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シャーマイン・ナルワニ

シャーマイン・ナルワニは中東地政学のコメンテーターであり分析家です。彼女は元オックスフォード大学アントニー校の上級研究員です。またコロンビア大学国際関係論の修士号をとっています。シャーマインは、多くの出版物に寄稿しています。アル・アクバル英語版、ニューヨークタイムズ、ガーディアン、アジア・タイムズonline、Salon.com、USA Today、ハフィントン・ポスト、アルジャジーラ英語版、BTICS Postその他。彼女のツイッターは@snarwaniでフォローできます。
RT 2018年3月16日

(@Sharmine Narwani)
シリアにおける化学兵器使用をめぐる論争は、何年にもわたって悪意に満ちていて、激しくなっている。しかし今週、東グータで発見された化学兵器工場は、この議論を根本的に変えるものだ。
去年の12月、ワシントンDCの米軍格納庫でニッキ・ヘイリー国連大使は,イェメンのフーシ派反乱軍とイランの軍事的共謀の証拠として、大きな金属パイプを展示しました。その写真は全欧米メディアの一面を飾りました。そしてアメリカが演出した大きなパイプは、何も証明していないという反対意見をかき消した。
今週シリア・アラブ軍(SAA)はシフォウニエとドゥーマ間の東グータの農地を解放した。そこでサウジ支援のイスラムテロリストが運営する優れた化学兵器工場を発見した。その工場の調査を明らかにした欧米報道は一つだけではなかった。

© Sharmine Narwani
しかしメディアの無関心は不思議である。たとえアメリカ当局が、化学兵器使用を口実にシリアへの軍事攻撃に青信号を出しているとしてもだ。アメリカの非難は証明されておらず、かなり議論のあるところだ。他のグループは、反政府軍がシリアに米軍介入を引き入れるために化学兵器を利用しているとするのと主張している。
だから恐らく、シリアの主要戦闘震源地域のすぐそばで発見された化学兵器工場は、特に不思議なことではないので、一方の側によって無視されたのだろう。結局一方だけがシリアで化学兵器を使っているということになる。だから一方がこの工場が発見されたとき沈黙を守ったということだ。
化学兵器工場は、現在の前戦から数十メートル離れているだけで、ついこの間の月曜日に解放されたばかりだ。工場は農地に囲まれ、この隠れ家は最も見つけにくいものだった。欧米メディアが「飢餓の包囲攻撃」と呼ぶ戦場に散在するのは、小麦、グリーピース、ソラマメ、ヒヨコマメの畑である。建物自体には砲弾の跡があり、残骸が散らばっている。私がシフォウニエを通り過ぎて見た数多くの建物や、戦争が荒れ狂っている東グータの他の町も同様に荒れ果てている。

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SAA(シリア・アラブ軍)によれば、化学兵器工場のいくつかの区域で、これらの塩素容器が壁に沿って並べられている(写真右)。化学物質の棚が工場の二階に点在している(写真左)。(© Sharmine Narwani )
しかし内部の光景は驚くべきものである。二階の部屋は、電気機器がぎっしりと、地下は大型ボイラーが整備され、棚には化学薬品があふれ、隅には青や黒の容器が積み上げられ(塩素が入っていると言われる)、化学図表、本、ビーカー、ガラス瓶、試験管など普通の理科系学生にはおなじみのももある。また別の片隅には、たくさんのパイプ型のロケット弾、つまり明らかにある種の軍事兵器が置かれている。
工場の二階には一つの際だったものがある。それは真新しい外観で、正面に"Hill-rom Medaes Medplus Air Plant"と書かれている。ざっとグーグルを検索すると、すぐいくつかの興味深い事実が出てくる。それはある種の空気またはガスのコンプレッサーである。それはアメリカ製の製品で、2015年この機械がサウジアラビアから提供されたものである。

