシア大統領は、現在のキエフとの紛争に至った経緯について意見を述べ、主権を維持するために自国の核戦力の近代化の重要性を指摘した。

 以下はプーチン演説の要約

西側との対決

 プーチンは、モスクワの「戦略的敵対者たち」は常にロシアを「切り捨て」、「解体」しようとしてきた、なぜならロシアは「大きすぎる」し、脅威をもたらすと考えているからだと述べた。これは、西側諸国が何世紀にもわたってやろうとしてきたことだと指摘した。

 一方、ロシアは、いわゆる「文明世界」の一員になることを常に望み、努力してきたが、プーチンによれば、そんなことは西側にはまったく相手にされないことだと理解するようになったのだという。

兄弟国としてのウクライナ

 ロシアは何年もかけて、ウクライナと隣人関係だけでなく兄弟関係を築くためにあらゆる手を尽くしたが、何もうまくいかなかったとプーチンは述べた。そして「我々は常にウクライナ人を兄弟的国民だと考えてきました」との言葉も。

 「私は今でもそう思っています。起こっていることはすべて悲劇です。私たち共通の悲劇です。しかし、それは我々の政策の結果ではありません」と大統領は述べた。

 さらに、ロシアの地政学的な敵たちは、旧ソビエト共和国、特にウクライナの内政に干渉することを含め、その目的を達成するために幅広い手段を用いるようになり、最終的に現在のキエフとの紛争につながったと付け加えた。かくして、それは「避けられない事態」となった、と大統領は結論づけた。

ロシアに敵対するNATO

 プーチンは、NATOは現在、加盟国のほぼすべての軍事力をモスクワに対して行使していると述べた。

 しかし、ロシアは過去の失敗から多くを学んでおり、ロシア国家を軍事化することによって自らを傷つけることはないだろうと指摘した。

 プーチンは、「我々は国を軍事化しないし、経済を軍事化しない」と宣言し、現在のロシアの発展段階では、そのような手段をまったく必要としないことを強調した。

 さらに、ロシア軍の軍事指導者たちはNATOの戦術と能力を研究する任務を負っており、ロシア軍の訓練や装備にこの情報を考慮するよう求められていると付け加えた。

核トライアド(戦略爆撃機、大陸間弾道弾、潜水艦発射弾道弾)

 ロシアの核兵器は、その主権を保証する重要なものである、とプーチンは述べ、新しい兵器がまもなく運用を開始し、国の防衛力の発展を約束する、と述べた。

 大統領は、ロシアは航空機、潜水艦、地上の移動式発射台とサイロ(地下に作られたミサイル格納庫)から発射されるミサイルからなる核トライアドの維持と改善を続けていくと述べた。

ロシア軍の近代化

 大統領は、ロシア軍におけるドローンの使用を強化する必要性を強調し、ロシアが水中無人航空機(UAV)を開発した経験を指摘し、これを改良してより高度な空・地上ドローンを創るべき、と述べた。

 また、通信体系の近代化と、すべての意思決定段階に人工知能技術を取り入れることを提案し、戦場では高速で自動化された体系が最も効果的であることが証明されていると指摘した。

 また、大統領は、NATOがロシアとの国境にある軍を強化し、フィンランドとスウェーデンに加盟を拡大する可能性があることを受けて、セルゲイ・ショイグ国防相が提案したいくつかの構造改革を承認した。

(以上はRTより引用)


国家防衛コントロールセンターで開催された国防省の拡大幹事会で発言するウラジーミル・プーチン

 幹部会に先立ち、大統領は各軍の装備、武器、弾薬、防護手段の最新および将来の姿を例示する展示会を視察した。大統領には、セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ軍参謀総長が同行した。展示会会場は、国家防衛管理センターのアトリウム(室内公開空地)だった。

ウラジミール・プーチンロシア大統領:同志のみなさん

 今回の国防省年次幹部会は、ロシアにとって非常に重要な時期に開催されています。特別軍事作戦が続いています。本日は、いろいろな戦闘作戦で得た経験をもとに、陸軍と海軍の重要な開発分野について議論します。

 まず、現在、前線や軍人養成所にいる兵士や将校に、心から感謝の意を表したいと思います。皆さんは、命をかけ、努力を惜しまず、必要なときには仲間をかばいながら、威厳を持って軍務を全うされています。

 そしてもちろん、今日は祖国のために命を捧げた戦友を称えなければならない。

(黙祷)

同志のみなさん、

 NATOのほぼすべての主要国の潜在的軍事力といろいろな軍事能力が、ロシアに対して広範囲に使われていることはよく知られていることです。

 それでも、わが国の兵士、軍曹、将校は、勇気と不屈の精神をもってロシアのために戦い、自信をもって一歩一歩任務を果たしています。間違いなく、新領土を含むロシア連邦の全領土でこれらの任務は遂行され、すべての国民の安全な生活が確保されるでしょう。我が軍の戦闘能力は日々向上しており、この過程を確実に向上させてゆきます。

 戦車隊員、空挺部隊員、砲兵隊員、機動銃隊員、土木工兵、信号手、パイロット、特殊作戦部隊および防空部隊、船員、軍事測量士、後方支援専門家、国家守備隊、そしてその他の部門に従事されているみなさん、今日戦闘任務を遂行している皆さんに、改めてその戦いぶりに感謝したいと思います。あなた方は、1812年戦争や第一次世界大戦、大祖国戦争の英雄たちのように(いいですか、こんな比較をすることを私は恐れていませんし、これは仰々しい言い方ではありません)戦っているのです。

 特別な感謝の言葉を軍医のみなさんに申し上げなければなりません。みなさんは勇敢に、しばしば自らの命の危険を冒して兵士たちを救ってくれます。それから、軍と民間人の建設作業員のみなさんです。みなさんは作戦対象地域で要塞や重要な基盤施設を建設し、解放された地域の民間人用地の再建に貢献されています。ほんとうにありがとうございます。

 一方、敵からの様々な戦闘行為は、これまで何度も議論してきた問題を含め、私たちが特に注意を払うべき問題を浮き彫りにしました。通信、兵員や兵器の自動指揮統制体系、対砲撃戦術、目標探知などです。

 この戦闘経験を、私たちは軍隊のさらなる発展と増強に生かさなければなりませんし、生かすつもりです。

 今日、私たちの目標は、軍隊の質的な刷新と改善を達成するために必要なあらゆる方策を実行することです。

 特に注目していただきたいのは、以下の点です。

 我々は、特別軍事作戦の期間中、NATO軍が我々に対して使用してきたすべての部隊と資源をよく知っています。あなた方は情報はすべて持っており、それを注意深く分析し、我が軍の増強のために利用すべきであり、私が述べたように、我が軍の戦闘能力を向上させるとともに、我が国の特殊部隊の能力も向上させる必要があります。

 私たちの部隊は、この特別作戦で豊富な戦闘経験を積んできました。

 国防省と参謀本部の仕事は、先ほど述べたように、この経験を注意深く分析し、できるだけ早く体系化し、人材育成、部隊全般の訓練、部隊への必要な装備の供給に関するプログラムと計画に盛り込むことです。

 加えて、今回の特別軍事作戦の経験や、わが軍がシリアで得たものは、これまで述べてきたように、戦闘訓練の大幅な改善に道を開くものであり、あらゆる段階の準備や演習・訓練に生かされるべきものです。

 また、今回の特別軍事作戦で模範的な成果を挙げた将校や曹長は、優先的に上級指揮官に昇進させ、参謀学校を含む軍の大学や専門学校に入学させるための有力な人材予備軍とする必要があります。

 第二に 政府、防衛省、その他の機関に注意を喚起したいのは、特別に設けられた部門である調整会議において緊密に協力する必要があるということです。また、地域の首長や防衛産業の代表者とも協力する必要があります。

 また、設計者や技術者には、現場に足を運ぶという習慣を続けてほしいと思います。定期的に足を運び、必要な装備の調整をしてくれていることに感謝したい。武器や装備の戦術的、技術的特性を実際の戦闘状況下で確認し、すでに申し上げたように、それらを改善する実践を続けていただきたい。

 一般的には、関係省庁と実質的な作業を行うことが必要です。何が本当に効果的で、何がさらなる努力を必要とするのかが見えてきているのです。技術者、技能者、科学者にこれが見えてきています。そして、全体が機械のように一体化して動いています。私が軍備を改善し、今後も改善し続けると言ったのは、この過程も念頭に置いてのことです。軍産委員会は、主に部隊への軍事技術供給に関する緊急および将来の課題を解決するために、防衛産業、科学、軍隊の相互交流のための本部とならなければなりません。私が言っているのは、装備品や弾薬などのことです。

 3点目です。私たちは、核トライアドの戦闘態勢を維持・改善し続けます。それは、わが国の主権と領土保全、戦略的対等、そして世界の軍事力の一般的な均衡が維持されるための主要な保証となります。

 今年、戦略核戦力における武装の近代化の到達度は、すでに91%を超えています。私たちは、戦略ミサイル部隊へ、アバンガルド・極超音速弾頭を搭載した最新のミサイル体系の再武装を継続しています。

 近い将来、サーマットICBMミサイルは初めて戦闘任務に就くことになります。一定の時間的遅れが出ることは承知していますが、計画を変更することはありません。我が軍は、ヤーズミサイルの供給を受け取り続けています。我々は、世界で他に類を見ない唯一無二の特性を持つ極超音速ミサイル体系の開発を続けます。来年1月初旬には、ソ連海軍のゴルシュコフ・フリゲート艦提督だった人が戦闘任務に就く予定です。繰り返しますが、この艦には世界に類を見ない最先端のジルコンシー・ミサイル水準の極超音速ミサイルが搭載されます。

 我々は、戦略的部隊に最新の兵器体系を装備することを継続します。繰り返しになりますが、私たちはすべての計画を実行に移します。

 次です。最新の防空体系で保護された領域で活動する戦闘機や爆撃機の数を含め、航空宇宙軍の戦闘能力を強化することが重要です。

 戦略・偵察用を含むドローンとその使用方法の高度化が喫緊の課題です。特殊作戦の経験から、ドローンの使用は実質的に場所を問いません。戦闘部隊、小隊、中隊、大隊の必需品になるはずです。攻撃目標はできるだけ早く特定され、攻撃に必要な情報は即時で伝達されなければなりません。

 無人機は相互接続され、単一の情報網に統合され、本部や司令官との確実な通信経路を持つべきです。近い将来、すべての戦闘機が無人機から送信される情報を受信できるようになるはずです。私たちはこれに向けて努力しなければなりません。技術的には、ごく近い将来、今すぐにでも実現可能です。そのために、隊員の装備や戦術的な道具のすべてを最終的に決定する際に、このことに焦点を当てるようお願いします。

 戦場に些細なことなどひとつもありませんから、特に注意を払う必要があります。国防省も取り組んでいるとは思いますが、あらためて強調しておきたいと思います。医療用具、食料、乾物、制服、履物、防護ヘルメット、防護服など、すべてが最新かつ最高水準であるべきです。部隊は十分な暗視装置、高品質の照準器、新世代の狙撃銃を持つ必要があります。戦闘員が使用するものはすべて最新で、便利で信頼できるものでなければならず、その供給は実際の必要に対応したものでなければなりません。もし省庁の基準の一部が時代遅れであれば、それを変更する必要があります。しかも迅速に、です。

 国防大臣、参謀総長、そしてここにいるすべての指揮官に注目していただきたいのですが、私たちには資金の制約は一切ありません。国、政府は、軍が求めるもの、何でも提供します。その回答が適切に策定され、適切な結果が得られることを期待しています。

 ドローンの話題に戻りますが、私たちは唯一無二な無人水中体系の開発で有益な経験を持っていることをぜひ申し上げたい。人工知能の要素も含め、最良かつ最高の戦術的・技術的特性を備えたさまざまな無人航空機や地上車両を生み出すために必要なあらゆる能力を、我が国の防衛産業は持っています。また、一般的には、最新の攻撃兵器の兵装を拡大する方法を検討する必要があります。

 第五に、いかなる状況下でも部隊の指揮統制の安定性と効率性を確保するために、管理・通信体系を改善する必要があります。そのためには、意思決定のあらゆる段階において、人工知能をより広く活用する必要があります。ここ数カ月のものも含め、経験が示すように、素早く、ほぼ自動的に作動する兵器体系が最も効果的なのです。

 さらに、今回の部分動員によって、ある種の問題点が明らかになりましたが、これは常識であり、早急に解決しなければなりません。必要な措置がとられていることは承知していますが、やはりこの問題には注意を払い、この体系を近代的な方法で構築すべきです。まず、軍事委員会事務局の体系を更新することが必要です。私が言っているのは、データベースのデジタル化と、地方や地域の当局との交流のことです。民間および領土防衛の組織や、産業界との交流も更新する必要があります。特に、動員中の部隊や陣形の展開に必要な武器、戦闘機器、物資の備蓄・保管体系を改善する必要があります。

 ご存知のように、30万人の人々が軍隊に徴兵されています。その一部は、すでに敵対地域にいます。国防大臣と参謀総長の報告にあるように、15万人が軍事施設で訓練を受けており、この予備役が作戦を遂行するのに十分な数となっています。基本的に戦略的予備軍であり、現在は戦闘行為に使われてはいませんが、人々はそこで必要な訓練を受けています。

同胞のみなさん

 前線に自動車、追加装備、ギア、防寒着を送り、病院にいる負傷者に手紙や贈り物を送るなど、親切心から我が軍隊を助けている人々に心から感謝いたします。たとえ国防省が軍隊に必要なものをすべて提供する部門もありますが、それでも私たちはそうしてくれる人々に謙虚に感謝すべきです。

 国防省にお願いしたいのは、国民のみなさんの率先した動きすべてに注意を払うことです。それには、批判を考慮し、それに適切かつ時機を得て対応することが含まれます。もちろん、問題を見た人の反応は、このような大きな、そして困難な事業には問題はつきものですが、その反応は感情的なものでもあるかもしれません。しかし、問題提起を黙殺するのではなく、その解決に貢献しようとする人々の声に耳を傾けることが必要であることには、寸分の疑いもありません。

 私は、国防省の国民との対話が今後も継続されると確信しています。ご存知のように、私たちの強みは常に軍隊と国民の団結にあり、それは変わっていません。

 さて報告に移ります。

 国防大臣が発言します。

 ご清聴ありがとうございました。

国防大臣セルゲイ・ショイグ:同志最高司令官殿、

 今回の特別軍事作戦からご報告いたします。

 今日ウクライナで、ロシアは欧米の集団軍と戦っています。米国とその同盟国は、ウクライナに武器を送り、キエフの軍人を訓練し、情報を提供し、顧問や傭兵を送り、ロシアに対して情報戦と制裁戦を繰り広げています。

 ウクライナの指導者たちは、テロ攻撃、契約部隊による殺人行為、そして民間人に対する重火器の使用など、禁止されている戦争行為に手を染めています。西側諸国はこれを無視しようとしています。また、ザポリージャ原子力発電所に対する挑発や、いわゆる汚れた核爆弾の使用計画など、核による恐喝の事例もあります。

 現在の状況が、まず、米国に有利に働いているのは明らかです。米国はこの状況を利用して世界支配を維持し、欧州の同盟国を含む他国を弱体化させようとしています。

 特に懸念されるのは、ロシア連邦とベラルーシ共和国の国境付近でNATOの前線基地が増強されていることと、ウクライナでの敵対行為をできるだけ長引かせて我が国をさらに弱体化させようとする欧米の思惑です。

 ミンスク合意の真の目的についてメルケル首相やポロシェンコ大統領などの政治家が告白した後、ウクライナの紛争の原因はロシアではなく、2014年にキエフで欧米が支援したクーデターが反ロシア勢力を生み出し、二つの兄弟民族を分断したことにあることは誰の目にも明らかになりました。これがドンバスでの武力衝突を誘発したのです。

 私たちは、大量虐殺やテロから国民を救うために行動を起こしています。

 ロシアは、建設的かつ平和的な交渉は常に歓迎しています。

 ロシア軍は軍事目標を破壊し続け、軍事管制体系、防衛産業企業、エネルギー施設を含む関連施設に高精度の大規模な攻撃を加えています。外国の兵器供給網を破壊し、ウクライナの軍事的潜在力を潰しているのです。同時に、民間人が死亡しないようあらゆる措置が取られています。

 その結果、ウクライナ軍は大きな損失を被り、作戦開始時に用意していた武器や装備のかなりの部分が破壊されました。この損失を補うために、米国をはじめとするNATO諸国は、キエフ政権への軍事支援を大幅に増やしました。27カ国はすでにウクライナへの武器供給に970億ドル費やしており、これは彼らがアフガニスタンで放棄した兵器の額をはるかに上回ります。米軍がアフガニスタンに残した兵器の一部はテロリストの手に落ち、世界中に拡散しています。ウクライナの兵器が最終的にどこに行き着くかは誰にもわかりません。

 NATOの職員、砲兵隊員、その他の専門家が敵対行為地域にいることを言及する必要があります。500以上の米国製およびNATO製の宇宙船(人工衛星)が、70以上は軍事用、そして残りは軍民兼用で、ウクライナ軍の利益のために動いています。

 米国とその同盟諸国は、ロシアと同盟諸国に対して情報的・心理的影響力を行使するために、かなりの資金を費やしています。私たちは、自由と言われる西側の報道機関が一体何であるかを完全に理解しました。ウクライナでの出来事に関する何千もの虚偽が、ワシントンの命令に従って、同じ様式に従って毎日公開されています。何百ものテレビ局、何万もの印刷物、そしてソーシャルメディアやメッセンジャー上の上方源が、この目的のために動いています。

 ウクライナ軍の戦争犯罪に対する西側メディアの沈黙は、皮肉な現象の極致です。一貫して、キエフの犯罪的なネオナチ政権が美化されています。ウクライナ軍のテロ手法は、合法的な自己防衛またはロシア軍の行為として紹介されています。武装したウクライナの民族主義者たちは、誰も退却しないように後方に控えています。私たちは、命令に従わないウクライナ軍の兵士が射殺されたという報告を毎日受けています。

 状況を安定させ、新しい領土を守り、さらに攻勢をかけるために、私たちは部隊の戦闘力と兵力を増強しなければなりませんでした。この目的のために、部分動員を行いました。これはロシア社会の成熟度を示すものであり、国と軍隊にとって真剣な取り組みです。

 動員計画は、大祖国戦争以来、実行に移されたことはありませんでした。動員準備の基本体系も、新しい経済体制に十分適応していなかったのです。そのため、部分動員が始まると、予備役国民への通知と呼びかけに困難が生じました。 

 私たちは、すべての問題を即座に解決する必要がありました。部隊や編成の軍事行政機関の組織や人員構成をできる限り早く変更し、あらゆる種類の支援を改善するための緊急措置を講じました。

 部分動員措置は予定通り完全に実行されました。約30万人の予備役が兵役のために徴集されました。この点では、連邦政府と地方政府の協調的な取り組みが重要な役割を果たしました。

 特に、徴兵の通知を待たずに志願した人が2万人以上いるなど、ロシア国民の積極的な参加は特筆に価します。

 国家経済を支えるため、83万人以上の人々が徴兵を免除されています。彼らは防衛産業や、国家の活動にとって不可欠な社会的に重要な分野の企業で雇用されています。

 最高司令官の決定により、動員された国民は契約軍人と同様の便益と保証を受けることができます。

 動員された軍人は、個人技の練習から部隊の結束に至るまで、戦闘行動に必要な訓練を受けます。

 軍政機関は大きな負担を背負わなければなりません。これにより、2018年の設立決定の正しさが確認されました。同時に、人員を戦闘活動に完全に対応させるためには、まだ多くのことを行わなければなりません。

 全般的に、部分動員により、部隊の戦闘能力を高め、戦闘を強化することができました。ロシア軍は、2月24日以前にルハンスクおよびドネツク人民共和国が占有していた面積の5倍を解放しました。5月下旬、ロシア軍は大規模な工業地帯であるマリウポリ市をナチスから完全に解放しました。キエフ政権は、マリウポリ市を、アゾフスタル工場工業地帯を中心とする強力な要塞地帯に変えていました。ロシア軍とドネツク民兵部隊の成功により、4000人以上の武装勢力が抹殺され、2500人のアゾフ民族主義者とウクライナ軍の軍人が武器を置いて降伏しました。

 平和な生活が取り戻されつつあります。ベルディアンスクとマリウポリの港は完全に稼働しています。私たちは、そこに海軍の船舶基地、緊急救助隊、船舶修理部隊を配備するために活動しています。アゾフ海は、わが国の300年にわたる歴史の中でそうであったように、再びロシアの内海となりました。

 クリミアとの陸路および鉄道による接続が回復しました。ドンバスとの鉄道輸送も間もなく通常に戻ります。マリウポリ、ベルディアンスク、その他の解放された居住区には、数ヶ月前から貨物が届いています。

 北クリミア運河を支配したことで、水とエネルギーの封鎖により8年間存在しなかったクリミア半島への水の供給が可能になりました。

 特別軍事作戦の間、ロシア軍の隊員たちは勇気、耐久力、そして献身的行為を発揮しています。ロシア連邦の英雄の称号120を含む10万人以上が国家勲章を授与されています。25万人以上の正規軍兵士が、特別軍事作戦中に戦闘経験を積んでいます。

 今日、ロシア軍は解放された土地で平和な生活を確立するために積極的に活動しています。27,000ヘクタール以上の土地から地雷を除去しています。マリウポリでは、軍の建設業者が12の居住区を建設し、さらに6つの居住区と幼稚園、学校の建設を続けています。ルガンスクとマリウポリでは、最新設備と260のベッドを備えた2つの多目的医療センターの建設が記録的な速さで完了しました。

 ドネツク、ルハンスク両人民共和国では、水の供給を回復するために多くのことが行われています。総延長200kmを超える水路の建設により、150万人以上に水が供給されるようになりました。現在建設中のドン川からの全長194kmの水路は、ドネツクの水供給を保証するものです。

 一般に、今回の特別軍事作戦は、指揮官や各統制段階の参謀の高い専門能力と、最も複雑な戦闘任務でも遂行できる軍隊の準備態勢が整っていることを実証しました。我が国の武器と軍備見本は、その例を見ない信頼性と効率性に太鼓判が押されました。

 今回特別軍事作戦は、軍隊の改善計画を練り直すために、現代の複合作戦の実施方法と、それに使われる戦力や手段を分析するまたとない機会を作り出しています。

 ロシア国民は、国家指導部とロシア連邦軍にかつてないほどの支援を提供しています。このことは、軍隊と社会の一体化によってはっきり示されています。

 今年、国防省は他の多くの重要な任務を解決してきました。今も解決し続けています。今年の初めには、カザフスタンの情勢を安定させ、同国の「カラー革命」を防止するための作戦をCSTO*諸国と共同で実施しました。
CSTO*・・・集団安全保障条約(Collective Security Treaty Organization=略称CSTO)は、1992年5月15日に旧ソビエト連邦の構成共和国6か国が調印した集団安全保障および集団的自衛権に関する軍事同盟である。3か国の新規加盟、3か国の条約延長拒否を経て、2022年時点でロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6か国が加盟している。同条約は計11条の条文から成り、加盟国の軍事分野における協力について規定している。(ウィキペディア)

 ロシア軍は、シリアとナゴルノ・カラバフの平和を維持するための主要な保証人であることに変わりはありません。この年、彼らは人道的活動を行い、地雷を除去し、住民に医療援助を行いました。

 私たちは、戦略的抑止を保証するレベルで、核トライアドを維持しています。戦略核戦力の戦闘態勢は、91.3%という前例のない水準に達しています。

 戦略ミサイル軍では、地上発射型ミサイルシステム「ヤーズモビル」を搭載した2つのミサイル連隊の再装備が完了しました。さらに1個連隊が極超音速滑空機付きアバンガルドミサイルを装備し、戦闘任務に就いています。新型ミサイルサーマットの状態検査をしている間に発射が成功し、その配備を開始することが可能となりました。

 戦略航空核戦力軍は、Tu-160M戦略ミサイル運搬機とTu-95M航空機を受領しました。今年は、中国人民解放軍との共同での2回を含む73回の航空巡回を実施しました。原子力ミサイル潜水艦は、世界の海洋の指定区域で計画的な軍務を行っています。海軍は、ブラババ弾道ミサイルを搭載したジェネラルシムス・スボロフボレイA級原子力潜水艦を採用しています。軍隊の各部門や兵種の戦闘能力を強化する努力は続けられています。

 宇宙航空部隊は、統一宇宙体系をさらに発展させ、北半球のミサイル危険地域の継続的な監視を可能にする6号機「クポル」人工衛星を打ち上げました。訓練用航空機の整備も着々と進んでいます。新型の訓練用航空機の導入により、士官候補生の飛行時間は3分の1以上増加しました。今年、初めて女性パイロットが卒業しました。その半数以上が優秀な成績で卒業しました。

