北朝鮮の核ミサイルを作ったのはウクライナの旧ソ連技術者たちだった
<記事原文 寺島先生推薦>
Nuclear family: How Ukraine helped North Korea develop the world's deadliest weapons
Experts point out the Ukrainian roots of Kim Jong-un's rocket program
(核兵器保有国家:ウクライナは世界で最も恐ろしい武器の開発においてどのように北朝鮮を手助けしたのか。
諸専門家の指摘によると、金正恩によるロケット計画の出所はウクライナだったとのことだ。)
出典:RT
2022年7月1日
著者:マキシム・フバトコフ(Maxim Hvatkov)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年7月23日

© AP / KCNA via KNS
北朝鮮の核ミサイル計画は未だに米国や多くの世界諸国にとっての頭痛の種となっている。
しかしこの核開発は、北朝鮮当局がソ連の軍事技術を手に入れることができなければ不可能だった。その技術とは、具体的に言えば、核搭載可能な機器のことだが、それがソ連崩壊後ウクライナに残存していたのだ。本記事が省察するのは、北朝鮮が米国や米国のアジアの同盟諸国に対する大きな脅威になる際に、ウクライナが果たした役割に関する思いも寄らない話についてである。
米・韓・日は多くの共通目的を共有しているが、その中のひとつに朝鮮半島の完全非核化がある。ジョー・バイデン米大統領は、マドリードでの2022年サミットにおいて、この点を再び明確にしていた。 現在、アジア内の米国同盟諸国はこの件に関して懸念すべき新しい理由を抱えている。 6月14日、北朝鮮のパク・ジン外務大臣が発表したところによると、北朝鮮は新しい核実験の準備を完了しているからだ。
これに先立ち、2022年3月に金正恩最高指導者は自国に自ら課していた2018年の大陸間弾道ミサイル(ICBMs)の実験の一時停止措置を事実上破棄していた。このミサイルは米国本土まで届く能力を有していた。現在、米国政府も韓国政府も、新しい発射実験のニュースがいつになるかを注意深く見守っている。
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North Korea in new nuclear weapons pledge
世界から実質的に取り残されている国がどうやって、こんな高い水準の軍事技術を成し遂げることまでできるのだろうか? 驚かれるかもしれないが、その答えを見つけるにはウクライナに行く必要がある。
共産主義の国からチュチェ思想の国に届くまでの道のり
(訳註:「チュチェ思想」=中ソ対立のはざまで北朝鮮の金日成主席が掲げた独自の指導原理。政治、経済、思想、軍事のすべてにおいて自主・自立を貫くという考え方。「チュチェ」は「主体」の意味する朝鮮語。)
今日、ほぼ完全に明確に言えることは、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)が大陸間弾道ミサイルを設計、製造したときに、ウクライナのドニプロペトロウシク市にあるユージュマシュ社の機械製造工場で作られたRD-250ロケットエンジンを利用したということである。
ウクライナで今でも稼働しているほとんどの企業と同様に、ユージュマシュ社はソ連時代の遺産の一部だ。この工場は1944年、第2次大戦の真っ只中に建設されたが、その後の冷戦時代には、同社の技術者たちは、米国との軍拡競争に臨むべくソ連の最も先進的なミサイルを設計、生産していた。
21世紀になって、米国政府は再びユージュマシュ社の製品の脅威を感じている。ただ、2014年のクーデター以降は、ウクライナは米国の衛星国家になり、この工場は米国業者と契約を結んでいるのだが。(その契約とは、ロケット台や、ロケット台用のエンジン、ロケット打ち上げの際に使用される様々な構成部品などの製造に関するものである。)
2017年8月のニューヨーク・タイムズ紙は、英国のロビー団体である「国際戦略研究所( Institute of International Strategic Studies:IISS)」所属のミサイル専門家マイケル・エルマン(Michael Elleman)氏の発言として、朝鮮民主主義人民共和国がRD-250ミサイルを使って自国製の大陸間弾道ミサイルを設計した可能性が高いと報じた。
