グローバリゼーションは終焉し、2023年のダボス会議はその葬儀となる、と有識者たちは見ている。
<記事原文 寺島先生推薦>
Globalization Has Died and Davos 2023 Was Its Funeral Ceremony, Scholars Sum Up
筆者:エカテリーナ・ブリノバ(Ecaterina Blinova)
出典:スプートニク
2023年1月21日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年2月8日

© AFP 2023 / FABRICE COFFRINI
世界経済フォーラムの2023年の年次総会が、2023年1月16日~23日にダボスで開催された。国際社会に詳しい2名の専門家が、スプートニクの取材に応じ、この会合の主題について簡単に説明してれくれた。
「今年の年次総会の主題は、世界の新しい状況についてでした。すなわち、分断され、不満に満ちている険しい状況についてです」とワシントンに拠点を置く「世界安全保障分析協会」のギャル・ラフト会長が、当スプートニクの取材に答えた。「ダボス会議は西側の楽屋のような存在になってしまっていて、西側以外の国々からかつてないほど遠のいています。この会議で、世界のほとんどの人々が本当に懸念していることが話し合われることはもはやなくなりました。またこの会議は、気候変動や社会正義や性差別などへの高い人権意識にとらわれているので、世界のほとんどの人々から笑いもの扱いされ、侮蔑の対象にさえなっています。」
世界経済フォーラム(WEF)は、国際的な非政府組織であり、ロビー団体であるが、創設されたのは1971年1月のことで、創設者はドイツの経済学者のクラウス・シュワブである。当初この組織の名称は、「欧州運営フォーラム」であったが、1987年に世界経済フォーラムという名称に変わった。
企業の重役や思想的指導者や著名な政治家たちが一堂に会するこの会議は、グローバリゼーション(世界の一体化)の先頭に立ち、経済における課題や政策上の難問を解決するための世界的な組織になることを目的としている。しかしこの会議は、急速にテクノクラート*のグローバリストから構成されるエリート集団へと姿を変え、世界の残りの人々を支配することが目的となってしまったと指摘する西側の専門家もいる。
* 高度な技術的専門知識を持つ少数の人々からなる階級のこと。
「グローバリゼーションが成り立つには、国際的な機関や基準や規則を受諾することが前提となっていました。それと、モノ、金、情報がある程度自由に行き来できることも、です」とルフト氏は語っている。「これらの点が、ここ数年であやうくなっているのです。その原因の一つ目は米中関係の悪化で、二つ目は欧州での戦争でした。いま世界は二極化する分岐点を迎えています。一つは西側連合とその連合に名ばかりで入っている国々で、もうひとつはそれ以外のすべての国々です。そしてそんな中で、新しい組織や同盟関係、金融手法、通商圏、優先順位が生まれつつあります。」
「第2次世界大戦後の世界に戻ることはできません。さらに今は、グローバリゼーションに深く関わってきた組織や人々を否定する声が大きく上がりつつあります。具体的には、報道機関やダボス会議や娯楽産業などです。脱グローバリゼーションの流れは、文化において亀裂が生じていることからも確認できます。西側の考え方や倫理や「価値観」は、危険で破壊的であるとされ、何十億もの人々から拒絶されつつあります」と米国在住の研究者であるルフト氏は付け加えた。
自立したロシアは、ダボス会議が言う「理想の世界」とは相容れない
ロシアを「敗北」させなければならない、というのがこの会議の中心課題であるようで、ドイツのオラフ・シュルツ首相は、ウクライナで現在進行中の紛争を終わらせるためには、ロシアによる特別軍事作戦が「失敗しなければならない」と言明した。同首相はウクライナに対する軍事支援の規模拡大を求めたが、ベルリンがレオパルド2主力戦車をウクライナに送付することについては言葉を濁していた。 これは、ウクライナ政権やポーランドやフィンランドや英国が同首相に求めていることである。
ハーバード大学教授で、国際通貨基金(IMF)の首席経済学者であったケネス・ロゴフ氏は、自身の発言において、西側は対露経済制裁の規模を拡大するだけではなく、ロシア国内で「政権交代」をおこすような状況を作りだすことをも求めていた。
一方で、サグロマシュ協会代表で、モスクワ経済フォーラム(MEF)の共同議長の1人でありコンスタンチン・バブキン氏がスプートニクの取材に答えている。「このダボス会議の人々は、グローバル諸企業が支配し、各国政府さえその支配下にあるという体制のもとでの世界の一体化を望んでいます。今ウクライナで起こっていることは、ダボス会議の人々が言う理想の世界とは相容れません。多くの多国籍企業がロシアから出ていかなければならなくなったからです。そのため、[ロシアは]これらの西側の企業の支配から脱することになりました。この状況は、ダボス会議の人々が理想の世界だとする状況とは食い違っています。」
ダボス会議に参加者している人々の主張では、ウクライナを支援し、ロシアが確実に西側が設定した規則に従うことが必要であるとしているが、多くの国々はこのような好戦的な主張にウンザリしているとバブキン氏は語った。