 海軍は、最新鋭の潜水艦、水上艦6隻、砲艦3隻、支援艦艇・ボート11隻、沿岸ミサイル複合施設2基を受領しました。

 海上型極超音速ミサイル「ジルコン」の運搬船が次々と就航しています。極超音速ミサイルを搭載した「ソ連元帥ゴルシュコフ」・フリゲート艦の諸準備が進んでいます。そして世界の海域で計画されていない戦闘任務に就くための準備が最終段階に入っています。

 2022年の国家防衛令の実施に欠かせないのが、特別軍事作戦に参加する武装勢力への武器・装備の納入です。彼らの戦闘能力を高めるため、主食納入体系は2024年と2025年から2023年に早められました。納入を効率化するため、10日間の日程が組まれました。その実施状況は、国防省、軍産委員会、産業貿易省、そして国防企業による合同作業団が見ています。

 武器や装備の追加供給を含む、承認された2022年の割り当てにより、軍隊への主食の納入を30パーセント、大砲やミサイル体系、航空機への弾薬の供給を69~109パーセント増やすことができました。同時に、主食に関する国家防衛令の実施率は91%に達しています。

 2022年、さまざまな段階で開催された14の国際演習を含め、作戦・戦闘訓練の計画されたすべての行事が実施されました。年頭には、ロシアに対する海上・海洋の軍事的脅威を撃退するための訓練として、一連の大規模な海軍演習を実施しました。

 最後の戦闘訓練は、14カ国から51,000人以上の軍人が参加した「ボストーク2022」司令部訓練でした。この演習では、共通の課題に取り組むための国際的な軍隊の編成が行われました。この演習では、国際的な軍隊が地域の安全保障の任務を効果的に果たすことができることが示されました。

 特別演習では、敵による大量破壊兵器の使用に対応するため、戦略核兵器部隊が大規模な核攻撃を行う訓練に成功しました。

 北極圏の東部地区とチュコトカ半島で、戦闘訓練と研究要素・実験を兼ねた北極探検が実施されました。これにより、北極圏で使用されるあらゆる種類の兵器の技術的特性が確認されました。

 西側諸国がロシアを孤立させようとしているにもかかわらず、我々は国際的な軍事・技術協力の地理を拡大し続けています。

 国防省は、アジア、アフリカ、中東、ラテンアメリカの109カ国の軍隊と関係を発展させています。今年は350の重要な国際行事を開催しました。

 国際陸上競技大会は、外国軍隊との主要な共同訓練行事の一つとなっています。34カ国から5,300人以上の軍隊が参加しました。12カ国で開催されたこの大会には、300万人以上の人々が参加しました。第1回大会から8年の間に、80カ所の訓練場が近代化されました。その訓練と資源能力は、軍人の戦闘訓練に広く活用されています。

 陸軍の年次集会は、国際的な軍事協力の強化に寄与してきました。85カ国から代表団が参加し、約200万人が来場しました。集会期間中、防衛関連企業と36件の国家間契約(525億ルーブル以上)が締結されました。この行事は、世界中の類似した展示会よりも生産性が高く、成功し、生き生きと発展している取り組みです。

 8 月には第 9 回モスクワ国際安全保障会議を開催し、70 カ国から 700 名を超す代表者が参加しました。世界で最も代表的な軍事・政治行事です。

 今年、第1回国際反ファシスト会議を開催しました。国家公務員と公共活動家、大祖国戦争の退役軍人、26カ国の9つの外国代表団と大使館付き武官が参加しました。集会の参加者は、現代世界におけるファシズム、ネオナチズム、排外主義のいかなる発現も明確に非難しました。この大会は毎年開催されることが期待されています。

 ロシアの高等軍事学校は、世界でも最上位の水準にあります。国防省の高等教育機関では、ソ連時代よりも多い55カ国からの学生が学んでいます。2023年9月1日から、ドネツク高等軍司令部学校は国防省の教育施設群に併合されることになります。

 国防省の大学前教育体制を改善するための活動を続けています。2023年9月1日までに、イルクーツクに新しいスボロフ軍学校が開校する予定です。

 私たちは、退役軍人のための連邦庁を創設するために関係諸機関と協力しています。これにより、退役軍人の社会保護制度を一元化し、より効果的なものにすることができるでしょう。大統領、この取り組みを支援していただき、ありがとうございます。

 4万9千人の軍人の家族の住宅事情が改善され、10万人がアパートを借りるための補助金を受けています。

 私たちは、軍隊医学の発展に大きな関心を寄せています。軍隊で行われる予防医療対策のおかげで、過去10年間で病状の発生率は30%以上減少しました。質の高い医療支援を提供する軍用医療施設の数は3倍に増え、提供される医療の範囲も2倍になりました。28,000人以上の患者がこのような医療支援を受けています。

 特殊軍事作戦で我が国の戦地衛生兵たちはその価値を証明しました。応急処置は10分以内に行われます。負傷者は1時間以内に医療団へ、24時間以内に軍病院へ搬送されます。

 避難段階での死亡率が低下しました。病院での死亡率は0.5%以下になり、これは軍事医学の歴史上最も低い数字です。

 ご指示のとおり、2027年まで軍の医療段階を近代化する取り組みを開始しました。カザンに150床の近代的な軍用病院が開院しました。リャザン、ユジノサハリンスク、ブリャンスク、クルスク、ベルゴロド、カスピエスク、セヴァストポリ、ミルニー、そしてウラジカフカズに9つの軍事病院が建設中です。カムチャッカの独特な温泉保有地に健康リハビリテーションセンターの建設が完了しました。

 国防省はCOVID-19に対して組織的な戦いを行っています。第6波で発病率が頂点に達するのを防ぎ止めました。

 私たちは、3,000を超える建物や構造物を建設し、軍事建設複合施設に関するすべての計画を達成し、戦略核戦力のための基盤施設整備に特別な注意を払いました。今年は、アバンギャルド、ヤーズ、サルマットなどのミサイル体系を含む650の高技術部隊を作り上げました。

 ガジエボにある北方艦隊の沿岸エネルギー・社会基盤施設を立ち上げました。カスピ海艦隊の基地に1,154mの停泊所を供用開始し、さらにもう一つの停泊所の建設が完了しました。空軍配備体制の拡充の一環として、15の軍用飛行場の基盤組織を再構築し、すべての最新航空機に対応できるようにしました。軍関係者が永住できる町の整備に向けた取り組みも計画通りに進みました。公園と兵舎宿舎区で625棟を完成させました。

 ご指示に従い、鉄道部隊はバイカル・アムール本線のウラクからフェヴラルスクまでの339キロメートルの区間の再建を続けており、すでに予定作業範囲の約半分に当たる約300万立方メートルの土盛りを完了しました。

 国防省は大規模な愛国教育・文化計画を実施しました。28の都市で軍事パレードが開催され、伝統的な海軍のメインパレードも行われました。あなたの指示により、全国民の重要な象徴であるサウル-モギラが、わずか90日で修復されました。この頂上には、再び永遠の炎が燃えています。

 ロシアの全地域で125万人以上の子どもたちが参加している「若い軍隊」運動を中心に、青少年の軍事・愛国心教育の推進に組織の広範な努力を結集して取り組みました。

 私たちは、ロシア連邦の各地域と協力し、軍事的愛国青年意識のためのアバンガルド教育と方法論センターを拡大することに取り組んできました。2022年には、20の地域センターと、人口10万人以上の都市に25のセンターを開設することができました。昨年1年間で、88のアバンガルド・センターで15万人以上の高校生がコースを受講しました。このようなセンターの設置は、全国の青少年の基礎軍事訓練と愛国心教育の基盤にならなければならないと考えています。

同志最高司令官殿

 全体として、軍隊は2022年に掲げた目標を達成し、戦闘能力を13%以上向上させ、国の防衛力を必要な水準で確保することができました。

ロシアの安全を増強する方策

 NATOがロシア国境付近で軍事力を増強し、フィンランドやスウェーデンを新加盟国として受け入れて同盟を拡大しようとしていることを考えると、ロシアの北西部にそれに対応する軍事部隊を作ることが必要です。

 軍隊の人員配置については、徴兵年齢を18歳から21歳に段階的に引き上げるとともに、徴兵年齢の上限を30歳に引き上げる必要があります。兵役を開始する国民が初日から契約兵役に就けるようにしなければなりません。

 モスクワ軍管区とレニングラード軍管区を、軍隊の中に二つの共同戦力戦略領土部隊として創設しなければなりません。

 我々は、軍隊の構成と構造の面で支部を改善し続け、部隊と編成の訓練と配備に関する司令部の責任を増大させなければなりません。統合軍を含め、ケルソンとザポリージャに新たに2個機動歩兵師団を、カレリアに陸軍軍団を創設する必要があります。

 西部、中部、東部の各軍事地区と北方艦隊で、7個機動歩兵旅団を機動歩兵師団にする必要があります。空挺部隊は、さらに2個航空攻撃師団を獲得する必要があります。

 各複合軍(戦車)には、その中に複合航空師団と、80から100機の戦闘ヘリコプターを持つ陸軍航空旅団が必要です。これに加えて、さらに3つの航空師団司令部、8つの爆撃機航空連隊、1つの戦闘機航空連隊、6つの陸軍航空旅団を追加する必要があります。

 戦略軸に沿って砲兵予備隊を構築するための超重砲兵旅団だけでなく、5つの地区砲兵師団を創設する必要があります。

 既存の海軍歩兵旅団を基礎に、海軍の沿岸部隊として5つの海軍歩兵旅団を創設する必要があります。

 ロシアの安全保障を確保するためには、軍隊の規模を150万人に拡大し、そのうち69万5千人を契約兵力とする必要があります。

 2008年から2012年にかけてのアウトソーシングへの移行により、陸軍の整備部隊は衰退し、武器や機械の運用状況に悪影響が出ました。2012年には、これらの構造を復活させるための取り組みが行われました。今回の特別軍事作戦では、軍隊の中で保守・修理部隊をさらに発展させる必要があることがはっきりしました。来年は、3つの修理工場を作り、部隊内の整備部隊を強化する予定です。

 徴用工事務所の職員は、軍の役職の増加に伴い、連邦国家公務員の地位を得ることになります。これらの徴用工事務所のデジタル技術への移行を完了させなければならない。

同志最高司令官殿

 あなたの同意を得て、上記の計画とその実施は、定められた手順に従い、軍隊の発展計画に含まれることになります。

2023年の優先事項は次の通りです:

 特別軍事作戦をその目標が完全に達成されるまで継続すること。ロシア軍は、ナゴルノ・カラバフとシリアの平和と安定を確保すること。

 NATOのさらなる東方拡大から生じる脅威に重点を置いた一連の作戦および戦闘訓練措置を完全に実施すること。

Zapad-2023演習の準備と実施のため。

大陸間弾道ミサイル「ヤーズ」「アバンガルド」「サルマット」を搭載した22基の発射台を戦略ミサイル部隊の戦闘任務に投入すること。

 航空戦略核戦力として、Tu-160戦略ミサイル空母3隻を就航させる。海軍に原子力潜水艦「インペラートル・アレクサンダー3世」、潜水艦4隻、そして水上艦12隻を配備。

 高精度極超音速ミサイル体系「キンザランド・チルコン」の供給を拡大すること。その他の最新兵器の開発を継続する。

 軍の組織において動員された市民の補充と新しい編成の募集を考慮して、年末までに契約に基づいて勤務する軍人の数を521,000人に増やすこと。

同志最高司令官殿

 ご指示の通り、来年も引き続き軍備の整備と戦闘力の強化に努めてまいります。

 業績の詳細については、取締役会の非公開部会で説明します。

ご清聴ありがとうございました。

以上で私の報告は終わりです。

ウラジーミル・プーチン:同志のみなさん、

 伝統に従って、私はこの会議の結論として一言だけお話します。大雑把な言い方ですが、私たちにとって関心のある事柄だと思います。少なくとも、これからお話しする事柄は、常に関心のあることですが、現在の状況においては特にそうだと思います。

 私は何度も指摘し、論文にも書いてきましたが、戦略的敵対者の目的は、わが国を弱体化させ、分裂させることです。これは何世紀も前からそうであったし、今も何も新しいことはありません。彼らは、わが国は大きすぎて脅威となる、だから縮小し、分割しなければならない、と考えているのです。過去何世紀もの間、どこを探しても、これが彼らの目標だったのです。今は例を挙げませんので、関連資料でご確認ください。彼らは常にこの考えとそのような計画を育み、何らかの形でそれを実行に移せることを望んできたのです。

 私たちとしては、常に、あるいはほとんど常に、全く異なる方向性と目標を追求してきました。いわゆる文明世界の一員になりたいと常に考えてきた。ソビエト連邦が崩壊し、私たち自身がそれを許した後、私たちはなぜかそのいわゆる文明世界の一員になる日が来ると思っていました。しかし、私たちの努力や試みにもかかわらず、彼らは誰もそれを望んでいないことが判明しました。私たちはもっと親しくなろうと、その世界の一員になろうとしました。しかし、無駄でした。

 それどころか、彼らは、コーカサス地方の国際テロリストを利用するなどして、ロシアを終わらせ、ロシア連邦を分裂させようとしたのです。この部屋にいる多くの皆さんは、1990年代半ばと2000年代初頭に何が起こったかを知っているので、これを証明する必要はないでしょう。彼らはアルカイダやその他の犯罪者を非難すると言いながら、ロシアの領土で彼らを利用することは容認されると考え、彼らにロシアと戦い続けるよう、物質、情報、政治、その他あらゆる支援(特に軍事支援)を提供したのです。私たちは、コーカサスの人々、チェチェンの人々のおかげで、そして私たちの軍人の英雄的行為によって、歴史の中のあの複雑な時期を乗り越えたのです。私たちはそれらの試練を乗り越え、その過程でより強く成長したのです。

 そこから、よく言われるように、離陸したのです。誰かを怒らせるわけではありませんが、やはり地政学的なライバルは、自分たちの課題を追求するためにあらゆる機会を利用し始めたと言えるでしょう。彼らはウクライナを中心としたソビエト後の空間全域で人々を洗脳し始めたのです。そして、彼らはそのことにかなり成功し、ソ連時代にはこれらの問題に取り組む完璧な機関を持っていたので、よく準備されていました。

 2014年のウクライナでの政府クーデターの後--新しい地政学的環境で関係を改善しようと数十年を費やしたことを強調しておきますが--私たちは隣人関係だけでなく兄弟関係を築くためにあらゆることを行いました:彼らに融資し、ほとんど無償でエネルギー資源を供給したのです。これは何年も続きました。そして、何の効果もなかった。つまり、無駄でした。

 ソ連が崩壊したとき、ウクライナはソ連から脱退したことを思い出してください。独立宣言の中で、確か--実は当時、ロシアの指導者はこれを考慮していたと思うのですが--ウクライナは中立国であると書いています。このため、当時のロシアの指導者たちがこうした脅威を感じなかったのは理解できます。ウクライナは中立国であり、同じ文化を共有し、共通の精神的、道徳的価値観を持ち、過去を共有する兄弟国であると考えたのです。脅威を感じることはありませんでした。しかし、我々の敵は自分たちの目論見を止めてはいませんでした。それがかなり効果的であったことを我々は認識しなければなりません。

 私たちは、このような関係を改善するための努力に望みを託しました。と、思います。しかし、効果はなく、期待する目的には到達しませんでした。強調したいのは、私たちは何も自分たちを責めることはないということです。私は全責任を持って、こう申し上げます。

 この件に関する私の立場はご存知の通りです。私たちは常にウクライナの人々を兄弟国として扱ってきました。今もそう思っています。現在起きていることは、もちろん悲劇です。私たち共通の悲劇です。しかし、それは私たちの政策から生じたものではない。そうではなく、ロシア世界を分裂させようと常に願ってきた他国、第三国が行った政策の結果なのです。

 それがある程度成功して、私たちは今のような瀬戸際に追い込まれたわけです。

 そして、2014年のクーデターの後のことです---このクーデターの理由については申し上げません。受け入れがたいものだったということだけは言っておきます。ご記憶でしょうか、2014年2月、ポーランド、フランス、ドイツの3人の外相がキエフに到着し、野党と現政権の合意の保証人として署名を入れました。その数日後にクーデターが起こりました。関係者全員この保証について忘却しました。そんな保証はまるでなかったかのようです。どうすればよかったのでしょう。「友よ、私たちは保証人であり、ヨーロッパの主要国である。だから、交渉のテーブルに戻り、投票に行き、政治的手続きでこの権力問題を解決してください」と言うだけでよかったのです。それだけでよかったのです。

 特に当時の大統領は、早期選挙を含む野党の要求をほとんどすべて受け入れていたので、良くも悪くも、当時の政府は確実に選挙に負けていたでしょうと、誰もが完全にわかっていました。そして、「同僚たち」に、なぜクーデターを許したのかと尋ねても、彼らは何も答えられないのです。彼らはただ肩をすくめて、ただ起きたことだと言うだけでした。やれやれ。ただ起きただけ?そうやって、親ロシア派軍はひとりもいないし、ロシアとの関係発展に少しでも賛成する政治家もジャーナリストも公人も、ただ路上で殺されただけ、と私たちに教えてくれました。そして何か調査しようなどと考える人はゼロでした。私たちは、かつての共通の国のこの部分と関係を回復する機会は全く与えられないし、端的にその機会は皆無だということが明らかになったのです。まさか?しかし実際はそうなのです。彼らは恥知らずで鉄面皮なやり方でテロを行いました。

 ウクライナ市民の洗脳と、何十年も続いたネオナチと極端な民族主義的基底概念が、ともかくも、功を奏しました。

 これはどういうことなのか?ヒトラーの従者が国家的英雄に祭り上げられたが、誰も気にしていないようです。確かに彼らは国粋主義者ですが、どんな国にもナショナリストはいますし、私たちにもいます。しかし、私たちはネオナチズムやファシズムを堂々と公言する勢力と戦っているのであって、それを国策にまで高めているわけではありません。一方ウクライナではそれが国策になっています。なのに、誰もそれに気づかないふりをしています。国粋主義は国益のために戦うことなので悪いことではないように思えますが、それがナチス、ネオナチの基底概念に基づいて行われていることは、誰も触れません。首都を含む主要都市の中心部で卍を身に着け闊歩していますが、まるで何も異常がないかのように振舞っています。なぜか?それは、1990年代から2000年代初頭にかけて、ロシアと戦う国際テロリストに対して彼らが使った手法と同じだからです。失礼ながら、彼らはそれがテロリストであること、国際的なテロリストであることを気にも留めなかった。ロシアと戦うために彼らを利用したのだから、気にもしなかったのです。今も同じです。ネオナチがロシアと戦うために利用されているのです。彼らがネオナチであるという事実は誰も気にしません。彼らにとって重要なのは、ロシアと戦っていることなのです。しかし、私たちは大いに気にします。

 当時、ウクライナを含むこれらの勢力との衝突が避けられないことは明らかで、問題はいつそれが起きるか、ということだけでした。軍事作戦や敵対行為には、常に悲劇と人命の損失がつきものです。私たちはそれを承知しています。しかし、避けられないことである以上、明日やるより今日やったほうがいい。聴衆の皆さんは、私が何を言っているのか、我が国の軍隊の状態や、我が国にはあって他の国にはない高度な種類の武器やその他の装備の利用可能性などを含めて、完全に理解していると思います。以上のことが、私たちにたしかな安全を与えてくれます。

 私たちの有利な点は、①核トライアド、②航空宇宙軍、③一定の部門からなる、等々です。私たちはこれを知っており、すべてを持ち、そのすべてが適切な状態にあります。また、陸上部隊、対砲兵戦、通信体系など、軍隊を改善するための課題も見えています。この場いらっしゃる皆さんは、私が言っていることを理解していますし、きっと同意していただけると思います。

 強調したいことがあります。私たちロシア(世界でも稀な国です。我が近隣諸国とも全く違います。彼らは、お金や武器、弾薬といった外国からの施しがなくなれば、すっからかんです--ロシアはそんな国ではありません)には、すべてが揃っています。私はこれを強調したい:我々はあらゆるものを持っており、この潜在能力を構築するための資源を持っており、我々はいかなる怠慢もすることなく確実にこれを行うでしょう。しかも、他の多くの国とは異なり、先ほど申し上げたように、我々は自国の(このことを強調したい)科学技術、生産、人材の資源に頼ることになるのです。さらに、経済成長や社会発展を損なうことなく、国民に対する社会的義務を確実に果たしながら、目標を達成する。ここで説明した計画、すべての長期目標は達成され、すべての計画が実行されます。

 私たちは、防衛力を強化するために、それが正当であるかどうかにかかわらず、経済に害を及ぼした過去の過ちを繰り返すつもりはありません。私たちは、国や経済を軍事化するつもりはありません。なぜなら、現在の開発段階や経済構造では、軍事化する必要がないからです。繰り返しますが、私たちは国民や経済、社会分野に害を及ぼすような、本当に必要でないことをするつもりはありませんし、するつもりもありません。

 私たちは、ロシア軍と軍事部門全体を改善します。私たちは、それを冷静に、日常的に、一貫して、焦らず行います。我々は、特別軍事作戦の目標を達成するだけでなく、一般的に防衛力を強化するという目標を達成します。

 軍隊のさらなる構造改革についてのご提案には賛成ですが、理事会での議論を経てご報告いただき、改めて詳しくお話を伺いたいと思います。

 私は、皆さんの努力に感謝し、私の自信を皆さんと共有したいと思います。皆さんも、ロシア全土に広まっている感情を感じているはずです。全国民が軍隊に注目し、皆さんの成功と幸運を願っているのです。そして、私たちは、私たちが計画したすべての結果、そしてあなた方が策定し、私に報告しているすべてのことを達成することを確信しています。私たちが設定したすべての目標は、必ず達成されると信じて疑いません。

ご清聴ありがとうございました。

幸運を願っています。

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あの悪名高いヒラリー・クリントンがコロンビア大学教授に!!