「これらのエンジンがウクライナから来たということは十分考えられます。おそらく違法な形で、でしょうが。大きな疑問は、どのくらいのエンジンを北朝鮮は所持しているかということと、ウクライナは今でも北朝鮮を支援しているかという2点です。私はとても心配しています」とエルマン氏は語っている。しかしIISS所属の専門家であるエルマン氏の考えでは、ウクライナ当局はこの密輸工作には関与していないとのことだ。
ユージュマシュ社の制作部門も、ドニプロペトロウシク市にある同種企業であるユージュノエ設計局も、北朝鮮政府や北朝鮮によるミサイル計画に関して関与したことは強く否定している。 ウクライナ国家安全保障・国防会議議長のオレクサンドル・トゥルチノフ(Aleksandr Turchynov)氏は、このような告発はロシアの諜報機関が行っている「反ウクライナ運動」の一部ではないかとさえ示唆している。同議長の主張によると、ロシア政府自身が北朝鮮を支援していることを隠すための喧伝ではないかとしている。
しかし安保理決議1718号(北朝鮮に対する制裁を定めた決議)による2018年の報告においては、ウクライナ当局は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイルに使用されているエンジンが、ユージュマシュ社製のRD-250ミサイルの構成物を使って製造されたことは十分にありえると認めている。またウクライナ当局は、それらのミサイルの運搬経路はロシア領内を通過したにちがいないという見解も出していた。もちろんウクライナ当局ならそう主張するだろう。
.
ロシア国立研究大学経済高等学校(HSE)欧州および国際総合研究センターのヴァシリー・カシン(Vasily Kashin)所長がRTの取材に答えたところによると、北朝鮮がユージュマシュ社から液体燃料エンジンを受け取ったという問題に関して、公式に記録されているのはこの1件だけである。
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US issues nuclear warning to North Korea
「ウクライナ当局が北朝鮮にエンジンを送っていたわけではありません。これらはすべてウクライナにいた北朝鮮の科学技術関連工作員たちの手によるものでした。明らかなことですが、2014年以前から、北朝鮮は不法に液体燃料ロケットエンジンを入手していたのです」と専門家であるカシン氏は結論付けている。
いらっしゃれば軍事技術をさしあげましょう
北朝鮮政府とウクライナ政府との間の関係が友好的で心のこもったものであったことはこれまでなかったのだから、ウクライナが北朝鮮に強力な核兵器を与える意志があったとは考えにくいだろう。しかし21世紀への変わり目において、核ミサイル分野でウクライナと他諸国との間に政治的な腐敗にまみれた協力関係があったことを示す証拠文書は存在している。そうであればこのようなことがおこることも十分に想定内だと言える。
1994年、ウクライナ政府はついに残存していた最後の核兵器を廃棄した。それはウクライナがソ連崩壊後に保管していた約1000発のミサイルだった。廃棄計画ではうち半分のミサイルはロシアに送り、残りは破壊するとしていた。これは米国が資金提供していた軍縮計画の一部だった。
しかし2005年に、ウクライナのヴィクトル・ユシチェンコ元大統領は、前政権が核弾頭を運ぶことが可能なX-55巡航ミサイルを「数名の代表者を介して」イランと中国にすでに売却していたことを認めている。このミサイルは2500キロの範囲に対応していたので、このような行為はある意味、イスラエルや日本が核攻撃を受ける脅威を増加させることになった。
ただし北朝鮮には求めていたものを手にする別の方法があった。
1990年以降、北朝鮮の外交官はソ連の核ミサイル技術を入手しようとして、何度も現行犯で捕まっている。専門家のカシン氏の考えによれば、北朝鮮はかなり以前からウクライナに科学技術に関わる工作員を送り込んでいたとのことだ。
「情報開示されたKGBの資料によると、北朝鮮がウクライナに科学技術関連の工作員を送り込もうとしていた努力はソ連時代までさかのぼります。工作員が犯罪にあたる行為にかかわっていたこともあったようです。その工作員は、キエフ市内の軍事工場で働いていました。その工作員が対戦車ミサイルの一部を盗んで逮捕されたのです。ドネプロペトロフスクにおいて1990年代や2000年代初旬に、北朝鮮にはソ連の軍事技術を入手する機会が豊富にあったのです。ドネプロペトロフスクで工作員はあちらこちらをひそかに探り回っていました。そしてウクライナ政府はこのことには全く関与していませんでした。ウクライナ政府が自国の技術を故意に売却していたという確証はありません。当たり前のことですが。北朝鮮の工作員たちはただウクライナの対諜報活動が機能していないことを利用しただけでした」とカシン氏は語っている。
