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ロシアメディアが明らかにしたワグナー部隊と国との契約金

<記事原文 寺島先生推薦>
Value of Wagner state contracts revealed by Russian media
The private military company was paid almost a trillion rubles ($11.4 billion) in government tenders, TV presenter Dmitry Kiselyov has claimed
私設軍事会社が政府の入札において約1兆ルーブル(1兆5400億円)を受け取った、とテレビ司会者デミトリ・キセリョフは、と主張した。
出典:RT 2023年7月2日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年7月20日



資料写真:ロシアの私設軍事会社ワグナー・グループの兵士たち。©スプートニク/ヴィクトル・アントニュ


 エフゲニー・プリゴジンが所有するワグナー・グループを含む持ち株会社が、ロシア政府から得た仕事によって相当な利益を得ており、数千億ルーブルにも及ぶ契約を確保しているとロシアのメディアグループ「ロシヤ・セゴドニャ」のトップであるデミトリ・キセリョフは、日曜日(7月2日)、述べた。

 キセリョフは、彼の週刊ニュース番組で、プリゴジンのワグナー私設軍事会社は、「国家との契約に基づいて、約8580億ルーブル(1兆3213億円)以上を受け取った」と述べた。

 彼はさらに、他の契約に基づいて、プリゴジンの持株会社であるコンコルドは、配膳業およびメディア事業にも関与しており、約8450億ルーブル(1兆3013億円)相当の事業を提供していたと述べた。

 「これは彼らがそんなに多くを稼いだというわけではないが、この事業の規模や野心の大きさを示す指標となっている」とキセリョフは述べた。

 彼はまた、プリゴジンの会社は、報道機関に対して強力な影響力を有していた点を指摘し、ワグナー・グループはロシア最強の前線部隊であるという印象を持っている人もいたかもしれない、と付言した。

 「誰かの功績を貶める」つもりはないと強調しながら、キセリョフは、ウクライナのアルチョーモフスク(ウクライナではバフムートとしても知られている)というドンバスの要塞をワグナー部隊が占拠するよりも、通常のロシア部隊は強固に守られた都市マリウポリをより速く制圧したと振り返った。



 関連記事:ロシアはワグナー関連の報道機関を閉鎖

 彼の発言は、ロシアのプーチン大統領が火曜日(6月27日)に述べた、ワグナー・グループが完全に国家の支援に依存しているという指摘した後になされた。彼は、昨年の間にロシア当局がワグナー戦闘員に賃金や報奨金として860億ルーブル(1324億円)を供与したと主張した。

 同時に、プーチン大統領によれば、プリゴジンのコンコルド会社は、1年間で軍に食品を供給するために国から800億ルーブル(1232億円)を受け取った、とのこと。

 先月、プリゴジンは、ロシア国防省がワグナー部隊のキャンプへミサイル攻撃を仕掛け、死者を出したと非難した。そして報復を誓った。国防省はこの主張を否定した。彼の部隊は、一部の部隊がモスクワに向かって進む中、南部のロストフ・ナ・ドヌ市でいくつかの軍事施設を占拠した。

 しかし、プリゴジンはベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介による取引の一環として、進軍を停止した。合意の条件によれば、ロシア政府は私設軍事会社(PMC)のリーダー(プリゴジン)に訴追を取り下げ、彼がベラルーシに移住することを許可することに同意した。
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ロシアで頓挫したワグナー部隊蜂起のカギとなる場面

<記事原文 寺島先生推薦>
Key moments of aborted Wagner revolt in Russia
RT breaks down how the private military company’s attempted rebellion unfolded
RTは、この私設軍事会社による蜂起の試みがどのように展開したかを詳しく解説
出典:RT  2023年6月25日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>   2023年7月15日



ロシアのロストフ・ナ・ドヌにある戦車。2023年6月24日© Sergey Pivovarov / Sputnik


 エヴゲニー・プリゴジン率いるワグナー私設軍事会社がロシアで蜂起を開始し、金曜日(6月23日)の夕方から土曜日(6月24日)にかけてそれは続いた。

 武装請負業者たち(ワグナー部隊)は、国の南部にある陸軍の本部を奪取することに成功した。

 しかし、彼らは他の部隊を結集することに失敗し、最終的には当局との合意により、モスクワへの進撃を中止した。

 この合意は、プリゴジンに対する恩赦を含め、ベラルーシの指導者であるアレクサンドル・ルカシェンコによって仲介された。



1.ワグナー部隊-ロシア国防省間の緊張のくすぶり

 ワグナー部隊は、レストラン経営者でケータリング業界の大物であるエヴゲニー・プリゴジンによって設立された。この部隊のメンバーは正規ロシア軍とともに戦い、ウクライナ人にはバフムートとして知られるドンバスの都市アルチョモフスクでの血みどろの戦闘で輝かしい戦果を挙げた。

 プリゴジンは、国の最高軍事幹部に対して公然と批判的な立場を取っている。彼は国防大臣のセルゲイ・ショイグと総参謀長のヴァレリー・ゲラシモフ将軍を公然と非難し、彼らはウクライナにおける軍事作戦の指揮を誤ったと主張している。また、プリゴジンはロシア国防省との公式契約に署名することを拒否している。



2.プリゴジン、「モスクワへの行進」開始

 金曜日(6月23日)の遅い時間に、プリゴジンはロシア軍がワグナー部隊の野戦キャンプを攻撃したと非難した。国防省は彼の主張を即座に「挑発的情報」として否定した。それにもかかわらず、プリゴジンは「正義のための行進」を始め、モスクワに到達する計画であると発表した。

 土曜日(6月24日)の早朝、戦車を含むワグナー部隊の装甲車列が南部のロストフ・ナ・ドヌ市に進入した。市内では、ワグナー部隊は戦闘することなく、南部軍管区の本部を制圧した。後に、ロストフで数発の銃声が聞かれたが、死傷者は報告されなかった。



3.プーチン、反乱を非難

 プリゴジンが「行進」を宣言した直後、連邦保安庁は彼を、武装蜂起を扇動したとして告発し、刑事事件として立ち上げた。土曜日(6月24日)の朝、ウラジーミル・プーチン大統領はビデオメッセージで、ワグナー部隊の行動は反逆に等しいと述べ、それを「私たちの国と私たちの人々への背信行為」と表現した。彼は統一を呼びかけ、秩序を回復するために必要なすべての措置が講じられていると述べた。

 一方、モスクワとモスクワを囲む地域では、テロ対策の措置が実施された。いくつかの都市で公共イベントは中止され、モスクワへの主要な高速道路も一時閉鎖された。

 その間、プリゴジンは他の軍の支持を得ることに失敗した。反対に、一部の有名な指揮官や高官たちは、ワグナー部隊に武器を降ろすよう呼びかけた。




4.反乱部隊は、合意が達成された後、引き返す

 土曜日(6月24日)の夜、プーチンの代理としてプリゴジンと話したベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、身の安全と引き換えにワグナー部隊の指導者(プリゴジン)が蜂起を終了することに同意したと述べた。数時間後、プリゴジンはワグナー部隊の車列がモスクワへの進撃を停止し、基地に戻ることを発表した。しばらくして、地方当局はワグナー部隊戦闘員がロストフ・ナ・ドヌを離れたことを確認した。

 クレムリンは、流血を避けるために、プリゴジンに対する訴追は取り下げ、彼は「ベラルーシに行く」と述べた。プーチン大統領の報道官であるドミトリー・ペスコフは、ウクライナ「前線での彼らの業績」により、ワグナー部隊のメンバーは訴追されないと付言した。


米国はワグナー部隊クーデター計画を事前に知っていた―NYT紙

<記事原文 寺島先生推薦>
US knew of Wagner coup plans in advance – NYT
Washington kept silent because it “had little interest” in helping Russia out, the report says
NYTの記事によると、ワシントンはロシアを助けることに「ほとんど興味がなかったため」黙っていた。
出典:RT  2023年6月25日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>   2023年7月14日


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ロストフ・ナ・ドヌで警備に当たるワグナー部隊。2023年6月24日© Roman ROMOKHOV / AFP


 米情報機関は、エヴゲニー・プリゴジンがロシア政府に対する大規模な行動を計画していることに強い疑いを持っていた、それはワグナー部隊の指導者(プリゴジン)が自身の部隊にモスクワ進軍を命じる数日前のことだった、とNYT紙が複数の情報源を引用し、土曜日(6月24日)、報じた。

 NYTがインタービューした匿名の米国高官の話によると、ジョー・バイデン米大統領政権と軍の指導者は、ワグナー部隊の動きについては、水曜日(6月21日)には説明を受けている。さらなる詳細が入手されると、議会の一部の指導者が出席した狭い範囲の説明会が木曜日(6月22日)に行われたと同紙は報じている。

 状況は金曜日(6月23日)の夜になって初めて緊迫した。その時、プリゴジンは露国防省がワグナー部隊キャンプに対して、ミサイル攻撃(死者が出た)を行ったと非難し、報復を誓った。露国防省はこの主張を否定し、「挑発情報」を発信した彼を非難した。

 その後の数時間で、ワグナー部隊はロシア南部の都市、ロストフ・ナ・ドヌの軍事施設を占拠した。そして、プリゴジンは彼の部隊が「正義のための行進」を始め、モスクワに到達する計画であると発表した。


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関連記事:クレムリン、ワグナーとの契約の詳細を明かす


 土曜日(6月24日)に、ワグナー部隊のボス(プリゴジン)は「身の安全」と引き換えに進軍を停止し、彼の部隊を撤退させることに同意した。これはベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介した取引の一環だ。

 NYTの情報源によれば、蜂起の前、ワシントンの関係者はロシアのプーチン大統領に迫り来る脅威について警告することをまったく急がなかった。なぜなら、モスクワが彼らをクーデターの首謀者と非難する可能性があったためだ。さらに、ウクライナ紛争やロシアと西側の対立の中で、米国はプーチンを支援することに「ほとんど興味がなかった」とこのNYTの記事は書いている。

 それでも、この記事によれば、米国高官たちはプリゴジンとモスクワの間の紛争の可能性に懸念を抱いていた。ロシアが混乱に陥ることで、相当な核のリスクが生じる可能性を心配していたのだ。

 CNNもこのNYTの記事と軌を一にして、土曜日(6月24日)に以下の主張をした。米国高官たちは、プリゴジンがロシア軍に対する挑戦を「かなりの期間にわたって」計画しているとの強い思いを抱いていた、と。 しかし、彼の最終目標が何かは分かっていなかった。

 CNNによると、西側高官たちは、プリゴジンが武器や弾薬の蓄積を含む準備をしていることを事前に知っていた。しかし、そのCNNは「全てが、あれよあれよという間の出来事であった」と指摘し、ワグナー部隊の指導者(プリゴジン)がロシア軍に対する脅威を実行する意図が本気であるかどうかは言い難いと述べている。

 ワグナー部隊の蜂起がまだ全開状態であった土曜日(6月24日)、ロシア外務省は西側に対して警告を発し、混乱を利用して「ロシア嫌悪の目標を達成しようとする試み」は無駄であると述べた。一方、元ロシア大統領ドミトリー・メドベージェフは、核大国内部でのクーデターは壊滅的な結果をもたらし、モスクワはこれを絶対に許さないと述べた。

ウクライナの紛争が終結すれば、「世界は変わるだろう」ーラブロフ外相がRTに語る

<記事原文 寺島先生推薦>
‘The world will be different’ when the Ukraine conflict ends – Lavrov to RT
Russia will trust nobody else to guarantee its security once the goals of the special military operation have been achieved, the foreign minister said
特殊軍事作戦の目的が達せられた際、ロシアは自国の安全保障についてロシア以外の勢力に委ねることはない、と同外相は発言
出典:RT  2023年6月16日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年7月4日



