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トランプが北朝鮮との戦争を始めない理由

Mike Whitney
2017年9月8日
Counterpunch

ドナルド・トランプは北朝鮮と戦争を始めないだろう。そういうことはまずないだろう。

というのは、米国にはそんな大規模な作戦を遂行する地上軍はないし、さらに言うならば、北朝鮮と戦争しても戦略的には何の得にもならないからだ。

米国は朝鮮半島にはすでに望んでいる体制を確保している。どういうことかと言うと、韓国は米国の軍事占領下にあるし、その経済・金融システムも米国主導の欧米体制にすっぽりと組み込まれているからだ。

また北東アジアにおいては、半島の戦略的位置は極めて重要な場所になっている。なぜなら、そこには急速に台頭しつつあるライバルである中国とロシアを包囲・支配するために用いる重要な兵器システムを配備できるからだ。

そんな場所で戦争をやって何かいいことはあるのか。

何にもない。ワシントンにとっては、いまのままの状態が最高なのだ。

いや、私にもみなさんの考えが理解できないわけではない。攻撃を指示しているトランプが衝動的なふるまいをする政治的素人ゆえに、気まぐれなことをやらかして北朝鮮と核戦争を始めることだってあるじゃないかと心配していることを。

確かにそんなことも全くないわけではないが、その可能性は限りなく小さい。

というのは、あなた方も気づいておられるかもしれないが、トランプは実際のところは取り巻きの将軍連中に外交政策を手渡してしまっており、その連中は外交政策のシステムを牛耳る有力メンバーと緊密に連携しているからだ。

彼らは巷の「何をしでかすかわからない男」というトランプ評価を利用して大きな効果を生み出している。例えば、「炎と怒り」とか「狙いを定めて装填済み」などと激しい言葉を操ってTHAADミサイルシステムの配備に反対する韓国世論をうまく押しつぶしてしまった。このシステムの特徴は「強力なAN/TPY-2」レーダーを備えていることで、中国国内を偵察することもできるし、その迎撃ミサイルは中国やロシアとの核戦争に際して米軍基地や駐留米軍を守るように設計されている。

THAADの狙っているのが北朝鮮でないことは明白だ。ワシントンにとっては北朝鮮はちっちゃなジャガイモにすぎないのだ。それは「アジア基軸」戦略を実行するために米国が密かに進めている軍備増強の重要な一環なのだ。

一方で、トランプのけんか腰は北朝鮮の態度を硬化させて、弾道ミサイルや核兵器の実験を勢いづけさせている。北朝鮮のそういった対応が韓国との昔からの対立を増幅し、リベラル派である文(ムン)在(ジェ)寅(イン)大統領の宥和政策を損なうことにもなっている。

北朝鮮のふるまいは、同時に、戦術核兵器を配備することをとりわけ強く望んでいる韓国の極右集団を元気づけている。トランプは右翼グループにへつらい南北間の憎しみを煽ることで、南北を統一するという努力に耳を傾けるどころか、米軍の軍事的占領を継続することを正当化するのに一役買っているのだ。

今回の危機が朝鮮半島へのワシントンとの支配を強化し、また一方で米国の黒幕である特権階級(エリート)の利益を拡大したのは明白だ。

私はトランプ自身がこのような計画を自分で考えたとはとても思えない。これは闇の政府(ディープステイト)を操る連中の仕業にちがいない。かれらは彼の気まぐれな性格を自分たちに有利になるように利用することを思いついたのだ。

北朝鮮の核兵器についてもひと言

北朝鮮指導部は核兵器と弾道ミサイルにお金をつぎ込みたいとは思っていない。国民が飢餓の瀬戸際にあるからだ。しかし彼らに他のどんな選択肢があるというのか。あらゆる国家の第一の責任は自国の国民の安全を保障することである。ところが、国家がある国と法律上は戦争状態が終わっていないときにはその責任を果たすことは困難になる。さらにその相手国が過去70年間に50ヶ国もの主権国家を転覆させたり、あるいは転覆させようとした国であるときには、なおさらそれは難しい。

