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SMO(特別軍事作戦)開始から2年。西側は完全にまひ状態

<記事原文 寺島先生推薦>
Two Years After the Start of the SMO, the West is Totally Paralyzed
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:ストラテジック・カルチャー(Strategic Culture) 2024年2月24日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年2月27日


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ちょうど2年前の土曜日、2022年2月24日、ウラジーミル・プーチンはウクライナにおける特別軍事作戦(SMO)の開始を発表し、その目的を説明した。それは、その3日前の2月21日、つまりキエフでのマイダン2014からちょうど8年後、プーチンが共和国を宣言したドネツクとルガンスクを公式に承認したときに起こったことからの必然的な流れだった。

このわずか3日間という短い期間に、ロシア軍が軍事介入し、3週間にわたって前線全域で続いていた大規模な爆撃と砲撃を終わらせるだろうと誰もが期待していた。ロシアの諜報機関は、NATOに支援されたキエフ軍がロシア語圏のドンバスの民族浄化を実行する準備ができているという決定的な証拠を持っていた。

2022年2月24日は、21世紀の地政学をいくつかの複雑な方法で永遠に変えた日だった。とりわけ、ウクライナを戦場とする「カオスと嘘と略奪の米帝国」と、それに簡単になびくNATOの家臣たち、そしてロシアとの間で、ロシア人が言うところの「軍事技術的」な、凶悪で全面的な対決が始まったのである。その戦場がウクライナだった。

プーチンが、この運命の3日間の前にも、そしてその最中にも、自らの決断が西側諸国の怒りを爆発させ、制裁の津波を巻き起こすことを計算に入れていたことは疑いようがない。

そう、そこが問題なのだ。国家主権の問題なのだ。真の主権国家は、永続的な脅威の下では生きていけない。プーチンはロシアが死ぬまで制裁を受けることを望んでいた可能性さえある(斜字は筆者)。結局のところ、外国からの深刻な邪魔がなければ、ロシアは天然資源に富むので、容易に生産できるものは輸入し、(天然資源から得られる)利益で生活したいという誘惑は非常に大きい。

例外主義者たちはいつも、ロシアは「核兵器を持つガソリンスタンド」だとほくそ笑んでいる。それは馬鹿げている。ロシアでは、石油とガスはGDPのおよそ15%、政府予算の30%、輸出の45%を占めている。石油とガスはロシア経済に力を与えるものであり、足を引っ張るものではない。プーチンはロシアの自己満足を揺さぶることで、自国で必要なガスはすべて自国で生産することを可能にし、比類のない核兵器と極超音速兵器を完備した。どうだ!


ウクライナが「今ほど国家としての体裁を失ったことはない」

グザヴィエ・モローはロシア在住24年のフランス人政治戦略分析家。名門サン=シール陸軍士官学校を卒業し、ソルボンヌ大学で学位を取得した。現在、フランス語版RTで2つの番組の司会をしている。

最新刊『Ukraine:Pourquoi La Russie a Gagné(ウクライナ:ロシアはなぜ勝ったのか?』は、NATO属国圏で、総合的な軍事経験がゼロに等しい即席の「専門家」たちによってでっち上げられた幼稚な空想ではなく、戦争の現実を伝えるヨーロッパの読者にとって不可欠な指南書である。

モローは、公平で現実主義的な分析家なら誰もが当初から気づいていたこと、つまり、終盤戦の条件となるロシアの決定的な軍事的優位をはっきりと示している。問題は、この終盤戦―モスクワが打ち出したウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」―がどのように達成されるかである。

すでに明らかなことは、ウクライナとNATOの「非軍事化」は、F-16のような新しい驚異的な兵器では変えることができない大成功を収めているということだ。

モローは、マイダンから10年近く経ったウクライナがいかに国家でないかを完璧に理解している。ウクライナは、あらゆるものが分離している、人口がごちゃ混ぜになった領土なのだ。しかも、独立以来ずっと「気味の悪い」破綻国家である。モローは、ステパン・バンデラの賛美者とレディー・ガガのファンのイデオロギーに同時に言及するような体制の下にあるウクライナの腐敗の奇妙さを、読者を非常に愉快な気持ちにさせる数ページを通じて説明している。

もちろん、オリガルヒに支配されたヨーロッパの主流報道機関は、上記のどれも報道していない。


プーチンの鄧小平化に気をつけろ

本書は、「ウクライナで米国とEU当局を待ち受けている戦略的破局に大きな責任を負っている」狂ったポーランドの支配者層について、極めて有益な分析を提供している。ポーランド人は、実際、プーチンに対するカラー革命が功を奏してロシアが内部から崩壊するだろうと信じていた。しかし(アフガニスタンでムジャヒディンを使ってソ連の弱体化に成功して)ハイになっていたブレジンスキーのようなわけにはゆかない。

モローは、2022年という年が、いかにNATO属国諸国、特に歴史的に嫌露主義者であるアングロ・サクソンが、ロシアは「貧弱な力しかない国」だから降参するだろうと自己確信していた年だったかを示している。プーチンが中国経済における鄧小平のようにロシア経済を強化したことを、これら優秀な人間たちは誰も理解していなかったのは明らかだ。モローが言うように、NATO諸国のこの「自己陶酔」はクレムリンに劇的な効果をもたらすことになった。

ロシア経済に対する電撃作戦が大失敗であったのと同様に、欧州経済を破壊することが米帝国にとって大規模な戦術であり、歴史的勝利であったことは、耳が聞こえず、口がきけず、目が見えない人にとってさえ、今や明らかである。

上記のような流れの中で、今週リオで開催されたG20外相会議を迎えた。この会議は決して画期的なものではなかった。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、G20の西側諸国があらゆる手段を使って議題を「ウクライナ化」しようとしたが、成功はゼロに等しかった、と明言した。BRICSやグローバル・サウス国々は、数を力に反撃に出たのだ。

ラブロフ外相は記者会見で、西側諸国がロシアに対して集団で仕掛ける戦争の見通しについて、これ以上ないほど厳しく述べた。 以下はその要点である:

・西側諸国は、ウクライナに関する真剣な対話を一切望んでいない。

・米国からは、戦略的安定に関するロシア連邦との接触を開始するという真剣な提案はなかった。ロシアが敵国と宣言されている今、信頼を回復することはできない。

・G20の傍らで、ブリンケン米国務長官や英国外相との接触はなかった。

・ロシア連邦は、西側の新たな制裁措置に対して、ロシア経済の自給自足的発展に関わる実際的な行動で対応するだろう。

・欧州がロシア連邦との関係を回復しようとしても、もしそれが気まぐれに依存するならば、そのような接触は必要ない。

一言で言えば、外交的には「あなた方は無関係であり、私たちは気にしない」ということだ。

これは、G20中のラブロフの介入を補完するものであり、多極化に向けた明確で殊勝な道筋を再び明確にした。以下はその要点である:

・明確な中心と周縁を持たない公正な多極的世界秩序の形成は、ここ数年、より一層強まっている。アジア、アフリカ、ラテンアメリカ諸国は、世界経済の重要な一部となりつつある。アジアやアフリカ、ラテンアメリカの国々が、世界経済の重要な部分を占めるようになってきている。

・多くの西欧経済、特にヨーロッパ経済は、このような背景のもとで、実際には停滞している。これらの統計は、IMF、世界銀行、OECDといった欧米の監督機関によるものである。

・これらの機関は過去の遺物となりつつある。欧米の支配はすでに、時代の要請に応える形ではその影響力に陰りが出ている。いっぽう、現在人類が抱えている問題は、協調的な努力と、グローバル・サウス諸国とグローバル・サウスの利益への十分な配慮によってのみ解決できるものであることは、今日完全に明白である。

・IMFや世界銀行、EBRD(欧州復興開発銀行)、EIB(欧州投資銀行)といった機関は、ウクライナの軍事的資金やその他の資金を優先している。西側諸国は2500億ドル以上の資金をその下支えのために割り当て、世界の他の地域で資金不足を引き起こしている。ウクライナへの資金が大半を占め、アフリカやその他のグローバル・サウス諸国は配給制に追いやられている。

・地政学的な敵対国への恨みを晴らすために、一方的な制裁や国有資産や私有財産の差し押さえから、封鎖、禁輸、国籍による経済事業者への差別まで、非合法的な行為を用いて自国の信用を失墜させた国は、金融の安定を保証する国とは言えない。

・間違いなく、世界経済の管理体制を民主化するためには、共通理解と相互利益に焦点を当てた新しい制度が必要である。今日、BRICS、SCO、ASEAN、アフリカ連合、LAS(アラブ連盟)、CELAC(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)、EAEU(ユーラシア経済連合)など、さまざまな同盟関係を強化するための積極的な動きが見られる。

・今年はロシアがBRICSの議長国を務め、新たに数カ国がBRICSに加盟した。我が国は、BRICSの可能性とG20との結びつきを強化するために全力を尽くすつもりだ。

・国連安全保障理事会理事国15カ国のうち6カ国が西側諸国を代表していることを考慮すれば、私たちは、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々の加盟を通じてのみ、この理事会の拡大を支持する。

これが、SMO開始から2年後の、地政学的な現状だ。
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露中の戦略的忍耐力は西アジアの戦火を消せるだろうか?

<記事原文 寺島先生推薦>
Will Russia-China Strategic Patience Extinguish the Fire in West Asia?
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar )
出典:The Unz Review  2023年11月21日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年12月15日





 昔むかし、ドン川の畔(ほとり)の、今はまだ「ウクライナ」と呼ばれている(今後その名前は変わるかもしれないが・・・)地方の南部のステップ地帯に、アケメネス朝ペルシャの偉大な王、ダレイオス一世が、地球上で最も強力な軍を率いて現れたのだが、当時追いかけていた敵から奇妙な伝言を受け取った。その敵とは、遊牧民スキタイの指導者、イダンテュルソス王だった。

 一人のスキタイの使者がペルシャの野営地に到着したのだが、この使者が持ってきたのは、鳥とネズミ、カエルと5本の矢だった。

 それからその使者は急いで立ち去った。

 狡猾なダレイオス一世は、その伝言の意味を「スキタイがペルシャに降伏しようとしている」と取った。

 「早まってはいけません」と声をかけたのは、ダレイオス一世の外交顧問の高官で、たまたま王の義理の弟であったゴブリアスだった。彼がこの暗号を読み解いたのだ。その意味は「汝らペルシャ人が、鳥になって空を行き、ネズミになって地を掘り、カエルになって湖の上を飛び跳ねて逃げ帰らない限り、お主らは二度と故郷には戻れず、この地に留まり、スキタイの矢に撃たれることになるだろう」だと。

 シルクロードができるずっと前の大昔のこの故事が証明している事実は、捕まえるのが大変な弓矢使いの騎馬民族に対して、ユーラシアのステップ地帯で戦争を仕掛けることは、戦略的に悪夢になる、という教訓だ。

 さらにこの故事から伝わることは、ガザ地区にいるサンダル履きのゲリラや瓦礫の中に隠されたRPG(ロシア式対戦車擲弾)を相手に戦争を仕掛けることも、悪夢である、という教訓だ。トンネルから閃光のように小部隊が飛び出し、イスラエルのメルカバ戦車が攻撃され燃やされる、そしてその小部隊は地下に潜っていく。そんな闘いが待っているからだ。

 歴史がもうひとつ教えてくれているのは、ダレイオス一世はスキタイ遊牧民を面と向かっての闘いに引きずり込めなかった、という事実だ。それで紀元前512年、ダレイオス一世は、2500年後に米国が繰り出した一手を先んじて見せたのだった。つまり、勝利宣言をした上で引き上げたのだ。


着陸した航空母艦としてのイスラエル

 米将軍に始まりアラブ街の食料品店まで、西アジアの状況に明るい人々なら誰でも知っている事実は、イスラエルは着陸した航空母艦であり、その使命は、米覇権国家のために西アジアに目を光らせておくことにある、という事実だ。もちろん、犬と犬が食うか食われるかという厳しい地政学上の環境にあって誤解されやすいことは、全ての犬が悪ふざけをしている、と捉えることだ。米国の覇権を求める集団である「影の政府」にとって、さらにはホワイト・ハウスや国防総省にとってもあきらかにそうなのだが、非常に白熱した現状において大事なのは、イスラエルの究極の過激派かつジェノサイド的思想を持つリクード党が主導するネタニヤフ政権であって、「イスラエル」自体ではない、ということだ。

 そう考えれば、ネタニヤフは、いまや困難な状況に置かれている、汗でベタベタのスウェットシャツを身にまとっているキエフのあの役者のまさに鏡像に見える。

 地政学的には米国にとって大助かりだ。覇権国家米国に向けられた大量虐殺の罪に対する批判をそらせるようなライブ映像が、この惑星上のすべてのスマートフォンから流れているのだから。

 そしてこれら全ての行為が法律というベニヤ板の上でおこなわれているのだ。ホワイト・ハウスと国務省が、イスラエル政府に節度のある行動をとるよう「助言」しているのだから。曰く「病院や学校、医療従事者や報道関係者、何千もの女性たち、何千もの子どもたちを爆撃しても問題ない、ただし紳士的にやってくれ」と。

 現在、米覇権国家はとても高価な鉄の浴槽を完備しているアルマダ(無敵艦隊)を東地中海に、お粗末な航空母艦数隻と一隻の原子力潜水艦をペルシア湾に配備した。こんなものが、地下トンネルに潜むゲリラを調べ、イスラエルを「守る」助けになどなるわけがない。

 ネオコンとシオ(ニスト)・コンの最終目標は、いうまでもなく、ヒズボラやシリア、イラクのハシュド・アル・シャアビ、そしてイランだ。つまり「抵抗する枢軸国」だ。

 イラン・ロシア・中国が、ネオコンが唱える新たな「悪の枢軸国」になったが、この三国は偶然にも「ユーラシア統合を目指す三大勢力」だ。これら三国はガザにおける大虐殺行為を、イスラエルと米国の手によるものだ、と捉えている。そしてその重要な狙いもはっきりと特定している。それは、「エネルギー」だ。

 偉大すぎる経済学者であるマイケル・ハドソン氏が、こう記している。「いま、まさに「十字軍」と全く同じようなことが起こっている。これはエネルギーを制するのは誰かを決めるための真の戦いなのだ。というのも、繰り返しになるが、大事なことは、エネルギーの流れを制することができれば、昨年、米国がドイツに対しておこなったノルド・ストリーム破壊事例と同じことを世界全体に対しておこなえることになるという事実があるからだ」と。


動き始めたBRICS10

 そしていま、私たちが目にしている素晴らしい事例は、OIC(イスラム諸国会議機構)/アラブ諸国外相団が、いくつかの重要な国々の首都を歴訪し、ガザでの完全休戦計画とパレスチナ独立国家に向けた交渉を推進しようとしていることだ。この外相団は、「ガザ接触団(the Gaza Contact Group)」とよばれ、サウジアラビアやエジプト、ヨルダン、トルコ、インドネシア、ナイジェリア、パレスチナが参加している。

 この外相団の最初の訪問地は北京で、王毅外相と面会した。次の訪問先はモスクワで、セルゲイ・ラブロフ外相と面会した。このことから知っておく必要がある事実は、まだ正式には結成されていないBRICS11がすでに機能している、という事実だ。

 いや、実のところはBRICS10だ。というのも、親米覇権国家および親シオニストであるハビエル・「チェーンソーで切り刻む*」・ミレイ氏がアルゼンチンの大統領に選出されたからだ。その結果、アルゼンチンは、おそらく、ロシア主導の下BRICS11が結成されることになっていた2024年1月1日の時点でBRICSから離れることになりそうだ。
*選挙期間中、ミレイ候補は、チェーンソーを持って「既存政党をぶった斬る」というパフォーマンスを見せていた。

 サウジアラビアで開催されたOIC/アラブ連盟によるパレスチナ問題に関する特別会議では、穏健な最終宣言しか出せず、グローバル・サウス/グローバル・マジョリティのほぼ全体を落胆させていた。しかし、それ以降ある動きが始まったようだ。