ブルンジのブジュンブラでの共同記者会見で話すセルゲイ・ラブロフ氏、2023年5月30日© AP / ロシア外務省報道局


 ウクライナでの紛争が解決する時までには、ウクライナ当局は、以前所有していた領土の喪失を受け入れ、さらに西側が主導する世界の一体化は終焉することになるだろう、とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は金曜日(6月16日)にRTアラビア語版の取材で答えた。

 サンクトペテルブルクでの「国際経済会議」の傍らで取材に応じたラブロフ外相は、西側によるロシアに対する代理戦争を「地政学上の紛争である」とし、この紛争の中で、米国は強力な競争相手を消し去ることを目論んでおり、「何としてでも、米国の覇権的な立場を堅持」しようとしている、と述べた。

 「このような努力は無駄であり、そのことは我が国には分かっています」とラブロフ外相は述べ、さらに、ウクライナとウクライナ支援諸国は、休戦に至る前に、「具体的な現実」を受け止めざるをえなくなるだろう、とも付言した。

 同外相は、ウクライナ当局が何より受け入れるしかない事実は、どんな和平同意を結ぶにせよ、昨年、ロシアへの編入を住民投票により決めた、ドネツク・ルガンスク・ヘルソン・ザポリージャという4地域の喪失を認めることだ、とした。ウクライナへ兵を送る前に、ロシア側はより寛大な条件を提示していた、と述べたラブロフ外相は、金曜日、「話し合いを先延ばしにしようとすればするほど、我が国との合意を取り付けることは困難になっていきます」と警告した。



関連記事:アングロ・サクソンが、西側集団を管理下に置いているーロシア政府の主張

 ウクライナと欧州の支援諸国が認めているのは、2014年と2015年のミンスク合意(その合意のもと、キエフ当局はドネツク・ルガンスク両地方に制限的な自治権を与えることを約束していた)は、ウクライナにロシアとの戦争の準備をさせるための時間稼ぎだった、という事実だ。このようなことは二度と繰り返してはならない、とラブロフ外相はRTに語った。「我が国は、自国の安全保障を、この先西側がさらに申し出る可能性のある誓約、約束、あるいは文書によって示される根拠にゆだねるつもりはありません。我が国の安全は我が国で保障します」とラブロフ外相は述べた。

 「我が国は、我が国が頼れるのは自国のみであり、平等かつ双方向で利益を共有できる友好諸国とのみ関係を持つつもりだ、ということを完全に理解しています。西側諸国で、このような諸国間の関係を最近目にすることはありません」とラブロフ外相は続けた。

 最後にラブロフ外相は、米国とその同盟国が、世界の一体化のための諸機関(主に開発銀行と多国間組織)を支配する時代は終焉を迎えることになるだろう、と明言した。



関連記事:各国の国家貨幣への移行は、「ドル覇権の終わりの始まり」-プーチン大統領の主張

 今週、世界100か国以上の代表団を集めて開催されたSPIEF(サンクトペテルブルク国際経済会議)とは別に、ロシアは 上海協力機構や大ユーラシア友好連盟、さらには拡大BRICS諸国連盟においても主導的な役割を果たしている。「こんにち、成長する過程には、地域化が必要である、ということに対する解釈が存在していて、そのような考え方が普及しつつあります。この広大な大陸に位置する諸国は、神と自然が与えたもうた、地の利を活かし、双方が利益を受ける物流網・金融網・輸送網を発展させるべきです」とラブロフ外相は述べた。

 同外相はさらに、米国主導の「思想や地政学上のゲーム」に興じるよりも、ロシアと協力した方が自国の利益が得られることに気づいた欧州諸国とは、友好関係を結ぶことには「いつでも準備ができている」と述べた。

 ロシアの外交官の最上位にいるラブロフ外相は、最後にこう述べた。「世界は変わるでしょう。いま私たちが目にしている世界の変化は、ロシアの特殊軍事作戦に対する西側の対応により、さらに加速しました。我が国は、西側が我が国に投げかけてきた挑戦に受けて立ったからです。この過程ではっきりとしたことは、西側と関係する国際社会のいかなる構造においても、自立と独立が、今の主な潮流になっている、という事実です。」

プーチン、ゲイの研究を命令

<記事原文 寺島先生推薦>
Putin orders study of gays
The Russian President has ordered the creation of a special institute focused on examining homosexuality and gender identity
ロシア大統領は、同性愛と性同一性障害に焦点を当てた特別研究所の創設を命じた。
出典:RT  2023年6月16日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年6月29日



資料写真 © Getty Images / David Silverman


 ロシアは新しい精神医学研究所の設立を計画している。LGBTQの行動、ジェンダーの役割や同一性に関連する問題の研究もその中に含まれる。以上のことをロシアの保健相ミハイル・ムラシュコは、木曜日(6月15日)、国家ドゥーマ(下院)での討論の中で明らかにした。

 ロシアにおける性別変更手術を禁止する法案について下院での議論が行われている最中、アナトリー・ワッサーマン議員は、健康省が性についてのいろいろな思い違いを現実に適合させるために心理学的、必要であれば精神医学的手法の研究にどの程度注意を払っているか、ムラシュコ保健相に尋ねた。

 保健相は、既にこの問題を研究しているロシアのいくつかの医学研究センターが存在することを指摘した。彼はまた、ウラジーミル・プーチン大統領から「我々の精神医学連邦センターを基盤とした追加の研究所を創設するようとの命令があった」と述べ、それにはこれらに限らず、社会行動を含むいくつかの行動領域の研究も含まれると付言した。

 保健省によると、この新しい研究所はセルプスキー精神医学・薬物療法センターを基盤として形成される。ムラシュコ保健相は、LGBTQの研究が今日行われていることに加えて、さらに拡大され、義務的な科学的研究にも含まれることを指摘した。



関連記事:ロシアは性転換を禁止する方向へ

 ロシアのLGBTQ団体は、ムラシュコ保健相の発言に抗議した。そのような研究はいわゆる「転換療法」と同様である、というのが彼らの言っていることだ。転換療法とは、非異性愛的な傾向や性同一性障害を治療することを目的とした身体的および心理的な一連の手法。このような手法は、世界保健機関や国連によって非科学的で拷問に等しいと非難されている。

 しかし、ムラシュコ保健相や保健省の他の代表者たちはいずれも、転換療法について明確には発言しておらず、議員たちにそのような手法や立法を導入する意図があるかどうかも不明だ。

 水曜日(6月14日)、議員たちは法案の最初の提示でそれを採択した。この法案は、ロシアにおいてほぼすべての性別適合手術および公的文書での性別変更を禁止するものだ。もし可決されれば、この法律は「先天的な異常」を治療するための限定的な外科手術のみを認めることになる。

 ドゥーマ(ロシアの国家議会)の議長であるヴャチェスラフ・ヴォロジンは、新しい法案の主な目標は子供たちを保護することであり、LGBTQの宣伝活動のおかげで、十代のトランスジェンダーの割合がすでに大人の3倍高くなっているアメリカの統計に注意を向けた。

保守的な米国民のための「移民村」がロシア国内に建築される予定(ある弁護士からの報告)

<記事原文 寺島先生推薦>
‘Migrant village’ for conservative Americans to be built in Russia – lawyer
何千人もの西側諸国民は「過激すぎる自由主義」的世界から逃れたがっている、とロシアの移民弁護士は主張
出典:RT 2023年5月12日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年5月30日



資料写真 © Sputnik / Pavel Bednyakov



 保守的な考え方をもつ200家族からなる「米国民村」の建築が2024年モスクワ州で開始される。これは、モスクワに本拠地を置く移民弁護士であるティムール・ベスラングロフ氏の主張だ

 ビスタ法律事務所の一員であるベスラングロフ氏は、木曜日(5月11日)のセント・ペテルブルグ国際法律会議の一部会において、新たに移民集落を建築する提案を行った。

 「基本的には、これらの人々はキリスト教ロシア正教派の米国やカナダ国民であり、思想的な理由からロシアへの移住を考えています」と同氏は述べた。

 モスクワ州政府はこの計画を承認したが、移民を考えている人々は、自費で移住費用を賄おうとしている、とベスラングロフ氏は述べた。同氏の主張によると、この集落は、首都モスクワの南にあるセルプホフ地方に建築される予定だという。



関連記事:米国は伝統的なロシアの価値観を否定―プーチンの主張

 何万もの西側諸国民がロシアに移住したがっていて、中にはロシアに祖先がいない人々も含まれている、と同弁護士は述べた。

 「理由はわかっています。自由主義派の左派勢力による過激な価値観が社会に導入されようとしているからです。この導入にはきりがないのです。現在、人間には70種類の性別が認められています。それがこの先どうなるのか、誰にもわかりません」とベスラングロフ氏は会議で述べた。「普通の人々の多くは、このような状況を理解できておらず、国を出たいと考えているのです。多くの人々が出国先としてロシアを選んでいますが、ロシアに移民する法律に不備があることに関係する官僚的な多くの問題に直面しています。」

 ロシアに移住しようと考えている人々の一翼には、伝統主義カトリック派の信者らがおり、彼らは「子だくさんの白人米国民」であるが、このような国民を、米国政府は「国内におけるテロリスト集団である」と見なしている、とベスラングロフ氏は述べた。

関連記事:解説。プーチンが署名したロシアの「LGBTQ宣伝」法とは。

 2月に公表されたFBIによる文書には、「伝統主義カトリック派の過激派勢力」信者は、「人種・民族主義的な動機のもとでの暴力的な過激派になる可能性がある」と書かれていた。これに対して共和党派の19州の検事総長は、連邦政府に要求書を提出し、「反キリスト教的偏見政策」をやめるよう求めたが、そのような意図はない、とFBIは否認した。

ロシアの作家プリレーピン氏が自動車爆発事故で大怪我を負う

<記事原文 寺島先生推薦>
Russian writer Prilepin injured in car bombing
The author and activist, who has volunteered for military service, survived but is gravely wounded, officials tell the media
自発的に従軍していた作家でもあり活動家でもある同氏は、一命を取り留めたが大怪我を負った、と当局は報道機関に発表
出典:RT 2023年5月6日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年5月10日


ザハール・プリレーピン氏© Sputnik/Ekaterina Chesnokova


 ロシアの作家で政治活動家でもあるザハール・プリレーピン氏が、土曜日(5月6日)、ニジニ・ノヴゴロド近郊で起こった自動車爆発事故により重傷を負った。運転手は亡くなった。

 この爆破事故が起こったのは、プリレーピン氏を乗せた車が高速道路を走行中のことだった。初動捜査からは、この爆発物はこの自動車の下部に仕掛けられていたのではないか、と考えられている。

 テレグラム上の番組であるマーシュの報道によると、ニジニ・ノヴゴロド市からボルガ川を挟んだ向かい側にあるボル町の近くで発生したこの爆発により、この自動車は転覆したという。ロシア紙RBKは情報源からの情報として、この爆発が起こったのは、プリレーピン氏がドンバス地域の両共和国からの帰還中だったと報じた。

 医師団が同紙に語ったところによると、プリレーピン氏の両脚は折れており、脳震盪も発症したという。



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 テレグラム上の番組であるバーザによると、プリレーピン氏には娘が同伴していたが、幸運にも娘は爆発の数分前に車から降りていたという。