ロシアの軍事専門家であり、元大佐であるミハイル・ホダリオノク(Mikhail Khodarenok)氏がRTの取材に答えたところによると、ソ連崩壊後のロシアとウクライナにおいて発生した混乱や無政府状態のせいで、1990年代は多くの地域において人々の生活に悪影響を与えたということだ。
「当時、ウクライナは非常に重要な軍事技術を国外に漏らすことが多かったのです。中国でもイランでも、戦略的巡航ミサイル兵器にウクライナの影響が見受けられます。それは驚くようなことではありません。というのもだれもが当時の混乱の時代を生き抜くために最善を尽くそうとしており、ウクライナ当局の預かり知らぬところで、多くのことが行われていたのです」
「ただし私は北朝鮮がウクライナから多くのことを盗むことができたとは思っていません。これは私の考えですが、多くの場合、両者の同意のもとの取引のなかで行われたのでしょう。そしてウクライナ政府は関わらない形で行われたのでしょう」とホダリオノク氏は話を締めくくった。

© KCNA / Korea News Service via AP
そしてソ連崩壊後20年の間も、北朝鮮による諜報活動は継続していた。
2012年12月12日、北朝鮮人民共和国は光明星3号1号機(KMS-3)という人工衛星を地球軌道上に配置し、世界で10か国目の宇宙開発国の仲間入りをした。北朝鮮国籍を持つ工作員によるスパイ事件の捜査がウクライナで行われて注目されたのは、その同年のことだった。
その結果、北朝鮮国籍を持つ2名の人物(ベラルーシの貿易使節団の団員だった)が懲役8年の刑を受けた。両名が逮捕されたのは、技術に関する文書と科学論文を購入しようとしていたからだった。その中にはウクライナのユージュノエ設計局の職員からの重要な研究開発の研究結果も含まれていた。そして両名は液体燃料エンジン体系に関する研究資料1件につき、控えめな額であるが、1千ドルの代金を支払うことを申し出ていた。匿名の情報源がのちにウクライナのストラナ.uaというニュースサイトに伝えた内容によると、北朝鮮は伝説的なミサイルであるR-36(別名サタン)大陸間弾道ミサイルのエンジンの設計に特に興味を示していたとのことだ。これはこの種のミサイルにおいては最も強力なミサイルである。
背に腹はかえられず他諸国で爆弾作り
北朝鮮の軍事技術入手工作員たちが取り組んでいたと思われるもう一つの課題は、「頭脳移動」現象だ。ソ連解体を決定した1991年のベロヴェーシ合意の後にソ連の技術者たちが何十人も国外に流出していたのだ。
ソ連崩壊後のウクライナの産業の空洞化のせいで、安定した収入が得られず雇用状況も厳しくなる中で、ウクライナの宇宙関連製造業者であるユージュマシュ社で働いていた何十人もの専門的技術者たちが流出した。それで同社で働いていた人々は生計を立てる別の術を見つけなければならなくなった。
その選択肢は限られていた。ソ連後の野蛮な労働者市場に揉まれながら努力する(新しい事業を始めたり、セールスマンになったりする)か、危険な誘いに乗り(愛国や法律という観点から道に外れてしまうことも辞さず)、他諸国の核ミサイル計画に一肌脱ぐか、という選択肢だ。
これらの専門的技術者たちの多くは、ソ連崩壊後、個人的にも職業的にも厳しい状況に置かれていた。彼らのうちの数人は北朝鮮やイラクやパキスタンに行ったのではという話まで考えられている。
元米国ウクライナ大使であるカルロス・パスカル(Carlos Pascual)氏が後に認めたのは、このような最先端の専門的技術者たちが仕事を失うという現象が軽く見られていたという事実だった。これはただの個人の混乱という問題では済まなかった。大量破壊兵器を拡散させないための重要な要素だったのだ。
それなのに米国やEUは1990年代中期に、このような現象を進める方向に動いていた。米国や反乱者はウクライナの科学・技術センターに資金を提供していた。この政府間組織が意図していたのは、大量破壊兵器の分野における専門的知識や経験を確実に外に漏らさないことだった。
カーティス・ビエラジャク(Curtis Bjelajac)センター長が認めたところによると、 このセンターはある特定の専門家たちに金を提供する部門があったとのことだった。その結果、ミサイルや核技術を専門とする元ソ連の科学技術専門家たちに何百万ドルもの金が渡されたようだ。 このセンターの共通理解は、そうすることで危険な技術を操る専門家たちの流出を防ぐ一助とすることだった。しかし本当に流出は全く無かったのだろうか?