 各国の外相らが密に連絡を取り始めたのだ。最初はエジプトが中国と、その後イランやトルコと協議し始めた。直感的な言い方に聞こえるかもしれないが、これらの動きは、今の状況の重大さを裏付けるものだ。このことは、イランの外相がこの外相団に加わっていない理由の説明になる。これらの外相団を率いているのは、事実上サウジアラビアとエジプトだからだ。

 ラブロフ外相との面会がおこなわれたのは、ちょうどパレスチナ問題に関するBRICSのオンラインでの臨時会合と同日だった。この臨時会合は、南アフリカ共和国が招集したものだった。極めて重要な点は、話をしている人々の背後に、新たな加盟国であるイランとエジプト、エチオピアの国旗が見えたことだ。

 イランのライースィー大統領は、歯に衣を着せず、BRICS加盟諸国に使える全ての政治的・経済的手段を用いて、イスラエルに対して圧力をかけるよう求めた。習近平国家主席は、再度「二国家解決」を要求し、中国がその仲介に入る選択肢を示した。

 習近平国家主席は、初めて自身のことばで、こう言い放った。「パレスチナ問題の解決なしに、中東の安全保障は成り立ちません。これまで多くの機会で強調してきたことですが、パレスチナ・イスラエル間の紛争の連鎖を断ち切ることができる方策には、『二国家解決』しかありません。つまり、パレスチナに正当な国家資格を保証することです。そして、パレスチナ独立国家の成立を保証することです」と。さらにその実現には、国際的な会議を持つべきだ、とも述べた。

 これらすべての動きの裏には、今後数日後に、BRICS10が団結してこの問題に何らかの対処を見せる見通しが透けて見える。今後、イスラエル/米国政府に対して最大限の圧力をかけることで停戦を求め、グローバル・マジョリティほぼ全体からの支持を得る方向に向かうだろう。ただし言うまでもないことだが、米覇権国家が、それがうまくいくことを見逃す、という保証はない。

 例えば、トルコを含めた秘密交渉は難航している。その構想は、トルコ政府が、アゼルバイジャンのバクーからトルコのジェイハンに繋がるBTCパイプラインを使ったイスラエルへの石油供給を断つ、というものだった。その石油は、バクーからタンカーでイスラエルのアシュケロンに運ばれている。そうやって運ばれる石油が、イスラエルの軍機構が使用する石油の少なくとも4割を占めているからだ。

 いまだにNATOに加盟しているトルコ政府は、躊躇した。というのも、米国からの手厳しい反応が避けられなくなるからだ。

 長期的に見て、サウジアラビア政府は、もっと大胆な行動を取ることも可能だ。2002年の「アラブ平和構想」に基づき、パレスチナ問題の決定的な解決がない限りは、イスラエルへの石油輸出を止める、という選択肢を取ることもできるのだ。しかしMbS(ムハンマド・ビン・サルマン)王子はそうはしないだろう。というのも、サウジアラビアの富はすべてロンドンとワシントンに投資されているからだ。ペトロ・人民元が実現する道のりは、まだまだ長く曲がりくねり、でこぼこだ。

 現在、「レアルポリティーク」主義を地で行くジョン・ミアシャイマー教授のような人々が正しく指摘しているとおり、イスラエル・パレスチナ問題を交渉で解決するのは不可能だ。現在の状況を一見すれば、中露やアラブ諸国が提唱している「二国家解決」は死に体だといえる。ミアシャイマーの指摘どおり、パレスチナ国家というのは、米国における「インディアン居留地のようになる」だろう。つまり、「互いに分断され、孤立させられ、国家の形にはならない」ということだ。


大虐殺は如何にしても止めなければ

 ではロシアはどうすればいいのか?以下に、情報に基づくとてもよいヒントを示す。

 「迷宮にいるプーチン」ということばがもつ意味は、ロシア政府が積極的にこの問題に関わっており、BRICS10を使って、西アジアに平和を実現しようとしている、ということだ。つまり永久に発生する米覇権国家によるハイブリッド戦争の中にあっても、ロシア国内の安定は維持されている、ということだ。これらの全ての戦争はすべて繋がっているなかでのことだ。

 いつもの連中が火を付けた西アジアの問題に関して戦略的友好関係のもとで中露がとった方策は、すべて戦略的な時期と忍耐力が関わってくるものだ。そのことをクレムリンも中南海も大量に提示している。
 
 裏で何が起こっているのかを本当に理解できる人はいない。絡み合ったいくつもの戦争の裏で深い影が暗躍している。西アジアのことになれば特に、砂漠の砂塵から舞い上がる蜃気楼で全てが包まれて見えなくなるのが常だ。

 だが少なくとも、私たちはペルシャ湾岸諸王国の周りの蜃気楼を取り払うことは可能だろう。つまりGCC(湾岸協力理事会)だ。特に、サウジアラビアのMbS王子と彼の相談相手であるアラブ首長国連邦のMbZ(ムハンマド・ビン・ザーイドン)王子の本心がどこにあるかについて、だ。非常に重要な事実は、アラブ連盟とOIC(イスラム諸国会議機構)がGCCの統制下にある、という事実だ。

 しかし、サウジアラビア政府もアラブ首長国連邦政府も、BRICS10に加盟しているのだから、両政府は、米覇権国家のあらたな一手が、西アジアにおける一帯一路構想(BRI)の前進を足踏みさせるために、この地域で戦火を起こしたという状況を、しっかりわかっているはずだ。

 そのとおりだ。この戦争は中国に対するハイブリット戦争を実際の熱戦に昇華させるための戦争なのだ。「パレスチナ問題」の最終解決策と並ぶ目的はそこだ。

 米覇権国家から見て、これらアラブの砂漠の遊牧民二国家を米国が次に繰り出すD.O.A(dead or alive 生きるか死ぬか)的一手にガッチリと組み込ませることができれば、大儲けなのだ。その一手がIMEC(インド―中東回廊)だ。これは、欧州―イスラエル―アラブ首長国連邦―サウジアラビア―インドをつなぐ貿易回廊で、理論上はBRIの競争相手となる構想だ。

 アラブ界隈の隅から隅までで話し合われている大きな主題のひとつは、なぜ、魂を売り飛ばしてしまっているGCC(湾岸協力理事会)が、シオニズムと対決することよりも、パレスチナ人たちの抵抗を消してしまうことの方に情熱を傾けてしまっているのか、についてだ。

 少なくともその答えのひとつとなるのは、GCCが今おこなわれている大虐殺に対して、無反応という反応(いま、必死に埋め合わせしようとしているが)を見せていることだ。このことは、米覇権国家が体系的におこなっているイラクやシリア、アフガニスタン、リビア、イエメン、スーダンやソマリアに対する、スローモーションでの大虐殺や強姦、略奪に対して、無反応という反応を見せているのと同じことだ。

 しかし、大虐殺のこととなると、阻止しないことは、まったくありえないことで、非人間的行為だ。しかし今後の展開はまだ先が見えない。今後の方向性は、GCCが立場を決め、精神的にも地政学的にもより広いアラブ世界から完全に袂を分かつ方を選ぶかどうかにかかっている。

 この大虐殺は、21世紀前半を定義付ける重要な分かれ道だ。グローバル・サウス/グローバル・マジョリティ諸国が完全に団結し、どの勢力が歴史上正しい道を進んでいるのかをはっきりさせられるかどうかの。次にどう動こうとも、米覇権国家には西アジア全体やハートランド、大ユーラシア、グローバル・サウス/グローバル・マジョリティを完全に失ってしまうという終幕が待っているように思える。

 ブローバック(外政上の失敗が自国の不利益に跳ね返ってくること)の働きというのは予測不可能だ。西アジアの「着陸した航空母艦」による狂気の沙汰のせいで、中露の戦略的友好関係がさらに加速し、21世紀が「ユーラシアの世紀」になるという道のりがさらに強固なものになる、という結果しか招かなかったのだから。

米帝国に対する地政学的なチェス盤の変遷

<記事原文 寺島先生推薦>
Geopolitical Chessboard Shifts Against US Empire
筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:Unz      2023年7月29日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>   2023年8月16日


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 地政学のチェス盤は永続的に移り変わっており、特に現在の白熱した局面においてはそれが顕著だ。

 中国の学者たち(アジアやアメリカの華僑を含む)の議論における魅力的な一致点は、ドイツやEUが、おそらく取り戻すことの難しいほどにロシアに敗北した一方で、中国がロシアを獲得したということだ。それは中国の経済と非常に相補的であり、またグローバルサウス/世界人口多数派(グローバル・マジョリティ)との強固な結びつきを持ち、北京に利益をもたらし支援する可能性がある。

 一方で、一部の大西洋主義者外交政策分析家たちの井戸端会議では、NATO対ロシアの物語を変えようとの話でかまびすしい。現実政治の初歩を適用しようとしているのだ。

 新しい言い回しは、ワシントンがモスクワを打倒しようと期待することは「戦略的狂気」であり、NATOがキエフのスウェットシャツを着た戦争主義者(ゼレンスキー)が「信用を失う」中で「援助疲れ」が出ている、というものだ。

 言い換えればこうなる:「ウクライナ戦場での屈辱が、今やすべての世界人口多数派にとって痛烈な映像として明らかになっているため、NATO全体が完全に信用を失っている」。

 (言い換えの)追加:さらに、「援助疲れ」とは、大規模な戦争に敗北することを指す。軍事分析家のアンドレイ・マルチャノフが情け容赦なく強調している。「NATO『計画』などは冗談話だ。NATOは妬んでいる、ひりひりするほど妬んで、羨ましいのだ」。

 確かな前進の道は、モスクワがNATO(単なるペンタゴンの付属物)と交渉するのではなく、個々のヨーロッパ諸国に対してロシアとの安全保障協定を提供し、彼らがNATOに所属する必要性を無意味にすることだ。これにより、参加国すべての安全が確保され、ワシントンからの圧力は軽減されることだろう。

 まず間違いないのは、このことを決して他人事と考えないヨーロッパの大国がそれを受け入れるだろう、ということ。しかし、ポーランド(ヨーロッパのハイエナ)とバルトのチワワ犬たちが受け入れないことは確実。

 同時に、中国は日本、韓国、フィリピンに平和条約を提案し、その後、米国の基地帝国の大部分が消失する可能性がある。

 繰り返しになるが、問題は、臣下国は平和へのいかなる合意にも応じる権限や力を持っていないことだ。非公式には、ドイツの実業家たちは、ゆくゆくはベルリンがワシントンに逆らい、ロシア・中国と戦略的同盟関係で取引を行う可能性があると確信している。それがドイツに利益をもたらすからだ。

 しかし、次の黄金律はまだ満たされていない:臣下国が主権国として扱われたいのであれば、まず最初に帝国基地の主要な拠点を閉鎖し、アメリカ軍を追放すること。

 イラクは何年も前からそれを試みているが、成功していない。シリアの三分の一は依然としてアメリカの占拠下にある。アメリカのダマスカスへの代理戦争はロシアの介入により敗北しているにもかかわらず、だ。


国の存亡がかかったウクライナ問題

 ロシアは、決して負けるわけにはゆかない隣国や同胞国との戦いを強いられてきた。そして、核と超音速技術の力を持つ国として、負けることはないだろう。

 たとえモスクワが戦略的に何らかの弱点を持ったとしても、結果がどうであれ、中国の学者たちの視点からは、アメリカが帝国成立以来の最大の戦略的な誤りを犯した可能性がある。①ウクライナ問題を(ロシアの)国の存亡をかけた紛争にしたこと、②帝国全体とその臣下国すべてをロシアに対する全面戦争に巻き込んだこと、だ。

 そのため、私たちには平和交渉の余地もなく、停戦すら拒否されている。アメリカの外交政策を主導するストラウス派ネオコンの、精神異常者たちが考案した唯一の可能な結末は、ロシアの無条件降伏だ。

 直近では、ワシントンはベトナムやアフガニスタンに対する、自ら選択した戦争に負けてもよかった。しかし、ロシアに対する戦争には負けるわけにはゆかない。負ければ、すでに地平線に見えている臣下国の反乱は、はるかかなたにまで広がるだろう。

 明々白々なことは、今後、中国とBRICS+(来月8月に始まる南アフリカのサミットから参加国は増える)が、アメリカドル基盤の崩壊を加速させることだ。インドの参加、不参加は関係ない。

 BRICS通貨はすぐには出てこないだろう。この議論でいくつかの優れた論点が指摘されている。その範囲は広大で、裏方たちはまだ初期の議論段階にあり、広い輪郭はまだ定義されていない。

 BRICS+としては、改善された国境を越えた決済機構から進化することになろう。これは、プーチンから同国中央銀行総裁エルビラ・ナビウリナまで、誰もが力説しているものだ。結局、新しい通貨が出てくるのはこの非常に長い道のりを辿った先ということになるだろう。

 これはおそらく、ユーロのような主権通貨ではなく、貿易の手段となるだろう。それは、米ドルとの貿易競争(最初はBRICS+諸国間)をするために設計されるだろう。それから覇権的な米ドル生態系を迂回することができるだろう。

 重要な問題は、(米)帝国の偽物経済が、マイケル・ハドソン(Michael Hudson)によって臨床的に解体されたにもかかわらず、この地政学的経済戦争の広範な見通しの中で、どれだけ持ちこたえることができるかだ。


あらゆるものが「国の安全にとって脅威」

 電子技術の一線では、(米)帝国は何の制約もなく、世界的な経済的依存を強制し、知的財産権を独占し、Michael Hudsonが指摘するように、「高技術コンピュータチップ、通信、兵器生産に高価格を請求することで賃貸料を手にしている」。

 実際には、台湾が貴重なチップを中国に供給することを禁止され、TSMC(台湾半導体会社)に対してアリゾナ州にできるだけ早くチップ製造施設を建設するよう要請するということ以外は、ほとんど何も進展していない。

 しかし、TSMCの会長であるMark Liuは、その工場が「半導体級の施設設置に必要な専門的知識を持つ労働者の不足に直面している」と述べ、評判の高いアリゾナ州TSMCチップ工場は2025年以前に生産を開始することはないだろうと述べた。

 帝国/その臣下NATOの一番の要求は、ドイツとEUがロシア・中国の戦略的連携とそれらの同盟国に対して貿易の鉄のカーテンを課さなければならない(そうすれば、「危険のない」貿易が確保される)ということだ。

 予想どおり、アメリカの頭脳集団界隈は狂気に陥り、アメリカン・エンタープライズ・インスティチュートの専門家たちは、経済的な危機軽減だけでは十分ではないと熱弁している。アメリカが必要とするのは中国との徹底的な断絶だ、と主張している。

 実際、これはワシントンが国際自由貿易規則や国際法を無視し、あらゆる形態の貿易やSWIFT、金融取引を米国の経済と軍事の支配に対する「国家安全保障上の脅威」として扱うことと寸部違わない。

 したがって、今後は、中国が依然として北京にとって主要な貿易相手国であるEU(欧州連合)に対して貿易制裁を課すのではなく、アメリカが自国が主導する貿易禁止破りをする国々に対して制裁の津波を課す、という展開になる。


ロシア‐北朝鮮関係は、ロシア‐アフリカ関係と対応

 今週のことだが、チェス盤上で対戦の流れを変える2つの動きがあった:ロシアの国防大臣セルゲイ・ショイグの北朝鮮訪問と、サンクトペテルブルクで行われたロシア・アフリカサミットだ。

 ショイグはロックスターのようにピョンヤンで歓迎された。彼は金正恩との個人的な会談を持った。相互親善から始まり、北朝鮮が多極性への道を切り開く多国間の組織の一つに最終的に参加する可能性が高まっている。

 それは、ほぼ間違いなく、広範なユーラシア経済連合(EAEU)になるだろう。これは、ベトナムやキューバと結ばれたようなEAEUと北朝鮮の自由貿易協定から始まる可能性がある。