 ニジニ・ノヴゴロド州のグレブ・ニキーチン知事は、プリレーピン氏は「命に別状はない」と明言し、さらにロシア警察が「この事故の状況と原因について捜査中である」とも付け加えた。

 ウクライナのアテシュという過激派勢力がこの攻撃を起こしたと主張しており、この組織は「今年初めからプリレーピンを狙っていた」と表明している。

 2014年の西側が後援したクーデター後、プリレーピン氏はドネツク・ルガンスク両共和国の熱烈な支持者となった。この両共和国はウクライナの支配から脱し、後にロシア領となった。

 2017年、同氏は自身の志願戦隊を立ち上げ、その政治担当官に就任した。今年の1月下旬、同作家の報道担当によると、プリレーピン氏は、ロシア国家警備隊と契約を結び、戦闘地域に出発したとのことだ。

 プリレーピン氏はいくつかの著書も著しているが、最も有名な作品は、『病人たち』というチェチェン戦争に関する小説と、『地獄に行かずにすむものもいる』というドンバスでの戦争を描いた小説だ。

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 この爆発は、これまでに起こった一連の同様の事件のひとつであり、これらの爆破事件により2名のロシア人が殺害されたとされている。4月上旬には、ペテルスブルク市内の喫茶店で爆弾が爆発し、軍事ブログの執筆者であるヴラドレン・タタルスキー氏の命が奪われた。 ロシア当局によると、この殺害を組織したのはウクライナの特殊部隊だという。

 昨年8月、ロシアの哲学者のアレクサンドル・ドゥーギン氏の娘であるダリア・ドゥギナ氏がモスクワ州の自動車爆破事故で亡くなったが、この件についてもロシア当局は、ウクライナの特殊部隊によるものであるとしている。


露外相セルゲイ・ラブロフ氏、国連安全保障理事会の公開討論会の議長として、国連憲章の擁護を通した効果的な多国協調主義について発言

<記事原文 寺島先生推薦>

Foreign Minister Sergey Lavrov Chairs UNSC Debate on Effective Multilateralism Through Defence of Principles of the UN Charter

出典:INTERNATIONALIST 360°

2023年4月24日

<記事原文 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年5月3日



国連安全保障理事会の公開討論会「国連憲章の原則の擁護を通じた効果的な多国間主義」でのラブロフ外相の発言(2023年4月24日、ニューヨーク)。


 国連安全保障理事会第 5308 回会合が招集される。この会合の暫定議題は、「国際平和と安全の維持、国際連合憲章の原則の擁護を通じた効果的な多国間主義」と呼ばれています。この議題が採択されます。

 理事会暫定手続規則第37条に基づき、以下の国の代表者にこの会議に参加するよう要請する:オーストラリア、アゼルバイジャン、アルメニア、バーレーン、ベラルーシ、ベネズエラ・ボリバル共和国、ベトナム、エジプト、インド、インドネシア、イラン・イスラム共和国、カナダ、コロンビア、キューバ、クウェート、ラオス人民民主共和国、レバノン、マレーシア、モロッコ、メキシコ、ネパール、パキスタン、韓国、シンガポール、シリヤ・アラブ共和国、シエラレオネ、タイ、トルクメニスタン、ツキタイ、ウルグアイ、フィリピン、エチオピアおよび南アフリカ共和国の代表者。この決定は採択されます。

 さて、国連安全保障理事会は議題である項目2の議論を始めたい。文書S/2023/244-2023年4月3日付のロシア連邦常駐代表からアントニオ・グテーレス国連事務総長への書簡にご注目いただきたい。

 国連事務総長、アントニオ・グテーレス閣下をお迎えして、お話をうかがいたいと思います。

***

 国連事務総長のご説明に感謝申し上げます。

***

 それでは、これから私は、ロシア連邦の外務大臣として発言させていただきます。

国連事務総長閣下

ご列席のみなさま

 2018年12月12日の国連総会決議により、国際デー一覧に取り入れられた「多国間主義と平和のための外交の国際デー」に合わせて今回の会合を開催することは、象徴的なことだと思います。

 あと2週間で、第二次世界大戦の勝利から78年目を迎えます。ナチス・ドイツの敗北は、我が国が連合国の支援を受けて行った決定的な貢献であり、戦後の国際秩序の基礎を築くことを可能にしました。法的には、国連憲章に基づき、真の多国間主義を体現した国連が世界政治の中心的、調整的な役割を獲得したのです。

 国連は創設以来80年弱の間、創設者から託された重要な使命を果たしてきました。数十年にわたり、国連安全保障理事会の5つの常任理事国が、憲章の目標と原則の優位性を基本的に理解することで、世界の安全が保障されてきました。これにより、国連憲章は、国際法の普遍的に認められた基準によって規制される真の多国間協力の条件を作り出しました。

 今日、国連を中心とする体制は、深い危機を迎えています。その主な理由は、一部の国連加盟国が、国際法と国連憲章を、ある「ルールに基づく」秩序に置き換えようと躍起になっているからです。このルールは誰も見たことがありません。透明性のある国際協議の場で議論されたこともありません。このルールは、多国間主義を客観的に体現する新しい独立した開発組織の形成という自然な成り行きに逆行するために考案され、利用されているのです。近代的な技術や金融事業を利用することを拒否し、商品供給網から排除し、財産を押収し、重要な生活基盤施設を破壊し、普遍的に認められた規範や手続きを操作することによって、違法な一方的措置によってそれらを抑制しようと試みられているのです。これは、世界貿易の分断、市場の仕組みの崩壊、WTOの麻痺、そしてIMFを米国とその同盟国(軍事目標を含む)の目標達成のための道具に変えるという最終的な(今や公然の)転換につながります。

 不従順な者を罰することで自らの優位性を主張しようとする必死の試みにおいて、米国は、グローバル経済の多国間体制の必要性に応え、人類に大きな利益をもたらすと長年宣伝してきたグローバル化を破壊するまでに至っています。ワシントンとその他の従順な西側諸国は、国際法にしたがって政策を構築し、「黄金の10億人」の利己的な利益に従うことを拒否する国々に対する非合法な措置を正当化するために、必要に応じてこれらの規則を使用しています。反対する者は、「我々の側にいない者は敵対者」という前提に基づいて、警戒を要する対象にされます。

 西側の仲間たちは、国連という普遍的な形式に基づく会談を行うことに長い間、不都合を感じてきました。多国間主義を弱体化するという路線に観念的な裏付けを与えるために、「独裁国家」に対して「民主国家」の統一という概念を打ち出したのです。この自称覇権主義者が参加者を決定する「民主主義のための首脳会議」に加えて、国連を越えた「特権階級層」の創設が進んでいます。

 民主主義のための首脳会議、多国間主義のための同盟、AIに関するグローバル・友好関係、報道機関の自由連合、サイバー空間における信頼と安全のためのパリ呼びかけ、これらやその他の非包括的な取り組みはすべて、国連の後援の下での対応事項に関する話し合いを妨害し、西側に利益をもたらす非合意の概念と解決法を押し付けるために作られました。まず、少人数で個人的に何かを合意し、合意したものを「国際社会の立場」として提示する。言い方はそれでいいでしょう。しかし、西側の少数派が全人類を代表して発言することを、誰も許可していません。どうか、国際社会のすべての国々に敬意を払い、良識ある行動をとっていただきたい。

 ルールに基づく秩序を押し付けることで、その背後にいる人々は、国家の主権的平等という国連憲章の主要原則を傲慢にも否定しています。EUの外交責任者であるジョゼップ・ボレルが、ヨーロッパは「庭」であり、それ以外の地域は「ジャングル」であるという趣旨の「誇り高い」発言をしたことが、彼らの例外的な世界についてすべてを物語っています。また、1月10日のEU-NATO協力に関する共同宣言も引用しておきたいが、その内容は以下の通りです:

西側諸国は、「10億人の市民の利益のために共通の目的を追求するために、政治的、経済的、軍事的に自由に使える手段をさらに駆使する」。

 西側の集団は、地域段階での多国間主義の進行を自分たちの必要性に合わせて再構築することに着手しています。最近、米国はモンロー主義の復活を呼びかけ、ラテンアメリカ諸国に対してロシア連邦や中華人民共和国との関係を縮小するよう求めました。しかし、この政策は、この地域の国々が、多極化する世界の柱として自らを確立する正当な権利を保持しながら、ラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体(CELAC)を中心とする自国の多国間構造を強化することを決意したことから、壁に突き当たりました。ロシアは、そのような公正な願いを全面的に支持します。

 米国とその同盟国は、ASEANを中心とした、成功裏に開かれた経済・安全保障協力体制が数十年にわたって形成されてきたアジア太平洋地域において、多国間主義を弱体化させるために大きな力を行使してきました。この体制は、ASEAN10カ国とロシア、中国、米国、インド、日本、オーストラリア、韓国を含む対話相手に適した合意への道筋を開発し、真の包括的な多国間主義を確保するのに役立ちました。そして、ワシントンは、このような確立された構造を崩そうと、「インド太平洋戦略」を推進したのです。

 昨年のマドリッドの首脳会議で、NATO諸国は、欧州大西洋地域といわゆるインド太平洋地域における世界的な責任と不可分の安全保障について語りました。しかし、彼らは常々、平和を望み、その軍事計画は純粋に防衛的であると皆を信じ込ませてきたのでした。つまり、NATOの防衛組織としての境界線は、太平洋の西側沿岸地域へと移されつつあるのです。ASEANを中心とした多国間主義を侵食するこの圏域志向の政策は、AUKUSという軍事組織の創設に現れており、東京、ソウル、そしてASEANのいくつかの国々がこの組織に引き込まれています。米国は、南シナ海地域における西側の一方的な利益を守るために、海洋安全保障に干渉する機能を開発する取り組みを先導しているのです。先ほど紹介したジョゼップ・ボレルは、昨日、この地域にEUの海軍部隊を派遣すると約束しました。このインド太平洋戦略が、中国を封じ込め、ロシアを孤立させようとしていることは、誰も隠していません。西側の同僚たちは、アジア太平洋地域における効果的な多国間主義という概念をこのように解釈しているのです。

 ワルシャワ条約機構が解体され、ソ連が政治の舞台から姿を消すと同時に、多くの人々が、欧州大西洋地域を横断する分断線のない真の多国間主義の原則が息を吹き返すということに期待を寄せました。しかし、西側諸国は、OSCE(欧州安全保障協力機構)の潜在能力を対等かつ集団的に活用する代わりに、NATOを維持するだけでなく、口では絶対にそんなことはしないと誓約しながら、ロシアにとって重要な関心を持つ地域を含む近隣地域を管理下に置くという厚かましい方針を追求しました。ベーカー米国務長官(当時)がブッシュ大統領に語ったように、OSCEはNATOにとって主要な脅威です。また、国連と国連憲章の規定も、ワシントンの世界的な野心に対する脅威となっていることを、代表して申し添えます。

 ロシアは、1999年と2010年のOSCE首脳会議文書において最高段階で厳粛に宣言された「不可分な安全保障」の原則に基づき、忍耐強く互恵的な多国間協定の達成に取り組んできました。この原則は、何人も他者の安全を犠牲にして自国の安全を強化してはならず、いかなる国家、国家集団、組織も、組織の地域の平和維持の第一義的責任を負わず、OSCE地域のいかなる地域も勢力圏と見なすことはできない、と明快に宣言しています。