ミハイル・ホダレノク氏によると、技術専門家界隈での認識では、北朝鮮のミサイル開発に手を貸したのはユージュマシュ社で以前働いていた専門技術者たちだとのことだという。
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North Korea explains its intercontinental ballistic missile test
「かといってユージュマシュ社で働いていた人たちを断罪することはできないでしょう。当日は皆が生き抜くために必死でしたから。これらの国は高い報酬を与えたのですから。彼らの多くは仕事のために諸国に行ったと思います。重要技術の専門知識がなかったら北朝鮮の軍事技術はこんな発展を遂げることはできなかったでしょう。かつてソ連も同じような形で技術を借りなければなりませんでした。第二次世界大戦後、ソ連はドイツのヴェルナー・フォン・ブラウン(Wernher von Braun)の研究を利用したのです。(RTによる注釈:フォン・ブラウンはドイツの宇宙工学技術者であり、ナチの党員。後に米国で活動)」とボダレノフ氏は語っている。
創造的な核兵器
西欧や米国と比べて、今年のウクライナ危機における韓国のウクライナに対する支援は抑えた形になっており、ほとんど人道的支援や、非軍事的支援にとどまっている。なぜ韓国政府はもっと支援やしないのだろうか?もしかして韓国は、ウクライナに送った軍事支援が、いつの日か38度線の北側の国に魔法のように現れる可能性を懸念しているのでは?
ボダレノフ氏は、その可能性はありえないが、面白い考え方だと捉えている。ボダレノフ氏によると、韓国が全力でウクライナ支援にあたらない本当の理由は、「ロシアの全ての家庭は韓国製品を数点は所持しています。ですから、韓国はロシア市場を失いたくないのです」とのことだ。ただし韓国政府は米国政府からの圧力によりその立場を変える可能性があるとボダレノフ氏は警告している。
カシン氏は韓国によるウクライナ支援が控えめなことと、北朝鮮の核問題の間には関係があるとしながらも、違う観点も示している。
「韓国はウクライナを支援すれば、ロシアが北朝鮮に対する制裁合意に従うことをやめるのではと考えています。韓国政府の理解は、ロシアとの繋がりを全て無くしてしまうべきではないということです。というのも北朝鮮はロシアによるウクライナへの軍事作戦を支持している(世界では稀有な)国だからです。さらにロシアは先進(原文ママ)諸国との関係を結ぼうと南方に目を向けていたため、ロシア政府は北朝鮮との友好関係を創造的なものにすると決める可能性もあります。そんなことは誰も望んでいないことです。特に韓国にとってはそうです。参考までに言いますと、イスラエルも同じような動きを見せています。イスラエルはウクライナに殺傷装置を供給することを拒んでいます。それはそうすればロシアがイランに同じように歓迎されざる武器を送るという対応をとる可能性があるからです」と カシン氏は語っている。
By Maxim Hvatkov, a Russian journalist focusing on international security, China's politics and soft-power tools.