工場の主要階にあるアメリカ製のヒル・ロム空気・ガスコンプレッサー機械
(© Sharmine Narwani )
壁に貼られた数字のリストと電話延長コードは、この地域と工場がサウジが支援するテロリストグループ、ジャイシュ・アル・イスラムによって管理されていたことが確認できる。ジャイシュ・アル・イスラムの政治指導者モハンマド・アロウシュはかつて国連のジュネーブ会談に反政府派交渉団の代表として招かれた。
サウジは、シリアの戦場へ装備や兵器を流していることを、この紛争中に何度も現場を押さえられてきた。つまり、サウジの末端使用者だけが使うことを意図した売買である。ヒル-ロム・コンプレッサーはほとんどの欧米化学装備と同様、厳格な制裁法によってシリアに売られることが禁止されてきた。たとえ軍事目的でなかったとしても、そのような多くの製品は、アメリカ当局では「両義的使用」技術と考えられている。
兵器工場を視察したシリア係官は、その施設で、明らかに問題となる製品を指摘しただけである。彼らはそこに24時間居ただけで、その意図がまだ十分解明されていなかった。彼らは青と黒の金属容器を調べ、塩素を発見した。つまりシリアの戦場で、少しずつ繰り返し使われ、広く国際的非難を引き起こした物質である。
これは化学兵器工場なのか。それとも爆発物のように戦争で使われた物質を作る化学工場にすぎないのか。
たとえこの工場で禁止されていない化学兵器が作られたとしても、その発見は化学兵器の非難合戦で形勢を逆転させるものだ。欧米が支援し、湾岸諸国が財政支援するイスラム戦闘員が、戦場で化学兵器を作る能力を持っていることは今や反論の余地がない。それは欧米メディアが言うような簡易施設ではない。この工場は戦闘員が外国製の設備を集め、生産ラインを作り出し、入手困難な成分を作っていることを証明している。
戦闘員が、化学兵器を生産する能力や連携や技術設備を欠いているとはもはや言えない。

工場地下のボイラーは上の階にパイプを通して加圧・圧縮装置とつながっている。
テロリストと化学兵器テロリストがイラクやシリアの戦場で、低レベルで簡単な化学兵器を使っているという証拠はたくさんある。
イラク反乱軍による即席爆発装置(IED)でサリン神経ガスが使用されたことは、2004年以来メディアで、さらに詳しくはCIAによって実証されてきた。
また同じ年に、塩素即席爆発装置(IED)がイラクで最初に使われた。しかし2007年になって、攻撃的な化学兵器戦争がアンバール州やイラクのその他の地域でアルカイダによって開始された。そのときの自爆攻撃で塩素爆弾が使われた。
はるか10年前かそこらである。2016年イギリス情報分析IHS紛争調査会社の報告によると、イスラム国(それはイラクのアルカイダから進化したもの)は塩素や硫黄マスタードガスを含む化学兵器を使用したという。シリアやイラク両方で、少なくとも52回使用された。
シリアでは紛争が2012年に始まった。それはアルカイダ系のアルヌスラ戦線がその国の唯一の塩素生産工場を奪取したときだ。それはサウジとのベンチャービジネス工場で、アレッポの東に位置していた。ダマスカスは国連に直ちに警告を発した。「テロリストグループはシリア人に対して化学兵器を使用する可能性がある。・・・有毒な塩素工場を支配したので。」