 NATOは、加盟国の大統領や首相の義務など少しも気にせず、あらゆる種類の恣意的な行動をとる「権利」を宣言して、正反対のことをし始めたのです。1999年のユーゴスラビアへの違法爆撃では、劣化ウラン弾頭を使用し、後にセルビア市民やNATO軍従軍者のがん患者が急増したことも、その顕著な例です。ジョセフ・バイデンは当時上院議員で、ベオグラードを爆撃し、ドリナ川の橋を破壊するよう個人的に呼びかけたと、誇らしげにカメラに向かって語っていました。今、クリストファー・ヒル駐セルビア米国大使は、報道機関を使って、セルビア人に過去を振り返り、「遺恨を捨てよ」と呼びかけています。米国には、「遺恨を捨てよ」という豊富な実績があります。日本は長い間、広島と長崎に原爆を投下した人物について、恥ずかしげもなく沈黙してきました。学校の教科書にも載っていません。最近、G7の会合で、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、慇懃に原爆投下の犠牲者の苦しみを嘆きましたが、その背後に誰がいたのかには触れませんでした。これが彼らの言う「ルール」であり、誰も異議を申し立てようとはしません。

 第二次世界大戦以来、ワシントンは多くの無謀な犯罪的軍事作戦を、多国間の正当性を確保しようとすることなく行ってきました。これが、彼らの恣意的な「ルール」なのです。はっきりしています。

 2003年の米国主導の連合軍による恥ずべきイラク侵攻は、2011年のリビアへの侵略と同様、国連憲章に違反して行われました。どちらも国家の破壊、数十万人の犠牲者、テロの蔓延を招きました。

 米国の、ソ連後の国々の内政への介入は、国連憲章の明白な違反でもありました。グルジアとキルギスでは「カラー革命」がでっち上げられ、2014年2月にはキエフで血なまぐさいクーデターが起こされました。2020年にベラルーシで武力による政権奪取を試みたのも、同じ手法の一部です。

 欧米の舵取りをするアングロ・サクソンは、こうした無法な冒険を正当化するだけでなく、「民主主義を促進する」という政策の中で、自分たちのルールに従ってそれを誇示します。コソボの独立は住民投票なしで認めましたが、クリミアの独立は住民投票が行われても認めませんでした。イギリスのクレバリー外相によれば、フォークランド/マルビナは問題ではありません。なぜならそこには住民投票があったから、というわけです。笑ってしまいます。

 二重基準を避けるために、私たちは、現在も有効な1970年の国連国際法原則宣言の一部として合意された協定に従うよう、すべての人に呼びかけます。この宣言は、「上記のような人民の平等な権利と自決の原則を遵守し、したがって、領土に属する全人民を代表する政府を有する国家」の主権と領土の完全性を尊重する必要性を明確に宣言しています。公平な観察者であれば、ナチス・キエフ政権が、2014年2月の血なまぐさいクーデターの結果を受け入れることを拒否した領土の住民を代表する政府であるとは決して考えられないことは明らかです。それに対してクーデター参加者たちは戦争を仕掛けたのです。プリシュティナ(コソボの首都)は、EUが自治を約束しましたが、コソボ・セルビア人の利益を代表すると主張できません。同様に、ベルリンとパリは、ドンバスに特別な地位を約束しました。私たちは、これらの約束が最終的にどのような結果をもたらすかをよく知っています。

 2023年3月29日に開催された第2回民主化サミットに向けた発言で、アントニオ・グテーレス国連事務総長が素晴らしい言葉を述べています:「民主主義は国連憲章に由来する。その冒頭の「われら人民」の呼びかけは、合法的な権威の基本的な源泉である被治者の同意を反映している」。もう一度、「同意」という言葉を強調しておきます。

 ウクライナ東部で発生したクーデターによる戦争を止めるため、多国間の取り組みが行われました。平和的解決に向けたこうした努力は、ミンスク合意を全会一致で承認した国連安保理決議で具体化されました。キエフとその西側の親玉たちは、これらの協定を足元から踏みにじりました。彼らは、協定を履行するつもりはなく、単にウクライナをロシアに対抗するための武器で満たす時間を稼ぎたかっただけだと、誇らしげに冷笑してさえいます。そうすることで、彼らは国連憲章にある、すべての加盟国が安保理決議に従うことを求める国連加盟国の多国間公約の違反を公言したのです。

 2021年12月にロシアのウラジーミル・プーチン大統領が行った多国間の相互安全保障の合意に関する提案など、この対立を防ぐための我々の一貫した努力は、傲慢にも拒否されました。私たちは、NATOがウクライナを「抱き込む」ことを誰も防ぐことはできないと言われたのです。

 国家的クーデターから数年間、私たちの強い要求にもかかわらず、キエフの西側のボスのうち誰も、ロシア語、教育、報道機関、一般的なロシアの文化的・宗教的伝統が法律で一貫して破壊されているときにピョートル・ポロシェンコ、ウラジミール・ゼレンスキー、ウクライナ・ヴェルホブナ・ラダを引き戻そうとしませんでした。これは、ウクライナ憲法と少数民族の権利に関する普遍的な条約に直接違反するものでした。それと並行して、キエフ政権はナチズムの理論と実践を日常生活に導入し、関連する法律を採択していました。キエフ政権は恥ずかしげもなく、首都や他の都市の中心部で、SS師団の旗の下、巨大な聖火行列を行いました。西側諸国は沈黙を守り、両手をこすり合わせていました。ロシアを全面的に弱体化させるために、ワシントンが作り上げた公然と人種差別を行う政権を利用しようとするアメリカの計画に、この出来事は完全に合致していたのです。これは、競争相手を排除し、世界情勢における公正な多国間主義の主張を暗示するあらゆる筋書きを弱体化させるという、米国の戦略的方向性の一部でした。

 さて、この点についてはすべての国がご理解いただけたと思います。しかし公にすべき話はこれだけではありません―これはウクライナの話ではなく、今後の国際関係のあり方についての話です。国際関係は、利害の均衡に基づく持続可能な共通理解の上に成り立つのか、それとも攻撃的で爆発的な覇権主義を推進することになるのか。ウクライナ問題を地政学的な文脈から切り離すのは不正確です。多国間主義とは、すでに述べたように、国連憲章とその相互関連するすべての原則を尊重することを意味します。ロシアは、特別軍事作戦を実施する際に追求する目標を明確に説明しています。NATOが長年にわたり国境で直接作り出してきた安全保障に対する脅威を取り除き、多国間条約で宣言されている権利を奪われた人々を保護するためです。ロシアは、彼らの祖先が何世紀にもわたって暮らしてきた領土からの消滅と追放というキエフの公的かつ直接的な脅しから彼らを守りたかったのです。私たちは、何のために、誰のために戦うのか、正直に述べました。

 アメリカやEUが煽る狂乱状態を背景に、ワシントンやNATOはユーゴスラビア、イラク、リビアで何をしたのか、と今度は反対に問いたくなります。彼らの安全、文化、宗教、言語に対する脅威があったのだろうか? OCSE(欧州安全保障協力機構)の原則に反してコソボの独立を宣言し、アメリカの海岸から1万マイルも離れた安定した経済的に豊かなイラクやリビアを破壊したとき、彼らはどんな多国間基準に導かれていたのでしょうか?

 国連やその他の国際機関の事務局を支配下に置こうとする西側諸国の恥知らずな試みは、多国間体制を脅かすようになりました。欧米諸国は常に人的な量的優位性を享受してきましたが、最近まで(国連)事務局は中立を保とうとしていました。今日、この不均衡は慢性化し、事務局職員は国際公務員にふさわしくない政治的動機に基づく行動をますます許容するようになっています。私たちは、アントニオ・グテーレス国連事務総長閣下に対し、すべての職員が国連憲章第100条に沿った公平性の要件を満たすよう確保することを求めます。また、事務局の局長が、先に述べた一般議題や「平和のための新たな議題」に関する構想文書を作成する際には、新自由主義の概念に迎合するのではなく、いかにして合意形成と利害の均衡を図るかを加盟国に促す必要があることを指導するよう求めます。そうでなければ、多国間協議の代わりに、金満国と大多数の国々との間にますます大きな溝ができることになります。

 多国間主義を語るとき、私たちは国際的な文脈に閉じこもることはできません。同じように、民主主義を語るとき、私たちはこの国際的な文脈を無視することはできないのです。二重基準というものはあってはなりません。多国間主義と民主主義の両方が、加盟国の中で、また加盟国同士の関係で尊重されるべきなのです。西側諸国が、自らの民主主義の理解を他国に押し付ける一方で、各国の主権的平等の尊重に基づく国際関係の民主化に反対していることは、だれもが知っています。今日、西側諸国は、国際舞台でいわゆるルールの押しつけに躍起になっていますが、国内でも多国間主義と民主主義を抑圧し、反対意見を潰すためにますます抑圧的な手段に頼っています。これは、犯罪的なキエフ政権が、その教師である米国とその同盟国の支援を受けて行っているのとほぼ同じ方法です。

 皆さん、冷戦時代と同じように、私たちは再び、危険な、そしておそらくより危険な路線に近づいています。西側諸国の金融・経済的侵略がグローバリゼーション(世界の一体化)の恩恵を破壊し、ワシントンとその同盟国が外交を放棄して「戦場で」物事を解決することを要求しているため、多国間主義への信頼が失われ、状況はさらに悪化しています。これらすべては、戦争の惨禍を防ぐために作られた国連の壁の中で起こっているのです。責任ある良識ある勢力や、政治的な知恵を発揮し、対話の文化を復活させようという声は、国と国とのやり取りの基本原則を破壊しようとする人々によってかき消されています。私たちは皆、原点に立ち返り、国連憲章の目的と原則を、その多様性と相互関連性のすべてを遵守しなければなりません。

 今日の真の多国間主義には、国連が国際関係の多極化の形成過程における客観的な進展に適応することが必要です。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々の代表権を拡大することによって、安全保障理事会の改革を促進することが不可欠です。この国連の主要機関において、西側諸国の代表が過度に多いことは、多国間主義の原則を損ねています。

 ベネズエラは、国際連合憲章擁護のための友好的な連合の創設を率先して推進しました。私たちは、憲章を尊重するすべての国に参加を呼びかけています。また、BRICSとSCO(上海協力機構)の建設的な可能性を利用することも重要です。EAEU(ユーラシア経済連合)、CIS(独立国家共同体)、そしてCSTO(集団安全保障条約)は喜んで協力します。我々は、グローバル・サウスの地域連合が進める取り組みを利用することを支持します。G20は、欧米の参加者が、世界経済における危機の積み重ねに対する責任を過小評価するために、G20の優先課題から加盟諸国の目を逸らすことをやめれば、多国間主義の維持に役立つでしょう。

 国連を多国間主義や国際政治の調整のために苦労して勝ち取った象徴として維持することは、私たちの共通の義務です。成功の鍵は、協力すること、誰かの例外性を主張しないこと、そして繰り返し言いますが、国家の主権的平等を尊重することにあります。これこそ、国連憲章を批准する際に私たち全員が署名したことです。

 2021年、プーチン大統領は国連安全保障理事会常任理事国による首脳会議の開催を提案しました。中国とフランスの首脳がこの構想を支持しましたが、残念ながら、実現には至っていません。この問題は、多国間主義に直結しています。五大国が他の国に対してある種の特権を持っているからではなく、まさに五大国が国連憲章の下で国際平和と安全を維持するという特別な責任を負っているためです。これこそ、西側諸国の動きのせいで、目の前で崩れつつある国連中心主義体制を復活させるための必要条件です。

 このような状況に対する懸念は、東アジア、東南アジア、アラブ、イスラム圏からアフリカ、ラテンアメリカに至るまで、グローバル・サウス諸国からの様々な取り組みや考えの中でますます聞かれるようになってきています。我々は、国家の主権的平等と不可分の安全保障に基づく利益の均衡に合意することを目的とした誠実な集団作業を通じて、現在の問題の解決を確実にしたいという彼らの誠実な気持ちを高く評価します。

 最後に、私たちの会議を取材している記者諸氏にお知らせしたいのは、ロシアの報道機関の同僚たちはここに来ることを許されなかったということです。モスクワのアメリカ大使館は、ビザ入りのパスポートを渡す用意はあるが、私たちの飛行機が離陸するときだけだと冷笑しました。そこで、私は皆さんにひとつお願いがあります。ロシア人ジャーナリストの不在を補ってください。世界中の視聴者が、皆さんの報道を利用して、あらゆる角度からの意見や評価が得られるよう、配慮してください。






「くるみ割り人形」:チャイコフスキーは世界で最も有名な曲のひとつであるこのバレエ音楽をいかに創り上げたか?