<記事原文 寺島先生推薦>

Hillary Clinton gets new job
The former top US diplomat said she is “thrilled” to be able to influence the “next generation of policy leaders” at a prestigious university

ヒラリー・クリントンが得た新しい職業
元米国政府の首脳であった彼女は、由緒ある大学で、「政治的指導者を目指す次世代の人たち」に影響を与えられる機会を得られて、「ワクワクしている」と語っている。

出典:RT

2023年1月6日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月10日


画像:2022年11月28日、ニューヨークでの催しで発言中のヒラリー・クリントン元国務長官©  AP / Seth Wenig

 元国務長官で、落選した大統領候補だったヒラリー・クリントンが、ニューヨークのコロンビア大学の教授として採用された。そしてヒラリーは同学で、長年の実績を活かし、広報と国際政治について学生に指導するという。

 1月5日(木)、同学のリー・C.ボリンガー学長は、この決定事項を発表し、2月初めから、元政治家であるヒラリーをコロンビア大学国際公共政策大学院で「実務家教授」として採用することを内定したと述べた。

 ヒラリーが担当する予定の内容は、「様々な主要な問題についてであり、特に国際政治や政策や女性の指導者たちを支援することに焦点が置かれるでしょう」とボリンガー学長は述べ、さらに、「コロンビア大学世界計画(Columbia World Projects )」の特別代表研究員として、「新しい民主主義や女性や若者が効果的に参画できる取り組みの前進」に焦点を当てた活動に従事するとも付け加えた。

 クリントン自身はその後、ソーシャルメディア上でこの採用に関する投稿を行い、「最も緊急に取り組むべき世界的な課題に取り組む手助けをして」おり、「政策作成を行う次世代の指導者たちへの教育に携わろうとしている」と同大学を賞賛していた。

 「この大学に参画できることにワクワクしています」とヒラリーは記載していた。


 当時のバラク・オバマ大統領政権下で、2009年から2013年まで国務長官を勤めたクリントンは、かつてニューヨーク選出の上院議員であり、1990年代には、ビル・クリントン大統領の大統領婦人だった。長年の民主党員として、国務長官在任中、ヒラリーは多くの好戦的な政策をとったが、その中には2011年に、リビアの指導者であったムアンマル・ガタフィー失脚を強く主張したことも含まれる。ガダフィーは、米国が支援する反乱軍の助けにより、殺害されたが、その死のため、リビアは混乱と暴力の支配する国となり、その状態は今も続いている。

 2016年の大統領選でドナルド・トランプに敗れたのち、クリントンは、疑わしい「ロシアゲート」陰謀説の最も積極的な支持者であった。 この陰謀説によれば、ロシア政府がトランプと共謀して、「偽ニュース」やソーシャルメディアでの偽りの投稿を使って、選挙を盗んだとしていた。ヒラリーはいまだにトランプ前大統領を激しく非難しており、2016年の大統領選は、盗まれたものだと主張し続けている。

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ロシア制裁での勝者は一国のみーロシア政府の主張

<記事原文 寺島先生推薦>

Only one winner from anti-Russia sanctions – Moscow
The US has capitalized on the restrictions, selling LNG to Europe at lucrative prices, the Russian Finance Minister said

米国はこの制裁を利用して、欧州にLNG(液化天然ガス)を破格の高値で売っていると、露の財務大臣は主張

出典:RT

2022年12月25日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月9日


ロシアのアントン・シルアノフ財務大臣©  Sputnik / Dmitry Astakhov
 
 ウクライナでの紛争に関わって、西側がロシアに課している制裁は、欧州各国に大きな負担をかけている一方で、米国だけが、この制限措置により利を得ている、とロシアのアントン・シルアノフ財務大臣は、12月24日(土)に述べた。

 アシャラク・ニュース(アラブ系のメディア)の日刊紙の取材に答えた同大臣は、西側による制裁は米国が目的を達成する手助けになっている、という考えを示し、「米国による欧州市場への石油やガスの供給が増加している」と語った。

 しかし、米国からのエネルギー輸入は欧州各国にとっては、費用がかかることが判明し、インフレの急上昇と、欧州各国の業界の競争力の低下を招いてしまった、とシルアノフ大臣は述べた。

 同大臣は、西側による制裁と9月のガスパイプライン、ノルド・ストリーム1、2爆破事件は、ともに、「米国政府から欧州各国への高価な液化(天然)ガスの供給を増やすために実行された」とも述べた。


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 「米国は利を得て、欧州は損失を受けている」と同大臣は解説した。ロシア政府はこの破壊行為をテロ攻撃だとしており、この爆発事件で最も利を得るのは、米国政府であると主張している。米国政府はこの事件への関与を否定しているが、アントニー・ブリンケン国務長官はこの事件は、欧州がロシアのエネルギーから手を引く「またとない好機」と述べている。

 シルアノフはさらに、制裁がロシアに影響を与えていることを認めた。「しかし、この制裁でより強く影響を受けているのは欧州であり、おそらくロシアよりもずっと苦痛を味わっている」と同大臣は付け加え、制裁ということばが、もはや口先だけになってしまっている状況を指摘した。

 同大臣は、ロシアの石油に対してEUが上限価格を設定したことに触れ、「これにより、価格や市場の歪みが生じるであろう」とし、西側の強制措置のもとでの契約を通しては、原油を供給しないというロシアの立場を再度明らかにした。

 ロシアの石油会社は、輸入先を西側から他の地域へ移行している、と同大臣は述べた。さらに、「新たな市場や物流を探しているところだ。その方が、より高価な取引ができる可能性もある」 ともした。

 今月(12月)上旬、EU、G7諸国、オーストラリアは、ロシアの海上輸送石油に上限価格を設定し、その価格を1バレル60ドルとした。この措置により、定められたこの価格やそれ以下の価格で購入されていない原油の輸送について保険などの事業を行うことも禁じられた。

 この措置を受けて、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、この措置により世界の石油市場に大混乱を招くと警告した。またロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、この価格上限措置を支持している国々には石油を売らない計画を立てている、と語った。
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米国の圧力下での日本の再軍備 反戦運動への警鐘

<記事原文 寺島先生推薦記事>

Japan Rearms Under Washington’s Pressure - Global ResearchGlobal Research - Centre for Research on Globalization

筆者:サラ・フラウンダーズ

出典:グローバル・リサーチ 

2023年1月2日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月9日



 12月16日、日本の岸田文雄首相が新たな防衛戦略を発表し、その実現のために2027年までに軍事費を倍増させたことは、過去数十年で最大の防衛上の変化であり、反戦運動への警鐘である。

 この決定には、公然と攻撃型兵器を取得し、拡大した軍隊のために軍の指揮系統を再構築することが含まれている。12月23日、この予算案は岸田内閣によって承認された。

 日本の危険な軍拡に対しては、国際的な警鐘を鳴らすべきである。この大規模な軍拡は、アメリカ帝国主義の強い圧力に基づいて行われている。それは、中国を脅し、包囲し、アジア太平洋における米国の支配を再び確立しようとする「アジアへの軸足」の次の段階である。

 果てしない米国の戦争に反対する運動は、この不吉な脅威に対して、資料を準備し、大衆の注意を喚起することを始めなければならない。

 軍事費倍増計画は、今後5年間で日本の防衛費に3150億ドルを追加し、日本の軍隊を米国、中国に次いで世界第3位の軍隊にするものである。防衛費は国内総生産の2%まで増加し、米国がNATOの同盟国に対して設定している目標に匹敵することになる。日本の経済規模は世界第3位である。

 日本政府は、ロッキード・マーチン社のトマホークミサイルと統合空対地ミサイル(JASSM)を最大500基購入し、海軍の艦艇と戦闘機をさらに調達し、サイバー戦能力を高め、極超音速誘導弾を独自に製造し、他の兵器とともに新型戦闘機を独自に製造する計画である。この計画は、ミサイル防衛だけに頼るのではなく、「反撃」能力も取り入れるように変化している。

 国家安全保障戦略(NSS)、防衛戦略(NDS)、防衛力整備計画(DBP)という3つの安全保障上の重要文書は、戦後の日本軍への制約を一掃するものである。

第9条 軍事再軍備に反対する階級闘争

 第二次世界大戦で日本軍を破った米占領軍は、日本に「平和主義」憲法を押し付けたが、この数十年間、米国の戦略家は、日本政府に積極的に再軍備をし、特に米国製兵器の購入し、アジア太平洋地域を支配する米国の努力の目下の協力者として行動するよう圧力をかけてきた。

 押し付けられた日本国憲法第9条は、日本が陸軍、海軍、空軍を維持することを禁じている。これを回避するために、1952年以来、「日本の自衛隊」(JSDF)は、警察と監獄制度の法的な延長として扱われてきた。米国の占領軍は、自衛隊を、労働者運動から資本主義の財産関係を守る必須の抑圧手段と考えていた。

 積極的な軍拡の決定は、平和主義であるはずの日本国憲法に公然と違反している。

 憲法9条を「再解釈」するための努力は、日本国内で継続的な政治闘争となっている。日本が軍事力を保持することを明確に禁止している9条を守るために、何十万人もの大規模な集会が何度も行われてきた。日本の軍隊と改憲に対する広範な反対は、労働組合と共産主義・社会主義運動によって結集された労働者たちによるものである。

 この運動がすべての人々に指摘していることは、1930年代と1940年代の戦時軍国主義政権がいかに残忍な弾圧を行い、日本を第二次世界大戦に導いたかということだ。国民がその苦い経験から知っていることは、歴史的な日本の植民地主義に根ざしたこれらの極右翼勢力が、彼らの権利と彼らが獲得した社会的利益に対する真の脅威であることだ。

 現在の防衛予算の倍増は、増税によって賄われる。莫大な軍事予算は、必然的にこの国の限られた社会支出の厳しい削減を意味する。

 1950年代からほぼ継続的に政権を担ってきた自民党は、右翼的で軍事力保持に賛成で、アメリカ帝国主義と同盟を結び、特に中国と朝鮮に対抗している。彼らは、自衛隊の憲法上、法律上の制限をなくすよう働きかけている。
 
 2022年7月8日、日本の選挙のわずか2日前に、引退した安倍晋三総裁が暗殺され、自民党に追加票がもたらされた。自民党は、軍事計画を積極的に進めるために必要な、国会の3分の2の絶対多数の議席を獲得することができたのである。

中国を標的に

 日本の軍拡は、中国、北朝鮮、ロシアを狙ったワシントンの侵略行為に合致する。米国の戦略家の目標は、日本、韓国、オーストラリアとの同盟を、欧州で米国主導のNATO同盟を利用するのと同じように利用することである。

 NATOの加盟国が倍増したことと、NATOがロシアを標的にすること、ウクライナでの戦争につながった。この戦争では、米国政府はロシアに対して何千もの新たな制裁を課し、米国は欧州連合のロシアとの互恵的貿易を断ち切った。

 中国は、輸出入ともに日本にとって最大の貿易相手国である。以前の国家戦略文書では、日本は中国と「互恵的な戦略的相互関係」を模索しているとされていた。ところが突然、日本の戦略家は中国を「日本の平和と安全を確保するための最大の戦略的課題」と位置づけ始めた。(米国平和研究所、12月19日付)

 日本はロシアとガス、石油、自動車、機械の貿易を拡大していた。以前、日本の2013年12月17日の国家安全保障戦略文書では、「ロシアとの結びつきと協力の強化 」が謳われていた。今、日本はロシアを 「強い安全保障上の懸念 」と考えている。(米国平和研究所、12月19日付)

 日米同盟は現在、日本の安全保障政策の「基礎」と定義されている。(ジャパンタイムズ、 12月17日付)

日本の軍国主義台頭に対する米国の称賛

 米国メディアは、日本の新しい安全保障戦略文書を 「大胆で歴史的な一歩」と賞賛した。ジェイク・サリバン米国家安全保障顧問は、防衛費引き上げを 「日米同盟を強化し、近代化する 」と賞賛した。アントニー・ブリンケン米国務長官は、日本を「不可欠なパートナー」と呼び、変更された安全保障文書が 「インド太平洋地域と世界中でルールに基づく秩序を守る」能力を再形成することに喝采を浴びせた。(引用、ホワイトハウス政府機関、12月16日付)

 軍事的脅威と経済制裁を土台としたこの急激な政策転換の直接的な受益者は、米国の企業権力である。

 フォーリン・アフェアーズ誌は、この発表を「深遠なる変革」と呼び、次のように述べている。「新しい国家安全保障戦略は、しかし、素晴らしい変化を示している。... 政府は、何十年も議論され、いつも阻止されてきた政策を実行に移している。これまでは......日本の新しい国家安全保障戦略は賞賛されるべきである」。 (フォーリン・アフェアーズ、12月23日付)

米国は協力者を必要としている

 ドイツ、イタリア、日本の敗戦国資本家階級に対する米国の政策は、驚くほど似通っていた。第二次世界大戦末期、これらのファシスト政権を支持した産業界のリーダーの多くは、日本、ドイツ、イタリアで静かに保護され、社会復帰させた。東ヨーロッパで労働者の支配[社会主義政権]から逃れたファシスト協力者も同様の扱いを受けた。

 米国とその後のNATOは、西ヨーロッパで勃興する労働者運動や東ヨーロッパでの社会主義建設に対抗して、社会復帰させたファシストたちを利用したのである。敗戦国である枢軸国に積極的に進出していた米国企業は、自分たちの投資がストライキの波から保護されるという保険を必要としていた。

 1950年までに、米国は朝鮮半島で戦争状態になり、韓国で米軍を使う一方で、日本では資本主義の財産関係の「平和維持と自衛」のために軍隊を必要とした。この時期、ドイツ、イタリア、日本が再軍備を開始した。

沖縄への影響

 琉球列島と呼ばれる150の島々、その中で最大の島は日本本土から400マイル離れた沖縄であり、現実には日本の植民地である。人口は174万人で、日本政府の統治と米軍基地による占領に苦しんでいる。沖縄は地理的に日本列島よりも台湾に近い。

 沖縄の陸上部隊の整備と強化は、新しい国家安全保障戦略(NSS)の一部である。日本の南西に連なる他の島々も、さらに軍事化されることになる。


沖縄は琉球諸島の中で最大の島である。(出典:ワーカーズワールド)

 将来の電子戦、サイバー戦、地上・海上・航空部隊の共同作戦のために、これらの島にある日本の第15旅団の水準を上げることは、明らかに台湾海峡に介入する計画の表れである。

 近年、日本は南西諸島の奄美大島、沖縄本島、宮古島に対艦・防空ミサイルを配備し、台湾に最も近い石垣島にはミサイル基地を設置している。

(参考資料)石垣市議会が「長射程ミサイル配備認めず」意見書を国に提出「真っ当な動き」「丸腰じゃ一瞬で占領される」SNSで渦巻く賛否(SmartFLASH) - Yahoo!ニュース

 日本には5万人以上の米軍が駐留しており、現在、どの国よりも大きな米軍占領軍となっている。米軍の半数以上が沖縄に駐留している。

 沖縄の住民、先住民族である琉球人は、日常生活の中に常に米軍が存在することに何十年にもわたって抗議してきた。沖縄県には現在31の米軍施設があり、沖縄は日本の領土の0.6%にすぎないが、日本にあるすべての米軍基地の74%の面積を占めている。

北朝鮮の脅威を隠れ蓑に

 日本はこれまで、北朝鮮が脅威であると主張することで、再軍備を正当化してきた。しかし、退役した海上自衛隊の武井智久長官は、日本が準備してきた主な標的は中国であり、「北朝鮮の脅威を隠れ蓑にして」いるとメディアに語った。(AP通信, 12月17日付)

 日本と韓国は、アメリカの指揮の下、定期的に朝鮮民主主義人民共和国を威嚇する共同軍事訓練を行っている。韓国での大規模なデモや、[日米韓の軍事訓練の]標的である北朝鮮からのミサイル発射は、これらの軍事的挑発に呼応して出てきたものだ。

 自衛を主張しながら、戦争の計画と準備というこの皮肉な告白は、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相の12月8日の告白と似ている。メルケルは、2014年のミンスク協定の調印がロシアとの平和条約を目的としたものではなかったと告白している。メルケルは、NATOは最初から戦争を望んでいたが、ウクライナの軍事的準備の時間が必要であったと述べた。(ディー・ツァイト紙インタビュー、12月7日付)

(参考資料1)前独首相メルケル、ミンスク和平協定での欺瞞を認める。その意図は何か。 - 寺島メソッド翻訳NEWS (fc2.com)
(参考資料2)メルケルが示した西側の二枚舌 - 寺島メソッド翻訳NEWS (fc2.com)


 ロシアを弱体化させ、分裂させるために、ロシアをウクライナに侵攻するよう煽り立てた米国は、次に台湾を中国の軍事的泥沼に陥れようとしている。バイデン政権は、台湾が米国から最新兵器を購入し、台湾との外交関係を強化するよう促している。

 日本の再軍備に対するアメリカの圧力の脅威の高まりについて、ファクトシート[概況報告書]、トーキングポイント、ビデオ、ウェビナーを通して政治的関心を集める努力の一環として、「日本の憲法改正:危険なシグナル」と題した短いビデオが国際行動センターのウェブサイトに掲載された。(tinyurl.com/mwjdt8rm)

 このビデオは中国で作られたもので、米国も参加している。日本、米国、同盟国の軍国主義の高まりに立ち向かうには、多くの国の人々が協力する必要がある。


サラ・フラウンダーズは、1960年代から進歩的な反戦組織で活動する米国の政治ライターです。彼女は、労働者世界党の事務局のメンバーであり、国際行動センターの主要な指導者です。サラの連絡先は、flounders.sara16@gmail.com。
彼女は、Global Researchに定期的に寄稿しています。
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英国の看護師組合が過去最大のストライキを実施。イングランド、ウェールズ、北アイルランドの施設で、医療従事者が長年の低賃金に抗議して仕事を放棄した。

<記事原文 寺島先生推薦記事>

UK nurses’ union launches largest ever strike

出典:RT

2022年12月15日

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>

2022年1月9日


© Getty Images / Andy Barton

 イングランド、ウェールズ、北アイルランドの10万人以上の看護師が12月15日木曜日、イギリス看護協会(RCN)の労働組合106年の歴史の中で最大のストライキを行い、仕事を放棄した。

 Sky Newsによると、イングランドでは病院と訪問看護施設の約4分の1が、北アイルランドではすべての医療機関が、ウェールズでは1つを除くすべての医療機関が、12月20日火曜日にも予定されているストライキに参加しているとのことだ。

 英国の看護師は 「危機的状況」に達しており、ストライキ以外の選択肢はないと、RCN委員会のデニス・ケリー(Denise Kelly)委員長はSkyに語り、「長年の実質賃金カット」、 公務員職の数年にわたる賃金凍結、どんどん上がる生活費、さらにはインフレ率はプラス5ポイントである点などに触れ、看護師は19%の賃上げを要求していると述べた。

 政府は、ほとんどの看護師に対してわずか4.5%の賃上げを提示し、給与水準の低い者は最大で9%の賃上げを受け取るとしている。リシ・スナック首相の報道官は、12月15日木曜日にこの提案を「公正かつ妥当」とし、昨年は看護師が3%の賃上げを受けたと指摘した。


<関連記事> 英国の首相は、労働組合の取り締まりを示唆

 このような経済的な問題に加え、多くの看護師は患者の安全が脅かされていると主張している。ロンドンのセント・トーマス病院の訪問看護婦長はSkyに、「看護師はへとへとだ」、「1人の看護師が3人分の仕事をしている」ほど病院の人員不足で、それが患者を危険にさらすほどであると語った。

 ケンブリッジのアデンブルック病院の前でピケを張っている訪問看護部門の看護婦長は、Covid-19以来、「仕事量が2倍になった」、「来院する患者の病状はこれまでよりずっと重くなっている」と主張し、その変化に対応した人員増強は行われていない、と述べた。また、何万もの欠員がありながら、それを埋める人がいないことを指摘する人もいた。

 患者の擁護団体である患者協会は、看護師たちとの連帯を表明している。CEOのレイチェル・パワーは、この「恐ろしい時」に、「RCNとテーブルを囲んで、この解決策を見つける」よう政府に懇願している。

 国民だけでなく保守党内からさえも圧力が高まっているにもかかわらず、ダウニング街10番地(英国政府)は、看護師の給与体系を再考する 「計画はない」と主張している。 マリア・コーフィールド保健大臣は、1%余分に賃上げするごとに7億ポンド(8億5325万ドル)の費用がかかり、インフレに合わせようとしても問題が悪化するだけだと主張している。

 一方、スナック首相は今週初め、英国経済へのさらなる混乱を防ぐため、「より厳格な対ストライキ新法」を導入する用意があると警告した。交通運輸労働者、ロイヤルメール(イギリスの郵便事業のブランド名)、高速道路職員、その他の英国の労働組合は、今後数週間のうちにストライキを行う予定である。
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ホロドモール飢饉はスターリンがウクライナを標的に人為的におこしたものだという神話

<記事原文 寺島先生推薦>

The Holodomor Myth

ホロドモール神話

筆者:スコット・リッター(Scott Ritter)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年12月14日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月9日



 今年(2022年)12月2日、私はミシガン州アナーバーで、3日にわたって行われた「研修」の2日目に参加しようとしていた。この研修の主催者は、「アナーバー反戦連合」という組織だった。初日の12月1日、主催者が「パボロジー(パブ仕様)」と名付けた素晴らしい催しが、「オリジナル・コテージ・イン」というレストランの2階のバーで開催された。立見席のみだったが、非常に混雑していて、参加者からは多くの(本当に多くの)優れた質問が出された。

 そしてその翌日の12月2日、「信心への旅」という名の教会で、私は尊敬すべき人々の集まりの中にいた。私は現地に早く到着し、会場内の脇に立って、考えを思い巡らしていた。(人前で話す時はいつも、その時にしかできない話をするのを目的にしているので、1時間の発表時間をうまく繋げられるよう、話すべきいくつかの話題の効果的な順番を考えていたのだ)。

 会場内に入ると、周りをさっと見渡してみた(そうするのが昔から私の習慣だ)ら、直ぐに目に止まったのは、一人の中年男性で、その男性は出席者用に並べられた椅子に座っていた。わたしがこのような催し会場に早く着いたときはほとんど、もう既に席に着いている人々は、少なくとも目で会釈してくれたり、笑いかけたりしてくれるものだ。しかしこの男性はそうはしなかった。そうはせず、手に持った一枚のチラシを凝視していた。そして目を上げた時、その顔は私を歓迎していない表情だった。

 私は、ウクライナ政府が支援している「ブラックリスト(大統領下の組織の一つである対偽情報対策センターが発行している)」に自分の名が挙げられていることを、軽く見てはいない。ロシアの喧伝家であり、情報テロリストだと名指しされ、戦争犯罪者として逮捕され、起訴される対象にされていることは笑いごとではない。同じことが、「ミロトウォレッツ(平和実現者)」の殺害すべき人物リストについても言える。これは、ウクライナ保安庁(SBU:諜報機関)が出しているものだ。この一覧表は、まさに「死のための一覧表」であり、殺された人物には、ウクライナの秘密機関の手により「消された」という印が加えられるものだ。

 つまり、この2つのリストのために、私の背中には巨大な標的が描かれているようなものだ、ということだ。そのリストを出している組織のうちのひとつには、私の祖国の政府が多額の支援を行っている。その目的は、憲法で保証されている、私の言論の自由の権利を抑圧するためだ。さらに、ここ米国では、ステパン・バンデラが提唱していた憎むべき基本概念が積極的に育成され、推進され、「英雄たちの公園」で展示されている。その公園にはバンデラと彼のナチスの同胞たちの胸像が、堂々と展示され、崇拝されている。そしてその公園の場所というのは、米国国会議事堂に面している。その国会議事堂では、かつて国会議員たちが、アゾフ大隊などのバンデラを信奉する組織の装備や訓練に、米国民の税金を使わせないという正しい決議があげられていた。 以前国会は、これらの組織は白人至上主義のもとでのネオナチのテロ組織だと捉えていた。しかし今は堂々と、アゾフ大隊の高官たちが国会で歓迎され、国会にいる偽善者たちから賞賛され、祝福を受けている。

 こんな政治的な暴力が吹き荒れる状況に置かれているので、そんなに苦労しなくても、バンデラ主義を心から信奉している人物が描く筋書きに出くわせるのだ。というのも、そんな人物は、米国政府が「情報テロリスト」と決めつけた人に対して行動を起こし、その人を消すことにお上から公式のお許しがもらえたと考えているからだ。

 そんなことを考えていると、主催者の一人が、私が立っていたところに、まさにこの男を案内してきた。この男は、オーバーコートを身にまとっていて、胴体や腰の部分はほとんど見えず、胸の前で腕を組み、手に書類をもっていたが、それ以外のことは知る由もなかった。その主催者の一人は、私に一枚の紙を手渡した。それは男が手に持っていたチラシの一枚だった。そして「この人があなたに質問があるそうです」と私に告げた。

 そのチラシ紙面の上部には、大きな字で「ホロドモール」、そして副題として「1932-33のソ連によるウクライナに対する人為的な飢餓工作」と書かれていた。字は赤と黒、すなわち血と土の色、バンデラ主義者が使う二色だ。

 チラシの最下部に書かれていた言葉は、「Slava Ukraini~ウクライナに栄光あれ」。バンデラ主義者が敬礼として使用する言葉だ。

 私の中で警笛が鳴った。部屋の様子をさっと見てみると、話をしに来た人々で急に混雑していた。この男の手助けをしようとしている人はいなさそうだったが、その状況が急変する可能性もあった。私は厚手の外套を纏ったその男に一歩近づき、迫り、その男が腕を出せないようにした。そうしながら、この男の目を睨み、何か良からぬ意図があるかどうかを探った。

 彼の目に映っていたのは、恐怖と怒りだった。

 「ホロドモールのことを知っているか?」とこの男は挑みかかるかのような声で聞いてきた。

 「知っているよ」と私は答えたが、目は依然として彼を睨み続けていた。

 「ロバート・コンケストの『悲しみの収穫』[1932-33に起こった飢饉についてきちんとした研究をもとに書かれた初めての本。この飢饉は、ウクライナも含めたソ連全体を襲ったもので、何百万人もの死者を出した]」なら読んだよ。80年代に、この本の初版が出た時にね。」

 「ということは、ウクライナの人々が受けた大量虐殺のことも知っているんだな?」とこの男は言った。
「何百万ものソ連国民を襲った悲劇のことなら承知している。ウクライナやベラルーシやロシアやカザフスタンの人々の、ね」と私は答えた。

 「お前はロシアの偽情報拡散家だ!!」とこの男は叫んだ。私はもううんざりした。この男は、誰でも喧嘩をふっかける相手を探していただけだ。わたしはもう半歩前に出て、さらにこの男に迫った。ナイフか何か武器を隠していたとしても、襲ってくる前に武器を奪えるところまで詰めたのだ。

 「クソ野郎」と私はいった。ハッキリと。この言葉が、この男と主催者をビックリさせた。「ここにきて、こんな話を俺に言うなんて、お前はいったい何様のつもりだ?」

 この男は憤慨した。「クソ野郎だって、ここはどんな催しなんだ?クソ野郎って?」

 私はさらに近づき、この男を睨んだ。「何だ。殴ろうとでもいうのか?」「いや」と私は答えた。頭突きをした後で、膝でみぞおちを蹴り、頭を踏みつける、が正解だった。そこまで行ってたら、の話だが。

 この男も睨み返してきた。「メンチの切り合い、上等だ」と。

 私は黙っていた。

 「お前は海軍にいたんだろ」とこの男。「俺を殺したいのか?」

 さてね、と私は心の中で思った。

 主催者が即座に割って入り、私たち2人を引き離した。この主催者は、男を落ち着かせようとしたが、彼はずっと混乱した様子だった。 私は彼から一歩離れたが、彼の手から目を離さなかった。そして、ずっと部屋の様子を探って、この男に手助けするものがいないか、気を払っていた。

 この男が暗殺者ではなく、ウクライナの件で誰かと喧嘩をしたがっている輩だということがはっきりしてきた。

 「ホロドモールについて何を知ってるって言うんだ?」と聞いてみた。「スターリンが起こした大虐殺だったんだろ。それを今、プーチンが引き継いでるんだ。」私は笑った。「お前は科学者か?ロシア研究の専門家か?」と聞いた。
「俺は政治学者だ。」
「ロシア語は話せるのか?自分でこの件について研究したことはあるのか?」と私は問いただした。
「ウクライナで5週間過ごしたぞ」
「いつ戻ってきたんだ?」と私はさらに聞いた。
「先週だよ」

 「分かった、じゃあハッキリさせよう」と私はとどめをさした。「お前は5週間ウクライナにいたんだな。お前の専門性なんてその程度さ。そんなお前が、俺とホロドモールの話をしたがってるのか?クソ野郎。ここから出ていけ。」

 この時点で、主催者が助けのものを連れてきて、この外套を纏った男は自分の席に戻されたが、その間ずっと私に対する文句を会場内の皆に叫んでいた。

 その後この催しは進行し、本当に大成功だった。外套を纏ったあの男には、質問の機会が与えられ、実際に質問した。私の答えがこの男のお気に召さなかったのは明らかだった。というのも、この男は大声で私のことを、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の操り人形呼ばわりしていたからだ。その後、この男は立ち上がり、この催しを妨害するという使命を捨て、立ち去った。

 その後、私はこの男が出席者に配っていたチラシの一枚を手にした。中身を読み終わってはっきり分かったことは、この男がもっと大きな政治的な運動の手のものであるということだ。その運動とは、ホロドモールに関する言説を利用して、ロシアを中傷し、ウクライナ国家主義を広めようとするものだ。

 チラシには高らかにこう書かれていた。「今こそ認識せよ。現在ウクライナで起こっている戦争は、ロシア国家が大虐殺を行うとしている政策の拡散によるものであることを。このような政策はソ連が弄していた手口で、それと同じ手口をウラジーミル・プーチンも取り続けているのだ。これは、ロシアがかつてソ連領であったが、今はロシア領内にはない諸共和国にまで領土を広げようとするものだ」

 さらにチラシにはこうあった。「今こそ、ウラジーミル・プーチンの主張を拒もう。プーチンの言い分は、ウクライナ人とロシア人は、“ひとつの民族”であるというものだ。それをこの戦争の口実にし、防御に使っているのだ。」
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リヤドを訪れた習近平の提案「石油を買います。支払いは人民元です。」

<記事原文 寺島先生推薦>

アラビアの習と「石油人民元」の推進

Xi Jinping has made an offer difficult for the Arabian Peninsula to ignore: China will be guaranteed buyers of your oil and gas, but we will pay in yuan.