多くのロケット弾/工場の兵器は、製造された物質が戦争で使われるために作られたことを示している。(© Sharmine Narwani)
3カ月後シリア紛争で最初の化学兵器事件として考えられるのは、26人(その大部分がシリア兵士で、16人)が、アレッポのカーン・アサル村で塩素攻撃とされるものによって殺された事件だ。翌日シリア政府は、国連にその攻撃の調査を要求した。2・3日後ダマスカスの北東のアドラでもう一つの化学兵器とされる事件があった。それはサラケブの攻撃とその後の8月のグータへと続く。それらは、ほとんど米軍攻撃を引き起こした化学兵器事件である。グータでヨルダンの現場リポーターがインタビューした証人は、サウジが戦闘員に化学兵器を与え、いくつかがたまたま爆発させられたと語った。
2013年5月、トルコ当局は、4.5リブラ[=ポンド]のサリンガスを所持していた12人のヌスラ戦線兵士を逮捕した。トルコメディアはテロリストの目標について様々な報道を行った。それらの一つは、そのグループがその物質をヌスラの本拠地シリアに戻す計画をしていたというものだ。
6月にアルカイダ細胞メンバーはイラク当局に逮捕された。彼らはサリンやマスタードガスを研究し、製造するために使われていた二つのバグダッド工場を襲撃した。当局が語るところでは、アルカイダ兵士は、致死性化学兵器の製造に必要な前駆物質や製造方法を持っているという。
等々いろいろあるが、東グータの工場の話に戻ろう。
工場の所有者であるサウジ支援のジャイシュ・アル・イスラムは、2016年アレッポ近くのシェイク・マクスードで、クルド人に対する迫撃砲攻撃で有毒ガスを使用したことを認めた。「衝突の間にジャイシュ・アル・イスラム団の一人が、この種の衝突で禁じられている兵器を使用した」とそのグループは化学兵器攻撃に関する声明で述べた。その中で犯人には責任があると主張した。
その声明は一面では正しい。それはそのグループが化学兵器を所有していることを確認できるからだ。
(さらに読む)
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(© Nawrouz Uthman) シリアのイスラミスト・グループ、ジャイシュ・アル・イスラムはアレッポでクルド人に対して禁止された兵器の使用を認める。
誰が化学兵器で得をするのか?2012年半ば、シリア政府は化学兵器を持っていることを認めた。しかしこれらは「外敵の侵略」に対してのみ使用され、決してシリア人には使用されない、と述べられた。
この声明はジャイシュ・アルイスラムの声明と同じ懐疑論と見られるが、一つの点で違いがある。どう考えても化学兵器は、政治的にも軍事的にも、この7年間の戦争でシリア政府を利するものではないということだ。だからシリア政府は一方的に化学兵器計画を認め、アメリカ・ロシアの監視の下ですすんで放棄することにしたのだ。
シリアの戦場で使われた化学兵器の量は、戦争の範囲や暴力性と比較して,取るに足らないものである。なぜ数ダースの人間を殺すだけのために非常に挑発的な兵器を使用するのか。もっと無害な仕事ができる伝統兵器を使うことができるのに。
そしてなぜ国際社会すべての怒りを買ってまで、またさらなる孤立を招いてまでして、リスクを冒す必要があるのか。あなたが一番望むことが、わずかな日数であなた方の軍事基地を壊滅できる外国の介入を避けることであるときにだ。
手がかりになるのは、シリア紛争を通して「大虐殺」や「化学兵器攻撃」が、兵士達が後退したり、膠着状態に陥ったときにほとんど行われているということだ。または国連安保理会議のような重要な出来事が起こるときだ。
体がけいれんして、呼吸をしようとあえいでいる子どもたちの恐ろしい場面によって、国際社会を刺激して、非難させ、制裁させ、敵に爆撃させる絶好の機会になってしまう。
アル・シホウニエ農場の化学兵器工場で何が発見されようが実は問題ではない。工場の占有者がアルヌスラであろうが、ジャイシュ・アルイスラムであろうが、ISであろうが、それらの二つが現在東グータで軍事行動を行っている。彼らが化学兵器使用の推理小説に最後の手がかりを与えてくれた。彼らは絶えずシリアで化学兵器を使う動機をもっている。そして今や我々は、彼らが化学兵器の手段や能力も持っていることを見ることができるのだ。