<記事原文 寺島先生推薦>

‘The Nutcracker’: How Tchaikovsky created one of the world’s most famous ballets
The masterpiece was first staged 130 years ago.

この傑作バレエは130年前に初演された。

筆者:アナスターシャ・サフロノーバ(Anastasia Safronova)

出典:RT

2022年12月31日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年1月23日

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© Aleksandr Kryazhev / Sputnik

 今年、「くるみ割り人形」は誕生から130周年を迎えた。ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの音楽にのせたこの傑作は、世界で最も有名なバレエであることは広く知られている。クリスマスや新年を祝うのに、「金平糖の踊り」や「トレパーク(ロシアの踊り)」は欠かせない。だから、「くるみ割り人形」が最初に公開された時、かなり冷ややかな目で迎えられたのは不思議なことである。




「このバレエを頭から消し去りたい」

 「くるみ割り人形」への取り掛かりは、チャイコフスキーにとって簡単なものではなかった。1890年、帝国劇場(現サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場)の館長イワン・ヴセヴォロフスキーから、1幕のオペラと2幕のバレエの注文を受ける。翌年、チャイコフスキーは作曲に取りかかるが、彼の手紙から察するに、この年は彼にとってかなり鬱憤の多い時期であったようだ。

 チャイコフスキーは、バレエよりもオペラに夢中になっていたらしい。彼はヘンリク・ヘルツのデンマークの戯曲「ルネ王の娘」を選び、「イオランタ」というタイトルのオペラを作曲しはじめた。チャイコフスキーは手紙の中で、「イオランタ」に「恋をしている」ことを書いている。そして、この作品がいかに魅力的であり、「観客を泣かせることができる」と期待していることを記している。一方、「くるみ割り人形」には「うんざり」と嘆き、何とか「頭から消し去りたい」と思っていたようだ。

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1892年マリインスキ劇場での「くるみ割り人形」の一場面© Sputnik

 チャイコフスキーはこのバレエの筋書きを自分で選んだわけではなく、ヴセヴォロフスキーと帝国劇場の振付師マリウス・プティパから発想をもらったのである。「くるみ割り人形」の物語は、ドイツのロマン派作家E.T.A.ホフマンによって書かれ、1816年に出版されたのが最初である。バレエ版の「くるみ割り人形」しか知らない人にとったら想像以上に、暗くて不気味な物語である。1844年にフランスの作家アレクサンドル・デュマが話を改変し、より軽く、子供向きの物語に仕上げている。

 振付家のマリウス・プティパはフランス人で、ドイツ語は話せなかったので、バレエにはフランス語版を使った。プティパは当初、台本にフランス革命を盛り込むよう求め、フランス革命時に流行した歌と踊りの「カルマニョール」を盛り込んだりもしていた。しかし、その後、その中身が変更され、革命との関連は一切なくなった。

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1892年マリインスキ劇場での「くるみ割り人形」の一場面© Sputnik

 「イオランタ」と「くるみ割り人形」は、どちらも1891年12月に上演される予定だった。しかし、チャイコフスキーにはもっと時間が必要だった。その年の4月、彼は弟に宛てて、自分が苦しんでいる「危機」について書き、ヴゼヴォロフスキーを「怒らせないよう」、1892年から1893年の上演期にオペラとバレエを上演させてほしいと頼んだことを明らかにした。チャイコフスキーは、「彼らは、私が座って5分でオペラを作曲できると考えているのだ」と叫んだ。実際、この時期は作曲家チャイコフスキーにとって多忙な時期であった。この年の5月にはアメリカに渡り、ニューヨークのカーネギーホールの開館式に参加した。


独特の効果を持った楽器

 しかし、「くるみ割り人形」への取り組みは、当初の失望を乗り越えるものをはらむことになった。チャイコフスキーはパリを訪れた際、パリ市民であるハルモニウム製作者オーギュスト・ムステルが発明し、フランスの作曲家エルネスト・コーションが初めて使用したチェレスタという全く新しい楽器を発見する。

 チャイコフスキーは、この楽器のサンクトペテルブルクへの輸送を指示する際、手紙の中で「私はこれ(チェレスタ)を誰にも見せないことを希望します」と書いている。「リムスキー=コルサコフやグラズノフがこの楽器を知って、私より先にその独特の効果を使うことを恐れているのです」。特筆すべきは、この手紙に書かれている二人が、ロシアの超有名な作曲家であることだ。

 チャイコフスキーは「金平糖の妖精の踊り」の音楽でチェレスタを使用した。




様々な反応

 チャイコフスキーは、このバレエの原稿を「熱に浮かされたように急いで」、そして自分の力量に「常に疑問を抱きながら」仕上げたと回想している。

想像力の衰えを感じながら、苦労してこのバレエを私は作曲した。

 チャイコフスキーは「『くるみ割り人形』は、前作のバレエ『眠れる森の美女』よりも『比べ物にならないほど酷い』」と嘆いている。



 1892年、振付師プティパは「くるみ割り人形」の仕事を助監督であったレフ・イワーノフに譲った。彼が振付を完成させた。12月に上演されたこのバレエは、非常に複雑な反応を見せた。批評家たちは「子供っぽい」「退屈だ」と言い、また「センスがない」とも非難した。

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関連記事:「今日はジャイブ、明日は反逆罪で訴えられる」:共産主義の弾圧を乗り越え、100周年を迎えたロシアのジャズ。


 それでもこのバレエは上映品目として残り、やがてサンクトペテルブルクを越えていく。1919年、モスクワのボリショイ劇場で「くるみ割り人形」は初めて上演された。その後、何度も改訂され、改訂のたびに物語が微妙に変化している。ボリショイ劇場の芸術監督を長く務めたユーリ・グリゴローヴィチが1966年に上演した「くるみ割り人形」は、最も成功した改訂版のひとつだと多くの批評家は考えている。現在もボリショイ劇場で上演されているが、新年期の公演チケットを入手するのは至難の業だ。

 マリインスキ劇場では、1934年にヴァシリー・ヴァイノーネンが創作した「くるみ割り人形」が現在も上演されているが、新しい舞台では芸術家ミハイル・チェミキンと振付家キリル・シモノフによる現代版も上演されている。

 後者の方が、伝統的な解釈より少し暗い感じがする。グリゴローヴィチ版とヴァイノネン版は、少女マリー(ロシア名マーシャ、クララと呼ばれることもある)が眠りに落ち、くるみ割り人形とネズミの軍団との戦いに参加する夢を見るという甘い童話である。そして、くるみ割り人形は王子に変身し、マリーをお菓子の国へと連れて行く。しかし、ケミキンとシモノフによる改訂版は、大人たちに誤解された孤独な子供の物語である。マーシャは想像の世界に逃げ込もうとし、くるみ割り人形との旅の果てに、巨大なケーキの上で砂糖の置物に変身するのだ。

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世界中で上演される「くるみ割り人形」

 海外の観客に「くるみ割り人形」が紹介されるようになったのは、20世紀に入ってからである。当初は、世界的に有名なバレリーナ、アンナ・パブロワとその一行、そしてセルゲイ・ディアギレフのバレエ・リュス団員によって、バレエの断片が上演されただけだった。ディアギレフは、絶望的な財政状況を打開するために、伝統的なバレエで長期間大当たりする作品を作ろうと考え、チャイコフスキーの「眠れる森の美女」という別のバレエに賭けることにした。しかし、その作品は成功しなかった。しかし、彼の弟子であるジョージ・バランシンは、「くるみ割り人形」で、大成功を収めることになる。

 一方、バランシンに先立つ1934年には、ロシア革命で国外に逃亡した振付家ニコラス・セルゲイエフがロンドンで「くるみ割り人形」を上演している。現在、英国ロイヤル・バレエ団で上演されているのは、レフ・イワーノフの原振付の伝統に忠実なピーター・ライトの1984年版である。

 アメリカでは、1954年に上演されたバランシン版「くるみ割り人形」が旋風を巻き起こした。1944年、ウィリアム・クリステンセンがサンフランシスコ・バレエ団で上演したのが最初ではない。1944年、ウィリアム・クリステンセンがサンフランシスコ・バレエ団のために上演したものだ。しかし、「くるみ割り人形」を大当たりさせたのはバランシン版であり、今では毎年、全米で圧倒的な成功を収めている。1993年のクリスマス映画「ホーム・アローン」で主演をつとめたマコーレー・カルキンがくるみ割り人形を演じた際にも、この改訂版が使用された。




「キャンセル文化」の犠牲

 これだけの成功を収め、100年以上の歴史を持つにもかかわらず、「くるみ割り人形」は最近、「キャンセル文化」に苦しむ古典芸術作品の仲間入りをした。2021年、ベルリン国立バレエ団は、中国と東洋の踊りをめぐる懸念から、このバレエをクリスマスの上映品目から除外した。この演目には「人種差別的な要素」が含まれていると懸念したのだ。同じ年、スコットランド・バレエも いわゆる「文化を不適切な固定観念で捉えること」の排除に取り組むことを決めた。この目的のために、中国とアラビアに影響を受けた場面の衣装と振付を更新し、「風刺的要素を取り除く」ことにした。

 しかし、さまざまな葛藤や障害があっても、「くるみ割り人形」は世界中の舞台からすぐに消えることはなさそうである。その成功の秘密はどこにあるのだろうか。ソ連初期の重要な振付師で、革命後のクラシックバレエの遺産を多く残したとされるフョードル・ロプーホフは、このように説明している。「「くるみ割り人形」は非常に複雑だ。問題は、この物語をどう演じるかではなく、どう解釈するかです。その深みに沈み込んでゆくことです。そうしないと失敗しますよ」。

アメリカ外交政策のジレンマ。危険な状況だ。第三次世界大戦の危機が迫っている

アメリカ外交政策のジレンマ。危険な状況だ。第三次世界大戦の危機が迫っている

<記事原文 寺島先生推薦>

America’s Foreign Policy Dilemma. A Dangerous Situation. The Risk of World War III is Real

‎ポール・クレイグ・ロバーツ博士‎

‎グローバルリサーチ、2021年12月20日‎

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年1月12日



 アメリカの外交政策は、アメリカ例外主義の傲慢さに満ちていて、危険な状況を認識できていない。 

 ‎‎そして、危険な状況が、我々を待っている。‎

‎ ‎‎ロシアのセルゲイ・リャブコフ‎‎副外相‎‎は、NATOのロシア国境に向けたこれ以上の拡大を、ロシアは容認できないことを明らかにした。‎

 ロシアは、ウクライナとグルジアの旧ロシアの共和国が、北大西洋条約機構(NATO)加盟国になることを問題外とした。この赤い線が無視されれば、その結果は「悲惨なことになるだろう」と‎‎リャブコフは述べた。さらに、ロシアは軍事的に対応するだろうし、安全保障を損なうのはロシアではなく、西側であると彼は言った。‎