習近平は、アラビア半島にとって無視しがたい提案をした:中国はあなたの石油とガスの買い手になることを保証するが、支払いは人民元で行う。

筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)

出典;The Cradle

2022年12月16日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月8日



写真出典:The Cradle

 一週間前にリヤドに降り立った中国の習近平国家主席はサウジ・アラビア王室の華やかな歓迎を受けた。このアラビアの習近平をペトロユアン(石油人民元)時代の幕開けを宣言した人物と認定することはとても魅力的なことだろう。

 しかし、それよりももっと複雑なことがある。ペトロユアンの動きが意味する地殻変動的な動きもさることながら、中国の外交が、とりわけ傷ついて獰猛になっている帝国に対して、直接の対決を避けているという点であまりにも洗練されているからだ。だから、ここには(ユーラシアの)目に映るよりもずっと多くのことが起こっていると言えるのだ。

 アラビアでの習近平の発表は巧妙だった。それは人民元の国際化も同封されていたからだ。習近平は、今後、中国は上海石油と国立天然ガス取引所を通じて、石油取引に人民元を使用すると述べ、ペルシャ湾の君主制諸国家に参加を呼び掛けた。世界の石油市場においては現在も、取引の80%近くがドル建てで行われている中でのことだ。

 表向きの目的は、アラビアの習近平とその高官や経済界の首脳たちからなる大規模な中国代表団が、湾岸協力会議(GCC)の指導者たちと会談し、貿易拡大を推進することだとされている。北京は、「GCCから一貫して原油を大量に輸入する」ことを約束した。また、天然ガスも同様だ。

 中国は5年前から地球上で最大の原油輸入国であり、その半分はアラビア半島から、4分の1以上はサウジ・アラビアから輸入している。リヤドでの習近平への豪華な歓迎の前奏曲として、貿易範囲を拡大し、GCC全体の戦略的/商業的な友好関係の強化を賞賛する特別論説が発表されたのも不思議ではない。そこには「5G通信、新エネルギー、宇宙、デジタル経済」もしっかりと含まれていた。

 王毅外相は、中国とアラビアの「戦略的選択」を倍加させた。300億ドルを超える貿易取引が正式に締結されたが、その多くは中国の野心的な一帯一路構想(BRI)の計画に大きく関連している。

 そして、習近平がアラビアに築いた2つの重要なつながり、BRIと上海協力機構(SCO)に話が及んだ。

アラビアにとってのシルクロード

 一帯一路構想(BRI)は、2023年に「一帯一路フォーラム」が復活し、北京によって本格的に後押しされることになる。最初の2回の半年ごとのフォーラムは、2017年と2019年に開催された。2021年には何も起こらなかった。これは中国の厳格なゼロ・コビド政策のためだったが、今やこの政策はあらゆる実用的目的のために放棄された。

 2023年は、BRIが10年前に習近平によって、まず中央アジア(アスタナ)で、次に東南アジア(ジャカルタ)で開始されたことから、ある意味を孕んでいる。

 BRIは、ユーラシア大陸を横断する複雑で多様な軌道もつ貿易/連結の推進を体現しているだけでなく、少なくとも21世紀半ばまでは中国の包括的な外交政策概念である。したがって、2023年のフォーラムでは、一連の新・再設計構想が前面に打ち出されることが予想される。その構想は新型コロナ後の債務危機の世界、とりわけ、負荷の大きい大西洋主義対ユーラシア主義の地政学・地経済圏に適応したものとなるであろう。

 もうひとつ重要なことは、習近平が12月にアラビアを訪れる前の9月に、サマルカンドに行ったことだ。それは、新型コロナ収束後に彼が行った最初の海外出張だったが、イランが正式加盟したSCO(上海協力機構)首脳会議に参加するためのものであった。中国とイランは2021年に25年間の戦略的友好関係を締結し、4000億ドルの投資を行う可能性がある。これは、中国の西アジア戦略のもう1つの柱である。

 上海協力機構(SCO)の常任理事国9カ国は、現在、世界人口の40パーセントを占めている。サマルカンドにおける彼らの重要な決定の1つは、二国間貿易、そして全体的な貿易を、自国通貨によって拡大することであった。。

 そしてこのことはさらに、リヤドと完全に同期してキルギスのビシュケクで起きていることに私たちを結びつける。すなわちそれは、ユーラシア経済連合(EAEU)の政策実施機関であるユーラシア最高経済会議が開催されたことを意味する。

 キルギスを訪れたロシアのプーチン大統領は、これ以上ないほど素直にこう言った。「相互決済における各国通貨への移行作業が加速している。共通の決済のための基礎基盤を作り、金融情報伝達のために各国の制度を統合する作業が始まっている。」

 次回のユーラシア経済最高会議は、一帯一路フォーラムに先立ち、2023年5月にロシアで開催される予定である。これらを統合すると、今後の地理経済的な進行表の輪郭が得られる。その進行表には、ペトロユアン取引(人民元建てによる石油売買)の推進と、それと平行して「共通決済のための基礎機構」、そして何より、米ドルを回避する新たな代替通貨の推進が含まれることになる。

 ユーラシア経済連合(EAEU)のマクロ経済政策責任者であるセルゲイ・グラジエフは、中国の専門家と一緒になって、まさにそれを設計しているのだ。

全面的な金融戦争

 ペトロユアン(人民元建てによる石油売買)への移行は大きな危険をはらんでいる。

 どのような深刻な地政学的ゲームの筋書においても、ペトロダラー(米ドル建ての石油売買)が弱体化すれば、50年以上続いた帝国による無銭飲食の終焉を意味することは明らかである。

 簡単に言うと、1971年、当時の「策略家ディック」リチャード・ニクソン大統領は、金本位制から離脱した。そしてその3年後、1973年のオイルショック*の後、アメリカはサウジの石油大臣、悪名高いシェイク・ヤマニに断れない提案を持ち掛けた。「我々は米国ドルであなたの石油を買い、その代わりにあなたは我々の国債と大量の武器を買い、我々の銀行に残っているものをすべて再利用してください」という提案だった。
*1973年、第4次中東戦争の際、アラブ産油国がアメリカやオランダなどのイスラエル支持に対抗して原油の原産や値上げを行い、世界経済に大きな影響を及ぼしたこと。(広辞苑)

 その合意が開始の合図となった。ワシントンは、そのとき突然に、何の裏付けもない、ヘリコプター・マネー*を無限に分配できるようになり、米ドルは、一方的に押し付けられた「規則に基づく国際秩序」に従わない30カ国に対して一連の制裁を行うことができる究極の覇権兵器となったのだ。
*米国の経済学者ミルトン・フリードマンが提唱した金融政策のひとつ。文字通り、まるで「ヘリコプターからマネー(お金・現金)をばらまく」ように、中央銀行や政府が国民に対して無条件に(制限、条件、対価等無く)現金を給付すること。(ウィキペディア等)

 この帝国主義の船を衝動的に揺り動かすことは忌み嫌われる。だから、北京とGCC(湾岸協力会議)は、ゆっくりと、しかし確実に、目立った宣伝も控えて、ペトロユアンを採用するだろう。この問題の核心は、やはり、欧米の金融カジノにお互いがさらされていることである。

 中国の場合、例えば、1兆ドルもの米国債をどうするか。サウジの場合、ペトロダラーが西側金融システムの主役である以上、イランが享受しているような「戦略的自治」を考えることは難しい。帝国がとりうる対応の選択肢には、ソフトクーデターや政権交代から、リヤドに対する衝撃と畏怖、それに続く政権交代まで、あらゆるものが含まれている。

 しかし、中国―そしてロシア―が目指しているのは、サウジ・アラビア(および首長国)の苦境をはるかに超えるものである。北京とモスクワは、石油市場や世界の商品市場といったあらゆるものが、基軸通貨としての米ドルの役割にいかに結びついているかを明確に示している。

 そしてその基軸通貨としての米ドルこそが、EAEU(ユーラシア経済連合)の議論、SCO(上海協力機構)の議論、これからはBRICS+の議論、そして西アジアにおける北京の二本立ての戦略を弱体化させることに焦点を合わせているのである。

 北京とモスクワは、BRICS*の枠組みの中で、さらにSCOとEAEUの中で、2014年のマイダン後の最初のロシア制裁と2018年に放たれた事実上の対中貿易戦争以来、その戦略を緊密に連携させてきた。
*ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ

 2022年2月にモスクワがウクライナとNATOに対して発動した特別軍事作戦が実質的に対ロシア戦争に発展した今、私たちはハイブリッド戦争の領域を超えて、全面的な金融戦争に深く踏み込んでいるのである。

急速に漂い始めているSWIFT*
* SWIFTは、国際的な銀行間の取引を行う仕組み。今回のロシア制裁では、そこからロシアを排除することが合意されている。swiftlyは「速く」の意。

 グローバル・サウス*全体は、集団的(制度的)な西側が、G20参加国の外貨準備を、それが核の超大国の外貨準備金であったとしても、横取りに等しい、凍結にすることもあるという「教訓」を学んだ。ロシアに起こったことなら、他のどの国にも起こりうることだ。もう「規則」なんて存在しないのだ。
*経済的に豊かではない「南」の国々。アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国など。

 ロシアは2014年から、中国のCIPS*と並行して、自国のSPFS**決済制度を改良している。どちらも、欧米主導のSWIFT決済制度を回避するもので、中央アジア、イラン、インド各地の中央銀行でますます利用されるようになっている。ユーラシア大陸では、VISAやMastercardをやめて銀聯(ぎんれい)カードやMirカードを使う人が増えている。東南アジアで大人気のAlipayやWeChatPayもそうだ。
*中国の金融決済制度 **ロシアの金融決済制度

 もちろん、ペトロダラー、そして依然として世界の外貨準備の60%弱を占める米ドルは、一夜にして消滅することはないだろう。アラビアの習近平は、かつての「超大国」ではなく、グローバル・サウスの一部のグループによって推進されている激震の最新章に過ぎないのである。

 自国通貨と新たな世界的代替通貨での取引を優先事項の最上位に位置づけている国は、南米から北アフリカ、西アジアに至るまで、多数ある。それらの国々はBRICS+もしくはSCOへの加盟を熱望している。またその両方への加盟を望んでいる国も少なくない。

 これ以上ないほどの利害関係があるのだ。そしてそれは、従属し続けるのか完全な主権を行使するかということなのだ。そこで、この困難な時代の最高の外交官であるロシアのセルゲイ・ラブロフが国際政党間会議「主権強化の基礎としてのユーラシア選択」において最後に述べた重要な言葉を残しておこう。

 「今日の緊張の高まりの主な理由は、西側共同体が、あらゆる手段を使って、歴史的に減少しつつある、国際舞台における彼らの支配力を維持しようと頑強に努力していることである.....経済成長、財政力、政治的影響力という独立した中心が強くなるのを妨げることは不可能である。その中心は、私たちの共通の大陸であるユーラシア、ラテンアメリカ、中東、アフリカに出現しているのだ。

 みなさん、お早くご乗車願います。独立主権列車が出発します。
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マスク氏、スノーデン氏とアサンジ氏に関する世論調査を開始

<記事原文 寺島先生推薦記事>
Musk launches poll on Snowden and Assange
The Twitter CEO is asking users whether the two men accused of exposing US secrets should be granted pardons
TwitterのCEOは、米国の機密を暴露したと罪に問われている2人に恩赦を与えるべきかどうかをユーザーに尋ねている

出典:RT

2022年12月4日 08:13

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>

2023年1月7日

Twitterのロゴを背景にしたイーロン・マスク氏のTwitterアカウント。© Chris DELMAS / AFP

 イーロン・マスク氏は土曜日(12月3日)、米国の元諜報員エドワード・スノーデンとウィキリークスの共同設立者ジュリアン・アサンジに恩赦を与えるべきかどうかに関する世論調査をツイッターに投稿した。予備調査の結果、スパイ防止法に基づく罪に問われている2人を釈放することに、圧倒的な国民の支持があることがわかった。

 「私は意見を表明しているわけではないが、この投票を実施することを約束した」とマスク氏はツイートし、ユーザーに問いかけた。「アサンジとスノーデンは赦免されるべきか?」

 今のところ、130万人以上が投票し、79%が「イエス」、21%が「ノー」と答えている。

 2013年、スノーデンは、アメリカの民間人を標的としたアメリカ国家安全保障局の広範な監視活動を明らかにする膨大な機密文書を流出させた。この内部告発者はその後、米国から香港、そしてロシアへと逃亡し、弁護士によれば、最近ロシアのパスポートを取得したという。


<関連記事> エドワード・スノーデン氏、ロシアのパスポートを取得 - 弁護士


 米国では、スパイ防止法に基づく3つの容疑に直面しており、30年の実刑判決が下される可能性がある。彼はまた、他の犯罪で告発されるかもしれず、さらに厳しい処罰を受ける可能性がある。

 ジュリアン・アサンジは、2010年にウィキリークスがイラクとアフガニスタンで、米軍によって行われた戦争犯罪の疑いを明らかにする機密文書を公開したことから、米国政府による追及の矢面に立たされることになった。オーストラリア出身のこの出版者は現在、英国のベルマーシュ刑務所に収監されており、米国への身柄引き渡しに直面している。米国では、最高で175年の実刑判決が下されるスパイ容疑がかけられているのだ。

 最近、Twitterの買収に440億ドルで競り勝ったマスク氏は、何度かこのプラットフォームが特定のアカウントのブロックを解除すべきかどうか、ユーザーに問うている。11月には、議事堂暴動で暴力を煽った疑いで2021年初めに永久停止となったドナルド・トランプ前米大統領について、Twitterがブロックを解除すべきかどうかという投票を投稿した。明らかな多数が、トランプ氏のアカウントを復活させることに賛成した。

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女性国会議員が米国の子どもたちに第二次性徴抑制剤の投与を行えば禁固刑に処する法案を提出

<記事原文 寺島先生推薦>

Congresswoman proposes jail time for giving US children puberty blockers

Marjorie Taylor Greene says gender reassignment therapy for youngsters amounts to “child abuse,” and calls for tough new laws

女性国会議員が米国の子どもたちに第二次性徴抑制剤の投与を行えば禁固刑に処する法案を提出

マジョリー・テイラー・グリーン議員は、若者たちに性転換治療を行うことは、「児童虐待」にあたると主張し、強力な新法の制定を求めた
 
出典:RT

2022年8月20日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年1月7日


米国ワシントンの女性国会議員マジョリー・テイラー・グリーン氏の事務所© Bill Clark / Getty Images

 女性国会議員のマジョリー・テイラー・グリーン氏が、新しい法案を提出した。この法案は、子どもたちに第二次性徴抑制剤やホルモン剤を使った治療を行うことは、法律違反にあたるとするもので、このような治療を施したものには禁固刑が科されることを求めている。 ジョージア州選出の共和党の国会女性議員であるグリーン氏は、10を超える治療の禁止を求めており、対象となる治療の中には、未成年者に対して、生物学的な性とは異なる性の体にする手術も含まれている。

 グリーン議員の提出した法案によれば、このような治療を施したものは誰でも、最大禁固25年の刑を命じられることになることになっている。さらにこの法案で禁じているのは、このような治療に連邦政府が資金を提供することだ。

 この法案の名称は、「子どもの純潔保護法」であり、 下院の14人の共和党議員と連名で共同提案された、とヒル・ニュースのサイトは報じている伝えている。



関連記事:Leftist academics accused of woke witch hunt – media

 未成年者にいわゆる性転換治療を施すのは、「児童虐待です」とグリーン議員は、8月16日(火)のフォックス・ニュースの「タッカー・カールソンの今夜」という番組で語った。
 
 「未成年の子どもたちが、このような恐ろしい決定をするには幼過ぎます。子どもたちの残りの人生に大きく影響を与え、しかもその影響はずっと続くことになるのですから」とグリーン議員は付け加えた。

 今年(2022年)、アラバマ州は、未成年者に対して第二次性徴抑制剤の投与やホルモン治療を施せば、重罪に処する州法を採択した。しかし5月に連邦判事は、この州法の一部の効力を否認し、この州法の立法者は、未成年に対する性転換手術が実験的なものにすぎないことを示す証拠を提示できていないという判決を下した。

 昨年(2021年)、米国小児科学会(AAP)は、
以下のことを推奨していた。「自分がトランスジェンダー(身体的な性別と自認する性別か一致していないこと)であると自認している若者たちは、総合的で、性別に適合し、発達段階的に適切な治療を受けられるようすべきである。ただしその治療は、安全で総合的な医療現場で行われるべきである」と。
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タッカー・カールソンはなぜ、体制側メディアが引きずり下ろせない巨人であり続けるのか?


<記事原文 寺島先生推薦記事>
Why Tucker Carlson remains a giant that the establishment media can’t pull down
フォックス・ニュースのスターは、何百万人もの人々の懸念を代弁している。

出典:RT 
筆者:ロバート・ブリッジ
2022年12月19日

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>
2023年1月8日  

ロバート・ブリッジ(@Robert_Bridge)

ロバート・ブリッジは米国の作家、ジャーナリスト。著書に「Midnight in the American Empire, How Corporations and Their Political Servants are Destroying the American Dream」(『暗闇のアメリカ帝国』)がある。



タッカー・カールソン © Janos Kummer / Getty Images

 米国メディア王国のジャングルは、しばしば主流メディアと呼ばれる体制側の巨大組織と、タッカー・カールソンという2つの強力な勢力に分かれているように見える。そして、予想に反して、カールソンが勝っているように見える。

 フォックス・ニュースの司会者タッカー・カールソンほど、既存メディアにとって嫌な存在で、恐ろしい存在(人による)を挙げるのは、暴れん坊のドナルド・J・トランプを除けば難しいだろう。この人物は、5月にニューヨーク・タイムズ紙が2万語も使った記事を出し、彼の人格を抹殺しようとしたほど脅威とみなされている。皮肉なことに、この記事は裏目に出て、アメリカ人がもはや「既成メディア」を信用しなくなった理由を暴露してしまったのである。

 グレイ・レディ(ニューヨーク・タイムズ紙の別名)のその記事には、はっきりこう書かれていた。「『タッカー・カールソン・トゥナイト』という番組で示されている支配的な話とは、アメリカの人種差別を書き直して、白人米国人は抑圧された階層である、というものだ。この番組に言わせれば、支配階級は、フェンタニル[鎮痛剤]などのオピオイド[アヘン樣合成麻薬剤]を使用して伝統的アメリカ人を中毒にして殺し、反白人人種主義を利用して伝統的アメリカ人を偏屈者と決めつけ、フェミニズムを使って伝統的アメリカ人の自尊心を傷つけ、移民を使って伝統的アメリカ人の政治力を低下させる、となるのである。さらに、共和党のエリートは、ありえないことだが、民主党が投票箱で必要とする有権者を輸入する手助けをしているとも主張している。カールソンは、アメリカは『支配する人々に対して長期的な義務を感じない傭兵によって支配されている』と視聴者に語っている。」

 こうした感情は、この記事では荒唐無稽な陰謀論として即座に否定されているが、ジャーナリストや政治家に対する信頼がいまや史上最低のレベルにある何千万人もの平均的アメリカ人に共有されているのだ。


<関連記事> メディアはタッカー・カールソンが米大統領選に出馬する兆しを見ている

 「タッカー・カールソン・トゥナイト」はケーブル・ニュースの中で2番目に視聴率の高い番組である。9月、この午後8時のニュース討論番組の平均視聴者数は309万人だった。彼の提起する懸念は、毎夜、多くのアメリカ人の共感を呼んでいる。彼の仕事を攻撃し、否定するならば、それは、共感する何百万人ものアメリカ人を攻撃することになるのだ。つまり、既成のメディアがこうした懸念を消し去りたいと望んでいるかのように見える中で、国民はそのようなメディアの動きに気付いている、という構図だ。

 ギャラップ社の最近の世論調査では、メディアが「完全に、正確に、公平に」報道していると信頼しているアメリカ人は、わずか34%であることが明らかになった。そして、民主党支持層の70%、共和党支持層の14%、無党派層の27%が第四の機関(ジャーナリズム)を信頼していると答えているのである。当然ながら、この70%の民主党支持層は、自分たちの大切な信念体系が毎晩カールソンによって暴露され、嘲笑されることを喜ばないし、彼らに忠実なメディアが民主党のために働く政治的プロパガンダ・マシンであることを暴露されることも望んでいないのである。

 例えば、最近の「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動について考えてみよう。ジョージ・フロイドが白人警官に殺された事件後、全米がリベラルの狂気に包まれ、正気を失った。西海岸から東海岸まで暴動が発生し、アメリカ国民はこの暴力的な運動(その後、この組織を設立したのは豪邸を買うためだった黒人の人々は別にして、間違いなく一人の黒人も助けたことのない詐欺であることが明らかになった)に賛同するだけではなく、警察への資金削減を支持することが期待されたのである。しかし、カールソンは、それを全く信じていなかった。

 「この運動の目的はたくさんあるかも知れないし、その時、その時で目的が変わることもあるだろう。しかし、この運動の目的は、黒人の命を守ることでないことは間違いない。この運動が、あなたの側まできたときに、そのことを忘れないで。このままいけば、この運動は皆さんの近くに来ることになるだろうから」、とカールソンは言った。

 「暴徒の怒りにさらされたことのある人なら、誰でもその気持ちを知っている」、と彼は続けた。「スズメバチに群がられたようなものだ。頭が働かなくなる。誘惑に負けてパニックになる。でも、パニックになってはいけない。もし弱みを見せたなら、やつらはあなた方を潰すだろう。」。彼は自身の体験談も語っていた。2018年、アンティファのデモ隊が彼の家を包囲し、家族を脅し、財産を破壊したのだ。

 荒涼としたメディアにおけるカールソンの孤独な声は、大規模な反発を呼び、BLM運動にも数十億ドル規模で多額の投資をしている企業が彼の番組から広告を引き揚げ、既存メディアの襲撃部隊はすぐにFox Newsホストを冷血な差別主義者として描き出した。幸いなことに、カールソンには彼のメッセージに賛同する保守層が十分にあり、彼はその猛攻撃から生き延びることができた。

 最近では、カールソンは、現在ウクライナとの激しい紛争に巻き込まれているウラジーミル・プーチンを「支持」しているとして、リベラル派の非難を浴びている。チンギス・ハーン以来、政治の世界でこのロシア大統領ほど悪者にされてきた人物はいない中で、カールソンは視聴者に簡単なことを尋ねた。「プーチンがこれほど直感的な憎しみの対象となるようなことを、個人的に行ったかどうかを考えてみてください」、と。

 「この件は、かなり深刻になってきているので、自分自身に問いかけてみる価値はあるかもしれない。これは本当は何なのか?なぜ私はプーチンがそんなに嫌いなのか?プーチンは私を人種差別主義者と呼んだことがあるか?プーチンは私に人種差別主義者と言ったか?自分の住む町の中流階級の職をすべてロシアに移したか?彼は私のビジネスを破壊し、2年間私を屋内に閉じ込める世界的なパンデミックをでっち上げたのか?彼は私の子供たちに人種差別を受け入れるように教えているのだろうか?彼はフェンタニルを作っているのか?彼はキリスト教を消し去ろうとしているのだろうか?彼は犬を食べるのだろうか?いや、ウラジミール・プーチンはそんなことはしていない。」

 カールソンは、ウラジーミル・プーチンが世界的な悪役として提示されていることについてよく考えるようリスナーに求めただけでなく、アメリカ国民の真の敵は、他でもない、ウラジーミル・ゼレンスキー大統領であると示唆した。しかし同大統領は、あらゆるメディアからへつらいの賞賛を受けている。


<関連記事>タッカー・カールソンは、ゼレンスキーが金を要求していると非難している。


 米国とメキシコの国境が大きく開かれ、インフレが制御不能に陥っているときに、カールソンだけが、他の何百万ものアメリカ人も疑問に思っていることを、大胆にも問いかけた。「なぜ我々はまだその国に資金を提供しているのか?」 ロシアによるウクライナでの特別軍事作戦が始まって以来、アメリカとEUの同盟諸国はキエフに約1260億ドル相当の援助をしてきた。これはウクライナの2020年のGDP全体にほぼ等しい数字である。そして、日を追うごとに、ウクライナの指導者はさらなる要求を突きつけているようだ。ウクライナに送られる資金の多くは兵士の手に渡らないと報じられている中、無制限の支出によるインフレ圧力に対処しなければならないのはアメリカ国民である。このニュースに対して、ゼレンスキーはどう反応したのだろうか?カールソンは、このウクライナの指導者の言葉を引用した。「インフレなど何でもない。誰がインフレのことなど考えようか。そんなことは二の次だ」。二の次とは何の次のことなのだろう?自分の国からコートダジュール(南仏の保養地)に富を流出させることが先決だとでも言うのか?