朝鮮戦争は平和条約を締結させて終わったのではなく、休戦協定を結んだだけなのだ。つまり、戦争はまだ継続していて、いつなんどき再び燃え上がるかもしれないのである。 しかもワシントンは北朝鮮との平和協定に署名するつもりはない。というのはワシントンは北朝鮮の政治形態を嫌っていて、彼らを権力の座から追い出すチャンスを虎視眈々と狙っているからだ。この点においてはトランプは彼の前任者と何も変わらない。彼も平壌の指導者を嫌い、またそのことを隠そうとはしていない。

結論はこうだ。米国はいかなる文書での保証も北朝鮮に与えることを拒否している。米国は戦闘を再開しない、国民を殺さない、都市を焼き払わないという保証を与えないのである。そんなふうだから、北朝鮮が自国を防衛する手段を講じるのは当然なのだ。金(キム)正(ジヨン)恩(ウン)もよくわかっている。もし彼が核兵器を攻撃で使用すれば、コリン・パウエルが無頓着に表現したように、米国が「北朝鮮を練炭に変える」ことを。もちろん彼は核兵器を使うつもりはない。というのは彼に領土的野心は全くないし、自国が火の玉に包まれたいという強い願望もないからである。彼の核兵器は将来ワシントンと交渉するときの切り札にすぎないのだ。

残された問題はたったひとつ――トランプには取引する意志がないことだ。なぜなら、数発のお粗末なミサイル発射実験をハルマゲドン風のドラマに仕立て上げた方が米国の地政学的権益に役立つからだ。ワシントンほど危機の活用方法を知ってるものはいない。

ところでトランプは現在の危機にいたる歴史的経緯を少しでも知っているだろうか。1994年に北朝鮮が、米国が彼らの控え目な要求を飲みさえすれば、核開発計画を止めることに同意していたことを。その後、米国がその条件にいったんは同意したものの、それを履行することを怠ったことを。一方で北朝鮮はその規定を遵守していたが、ついには米国の裏切りにうんざりしてプルトニウム濃縮計画を再開したことを。そういった経緯があって北朝鮮はいま核兵器を保有することになっているということを。つまり、米国が約束を破ってその合意を終わらせたということなのである。

これは憶測ではない。歴史的事実なのである。

ここにインディペンド紙の記事の切り抜きがある。それを見ると、いわゆる「核枠組み合意」の具体的な中身がわかる。

北朝鮮は、1994年の枠組み条件下で、米国との政治・経済関係の完全正常化と引きかえに、核開発計画を凍結し最終的に廃止することに同意した。これは下記の4項目を意味していた。

1.原子力の喪失を補うため、米国が率いる共同体が2003年までに北朝鮮に二基の軽水炉を建設する。

2.そのときまで、米国は北朝鮮に年間500,000トンの重油を供給する。

3.米国は経済制裁を解除し、北朝鮮をテロ支援国家リストから外し、おそらくはこれが最も重要なことだろうが、1953年の朝鮮戦争休戦の条件にしたがったままになっている政治的関係の正常化する。

4.最終的には、双方が「核兵器使用の脅威」に対する「正式な保証」をする。

(「1994年のアメリカと北朝鮮との協定はなぜ失敗したのか―そしてトランプがそれから学べること」Independent紙)


これは全くわかりやすい協定内容で、双方の要求が満たされたものだった。北朝鮮は、死活的要求だった国家の安全を保証することに加えて、いくつかの経済的特典を得られる。一方で,米国は、その見返りに、あらゆる核施設を監視でき、それで大量破壊兵器の開発を防げる。全員がそれぞれ望んでいたことを得たはずだった。ただ、ひとつだけ問題があった。米国が最初から怠慢を始めたのだ。軽水炉は基礎段階以上には決して進まず、重油供給はますます不定期になった。それとは対照的に、北朝鮮は協定書をきちんと守るだけでなく、待されていた以上のことまでした。協定が発効して4年後の同記事には次の記載がある。

米国も国際原子力機関も、北朝鮮側には「枠組み合意のあらゆる点において根本的な違反は無い」ことに満足した。しかしワシントンは、自らの誓約についてはきちんと守れなかった。 (インディペンデント紙)

これでおわかりだろう。北朝鮮は約束を守ったが、アメリカは守らなかった。実に単純だ。

上記の事実はしっかり押さえておいてほしい。というのは、マスコミは何が実際に起こって、誰がその責任を負っているのかに関して、間違った報道をすることが普通だからだ。
責任は平壌にあるのではなく、ワシントンにあるのだ。同じ記事を更に引用しよう。