 言い換えれば、クレムリンが見ているように、ウクライナやグルジアを北大西洋条約機構(NATO)に組み込むことは、ロシアの国家安全保障にとって容認できない脅威である。もうお終いだ。交渉の可能性はない。‎

 合理的な世界だったら、極超音速核ミサイルを搭載し、優れた軍事力を持った国によるこのような明確な声明は、真剣に受け止められるだろう。‎

 しかし、欧米の世界はもはや合理的ではない。傲慢さに酔っている世界だ。北大西洋条約機構(NATO)の事務総長は、事実上、核兵器を持った国からの最後通告に、そんな強力な国の安全保障上の懸念を即座に拒絶することによって答えた。

 愚かなNATO事務総長は、「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟するかどうかは、ブロックの加盟国とその指導者次第であり、ロシア政府は決定に関与できない」と愚かにも述べ、NATOはロシアの反対にほとんど気にもとめず、NATOは「すでにウクライナ軍を訓練し、彼らと協議し、合同演習を行い、軍事物資と技術を提供している」と自慢げに続けた。‎

So NATO, so drunk on exaggerated American military power, spit in the Kremlin’s eye

 ‎バイデン大統領と国家安全保障会議に答えてホワイトハウスの報道官は、アメリカ政府は北大西洋条約機構(NATO)の拡大について「妥協しない」と述べ、ロシアが何を要求しようが、アメリカ政府はNATO拡大を停止する考えはないと付け加えた。‎

 ‎このこととその結末を、しっかり確認しておこう。言い換えれば、‎‎ワシントンの立場は、ロシアが、ワシントンによって定められた以外は、正当な国家安全保障上の権益を持っていないということである。

 ここには、かなり危険な状況がある。足を踏まれている方が、「我慢できない」と言っているのに、 踏んでいる方が踏まれている方に、「その問題について何も言う権利はない」と言っているようなものだ。‎

 20世紀の冷戦中、私たち冷戦戦士はソ連が何かことばを発すれば、一言一句、抑揚まで聞き逃さないよう耳を傾けた。当時は愚か者が耳栓をしていたり、男気を見せびらかしたいがために核戦争の危機を招くことなどは問題外だった。当時、米国の大学には、軍・安保複合体からの資金援助に依存していないロシアの研究部門があった。公開討論もあった。ロシア人が状況をどのように見たかを皆に気づかせるために、スティーブン・コーエンのような独立した専門家が常にいた。‎

Russia Has Western Enemies, Not Partners 

 ‎今日、独立した学識は消え去った。大学でのロシア研究プログラムは、援助資金に従属してみんなロシア嫌いだ。客観的な学者がいないので、米国の情報コミュニティには見識のある人がいない。バイデンの国家安全保障担当補佐官ジェイク・サリバンの最近の声明では、米国の情報機関はプーチンがウクライナ侵攻を「真剣に考慮している」と報告しているのだ。‎

 ‎ワシントンは、2014年以来、こう言っている。クリミアのロシア海軍基地を押収する過程で、ロシアに友好的なウクライナ政府をワシントンが倒した時からだ。凝り固まったメッセージだ。考察はない。プロパガンダの繰り返しだけ。だから、我々には、プロパガンダの繰り返し以外に何もできない国家安全保障会議があるだけだ。

 事実上、アメリカ政府はすでにロシアと戦争をしている。‎

 一方、先週の木曜日12月16日の夕方、ワシントンとそのネオナチ・ウクライナの操り人形は、ワシントンとウクライナが失地回復論者のナチズムであるというロシアの疑惑を確認することとなった。つまり、ナチズムを非難する国連決議に反対票を投じたのは2カ国だけだった。そう、それは米国とウクライナだった。米国の投票が全く愚かなものであることは並外れている。ワシントンがナチズムを支持していることは、ロシア政府が全く思いもよらなかったことだ。‎

 私の世代は、イデオロギーで教え込まれずに西洋で教育を受けた最後の世代であり、第一次世界大戦と第二次世界大戦に関する嘘にもうんざりしていた。‎

 これに続く世代は、ドイツ占領下の西ウクライナでは、大規模な軍隊が組織され、ドイツ軍のロシアへの進撃に組み込まれたことをほとんど知らない。ロシア政府が裏庭のことを無視してソチオリンピックを楽しんでいる間、ワシントンがウクライナ政府を打倒し、旧ロシア領にアメリカの傀儡国家を設置していたのは、これらの「バンデラズ」(訳注:ステピング・バンデラ。第二次世界大戦後ソ連に組み込まれたウクライナの独立に向けて動いていた人物)の残滓だった。‎

 人々が犯す過ちは、どんな采配が取られたかで見るよりも、世界史を振り返る方が正しく捉えることができる。

 ‎私は、四半世紀、高官レベルに参加してよく知っているが、ワシントンが致命的な間違いを犯しているのがわかる。ワシントン政権は傲慢さに満ちているので、ロシアが忍耐力を使い果たしたことを理解できない。‎

 ロシア人は現実の問題を見ている。ワシントンが見ているのはプロパガンダの機会だ。これは、ワシントンの誤算につながる状況だ。誤算は致命的になる。

 この記事の続報

‎ アメリカでは、ロシア嫌いが暴れ回っている。‎

 政権はプロパガンダのスピーカーのように、ロシアがウクライナ侵攻の寸前であると毎日繰り返している。‎

 長い間ロシアを敵とみなすように仕込まれたアメリカ国民は、この主張を何度も聞いてきたが、それが現実となっている。‎

 傲慢なバイデン政権はロシアの安全保障上の懸念を拒絶しており、共和党も変わりはない。ロシアに対する盲目的な好戦性が高まっている。共和党の上院議員も、プーチンがウクライナに侵攻し、「ウクライナの人々の主権を奪う」つもりだというプロパガンダに加勢している。(ワシントンは、2014年に選挙で選ばれたウクライナ政府を倒し、キエフに傀儡国家を打ち立てたとき、すでにそう言っていた。‎)

 共和党は、「勇敢なウクライナ軍」にさらに4億5000万ドルの武器支援をせき立てている。そして、おまけに、共和党はロシアをテロリスト国家に指定したがっている。‎

 ウクライナ危機は、法案を支持する共和党が軍・安保複合体と密接に結びついているように、一部は兵器売買市場計画である。しかし、誰もが、ワシントンへの信頼がゼロになったクレムリンへの影響を見落としている。

 クレムリンの安全保障上の懸念に、アメリカ政府が無関心であるため、クレムリンはおそらく最終段階になると見て、2つの戦略的核ミサイル部隊に戦闘準備を命じた。さらに、ロシアは北極海ルートを閉鎖し、米国の地平線上のレーダーを妨害するために無線工学部隊と電子ドームを配備した。黒海で米海軍の挑発が続けば、ロシアは黒海も閉鎖するかもしれない。‎

 一方、ワシントンが武装したネオナチ・ウクライナ大隊は、ドンバスのロシア人との対決をエスカレートさせている。‎

 ワシントンは、厄介な退却か、それとも大規模な対決のために準備している。‎ワシントンに残されたカードはほとんどない。


以下の記事も参照してください。‎

https://www.paulcraigroberts.org/2021/12/13/the-biden-putin-talk/ 

https://www.paulcraigroberts.org/2021/12/14/russia-speaks-can-the-dumbshits-in-washington-hear/

https://www.paulcraigroberts.org/2021/12/16/cuban-missile-crisis-redux/ 

https://www.paulcraigroberts.org/2021/12/16/washington-spits-in-the-kremlins-eye/ 

 

なぜロシアは西側を発狂させるのか?ーヨーロッパのロシアから、ユーラシアのロシアへ

<記事原文 寺島先生推薦>

Why Russia Is Driving the West Crazy

ペペ・エスコバー(Pepe Escobar)
グローバル・リサーチ
2021年2月11日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年3月10日


 この記事の元記事は、アジア・タイムズで掲載されたものだ。

 後の歴史家はこの日を、普段は冷静沈着なロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、ついに堪忍袋の緒を切らした日だと記述するかもしれない。

 「ロシアは欧州連合が一方的で不当な制裁を課そうとするすることに慣れきってしまっているが、ここまで来たら、ロシアとしては、欧州連合は信頼のできるパートナーではない、と言わざるをえなくなっています」

 ジョセップ・ボレル
欧州連合外務・安全保障政策上級代表は、モスクワを公式訪問中に、ラブロフ外相からきつい一撃をお見舞された。

 普段は完全な紳士であるラブロフ外相は、さらにこう付け加えた。「間もなく開催される欧州連合(EU)の戦略会議の議題の中心が、欧州連合にとっての利益とは何なのかについてとなり、この会談がロシアと欧州連合の結び付きをより建設的なものに変える内容になることを私は願っています」

 ラブロフ外相が言及していたのは、来月開催される欧州理事会における各国元首の話し合いのことだった。その場で、元首たちはロシアについて話し合うことになるだろう。ラブロフ外相は「信頼できないパートナーたち」が責任ある大人の振る舞いを見せるなどという幻想は夢にも抱いていないだろう。


 ラブロフ外相がボレル代表との面会の冒頭で語った内容には、さらに深く興味を引かれる内容があったのだ。「私たちが直面している主要な問題は、ロシアと欧州連合の間は正常さを逸している、ということです。私たちロシアと欧州連合はユーラシアにおける二大勢力です。この二つの勢力の関係が良くない関係にあることは、誰の得にもならないのです」

 ユーラシアにおける二大勢力。(斜字体は筆者による)。このことばは今は、置いておこう。後でまた触れる。

 現状では、EUは「良くない関係」をさらに悪化させざるをえなくなっているようである。ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、EUのワクチン・確保ゲームで記録的な大失態を犯してしまった。同委員長がボレル代表をモスクワに派遣した一番の理由は、欧州の複数の企業にスプートニクⅤワクチンを生産する権利を授与してくれるようロシア政府に依頼するためだった。スプートニクⅤの生産は間もなくEUによって承認されることになるだろう。

 それでもまだ、EUの役人たちはヒステリーに取り憑かれるほうを好むようで、NATOのスパイであり、有罪判決を受けているアレクセイ・ナワリヌイ(ロシアのグアイドと呼んでいい人物だ)の奇妙な行動を擁護している。

 さて、大西洋の向こう側では、「戦略的防衛」という名目で、米国戦略軍提督チャールズ・リチャード司令官は、うっかり口を滑らした。「我々とロシアや中国との間に地域紛争が起これば、即刻、核兵器が使われる戦争になってしまうことは十分ありえることだ。なぜなら中露が核兵器を使わなければ敗北し、政権や国家の運営が危機的状況になるからだ。」

 つまり、来たるべき、そして最終戦争の原因は、ロシアや中国の「破壊的な」行いのせいにされることにあらかじめ設定されている、ということだ。さらに中露がともに「敗れる」ことも前提になっている。それで、両国がカッとなって核戦争にうってでる、というシナリオだ。 そうなると、米国防総省はただの被害者だということか。結局、ミスター・米国戦略軍氏が言いたかったのは、我々は「冷戦からまだ抜け出せていないんだ」ということなのだろう。