Nuclear family: How Ukraine helped North Korea develop the world's deadliest weapons
Experts point out the Ukrainian roots of Kim Jong-un's rocket program
(核兵器保有国家:ウクライナは世界で最も恐ろしい武器の開発においてどのように北朝鮮を手助けしたのか。
諸専門家の指摘によると、金正恩によるロケット計画の出所はウクライナだったとのことだ。)
出典:RT
2022年7月1日
著者:マキシム・フバトコフ(Maxim Hvatkov)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年7月23日

© AP / KCNA via KNS
北朝鮮の核ミサイル計画は未だに米国や多くの世界諸国にとっての頭痛の種となっている。
しかしこの核開発は、北朝鮮当局がソ連の軍事技術を手に入れることができなければ不可能だった。その技術とは、具体的に言えば、核搭載可能な機器のことだが、それがソ連崩壊後ウクライナに残存していたのだ。本記事が省察するのは、北朝鮮が米国や米国のアジアの同盟諸国に対する大きな脅威になる際に、ウクライナが果たした役割に関する思いも寄らない話についてである。
米・韓・日は多くの共通目的を共有しているが、その中のひとつに朝鮮半島の完全非核化がある。ジョー・バイデン米大統領は、マドリードでの2022年サミットにおいて、この点を再び明確にしていた。 現在、アジア内の米国同盟諸国はこの件に関して懸念すべき新しい理由を抱えている。 6月14日、北朝鮮のパク・ジン外務大臣が発表したところによると、北朝鮮は新しい核実験の準備を完了しているからだ。
これに先立ち、2022年3月に金正恩最高指導者は自国に自ら課していた2018年の大陸間弾道ミサイル(ICBMs)の実験の一時停止措置を事実上破棄していた。このミサイルは米国本土まで届く能力を有していた。現在、米国政府も韓国政府も、新しい発射実験のニュースがいつになるかを注意深く見守っている。
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North Korea in new nuclear weapons pledge
世界から実質的に取り残されている国がどうやって、こんな高い水準の軍事技術を成し遂げることまでできるのだろうか? 驚かれるかもしれないが、その答えを見つけるにはウクライナに行く必要がある。
共産主義の国からチュチェ思想の国に届くまでの道のり
(訳註:「チュチェ思想」=中ソ対立のはざまで北朝鮮の金日成主席が掲げた独自の指導原理。政治、経済、思想、軍事のすべてにおいて自主・自立を貫くという考え方。「チュチェ」は「主体」の意味する朝鮮語。)
今日、ほぼ完全に明確に言えることは、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)が大陸間弾道ミサイルを設計、製造したときに、ウクライナのドニプロペトロウシク市にあるユージュマシュ社の機械製造工場で作られたRD-250ロケットエンジンを利用したということである。
ウクライナで今でも稼働しているほとんどの企業と同様に、ユージュマシュ社はソ連時代の遺産の一部だ。この工場は1944年、第2次大戦の真っ只中に建設されたが、その後の冷戦時代には、同社の技術者たちは、米国との軍拡競争に臨むべくソ連の最も先進的なミサイルを設計、生産していた。
21世紀になって、米国政府は再びユージュマシュ社の製品の脅威を感じている。ただ、2014年のクーデター以降は、ウクライナは米国の衛星国家になり、この工場は米国業者と契約を結んでいるのだが。(その契約とは、ロケット台や、ロケット台用のエンジン、ロケット打ち上げの際に使用される様々な構成部品などの製造に関するものである。)
2017年8月のニューヨーク・タイムズ紙は、英国のロビー団体である「国際戦略研究所( Institute of International Strategic Studies:IISS)」所属のミサイル専門家マイケル・エルマン(Michael Elleman)氏の発言として、朝鮮民主主義人民共和国がRD-250ミサイルを使って自国製の大陸間弾道ミサイルを設計した可能性が高いと報じた。
「これらのエンジンがウクライナから来たということは十分考えられます。おそらく違法な形で、でしょうが。大きな疑問は、どのくらいのエンジンを北朝鮮は所持しているかということと、ウクライナは今でも北朝鮮を支援しているかという2点です。私はとても心配しています」とエルマン氏は語っている。しかしIISS所属の専門家であるエルマン氏の考えでは、ウクライナ当局はこの密輸工作には関与していないとのことだ。