(翻訳 新見明)
<記事原文>
https://www.rt.com/op-ed/421515-ghouta-syria-chemical-weapons/<新見コメント>ーーーーーーーーーーーーーーーーー
前回の二つの記事(イギリス、シリア)に続いて、今回も再度シリア情勢を扱ったRTの記事を「寺島メソッド翻訳NEWS」に載せました。
シャーマイン・ナルワニ「テロリストの実行可能性が東グータ化学兵器工場で明らかになる」
欧米メディアのシリア政府犯行説に反論する記事をたくさん読みましたが、その中でも、この記事は反政府軍の化学兵器工場が発見されたことを伝えくれていて、重要であるので翻訳しました。
記事の中で次の点が強調されていました。
(1)東グータの反政府派の拠点で化学兵器工場が発見されたこと。
(2)工場の中のコンプレッサーはアメリカ製で、2015年サウジアラビアから提
供 されたものである。
(3)イスラム戦闘員は、欧米が支援し、湾岸諸国が財政支援していて、戦場
で化学兵器を作る能力がある。
(4)イギリスの情報分析調査会社IHSによると、イスラム国は、塩素や硫黄
マスタードガスを含む化学兵器を、少なくとも52回シリアやイラクで使用
した。
(5)2012年半ば、シリア政府は化学兵器を持っていることを自ら認めた。し
かし、政治的にも軍事的にも役に立たないとして、アメリカ・ロシアの監視の
下に進んで放棄することにした。
(6)「大虐殺」や「化学兵器攻撃」は、兵士達が後退させられたり、膠着状態
に陥ったときにほとんど使われる。
だから、東グータを政府軍がほとんど制圧しようとしているときに、国際社会の非難を浴びる「化学兵器攻撃」を政府軍がする必要があるのか。それはイスラム国が崩壊し、クルドとの連携も微妙になってきた欧米勢力が、再攻撃するためのプロパガンダと考える方が筋が通っている。
4月14日未明の米英仏のミサイル攻撃について、「櫻井ジャーナル2018.4.17」を見てみよう。アメリカ国防省発表によると105発すべてが命中したとしている。
バルザール化学兵器研究開発センター(76機)
ヒム・シンシャー化学兵器貯蔵施設 (22機)
ヒム・シンシャー化学兵器(?) (7機)
しかし、これらの化学兵器施設はアメリカ・ロシアの監視下で撤去され、アメリカに運び去られたではないのか。
一方、ロシア国防省発表では次のようになる。
ダマスカス国際空港 (4機、全て撃墜)
アル・ドゥマイル軍用空港(12機、全て撃墜)
パリー軍用空港 (18機、全て撃墜)
サヤラト軍用空港 (12機、全て撃墜)
メゼー軍用空港 (9機、うち5機を撃墜)
ホムス軍用空港 (16機、うち13機を撃墜)
バザーやザラマニ地域 (30機、うち7機を撃墜)
しかもこれら105機のうち71機をシリア政府軍が打ち落とした可能性が高いという。「今日程度の攻撃なら、シリア軍だけで対抗できることを示した」と櫻井ジャーナルは書いている。
ロシアは攻撃があれば、発射した戦艦などに攻撃を加えると警告していた。そのような自体になれば米ロの全面戦争になる。そうならなかったことに一安心するが、アルカイダ系武装集団ジャイシュ・アル・イスラムの幹部モハマド・アルーシュは「失望した」と表明している。今後も米英仏はこの「失敗」にあきらめることなく次の手を考えてくるだろう。
安倍晋三は、シリア攻撃の後すぐにアメリカ支持表明をした。2013年、イラクで大量破壊兵器があると言って米軍の侵略戦争にいち早く支持表明をしたのは小泉純一郎だった。そして自衛隊を戦闘地域ではないとしてサマワに派遣し、アメリカの侵略戦争に荷担していった。
今回も戦争が激化すれば、日本も参加を求められるだろう。安倍晋三は国内の支持率低下を食い止めるためにも、喜んで自衛隊を参加させるだろう。これが「積極的平和主義」の本質だ。
ジョージ・オーウェルの言葉を思いだそう。
War is peace. 戦争は平和である。
Freedom is slavery. 自由は隷従である。
Ignorance is strength. 無知は力である。
『1984年』より
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