 アメリカ戦略軍(STRATCOM)の政策立案者が、超一流の軍事分析家アンドレ・マルチアノフの書いた記事を読むことはまずないだろう。マルチアノフは長年、(核兵器ではなく)超音速機開発の最前線で何が起こっているのか、そしてその超音速機が戦争の形を変えてきたことについて詳しく取材してきた人物だ。

 技術的な分析を詳細に述べたあと、マルチアノフが明らかにしたのは以下のことだ。

 米国は現時点でよい選択肢は持てない。全く、だ。少しマシな選択肢は、ロシアと話し合いを持つことだ。
 しかしその際、地政学的な野望など持ってはいけないし、ロシアに中国との同盟関係を「破棄させる」ことができるという甘い夢を持ってもいけない。ロシアにそんなことを申し出ることができるような条件は、米国には何もないのだ。
 そうではなく、ロシアと米国は、最終的に、お互いの地政学的「覇権」について平和的に折り合いをつけ、もうひとつの椅子を中国に差し出し、中露米という三大国で覇権を分かち合い、今後の世界支配しようとの方法を話し合う、という方法ならとれるかもしれない。このやり方しか、米国が新しい世界秩序の中で影響力を持ち続けられる方法はない。

キプチャックハン国(金帳汗国 Golden Horde)の爪痕


 EUがロシアとの「良くない関係」を見直すチャンスを逃しているのと同じく、米国のディープ・ステート(裏国家、闇の政府)も、マルチアノフの話に耳を貸そうとするようすは全く見えない

 これから先も以下のような状況は避けられないだろう。ロシアに対する制裁は永遠に続く。NATO軍のロシア国境付近への拡張も永遠に続く。ロシアの周りの国々をロシアの敵国に変換することも。米国政府が、ロシアの内政問題に関与してくることも永遠に続く。そのため、ロシア国内に第5列の勢力(内部の撹乱者)を配置する。完全な規模での情報戦争も永遠に続く。

 ラブロフ外相がますますハッキリさせているのは、ロシア政府はそれ以上のことは何も期待していないことだ。しかし、その証拠は日に日に積み重ねられていくだろう。

 ノルドストリーム2は完成するだろう。制裁を受けようが、受けまいが。そしてドイツとEUには、必要以上の天然ガスが供給されるだろう。有罪判決を受けた詐欺師ナワリヌイ(彼に対するロシア国内の「人気度」はたった1%だ)は、牢獄につながれたままだろう。EU中の市民たちはスプートニクⅤのワクチンを接種するだろう。中露の戦略的同盟関係は、これから先も強化され続けるだろう。

        「ノルドストリーム2」:バルト海底を経由してロシア・ドイツ間をつなぐ天然ガスのパイプライン)

 なぜ私たちがロシア嫌いという醜い境地に追いやられてしまったかの理由を理解させてくれる指南書がある。その著書のタイトルは『ロシアの保守性』だ。これはノルウェー南東大学の客員教授であり、ロシア国立研究大学経済高等学院の教員でもあるグレン・ディーセンが、新しい政治的哲学に基づいて書いた非常に面白い本である。ディーセンは、私にとって他ならぬ、モスクワ在住の相談相手の1人でもある。

 ディーセンは大事なことを焦点化して書き始めている。それは、地理と地形と歴史だ。ロシアには広大な大地があるが、その割には海運に乏しい。ディーセンによると、ロシアでは地理的に、以下の三点が育まれてきた、とのことだ。それは、①専制政治を特徴とする保守的な政体。②野望的であるが複雑でもある国粋主義。③ギリシャ正教による支配の受容の三点だ。これらは一言でいえば、「徹底した政教分離」に対してはある種の抵抗感を保持していた、ということを示唆しているのかもしれない。

 常に念頭に置いておくべきことは、ロシアには国境を隔てる自然物が存在しないということだ。であるので、ロシアは、スウェーデンや、ポーランドや、リトアニアや、モンゴル帝国のキプチャック汗国や、クリミアのタタール人や、ナポレオンから侵略され、占領された過去を持つのだ。そして言うまでもなくナチスによる激しい侵攻も体験している。

READ MORE: Back in the (Great) Game: The Revenge of Eurasian Land Powers

 このような状況を表す言葉はあるだろうか?全てを表す言葉がロシア語にはある。それが、「безопасность(ベズ・オパースノスチ=ベゾパースノチ、[国家の]保安」だ。この言葉の意味は偶然にも否定を表す言葉だ。безは「~がない」という意味であり、опасностьは「危険」という意味だ。

 ロシアが、複雑で独特な形で形成されたという歴史は、深刻な問題を生み出してきた。ロシアはビザンツ帝国と親密な関係にあった。しかし、ロシアが、「自分たちは、コンスタンチノープルから帝国の権利を授かったのだ」と主張すれば、ロシアはビザンツ帝国を征服しなければならないことになってしまう。また、自分たちは、キプチャック汗国の後継者であり、キプチャック汗国の役割や遺産を引き継いでいると主張すれば、ロシアはアジアにおける勢力しか維持できない事になってしまう。

 ロシアが近代化するにあたり問題になったことは、モンゴル人による侵略は、地理的な分裂を引き起こしただけではなく、政体においても、モンゴルの影響が残ってしまっていたことだった。「モンゴルの遺産を引き継ぐことで、ロシア帝国は、専制政治を行うことが必要条件になり、さらに領土は広いが、地域の結び付きが乏しいという課題を抱えたユーラシアの帝国になったのだ」

        「キプチャック汗国」:モンゴル帝国の四ハン国の一。「欽察汗国」「金帳汗国」とも書く。1243年、チンギス=ハンの孫バトゥ(抜都)がキルギス草原にロシアのキプチャク草原を加えて建国。都はボルガ河畔のサライ。14世紀前半に最も繁栄したが、のちチムール帝国の創始者チムール(帖木児)に圧迫されて衰退し、1502年に滅んだ。)

「東と西の巨大なせめぎあい」


 ロシアというのは、ユーラシアの東側的要素と西側的要素とのせめぎあいが全ての国だといえる。ディーセンは、ニコライ・べルジャーエフのことを思い起こさせてくれている。ベルジャーエフは、二十世紀の代表的な保守派のひとりであり、すでに1947年の時点で、こんなことばを残している。
 「ロシア人の精神の不安定さや複雑さは、ロシアには世界史におけるふたつの潮流、西側的要素と東側的要素があるからかもしれない。このふたつの要素がせめぎあい影響しあって、ロシアは世界の中で独特な社会を形成しているのだ。そう、西側的要素と東側的要素がせめぎあう国なのだ」

 シベリア鉄道が建設されたのは、ロシア帝国内の内部の結び付きを強化し、帝国がアジア地域にも勢力を伸ばすための大変革だった。「ロシアの農地開拓が東に拡張されることにより、ロシアは、それまでユーラシアを支配し結び付けていた古い道をどんどん取りかえていったのだ」

 感嘆を覚えるのは、ロシア経済の発展が、マッキンダーのハートランド理論に落とし込まれるさまを見ることだ。ハートランド理論とは、世界支配のためには、巨大なユーラシア大陸を支配下に置く必要があるという理論だ。マッキンダーが恐れていたのは、ロシアの鉄道網が、海運国家である英国の権力構造全体の弊害になることであった。

 ディーセンがさらに明らかにしたのは、1917年のロシア革命後に亡命した人々の間で1920年代に起こったユーラシアニズムという潮流が、実はロシア保守主義の進化したものである、という事実だ。

 ユーラシアニズムは、いくつかの理由のせいで、政治的な潮流としてひとつにまとまったことは一度もなかった。ユーラシアニズムの核は、ロシアは単なる東欧国家のひとつではないと捉えることだ。13世紀のモンゴルによる侵略と、16世紀のタタール王国による侵略を経て、ロシアの歴史と地理をヨーロッパのものとしてだけでとらえることはできなくなった。これから先の時代は、よりバランスの取れた見方が必要となるだろう。そう、ロシアのアジア的要素も加味すべきなのだ。

 ドストエフスキーは賢明にも、誰よりも先んじそれを行っている。1881年のことだ。

 「ロシア人はヨーロッパ人であると同時にアジア人である。ここ二世紀、我々が政策上おかしてきた誤りは、ヨーロッパの人々に、我々こそ真のヨーロッパ人であると考えさせようとしてきたことだ。我々はヨーロッパ人たちにへつらいすぎてきた。ヨーロッパ内部の問題に口を挟みすぎてきた。我々はヨーロッパ人の前ではまるで奴隷のように振舞ってきた。そしてその結果得られたものは、ヨーロッパ人からの憎しみと蔑みだけだった。さあ、そんな礼儀知らずのヨーロッパから顔を背けよう。我々の未来はアジアにある」

 賛否両論はあるが、レフ・グミリョフ(ソ連の歴史家、民俗学者、人類学者)はユーラシアニズム論者の若い世代の中のスーパースターだ。
      ユーラシアニズム:ロシア新ナショナリズム、地政学的観点からヨーロッパ人でもアジア人でもないロシア人に思い描かせる強いロシア「ユーラシア連合」構想。

 グミリョフの主張によれば、ロシアは、スラブ民族、モンゴル民族、トルコ民族という三つの民族が自然に衝突する中でつくりだされた、とのことだ。
 1989年に出版された『古代ルーシとユーラシア・ステップ』で、グミリョフはソ連崩壊後のロシアに計り知れないインパクトを与えた。
 実は私自身もソ連崩壊直後のロシアを直接知っている。1992年の冬、シベリア鉄道に乗ってモスクワに行ったのだ。そこで、出迎えてくれたロシアの友人たちから話を聞いたことがある。

 ディーセンがそう捉えているのだが、グミリョフが提供してくれているのは第三の方法だった。それはヨーロッパ主義でもなく、ユートピア的国際人道主義でもない。レフ・グミリョフという名を冠した大学が、カザフスタンに建設されている。プーチンはグミリョフを評してこう言っている。「現代の偉大なユーラシア人だ」と。

 ディーセンはジョージ・ケナンのことさえも想起させてくれている。ケナンは1994年にロシアの保守派の結末をこう捉えていた。「この国は、悲劇的な傷を負い、精神的にも打ちのめされた」と。2005年に、プーチンはもっと厳しい評価をしている。

 「ソ連崩壊は二十世紀最大の地政学的な惨事だった。ロシアの人々にとっては本当に悲劇だった。昔からの理想が破壊されてしまった。多くの組織が解体され、ただ急いで再建された。節度のない情報が垂れ流され、オリガルヒ(新興財閥)集団が自社の利益だけのために動いていた。大衆の貧困は当たり前のことと受け止められるようになり始めた。これら全てのことが、最も厳しい経済不況や、不安定な金融や、社会の進歩の麻痺につながっていた」


「権威的民主主義」の導入

 さて、ここからは、1990年代以降の非常に重要なヨーロッパ問題について語ろう。

 1990年代には、大西洋主義者たちの先導により、ロシアの外交政策は「拡大されたヨーロッパ」という概念に基づいて行われるようになった。その考えは、ゴルバチョフの「欧州共通の家構想」がもとになっている。
      「大西洋主義または汎大西洋主義」: 西欧と北米各国の政治・経済・軍事における協調政策。その目的は、参加国の安全保障および共通の価値観を守ること
        「欧州共通の家構想」: 軍事同盟・経済同盟によって対立が続いていた東西ヨーロッパの分断状況を克服し、ヨーロッパに統一された一つの共同体をつくるべきであるとしたもの


 そして、冷戦後のヨーロッパでは、NATOが終わることのない拡張を始め、EUが生まれ、そして拡大していった。リベラル派が見せたこのような曲芸は欧州全てを巻き込んでいたが、ロシアは締め出されていた。