ユージュマシュ社の制作部門も、ドニプロペトロウシク市にある同種企業であるユージュノエ設計局も、北朝鮮政府や北朝鮮によるミサイル計画に関して関与したことは強く否定している。 ウクライナ国家安全保障・国防会議議長のオレクサンドル・トゥルチノフ(Aleksandr Turchynov)氏は、このような告発はロシアの諜報機関が行っている「反ウクライナ運動」の一部ではないかとさえ示唆している。同議長の主張によると、ロシア政府自身が北朝鮮を支援していることを隠すための喧伝ではないかとしている。
しかし安保理決議1718号(北朝鮮に対する制裁を定めた決議)による2018年の報告においては、ウクライナ当局は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイルに使用されているエンジンが、ユージュマシュ社製のRD-250ミサイルの構成物を使って製造されたことは十分にありえると認めている。またウクライナ当局は、それらのミサイルの運搬経路はロシア領内を通過したにちがいないという見解も出していた。もちろんウクライナ当局ならそう主張するだろう。
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ロシア国立研究大学経済高等学校(HSE)欧州および国際総合研究センターのヴァシリー・カシン(Vasily Kashin)所長がRTの取材に答えたところによると、北朝鮮がユージュマシュ社から液体燃料エンジンを受け取ったという問題に関して、公式に記録されているのはこの1件だけである。
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US issues nuclear warning to North Korea
「ウクライナ当局が北朝鮮にエンジンを送っていたわけではありません。これらはすべてウクライナにいた北朝鮮の科学技術関連工作員たちの手によるものでした。明らかなことですが、2014年以前から、北朝鮮は不法に液体燃料ロケットエンジンを入手していたのです」と専門家であるカシン氏は結論付けている。
いらっしゃれば軍事技術をさしあげましょう
北朝鮮政府とウクライナ政府との間の関係が友好的で心のこもったものであったことはこれまでなかったのだから、ウクライナが北朝鮮に強力な核兵器を与える意志があったとは考えにくいだろう。しかし21世紀への変わり目において、核ミサイル分野でウクライナと他諸国との間に政治的な腐敗にまみれた協力関係があったことを示す証拠文書は存在している。そうであればこのようなことがおこることも十分に想定内だと言える。
1994年、ウクライナ政府はついに残存していた最後の核兵器を廃棄した。それはウクライナがソ連崩壊後に保管していた約1000発のミサイルだった。廃棄計画ではうち半分のミサイルはロシアに送り、残りは破壊するとしていた。これは米国が資金提供していた軍縮計画の一部だった。
しかし2005年に、ウクライナのヴィクトル・ユシチェンコ元大統領は、前政権が核弾頭を運ぶことが可能なX-55巡航ミサイルを「数名の代表者を介して」イランと中国にすでに売却していたことを認めている。このミサイルは2500キロの範囲に対応していたので、このような行為はある意味、イスラエルや日本が核攻撃を受ける脅威を増加させることになった。
ただし北朝鮮には求めていたものを手にする別の方法があった。
1990年以降、北朝鮮の外交官はソ連の核ミサイル技術を入手しようとして、何度も現行犯で捕まっている。専門家のカシン氏の考えによれば、北朝鮮はかなり以前からウクライナに科学技術に関わる工作員を送り込んでいたとのことだ。
「情報開示されたKGBの資料によると、北朝鮮がウクライナに科学技術関連の工作員を送り込もうとしていた努力はソ連時代までさかのぼります。工作員が犯罪にあたる行為にかかわっていたこともあったようです。その工作員は、キエフ市内の軍事工場で働いていました。その工作員が対戦車ミサイルの一部を盗んで逮捕されたのです。ドネプロペトロフスクにおいて1990年代や2000年代初旬に、北朝鮮にはソ連の軍事技術を入手する機会が豊富にあったのです。ドネプロペトロフスクで工作員はあちらこちらをひそかに探り回っていました。そしてウクライナ政府はこのことには全く関与していませんでした。ウクライナ政府が自国の技術を故意に売却していたという確証はありません。当たり前のことですが。北朝鮮の工作員たちはただウクライナの対諜報活動が機能していないことを利用しただけでした」とカシン氏は語っている。