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 ロシアはEAEUで最大の力を持ち、北朝鮮に対しておこなわれているいろいろな制裁を無視することがでる。一方、BRICS+、SCO、またはASEANは有り余るほどの選択肢がある。モスクワの主要な優先事項は極東の開発、両朝鮮とのさらなる統合、そして北極海回廊(つまり北極シルクロード)の展開だ。そのため、北朝鮮は、自然の地形から見ても、連携することになる。

 北朝鮮をユーラシア経済連合(EAEU)に加えることは、一帯一路(BRI)への投資に素晴らしい効果をもたらすだろう。北京が北朝鮮への投資をおこなう際、当面そのような効果はもたらさない。これは、もっと深いBRI-EAEU統合の古典的な事例となる可能性がある。

 ロシアの最高位外交は、北朝鮮に対する圧力を軽減するために全力を尽くしている。戦略的には、それは本当に対戦の流れを変える動きだ。ロシア・中国の戦略的連携に巨大でかなり洗練された北朝鮮の産業軍事複合体が加わり、アジア太平洋の枠組みを逆転させることを想像してほしい。

 サンクトペテルブルクでのロシア・アフリカサミット自体が、また別の対戦の流れを変える動きで、西側主要報道機関はそれに怒り心頭だった。それはまさにロシアがアフリカ全体と包括的な戦略的連携を公言し、敵対的な西側諸国がアフロユーラシアに対して非正規戦争と正規戦争を組みあわせた戦争やその他を展開している中でのことだった。

 プーチンは、ロシアが世界の小麦市場で20%の割り当てを持っていることを示した。2023年の最初の6ヶ月間で、既にアフリカへ1000万トンの穀物を輸出している。今後3〜4ヶ月間で、ロシアはジンバブエ、ブルキナファソ、ソマリア、そしてエリトリアにそれぞれ2.5〜5万トンの穀物を無償で提供する。

 プーチンは、アフリカ全域にわたる約30のエネルギー計画から、石油およびガスの輸出の拡大、そして「医療を含む核技術の独自の非エネルギー応用」に至るまで、すべての詳細を説明した。スエズ運河近くにロシアの産業地帯を設立し、アフリカ全域に輸出する商品を生産する計画や、アフリカの金融基盤の開発、ロシアの支払い体系との連携も含まれている。

 決定的に重要なのは、彼はまた、EAEUとアフリカとのより緊密な関係を称賛したことだ。サンクトペテルブルクサミットの小委員会「EAEU-Africa: 協力の展望」では、BRICSとアジアとのより緊密な大陸的な接続を含む可能性が検討された。自由貿易協定の洪水が進行中かもしれない。

 この小委員会が提出した見通しは非常に印象的だった。「新植民地主義からの脱却」を掲げる(複数の)小委員会があった。具体的には、「産業協力を通じた技術的主権の達成」、あるいは「新しい世界秩序:植民地主義の遺産から主権と発展へ」などだ。

 もちろん、国際的な北南輸送回廊(INSTC)も議論された。その主要な担当国であるロシア、イラン、インドは、NATO沿岸国を回避し、アフリカへの重要な延伸を推進することになっている。

 非常に急速な出来事がサンクトペテルブルクで起こっている一方で、ニジェールでも軍事クーデターが発生した。結果はまだ見えていないが、ニジェールはおそらく隣国のマリとともに、パリからの外交政策の独立を再確認する道を選ぶだろう。フランスの影響力は、中央アフリカ共和国(CAR)とブルキナファソでも少なくとも「再設定」されつつある。要するに、フランスと西側諸国はサヘル地域全体で段階的に立ち退きつつあり、逆転できない形で非植民地化の過程が進行しているのだ。


破壊の「蒼ざめた馬」に注意せよ

 チェス盤上のこれらの動き(北朝鮮からアフリカへの動き、中国へのチップ戦争)は、ウクライナでNATOの前に訪れるであろう破壊的な屈辱と同様に重要だ。しかし、ロシアと中国の戦略的連携だけでなく、グローバルサウス/世界人口多数派の主要な国々も、ワシントンがロシアを戦術的な敵と見なして、中国に対する全面戦争で優位に立つ準備をしていることを十分に認識している。

 現状では、未だ解決されていないドンバス地域の悲劇が(米)帝国を忙しくさせ、アジア太平洋から遠ざけている。しかし、ストラウス派の新保守派の精神異常者の指導下でのワシントンはますます「絶望の行列」に足を囚われ、ますます危険な状況になっている。

 その一方で、BRICS+「ジャングル諸国」は必要な機能を活性化させており、一極的な西側の「庭」を脇に追いやる能力を強化している。無力なヨーロッパは深淵に追い込まれつつあり、中国、BRICS+、そして事実上の世界多数派から自らを分断せざるを得なくなっている。

 経験豊富な気象予報士でなくても、どの方向にステップ地帯の風が吹いているかは分かる。「破壊の蒼ざめた馬たち」はチェス盤を踏みにじるための陰謀を巡らし、風がうなり声を上げ始めている。

心理作戦のマトリョーシカ(入子人形):「ハルマゲドン将軍」は生きている!

<記事原文 寺島先生推薦>
A Matryoshka of Psyops: And Why General Armageddon Is Not Going Anywhere
筆者:ペペ・エスコバル (Pepe Escobar)
出典:Strategic Culture   2023年6月30日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>   2023年7月13日(8月11日改定)
入子人形
ロシアが直面している主要な問題は、覇権国(アメリカ)とNATOではなく、国内の問題だとペペ・エスコバルは書いている。

 完璧な心理作戦の秘訣は、実際、誰もそれが分かっていない、ということだ。

 完璧な心理作戦は、次の2つの任務を達成する:① 敵を、ぼーっとさせ、混乱させる。そして、② 非常に重要な一連の目標を達成する。

 言うまでもないが、私が「最も長い日」と形容したロシアの戦略的な動きから、意外に早く真の目標が浮かび上がってくるだろう。

 「最も長い日」は、心理作戦以上のものだったのか、あるいはそんなことはなかったのか。

 その霧を晴らすために、通常の「勝者」候補を挙げることから始めてみよう。

 最初の勝者は間違いなくベラルーシだ。ルカシェンコ氏の貴重な仲介により、ミンスクには今や世界で最も経験豊富な軍隊が与えられた:ワグナー楽団(部隊)。彼らは通常戦(リビア、ウクライナ)と、非通常戦(シリア、中央アフリカ共和国)の名手だ。

 それは既にNATOに地獄の恐怖をもたらしている。NATOは突然、東側の防衛線において非常に装備の整った、事実上制御不能の、それに加えて核兵器を保有するロシアという国家の後ろ盾がある超プロ級軍隊(ワグナー部隊)に直面している。

 同時に、ロシアは西部戦線で抑止力を強化している。そのために、一貫してNATO諸国に膨張する軍事予算を投資させている(資金がないにも関わらず)。このプロセスは、少なくとも2018年3月以降、ロシアの戦略の重要な政策だ。

 さらにボーナスとして、ロシアはキエフの北部戦線全体に対して年中無休の脅威を作り出している。 「(プリゴジン)反乱」の見返りとしては悪くない。


オリガルヒたちの踊り

 ロシアの国内力学はさらに複雑だ。プーチンが下す現在およびその後の困難な決定によっては、民意喪失と国内の安定喪失を伴う可能性がある。それもクレムリンが定義した戦略的勝利がロシア世論にどのように提示されるかによる。

 NATO諸国の主流メディアが、年中無休で、何を言おうとも、クレムリンの公式な説明によれば、6月24日の出来事は、結局はプリゴジンの示威活動なのだ。彼はただ揺さぶりをかけていただけだ。

 事態はそれよりもはるかに複雑だ。もちろん、戦略的な利益(複数)はあった。そして、プリゴジンは、最終的にはモスクワに有利な結果となる、非常に危険な筋書きに従っていたようだ。しかし、まだ結論を出すには早すぎる。

 重要な副次的筋書き(サブプロット)は、オリガルヒの踊りがどのように進行するか、だ。独立系ロシアメディアは、国家公務員を含む一部の「反逆的な」動きをする人間たちが、事態が困難になるときに片道切符を購入するか、自分たちが「病気である」と言ったり、重要な電話に応じなかったりすることを予想していた。ボルトニコフ*のFSB(連邦保安庁)によって飼われているロシア国会は、既にある膨大なリスト作成に取り組んでいる。
*アレクサンドル・ヴァシリエヴィチ・ボルトニコフは、ロシアの政治家。ソ連国家保安委員会出身のシロヴィキ(大統領の側近)。2008年5月12日からロシア連邦保安庁長官。上級大将。(ウィキペディア)

 ロシアの体制およびロシア社会は、こうした人々を極めて有害な存在と見なしている。実際には、「デムシーザdemshiza」(「民主主義democracy」と「統合失調症schizophrenia」を組み合わせた用語で、グローバリストの新自由主義者に適用される)よりもはるかに危険だと見なされている。

 軍事面では、さらに複雑な状況になる。プーチンは、「最も長い日」の後に昇進させる将軍のリストを国防相ショイグに作成するよう指示した。控えめな言い方をしても、多くの人々にとって、異なる信念を持つ多くの人々から見て、ショイグはロシアの政治において毒薬になってしまった。

 ワグナー部隊は、新体制の下で再ブランド化され、ミンスクを介して、アフリカだけでなく、ロシアの利益にも奉仕し続けるだろう。

 ルカシェンコ氏は、ワグナー部隊を介したNATOへの挑発は行われないだろう、と既に明言している。ワグナー部隊の募集拠点はベラルーシには開設されないが、ベラルーシ人は直接ワグナー部隊に参加することができる。現時点では、ワグナー部隊の戦闘員の大部分はまだルガンスクにいる。

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 実際には、今後ロシア政府は、軍事的および財政的にワグナー部隊とは何の関係も持たないだろう。

 さらに、押収されるべき重火器はない。既に、6月26日(月)、ワグナー部隊は重火器をベラルーシに移動させた。「最も長い日」の間に移動されなかったものは、国防省に返還された。


将軍たちの踊り

 この全過程において明確な勝者はロシア世論だ。それはロストフで明確に示された。誰もが同時に、プーチンを、ロシア兵士を、ワグナー部隊を、そしてプリゴジンを支持していた。全体的な目標は、この戦争に勝つためにロシア軍を強化することだった。それは、はっきりしている。

 国防省内の粛清は厳しいものになるだろう。弾圧や「反乱」という名目の下で、兵士を適切に訓練しなかった、適切に動員を組織しなかった、または戦闘で無能だった「オペレッタ将軍たち」(プーチン自身によって定義されたもの)は、確実に解任されるだろう。

 問題は、彼ら全員がゲラシモフ*陣営の一員であることだ。そつなく言えば、彼は多くの重要な質問に答える必要がある。

 そして、「ハルマゲドン将軍(スロビキン将軍)**が逮捕された」という虚偽の化け物ニュースが我々の元に届くことになる。このニュースを、NATO諸国の情報界全体が小躍りして繰り返し流している。
*/**今年1月、ゲラシモフが総司令官となり、スロビキンは副司令官となる。 「ハルマゲドン将軍をゲラシモフ将軍に交代させたロシア:戦いはもう終わった」(寺島メソッド翻訳NEWS)に詳しい。http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1286.html

 スロビキン将軍はプリゴジンをロストフで受け入れた。しかし、「反乱」の共犯者では決してなかった。国防次官のエフクロフもロストフの司令部におり、スロビキン将軍と一緒にプリゴジンを受け入れた。エフクロフは戦略的に配置された観察者の役割を果たした可能性がある。

 プリゴジンの反乱劇は、実際には2月に始まったが、それを止めるために何も行われなかった。公式の説明を信じるかどうかに関わらず、そのような状況があった。

 これは、ロシア国家が、それが起こることを予見していたことを意味する。それは、「最も長い日」がすべてのマスキロフカ(軍事的欺瞞作戦)を産んだ母ということなのか?

 再度言う:事態は単純ではない。ロシアは、西側集団とは異なり、キャンセル・カルチャー*を実践または施行することはない。ワグナー部隊は戒厳令によって保護された。ネオ・ナチのバンデラ主義者と戦っている「音楽家」(ワグナー部隊)に対する侮辱は、最大で15年の禁固刑となる。ワグナー戦闘員一人ひとりは正式にロシアの英雄とされている。プーチン自身が常に強調していたことだ。
*主にソーシャルメディアを利用して、社会的に不適切な人物を追放しようとすること。(英辞郎)

 マスキロフカ(軍事的欺瞞)前線においては、「最も長い日」の前、ロシア軍陣営内の煮えたぎる緊張が、敵の目を眩ますために、戦争の形をとった靄の中で、巧妙に操作されたことに何の疑問もない。それは見事な効果を発揮した。運命の6月24日という日には、スロビキン将軍は戦争を指揮しており、プリゴジンとブランデーを飲んで過ごすような日ではなかった。

 NATO属国枢軸国は本当に藁にもすがる思いだ。スロビキン(逮捕)関連の噂だけで彼らを有頂天にさせるのに十分だった。それは再び彼らがいかに「ハルマゲドン将軍(スロビキン)」を恐れているかを再び証明することになった。

 重要な要素は、スロビキン将軍が、生き残った「オペレッタ将軍たち」と比較して、世論からどのように見られているかだ。

 彼は現在伝説となっている三層防御を築き上げ、既に「反転攻勢」を打ち破っている。彼は戦場で非常に成功したイラン製のシャヘド-136ドローンを導入した。そして、彼はバフムート/アルテミウスクでの肉塊処理の破壊を組織し、それは既に軍事史に刻まれている。

 2022年の秋、ハルマゲドン将軍がプーチンに対して、ロシア軍が大規模攻勢に対して準備ができていないと伝えたのだ。

 だから、第五列がどんな陰謀をでっち上げようとも、ハルマゲドン将軍はどこにも行かない。行くとすれば勝利するためだ。ロシアはアフリカから「撤退」するわけではない。むしろ、再ブランド化されたワグナー部隊はそこにとどまり、さまざまな地域において短縮ダイヤルで活動を続けている。

 短期的には、ロシアの軍事的な沼地が複雑に排水されつつあるという傾向が見られる。「最も長い日」は、あらゆる層のロシア人を奮起させ、真の敵を特定し、どんな手段を使ってでもそれを打ち破る方法を見つけることに取り組むことを促しているようだ。


「何一つ偶然では起きない」

 歴史家のアンドレイ・フルソフは、ルーズベルトを引用して、「政治では偶然などありえない。何かが起こるなら、それは予見されていたのだ」と述べた。

 さて、マスキロフカ(軍事的欺瞞)の日はまた昇る。

 しかし、ロシアが直面している主要な問題は、覇権国とNATOではなく、国内問題だ。

 ロシアの分析家との対話や、ロシア、ウクライナ、そして西側で暮らしていた非常に鋭い人々から受けた印象に基づいて、基本的には4つの主要なグループが自分なりのロシアのイメージを押し付けようとしていることを特定できる。

1. 「ソ連回帰」派。もちろん、元KGBの一部も含まれる。一般の人々からある程度の支持を得ている。多くの教養のある専門家(主に年金生活者の古株のプロたち)がいる。このプロジェクトは、ステロイド剤で強化した1917年革命を提案している。レーニンをどこに置くのだろうか?

2. 「ツァーリに戻ろう」派。それはロシアを「第三のローマ」と位置付け、正教会による重要な役割を意味する。多額の資金がその後ろにある。特に「深層」ロシアでどれだけの人々の支持を本当に持っているのかは大きな疑問だ。このグループは、バチカンとは無関係だ。バチカンはグレートリセットに売り渡されている。

3. 「略奪者たち」。ロシアを略奪し、覇権国の利益のために盲目的に行動する人々を指す。第五列(買弁勢力)や「全体主義的な新自由主義者」など、集団的な西側の「価値観」を崇拝するあらゆる種類の人々が集まっている。(ロシアに)残っている者たちの家の玄関にはまもなくFSB(連邦保安庁)が押し掛けるだろう。彼らの資金は既に凍結されている。

4. 「ユーラシア主義者」。これは最も実現可能な事業計画であり、中国との緊密な協力を通じて多極的な世界を目指している。ここにロシア・オリガルヒたちの居場所はない。ただし、中国との協力をどの程度にするかは、依然として議論の余地が大きく残されている。真の焦点となる問題は、一帯一路構想を大ユーラシア友好関係に実際にどのように統合するか、だ。

 以上は単なる素描だ。ぜひ、自由に議論をしてほしい。最初の3つの目論見は、ほとんど機能することはないだろう。一筋縄ではいかない理由が延々とある。そして、第4の目論見もまだロシアで十分な勢いを得ていない。

 確かなことは、この4つの集団は全てが互いに闘っているということだ。現在進行中の軍事的沼地の排水が、政治の空を晴れ渡らせるためにも役立つことを願う。

「最も長い日(6月24日)」の後ロシアでは何が起きているのか?