 ディーセンはこの全過程を上手に一文で要約してくれている。
 「新しいリベラルなヨーロッパは、海運国家である英米による支配の代表者である。マッキンダーの目的は、独露関係を全く成り立たせないことであり、この二国が共通の利益のもとで繋がることを阻止することだった」

 だからこそ、その後プーチンが「灰色の枢機卿(政権を裏で動かす人)」や「新ヒトラー」と揶揄されるようになったのは何の不思議もないことなのだ。プーチンはロシアが単なるヨーロッパの見習い学生になることをキッパリ拒絶したのだ。そしてもちろんヨーロッパの(新)自由主義による覇権に対しても、だ。

 それでもプーチンは依然として善良な振る舞いを保ってきた。2005年に、プーチンはこう強調している。「何よりも、ロシアが、過去もそうだったし、今もそうだし、これからもそうなのだが、ヨーロッパの大国のひとつであることは当然のことだ」と。プーチンの望みは、権力政治とリベラル的な考え方を切り離すことだった。リベラル派による覇権という基盤を拒絶することによって。

 プーチンが言っていたのは、民主主義にはひとつしか型がないわけではない、ということだった。後に概念化されたのだが、これが「権威的民主主義」だ。民主主義は権威なしには成り立たないという概念だ。この考えに立てば、ヨーロッパ諸国の「監視」の元で民主主義を普及させる必要はなくなるのだ。

 ディーセンの厳しい見立てによれば、ソ連が「真の意味で、左派としてのユーラシアニズムを大事にする国であったとすれば、その遺産は今の保守的ユーラシアニズムに移行できたかもしれない」とのことだ。ディーセンは、時に「ロシアのキッシンジャー」とも評されるセルゲイ・カラガノフの見解を記述している。
 カラガノフによれば、「ソ連は脱植民地主義の中心であり、西側から、軍事力を使っても世界を意のままに動かす力を奪うことにより、アジアの国々の発展に手を貸してきたのだ。そしてそのような軍事力を背景とした世界支配を、西側は16世紀から1940年代まで続けていたのだ」

 このことは、グローバル・サウスの国々(ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアの国々)に広く知れ渡っている。


ヨーロッパは、ユーラシアのただの西の外れになる

 さて、冷戦が終わり、「拡大されたヨーロッパ」構想もうまくいかなかったため、「拡大されたユーラシア」を打ち立てるためにロシア政府がアジア基軸戦略に移行するという流れは、歴史上避けられない潮流だったといえる。

 この論法に非の打ちどころはない。 ユーラシアの二大経済の中心地と言えば、ヨーロッパと東アジアだ。ロシア政府はこの二地域を経済的に結びつけ、超大陸経済網を実現しようと望んでいる。この構想が、拡大されたユーラシアという概念で中国の一帯一路構想と繋がる。しかしロシアにとっては、別の次元でもうひとつの利点が得られる。ディーセンはそのことをこう記述している。「従来の権力の中枢から離れて、地域作りという新しい中心課題が生まれるのだ」と。

 ディーセンが強調しているのは、保守的な観点からすれば、「拡大されたユーラシアの政治的な経済があれば、ロシアはこれまでの西側に対する執着心から解き放たれ、ロシアの近代化への道は、ロシアそのものから樹立できることになる」ということだ。

 そうなれば、次のような発展に繋がる。①戦略産業②幹線の接続③金融商品④ロシアのヨーロッパ側とシベリアや太平洋側を結び付けるインフラ整備計画だ。これらは全て産業化された保守的な政治経済という新しい概念の元に進められることになる。

 中露の戦略的協調関係はまた期せずして上記の地政学的分野のうちの3点①戦略産業・基盤技術②幹線の接続③金融商品で活性化されよう。

 このような状況は再びある議論を呼び起こすことになる。至高の定言命法の問題だ。すなわち、ハートランド理論と海運立国理論、どちらをとるかという議論だ。

        「定言命法」:カント倫理学における根本的な原理であり、無条件に「~せよ」と命じる絶対的命法である。定言的命令とも言う。
      「ハートランド理論」:ユーラシア大陸の心臓部を支配する国が世界を制覇できる、というマッキンダーが唱えた理論。ユーラシア大陸の心臓部を支配する国は、そこがいかなる海軍の攻撃も受け得ない「聖域」なので、そこを押さえることができれば世界を制することができる、というもの。以下の地図を参照。
        「海運立国理論」:アルフレッド・マハンの海上権力理論。軍事活動の分野だけでなく、平和時の通商・海運活動をも含めた広義のシーパワー理論。




 過去のユーラシアの三大勢力といえば、スキタイ族と、フン族と、モンゴル民族だ。これらの勢力が脆く長続きしなかったのは、勢力範囲が、ユーラシアの海回りの国境まで届かず、海回りを支配下におさめることが出来なかったからだ。

        「スキタイ族」は、イラン系遊牧騎馬民族および遊牧国家。ユーラシアでは紀元前9世紀~紀元後4世紀、中央アジアのソグディアナでは紀元後12世紀まで活動していた。
        「フン族」は、4世紀から6世紀にかけて中央アジア、コーカサス、東ヨーロッパに住んでいた遊牧民。
      「モンゴル民族」は、7世紀から歴史上に登場し、13-14世紀にモンゴル帝国を築いた民族。現在はモンゴル国と中華人民共和国の内モンゴル自治区、ロシア連邦構成国のブリヤート、カルムイクなどにその多くが住んでいる。


 そして、ユーラシアにおける四番目の巨大勢力が帝政ロシアであり、その後継者のソビエト連邦だった。ソ連崩壊の重要な要因は、繰り返しになるが、ユーラシアの海回りの国境まで勢力が届かず、海回りを支配下におさめることが出来なかったからだ。

 米国はそれを阻止するため、マッキンダー(ハートランド理論)やマハン(海運立国理論)やスパイクマン(地理の知識が最重要)の主張を組みあわせた戦略を採用したのだ。米国のこの戦略は、スパイクマン・ケナンの封じ込め作戦という名でさえ知られるようになった。これらの作戦は、ユーラシア大陸、つまり、西欧、東欧、東アジア、中東の全ての海周りにおける「前方展開」作戦である。

        「ニコラス・スパイクマン」:弟子にはまず第一に地理の知識を叩き込ませたという。地理の知識なしに地政学を理解するのは不可能だからである。
        「ジョージ・ケナン」:アメリカの外交官、政治学者、歴史家。1940年代から1950年代末にかけての外交政策立案者で、ソ連封じ込めを柱とするアメリカの冷戦政策を計画したことで知られる。
        「前方展開」:第二次大戦後の冷戦期に米国が採用した軍事戦略。欧州や東アジア・太平洋地域の友好国に駐留軍を配置し、敵対関係にあった旧ソ連による侵攻や威圧を抑止するというもの。


 今となっては、周知の事実だが、米国の海外戦略(それが、米国が第一次世界大戦と第二次世界大戦、両方にに参戦した理由だったのだが)は、ユーラシア大陸を席巻する覇権の誕生を阻止することだったのだ。そうだ、どんな手段を使っても、ということだ。

 覇者としての米国については、「偉大なるチェス盤」という威名をもつズビグネフ・フレジンスキー博士が、1997年に、欠くべからざる帝国的傲慢さをもって、大雑把に次のように概念化した。「隷属者同士の癒着を防いで安全保障上の依存関係を維持してやり、属国を手なずけ保護してやり、野蛮人が集まらないようにすることだ」。古き良き「分断して統治せよ」作戦を、「システムの優越性」を介して適用したものだ。

 しかし、このシステムこそが、いま崩壊しようとしているのだ。世界覇権を目指すお馴染みの連中にとっては大きな絶望を呼ぶことになった。ディーセンによれば、「過去においては、ロシアがアジア重視のスタンスをとることは、ロシア経済に弊害を生むことになり、ヨーロッパの大国としてのロシアの地位を消してしまうと考えられていた」とのことだ。しかし「地政学的な経済の中心地が東アジアや中国に移行している現状では、全く新しいゲームが始まろうとしている」と。

 四六時中、米国は中露を悪魔化し、米国の手下であるEU各国が、ロシアとの関係を「良くない関係」にすればするほど、ロシアはますます中国との連携を強めることにしかならない。そうなると、たった二世紀しか世界覇権を手にしていない西側は重大な岐路に立たされ、その覇権は、アンドレ・グンダー・フランクが結論づけていたとおり、終末を迎えることになるだろう。
      アンドレ・グンダー・フランクは、ドイツ生まれの経済歴史家、社会学者であり、1960年代に提唱された従属理論の生みの親の一人と認識されている。
        従属理論は、低開発国が貧困から抜け出せないのは、先進国に従属しているからであり、後進国が貧困から抜け出すには、先進国(中枢国)との関係を断ち切って保護貿易をおこなうしかないとしたもの。その例が、日本の江戸・明治時代だという。これがフランクの考え。

 ディーセンは、あまりに楽観的すぎる見方かもしれなが、こんなことを期待している。「ユーラシアの台頭という潮流の中で、ロシアと西側との関係も完全に変化するだろう。西側がロシアと敵対しようとするのは、ロシアには他に行くところがないから我々西側が差し出す「協調」を必ず受け入れる、という考えからくるものだ。しかし東方の台頭は、ロシアの協調関係を結ぶ選択肢を多様なものにし、ロシア政府と西側の関係を根本的に変えることになるだろう」と。

 少し気の早い話になるかもしれないが、独露関係について一言述べておこう。ロシアが、拡大されたユーラシア政策をとれば、ロシアはドイツに対して「ロシアと組んでハートランドを形成する」か、「ロシアの提携先を中国に任せてしまう」かの二者択一を提示できることになる。もしドイツが後者を選べば、歴史においては世界の脇役的役割しか果たせなくなるだろうが。もちろん、可能性としては針の穴を通すような確率しかないが、ドイツ-ロシア-中国が三国同盟を結ぶという方法もある。いつの時代もハッと驚かさせるようなことは起こってきたのだから、その可能性もゼロではないだろう。

 現時点で、ディーセンはこう確信している。「ユーラシアの陸の力(地上兵力)が、最終的にはヨーロッパとユーラシア内部の他の国々を組み込むことになる。政治的な忠誠心も、経済利益が東方に移動するにつれ徐々に変わっていくだろう。そうなれば、拡大されたユーラシア的観点から見れば、ヨーロッパは次第に、ただの西の外れにしかならなくなっていく」と。

 ロシアと「良くない関係」にある、西の外れの行商人たちにとっては、実に考えさせられる話ではないか。

 <訳注> 翻訳にあたっては次の論考も参考になりました。

* タタールのくびき
https://www.y-history.net/appendix/wh0602-056.html

  Pepe Escobar, born in Brazil, is a correspondent and editor-at-large at Asia Times and columnist for Consortium News and Strategic Culture in Moscow.
  Since the mid-1980s he’s lived and worked as a foreign correspondent in London, Paris, Milan, Los Angeles, Singapore, Bangkok. He has extensively covered Pakistan, Afghanistan and Central Asia to China, Iran, Iraq and the wider Middle East.
  Pepe is the author of Globalistan – How the Globalized World is Dissolving into Liquid War; Red Zone Blues: A Snapshot of Baghdad during the Surge. He was contributing editor to The Empire and The Crescent and Tutto in Vendita in Italy. His last two books are Empire of Chaos and 2030.
  Pepe is also associated with the Paris-based European Academy of Geopolitics. When not on the road he lives between Paris and Bangkok.

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