ロシアの軍事専門家であり、元大佐であるミハイル・ホダリオノク(Mikhail Khodarenok)氏がRTの取材に答えたところによると、ソ連崩壊後のロシアとウクライナにおいて発生した混乱や無政府状態のせいで、1990年代は多くの地域において人々の生活に悪影響を与えたということだ。
「当時、ウクライナは非常に重要な軍事技術を国外に漏らすことが多かったのです。中国でもイランでも、戦略的巡航ミサイル兵器にウクライナの影響が見受けられます。それは驚くようなことではありません。というのもだれもが当時の混乱の時代を生き抜くために最善を尽くそうとしており、ウクライナ当局の預かり知らぬところで、多くのことが行われていたのです」
「ただし私は北朝鮮がウクライナから多くのことを盗むことができたとは思っていません。これは私の考えですが、多くの場合、両者の同意のもとの取引のなかで行われたのでしょう。そしてウクライナ政府は関わらない形で行われたのでしょう」とホダリオノク氏は話を締めくくった。

© KCNA / Korea News Service via AP
そしてソ連崩壊後20年の間も、北朝鮮による諜報活動は継続していた。
2012年12月12日、北朝鮮人民共和国は光明星3号1号機(KMS-3)という人工衛星を地球軌道上に配置し、世界で10か国目の宇宙開発国の仲間入りをした。北朝鮮国籍を持つ工作員によるスパイ事件の捜査がウクライナで行われて注目されたのは、その同年のことだった。
その結果、北朝鮮国籍を持つ2名の人物(ベラルーシの貿易使節団の団員だった)が懲役8年の刑を受けた。両名が逮捕されたのは、技術に関する文書と科学論文を購入しようとしていたからだった。その中にはウクライナのユージュノエ設計局の職員からの重要な研究開発の研究結果も含まれていた。そして両名は液体燃料エンジン体系に関する研究資料1件につき、控えめな額であるが、1千ドルの代金を支払うことを申し出ていた。匿名の情報源がのちにウクライナのストラナ.uaというニュースサイトに伝えた内容によると、北朝鮮は伝説的なミサイルであるR-36(別名サタン)大陸間弾道ミサイルのエンジンの設計に特に興味を示していたとのことだ。これはこの種のミサイルにおいては最も強力なミサイルである。
背に腹はかえられず他諸国で爆弾作り
北朝鮮の軍事技術入手工作員たちが取り組んでいたと思われるもう一つの課題は、「頭脳移動」現象だ。ソ連解体を決定した1991年のベロヴェーシ合意の後にソ連の技術者たちが何十人も国外に流出していたのだ。
ソ連崩壊後のウクライナの産業の空洞化のせいで、安定した収入が得られず雇用状況も厳しくなる中で、ウクライナの宇宙関連製造業者であるユージュマシュ社で働いていた何十人もの専門的技術者たちが流出した。それで同社で働いていた人々は生計を立てる別の術を見つけなければならなくなった。
その選択肢は限られていた。ソ連後の野蛮な労働者市場に揉まれながら努力する(新しい事業を始めたり、セールスマンになったりする)か、危険な誘いに乗り(愛国や法律という観点から道に外れてしまうことも辞さず)、他諸国の核ミサイル計画に一肌脱ぐか、という選択肢だ。
これらの専門的技術者たちの多くは、ソ連崩壊後、個人的にも職業的にも厳しい状況に置かれていた。彼らのうちの数人は北朝鮮やイラクやパキスタンに行ったのではという話まで考えられている。
元米国ウクライナ大使であるカルロス・パスカル(Carlos Pascual)氏が後に認めたのは、このような最先端の専門的技術者たちが仕事を失うという現象が軽く見られていたという事実だった。これはただの個人の混乱という問題では済まなかった。大量破壊兵器を拡散させないための重要な要素だったのだ。
それなのに米国やEUは1990年代中期に、このような現象を進める方向に動いていた。米国や反乱者はウクライナの科学・技術センターに資金を提供していた。この政府間組織が意図していたのは、大量破壊兵器の分野における専門的知識や経験を確実に外に漏らさないことだった。
カーティス・ビエラジャク(Curtis Bjelajac)センター長が認めたところによると、 このセンターはある特定の専門家たちに金を提供する部門があったとのことだった。その結果、ミサイルや核技術を専門とする元ソ連の科学技術専門家たちに何百万ドルもの金が渡されたようだ。 このセンターの共通理解は、そうすることで危険な技術を操る専門家たちの流出を防ぐ一助とすることだった。しかし本当に流出は全く無かったのだろうか?