 「ウクライナの指導者たちは、もうそれを隠すこともなく、我々を完全に軽蔑している」、とカールソンは言う。「彼らはただ私たちのお金が欲しいだけなのです。米国を少しも気にしていない。これは民主主義の連帯などではない。これは詐欺だ」。

 ところで、反ロシアの生々しいプロパガンダに汚染されていないという点で他にはないカールソンの仕事に対して、ロシアのテレビが賞賛の意を示したのは驚きではないだろうか?今週、ニューヨーク・タイムズ紙は、カールソンをはじめとする米国の保守派の声が、ロシアのさまざまなニュース放送で「内部ニュースのまとめ、原稿、放送の常連」になっているとする記事を掲載したばかりだ。どうやらこれは、クレムリンと共和党の間に存在するとされる邪悪な関係を改めて説明するためのものだったようだ。しかし実際にそれは、リベラル派がいかに必死になってカールソンとクレムリンを標的にし、民主党の政界進出を手助けしようとしているかを示しているに過ぎない。

 既成のメディアもタッカーのような報道をし始めれば、間違いなく視聴率は底ばい状態から上がるだろう。しかし、過去20年間、アメリカの戦争で気に入らないものを報道したことがない既成メディアが、この代理戦争を批判することは絶対にないだろう。この戦争で、アメリカは、少なくとも数十億ドルの税金を失うだけだというのに。結局のところ、戦争屋の多くが信じたがっているように、ウクライナはソ連を崩壊させたとされるロシアの「アフガニスタン戦争」にされているのかもしれないし、アメリカがベトナム戦争で受けた屈辱的な敗北に相当するのかもしれないのだ。いずれにせよ、防衛産業は莫大な利益を得ることができるのだから、そんなことはどうでもよいのだ。

 既成メディアが好むと好まざるとにかかわらず、タッカー・カールソンは、何百万人ものアメリカ人の真の懸念を代弁する、率直で正直な稀有な声であることに変わりはないが、既存のメディアはそれを記憶から消し去りたがっているのだ。

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トランスジェンダー活動家が、未成年者に対する性転換手術に反対している女性国会議員宅に偽通報をし警察を送り込んだ

<記事原文 寺島先生推薦>
US congresswoman ‘swatted’ by police

A transgender activist had armed cops sent to Marjorie Taylor Greene’s house

米国女性国会議員が、偽通報により警察の家宅訪問を受けた

あるトランスジェンダー活動家が、武装した警官たちをマジョリー・テイラー・グリーン議員宅に送り込んだ

出典:RT
2022年8月24日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年1月9日


2022年4日22日、ジョージア州アトランタの公聴会で語っているマジョリー・テイラー・グリーン議員© AP / John Bazemore

 共和党女性国会議員であるマジョリー・テイラー・グリーン氏は、8月24日(水)の朝、武装した警官が、ジョージア州の彼女の自宅を訪問して、起こされた。警察にグリーン議員の自宅に行くよう電話した人物の主張によると、同議員が、子どもに性転換手術を受けさせることに反対していたことに憤慨していたとのことで、同議員に「スワット(swat)」を仕掛けようとしたことを認めている。このスワットというのは、嘘の口実で警察に通報し、標的に警察を送り込む行為をさす言葉だ。

 ジョージア州ローマ市警からの報告によると、警察が電話を受け取ったのは、午前1時過ぎのことで、その電話の主の話によると、1人の男性が、この女性国会議員宅の風呂桶で撃たれたということだった。その電話主はさらに、その家には女性と恐らく子どもが一人いる、とも語った。

 8月24日の夜、保守派の司会者であるジャック・ポソビエク氏のラジオ番組で、グリーン議員が語ったところによると、彼女はドアをノックする音で目を覚まし、家の外で、人々や明かりが見えたとのことだ。「私はベッドから飛び起きて、服を羽織って、銃を持ち出しました」と同議員はポソビエク氏に語り、さらにドアに出る直前に、「直感的」に、銃を下に向けた、と語った。


関連記事:Congresswoman proposes jail time for giving US children puberty blockers

 グリーン議員によると、銃を構えた警官たちのためにドアを開けた後、警官たちを中に招き、誤報であった旨を説明したそうだ。そして警官の1人は、同議員に、「スワットされましたね」と語ったそうだ。スワットとは、暴力事件発生の可能性があると考えた警官たちが現場に突入することを利用した、殺人を招く手口だ。

 同議員は、自分が銃を構えた状態で、警官たちと相対していれば、撃たれていたかもしれない状況を説明し、この事件は、「政治的テロ行為」にあたり、「警官による殺人事件」を引き起こそうとしたものだ、と述べた。

 警察によると、警察に最初の電話があったすぐ後に、加害者はもう一度警察に電話をかけ直してきたが、その声は、「コンピューターによる合成音声」だったという。 そして、グリーン議員に、「スワット」を仕掛けようとしたことを認め、「グリーン議員が“未成年のトランスジェンダーの権利”に対して見せている態度に腹が立っていた」と主張したという。

 確固たる保守派の1人として、グリーン議員は先週、未成年者に対して、いわゆる「自認性を尊重した治療」を施した場合、重罪に処する法案を提出した。この治療には、第二次性徴抑制剤やホルモンによる治療かや性転換手術まで網羅されているが、このような措置は、「まさに児童虐待にあたります」と、グリーン議員は、フォックス・ニュースの司会者のタッカー・カールソンに、8月24日、語った。

 10名以上の共和党下院議員が、グリーン議員の提出した法案を共同提案している。

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米国は、生物兵器研究所をウクライナ国外に移転しようとしているーロシア政府の主張

<記事原文 寺島先生推薦記事>
US moving bioweapons research out of Ukraine – Moscow

Unfinished projects are being relocated to Central Asian and Eastern European countries, according to the Russian military

米国は、生物兵器研究所をウクライナ国外に移転しようとしているーロシア政府

未完成の研究を、中央アジアや東欧諸国に移転しようとしている、とロシア軍は主張

出典:RT

2022年12月24日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年1月6日


©  AFP / Arun Sankar

 米国政府は、自国の生物兵器研究所をウクライナ国外に移転しようとしている、とロシアの放射線・化学・生物防衛部隊隊長が主張した。この発言は、トランプ大統領政権下で研究施設が存在したことが明らかになったことを受けてのものだった。 

 「国防総省は未完成の研究を、中央アジアや東欧諸国へ移転しようと積極的に動いています」とイーゴリ・キリロフ放射線・化学・生物防衛部隊隊長は、12月24日(土)の記者会見で述べた。

 米国はさらに、カンボジア、シンガポール、タイ、ケニアなどのインド・太平洋岸諸国やアフリカ諸国との提携も広げており、「国防総省は生物兵器研究の危険を抑え込めることがしっかりとできるこれらの国々にも関心を示しています」と同部隊長は付け加えた。

 同部隊長によると、ウクライナに存在する、化学兵器禁止機関に出席していた米国の代表は、米国が化学兵器条約(CWC)に違反しているというロシアからの糾弾に対する回答を拒否したという。

 「米国のこのような態度や、CWCの検証活動の再開に前向きになろうとしない米国の態度からもはっきりとわかることは、米国政府には何か隠したいことがあるということと、この会議で遵守すべき「透明性を確保する」ことは米国の眼中にないということです」と同部隊長は述べた。

関連記事:UN Security Council votes against probe into US biolabs

 「しかし、ロシアからの報告は他の国々に広く知られることとなり、化学兵器禁止機関加盟諸国が、軍事用生物研究の分野において、米国政府と提携することは非常に危険であることを再認識することになりました」とキリロフ部隊長は語気を強めた。

 ロシア軍は3月依頼、米国が支援していたウクライナの生物研究所の研究内容を徐々に明らかにしてきている。米国政府は「生物兵器研究をしていた」というロシア政府の主張を否定し、このような主張は、軍事作戦を正当化するためのロシアによる、偽情報であり、陰謀論であるとしている。
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ジュリアン・アサンジの父親のインタビュー


<記事原文 寺島先生推薦>
People around the world need to add their voices to the call for Julian’s release from the dungeon in Britain.

世界の人々は声を上げてジュリアン・アサンジをイギリス地下牢から解放する必要がある

Strategic Culture 2022年12月16日
フィニアン・カニンガム(Finian Cunningham)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年1月15日



 ジュリアン・アサンジの父親であるジョン・シプトンが今週、クリスマスの数日前にインタビューに応じてくれた。ジュリアンが受けたひどい仕打ちを考えると、私は困難で苦悩に満ちた出会いになることを覚悟していた。

 その日は12月21日。北半球で最も短い(暗い)日である。ジョンはメルボルンにいた。南半球で最も長く明るい日である。冬至と夏至という対極的な表現が、今はぴったりくる感じだ。

 そして、ジョンが希望を抱かせるメッセージを持っていたことに驚いた...ジュリアンを刑務所から解放せよという、世界中の人々からの支援の声が高まっているのだ。この支持の声の高まりは、バイデン政権にアサンジへの迫害をやめさせるための臨界点に達してきているのかもしれない。

 疲れを知らぬかのように、ジョン・シプトンは、世界中を回り、議会、政治家、市民団体、そして一般市民などに息子の解放を訴えています。ジョンは、ジュリアンの解放を求める声がいかに大きくなっているかを語っている。例えば、ヨーロッパのすべての議会で、自由を求める議員が明確に発言している。オーストラリア政府もようやく目を覚まし、この野蛮な虐待の中止を要求するようになった。中南米や北米などでも、正義を求める声は高まっている。

 わずか2週間前には、欧米の主要紙が共同社説を掲載し、「出版は犯罪ではない」として、バイデン政権にアサンジの投獄をやめさせるよう求めた。この自由を求める新たな訴えは、ジュリアン・アサンジに対する世界中の人々の支持が大きく変化していることを反映している。

 ジョン・シプトンは、言葉の表面的な意味で「希望の光」と言っているわけではない。そんなことを言えば、ある種の安っぽい希望、軽薄な楽観主義、あるいは陽気で口先だけの無知を意味することになってしまう。移ろいやすい「消費主義的な希望」というのは、ちょっとした障害で消えてしまうものだ。

 しかし、彼が粘り強く、たくましく、勇気をもって息子を支える姿は、もっとずっと深い希望に満ちている。逆境に直面したときの信念と献身。その強さが、深い希望を呼び起こす。大胆な希望。冷たい野蛮さに直面しても、反抗的に微笑むことができる。鎖を断ち切ることができるような希望だ。

 ジュリアン・アサンジは「自分の子供たちのもとに帰ることができる」ために釈放されるべきだ、という言い方は、もう古くなっている。

 世界中の人々は、声を合わせ、ジュリアンをイギリスの地下牢から解放するよう要求する必要がある。彼はそこに4年近く、インチキの「スパイ容疑」で米国への送還を眼前に突きつけられながら、拘束されていたのだ。アサンジは、12年前にウィキリークスで、アメリカ主導の帝国主義戦争の犯罪を暴露した。彼がウィキリークスを通し広めた真実は、邪悪な帝国主義犯罪とはどんなものかを知らしめ、世界を力づけた。多くの点で、ジュリアンの出版活動が契機となって、「際限のない戦争を終わらせ」、「平和」を!という正義の要求が生まれたのである。世界の人々はこのことに感謝しなければならない。私たちは、彼の自由を求める要求を支持することで、その感謝を形にすることができる。今こそ自由を!

 インタビューの最後に、ジュリアンの父ジョン・シプトンは穏やかで心のこもった言い方で「メリー・クリスマス」と私に言ってくれた。その揺るぎない勇気と深い希望、そして信念が、本当の意味でクリスマスの精神なのだ。

#Julian Assange # John Shipton # Finian Cunningham #Free Julian Assange
Thanks to my friend and comrade Randy Martin for Video Production and for getting the word out.

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ウクライナ戦争最前線。戦闘面と経済面から考察。

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukraine: Counter Artillery War – Financial Disaster

ウクライナ:対砲撃戦-金銭面での大惨事

筆者:アラバマの月(Moon of Alabama)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年12月28日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月4日

 今年(2022年)の中旬以来明らかになったことは、ウクライナでの戦争は、主に砲撃戦だということだ。

 ウクライナはこの戦いにおいて明らかに負けている。というのも、砲弾の量において、ロシアはウクライナが利用できる量の8倍の砲撃を発射している。それに対して米国と欧州諸国が、介入してきた。120ほどのM777榴弾砲と、砲兵武器で満杯にした多くのトラックが、ウクライナ軍に送られた。何百トンもの砲弾が運ばれた。米国と米国のいくつかの同盟国は、大砲の飛行範囲以上の武器を発射できるHIMARS(高機動ロケット砲システム)を供給した。

 ウクライナ側のこの体制に、ロシア軍は対応した。ロシア軍は、兵站組織と指揮組織を分配することで、HIMARSの標的を制限させる策に出た。さらにロシア軍は、電子戦の使用を強化し、ウクライナ軍が、標的を見つけるために使用しているドローンを撃ち落とした:

 電子戦術により、ウクライナ側の無人航空戦闘機が果たしてきた機能が阻害された。この戦闘機を使った戦術は戦争勃発当初の数ヶ月間は、キーウ側でもっとも効果的な戦術のひとつだった。 ウクライナ側は、優れた情報活動に頼っていたのだ。それを大きく支えていたのは、UAV(無人戦闘航空機)だった。それによりウクライナ側は、ロシアと比べてより小型の武器類しか所有していないが、その武器の精度を上げ、大きな銃口やロケット発射装置のある武器をもつロシアと対抗できていたのだ。

 しかし、ロシアによる電子戦により、これらのドローンの操縦や通信が妨害され、ウクライナ側が頼みの綱にしていた精度の高い攻撃が不可能になった。ロシア側にとっては、「(ウクライナ側の攻撃の)精度が落ちたことは、部隊の生存にとって決定的だ」と、専門家であるミハイロ・ザブロツキー氏、ジャック・ワトリング氏、オレクサンドル・ダニリューク氏、ニック・レイノルズ氏が、ロンドンの英国王立防衛安全保障研究所に出した論文の中で書いている。

 「クワドコプター(4個の回転軸を持つドローン)の平均耐性期間は、約3回の飛行だった」とザブロツキー氏、ワトリング氏、ダニリューク氏、レイノルズ氏は記載している。 「翼が改良された無人戦闘航空機の平均耐用期間は約6回の飛行になり」、「総計すれば、無人戦闘航空機による作戦が成功したのは3分の1程度だと言われている」


 ウクライナ側の武器の正味の戦闘能力が低下したため、より狙いやすい対象に、標的が変えられることになった。11月下旬から、ウクライナ側は砲撃やミサイルによるドネツク市内への爆撃を再び強化し始めた。ドネツク市内には、軍事施設や兵舎さえほとんど存在しないので、この攻撃は明らかに一般市民を標的にしたものだった。

ドネツク市内の打撃状況を示す「西側が提供した」地図
12月1日


12月5日

12月18日


(以下は訳者による参考画像)


朝日新聞のサイトより

https://www.asahi.com/sp/articles/ASQ6F6D2HQ6FUHBI015.html


 ロシア語紙は、ウクライナ側の大虐殺により一般市民の犠牲者が出たと報じている。ドネツク共和国の政治当局の代表者は、この脅威に対して緊急作戦を取るよう求めている。

 厳しく包囲された前線においては、その前線を速やかに突破し、前線の向こう側にいる砲兵を捕らえることは不可能なので、ロシア軍は別の戦略を取った。ドネツク周辺のウクライナ軍による砲撃に対する攻撃に備えて、特殊組織が立ち上げられた。より多くの対砲撃レーダーが運び込まれた。発射場所を探索するため、衛星画像の分析も増やされ始めた。さらにより広範囲に対応できる対砲撃用砲台の数も増やされた。

 ここ10日間で、この作戦は大きな効果を見せ始めた。ロシア国防省からの最近の日報の多くは、この対砲撃作戦について焦点が当てられている。以下は、昨日(12月27日)の報告からである:

 対砲撃戦において、米国製M-777砲が一機発見され、操縦士と共に破壊された。場所は、ネタイロヴォ市近辺で、その操縦士はドネツクの住宅街を砲撃していた。もう1機のM-777砲がプレドラジェンカ(ザポリージャ地域)の近辺で破壊された。

 ウラガンMLRS(複数発射ロケット発射機)一機とグラートMLRS二機が、ネフスコエ(ルガンスク人民共和国)とゼベルスク(ドネツク人民共和国)近辺で破壊された。

 ウクライナ2S1グヴォズジーカ自走榴弾砲が、クラスノゴロフカとプレチストフカ(いずれもドネツク人民共和国)近辺の発射場所付近で破壊された。

 4機のMsta-B榴弾砲と2機のD-20榴弾砲がクピャンスク(ハルキウ州)、ベリカヤ・ノヴォショールカ(ドネツク人民共和国)、ノヴォグリゴローフカ(ルガンスク人民共和国)緊急で破壊された。

 航空防衛設備が、オルギンカとグセルスコエ(いずれもドネツク人民共和国)とペレモジノエ(ヘルソン州)で、ウクライナの無人戦闘航空機を3機撃ち落とした。

 加えて、コストグリゾヴォ(ヘルソン地域)で1機のウラガンMLRS(複数発射ロケット発射機)が、デバルツェボ(ドネツク人民共和国)で、3機の米国製HARM(高速対レーザー)ミサイルが、迎撃された。


 以下は今日(12月28日)の報告だ:

 対砲撃戦において、ドネツク市内の住宅街を砲撃していた、2機の米国製M-777砲と1機のドイツ製FH-70榴弾砲が、クラスノゴロフカ(ドネツク人民共和国)近辺の発射場所付近で破壊された。

 グラード多発ロケット用の3機のウクライナの戦闘機がセベルスク近辺で破壊された。

 3機のウクライナMsta-B榴弾砲が、 ペトロパブロフカ(ヘルソン州)、ベレストヴォエ(ドネツク人民共和国)、 チェルノバエフカ(ヘルソン州)付近で破壊された。

 ウクライナのD-20榴弾砲とD-30榴弾砲が、ゲオルギエフカとマリンカ(いずれもドネツク人民共和国)近辺で破壊された。


 別の報告によれば、敵機を検出して標的を定め反撃砲を発射するまでの所要時間は2分以内だという。 M-777榴弾砲の砲弾の設置と交換には、最大限の人員ときちんと訓練を受けた乗組員がいても最低3分はかかる。つまり、レーダーがウクライナ側のM-777榴弾砲からの発射を検出すれば、砲の準備がなされる前にロシア側は反撃できるのだ。

 この対砲撃作戦は、完全に成功していると言える。ウクライナがドネツク市内に最後に砲撃を行ったのが、12月23日であると報じられている。この作戦は、ウクライナ側が大砲を使い果たすまで、続けられることになるはずだ。今までのところ、ウクライナ側は「西側陣営」が生産できるよりも多くの砲弾を発射している:

 「控えめに見ても、ウクライナ側の砲弾の使用は、おそらく月に9万発くらいです」とバージニア大学の研究所のひとつであるC.N.A.のロシア研究部長であるマイケル・コフマンは、「破綻した戦争」というポドキャストの番組で、先週(12月第4週)に語っていた。さらに、「この数は、現在西側のどの国でも生産できる数を超えています。つまりこれらの砲弾はすべて在庫から使われているということです。銀行預金からお金を引き出しているのと同じようなものです」とも語っていた。

 ウクライナ側で、使える大砲の数が減れば、必要となる新しい砲弾の数も減ることになる。

 このことは、前線の要塞に兵を送りんでいるウクライナ側にとって良くない知らせだ。ウクライナ側が激しく打ち込んでいる砲弾のせいで、今でも既に大きな損失を出している状況が悪化するしかないからだ。この先、いつかの時点のどこかで、前線が破られ、ロシア軍が前進できる余地が生じることになるだろう。

 現在の戦闘は、アルテモフスク(バフムート)近辺に集中している。この都市を保持するために、ウクライナ側の司令官は、予備の武器を投与している。



 ロシアによる止むことのない砲撃のもと、現在バフムート内部と後方に配置されている(ウクライナ側の)16の旅団がひとつずつ粉砕されていくだろう。この戦闘の速度は緩慢で、ロシア側から見て、前線はごくわずかずつしか進まないものだ。しかし、ウクライナを非武装化するという観点において、非常に効果的な戦術だ。戦力の差が明らかなこの砲撃戦のために、ウクライナ側の損失は、ロシア側の損失と比べて何倍もの量になるだろう。

 経済面においては、ウクライナ側は既に戦いで敗れている。ウクライナは、「西側」各国政府からの借金で何とかやり繰りして、今後この借金を返済することはきっと不可能だろう:

 ウクライナ政府はこの戦争中に債券市場で金を工面しようと必死になっていて、ウクライナが集めた以上の金を投資家たちに支払っている、とウクライナ中央銀行は声明を出し、ウクライナが海外からの支援に深く依存している状況を指摘している。

 今年のウクライナ経済は約4割悪化するという見通しが出されており、税収入を使い果たし、 以前計画されていた、経済発展のために使われる予定の支出はずっと延期されている。12月26日(月)に出された中央銀行の声明によると、戦争によるウクライナの金融面のあまり見えていない停滞を指摘している。それは、 市場で金の工面ができなくなっている点だ。2月24日のロシア侵攻以来、ウクライナは戦争前までに溜まっていた借金の借り換えができていない。ウクライナは、当時債券市場で集めた以上の金を投資家たちに払っていたと、中央銀行は発表している。

 これら全ての要因のために、ウクライナの財政は、米国や欧州連合や欧州諸国がそれぞれ差し出す援助や、それ以外の支援者たちに深く依存する形態になってしまったのだ。そうでなくとも、ウクライナの財政は独立後の最も良かった時期でも不安定さを見せていたからだ。

 米国の統制下にある国際通貨基金(IMF)でさえ、ウクライナというブラックホールにこれ以上金を投入する気はないようだ。

 ウクライナ国会が承認した来年の予算案には、約360億ドルの負債も含まれている。支出の約半分は軍事や警察など軍事費関連だ。今年の赤字はもっと高くなっており、月に約50億ドルだ。長期にわたり、独立後、金融危機に見舞われたウクライナを支援してきた国際通貨基金は、この戦争中、大規模な融資の継続から手を引いている。