<記事原文 寺島先生推薦>
What Happens in Russia After the Longest Day?
筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:INTERNATIONALIST 360°2023年6月27日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年7月5日


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 ワグナーの「反乱」(見え透いたクーデター未遂)と、宣伝演技に過ぎないものをプリゴジンが千両役者よろしく演じて見せた後、NATOと西側諸国の、ひょっとして(これで)ロシアが混乱や内戦に陥るかもしれないという興奮に満ちた期待は完全な失望へと急速に変わった。

 最も長い日(6月24日_土曜日)、ロシアで起きた途轍もない出来事の初稿は、私たちをまったく新しいやっかいな問題へ導く。

 世界の多数派は、次に何が起こるのかを、知りたい気持ちでうずうずしている。さあ、チェス盤上の重要な駒を検討してみよう。

 セルゲイ・ラブロフ外相は要点をズバッと言っている:覇権国家(アメリカ)は、得になりそうな時はいつでもクーデターを支援するというのが、その手口だということをラブロフはみんなに思い起こさせた。これは、ロシア連邦保安庁(FSB)が積極的に調査している事実と合致しており、その調査は西側の情報機関が「最長の日」にどのように関与していたかを検証している。

 プーチン大統領の発言には一点の曖昧さもなかった:

「彼ら(西側とウクライナ)は、ロシア兵同士が殺し合い、兵士や市民が死に、最終的にはロシアが敗北し、私たちの社会が分裂し、血なまぐさい内戦で窒息することを望んでいました(・・・)彼らは手をこすり合わせ、前線における、および「反転攻勢」の間の彼らの失敗に対する復讐を夢見ていましたが、彼らは計算を誤りました」。

 西側集団―アンソニー・ブリンケン国務長官以下―は、自分たちと(「ブリゴジン反乱」に)距離を置こう必死になっている。その代弁者特許を持っているワシントン・ポスト紙を通じて、「反乱」について西側集団は知っていたことを、CIAはリークしているのに、だ。

 課題は痛々しくもはっきりしていた:キエフがあらゆる戦線で敗北したことは、ロシア「内戦」の偽情報が至るところで儀式的に報道されることで、見えなくされるだろう。

 まだ決定的な証拠はない。しかし、FSBはいくつかの手がかりを追跡して、「反乱」がCIA/NATOによって仕組まれたことを示そうとしている。この壮大な失敗は、7月11日にヴィリニュスで予定されているNATOのサミットをさらに白熱させることになる。

 中国もラブロフと同様、要点をズバッと言っている:グローバル・タイムズ(環球時報)は、「ワグナーの反乱がプーチンの権威を弱めるという考えは西側の願望的思考であり、クレムリンの「強力な抑止力」はむしろその権威を増強している」と主張した。これはまさにロシアの市民の見方だ。

 中国は、6月25日(日曜日)にアンドレイ・ルデンコ副外務大臣が北京を訪れた重要な訪問の後、その結論に至った。堅固な戦略的パートナーシップはこんな風に実地に機能するものだ。


宣伝演技としての「反乱」

 議論の余地がないのは、これまでのところロスティスラフ・イシチェンコによって提供された「最長の日」の重要点についての説明が最も優れていることだ。

 世界の多数派は、プリゴジンの演技によって、結果的に、集団として西側が混乱し、困惑し、そして大きなショックを受けたことを喜ぶだろう:この出来事全体、ロシア社会と軍隊内に完全な混乱を引き起こすはずだったのではなかったのか?

 偽造された迅速な「反乱」が進行している最中にも、ロシアはキエフの軍勢を続けて攻撃し続けた。ちなみに、キエフの軍勢は「反転攻勢の主要な段階」が予定通り6月24日の夜に開始されると主張していたが、これは予想どおりもうひとつの嘘だった。

 ロシアの一般市民の視点に戻る。「反乱」(非常に入り組んだ陰謀の中で構築されている)が、結果的には(圧倒的多数のワグナー兵士たちではなく、司会進行役のプリゴジンによる)単なる軍事デモンストレーションだと広く解釈された。「反乱」は西側の仕組んだ宣伝であり、世界で消費される(結局は消えてなくなる)一連の絵であることが判明した。

 しかし、今後の状況は度外れに深刻化する可能性がある。

 ラブロフは、自己顕示欲の強いエマニュエル・マクロン(Le Petit Roi小さな王様)が、アメリカと同じく重要な役割を果たしていることを、再度、指摘した。「マクロンが、この出来事を通して、ウクライナがロシアに戦略的な打撃を与える可能性を実現する機会を見出していたのははっきりしています。この考えは、NATOの指導者たちが持ち続けている信念です」。

 キエフと西側集合体メディアと全く同様に、マクロンもモスクワに対して共同して働く「一つの機械」の一部だ、とラブロフは付言した。これはプーチンの発言と一致しており、彼はマクロンの日曜日(6月25日)の発言について、「西側の軍事、経済、そして情報機械(マスメディア)が一丸となって我々に敵対行動を取り始めています」と述べた。

 そしてそれは事実だ。


「長期的な経済封鎖」に賭ける

 もう一つの事実が、もっと不吉な雲を未来に広げている。

 誰も注意を払っていない間に、国家安全保障関係者の小さな会議が6月24日と25日の運命的な日にコペンハーゲンで開催された。

 彼らが「ウクライナの平和」について話し合っていたのは、ほぼ間違いない。その議長は、他ならぬ米国の国家安全保障担当補佐官であるジェイク・サリバンだった。

 その会議にはブラジル、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、デンマーク、インド、カナダ、サウジアラビア、トルコ、南アフリカ、日本、ウクライナが参加しており、主権を持たないEUの非常に有名な官僚もいた。

 G7の多数派とともに、BRICSの3つの国とBRICSに加入を希望している2つの国が並んでいることに注目してほしい。 この文脈では、「ウクライナの平和」とは、いわゆる10項目の「ゼレンスキー和平計画」を意味しており、それはロシアの戦略的な完全敗北を求めている。具体的には、1991年の国境内でのウクライナの復興と、モスクワによる巨額の「賠償金」の支払いを含んでいる。

 中国が参加していなかったのは驚くべきことではない。とは言え、BRICSの3つの国(最も弱い要素と呼ぼう)が参加していた。BRICSおよびBRICS参加希望国は、6つの「振り子国家」を構成している:ブラジル、インド、南アフリカ、トルコ、サウジアラビア、およびインドネシアだ。この「振り子国家」は、ウクライナに関しては、「行儀よくする」ように覇権国家(アメリカ)からに徹底的なハイブリッド戦争を熾烈に仕向けられたりand/or強制されたりする。

 さらに、第11番目のEU制裁パッケージもある。これにより、ロシアに対する経済戦争が全く新たなレベルに引き上げられることが、EU臨時代理大使のキリル・ログヴィノフの発言によって裏付けされている。

 ログヴィノフは、「ブリュッセル(EU本部)の意図はできるだけ多くの国をこの戦争に引き込むことだ。(・・・)ロシアに甚大な損害を与えることを目的とした電撃戦(訳注:「プリゴジンの反乱」)に失敗したので、わが国(ロシア?)に対する長期的な経済封鎖を確立することを目指した多重モードのゲームへと明確に転換している」と説明した。

 それは純粋なハイブリッド戦争の領域であり、主な標的は6つの「振り子国家」だ。

 ログヴィノフは、「EUは常に恐喝と強制を好む傾向があります。EUは多くの国にとって最大の経済パートナーであり、投資源や資金提供元でもあるため、ブリュッセルは圧力をかけるための十分な梃子(てこ)を持っています」と述べた。

 「そのため、制裁回避しようとする動きへのEUの戦いは長期的かつ妥協のないものになるでしょう」。

 さあ、EU式の国外制裁へようこそ。これには、禁止された商品をロシアに再輸出したり、あるいは、いわゆるロシアの原油価格の制限を考慮せずに原油貿易をおこなっていると「疑われる」第三国の企業をブラックリスト入りさせるというものが含まれる。


ベラルーシの太陽の下で楽しい時間

 安っぽいスリリングな出来事はたくさんあるが、「最長の一日」(そしてそれ以前の出来事)の主役(プリゴジン)の次の役割は何になるのか? それは重要なのか?

 中国の学者たちが好んで口にするのは、中国の混乱期(例えば漢末や唐末)では、戦争貴族が皇帝の指示に従わなかったことが常に原因だった、ということだ。

 オスマン帝国のヤニチャリ(当時のワグナー)は、スルタンを守り、スルタンの戦争を戦うために存在したはずだった。しかし、彼らは最終的にスルタンになる者を決定する立場になったのだ。ローマ皇帝を決定するようになったローマ帝国軍団しかり。

 中国人の忠告には常に先見の明がある:兵士をどのように使うかに注意すること。戦う目的を兵士たちに確実に信じさせる。さもないと、兵士たちは回れ右をして刃を向けてくる。

 そして、話は再びプリゴジンに戻り、彼の話も変化する(彼はこの件に関する専門家だ)。

 彼は、今、言っているのは、6月23日から24日は単なる「デモンストレーション」であり、彼の不満を表現するためのものだったということだ。主な目的は、ワグナー部隊がロシア軍より優位にたっていることを証明することだった。

 実際、誰もが次のことを知っていた:ワグナーの兵士たちは、リビア、シリア、中央アフリカ共和国、そしてウクライナで10年以上にわたって日々戦闘を続けてきた。

 だからこそ、彼は「ワグナーは抵抗に遭うことなく700キロ進んだ。もしロシアが最初から彼らに戦争を任せていたら、戦争は2022年2月24日の夜には終わっていたでしょう」と自慢することができたのだ。

 プリゴジンはまた、ベラルーシとの取引をほのめかしている。ワグナー部隊をベラルーシの管轄下に移す可能性を巡る戦争については、煙に巻きながら。NATOは今から戦々恐々だ。来月のヴィリニュスサミットで、膨張する軍事予算がさらに課されることが予想される。

 「ヴョルストカ」(「レイアウト」)によれば、ベラルーシ、モギリョフ地域にはすでに少なくとも8,000人のワグナー戦闘員を収容するための宿営地を建設中だ。

 その背後にある真の物語は、ベラルーシがかなりの期間、狂信的なポーランドからの攻撃可能性に備えているということだ。同時に、NATOをパニック状態に陥れるだけでなく、モスクワはリヴィウとキエフの間に新たな戦線を開くことを考えているかもしれない。

 ワグナー部隊がベラルーシにいることは完全に理にかなっている。ベラルーシ軍は厳密に言えば強力な軍隊ではない。ワグナー部隊はロシアの西部戦線を確保する。それはNATOに大きな地獄のふたを開けることになる。文字どおり、比喩的な言い方だが。そして彼らに莫大な金額を使わせるだろう。そして、ワグナー部隊は鼻歌気分でベラルーシの空港を利用し、西アジアやアフリカでの彼らの―新しいブランド名でのー活動を追求することができるだろう。

 「最も長い日」以降のすべての出来事は、連続ドラマの新たなドラマチックな筋書きの転機の一部であり、Netflixが提供するものよりもはるかに心が鷲掴みされるものだ。

 しかし、ロシアの大多数の世論が本当に期待しているのは、もう一つの滑稽な「ワルキューレの騎行」(訳注:リヒャルト・ワグナーの楽劇)ではない。彼らは、ソ連スタイルの官僚的泥沼状態のほんとうの改善と、この「ほぼ戦争状態」をできるだけ早く論理的な終結に持っていってほしいのだ。

ユーラシア中心部が立ち上がって欧米に挑戦

<記事原文 寺島先生推薦>
Eurasian Heartland Rises to Challenge the West
筆者:ペペ・エスコバール(Pepe Escobar)
出典:INTERNATIONALIST 360 2023年5月26日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年6月23日


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 昨年3月にモスクワで行われたサミットの終わりに、習近平国家主席がプーチン大統領に語った「100年に一度の大変革が私たちの前にある」という言葉は、現在ユーラシア中心部全体の支配的な新たな精神として直接当てはまる。

 先週、元帝都である西安で行われた中国中央アジアサミットが合図だった。習近平主席はそこで「一帯一路構想(BRI)」の拡大計画を固めた。それは新疆から西側の隣国、そしてイラン、トルコ、そして東欧に至るまでの範囲を覆うことになる。

 西安での習近平主席の発言では、BRIと上海協力機構(SCO)の相互補完的な側面に特に重点が置かれた。そして、中央アジアの5つの「スタン」(カザフスタン、キルギススタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)が共同で、「テロリズム、分離主義、そして過激主義」といったよく知られた外部の干渉に対抗すべきであることが再び示された。

 言わんとすることははっきりしていた:これらのハイブリッド戦略は、覇権国(米国)が連続的なカラー革命を育成し続ける試みと一体となっている。「ルールに基づく国際秩序」の提唱者たちは、ユーラシア中心部の統合を阻止するために手段を選ばないだろうと習近平は言っていたのだ。

 実際、通例通り、既に中央アジアが北京に完全に支配される可能性のある罠に陥っているという主張が広まっている。しかし、こんな主張はナザルバエフ時代に作られたカザフスタンの「多元的外交」が絶対に許さないことだ。

 代わりに北京が進めているのは、19もの別々の通信チャンネルを持つC(中国)+C5(5つの「スタン」)事務方を通した統合的な実行方法だ。

 問題の核心は、BRI(一帯一路)の中央回廊を介してユーラシア中心部の連続性を急速に向上させることだ。

 そして、重要なことに、それには技術移転も含まれている。現在、カザフスタンとの間には数十、ウズベキスタンには十二の産業移転プログラムがあり、キルギスタンとタジキスタンとの間でもいくつかの議論が行われている。これらは北京によって「調和のとれたシルクロード」の一部として賞賛されている。

 習主席自身、ポストモダン巡礼者として、彼の西安での基調講演でその連続性を詳細に説明した:

「天山山脈を横断する中国-キルギスタン-ウズベキスタン高速道路、パミール高原に挑む中国-タジキスタン高速道路、そして広大な砂漠を横断する中国-カザフスタン原油パイプラインと中国-中央アジアガスパイプライン―それらは現代のシルクロードです」。


ユーラシア中心部「帯」の復活

 習主席の中国は、再び歴史からの教訓を反映している。現在起こっていることは、紀元前1千年紀の前半に遡る。その時、ペルシャのアケメネス朝帝国は歴史上で最大の帝国として確立し、東はインド、北東は中央アジア、西はギリシャ、南西はエジプトまで広がっていた。

 歴史上初めて、アジア、アフリカ、そしてヨーロッパを横断する領域が結びついた。それによって、貿易、文化、そして民族間の交流が盛んになった(BRIが今日「人と人との交流」と定義するもの)。

 それが、ヘレニズム文化世界がインドや中央アジアと初めて接触したやり方だった。彼らはバクトリア(現在のアフガニスタン)に最初のギリシャの入植地を設立した。

 紀元前1千年紀末から紀元後1千年紀まで、太平洋から大西洋まで広がる広大な地域―漢帝国、クシャン王国、パルティア、そしてローマ帝国などを含む―が、「文明、国家、文化の連続した帯」として、形成された。ウズベキスタン科学アカデミーのエドヴァルド・ルトヴェラゼ教授はそう定義している。