ワシントンは自分の約束を守り切らなかった。軽水炉は決して建設されなかったし、重油出荷は遅延することが多かった。北朝鮮は2008年まで国務省のテロ支援国家リストから削除されなかった。ずっと以前から削除基準を満たしていたのにもかかわらず、である。もっとも重要なことは、米国は朝鮮戦争(法律上は継続している)を正式に終わらせるためのいかなる行動もとらなかったことだ。1953年の停戦協定を平和条約で置き換えれるだけでそれは可能だった。米国が北朝鮮を攻撃しないという「正式な保証」は枠組みが調印されて六年後までなされなかった。(インディペンド紙)

2000年にブッシュが大統領に当選して、事態はさらに悪化した。北朝鮮はブッシュによる「悪の枢軸」演説で名指しされ、「米国が武力を行使するよう備えておくべきならずもの政権」のリストにも載せられた。またペンタゴンは韓国との共同軍事演習を強化し、火に油を注いだだけだった。最終的には、ブッシュは協定をすっかり放棄し、北朝鮮は核兵器開発を再開することとなった。

次に登場したのはオバマだったが、ブッシュよりずっとまともだったわけではない。もちろん世間の評判は違ったが。ネイション誌に掲載されたティム・ショロックの秀逸な記事では、オバマは六カ国協議を妨害しエネルギー支援を中断した。より厳しい「検証計画」を受け入れさせるため北朝鮮に圧力をかけたかったのである。平壌との「直接対話という考え方を放棄し」、「韓国との一連の軍事演習に乗り出したが、これが彼が政権にいる間に規模もテンポも拡大し、今や金正恩との緊張の核心となっている」。

オバマは「紛争調停者」という仮面で自身の残虐行為や侵略を隠すことこそできたものの、北朝鮮との関係は悪化し続け、状況は目に見えてひどくなった。

ショロック記事の以下の抜粋を見てみよう。いったい何が起きたのか、そして、いったい誰が悪いのかについて簡潔な記述がある。

合意された枠組みによって、北朝鮮はプルトニウムによる核兵器開発計画を10年にわたって停止した。これは100発以上の原子爆弾を製造するに足るウラニウム濃縮を行わなかったことになる。「私たちが知らないのは、北朝鮮が1991年から2003年の間まったく核分裂性物質を製造していなかったことだ」。

枠組みはブッシュ政権までは有効だった。1998年に国務省のラスト・デミングは議会でこう証言した。「北朝鮮には枠組み合意のいかなる点においても根本的な違反は無かった」。

平壌は全ての中距離、長距離ミサイルの開発、実験配備を停止する用意があった。

1997年までは北朝鮮ははげしく抗議していた。米国が約束した石油提供をなかなかせず、敵対的政策を止めるという誓約を引き延ばしたからである。

このような経緯があって、平壌は米国には約束を果たす意志はないと確信するようになり、1998年に「他の軍事的選択肢」を模索し始めた。

ブッシュは枠組み合意を破棄した。そして一年前の2002年1月に彼が北朝鮮を「悪の枢軸」のひとつに名指ししたときに引き起こされた関係悪化はさらにひどくなった。そのような状況の中で、北朝鮮は国際原子力機関査察官たちを追い出し原爆製造を始め、2006年に最初の原爆が完成した。そしてそれが今日まで続いている第二次の核危機につながるのである。 (「北朝鮮との外交はかつてはうまく行っていたのだから、いま一度、そうすることも可能だ」、ティム・ショロック、ネイション誌)

 今や水素爆弾を保有している北朝鮮に対して、ワシントンは相変わらず愚かなゲームを演じている。このイカサマ危機は全てワシントンの帝国主義的謀略をおおい隠すために考えられた巨大な煙幕である。トランプは金(キム)のミサイル実験をペンタゴンの軍事的触手をアジアの奥深くまで広げる口実に利用している。米国は世界で最も急速に成長しつつある地域でも支配的な立場につきたいのだ。ワシントンが過去百年間やってきたのと全く同じゲームだ。不幸なことに、連中はこれが大得意なのだ。(2017/12/15))
                           (翻訳:山田昇司)
英語原文
https://www.counterpunch.org/2017/09/08/why-trump-wont-start-a-war-with-north-korea/

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