 「IMFが懸念しているのは、負債の持続可能性です」と語るのは、元経済相でキーウ経済大学のティモフィ・ミラヴァロフ教授だ。「IMFが負債の持続可能性や金融危機を懸念しているとしたら、民間の投資家たちがどう考えているかは想像がつくでしょう。」


 逆に、ロシアとの国際貿易は、今年活況を呈しており、ロシアの財政状況は、先日プーチン大統領が語った通り、「西側」よりも良いようだ。

 まず、予想されていた経済崩壊は起こりませんでした。確かに、私たちは経済が停滞すると発表していましたが、再度その数値を申し上げます。ある約束が、いや予見や希望と言った方がいいかもしれませんが、ありました。それは、ロシア経済は縮小するというものでした。ロシアのGDPは、20%かそれ以上の20%~25%低下するとしていた人々もいました。確かにGDPは下がりましたが、その低下率は20%~25%ではありませんでした。実際は2.5%で済んだのです。これがひとつです。もうひとつは、インフレの件です。申し上げた通り、今年のインフレ率は12%強で済みました。これも経済の実状を現す重要な数値のひとつです。私が思うに、この数値は多くの国々よりずっと良い数値です。G20諸国よりも良いのです。もちろんインフレは良くないことですが、他の国々と比べてインフレ率が低いということは、良いことです。

 これも先程申し上げましたが、来年のインフレ率は、4~5%に抑えることを目標に努力します。それは、最初の四半期の経済状況にもよりますが。少なくとも、私たちはそうなることを期待しています。そして今はとても良い兆候があります。インフレ率が高騰している他のG20諸国では見られない兆候です。

 失業率は3.8%と、歴史的な数値を残しています。予算が赤字なのは確かですが、今年はたったの2%で、来年もそうです。そうなれば2025年には、1%やそれ以下になることが予想されます。私たちの希望は、0.8%になることです。他の国々の状況を指摘させてください。大きく経済発展を遂げている国々も、いわゆる経済先進国についてもです。これらの国々は、我が国よりもずっと酷い赤字に苦しんでいます。米国は、5.7%だと思います。中国は7%を超えています。全ての主要国は5%以上の赤字です。しかし、我が国は、そうではありません。
 
 これは、自信を持って2023年に進むためのとても良い根拠になります。


戦争が終わる時、ウクライナの借金は信じられないほどの額になり、何世代もかけても返せないくらいになっているだろう。外国人に売れる土地も無くなっているだろうし、価値のある産業も残っていないだろう。

 「西側」による対ロ制裁戦争を思いつき、設計し、実行した人々が、実際により大きい害を与えたのは、ウクライナであり、「西側」だった。そしてその規模は予想以上だった。しかしロシアを害することは全くできなかった。こんな不手際を見せた彼らはみな、クビになってもおかしくはない。
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日本の軍国主義化は「安全保障上の脅威」―ロシアによると、日本が北海道に超音速ミサイルを配備する計画は「深刻な挑戦」である

<記事原文 寺島先生推薦記事>

Japan's militarisation a 'security threat' – Russia —

出典:RT 

2023年1月3日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月4日


太平洋艦隊のバスティオン沿岸複合施設によるオニキス巡航ミサイルのテスト。© Sputnik / ロシア連邦国防省


 ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務副大臣は、極東ロシアの島々の近くにある日本の軍備増強による脅威を阻止する用意があると述べた。

 この発言は、日本の放送局であるNHKが12月下旬に、日本が超音速ミサイルを北海道に配備する計画を立てていると防衛省が述べたことを受けたものである。北海道は千島列島に隣接していて、その南部を日本は自分たちの「北方領土」と主張している。この時、モスクワはこの動きを非難した。

(参考)防衛省「高速滑空弾」部隊新設へ 九州と北海道に配備を検討 | NHK | 自衛隊

 ルデンコ氏は、火曜日のタス通信とのインタビューで、「日本の活動は、我が国とアジア太平洋全域の安全保障に対する重大な挑戦だと考えている」と述べた。

 「もしこのような行為が続くなら、ロシアが直面する軍事的脅威を阻止するために、我々は適切な報復措置を取らざるを得ないだろう」と外交官は付け加え、日本の「急激な軍事化」と「前例のない」軍事予算の増加を非難している。


 ファイル写真:2022年11月19日、AP経由の韓国国防部合同空域で韓国のF-35戦闘機に護衛された2機の©米国のB-1B爆撃機とF-35戦闘機

 2017年、当時の安倍晋三首相は、第二次世界大戦直後に米国の援助で採択された平和主義憲法を改正する計画を発表した。この憲法は日本が常備軍を維持することを禁じているが、日本には強大な自衛隊が存在する。安倍首相は当時、憲法改正によって自衛隊の地位が「明確に」なると述べていた。

 先月、日本政府は2023年度の防衛予算案として過去最高の510億ドルを承認した。日本はまた、国家安全保障戦略を改定し、「敵基地攻撃能力」の獲得を可能にした。

 岸田文雄首相は12月、中国や北朝鮮の脅威を引き合いに出し、「既存のミサイル防衛網だけではミサイルの脅威に完全に対処することが難しくなっている」と述べた。

 日本は、昨年2月に開始されたモスクワのウクライナへの軍事攻撃を受けて、多くの欧米諸国とともにロシアに制裁を課した。また、キエフに防弾チョッキやヘルメットなどの軍事物資を送った。

 ロシアはその後、「前例のない反ロシアキャンペーン」を展開したとして、岸田氏を含む日本の高官数名をブラックリストに載せている。
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ポン引きがウクライナ人女性を売春に誘い込んでいる(チェコ共和国の地方紙の報道)

<記事原文 寺島先生推薦>

ポン引きがウクライナ人女性を売春に誘い込む―メディア
Young single mothers are being targeted for recruitment into the sex trade in the Czech Republic, local outlet claims

チェコ共和国において、若い未婚の母が性産業への勧誘の標的にされていると、地元メディアが主張している。

出典:RT

2022年09月15日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月4日



© Getty Images / piranka

 チェコ共和国のポン引きたちは、ウクライナ人難民の女性を売春に誘い、中には国境で「勧誘」される人もいると、今月(2022年9月)はじめ、地元の性的サービス提供者支援団体からの話を引用して、チェコのリドフキィー紙が報じた。

 女性保護協会の取りまとめ役、ズデンカ・ペハロワ氏は同誌に対し、「彼女たちはほとんどの場合、家計が苦しいという理由で性産業に足を踏み入れる」と述べ、アダルトサイト上にウクライナ人女性を現地の女の子の4分の1の値段で宣伝する不審な広告があると、同団体に情報が寄せられたことを明らかにした。同団体は以前、一部の女性が国境で売春に「勧誘」されているとさえ報告していた。

 警察は犯罪の発生を確認できなかったが、ペハロワはウクライナ人女性がポン引きの被害にあっていると主張し、最近また新たに同様の不審な広告を発見して警察に再度報告書を提出したという。


関連記事:英国の小児性愛者、ウクライナ難民の子どもを狙う

 ペハロワによると、ポン引きは特に若い母親を標的にしており、子供のいない学生よりも失うものが少なく「安全」だと考えているという。性労働者を支援する団体「危険なき喜び」が支援する顧客の約60%は母親で、主に未婚の母である。

 こうした母親たちの多くは、ウクライナを離れたら生きていくのにどれだけのお金が必要になるかを十分に理解しないまま、取るものも取りあえず家庭内の暴力から逃れてきた。「どんな危機にも、その状況を利用しようとする人たちがいます」と、「危険なき喜び」の広報担当者、パヴェル・ウブランコヴィッチは同紙に語った。

 「外国で、その国の社会制度も知らず、仕事もほとんどないと分かれば、家族の面倒を見るために何でもするようになる」と彼は言った。

 警察の報道官は、個々の広告が犯罪とみなされなかったとしても、「関連する専門家」がこの疑惑を調査中であることを明言した。

関連記事:生活費が英国女性を売春に追いやる―活動家たち

 支援団体「危険なき喜び」の調べでは、新しくやってきたウクライナ人女性は、主にウステツキー、カルロビ・ベリ、南ボヘミア地方で商売をしていることがわかった。彼女たちの中には母国で売春婦をしていた人もいるかもしれない。ただ、彼女たちの存在は地元の売春婦たちにとって脅威と映り、結局は両者の懐からお金を奪っていくことになる。

 ちなみに、チェコ共和国では、1万人から1万3千人が性サービス労働者として働いている。
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米国によるイラク侵攻とロシアの対ウクライナ特殊軍事作戦はどこが異なるのか

<記事原文 寺島先生推薦>
ロシアはなぜこのような戦い方で特殊軍事作戦を行うのか?

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年12月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月3日



 ロシアのウクライナにおける特別軍事作戦は、2003年のアメリカのイラク侵攻とは異なる戦い方をしているが、それはロシアの軍隊が劣っていたり、近代戦を効果的に行うことができないからではなく、全く異なる種類の紛争だからである。

- ウクライナは地理的に大きく、人口も多く、軍備や訓練も充実している。

- ウクライナは過去8年間、ドンバス全域で要塞化された陣地を構築してきた。

- これらの防衛には、単に塹壕に座っている歩兵だけではなく、大砲、多連装ロケット発射装置、迫撃砲、戦車、対戦車兵器による長距離の火力支援も含まれている。

- これらの防御を破るには、ロシアはウクライナの長距離重火器を計画的に排除する必要がある。

- ロシアは、ランセットのような徘徊型兵器*を使用して、ウクライナの榴弾砲、ロケット発射機、対砲台レーダー装置、防空システムを破壊している。
*数時間にわたって目標地域上空を「徘徊」し、高価値目標を発見するかもしくは地上管制システムからの指令を受けて攻撃する無人航空機。

- ウクライナの重火器を破壊することで、ロシアは入念な砲撃準備の後、戦車、装甲兵員輸送車、歩兵戦闘車両で要塞を襲撃することができる。

- ウクライナはこのような攻勢の事前準備ができないため、ヘルソン/ハリコフ攻防戦のように多くの人員と装備を失うことは避けられない。

参考文献
ディフェンス・ポリティックス・アジア(防衛 政治 アジア)のサイトから―ウクライナの地図

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ゼレンスキーは「帰ろうとしない居候」-タッカー・カールソン

<記事原文 寺島先生推薦記事>
Zelensky is ‘houseguest who wouldn’t leave’ – Tucker Carlson
Listening to the Ukrainian president demanding money was a “humiliating scenario” for Congress, the Fox News host said
ウクライナ大統領がお金を要求するのを聞くのは、議会にとって「屈辱的な場面」だったと、Foxニュースのホストが語った。

出典・RT
2022年12月22日
<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>
2023年1月3日


2022年12月21日、ワシントンDCの国会議事堂で議会合同会議に臨むウラジミール・ゼレンスキー © AP / Carolyn Kaster

 Foxニュースの司会者タッカー・カールソンは、ウラジーミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領の武器と資金の増額要求に拍手を送ったアメリカの議員を非難した。カールソン氏は、米国がキエフに流す数百億ドルの見返りは何もないと主張した。

 ゼレンスキーは水曜日にワシントンに到着し、ジョー・バイデン米大統領と会談した後、国会議事堂で議会演説を行った。そこでウクライナの指導者は、アメリカがすでに自国政府に送っている約680億ドルの軍事・経済援助に感謝し、民主党と共和党にさらなる「投資」を呼び掛けた。

 「スウェットシャツに身を包んだ外国政府の指導者が、合衆国議会で金を要求し始め、さらに何百億ドルもの金を彼に与えている人々に、それは慈善事業ではなく、投資だと言う勇気がある」と、カールソンはその夜、プライムタイムの視聴者に語った。

 カールソンは続けた。「どこからそんなことを言い出すんだ?私たちは自分たちのことをそんなに嫌っているのだろうか?そんなことを我慢して拍手喝采するほど、われわれはアメリカに対して敬意を払っていないのだろうか?」



 カールソンは、米国の保守派の中でも、米国によるウクライナへの資金援助に一貫して反対してきた数少ない著名人の一人である。彼は、キエフをロシアに対抗して武装させることは、米国を紛争に引きずり込む危険があり、米国の資金は、メキシコとの国境を強化し、急増しているフェンタニル[麻薬性鎮静剤]危機に対処するなど、自国で使った方が良いと主張している。



<関連記事>ゼレンスキー氏、「ハリウッドスタイル」の米国訪問は「代理戦争」の宣伝--- モスクワ

 フォックスの司会者は、民主党と共和党の両方がゼレンスキーの軍隊を支援していることを非難した。カールソン氏は、上院少数党院内総務のミッチ・マコーネル氏がウクライナ支援を米国の「最優先事項」と述べたことを指摘し、マコーネル氏の保守派有権者の多くが「日曜日に教会に行っている」ことを考えると、「彼が現在進行中のキリスト教に対する戦争*」についてゼレンスキー氏に尋ねないのは問題だと非難した。
[訳注]*11月下旬、ウクライナ軍(SBU)による、ハリコフの12カ所以上のウクライナ正教会に対する襲撃を指す。

 カールソンは、ゼレンスキーの演説とそれが議員から受けた複数のスタンディングオベーションについて、「地球上で最も偉大な国にとって、これ以上屈辱的な場面を想像することは不可能かもしれません」と述べた。「これは超党派のマゾヒズムだ。ユニパーティ[一党独裁]は健在だ。」

 「彼は帰ろうとしない居候だ。彼を許容するたびに要求が大きくなる。」

 駐米ロシア大使のアナトリー・アントノフは、ゼレンスキーの訪米を、米国の対ロシア「代理戦争」継続を確実にするための「ハリウッドスタイル」の慰安旅行と評した。

 議会は今週、ウクライナにさらに450億ドルを割り当てる1兆7000億ドルの支出法案を採決する予定であり、2月以降キエフに与えられた総額は約1130億ドルとなり、紛争前の同国のGDPの半分以上となる。モスクワは西側諸国に対し、キエフを武装させないよう繰り返し警告しており、これは紛争を長引かせるだけだと強調している。



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誤解と偽情報がアサンジ事件の真相を踏み潰した。月曜日(12月5日)の夜、ワシントンで行われたヘイデン・センター主催の公開討論会をジョー・ローリアが報告

<記事原文 寺島先生推薦>

Misperception and disinformation overrode the facts of the Assange case at an event organized by the Hayden Center on Monday night in Washington, reports Joe Lauria.

筆者:ジョー・ローリア(Joe LAURIA)

出典:Strategic Culture

2022年12月11日

<記事原文 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月2日

 主要5紙がバイデン政権にジュリアン・アサンジに対する告訴を取り下げるよう求めた1週間後、マイケル・V・ヘイデン情報・政策・国際安全保障センターは、その対抗策として、月曜日(12月5日)に、アサンジ事件に関する「情報機関」の偽情報を意図的に前面に押し出した。

 Twitterで叩かれた後、番組の当初のタイトル「ジュリアン・アサンジ: ジャーナリストなのかテクノスパイなのか?」は、「ジュリアン・アサンジ事件」という平凡なものに変更された。この公開討論会は、ワシントンのナショナル・プレス・クラブの大宴会場において討論会として行われたが、アサンジの弁護士バリー・ポラック(Barry Pollack)には不利になるように仕組まれていたらしい。

 ヘイデン・センター所長で元中央情報局参謀のラリー・ファイファー(Larry Pfeiffer)がパネリストを紹介し、「ジャーナリズムとスパイ活動の境界線と、その境界線を越えるのはいつか?」について質問した。タイトルは変えられたものの、目的は同じで、アサンジをスパイとして紹介し、アサンジの米国弁護士バリー・ポラックに反応させる機会を与えることだった。

 ファイファーは、「ヘイデン・センターが目指すのは、機密情報について、そして機密情報が我々の社会、政府において果たす役割について、どのように政策に反映させるか、時には政策を台無しにするか、そしてそれを修正する必要がある場合、我々はどうすればよいか、そんなことを議論することである」と述べた。

 言い換えると、情報機関の真意はただ善意があるだけで、「間違い」は修正するのだから、とにかく情報機関を信じろ、ということだ。その「間違い」たるやイラクなどで何十万人もの命を奪った「間違い」であるし、アサンジの命を奪おうと企てた「間違い」なのだ。

 この公開討論会のパネラーは以下の通り:

① 元F.B.I.の捜査官でトランプ政権時の国家安全保障会議の防諜担当主任だったホールデン・トリプレット(Holden Triplett)、
報道の自由のための記者委員会のテクノロジーと報道の自由プロジェクトの主任、ゲイブ・ロットマン(Gabe Rottman)、
③ 国家安全保障法、言論の自由の憲法申し立て、政府の説明責任を扱う弁護士と言われるマーク・ザイド(Mark Zaid)、そして
④ ポラック。


トリプレットとポラック(ジョー・ローリア撮影)

「明白な犯罪」

 司会は企業メディア記者のサッシャ・イングバー(Sasha Ingber)。元National Public Radio、そして今はNewsy(「話題の豊富な」という意味)社に属している。Newsy社は、今はScripps Newsに社名変更しているが何とも虫唾が走る社名だ。

 元C.I.A.および国家安全保障局長官であるヘイデンは、元情報機関高官の面々とともに最前列に座った。ヘイデンは1999年から2005年までNSAを、2006年から2009年までC.I.A.を率いた。CIAの内部告発者であるジョン・キリアコウ(John Kiriakou)が今日のConsortium Newsコラムで指摘しているように、彼は一時期ブッシュ政権の拷問プログラムを監督していたのである。ヘイデンは、現在ケーブル・ネットワークでこのニュースについてコメントしている元高官たちの一人である。

 ヘイデンがアサンジを敵視しているのは間違いない。2010年、彼はアサンジを「明白な犯罪者」であり、「傲慢と無能の危険な組み合わせ」であるとんだ。

それは問題ない。それでも我々は待っている。遅かれ早かれ。 https://t.co/kGML40sC9A
ー将軍マイケル・ヘイデン(@GenMhayden) July 1, 2022

ハッキングで訴追されているわけではない

 アサンジの弁護士ポラックは、この夜の最初の質問に対して、ウィキリークスの発行人アサンジに対する起訴の事実を冷静に説明した。彼は、アサンジは政府のコンピュータをハッキングした罪には問われておらず、自分の情報源を守るためにチェルシー・マニングの身分を隠す手助けをした(その試みは失敗したが)ことだけが告発されている、と説明した。

 ポラックは、マニングは自分がリークしたすべての文書にアクセスする権限を持っており、したがって、コンピュータをハッキングしたり、アサンジの助けを求めたりする必要はなかったと説明した。「ジュリアン・アサンジを告発する文書には103個の段落がある。そのうち厳密に3つの段落が、もし関係あるとすれば、パスワードを破るためと想定された事柄に関係する」と、ポラックは言った。「そして、そのパスワードは、機密情報にアクセスすることとは何の関係もない。」

 それは、アサンジの起訴状の印刷された文面をみればわかることだ。マニングは、リークしたすべての資料に対して機密情報へのアクセス権を持っており、アサンジはそれを入手するためのハッキングには荷担していない、と書かれている。

 ところが、元F.B.I.のトリプレットはそれを無視し、まるでポラックがステージで隣に座っていないかのように、話を進めたのだ。彼はアサンジを「ハッキング実行者であ」り、「米国の法律で保護される人物ではない」と繰り返し語った。

 「私たちが問題にしているのは、本質的に自分たちは情報機関を称し、世界中の人々に情報を提供しようとしている組織で、その情報を引き出すためにハッキングすることも吝かではないと言っているのです」とトリプレットは述べている。ここで一旦止めよう。

 まず、ジャーナリズムとスパイ活動は、情報収集の段階では共通点がある。しかし、類似点はそこまで。ジャーナリストは集めた情報を世間に知らしめるが、スパイは国家に仕えるために組織内で情報を秘匿する。だから、ウィキリークスは 「世界の人々に情報を提供しようとする諜報機関 」にはなり得ない。それは諜報機関のやることではない。

 第二に、米国政府はアサンジが情報を引き出すためにハッキングしていると訴追してはいないと、ポラックはこの出来事を踏まえて相当網羅的に説明したばかりだった。それなのにトリプレットは、情報を引き出すために「ハッキングすることも吝かではない」とウィキリークスが言っているかのような引用の仕方をしている。

 自分のメッセージを損なうような事実を無視し、そのような事実が存在しないかのように装うのは、偽情報の戦術である。トリプレットやその他の偽情報の提供者は、国民は49ページに及ぶアサンジの起訴状を読んでいない方が多いことを当てにしているが、トリプレットは、読んでいると後で私に語った。

 つまり、トリプレットはポラックが真実を語っていたことを知っているのだ。しかし、標的となる視聴者、つまりアメリカ国民は事実を知らず、むしろアサンジの件について、政府筋から企業メディアを通じて、アサンジは政府のコンピュータをハッキングして機密を盗んだというような偽情報を組織的かつ繰り返し植えつけられていること、そのことが彼の知識の中にある。

 トリプレットはポラックの発言内容からすぐに離れ、「ここで私たちがやりたいのが、この事件の詳細を訴訟に持ち込むことなのか、はよくわからない」と言った。しかし、それこそが、スパイ活動法により起訴された人物に関して、事件の詳細を検証しながら議論すべきことなのだ。

 彼は、国家安全保障の記者が日常的に行っているように、機密資料を盗んだ情報源から機密資料を受け取って公表したジャーナリストなのか、それとも彼自身が盗んだのか?