 要するに、中国の「帯」と「路」の考え方の核心は次のとおり:「帯」はユーラシア中心部を指し、「路」は海上シルクロードを指す。

 今から2千年弱前、東西11,400kmにわたって複数の国家や王国の国境が隣接していたのは、人類史上初めてのことだった。伝説的な古代シルクロード(実際には迷路のような道)が、最初の大陸横断道路として誕生したのも不思議ではない。
 
 それは、ユーラシアの民族を巻き込んだ一連の政治的、経済的、そして文化的な動乱の直接的な結果だった。加速化した21世紀の歴史は、これらの歩みを、今、再び辿っている。

 結局のところ、地理が運命である。中央アジアは、近東、インド・ヨーロッパ、インド・イラン、そしてトルコ系の民族による無数の移住を経験した;また、(中央アジアは)深い相互文化相互作用(イラン、インド、トルコ、中国、ヘレニズムなどの文化)の焦点地域でもあった;さらに、(中央アジアは)ほぼすべての主要な宗教(仏教、ゾロアスター教、マニ教、キリスト教、イスラム教など)が交差する地域でもあった。

 トルコを中心とするチュルク諸語の国家機構は、ユーラシア中心部にあるチュルク諸語の国家機構の存在意義を再構築することにも取り組んでいる―それは中国とロシアの影響と並行して発展する方向になるだろう。


広範なユーラシア連携

 ロシアは独自の道を進化させている。最近のヴァルダイ・クラブの集会では、ロシアとユーラシア中心部、そして近隣の中国、インド、イランとの関係における広範なユーラシア連携についての重要な議論が行われた。

 モスクワは、広範なユーラシア連携の概念を、ソビエト後の空間における「政治的な結束」の実現に向けた重要な枠組みと見なしている。この枠組みは、地域の安全保障と絶対に切り離せない。

 これは、繰り返しになるが、ユーラシア中心部で連続して起こされるカラー革命の試みに対して最大限の注意を払うことを意味する。

 北京と同様に、モスクワも、西側全体が中央アジアを反ロシア主義の動機でなりふり構わず、統率しようとすることに甘い幻想は持っていない。実際上、ワシントンは既に1年以上にわたり、中央アジアに対して二次制裁の脅威や単純明快な最後通告という形で接しているからだ。

 したがって、中央アジアが重要なのは、ハイブリッド戦争を展開する観点のみで、だ―そして他の点では―ロシア-中国の連携に反対する戦略的連携の観点がある。(西側動きには)新しいシルクロードにおける素晴らしい貿易と連結性の見通しは皆無。広範なユーラシア連携など一切存在しない。CSTO(=Collective Security Treaty Organization集団安全保障条約機構)の下での安全保障体制もない。ユーラシア経済連合(EAEU)のような経済協力の仕組みもゼロ。

 取るべき選択肢は、ロシアとの戦争における制裁の狂気における「パートナー」となる、そして/あるいは、または二次的な戦線に立つ、あるいは代償を支払うことになる、のいずれかだ。

 現在、米国の外交政策を担当しているあのよく知られたストラウス派ネオコンの精神異常者たちが設定する「代償」は常に同じだ:ISIS-ホラサン(訳注:アフガニスタンに拠点を置くテロ集団)手配するテロを通じた代理戦争だ。その暗黒な下部組織は、アフガニスタンとフェルガナ渓谷の特定の辺境地域で活動を再開する準備が整っている。

 モスクワは、それがどう転ぶかわからないことを十二分に認識している。例えば、1年半の間、ほぼ毎月、ロシアの代表団がタジキスタンに行き、農業、医療、教育、科学、そして観光などの分野で「東方への軸足」を実践するための事業を展開している。

 中央アジアは、BRICS+の拡大において主導的な役割を果たすべきだ。この考えは、ロシアと中国というBRICSの両指導国によって支持されている。BRICS+中央アジアという発想は、タシケントからアルマトイまで真剣に提案されている。

 それは、ロシアと中国から中央アジア、南アジア、西アジア、アフリカ、そしてラテン・アメリカへの戦略的な連続性を確立することを意味する。これには、連結性貿易、エネルギー、製造生産、投資、技術的な飛躍、そして文化的な相互作用の物流が含まれる。

 北京とモスクワは、それぞれ独自の方法と独自の定式化で、この野心的な地政学的取組みが実現可能となる枠組みを設定する歩みを既に踏み出している。ユーラシア中心部は、約2,000年前の王国、商人、そして巡礼者と同様に、歴史の最前線で主役として再び活躍しようとしている。

プリゴジンの申し立て:神々の黄昏*か、それともマスキロフカ(偽装)なのか?

<記事原文 寺島先生推薦>
* 『神々の黄昏』(かみがみのたそがれ)は、リヒャルト・ワーグナーが1869年から1874年までかけて作曲し1876年に初演した楽劇。彼の代表作である舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』四部作の4作目に当たる。(ウィキペディア)。なお、「ワグネル」は「ワーグナー」のロシア語よみ。
The Prighozin File: Twilight of the Gods or Maskirovka?
筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:INTERNATONALIST 360°2023年5月6日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年5月23日


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 取るに足らない2機のドローン攻撃(アングロサクソン・ネオコンの複合挑発)はモスクワに完璧な贈り物を提供した:紛れもない開戦の大義だ。

 私的軍事会社ワグネルのマエストロであるエヴゲニー・プリゴジンは、コミュニケーションの達人/トローラー*/心理戦の専門家として、決して誰にも引けは取らない。
*インターネットの掲示板・チャット・メーリングリストなどで騒動を起こすため、あるいは多くの反応を得るため、場を荒らすためなどの目的で挑発的メッセージを投稿をする人(英辞郎)

 だから、彼が最近ミサイルのような言葉遣いを発表した(「ゴンゾ戦争について」、ロシア語でここ)ときには、かなりの人が驚いた。

 戦争の最中であり、絶え間なく神話化されているウクライナの「反攻」(無数の自殺的な形で起こるかもしれない、起こらないかもしれない)の前夜に、プリゴジンはロシア国防省(MoD)とショイグ大臣、そしてクレムリンの官僚制度を絶対に破壊すると公式発表したのだ。

 この爆弾発言によって、ロシアの専門家の間で連続的な波紋が広がった。しかし、英語を話す人々の間ではそれほど大きな影響を与えなかったようで、ロシアの内部関係者は私に詳細にインタビュー全体を分析した結果を伝えてくれた。ここに、重要なポイントに焦点を当てた注目すべき例外がある。

 プリゴジンは、証拠のない、次のようないくつかの不合理な主張に茶々を入れた。例えば、

・ ロシアは2つのチェチェン戦争に勝利しなかった、
・ プーチンはカディロフの父親に賄賂を支払って、全てを取り繕った、また、
・ ドンバスのデバルツェボ・コールドロンでの戦いは存在せず、代わりにポロシェンコの軍が整然と撤退した、

などという主張に対してだ。

 しかし、以下のような無視できない深刻な告発もある。

・ SMO(戦略的多層評価)は、ロシア軍が基本的に組織されておらず、訓練も受けておらず、規律もなく、士気も低下していることを証明した、
・ 実際の指導力は存在しない、
・ ロシア国防省は戦場で何が起こっているか、およびワグネルの行動についても定期的に嘘をついている、

などだ。

 プリゴジンは、ウクライナが反攻に出た後、ロシア軍が混乱状態で撤退した際、戦線を安定化させるための作戦を開始したのはワグネルだと、一徹に主張している。

 彼の話の要点は、

・ ロシアは素早くかつ決定的に勝利するために必要なものはすべてを持っている、
・ しかし、「指導層」がその資源を必要としている行動者(たぶん、ワグネル)から意図的に遠ざけている、

ということだ。

 そして、それはバフムート/アルテミウスクでの成功と結びついている:ワグネルと「アルマゲドン将軍」と呼ばれるスロビキン将軍が共同で計画を立てた。


「私を殺せ。その方が嘘をつくよりいいだろう」。

 プリゴジンは、今後6ヶ月間戦うのに必要な軍需品がどこに保管されているかについての自身の知識に自信を持っている。ワグネルは少なくとも1日に8万発の砲弾が必要。それを手にできないのは、ひとえに「政治的な妨害行為」があるからだ。

 ロシアの官僚制度(国防省からロシア連邦保安庁まで)のせいで、ロシア軍は「世界第2の軍から最悪の軍隊になり果てた。 ロシアはウクライナにすら対処できなくなっている。兵士たちに物資を供給しない限り、ロシアの防衛は維持されないだろう」。

 プリゴジンはインタビューで、ワグナルが物資を受け取らなければ撤退せざるを得ないかもしれないと不吉な言い方をしている。彼はウクライナの反攻を不可避として予見し、可能性として5月9日(勝利の日)をその開始日としている。

 今週の水曜日(5月5日)、彼はさらに語調を強めた:「反攻」は既にアルテミウスクで「無制限の人員と弾薬」を持って始まっており、供給不足のワグネル部隊を圧倒する脅威となっている。

 プリゴジンは誇らしげにワグネルの情報能力を称賛している;彼のスパイや衛星情報によれば、キエフの部隊はロシアの国境に到達することさえありうる。彼はまた、第五列の非難を激しく否定している:国家プロパガンダを乗り越える必要性を強調し、「今の事態に対して血の代償を払わなければならなくなるだろうから、ロシア人は、(現実を)知る必要がある。官僚たちは単に西側に逃げるだけだ。彼らこそが真実を恐れている人々なのだ」と述べている。

 つまり、金ということなのだろう:次は引用

「私には、将来この国で生きなければならない人々に嘘をつく権利はない。もし、望むなら私を殺してもいい、嘘をつくよりもマシだ。私はこのことについて嘘をつくことを拒否する。ロシアは大惨事の瀬戸際にいる。このゆるんだボルトをただちに締めなければ、この(ロシアという)飛行機は空中で崩壊する」。

 彼はかなり妥当な地政経済的な指摘もしている:なぜロシアがインドを通じて西側に石油を売り続ける必要があるか? 彼はこれを「裏切りだ。ロシアのエリートは西側のエリートと秘密裏に交渉している」と述べている。これはイゴール・ストレルコフの重要な論点でもある。


「怒れる愛国者クラブ」

 疑問の余地はない:もしプリゴジンが本質的に真実を語っているのであれば、これは文字どおり「核」だ。プリゴジンがほとんどの人が知らないことをすべて知っているのか、あるいは、これが見事なマスキロフカ*であるか、だ。
*古くはソ連時代から存在する「情報偽装工作」のこと。 あらゆる手段を駆使し、真の目的を相手に悟られないこと。

 が、2002年2月以降の現地の事実は、彼の主な非難を裏付けるように思われる:ロシア軍は、国防省のトップから大臣ショイグに至るまでの、完全に腐敗した官僚集団のせいで、適切に戦闘することができない。彼らはすべて、大儲けのみに興味を持っているのだ。

 さらに事態は悪くなっている:ガチガチに官僚主義化された環境の下では、前線の指揮官は自律して決定を下し、迅速に適応する権限がなく、遠くからの命令を待たなければならない。これがキエフの反攻が劇的な動揺をもたらす可能性がある主な理由だろう。

 ロシア愛国者の中で、プリゴジンだけが自分の分析を声に出しているわけではない。実際、これには何も目新しいことはない:彼はただ今回、より強い口調で語っているだけだ。ストレルコフは戦争の開始以来、まったく同じことを言っている。それはさらに4月19日に爆弾的な映像を公開する「怒れる愛国者クラブ」へと融合した。

 ここでは、小規模ながら、信頼性の高い愛国的な資質を持つグループが声高に深刻な警鐘を鳴らしている:劇的な変化がすぐに起こらない限り、ロシアはこの代理戦争に完全に負けてしまう危険にさらされている。

 もしくは、繰り返しになるが、これは見事なマスキロフカ(偽装)である可能性もある。それは敵を完全に惑わせることになる。 もしそうであるならば、それは見事に機能している。キエフのプロパガンダ機関は、「ロシアは敗北の瀬戸際にある。ストレルコフがクレムリンにクーデターの脅し」というような見出しでストレルコフの非難を勝ち誇るように採り上げたのだ。

 ストレルコフは語調を強めて続け、ロシア政府がこの戦争を真剣に受け止めておらず、実際に戦わずに取引をする計画を立てていると主張し続けており、ウクライナの領土を譲る可能性さえあると言い張っている。

 彼の証拠は次のとおり:「腐敗した」(プリゴジンの言葉)ロシア軍は、訓練や物流の面で、攻撃のために経済や世論を準備するための真剣な努力を行っていない。そしてそれはクレムリンと軍のエリートたちはこの戦争を本当に信じておらず、望んでいないからなのだ。彼らはむしろ戦前の現状に戻りたいのだ。

 ここで話は振り出しにもどる。マスキロフカ(偽装)なのか? それともワグネルに対する国防省の復讐のようなものなのか? SMO(特別軍事作戦)の開始時には、ロシア軍は正確には共同歩調を取ってはおらず、彼らは本当にワグネルを必要としていたことは事実だ。しかし、今の状況は全く異なる。国防省は、ロシアが決定的な攻撃を開始する際に、プリゴジンの部隊がすべての栄光を手中に収めることがないよう、徐々にワグネルの役割を減らしているかもしれない。


クレムリンの床に打ち落とされた

 そして、この白熱した対立の最中に、真夜中にクレムリン上空に、ちっぽけな神風カミカゼ・ドローンが突入してきたのだ。

 これはプーチンを暗殺しようとしたわけではない。むしろ安っぽい見世物の一環だった。ロシアの情報機関はおそらくすでに全体の経緯を把握しているだろう。ドローンはおそらくモスクワ内またはその近郊から、市民服をまとい偽造IDを持っていたウクライナの攻撃部隊によって発射されたのだ。

 今後も車爆弾や罠、即席地雷など、このようなPR的な事件は増えるだろう。ロシアは内部の安全対策を本格的な戦時体制に向けて強化することが必要になるだろう。

 しかし、「テロ攻撃」への「対応」(クレムリンの用語)はどうなるのだろう?