世界の一体化ではなく、経済と政治における「生物的多様性」へ
またバブキン氏は、世界が一体化した西側を中心とした世界秩序は、崩壊しつつあり、西側以外の国々は、非同盟体制をとり、自国が考える金融政策、他国との通商、税制度のもとでの発展の筋道を付けつつあるとも述べた。ロシア出身の教授である同氏は、再工業化や自国経済の強化を行えば、世界情勢は安定し、各国による様々な手法での国家運営が可能になるだろうと主張した。
「各国の政治運営や人々や文化に多様性があるというのは好ましいことです」と同教授は国の形を自然界の生物的多様性になぞらえれて述べた。「イランのやり方、インドのやり方、中国のやり方、西側のやり方、それぞれのやり方が生まれ、世界の一体化は拒絶されることになるでしょう。これはいいことだと思います。ロシアは自国経済を発展させる必要があるのですから。イランや中国などの他の大国や国家間組織などに対しても、同じことが言えます。ダボス会議が進めているような世界体制は、不安定だと思います。」
注目すべきことだが、中露を含む主要な発展途上国は、「このダボス会議から距離を取っており、他の国々にも同じように振る舞うことを勧めています」とルフト氏は述べ、これらの国々が、「抵抗勢力」になっているとした。

2022年2月4日、北京での会合でポーズを取るロシアのウラジーミル・プーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(右) © ALEXEI DRUZHININ
「ここ数年で、クラウス・シュワブが表舞台から去ることになることは避けられず、このダボス会議の重要性は損なわれ、スイスに存在する閉鎖的で高額な入会費を取られる集まりのひとつに過ぎなくなるでしょう。実際、この会議への参加費は25万ドルもします」とルフト氏は述べた。「この会議はエリート主義や傲慢さを象徴するものとなっていて、ジョセップ・ボレル欧州連合外務・安全保障政策上級代表が前日述べた言い方を借りれば、ジャングル(西側以外の国々のこと)に反対する庭(西側のこと)の代表でしかなく、西側の優先事項を推し進めるだけの組織になってしまっています。」
バブキン氏は、ルフト氏の主張に共鳴するかのように、ダボス会議が今後、西側の企業の重役や政治家たちの集まりであり続けたとしても、真の国際機関としての役割は終焉し、一部の人々が言っているような「世界政府」などになれることはない、と述べている。
「我々が知っているようなグローバリゼーションは終焉しました。2023年のダボス会議はその葬礼でした」とラフト氏は自分の話を結んだ。
Globalization Has Died and Davos 2023 Was Its Funeral Ceremony, Scholars Sum Up
筆者:エカテリーナ・ブリノバ(Ecaterina Blinova)
出典:スプートニク
2023年1月21日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年2月8日

© AFP 2023 / FABRICE COFFRINI
世界経済フォーラムの2023年の年次総会が、2023年1月16日~23日にダボスで開催された。国際社会に詳しい2名の専門家が、スプートニクの取材に応じ、この会合の主題について簡単に説明してれくれた。
「今年の年次総会の主題は、世界の新しい状況についてでした。すなわち、分断され、不満に満ちている険しい状況についてです」とワシントンに拠点を置く「世界安全保障分析協会」のギャル・ラフト会長が、当スプートニクの取材に答えた。「ダボス会議は西側の楽屋のような存在になってしまっていて、西側以外の国々からかつてないほど遠のいています。この会議で、世界のほとんどの人々が本当に懸念していることが話し合われることはもはやなくなりました。またこの会議は、気候変動や社会正義や性差別などへの高い人権意識にとらわれているので、世界のほとんどの人々から笑いもの扱いされ、侮蔑の対象にさえなっています。」
世界経済フォーラム(WEF)は、国際的な非政府組織であり、ロビー団体であるが、創設されたのは1971年1月のことで、創設者はドイツの経済学者のクラウス・シュワブである。当初この組織の名称は、「欧州運営フォーラム」であったが、1987年に世界経済フォーラムという名称に変わった。
企業の重役や思想的指導者や著名な政治家たちが一堂に会するこの会議は、グローバリゼーション(世界の一体化)の先頭に立ち、経済における課題や政策上の難問を解決するための世界的な組織になることを目的としている。しかしこの会議は、急速にテクノクラート*のグローバリストから構成されるエリート集団へと姿を変え、世界の残りの人々を支配することが目的となってしまったと指摘する西側の専門家もいる。
* 高度な技術的専門知識を持つ少数の人々からなる階級のこと。
「グローバリゼーションが成り立つには、国際的な機関や基準や規則を受諾することが前提となっていました。それと、モノ、金、情報がある程度自由に行き来できることも、です」とルフト氏は語っている。「これらの点が、ここ数年であやうくなっているのです。その原因の一つ目は米中関係の悪化で、二つ目は欧州での戦争でした。いま世界は二極化する分岐点を迎えています。一つは西側連合とその連合に名ばかりで入っている国々で、もうひとつはそれ以外のすべての国々です。そしてそんな中で、新しい組織や同盟関係、金融手法、通商圏、優先順位が生まれつつあります。」