ロシア(のイメージの)固定化

 トリプレットは、アサンジとロシアとは関係あるとされている件についても、証明された事実には明らかに無関心である。私はこの公開討論会の後、トリプレットの意見に揺さぶりをかけた。正当な反対意見、この場合は正当なジャーナリズムを敵対する外国勢力の道具だと中傷するのは、ほとんどどの政府の文書に書き込まれた最も古い手口である、と彼に言った。

 パネルでトリプレットは陰険な質問をした。「ロシアの諜報機関が出版社を作りたいと思ったら、それはどのようなものになるだろうか?」

 その後、トリプレットと話したが、彼や彼の同僚の頭にはロシアがこびりついていることは疑いない。ロシア(を巡る問題)は彼らに過剰なほどの説明を与えすぎている。公開討論会で彼はWikiLeaksについてこう言った:

  「詳しいことはわからないが、どんな臭いがするかはわかる。諜報活動の臭いがする。これはロシアの諜報活動の典型的な手口だ。彼らは代理人を使う... [アサンジは]GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)と実質的な交流関係を持っていた。...こんな人間(彼はアメリカ人ではない)にそんな力を与えて良いのだろうか?」


ヘイデン・センター公開討論会におけるトリプレットとポラック(Joe Lauria/Cathy Vogan撮影)

‘情報提供者に害を与える’

 この討論会の、そしてアサンジの訴追の大きなテーマは、彼が公開した文書の中で名前をリークすることによって情報提供者を傷つけたというもの。ポラックは、アサンジが公開したものの中で、確かに名前を編集していた(つまり実名は出さなかった)こと、そして、ガーディアン紙の二人の記者が編集されていないファイルのパスワードを公開し、Cryptome.orgが編集されていない電報そのものを公開してから、ウィキリークスも情報提供者を逃がすためにそれを公開したという話を冷静に整理した。 (アサンジの身柄引き渡し審問での証言によれば、アサンジは強要されてガーディアン紙のデビッド・リー(David Leigh)にだけパスワードを教えた)。

 トリプレットはまたもやポラックを無視し、ウィキリークスが編集前のファイルを喜んで公開したため、情報提供者や潜入中の米国諜報員が「相当な危険」にさらされていると話した。彼にとって、編集されていない電報がどのようにして公開されるようになったかというポラックの説明は何の役にも立たなかったのだ。

 公開討論会の後、ある退役海軍情報将校は、アサンジが名前の編集に努めたことを認めても、また、編集されていないファイルはガーディアン紙の記者がパスワードを公開することで可能になったとしても、アサンジがこれらの文書を全く公開しなければ、このようなことは起こらなかっただろうと私に伝えようとした。

 アメリカ社会で最も強力な集団である情報機関が、せっかくゲームがうまく進行しているのに、良心のある「傲慢」で「無能」なオーストラリア人に、それを台無しにされたくないと考えていることは明らかだった。




「犯罪を暴く」

 質問の中で、私はトリプレットに、ロバート・カー元帥がマニングの軍法会議で(ウィキリークスに防衛情報をリークした罪で)、そのリークが米国の情報提供者を傷つけたという証拠はゼロだと証言したことを知っているか、と尋ねた。

 また、ロバート・ミューラー特別顧問が、ロシアゲート報告書のある項目(これは情報公開請求の結果、編集されていない)に、彼はアサンジを告訴できない、なぜならロシアのGRU情報員と取引していたことをアサンジが認識していたと証明できないから、と書いていることを知っているか、と私はトリプレットに尋ねた。このGRU情報員がGufficer 2.0のハンドルネームで「ハッキングした」DNCメールを、WikiLeaksに売りつけたとミュラーは言っているが、そのことは法廷では立証されていない。

 つまり、(アメリカ)政府は、アサンジがロシア情報機関と知りながら協力したことに罪はなく、ロシアが関与していることはまだ証明されていないことを認めたのである。トリプレットは、私の2つの質問に対して、驚くべきことに「イエス、イエス」と答えたのだ。

 そのことは聴衆とパネラーからの笑いを誘った。しかし、ウィキリークスが情報提供者に危害を加えることはなかったと米陸軍大将が宣誓証言したことを知っていること、政府がアサンジをロシアのスパイだと証明できないことを認めることで、彼は公開討論会での自分の議論が本質的に崩壊したことを認めたことになる。

 トリプレットは、公開討論会の最初に、なぜ米国政府はアサンジを不安視しているのか、と質問した。そこで私は、質問タイムに、アサンジが米国政府の犯罪や腐敗を暴露したからではないか、と自分の意見を述べた。

 トリプレットの答えは、政府の不正は暴露する必要があるが、ジュリアン・アサンジがその適任者かどうかと質問をした。私が「そうだ、主要メディアは政府に近すぎるからだ」と答える前に、司会者が討論を打ち切った。

 討論会の間、私は最前列に座っていたが、トリプレットが 「なぜ米国はアサンジを不安視するのか」と尋ねたとき、私は「彼が政府の犯罪を明らかにしたからだ」と小声で言った。

 情報機関の退役上級幹部が座る席で、隣に座っていた男性が私の方を向き、「余計なことを言うな!」と怒ったような唸り声をあげたので私は仰天した。その後、席に戻り、彼の名前を確認しようとしたが、彼の名札は取り外されていた。


ポラック、ロットマン、そしてザイド(ジョー・ローリア撮影)

救助者を殺すことは問題ない

 ザイドは、CIAの内部告発者であるキリアコウによって2019年にConsortium Newsで「ザイド(Zaid)は文字通り、国家安全保障における内部告発者として最悪の選択だ」と書かれたいわゆる内部告発弁護士。ザイドは、パネラーとして2つの途轍もなく誤った発言をした。

 まず彼は、米政府高官が機密情報をマスコミにリークすることは「合法」だと述べた。これは米国の課題を押し進めるために日常的に行われていることであり、米国の高官がこれによって罰せられることはほとんどないが、それはそれが 「合法」だからではない。
 ザイドの口から出た2つ目の驚くべき点。マニングによってリークされたCollateral Murderのビデオ*において、非武装の一般人の家族が立ち止まって負傷したイラク人を助けていた。救助者を「敵」と見なすことは当然なのだから、戦闘中に彼らを殺害することに何の問題もない、とザイドが言ったことだ。
Collateral Murderのビデオ*・・・2007年7月12日、イラク侵攻に続くイラクの反乱の最中に、ニューバグダッドのアルアミンアルタニヤで2機の米国AH-64アパッチヘリコプターが、地上の民間人(2名のロイター記者を含む)多数を射殺する様子を伝える映像をウィキリークスが公開した。

 1949 年ジュネーブ条約第 3 条は、「生命及び身体に対する暴力、特にあらゆる種類の殺人」から、「武器を捨てた軍隊の構成員及び疾病、傷害、抑留その他の事由により戦闘能力を失った者」を保護するものである。

 この条約の1977年議定書は、「民間人は『敵対行為に直接参加しない限り』、軍事行動から生じる危険に対する保護を享受するものとする」と規定している。非武装の民間人家族が、負傷者を収容するために、銃撃が止んだ後、小型トラックを停めたことは、「敵対行為に直接参加」しているとは言い難い。

 Collateral Murderのビデオに登場する米軍パイロットは戦争のルールを熟知していた。そのことは、パイロットが負傷した男性に、路上で自分の近くにある武器を拾って戦闘員になるようにしきりに促す声が映像で聞き取れたことでもわかる。 その男は武器を取らない。それでも彼に対して発砲されるのだ。
ヘイデン・センターの公開討論会の様子は次の映像で:



写真:月曜日(12月5日)に行われた「ジュリアン・アサンジ問題を考える公開討論集会」における前CIAとNSA長官マイケル・ヘイデン(左)(ジョー・ローリア撮影)
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ウクライナにおけるロシアの軍事作戦の最新情報(2022年12月30日)

<記事原文 寺島先生推薦>
ロシアのミサイル攻撃、新たな防衛力、そして2023年までの戦い

出典: INTERNATIONALIST 360°

2022年12月29日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月2日



2022年12月30日のウクライナにおけるロシアの軍事作戦の最新情報。

- ロシアは、特別軍事作戦の中で、これまでで最大と思われるミサイル攻撃を実施。

- ウクライナの電力網は引き続き供給力が落ちている;―バフムート周辺での戦闘が続いている。

- 欧米の分析家は、バフムート周辺でのロシアの戦闘は「無意味」だと主張しているが、ロシアの消耗戦の戦略には適している。

- ロシアはまた、接触線全体に大規模な防御構造を構築している。

- これらの防衛線は、ウクライナの攻撃部隊に、十分に準備された戦場でより多くの時間を費やさせ、大きな犠牲を強いる。

- ロシアは、これらの大規模な防衛施設で自陣を守りつつ、長期的な消耗戦に突入しようとしているようだ。

参考文献:

BBC―ロシア、空と海から120発のミサイルを発射―ウクライナ

ウオーズ・オン・ザ・ロックス―局地的攻撃。今後の戦いの行方

ニューヨーク・タイムズ紙―ロシアはウクライナの勢いを削ぐために、塹壕、罠、障害物を連携させる広大な組織体を構築している。うまくいくのだろうか?

ロシア国防省(テレグラム)―中央国防省技術部隊が特別軍事作戦の中で要塞を建てる

米陸軍、ベニン駐屯地―ロシア大隊戦術軍団の撃破
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米英が和平交渉を妨害したのは「ウクライナのことを気にかけていない」から:元NATO顧問   

<記事原文 寺島先生推薦>
US, UK sabotaged peace deal because they 'don't care about Ukraine': fmr. NATO adviser - The Grayzone

聞き手:アーロン・メイト(Aaron Maté)
話し手:ジャック・ボー(Jacques Baud)

出典:THE GRAYZONE

2022年9月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月2日


元スイス情報局員でNATO顧問のジャック・ボー氏が、ロシア・ウクライナ戦争の次の段階と、それを終わらせる可能性のあった和平協定を米国と英国が台無しにしたという新しい主張について語る。

 ボーが言うには、欧米の狙いは「ウクライナの勝利ではなく、ロシアの敗北である。問題は、誰もウクライナのことを気にしていないことだ。我々は、米国の戦略的利益のためにウクライナを利用しただけであり、欧州の利益ですらない」。

ゲスト:ジャック・ボー。元スイス戦略情報局諜報部員。NATO、国連、スイス軍で安全保障と諮問の要職を歴任。

訂正
・9月21日の演説で、プーチンは核兵器を使用するという明確な脅しをしなかった。彼は、「わが国の領土保全に対する脅威が生じた場合、ロシアとわが国民を守るために、利用可能なすべての兵器システムを使用する」と誓った。
・核兵器については、米国は「先制不使用」政策をとっていなかった。2020年の選挙戦で、ジョー・バイデンは「先制不使用」の考えを支持すると言ったが、大統領になってからその方針を放棄した。それは選挙戦の姿勢を覆したものであり、米国の公式な政策とは言えない。



インタビューの書き起こし
アーロン・メイト
「プッシュバック」へようこそ。 私はアーロン・メイトです。ジャック・ボーに出演してもらっています。彼は元スイス情報局員でNATO顧問です。ジャック、もう一度よろしくお願いします。
ジャック・ボー:
このショーにお招きいただき、ありがとうございます。
アーロン・メイト
お会いできてうれしいです。プーチンが侵攻をエスカレートさせ、約30万人の予備役の軍を召集し、ロシアの領土保全が脅かされれば、彼の言葉で核兵器を使用すると脅したことについて、どう思われますか?
ジャック・ボー
さて、まず私たちは言い回しに注意しなければなりません。核兵器については、後で具体的に説明します。 ウクライナ南部のドンバス地方で予定されている住民投票、すなわちケルソン州、ザポリジャー州、ドネツク州、ルガンスク州での住民投票の後に、部分的な動員を行うことは理にかなっていますし、多かれ少なかれそのような論理展開になります。
 もし、住民投票によってこれらの州がロシア連邦に加盟することが認められれば、ロシア連邦は国境を約1,000km延長することになります。 そのため、特にウクライナでは現在戦争が起きているため、その国境の安全を確保するために新たな軍隊が必要になります。
ですから、私としては、現在の状況に対して追加的な兵力が必要であることは、本当に驚くことではありません。また、この30万人の動員兵は必ずしも前線に出るわけではなく、ウクライナ南部に展開する部隊を支援するために動員されるということが重要だと思います。つまり、基本的にはウクライナ南部のロシア軍の移動の自由を確保するためのものですが、この住民投票がおそらく受け入れられると考えれば、完全に理にかなっていると言えます。
 なぜ受け入れられるかというと、2つの理由があります。まず1つ目は、ウクライナ政府が夏に住民にこれらの州からの退去を命じました。つまり、現在これらの州にいる住民はおそらく親ロシア派で、ロシアに加わることを受け入れる人が大多数であることを意味しています。そこで、2つ目の側面として、2014年以降、ウクライナの南部全体が、特に言語に関する法律[訳注1]のせいで、基本的に、言ってみれば占領下にあるような感じになっているのです。しかしまた、西側では誰も話題にしない法律がいくつかあります。2021年7月に採択された有名な「先住民の権利に関する法律」[訳注2]ですが、この法律によると、ウクライナの先住民は、ロシア人が持っていない、さまざまな権利を有しています。この法律は、1935年にナチス・ドイツが制定した悪名高いニュルンベルク法[訳注3]と正確に同じではないが類似しており、民族の出自によって市民に異なる権利を与えています。そのため、2014年以降、特にここ数年、ウクライナのロシア語圏の人々は普通の市民とはみなされず、2級市民になっています。そのため、ロシア軍に占領された地域で抵抗運動が展開されることもありません。実際、住民はロシア人の到来をむしろ好意的に受け入れています。
訳註1-1:ウクライナ、ロシア語についての新たな禁止令を発令 - 寺島メソッド翻訳NEWS (fc2.com)
訳註1-2:ロシア語絶滅が、現在のウクライナ政府の最優先事項 - 寺島メソッド翻訳NEWS (fc2.com)
訳註1-3:Language Law For National Print Media Comes Into Force In Ukraine (rferl.org)
訳註2:先住民に関する法律でウクライナがロシア系住民2000万人の存在を歴史から削除=露国家院副議長2021年7月2日, Sputnik 日本 (sputniknews.jp)
訳註3:ニュルンベルク法:1935年9月15日にヒトラー政権下のドイツで制定されたユダヤ人に対する差別法。ユダヤ人を第2級の市民とした「公民法」と,ユダヤ人と「アーリア人」の結婚や性交渉を禁じた「ドイツ人の血と名誉を守るための法」からなり,これに違反したものは強制収容所に送られた。(コトバンク)