 Russtrat.ru のエレーナ・パニーニは、非常に貴重で、ヒステリックにならない評価を提供している。「ビデオ映像から判断すると、夜間の攻撃の目的はクレムリンそのものでも、参事院宮殿のドームでもなく、ロシア連邦大統領の紋章旗を複製した円屋根の旗用ポールだったのだ。この象徴的なゲームは、もう純粋に英国的なものだ。イギリスからの「お知らせ」であり、チャールズ3世の戴冠の前夜に、ウクライナの紛争が依然として英米の筋書きに従って展開され、彼らが設定した枠組み内で進行していることの『お知らせ』だ」。

 そう、そうなのだ:あのキエフ・ネオナチの馬鹿どもはただの道具だ。重要な命令は常にワシントンとロンドンから出される。特にレッド・ライン*を越える場合にはそうだ。
* 越えてはならない一線、平和的解決から軍事的解決へと移るその一線(英辞郎)

 パニーニは、クレムリンが決定的な戦略的主導権を握る時が来たと言っている。それには、SMOを本格的な戦争の状態に引き上げ、ウクライナをテロ国家と宣言し、ドゥーマで既に議論されていることを実行する必要がある。具体的には、「キエフのテロリスト政権を停止し破壊することができる武器の使用への移行」だ。

 取るに足らない二機のドローン攻撃(アングロサクソン・ネオコンの複合挑発)はモスクワに完璧な贈り物を提供した:紛れもない開戦の大義だ。

 プーチンへの「暗殺未遂」と5月9日の勝利記念日パレードの妨害を組み合わせる? 「愚者計測器」(The Stupid-O-Meter) によれば、それはネオコンたちだけがそんな素晴らしいアイデアを思いつくのだ。だから、これからは彼らの使い走りである、汗ばんだTシャツの戦争扇動役者(ゼレンスキー)は彼の身近なオリガルヒ連中もろとも、全員死刑囚ということになる。

 しかし、それすら、結局は見当違いだ。モスクワは、2022年10月のケルチ橋攻撃の直後にウクライナをテロリスト国家と認定することができた。しかし、そうしても、NATOは生き残っただろう。

 プリゴジンの「神々の黄昏」シナリオは、クレムリンが本当に望んでいるのは蛇の頭を追い求める(息の根を止める)ことであることを忘れているかもしれない。プーチン大統領は、1年以上前に重要なヒントを提供した:

 「集団的な西側の干渉は、あなたがたが歴史上で経験したことのないような結果をもたらすだろう」。

 それがNATOのパニックを説明している。ワシントンの一部の知能指数が室温(訳注:セ氏20華氏68。IQの平均値は100)を超える人々は、霧を通して見抜いたかもしれない:したがって、挑発行為(クレムリンへのこれ見よがしのドローン攻撃も含め)繰り返し、モスクワにSMOを迅速に終わらせるように迫ったのだ。

 いや、いや、そんなことは起こらない。

 モスクワにとっての現状は見事なうねりとなっている。NATOの武器や財政は測り知れないブラックホールへと止まることなく落ち込んでいる。クレムリンがさり気なく出す yes を合図に、「はい、私たちは応答しますが、それは私たちが適切と判断した時です」と。

 さあ、これが、親愛なるプリゴジン同志よ、究極のマスキロフカ(偽装)だ。

________________________________________
ラムザン・カディロフ、ワグネル部隊を自分の部隊で置き換えることを提案
Kadyrov_95
https://t.me/RKadyrov_95

 私はロシア国防相セルゲイ・ショイグ、ロシア軍参謀総長、そしてPMC「ワグネル」の創設者に呼びかけます。

 国家の運命に無関心でないすべての人々と同様に、私もエフゲニー・ヴィクトロヴィチの最新の発言を聞くのは嫌です。なおかつ、ロシア国防省の指導部がPMC「ワグネル」との意思疎通や説明のために会合を開かず、意見を出さないことはさらに不快です。何だかんだ言っても、プリゴジンはワグネル隊の貴重な貢献は尊敬に値します。もし不足しているのであれば、砲兵に頼らず、少なくともワグネル部隊のさらなる戦術がどのように調整されるのかを基準に説明し、示す必要があります。

 私はマリウポリでのチェチェン部隊の経験を思い出します。歩兵を支援するために国防省から5両の戦車が必要でしたが、割り当てられたのは1両だけでした。その戦車の乗組員も最初の戦闘で車両を離れてしまいました。その後、戦車兵は再び戦闘に向けて調整され、車両に戻され、アゾフの悪魔崇拝者たちの少なくとも1つの位置を砲撃で抑える必要がありました。他の装備にも問題がありました。SSOの開始以来、私たちは30門の砲を交換することができませんでした。私は個人的にモスクワに電話し、指揮官や上官と話しました。1か月後、問題は解決しました。最初の電話ではうまくいかなかったかもしれませんが、私たちの部隊は一撃を受けることもなく、敵に楽しい情報エンターテイメントを提供することもありませんでした。

 ・・・ところで、人々の反応を考えれば、戦友の死体を撮影することは正しくありません。私たちは決してそれを行わないようにしましょう・・・

 たとえば、私の親愛なる兄弟であるアプタ・アラウディノフは、特殊部隊「アフマト」の指揮官であり、ロシア軍第2軍団の副司令官として、敵との接触線に100キロ以上の責任範囲を持っています。彼にとって問題のない日はありません。しかし、アプティ・アロノヴィッチはインターネット上でそれを公に発表したことは一度もありません。彼は内部のコミュニケーションを通じてのみ問題を伝えています。指摘しておきます(まれには例外もあります)が、国防省と参謀本部は常にチェチェン部隊に対して協力的で支援的でした。一般市民生活には常に誤解が生じます。戦争は言うに及ばず、です。この戦争において弾薬の不足が常に存在しています! セルゲイ・クズゲトヴィッチに私の訴えが聞き入れられ、参謀本部に現地に行って問題を解決するよう命令が出されることを私は願っています。これが兵士のやり方であり、状況からの唯一の正しい道です。

 チェチェン部隊はワグネル部隊とともに、ポパスナ、セヴェロドネツク、リシチャンスクなどのドンバスの最も困難な地域で肩を並べて戦いました。彼らは国籍や信仰の区別なく、母国に対する神聖な使命を共に果たしました。国家の利益と国家の安全は常に最優先されるべきです。そして、USO(特別戦争作戦)が終わった時、私たち全員、戦士も指揮官も、ロシアの愛国者全員が勝者であることを願います。一緒に。

 はい、もし兄であるプリゴジンと「ワグネル」が去るのであれば、参謀本部は経験豊富な戦闘部隊を失い、弟であるカディロフと「アフマト」がアルテモフスクにその位置を引き継ぐでしょう。もしもそれが予定通り進むなら、私たちの戦士たちは移動し、市を占拠する準備がもうできています。それは時間の問題です。しかし、市の残りの2キロメートルが兵士たちの命を犠牲にせず、相互理解と支援、指揮部と戦士たちの決意によってロシアの最高司令官、ウラジーミル・ウラジミロヴィッチ・プーチンの命令を遂行する結果として奪取されるとしたら、それは素敵なことでしょう。

t.me/RKadyrov_95/3600
2.0MviewsMay 5 at 12:02





脱ドル化が本格始動

<記事原文 寺島先生推薦>
De-Dollarization Kicks into High Gear
筆者:ペペ・エスコバル (Pepe Escobar)
出典: INTERNATIONALIST 360°  2023年4月29日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年5月12日

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 米国が力によって世界中を統治する計画には、米ドルが欠かせない。しかし、2022年、基軸通貨に占めるドルの割合は、過去20年間の平均の10倍の速度で減少した。

 米ドルの世界的な基軸通貨としての地位が損なわれていることが確定した。欧米の企業メディアが、多極化世界の脱ドル化シナリオを本格的に攻撃し始めた時、ワシントンのパニックが完全に深まったことが分かるだろう。

 数字で見ると、世界の外貨準備高に占めるドルの割合は、2001年には73%、2021年には55%、2022年には47%であった。重要なのは、昨年、ドルの占有割合が過去20年間の平均の10倍の速さで減少したということである。

 そして、2024年末の米国大統領選の時期には、世界のドル占有率が30%になると予想することは、もはや奇想天外な話ではない。

 2022年2月、ロシアの外貨準備高3000億ドル以上が西側諸国によって「凍結」された時、地球上のすべての国が自国の外貨準備高を心配し始めたのである。しかし、この不合理な動きには、EUがロシアの外貨準備の大部分を「見つけることができない」という、笑い話もあった。

 さて、ここで貿易面における現在の重要な動きについて説明する。

 ロシアのアントン・シルアノフ財務大臣によると、ロシアと中国の貿易取引の70%以上がルーブルか人民元を使用しているという。

 ロシアとインドは石油をルピーで取引している。4週間も前に、Banco Bocom BBM*はラテンアメリカの銀行として初めて、欧米主導の金融メッセージシステムであるSWIFT**に代わる中国の決済システムCIPS(Cross-Border Interbank Payment System)***の直接参加者として登録した。
* ブラジル、リオデジャネイロにある銀行。
* Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication。銀行間の国際金融取引に係る事務処理の機械化、合理化および自動処理化を推進するため、参加銀行間の国際金融取引に関するメッセージをコンピュータと通信回線を利用して伝送するネットワークシステム。本部はベルギーのブリュッセル。
* 人民元国際決済システム。人民元建での外国送金と貿易参加者の清算、決済手段を提供する決済網。2015年に中国人民銀行によって導入された。


 中国のCNOOC*とフランスのトタルが、上海石油天然ガス取引所を通じて、人民元による初のLNG取引に調印した。
* 中国海洋石油集団有限公司。中華人民共和国の国有石油・天然ガス会社。英語名 China National Offshore Oil Corporation。略称 中国海油、CNOOC。

 ロシアとバングラデシュの間で行われたルププル原子力発電所建設のための取引も、米ドルを回避することになる。最初の3億ドルの支払いは人民元で行われるが、ロシアは次の支払いをルーブルに切り替えようとしている。

 ロシアとボリビアの二国間貿易は、現在ボリビアーノでの決済を受け入れている。ボリビアのリチウム鉱床開発の重要な一翼を担うロスアトム*の活動を考えれば、これは極めて適切なことだ。
* ロシアの国営原子力企業

 注目すべきは、これらの取引の多くがBRICS諸国と、そしてそれに加えた国々との取引であることである。ブラジル、ロシア、インド、中国、そして南アフリカを設立メンバーとする21世紀の主要な多極化機構の拡張版であるBRICS+には、少なくとも19カ国がすでに参加を要請している。6月にケープタウンで開催されるサミットでは、オリジナル5カ国の外相が新メンバーの加盟方法について議論を開始する予定である。

 BRICSは、現状では、すでにG7よりも世界経済との実際的な重要性を持っている。IMFの最新の数字では、G7の29.9%に対し、既存のBRICS5カ国は32.1%の世界成長率に貢献するとされている。

 イラン、サウジアラビア、UAE、トルコ、インドネシア、メキシコが新メンバーになる可能性があり、グローバルサウスの主要参加国が、欧米の覇権を打ち砕くことができる多国間機関の重要性に注目し始めていることは明らかである。

 ロシアのプーチン大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MbS)は、OPECプラスにおけるリヤドとの協力関係がBRICSプラスに転化し、完全に連携している。それは、ロシアとイランの戦略的協力関係が深まるのと並行している。

 MbSは、サウジアラビアをユーラシアの新しい3大国であるロシア・イラン・中国(RIC)へと意図的に誘導し、米国から遠ざけているのである。西アジアにおける新しいゲームは、イランとサウジアラビアを中心とするBRIICSS*であり、その歴史的和解は、BRICSのもう一人の重鎮である中国によって仲介された。
*BRIICSSは、BRICS諸国にイランとサウジアラビアを加えた略称。

 重要なことは、イランとサウジアラビアの和解が進展することで、湾岸協力会議(GCC)全体と、ロシア・中国の戦略的協力との関係がより緊密になることである。

 このことは、ロシア-イラン-インドを結ぶ国際南北輸送回廊(INSTC)と、北京の野心的で数兆ドル規模の「一帯一路構想(BRI)」の主要な柱である中国-中央アジア-西アジア経済回廊が、貿易接続と決済システムという点で補完的な役割を果たすことを意味するものだろう。

 現在、ブラジルだけが、ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領が米国人と奇矯な外交政策にとらわれて、BRICSから二番手にされる危険性をはらんでいる。


BRIICSSの彼方に

 コロナに連なる供給網の混乱と、欧米の集団的な対ロシア制裁の累積的影響によって、脱ドル化列車は急速度に推進されたのである。

 本質的なポイントはこうだ。BRICSは商品を持ち、G7は金融を支配している。G7は商品を育てることはできないが、BRICSは通貨を作ることができ、特に金、石油、鉱物、その他の天然資源のような有形資産に価値が連動する場合はそうである。

 恐らく鍵となる変動要因は、石油や金の価格決定が既にロシア、中国、西アジアに移っていることである。

 その結果、ドル建て債券の需要はゆっくりと、しかし確実に崩壊しつつある。何兆ドルもの米ドルが、必然的に本国に戻っていて、ドルの購買力やその交換レートを損なっている。

 兵器化された通貨の崩壊は、800以上の軍事基地とその運用予算という米国の世界的なネットワークの背後にある威力をすべて粉砕することになる。

 3月中旬、モスクワで開催された独立国家共同体(CSI)経済フォーラム(ソ連崩壊後に結成されたユーラシアの主要な政府間組織の一つ)では、CSI、ユーラシア経済連合(EAEU)、上海協力機構(SCO)、BRICSの間でさらなる統合について活発に議論されている。

 国際法を踏みにじる西側主導の現行システムに対する反撃をユーラシア組織が調整することは、今週初めの国連でのロシアのセルゲイ・ラブロフ外相の演説の主要テーマの一つであったことは、偶然ではない。また、2001年6月にロシアと中央アジアの3つの「スタン」であるCISの4つの加盟国が、中国とともにSCOを設立したのも偶然ではないだろう。

 ダボス会議/グレート・リセットというグローバリストの楽団は、現実的には、ロシアによるウクライナでの特別軍事作戦(SMO)の開始直後に石油に対する戦争を宣言した。彼らはOPEC+ に対して、ロシアを孤立させよ、さもなくば、屈辱的なまでに失敗するだろうと脅した。しかし、モスクワとリヤドによって実質的に運営されているOPEC+ が、今や世界の石油市場を支配している。

 欧米のエリートはパニックに陥っている。特に、ルーラが習近平と中国を訪問した際に、国際貿易において米ドルを自国通貨に置き換えるよう、グローバルサウス全体に呼びかけた爆弾発言をしたからだ。

 欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁は最近、ニューヨークを拠点とする外交問題評議会(米国の体制基盤の中心)で、「米・中国間の地政学的緊張はインフレ率を5%引き上げ、ドルやユーロの優位性を脅かす可能性がある」と述べた。

 西側の主流メディアでは、BRICSの経済圏がロシアと普通に取引していると、「世界の他の地域に新たな問題を引き起こす」という一枚岩の報道がなされている。それは全くナンセンスだ。ドルやユーロに問題が生じるだけだ。

 西側諸国は、2024年にバイデン-ハリス組が再出馬するという驚くべき発表と時を同じくして、絶望の淵に立たされている。つまり、米政権のネオコン操縦者は、2025年までにロシアと中国の両方に対して産業戦争を仕掛けるという計画をさらに強化することになる。


ペトロ人民元がやってくる

 そして、脱ドル化、そして世界の覇権を握る基軸通貨に代わるものは何かという話に戻ってくる。現在、GCC(湾岸協力理事会)は世界の石油輸出の25%以上を占めている(サウジアラビアは17%である)。中国の石油輸入の25%以上はリヤドからである。そして、中国は予想通り、GCCにとって最大の貿易相手国である。

 上海石油天然ガス取引所は、2018年3月に営業を開始した。どこの国のどんな石油生産者でも、今日から人民元で上海で売ることができる。つまり、石油市場の力関係は、すでに米ドルから人民元へと移行しつつあるのだ。

 しかし、問題点は、ほとんどの石油生産者が、人民元を大量に蓄えておくことを好まないことである。結局、みんなペトロダラーにまだ慣れている。北京は、上海の原油先物取引と人民元と金の交換を連動させることが鍵になる。しかも、中国の膨大な金準備に手をつけることなく。

 この簡単な実行過程は、上海と香港に設置された金取引所を通じて行われる。そしてそれは、偶然ではなく、EAEU(ユーラシア経済連合)で議論されているドルを回避する新しい通貨の中心に位置している。

 脱ドル化は既に構造的に始まっている。上海エネルギー取引所の人民元建て原油先物予約をフル活用するのだ。それが、ペトロダラーの終焉に向けた望ましい道である。

 米国が力によって世界を支配する計画は、基本的に世界の通貨を牛耳ることに基づいている。経済的な支配は、国防総省の「全領域支配」方針の根幹をなすものである。しかし現在、ロシアは極超音速ミサイルで到達不可能な前進を続け、ロシア、中国、イランは空母破壊能力のあるミサイルを配備できるようになり、米国の軍事的計画さえ混乱している。

 新自由主義、制裁的認知症、広範な脅威という有害なカクテル混合物にしがみつく覇権国は、内部から出血している。脱ドル化は、システム崩壊に対する必然的な対応である。孫子2.0*の環境では、ロシアと中国の戦略的友好関係は、敵が自らを打ち負かすのに精一杯で、その邪魔をする気がないのは不思議ではない。
* 孫子の兵法バージョン2.0。21世紀の兵法のこと。

ロシア外相ラブロフ氏のニューヨーク攪拌(ペペ・エスコバル)

<記事原文 寺島先生推薦>

Mr. Lavrov’s New York Shuffle

筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2023年4月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年5月4日