「第2次世界大戦後の世界に戻ることはできません。さらに今は、グローバリゼーションに深く関わってきた組織や人々を否定する声が大きく上がりつつあります。具体的には、報道機関やダボス会議や娯楽産業などです。脱グローバリゼーションの流れは、文化において亀裂が生じていることからも確認できます。西側の考え方や倫理や「価値観」は、危険で破壊的であるとされ、何十億もの人々から拒絶されつつあります」と米国在住の研究者であるルフト氏は付け加えた。
自立したロシアは、ダボス会議が言う「理想の世界」とは相容れない
ロシアを「敗北」させなければならない、というのがこの会議の中心課題であるようで、ドイツのオラフ・シュルツ首相は、ウクライナで現在進行中の紛争を終わらせるためには、ロシアによる特別軍事作戦が「失敗しなければならない」と言明した。同首相はウクライナに対する軍事支援の規模拡大を求めたが、ベルリンがレオパルド2主力戦車をウクライナに送付することについては言葉を濁していた。 これは、ウクライナ政権やポーランドやフィンランドや英国が同首相に求めていることである。
ハーバード大学教授で、国際通貨基金(IMF)の首席経済学者であったケネス・ロゴフ氏は、自身の発言において、西側は対露経済制裁の規模を拡大するだけではなく、ロシア国内で「政権交代」をおこすような状況を作りだすことをも求めていた。
一方で、サグロマシュ協会代表で、モスクワ経済フォーラム(MEF)の共同議長の1人でありコンスタンチン・バブキン氏がスプートニクの取材に答えている。「このダボス会議の人々は、グローバル諸企業が支配し、各国政府さえその支配下にあるという体制のもとでの世界の一体化を望んでいます。今ウクライナで起こっていることは、ダボス会議の人々が言う理想の世界とは相容れません。多くの多国籍企業がロシアから出ていかなければならなくなったからです。そのため、[ロシアは]これらの西側の企業の支配から脱することになりました。この状況は、ダボス会議の人々が理想の世界だとする状況とは食い違っています。」
ダボス会議に参加者している人々の主張では、ウクライナを支援し、ロシアが確実に西側が設定した規則に従うことが必要であるとしているが、多くの国々はこのような好戦的な主張にウンザリしているとバブキン氏は語った。
世界の一体化ではなく、経済と政治における「生物的多様性」へ
またバブキン氏は、世界が一体化した西側を中心とした世界秩序は、崩壊しつつあり、西側以外の国々は、非同盟体制をとり、自国が考える金融政策、他国との通商、税制度のもとでの発展の筋道を付けつつあるとも述べた。ロシア出身の教授である同氏は、再工業化や自国経済の強化を行えば、世界情勢は安定し、各国による様々な手法での国家運営が可能になるだろうと主張した。
「各国の政治運営や人々や文化に多様性があるというのは好ましいことです」と同教授は国の形を自然界の生物的多様性になぞらえれて述べた。「イランのやり方、インドのやり方、中国のやり方、西側のやり方、それぞれのやり方が生まれ、世界の一体化は拒絶されることになるでしょう。これはいいことだと思います。ロシアは自国経済を発展させる必要があるのですから。イランや中国などの他の大国や国家間組織などに対しても、同じことが言えます。ダボス会議が進めているような世界体制は、不安定だと思います。」
注目すべきことだが、中露を含む主要な発展途上国は、「このダボス会議から距離を取っており、他の国々にも同じように振る舞うことを勧めています」とルフト氏は述べ、これらの国々が、「抵抗勢力」になっているとした。

2022年2月4日、北京での会合でポーズを取るロシアのウラジーミル・プーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(右) © ALEXEI DRUZHININ
「ここ数年で、クラウス・シュワブが表舞台から去ることになることは避けられず、このダボス会議の重要性は損なわれ、スイスに存在する閉鎖的で高額な入会費を取られる集まりのひとつに過ぎなくなるでしょう。実際、この会議への参加費は25万ドルもします」とルフト氏は述べた。「この会議はエリート主義や傲慢さを象徴するものとなっていて、ジョセップ・ボレル欧州連合外務・安全保障政策上級代表が前日述べた言い方を借りれば、ジャングル(西側以外の国々のこと)に反対する庭(西側のこと)の代表でしかなく、西側の優先事項を推し進めるだけの組織になってしまっています。」
バブキン氏は、ルフト氏の主張に共鳴するかのように、ダボス会議が今後、西側の企業の重役や政治家たちの集まりであり続けたとしても、真の国際機関としての役割は終焉し、一部の人々が言っているような「世界政府」などになれることはない、と述べている。
「我々が知っているようなグローバリゼーションは終焉しました。2023年のダボス会議はその葬礼でした」とラフト氏は自分の話を結んだ。
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