ミハイル・ホダレノク氏によると、技術専門家界隈での認識では、北朝鮮のミサイル開発に手を貸したのはユージュマシュ社で以前働いていた専門技術者たちだとのことだという。
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「かといってユージュマシュ社で働いていた人たちを断罪することはできないでしょう。当日は皆が生き抜くために必死でしたから。これらの国は高い報酬を与えたのですから。彼らの多くは仕事のために諸国に行ったと思います。重要技術の専門知識がなかったら北朝鮮の軍事技術はこんな発展を遂げることはできなかったでしょう。かつてソ連も同じような形で技術を借りなければなりませんでした。第二次世界大戦後、ソ連はドイツのヴェルナー・フォン・ブラウン(Wernher von Braun)の研究を利用したのです。(RTによる注釈:フォン・ブラウンはドイツの宇宙工学技術者であり、ナチの党員。後に米国で活動)」とボダレノフ氏は語っている。
創造的な核兵器
西欧や米国と比べて、今年のウクライナ危機における韓国のウクライナに対する支援は抑えた形になっており、ほとんど人道的支援や、非軍事的支援にとどまっている。なぜ韓国政府はもっと支援やしないのだろうか?もしかして韓国は、ウクライナに送った軍事支援が、いつの日か38度線の北側の国に魔法のように現れる可能性を懸念しているのでは?
ボダレノフ氏は、その可能性はありえないが、面白い考え方だと捉えている。ボダレノフ氏によると、韓国が全力でウクライナ支援にあたらない本当の理由は、「ロシアの全ての家庭は韓国製品を数点は所持しています。ですから、韓国はロシア市場を失いたくないのです」とのことだ。ただし韓国政府は米国政府からの圧力によりその立場を変える可能性があるとボダレノフ氏は警告している。
カシン氏は韓国によるウクライナ支援が控えめなことと、北朝鮮の核問題の間には関係があるとしながらも、違う観点も示している。
「韓国はウクライナを支援すれば、ロシアが北朝鮮に対する制裁合意に従うことをやめるのではと考えています。韓国政府の理解は、ロシアとの繋がりを全て無くしてしまうべきではないということです。というのも北朝鮮はロシアによるウクライナへの軍事作戦を支持している(世界では稀有な)国だからです。さらにロシアは先進(原文ママ)諸国との関係を結ぼうと南方に目を向けていたため、ロシア政府は北朝鮮との友好関係を創造的なものにすると決める可能性もあります。そんなことは誰も望んでいないことです。特に韓国にとってはそうです。参考までに言いますと、イスラエルも同じような動きを見せています。イスラエルはウクライナに殺傷装置を供給することを拒んでいます。それはそうすればロシアがイランに同じように歓迎されざる武器を送るという対応をとる可能性があるからです」と カシン氏は語っている。
By Maxim Hvatkov, a Russian journalist focusing on international security, China's politics and soft-power tools.
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