セルゲイ・ラブロフ外相のニューヨークでの一幕は、満場の大喝采となる外交的効果を発揮したと、ペペ・エスコバルは書いている。

 真の紳士、この困難な時代の最高の外交官、事実を完全に把握し、愉快なユーモアのセンスに恵まれて、有名なルー・リード*の言葉を借りれば、危険な荒野を歩き、無傷であることをご想像あれ!
* アメリカニューヨーク州ブルックリン出身のミュージシャン。本名ルイス・アレン・リード 。ユダヤ系の血を引いており、父の代にラビノヴィッツ から改姓。シラキューズ大学在学中にデルモア・シュワルツに師事して詩作を学ぶ。(ウィキペディア)

 実際、セルゲイ・ラブロフ外相のニューヨークでの瞬間は、4月24日と25日、国連安全保障理事会を前にした2回の発言に見られるように、満場大喝采の外交行為であった。少なくとも、グローバル・サウス、つまりグローバル多数派の国々にとってはそうだった。

 4月24日の国連安保理第9308回会議(議題「国際平和と安全の維持、国連憲章の原則の保護による効果的な多国間主義」)は、特に重要な意味があった。

 ラブロフは、2018年の国連総会決議で極めて重要とされた「多国間主義と平和のための外交の国際デー」に会議が行われることの象徴性を強調した。

 ラブロフは前置きで、「あと2週間で、第二次世界大戦の勝利から78周年を迎えます。我が国が連合国の支援を受けて決定的な貢献をしたナチス・ドイツの敗北は、戦後の国際秩序の基礎を築きました。国連憲章はその法的根拠となり、真の多国間主義を体現する我々の組織(国連)そのものが、世界政治における中心的、調整的な役割を獲得したのです」と述べた。

 まあ、実際のところはそうでもないのだが。それでは、多国間主義がいかに踏みにじられたかを指摘するラブロフの真の荒野への歩み寄りを紹介しよう。いつも名前が挙がる札付きたちの誹謗中傷の嵐や、ニューヨークで氷のように冷たいシャワーを浴びせかけられたり、あるいは地政学的な冷凍庫に閉じ込めようとする試みを、何の苦も無く跳ね除け、彼は勝利した。それでは、現在の荒野を彼と一緒に歩いてみよう。ラブロフさん、あなたがこのショーの主役だ。


わが道か、直行路か

 例の「ルールに基づく秩序」:「国連中心体制は、深い危機を迎えています。その根本的な原因として、私たちの組織の一部の加盟国が、国際法と国連憲章を一種の「ルールに基づく秩序」に置き換えたいと願ったことが挙げられます。この「ルール」は誰も見ておらず、透明性のある国際交渉の対象でもありません。これらの「ルール」は、多国間主義の客観的な現れである、新しい独立した開発拠点の形成という自然な成り行きを打ち消すために考案され、利用されているのです。近代的な技術や金融業への参入を断ち、供給網から追い出し、財産を没収し、競争国の重要生活基盤組織を破壊し、普遍的に合意された規範や手続きを操作する、といった非合法な一方的措置で封じ込めようとしているのです。その結果、世界貿易の分断、市場体系の崩壊、WTOの麻痺、そして最終的には、もう隠し立てすることもなく、IMFを軍事的目標を含む米国とその同盟国の目標を達成するための道具に変質させてしまいました」。

 グローバリゼーション(世界の一体化)の破壊:「不従順な者を罰することで自らの優位性を主張しようとする必死の試みで、米国は、長年にわたり全人類の最高善として讃えられ、世界経済の多国間体制に貢献してきたグローバリゼーションを、さらに一歩先に進み、破壊しようとしたのです。ワシントンとそれに服従した他の西側諸国は、国際法に従って政策を構築し、「黄金の10億人」の利己的な利益に従うことを拒否する人々に対する非合法な措置を正当化するために、必要なときはいつでも彼らの「ルール」を使用します。異論を唱える者を、「我々側にいない者は、我々の敵である」という原則に従って要注意国の一つであると捉えるのです。西側各国にとって、国連のような普遍的な形式で交渉することは、長い間「不都合」なことでした。多国間主義を弱体化させる政策上の考え方を正当化するために、「独裁国家」に対する「民主国家」の結束という主題が導入されてきました。自称覇権主義者(アメリカ)によって構成が決定される「民主主義のための首脳会議」に加えて、国連を飛び越えて、他の「特権階級集団」が作られているのです」。

 「エデンの園」vs「ジャングル 」:正直に言いましょう。欧米の少数派が全人類を代表して発言することを許す人はいません。良識ある行動をとり、国際社会のすべての構成員を尊重することが必要です。「ルールに基づいた秩序」を押し付けることで、それを考えた人間は国連憲章の重要な原則である国家の主権的平等を、傲慢にも、否定しているのです。「排他的な錯誤」の真骨頂は、EU外交の最高位であるジョゼップ・ボレルが「ヨーロッパはエデンの園、それ以外の世界はジャングルだ」と「誇らしげ」に発言したことです。また、今年1月10日のNATO・EU共同声明も引用しましょう。:「西側連合」は、「我々の10億人」の利益を確保するために、NATOとEUが利用できるあらゆる経済、金融、政治、そして―私は特に注目していますが―軍事手段を駆使します」。

 NATOの 「防衛線」:「平和主義」と軍事計画の専守防衛的性格を、事あるごとに皆に納得させてきたNATOは、昨年のマドリッドでの首脳会談で、欧州大西洋地域といわゆるインド太平洋地域における「世界規模の責任」、「安全保障の不可分化」を宣言しました。つまり、今やNATOの(防衛同盟としての)「防衛線」は、太平洋の西岸に移りつつあるのです。ASEAN中心の多国間主義を弱体化させるような軍事同盟を用いた方策は、東京、ソウル、そして多くのASEAN諸国が押し込まれているAUKUS軍事同盟の創設に現れています。南シナ海における欧米の一方的な利益を確保するために、米国の支援のもと、海洋安全保障問題に介入する仕組みが構築されつつあります。先ほど引用しましたが、ジョゼップ・ボレルは、昨日、EUの海軍部隊をこの地域に派遣することを約束しました。「インド太平洋戦略」の目標が、中国を封じ込め、ロシアを孤立させることであることは隠していません。西側各国は、アジア太平洋地域における「効果的な多国間主義」をこのように理解しているのです」。

 「民主主義を推進する」:「第二次世界大戦以来、ワシントンによる何十回もの犯罪的な軍事的冒険が、多くの国からの正当性を得ようとすることもなく行われてきました。誰にも知られていない「ルール」があるから? 2003年の米国主導の連合軍による破廉恥なイラク侵攻は、2011年のリビアへの侵略と同様、国連憲章に違反して行われました。国連憲章の重大な違反は、米国による旧ソ連後の国家への干渉でした。グルジアやキルギスで「カラー革命」が組織され、2014年2月にはキエフで流血のクーデターが起こり、2020年にはベラルーシで武力による政権奪取の試みが行われました。西側諸国全体を自信満々に率いていたアングロサクソンは、こうした犯罪的な冒険をすべて正当化するだけでなく、「民主主義の推進」という路線を誇示します。しかしまた、その「ルール」にしたがって :コソボは住民投票なしで独立を認める;クリミアは、住民投票はあったが独立を認めない;フォークランド/マルビナスには手を出すな、あそこは住民投票があったのだから(英国のジョン・クレバリー外相が最近の発言)。笑ってしまいます」。

 「ウクライナ問題」の地政学:「これはウクライナの問題ではなく、国際関係が今後どのように構築されていくか、です。すなわち、利害の均衡に基づく安定した共通理解の形成を通じてか、あるいは攻撃的かつ爆破的な覇権主義の推進を通じてか、ということです。「ウクライナ問題」を地政学的な文脈から切り離して考えることは不可能です。多国間主義は、前述のように、国連憲章のすべての原則の相互関連性を尊重することを前提とします。ロシアは、特別軍事作戦の一環として追求する任務を明確に説明しました。それは、国境で直接NATO加盟国が作り出す我々の安全保障への脅威を排除し、多国間条約によって宣言された権利を奪われた人々を保護し、彼らの祖先が何世紀も住んでいた地域からの絶滅と追放(キエフ政権が公言しています)の直接的脅威から彼らを保護することでした。私たちは正直に、何のために、誰のために戦っているのかを述べました」。

 グローバル・サウスが反撃:「現段階における真の多国間主義のためには、国際関係の多極的な構造形成の客観的な動向に、国連が適応することが必要です。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々の代表を増やすことによって、安全保障理事会の改革を加速させなければなりません。この国連の主要機関(安全保障理事会)において、西側諸国が現在、とんでもなく過剰な代表を占めていることは、多国間主義を弱体化させるものです。ベネズエラの主導により、国連憲章を守る友好国集団が形成されました。私たちは、憲章を尊重するすべての国に、この集団に参加するよう呼びかけます。また、BRICSやSCO(上海協力機構)の建設的な可能性を利用することも重要です。EAEU(ユーラシア経済連合)、CIS(独立国家共同体)、そしてCSTO(集団安全保障条約)は貢献する準備ができています。私たちは、グローバル・サウスの国々の地域連合の立場の主導権を利用することに賛成です。また、G20は多国間主義を維持するために有益な働きをすることができます。ただし、西側の国々が、世界経済における危機的な現象をこれだけ引き起こした自分たちの責任を曖昧にできればとの期待から、G20協議の議題にある重要な問題から各国の目をそらすことをやめれば、です」。


それで、法を破っているのは誰なのか?

 この簡潔な(ラブロフ氏の)力作に目を通した後、ラブロフが2022年2月以来、一貫した、(西側にとっては)耐え難い詳細さで、世界に語ってきたことを後追いすれば、大いに啓発されるだろう。現代史において、国際法の連続違反者は、覇権国(アメリカ)とその哀れな家臣たちだった。ロシアではない。

 つまり、モスクワはSMO(特別軍事作戦)を開始する権利を完全に有していたのである(他に選択肢がなかったのだから)。そして、この作戦は、3月31日に発表されたロシアの新しい外交政策構想に組み込まれている、論理的な結論へと導かれることになる。西側各国が何をしようとも、ロシアはそれを無視する。ロシアは、西側各国こそ、国連憲章に定められた国際法の規範から外れて行動していると見なすからだ。


世界の終わりを待ちながら (ペペ・エスコバル)

<記事原文 寺島先生推薦>

Waiting for the End of the World

筆者:ペペ・エスコバル (Pepe Escobar)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2023年4月14日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2023年5月2日

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私たちは世界の終わりを待っていた
世界の終わりを待っていた 世界の終わりを待っていた
親愛なる主よ、私はあなたが来てくれることを心から願っています。
だって、本当にあなたは何かを始めたのですから。

エルビス・コステロ、「世界の終わりを待ちながら、1977」


 世界を震撼させた2023年の地政学的地震が、途切れることなく連鎖していく様子は、想像することすらできない: プーチンと習近平はモスクワで、パックス・アメリカーナの終わりの始まりを効果的に告げた。

 これは、1世紀以上にわたって、うっすらと地球を覆ってきた英米の覇権主義エリートたちにとって究極の忌むべきものであった:対等な2つの競争国家の間で、世界最高水準の兵器、外交専門知識、最先端のロシアの付加価値経験を含む巨大な製造拠点と天然資源供給における優位性を織り込んだ、文書で交わされた総合戦略協力関係の締結である。

 ローマ帝国の「分割統治」の劣化版をプランAとしてきたエリートたちからすれば、このような事態は想定外だった。実際、傲慢さに目がくらみ、このような事態が起こるとは思ってもみなかった。歴史的に見れば、これは「影の大会」*の修正版と呼ぶにも値しない;むしろ、「影の中に取り残された下品な帝国」、「口から泡を吹きながら」(マリア・ザハロワの著作)と言ったほうがふさわしい。
*Karl E. Meyer & Shareen Blair Brysac. “Tournament of Shadows: The Great Game and the Race for Empire in Central Asia”を参照。

 習近平とプーチンは、孫子のような動きで、オリエンタリズム(東方思考)、ヨーロッパ中心主義、例外主義、そして最後になるが、新植民地主義を標的にしたのだ。グローバル・サウスがモスクワで起こったことに魅了されたのも不思議ではない。

 さらに悪いことに、中国は購買力平価(PPP)で測定すると世界最大の経済大国であり、世界最大の輸出国でもある。さらに、ロシアは購買力平価(PPP)で見るとドイツと同等かそれ以上の経済規模を持ち、世界最大のエネルギー輸出国であり、非工業化を強いられてこなかったという利点もある。

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fotospublicas.com – Kremlin

 この二国は、一緒に、息を合わせて、米ドルを回避するために必要な条件を作り出すことに集中している。

 プーチン大統領の重要な一節のひとつをご堪能あれ:「我々は、ロシアとアジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々との協定に中国人民元を使用することに賛成だ」。

 過去数年間、地政学的・地理経済的に慎重に練られたこの同盟の根本的な帰結は、すでに始まっている。世界の貿易関係において潜在的な三つ巴が出現し、多くの意味で世界貿易戦争が起こるのである。

 ユーラシア大陸は、ロシアと中国の協力関係によって導かれ、大きく組織されてきている。中国はグローバル・サウス全体で重要な役割を果たすが、インドも大きな影響力を持つようになり、非同盟運動(NAM)の拡大版とも言える存在になる可能性がある。そして、EUとファイブ・アイズ*に集うイギリス圏の属国を統治するかつての「必要不可欠な国」(アメリカ)ある。
* 英、米、豪、加、NZ


中国が本当に望んでいること

 自称「ルールに基づく国際秩序」のもと、覇権国(アメリカ)は基本的に外交をしたことがない。分割統治は、定義上、外交を排除するものである。今、その「外交」形態は、知的に問題があり、率直に言って無能なアメリカ、ヨーロッパ、そしてイギリスの高官たちからの粗野な侮辱的振る舞いによって、さらに質が落ちている。

 真の紳士であるセルゲイ・ラブロフ外相が、次のことを言わざるを得なかったのも不思議ではない:

「ロシアはもはやEUの友人ではない・・・EUはロシアを「失った」。しかし、EU自体に責任がある。結局のところ、EU加盟国は・・・ロシアが戦略的敗北を喫するべきだと公然と宣言しているからだ。だから我々はEUを敵対組織とみなしているのだ」。

 しかし、3月31日にプーチンが発表したロシアの新しい外交政策構想では、ロシアは自らを「西側の敵」と考えず、孤立を求めないということが明確にされている。

 問題は、向こう側に話すべき大人がほとんどおらず、ハイエナの群れだけである点だ。このため、ラブロフは、モスクワに対する「敵対的」行動に関与する者に対しては、「対称的・非対称的」な手段を用いることができると、改めて強調した。

 例外主義者(米国主導の西側集団-原訳者注)に関して言えば、ひとつだけはっきりしていることがある。モスクワは米国を主な反ロシアの扇動者として指定し、西側集団の一般的な政策は「新種のハイブリッド戦争」と表現される。

 モスクワにとって本当に重要なのは、次のような将来における積極面である:

①ユーラシア大陸の切れ目のない統合、
②「友好的なグローバルセンター」である中国やインドとの関係強化、
③アフリカへの援助拡大、
④ラテンアメリカやカリブ海諸国、イスラム圏(トルコ、イラン、サウジアラビア、シリア、エジプト)、そしてASEAN*との戦略的協力の強化、
* the Association of Southeast Asian Nations東南アジア諸国連合

 そして、それは、欧米のメディアが、予想どおり、一斉に無視した本質的なことに行き着く。つまり、ロシアの新しい外交政策構想の発表とほぼ同時に開催された「ボアオ・アジア・フォーラム」である。

 2001年初頭、まだ9.11以前の時代に始まったボアオ・フォーラムは、ダボス会議に触発されたものだが、事務局を北京に置くなど、あくまでも中国が頂点に立っている。ボアオは海南省にあり、トンキン湾に浮かぶ島々の一つで、現在は観光地として有名である。

 今回のフォーラムの主要な議題のひとつは「開発と安全保障」で、潘基文前国連事務総長が議長を務めている。

 習近平の「グローバル開発構想」や、同じく2022年にボアオで、たまたま発足した「グローバル安全保障構想」への言及もあった。

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 問題は、この2つの取り組みが、国連の平和と安全という概念と、「持続可能な開発」に関する怪しげな2030行動計画に直結していることだ。――開発は名ばかり、「持続可能」にいたっては、そのかけらもない。国連は、基本的にワシントンの気まぐれのために存在しているのである。北京は、今のところ、これに付き合っている。

 李強首相は、より具体的に説明した。彼は、平和と発展の基礎として「人類が未来を共有する共同体」という「商標」の概念を強調し、非暴力の共存を「バンドンの精神」と結びつけ、1955年のNAMの出現と直接に連続させた:これは、「アジア流」相互尊重と合意形成でなければならない。「単独制裁と広範囲な管轄権の無差別使用」とは対照的である。「新しい冷戦」の否定なのだ。

 そして、このことから李強は、東アジアRCEP貿易協定の深化に向けた中国の努力を強調し、また中国・ASEAN自由貿易協定の交渉を進めることになった。そして、これらのすべては、貿易保護主義とは対照的に、一帯一路構想(BRI)のさらなる拡大に組み込まれている。

 したがって、中国人にとって重要なのは、ビジネスと並行して、文化的な交流、包括性、相互信頼、そして「文明の衝突」やイデオロギー(思想体系)の対立を厳しく拒絶することだ。

 モスクワが上記のすべてに賛同し、実際に外交的な繊細さをもって実践しているのと同程度に、ワシントンはこの中国の戦略がグローバル・サウス全体にとっていかに魅力的であるかということに恐怖を感じている。結局のところ、例外主義者が発想の場で提示するのは、一方的な支配、分割統治、そして「われわれと共にあるか、われわれに反対するか」である。そして、反対の立場を取れば、その国は非難され、嫌がらせを受け、爆撃され、そして/あるいは政権交代に追い込まれることになる。


1848年の繰り返しか?