 つまり、この2つの理由から...他にもあるでしょうが、この2つの主な理由から、この住民投票はおそらく受け入れられ、ロシア連邦がウクライナの南部に拡張する可能性が高いと予想されます。
 さて、核兵器についてですが、欧米のメディアはすべて、プーチンが核兵器の使用を使用すると脅していると述べています。これは間違いです。プーチンが実際に発言した文言の原文と記録を見ると、彼は核兵器を使用するとは言っていません。しかし、彼は西側諸国の指導者がロシアに対して核兵器を使用することに言及し、すなわち現在のイギリスの首相であるリズ・トラスが...。
ジョン・ピーナー(タイムズ・ラジオ):
あなたは、非常に個人的にナンバー10の部屋に案内され、あなたの目の前に、いわゆる「最後の手段」という文書が広げられるでしょう。つまり、それはあなたがトライデント艦長に出す命令であり、あなたリズ・トラストが核兵器の発射を命令するかどうかに関することです。それは地球滅亡を意味します。 ボタンを押すかどうか私はあなたに尋ねません。あなたはイエスと答えるでしょう。でもその仕事に直面したら、私は身体がすくんでしまうでしょう。そう考えたら、あなたはどう感じるのでしょうか?
リズ・トラス(英国首相):
首相の重要な任務だと思います。それをする覚悟はできています。
[拍手]
ジョン・ピーナー
私はあなたにどう感じるか聞きました。
リズ・トラス
それをする覚悟はできています。
ジャック・ボー
8月末に、私の記憶では8月24日くらいに、英国首相はロシアに対して核兵器を使用する用意がある、核戦争を始めることはロシアに対して正当化されると発言しています。そしてもちろん、これはロシア人にとって懸念材料です。
 ロシア側は、核兵器について先制不使用の方針をとっており、その方針から逸脱することはありません。これまで話してきたことをもう一度、思い出していただきたいのですが、アメリカは今年の4月まで先制不使用の政策を持っていました。しかし、ジョー・バイデンは今年の4月初めにその政策を撤回し、現在アメリカは先制使用政策をとっています。つまり、米国は核兵器を最初に使用することができるということです。これは米国の戦略において全く新しいもので、誰もそのことに触れていません。しかし、プーチンが核戦争の危険性を強く主張する理由もそこにあります。
 使用する兵器についてですが、彼は核兵器の使用については全く言及しませんでした。彼は他の武器について言及し、実際、彼は言及していました。つまり、彼は明確には言及しませんでしたが、彼らが極超音速ミサイルを持っており、西側が持つ対弾道ミサイル防衛の全てではないにしても、ほとんどを破ることができると、私たちには分かっています。だから、彼はその使用をすると脅したのです。この種のミサイルは...、ごく最近、ロシアが新型ミサイル(新サルマット)を公開したことを思い出してください。このミサイルは、世界中のほぼすべての地点に到達可能な独立誘導弾頭を複数発射できる、最強のミサイルの1つです。プーチンがそう言ったのは、おそらく偶然ではないでしょう。西側諸国が核武装を望むなら、適切な対応策を持っているが、必ずしも核による対応策ではないことを示したいのでしょう。核武装をしなくても、十分な手段を持っているのです。
アーロン・メイト
だから、バイデンの政策ですが、あなたの言われる通りで、バイデンが今年初めに出した防衛見直し戦略、「核体制の見直し」です。それによると、米国は「米国またはその同盟国やパートナーの死活的利益を守るための極端な状況においてのみ、核兵器の使用を検討する」となっています。これは、米国は核兵器を先制使用しないとする「先制不使用」を後退させるものです。あなたが言われる通りです。
 しかし、プーチンに関して言えば、彼は「ロシアの領土保全が脅かされた場合、核兵器の使用を検討する」と言ったのではないでしょうか?これは彼の言葉だと思うのですが、つまり、ウクライナの新たに併合された地域を含むと思われる領土の一体性が脅かされたら、ロシアは核兵器を使用するという意味に解釈できないでしょうか。
ジャック・ボー
さて、ここでまた、プーチンが使った言葉に行き着きます。その点については、まったく正しい指摘です。これらの住民投票の主な結果は、事実上、ロシアの国境をウクライナに延長することによって、ウクライナの領土をこれらの州を...つまり、ロシアの領土にすることです。つまり、今すぐではなく、住民投票の後、その時点から、ウクライナがケルソンやケルソン近郊の都市を攻撃するときは、ロシアの都市を攻撃することになるのです。そして、もしアメリカが長距離ミサイルを提供し、それがロシアの領土(フランスの用語でいうところの聖域)に到達すれば、この領土に到達するか触れるかすれば、存亡に関わるような反応をすることができる、ということです。プーチンは明確には言いませんでしたが、ウクライナ南部がロシア領になること自体、ロシアが核兵器を使用する危険性を含んでいるのです。 しかし、それはロシアのドクトリンにあることで、基本的には...プーチンは今さら言う必要はありません。これは去年あるいは10年前にすでにドクトリンの一部でしたから、その点では何も新しいことはありません。ただ一つ違うのは、国境、つまりロシアの領土が広くなったことです。
 しかし、もちろんロシアがこれらの核兵器を使用する危険はあります。しかし、ドクトリンでは、ロシアは戦術レベルでは核兵器を使用しません。なぜなら、ロシアには攻撃に対抗するための別の種類の兵器、たとえば極超音速ミサイルや超長距離ミサイルがあり、核兵器を使用しなくても実質的な対応をすることができるからです。これは重要なポイントです。
アーロン・メイト
分かりました。
ジャック・ボー
つまり、ロシアの領土や新しいロシアの領土に手をつけられたとしても、ロシアには直接核を使わなくても対応できる手段が残っているということです。
アーロン・メイト
了解です。分かりました。
 ウクライナの4つの地域で行われている住民投票の結果について、これらの住民投票がロシアへの加盟に投票したと仮定すると、ロシアがこれらの領土を奪うことは当然なのでしょうか。 それとも、クインシー研究所のジャーナリストであるアナトール・リーベンが提案するように、プーチンは住民投票の票を交渉材料として使うことができ、基本的に西側に対して、「もしあなたがずっと拒否してきたこと、つまりウクライナの中立、ミンスク協定の履行、クリミアのロシア帰属を認めるなら、私はこれらの領土を併合しない。この投票結果を受け入れることはない」と言うのでしょうか?この8年間、ロシアとプーチンは独立を主張するドンバス地方を受け入れず、アメリカとウクライナにミンスク合意を履行させようとしていましたから、その[投票結果を受け入れなかった]前例があるのです。ですから、プーチンが「もしあなたがミンスクあるいは何らかの形で和平合意を受け入れ、安全保障やウクライナがNATOに加盟しないことに関して我々の他の要求を受け入れるなら、そこに住む人々の投票にもかかわらず、私はこれらの領土を併合しない」と言うだけでも遅くはないのではありませんか?
ジャック・ボー
まあ、そうですね。そしてもちろん、この住民投票について話すときには、より具体的に説明する必要があります。ドネツク州やルガンスク州は、法的手続き上ではすでに独立しています。つまり、彼らにとっては、この住民投票は独立することではなく、ロシアに加盟するかどうか、イエスかノーかということなのです。
 他の2つの州、ケルソン州とザポリージャ州は、正式にはまだウクライナに属しており、住民に異なる質問をすることになります。まず、ウクライナから出たいのか、そうなのか、そうでないのか。これが最初の質問です。次に、ウクライナから出たいなら、独立したいか、イエスかノーか? そして、独立したいのであれば、ロシア連邦に加盟したいのか、イエスなのかノーなのか。
 また、未知の要素もあります。というのも、住民に尋ねられた質問を見たことがないのですが、「どこがロシアに加わるべきか」というようなことです。 つまり、例えばザポリジャー州やケルソン州は、現状ではロシア連合に占領されているのは一部だけです。ウクライナの支配下にある部分はまだ大きいのです。では、ロシアに加わるというのは、現在ロシア連合に占領されている部分だけなのか、それともこれらの州の全領土を意味するのか?つまり、戦争はまだ終わっていないということです。ロシアに加盟しても、残りの州を勝ち取らなければならないのですから。というわけで、これが重要な最初の疑問なのですが、現段階でその答えを持っている人がいるかどうかはわかりません。
 そしてもちろん、あなたがおっしゃったように、ちょうどあなたの質問に直接戻ることになりますが、ロシアがそれを受け入れるかどうかということです。これは良い質問です。プーチンの演説を聞いていると、彼らはロシアに加盟する考えに賛同する覚悟があるように思えます。しかし、それは交渉の場で使うかもしれない戦術的な位置づけなのでしょうか。これが交渉に出てくるのかは分かりません。ザポリジャーやケルソンのような地域がウクライナに戻るとは思えません。だから、独立するのか、ロシアに入るのかが問題ですが、現段階ではこの地域がウクライナに戻らないことは間違いないでしょう。というのも、最近、ロシアに協力した住民に対してウクライナ政府が報復するのではないかという懸念が住民の間に広がっているからです。つまり、現在ロシア連合に占領されている地域は、何らかの形でウクライナに戻るとは思えません。独立するか、ロシアに加わるか、そのどちらかになるのではないか、そんな気がします。
アーロン・メイト
プーチンの演説の中で、米国ではほとんど注目されていない点があります。例えば、ワシントン・ポストのコラムニストであるデイヴィッド・イグナティウスが何度か言及していますが、それ以外では無視されています。プーチンが、初めて公にしたと言っていますが、ウクライナとロシアは3月に和平合意に非常に近づいていたが、彼の言葉によれば、ウクライナは西側によって妥協案を破壊するように命じられたとのことです。
ブラジミール・プーチン(翻訳):
特別軍事作戦の開始後、イスタンブールの交渉の場でも、初めて公に、ロシアの安全保障に関する我々の提案に非常に前向きな反応があったことを申し上げたいのですが、西側諸国がこの平和的決定を喜んでいないことは明らかでした。そこで、一定の妥協点を見出した後、事実上、交渉を台無しにする直接の命令を西側はキエフに下しました。
アーロン・メイト
その詳細をご存知でしょうか? ついでながら、元ホワイトハウス専門家のフィオナ・ヒルも最近フォーリン・アフェアーズ誌で、ウクライナとロシアの間に和平協定があることをアメリカ当局が知っていたと発言し、これを裏付けていることをお伝えしておきます。それは基本的に、ロシアが侵攻前のラインに戻ること、その代わりにウクライナは中立を宣言し、ウクライナのロシア語圏の特定の地域(すべてではないが、特定の地域)のロシアの支配を認めること、そしてウクライナは西側から安全保障を受けることを前提にしていました。しかし、プーチンの発言やウクライナのメディアで報じられたこと、西側諸国がこれらの合意を支持しないことを、ヒルは言いませんでした。
ジャック・ボー
もちろん、それは私の本の中にも書いてあります。新著『オペレーションZ』にも書いてありますし、前著ですでに触れています―あ、いえ、違います、この本でしか触れていません。
 実は、ロシアとウクライナの間では、これまで3回の合意が試みられているんですね。 最初のものは、2月25日、つまり攻撃開始のちょうど1日後に、ゼレンスキーの要請で始まりました。ゼレンスキーがロシア側に交渉してくれと言ったのです。ベラルーシとの国境で始まった最初の交渉は、実は、EUによって止められたのです。ゼレンスキーの要求の2日後、EUは最初の武器の包括提案をし、それは4億5千万ユーロの武器に関する包括提案で、プーチンとは交渉すべきではなく、ただ戦うべきだという考えに基づいていました。そして、3月にもまったく同じシナリオがありました。ゼレンスキーがロシア側にこの申し出をした2日後に、EUがまた最初のときとまったく同じことをやってきました。 EUはまたもや5億ユーロの武器提供という2回目の包括提案を携えてやってきて、それに加えて(英国首相)ボリス・ジョンソンがゼレンスキーに電話をかけて、申し出を撤回するように要請し、そうしなければすべての支援を打ち切ると言いました。数日後、ボリス・ジョンソンがキエフにやってきて、先ほど言ったことを繰り返しました。つまり、交渉はしない、そうしなければすべての提供を打ち切る、ということです。彼は5,000万ドルの武器購入の提案を持ってきました。私はこれについて間違っているかもしれませんが、彼は武器の新しい提案を持ってきたと思います。これはウクライナのメディアで報道されました。
アーロン・メイト
はい。
ジャック・ボー
実際、私は本の中でウクライナの情報源にだけ触れていますが、ウクライナの情報源は、ボリス・ジョンソンと欧米が基本的に和平合意を妨げたと明確に述べています。つまり、これは西側のプーチン支持者による創作ではなく、ウクライナ人もそう感じていたのです。8月にリヴィウで行われた(トルコの大統領)エルドアンとゼレンスキー氏の会談で、3度目の出来事がありました。そしてここでもまた、エルドアンはロシアとの何らかの交渉の仲介を申し出ました。そしてその数日後、ボリス・ジョンソンが突然キエフにやってきて、有名な記者会見で「ロシアとは交渉しない」とはっきり言いました。「我々は戦わなければならない。ロシア人と交渉する余地はない」、と。
 つまり、実際のところ、西側は3度にわたってロシア側との交渉を妨げたのです。 そして4月には、おっしゃるとおり、おそらくゼレンスキーによる最も発展的な申し出がありました。これは非常に包括的な提案で、ウクライナの中立と、ロシアを含む外部勢力の監督下での軍隊駐留を含んでいました。 つまり、非常に広範な合意であり、ロシア側は実際にこの合意について非常に肯定的でした。しかし、やはり今おっしゃったように、先には進まなかったのです。
いや、それは明らかです。リンゼイ・グラハム[米国上院司法委員会委員長]も記者会見で、「ウクライナ人は最後のウクライナ人まで戦わなければならない」と言ったと思います。
リンゼイ・グラハム上院議員
4ヶ月が経ちましたが、私はこの構造的な道筋が気に入っています。ウクライナに必要な武器と経済支援をする限り、彼らは最後の一人まで戦ってくれるでしょう。
ジャック・ボー
つまり、ウクライナの勝利が問題なのではなく、ロシアの敗北が問題だという力学に陥っていると思います。欧米が目指しているのは、まさにそこなのです。それが私を悩ませ、私が本の中で言っていることです。問題は、実は誰もウクライナのことを気にしていないことです。私たちは、アメリカの戦略的利益のためにウクライナを道具化しただけで、ちなみにヨーロッパの利益ですらありません。つまり、ヨーロッパ人でさえ、そして今日、エネルギーと経済の危機が顕在化していることからもわかるように、ヨーロッパ人はこの紛争にまったく利益がないのです。この紛争は、むしろアメリカの利益に資するものです。そして、それがヨーロッパ人のためになるとはとても思えません。しかし、それが、ホワイトハウスが明らかに考えていることです。
 しかし、それが問題なのです。私たちはウクライナのことを気にしていない。あの紛争の最初の目的は、ロシアを挑発し、制裁によってその経済を破壊できるようにすることでした。問題は、この制裁がうまくいかなかったことと、ウクライナがそれほど長く戦うことを想定していなかったことです。ウクライナは、ロシアがすぐに崩壊するような、非常に短い戦いになると思っていたのです。そして、実際、彼らは...2019年3月のオレクシー・アレストビィッチ氏のインタビューを見ると、それはまさに彼が言っている通りです。実際...
アーロン・メイト
すみません、その人は誰ですか。
ジャック・ボー
オレクシー・アレストビッチ氏はゼレンスキー氏の顧問で、ゼレンスキー氏の非常に親しい友人であり、彼に最も近い顧問の一人です。彼は、2019年3月にゼレンスキー氏が当選する直前に行ったインタビュー(YouTubeでご覧になれます)で、ウクライナはロシアと戦争をし、その目的はロシアの打倒、ロシアの敗北は、NATOへの加盟チケットになるだろうと言っています。そして、このロシアとの戦争は2021年から2022年にかけて起きるとまで言っています。つまり、これは絶対に計画的なものであることが明らかになったわけです。
 しかし、ロシアはあっという間に崩壊し、戦争は起きないだろうと考えられていました。 そして今日、私たちが目撃しているのは、予想に反してロシアは崩壊せず、戦い続けたということです。今日のこの誤算の犠牲者は、実際のところ、ウクライナです。そして今、私たちはこの紛争を推し進め、軍事的以上に政治的にロシアを弱体化させようとしています。紛争の長期化で、どこにもつながらないような長引く紛争を行い、ただ政治的にロシアを弱体化させようとするのです。私たちは、何の成果もなく、制裁に制裁を重ねました。西側諸国は、実際、その中で自らの誤算の犠牲者となっているわけで、これは現実にはウクライナにとって非常に不幸なことです。
アーロン・メイト
最近、ニューヨーク・タイムズ紙に、米国政府高官の引用で、ウクライナにとって最悪の事態がまだ来ていないと恐れていることを認める珍しい記事さえ見られました。しかし、それでも彼らは同じ政策を続けています。読んでみましょう。これはニューヨーク・タイムズ紙が報じたものです。
「プーチンは、西側諸国を困惑させるような戦争の激化を避けているが、最も危険な瞬間はまだ来ていないと、一部のアメリカ政府関係者は懸念を表明している。彼は、重要なインフラを破壊したり、ウクライナ政府の建物を狙ったりと、限られた試みしかしていない」。
 ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、西側諸国の政府関係者は、プーチンがこれまで戦争の拡大を避けてきたことに困惑しており、その例として、ウクライナのインフラ破壊の試みが非常に限られていることを指摘しています。これはアメリカとは対照的なことです。最近の歴史から分かっていることは、アメリカはイラクに侵攻した際、真っ先にインフラを攻撃しました。給水所や橋などです。ロシアはそのようなことはしませんでした。しかし、今お聞きしたいのは、この7ヶ月の間に、ロシアはもう戦いの準備ができていると思いますか? ロシアの侵攻は、ウクライナのインフラに対してより残忍で破壊的なものになるのでしょうか?
ジャック・ボー
いいえ、私はそうは思いません。ロシア側の目的は、非武装化と非ナチ化と明確に限定されていたことを覚えておくべきです。非ナチ化の目的は、マリウポリ占領後の5月に取り上げられましたが、これはロシアの将軍が言ったことです。つまり、ロシア側の主目的は、ドンバスの住民に対する脅威の非武装化です。それが主な目的です。つまり、ドンバスの住民に脅威を与える勢力を破壊することです。バフムト、チョルノモルスク、スロビアンスク、そしてこの地域で、今まさにそれが行われているのです。それが彼らの目的であり、彼らが行っていることです。
 彼らは、ウクライナを占領し、ウクライナの領土を奪い、ウクライナを破壊し、ウクライナの政権交代を誘発することを計画したわけではないのです。彼らは決してそんなことは言っていません。これらは西側諸国では引用符で定義された目的ですが、ロシア側は決してそう言わなかったし、そうする努力もしなかったのです。そして、実際、ロシア人はゼレンスキーにとても満足している、あるいは、ゼレンスキーにとても満足していたのです。ゼレンスキーは、ロシア側と交渉し合意することを念頭に置いて当選した人物であることを忘れてはなりません。だから、ロシア側は基本的にゼレンスキー自身には何の敵意もないのです。問題は、ウクライナに極右勢力がいることです。その極右勢力は、ゼレンスキーがロシアと取引するならば、彼を身体的に脅かすということです。
 そして、西側諸国は、ロシアと交渉しないようにゼレンスキーに圧力をかけたのです。なぜなら、このことの全体の究極の目標は、実は、私たちが2019年のランド社のそれらの出版物に記述されていることであり、私たちはそれを見てきたし、今も見ることができます。ロシアを無謀な拡張に向かわせバランスを崩させること、タイトルは正確に覚えていませんが、ランド・コーポレーション[訳注4]の2つの出版物があります。ところで、それらの出版物にあるものを読むと、まさにいま起こっていることが書かれています。アゼルバイジャンとアルメニアの間の問題、フィンランドとスウェーデンのNATOへの加盟、すべてがそこにあります、すべてがそこにあるのです。つまり、少なくとも2019年以降のアメリカの目的は、言ってみれば、ロシアを孤立させること、国際社会からロシアを孤立させることそのものなのです。だから、それが、彼らがやっていることです。その目的のために、ウクライナを悪用しているだけです。
訳註4:ロシア解体の方法。ランド研究所報告2019「ロシアを無謀な拡張に向かわせ、崩壊させる」はロシアの破壊を目指すディープ・ステート(闇国家)の基本戦略 - 寺島メソッド翻訳NEWS (fc2.com)
アーロン・メイト
この戦争は冬の間も続くのでしょうか。もし、そうならヨーロッパはどんなことに直面することになりますか。すでにエネルギー配給の話があり、人々は高いエネルギー代に不満を抱いています。この戦争について、長期的な見通しはいかがでしょうか。
ジャック・ボー
正直なところ、私は占い用の水晶玉を持っていないので、何が起こるかを正確に言うことは難しいでしょう。しかし、その答えになりそうな要素がいくつかあります。
 まず1つ目は、以前にも触れたとおりです。これらの州の独立は何を意味するのでしょうか。現在占領されている州なのか、それともまだウクライナの支配下にある地域を含む州全体なのか? つまり、州全体ということは、ロシア連合はこれらの州の残りを勝ち取る計画している、あるいは念頭に置いているということであり、そのように進めば、まだ多くの戦闘が待ち受けていることになります。
 もし住民投票が、これらの州の現在の占領地域だけに関するものであれば、ある地点では前線が多少なりとも現状で安定し、議論や交渉の可能性が開けると期待できるかもしれません。重要なことは、これらの州の住民が独立するかロシアに加わるかを決めた場合、キエフの責任者が誰であれ、モスクワの責任者が誰であれ、これらの地域がウクライナに戻ることはいかなる場合にもあり得ないということです。なぜなら、これらの住民はキエフの支配下で苦しんできました。そして今、少なくとも独立する機会があり、もしかしたらロシアの傘下に入るかもしれません。つまり、ウクライナには戻らないということです。また、これらの共和国や州をウクライナに引き入れようとする人もいないでしょう。ですから、これは心に留めるべき非常に重要なことです。
 第2の側面は、言ってみれば集団的な西側の行動です。この行動は、大きく言えば、今後数カ月間にヨーロッパが直面する社会的・経済的状況によって決まります。すでにいくつかの研究機関、戦略的情報機関では、過去3カ月間に欧米で社会不安の数が42%増加したと指摘しており、今後数カ月で社会不安がさらに増加する可能性があることを意味しています。
 メディアが全く沈黙しているため、この不穏な状態についてあまり聞かされていません。 例えばオランダでは、農民が何カ月もデモを行いました。農民と警察との間で非常に強い衝突があり、実弾射撃も行われました。だから、それはとても残忍なものでした。しかし、主要メディアはそのことに触れていません。私はオランダのすぐ隣のベルギーに住んでいます。ベルギーのメディアは、オランダのデモについて、国中を封鎖しているにもかかわらず、一度も触れていません。イタリアでもこのようなデモがありました。もし今、政権が交代したら、もしかしたら、極右政党が登場するかもしれません。それはよい兆候ではありません。しかし、それはひとつの帰結です。また、それは、今年の始め、あるいは夏の間にイタリアで起こった不穏な動きの結果でもあります。イギリスやエストニア、ブルガリアでも同じことが起こっています。ですから、おそらくヨーロッパでは社会的な領域で非常に困難な時期があり、それが紛争におけるヨーロッパ人の行動を考えるあり方に影響を与える可能性があります。欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は最近、記者会見で「譲歩はない」と発言しました。譲歩はない。つまり、彼女はロシアと交渉しない、ロシアに対して非常に強硬な姿勢で政策を進めようと努めているわけです。
 私が考えるに、この問題は、ロシアについて議論するかどうかは別として、ウクライナ人がその代償をさまざまな形で支払うことになるということです。その命で支払うことは明らかです。私たちのメディアでは常に彼らの死者数に触れていますから。フランス、ベルギー、スイス、フランス語圏のメディアでは、ウクライナに関する情報はすべて、主流メディアから流れてくる情報の100パーセントがウクライナのプロパガンダによるものだと言ってよいでしょう。つまり、数字、負傷者数、死亡者数、事件、すべてです。英語圏では、明らかにほとんどの人がロシアに反対していますが、それでももう少しニュアンスが違い...。
アーロン・メイト
そうですね、より多様化しています。ウクライナのプロパガンダだけでなく、アメリカ政府のプロパガンダもありますから...。
ジャック・ボー
知っています。その通りです。もちろん、アメリカではそれに加えて中間選挙があり、大統領の現在の外交政策をどのように描きたいかに少し影響しますから、それも影響しています。
 しかし、ニューヨーク・タイムズ紙では、ウクライナとロシアの間の和平合意、このほとんどの試みが読めます。これは、フランス語圏の主要メディアではまったく触れられていません。だから、ヨーロッパでは、この紛争について、ロシアが負けている、人的損失はロシア人である、という図式が出来上がっているのです。しかし、ウクライナの犠牲者については決して言及しません。したがって、私たちはウクライナの犠牲者を実感していないので、人々がウクライナを道具にすることに何の問題も感じません。私たちは、彼らが勝利から勝利へと向かっており、死傷者も死亡者もいないと感じているのです。しかし、現実はまったく違います。
 この問題に加えて、経済的な問題もあります。戦場で死んだ人々、ヨーロッパに移住した人々、ポーランドやロシアなど世界の他の地域にいる人々、これらの人々がウクライナ経済で不足しているのです。つまり、人材やノウハウ、仕事をする人がいなければ、どうやって生産性の高い経済を実現できるのでしょうか? さらに、ウクライナはエネルギー危機やインフレなどあらゆる影響も受けます。つまり、ウクライナの経済的見通しは非常に厳しいということです。
 そしてそのすべてのことは、ヨーロッパ人たちにより柔軟な考えを持たせるかもしれません。私たちはハンガリーのヴィクトール・オルバン[ハンガリー第4・8代首相]のような、柔軟な考えの声をすでに聞いています。しかし、ご存知のように、ヴィクトール・オルバン[訳注5]は、正確に言うとハンガリー自体はロシアとの関係を改善する必要はないのですが、ロシアとの関係を改善するためにはいくつかの制裁をあきらめ、ロシアとの関係を少し緩和したほうがいいと提案しました。しかし、欧州連合からの回答は、ハンガリーに対する欧州の支援として受け取るはずだった75億ユーロをオルバンは受け取れなくなるだろうというものでした。
訳註5:ハンガリー オルバン首相 再選の背景に迫る | NHK | WEB特集 | NHKスペシャル
 つまり、今のところ、ヨーロッパは議論の扉を開くことに非常に消極的です。しかし、おそらく今後数ヶ月のうちに、私がいるベルギーでも見られるような社会情勢の圧力によって、近い将来、変化が起こるかもしれません。しかし、正直なところ、私にはわからない。問題は...私が感じているのは、ロシアは全体的に極めて合理的な行動をしているということです。これは合理的であり、彼らは一線を画し、その一線に従う、そしてこれは我々がきちんと聞けば、ほとんど予測できることです。西側、特にヨーロッパ側に立てば、これはまったく非合理的なことです。私たちは、ただ独断的なアプローチで問題と向き合っています。例えば、ドイツのアナレーナ・ベーアボック外相が、「私の政策についてドイツ人がどう思おうがかまわない。私の目的はウクライナ人を支援することだ」と言いました。
アナレーナ・ベーアボック
ドイツの有権者がどう思おうと、私はウクライナの人たちに届けたいのです。だからこそ、私にとっては、常に率直で明確であることが重要であり、これは、私が取るあらゆる措置が、ウクライナが私を必要とする限り続くものであることを明確にしなければなりません。私たちは今、民主党の政治家として問われる冬の時代を迎えています。人々は街頭に出て、「エネルギー価格が払えない」と言うでしょう。そして私は、「はい、わかっています。だから、社会対策で助けるんだ」と言うでしょう。でも、「じゃあ、対ロシア制裁を止めます」とは言いたくありません。我々はウクライナに寄り添い、政治家にとって本当に厳しくなっても、冬の時代も制裁は続けるということです。
ジャック・ボー
これが、あなたが言うように、民主党員として、法の支配の感覚を持つ人々がやっていることなのです。ここでは何が起こっているのでしょうか。私の考えでは、民衆によって選ばれているのに、民衆が考えていることなんか気にしていない。自分の目的だけを考えている。つまり、すべてを許容してしまう、ある種の非合理性の中にいるのです。だからこそ、実質的な、確固たる、根拠のある予測をすることは非常に困難なのです。
 というわけで、私が言えるのはそれだけです。いま起きていることより、良くなることを期待します。しかし、正直なところ、私は少し失望していますし、この状況に対して少し悲観的になっています。なぜなら、私たちの回りにはいま述べたような考えを持っている人がいるからです。そういった人はフランスにもいます。彼らはとりわけ面子をつぶしたくないという気持ちが強いのです。つまり彼らはうまくいかなかったことを見ているのに、その決断をしたのです。つまり彼らは「よし。いいだろう。よし、もうやめよう、考えよう、全部を見直そう」と言う過程ではなく、むしろ戦争を焚きつける方向に加速しているのです。それは絶対に間違っている。実際、私たちは間違った決断のスパイラルの中にいるのです。
アーロン・メイト
スイスの元諜報員でNATOのアドバイザーであるジャック・ボーさんは『オペレーションZ』の著者で、現在フランス語で出版されていますが、まもなく英語に翻訳されます。ありがとうございました。
ジャック・ボー
ありがとうございました。番組にお招きいただきありがとうございました。


アーロン・メイト:ジャーナリスト、プロデューサー。The GrayzoneでPushback with Aaron Matéを主催している。2019年、メイトは『The Nation』誌のロシアゲート報道で、独立系メディアにおける優れた業績に与えられるIzzy賞(I.F.ストーンにちなんで命名)を受賞した。それ以前は、『The Real News』と『Democracy Now!』の司会・プロデューサーを務めていた。
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ペルーのクーデターから得た教訓とは?

<記事原文 寺島先生推薦>

What Lessons Can We Learn from the Coup d’Etat in Peru?

筆者:オランタイ・イツァムナー(Ollantay Itzamná)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年12月19日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月2日


 
 無数の暗殺事件と共に、今ペルーで起こっていることは、土着民や農家や先住民やリマっ子たちは、今もそしてこれまでも市民ではないということの証拠である。これらの人々は、クレオール(ペルーの地で帰化した白人支配者層)が支配するペルー から見れば、「国内の敵勢力」でしかないのだ。

 最近ペルーで発生している恐ろしい無秩序状態は、ペルーの支配者層が生み出した政治的混乱に端を発するものだが、このことから私たちは以下のような教訓を得ることができる。それは、「金持ち連中の唱える民主主義に期待できることはなにもない」ということだ。ペルーでは1821年から代議制民主主義がとられているが、政治面でも経済面でもましてや社会・文化的にも、民主主義が成し遂げられたことはいまだかつてない。実際の政治は、民主主義とは真逆の国の方向性が強められてきた。それは、「金持ちの白人たちがやって来て、私たちを支配した。私たちは喜んで彼らに従い、仕えます」という姿だ。

 しかしこれまでのそんな馬鹿げた姿から逸脱し、田舎に住む一人の貧しい農民が、リベラル民主主義の正当な手続きを踏んだ上で、建国二百年のクレオールが支配するこの共和国の大統領となったのだ。そしてそれを決めたのは、市民が投票で示した意思の結果だった。リマ在住のクレオール支配者層はこの農民出身大統領を、報道機関の説得を利用して手懐けようとした。 躊躇いは見せたものの、この大統領は持ちこたえていた。それで、クレオール支配者層は、政治的な罠という策略を仕掛けたのだ。そう、まさにインカ帝国のアタワルパ*(1532)に対して行われたのと同じ手口だ。そうすることで、支配者層は、新自由主義の宴を保持したのだ。その宴には、先住民の農民たちが流す血の匂いがただよっている。
[訳注]*アタワルパ(1500ごろ~33)、インカ帝国最後の皇帝。帝位をめぐる争いで兄ワスカルを破るが,スペイン人征服者のピサロに捕らえられ,絞首刑となった。

 先住民の人々は市民ではないのだ。先住民や農民たちの人間的価値を認めないことが、ペルーでも、建国二百年を迎えた同地域の他の諸国でも、クレオール支配者層のもとでの共和制の骨格となっているのだ。先住民の農民たちは、人ではない。つまり市民(政治における主権者)になどなれるわけなどなく、動物のような下僕とされ、容赦なく文化的にも生物学的にも抹殺される存在なのだ。

 これらの先住民や農民たちは、ご主人様に投票することは許されているが、自分たちと同類の人々を選ぶことは許されていない。そんなことをしたり、自分たちの投票権を守ろうと示威活動を行ったりすれば、 ご主人様たちから懲罰を受け、殺されることになる。しかも、その模様は生中継されるだろう。

 無数の暗殺事件(既に政府の手により30件以上の暗殺が起こっているという話だ)と共に、今ペルーで起こっていることは、土着民や農家や先住民やリマっ子たちは今もそしてこれまでも市民ではないという事実の証拠だ。これらの人々は、クレオールが支配するペルー から見れば、「国内の敵勢力」でしかないのだ。
 建国二百年だとも思わないし、祝う気もない。ペルーの人々は、ほかの国々の人々と同様に、覚めない幻覚の中で暮らしているのだ。人々は、ペルー国歌を(フランス国家のマルセイユの歌と同じリズムで)歌っている。まるでそのリズムが自前であるかのように、だ。 ペルーの人々が、愛国心の象徴として揚げる国旗は、真ん中が白色という人種差別的な旗だ。ペルーの人々が国家の英雄として賞賛しているのは、強姦魔や暴力的な性格の持ち主たちだ。ペルーの人々は、クレオールたちが指定した愛国記念日を祝っているが、愛する我が国が何のために、そして誰のために奉仕する国なのかを自問しようともしていない。

 実際のところ、クレオール支配下で建国二百年を迎えたペルーでは、国民の大多数は、真のペルー国民やリム市民になろうとこれまでどれほど努力してきたかにも関わらず、「教育」や優生思想のもと、スペイン植民地時代の人々よりも悲惨な生活を強いられている。

 大多数の国民にとっては、この200年間は侮辱、殲滅、さらなる殲滅、隷属、自己隷属の歴史だった。

 人民なくして、革命はありえない。リベラル民主主義の落ち度は、政治的勝利は個人の投票で成し遂げられるのに、それを維持するのは組織による支配であることだ。この制度はご主人様たちには都合がいいものだが、大多数の国民にとってはそうではない。人々の活動分野は、今も昔も以下の三つだ。それは、投票箱+組織+住民運動だ。

 ペドロ・カスティーリョ前大統領と彼を取り巻く人々は、この基本構造をまったく理解していなかった。だから、前大統領陣営は、街や共同体や地域共同体を組織しようとしなかった。それでこの12月7日にクーデターが起こったとき、カスティーリョ前大統のそばには、一人の弁護士しかいなかったのだ。

 しかし、真実は常に想像の世界を凌駕するものだ!市民と見なされてこなかった国民たちが、カスティーリョ前大統領が政治的な躊躇いを見せた中でも、ペルー中のあちこちから、蟻のように出現したのだ。その規模は大きく、クレオール支配者層のご主人様たちや、そのメイド(ディナ・ボルアルテ現大統領)が、その火を必死に消そうとしたが、逆に火に油を注ぐ結果になるほどだった。そして今、ペルーは燃えている。

盲点になってしまっている状況を防ごう



 ペルーのこの政治的混乱は、新自由主義に毒された知識階級により、維持され、再生産されているのだが、これはペルー「独特の」法制度の結果、次々と発生しているのだ。現行の1993年憲法は、現在投獄されている独裁者アルベルト・フジモリ元大統領が起草し、署名したものだ。この憲法のもとでの法制度のせいで、このような混乱状態が引き起こされ、常態化している。具体的には、大統領職が空座になったり、 国会議員により行政府の大臣職が奪取されたりするなどの混乱が起こっているのだ。憲法上の規定により引き起こされているこのような異常な状態により、既にペルーは、世界で最も混沌とした国と化している。こんな憲法を持つ国は、南米大陸のどこにもない。

 現時点で、ペルーは、法的にも制度的にも、盲点の国になっている。しかも危険な盲点だ。街の人々が新しい選挙や新しく憲法を改正する手続きを要求している。これに対して、クレオールが支配するこの国は、人々を殺そうとしている。議員たちは、選挙の実施を望んでいない。大統領職を強奪したディナ・ボルアルテ大統領は、ごり押しで権力を手にしたため、退位する気はない。この状況においては、ペルーの政界がどこに向かうかは、全く不透明だ。

 また同じ人を選ばされることになるのだろうか?遅かれ早かれ、ペルー国民はまた、投票所に呼び出され、新しい支配者を選択させられるだろう。その決め方は以前と同じで、これまでと同じご主人様たちのお仲間の政党しか存在しない中でのことになるのだ。そして確実に、その結果もこれまでと同じになるはずだ。

  街中で反対運動に繰り出している人々や勢力の中からは、人々の声を代弁する真の指導者が生まれることは間違いないが、そのような指導者たちには、自前の組織や政治的手段がない。そうなれば、(右派でも左派でも社会民主系でも)新自由主義的な政党に迎合するしかなくなる。

 ご主人様を信じるのはやめよう。クリオールたちのことも 。リマの支配者たちも。リマっ子のことたちも。尊大な大ボラを吹くこともやめよう。リマやリマ当局関連の報道機関は見ないようにしよう。今この1000年の歴史と精神を有するこの国に、またとない好機が訪れている。政治的にまとまろう。自前の政治的手段を手にしよう。 自分たちの目標をしっかり見据えよう。そうすれば、人口の多数派が政界でも多数派となることができるのだ。

 (ペルーの文学者)アルゲダス*の「全ての血」という呼びかけを思い起こそう。しかしもっと大事なことは、全ての血を感じ、本当であると信じることだ。そして何よりも、お互いが平等であることを認識することだ。


[訳注]アルゲダス(1911‐69)、ペルーの作家,文化人類学者。14歳までケチュア族とともに育ち,彼らをさいなむ差別と虐待に接した体験から,ケチュア語とその文学の復興,原住民の人間的諸権利の回復と擁護に努めた。代表的なものに,《水》(1935),《ケチュアの歌》(1938),《深い河》(1958),《すべての血》(1964)などがある。
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