 一方、属領では、ヨーロッパに革命の大波が押し寄せる1848年の再来となる可能性が出てきた。

 1848年当時はリベラルな革命だったが、現在はオランダやベルギーの農民、イタリアの反体制ポピュリスト、フランスの左右複合ポピュリストなど、本質的に民衆の非リベラル(反戦)革命である。

 これをヨーロッパの春と呼ぶには早すぎるかもしれない。しかし、さまざまな場所で確かなことは、平均的なヨーロッパ市民が、新自由主義的なテクノクラシー(技術官僚による統治)と、資本と監視の独裁のくびきから脱却しようとする傾向が強まっているということである。NATOの戦争挑発主義については言うまでもない。

 欧州のメディアはほとんどテクノクラート(技術官僚)によって統治されているため、主流メディア(MSM)近辺で、この議論を人々は目にすることはないだろう。しかし、これは中国型王朝の終焉がないことを告げるものであるかのような雰囲気が漂っている。

中国の暦では、これは必ずそうなる:中国の社会歴史時計は、1つの王朝につき200年から400年という周期で動いているのだ。

 実際、ヨーロッパはルネッサンスを迎えているのではないかという指摘もある。

 欧米寡頭政治の手先である無政府自由主義者の大群のせいで、激動の期間は長く困難なものになるだろうし、あるいは、一日ですべてが決着することもあるだろう。ただ目的地ははっきりしている。新自由主義テクノクラシーの死である。

 儒教、道教、東方正教会など、伝統的で深く根付いた文化的価値観に比べれば、この「近代」の代用品(狂乱の取り壊し文化の体現)[退廃的、極端に流動的な後期近代:原訳者注]は本質的に無効であると示すことで、習/プーチンの構想が西側の集合体に入り込むことができる。中国やロシアの文明国家の概念は、見た目よりもはるかに魅力的である。

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 まあ、この(文化)革命がテレビで放映されることはないだろうが、無数のテレグラム・チャンネルを通じてその魅力を発揮することはできるだろう。歴史上、反抗に熱心なフランスは、再び前線に躍り出るかもしれない。

 しかし、世界の金融カジノ(賭博)が破壊されなければ何も変わらないだろう。ロシアは世界にひとつの教訓を与えた:ロシアは長い全面戦争の準備を静かに進めていた。ロシアは、長期にわたる全面戦争に備え、静かに準備を進めていたのである。それだけに、ロシアが放った適切なカウンターパンチは、金融戦争を根底から覆し、カジノを完全に不安定にした。一方、中国は再均衡を進め、ハイブリッドであろうとなかろうと、全面戦争に備える道を歩んでいる。

 マイケル・ハドソンは、最新作『The Collapse of Antiquity(古代の崩壊)』で、西洋文明の根源であるギリシャとローマにおける債務の役割を見事に分析し、現在の状況を簡潔に説明している:

 「アメリカは、まず頂上で色彩革命を起こした、ドイツ、オランダ、イギリス、そしてフランスという国々でだ、だから本質的には、ヨーロッパの外交政策は自国の経済的利益を代表していないのだ(・・・)その政策は、独裁政治に対する民主主義(彼らはそれによってウクライナのナチズムを含む寡頭制のことを言っている)の戦いなのだ(・・・)。

 したがって、「貸方寡頭制」は、実際には、完全支配と全面的な軍国主義的支配というグローバリストの夢精の間の毒を持った接点として説明することができる。

 いま違うのは、ロシアと中国が、米国の戦略家が考えていたようなこと(我々の言うことから逸脱すれば、彼らは「暗闇の中で凍結」される)はもはや通用しないことを、グローバル・サウスに示していることだ。グローバル・サウスの大半は今、公然と地政学的反乱を起こしている。

 新自由主義グローバリズムの全体主義は、確かに砂嵐で消えることはないだろう。少なくとも、今すぐではない。まだまだ毒気の旋風は続く:憲法上の権利の停止、オーウェル流ののプロパガンダ、暗殺部隊、検閲、文化の抹殺、イデオロギーの強制、移動の自由に対する不当な制限、スラヴ人に対する憎悪と迫害、隔離、反対意見の犯罪化、焚書、裁判、ICCのカンガルー(インチキ)令状、ISISスタイルのテロリズムなどだ。

 しかし、最も重要な要素は、中国とロシアがそれぞれ複雑な特殊性を持ちながら(どちらも西側諸国は同化不可能と見なしている)、多かれ少なかれカジノやその供給流通網につながらない、実行可能な経済モデルの構築に多額の投資をしているということである。そしてそれが、例外主義者の怒りに油を注いでいる。

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ペペ・エスコバルはフリーランスの作家で、ユーラシア大陸の地政学的アナリスト。最新刊は『Raging Twenties』(Nimble Books, 2021)。@rocknrollgeopoliticsのテレグラムで彼をフォローしてください。
Original Article

物々交換が西側金融システムを揺るがす―イランとロシアとの連携が拓く新しい世界

<記事原文 寺島先生推薦>

Rewiring Eurasia: Mr. Patrushev Goes to Tehran

ユーラシアの再編成:パトルシェフ氏、テヘランへ行く

筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年11月10日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年11月20日


今週(11月第2週)に行われたユーラシアの安全保障担当の2人の実力者による会談は、西側がアジアに残した大きすぎる足跡を消し去るためのさらなる一歩となるものだ。

 二人の男が、テヘランの居心地の良い部屋で、心ときめく新しい世界地図を背景にして佇んでいる。

 そこには見るべきものは何もないのか? いや、あるのだ。そこにいるのは、ユーラシアにおける安全保障の巨人、ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記とイランのアリ・シャムハニ最高国家安全保障会議書記にほかならない。ふたりは珍しくリラックスしている。

 なぜ、これほどまでに和やかな雰囲気なのか。それは、二人の会話の主題である「ロシアとイランの戦略的友好関係」にまつわる将来の展望が、これ以上ないほど心躍るものだったからである。

 この日はきわめて重要な取引が行われた。パトルシェフの訪問はシャムハニの招きによる公式のものであった。

 パトルシェフがテヘランにいたのは、ロシアのショイグ国防相が、特殊軍事作戦の総指揮官であるセルゲイ・スロヴィキン将軍の勧告に従って、へルソンからのロシアの撤退を命じたのと全く同じ日だった。

 パトルシェフは数日前からそれを知っていた。だから、テヘランで用を足すために飛行機に乗るのは問題なかったのだ。結局のところ、へルソンのドラマは、ウクライナに関するパトルシェフと米国国家安全保障顧問のジェイク・サリバンの交渉の一部であった。その交渉は数週間前から行われていて、サウジアラビアを最終的な仲介者としていた。

 ロシアのタス通信の報道によれば、ウクライナ問題以外にも「情報の安全管理や、西側の特殊機関による両国の内政干渉への対策」についても話し合われたとのことだ。

 ご存知のように、両国は西側の情報戦と破壊工作の特別な標的であり、イランは現在、こうした外国が支援する無制限の不安定化作戦の焦点の一つとなっている。

 パトルシェフは、イランのエブラヒム・ライシ大統領に公式に迎えられ、「他国に依存しない二国間の協力は、米国とその同盟国の制裁と不安定化政策に対する最も強い反応である」と率直に述べた。

 パトルシェフは、ロシア連邦にとって、イランとの戦略的関係はロシアの国家安全保障に不可欠であるとライシ大統領に断言した。

 その断言はゼラニウム2・神風ドローン(ウクライナの戦場で大惨事を引き起こしたシャヘド136と同類のもの。イランがロシアに提供したと言われている)をはるかに超える威力がある。ちなみに、この発言はその後で、シャムハニ自身の口から次のような言葉を引き出すこととなった。「イランはウクライナ問題の平和的解決を歓迎し」「モスクワとキエフの対話に基づく平和を支持する」。

 パトルシェフとシャムハニは、もちろん安全保障問題や、おなじみの「国際舞台での協力」について話し合った。しかし、より重要なのは、ロシアの代表団にいくつかの主要な経済機関の高官が含まれていたことであろう。

 それに関する情報は公表されなかったが、これはユーラシア大陸で制裁を受けた2つの主要国家の戦略的友好関係の中核に、重要な経済的つながりが残っていることを示唆している。

 今回の協議で鍵となったのは、イランがそれぞれの国の通貨であるルーブルとリヤルによる二国間貿易の迅速な拡大に重点を置いていることである。このような二国間関係は、上海協力機構(SCO)とBRICSが多極化に向けて推進していることの中心をなすものである。イランは現在、SCOの正式メンバーであり、西アジア諸国としては唯一、このアジアの戦略的巨大組織に属していて、BRICS+の一員となることを申請する予定である。

物々交換あり、いつどこにでも参上

 パトルシェフ/シャムハニ会談は、来月、イランがガスプロム*との間で400億ドルという途方もない額のエネルギー取引に調印することを前にして行われた。
 *ロシアの半国営企業。天然ガスの生産・供給において世界最大の企業。創設は 1993年。

 イラン国営石油会社(NIOC)は、すでに65億ドルの初期契約を締結している。その内容は、2つのガス鉱床と6つの油田の開発、天然ガスと石油製品の交換、LNG計画、ガス輸送管の増設などが中心となっている。

 先月、ロシアのアレクサンドル・ノヴァク副首相が、2022年末までに終了する500万トンの原油と100億立方メートルの天然ガスの物々交換を発表した。そして、「イランの油田に対するロシアの投資額は増加する」と確約した。

 言うまでもなく、物々交換は、モスクワとテヘランが共同で、西側金融システムと連動して間断なく問題になっている制裁と支払決済の問題を回避する理想的な方法である。その上、ロシアとイランは、カスピ海を経由する直接的な貿易網に投資することができる。

 最近カザフスタンのアスタナで開催された、アジアにおける交流と信頼の醸成と措置に関する会議(CICA)の首脳会談で、ライシ大統領は、成功する「新しいアジア」は必然的に他国に依存しない自立国家が国の内部から発展するモデルを開発しなければならないと力強く提案した。

 SCO 加盟国であり、ロシア、インドと並んで国際南北輸送回廊(INSTC)においても重要な役割を果たしているイランを、ライシ大統領は多国間主義の重要な動因に位置づけている。

 イランがSCOに加盟して以来、イランとロシア・中国間の協力が加速しているのは予想通りである。パトルシェフの訪問は、その一環である。テヘランは、数十年にわたるイラン恐怖症と、制裁からカラー革命の試みに至るまでの、アメリカの「最大限の圧力」によって起こりえたあらゆる後退を乗り越えて、ユーラシア大陸と躍動的に結びつこうとしている。

BRI、SCO、INSTC *
*一帯一路構想、上海協力機構、国際南北輸送回廊

 イランは、ユーラシア大陸を道路、海、鉄道で結ぶ中国の壮大な生活基盤建設計画である一帯一路構想(BRI)の重要な同士である。同時に、ロシア主導の国際南北輸送回廊(INSTC)は、インド亜大陸と中央アジアの貿易を促進し、南コーカサスとカスピ海地域におけるロシアの存在感を高めるために不可欠である。

 イランとインドは、イランのチャバハル港の一部を中央アジア諸国に提供し、排他的経済水域に入れるように便宜を図ることを約束している。

 サマルカンドで開催された上海協力機構(SCO)首脳会議では、ロシアと中国は、特に西側諸国に対して、イランを国際的孤立国家と扱うつもりはもうないことを明確に表明した。

 したがって、イランが、SCOのすべての加盟国と新しいビジネス時代に突入しているのは不思議ではない。主にロシア、中国、インドによって設計されている新興金融秩序の兆候の下で新時代は始まっているのだ。戦略的友好関係という点では、ロシアとインド(ナレンドラ・モディ大統領はこれを「切れ目のない友情」と呼んだ)の結びつきは、ロシアと中国の結びつきに匹敵するほど強力である。そして、ロシアに関して、イランが狙っているのはそこである。

 パトルシェフ/シャムハニ戦略会談は、西側の苛立ちを未曾有の規模にまで跳ね上げるだろう―イラン恐怖症とロシア嫌悪症を一挙に完全に粉砕するのだから。イランは、ロシアが多極化を進めるうえで、緊密な同盟国として比類のない戦略的資産なのだ。

 イランとユーラシア経済連合(EAEU)は、ロシアの石油をめぐる物々交換と並行して、すでに自由貿易協定(FTA)の交渉を行っている。西側がSWIFTという銀行間通信制度に依存することは、ロシアとイランにとってほとんど何の意味もない。南半球は、特に石油が米ドルで取引されているイランの近隣諸国を中心に、この動きを注視している。

 西側で常温*以上のIQを持つ人間であれば、結局、共同包括行動計画(JCPOA、イラン核合意)は、もうどうでもいいということが明らかになりつつある。イランの未来は、BRICSのうち3つの国の成功に直結している。ロシア、中国、インドである。イラン自身も近いうちにBRICS+の一員になるかもしれない。
 *この場合は華氏で、常温(人間の体温)は100度。

 それだけではない。イランはペルシャ湾地域の模範となりつつある。この先、SCO加盟を目指す地域諸国の長い行列を目の当たりにすることが 。トランプ大統領の「アブラハム合意」*? 何それ? BRICS/SCO/BRIこそは、現在の西アジアで進むべき唯一の道なのだ。
 *2020年8月にアラブ首長国連邦(UAE)とイスラエルとの間で締結された外交合意。トランプ米大統領が仲介した。UAEは、エジプト、ヨルダンに次いでイスラエルと国交正常化したアラブ世界で3番目の国となった。背景には、パレスチナの孤立化、反米政策をとるイランへの対策という米国の思惑がある。

なぜロシアは西側を発狂させるのか?ーヨーロッパのロシアから、ユーラシアのロシアへ

<記事原文 寺島先生推薦>

Why Russia Is Driving the West Crazy

ペペ・エスコバー(Pepe Escobar)
グローバル・リサーチ
2021年2月11日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年3月10日


 この記事の元記事は、アジア・タイムズで掲載されたものだ。

 後の歴史家はこの日を、普段は冷静沈着なロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、ついに堪忍袋の緒を切らした日だと記述するかもしれない。

 「ロシアは欧州連合が一方的で不当な制裁を課そうとするすることに慣れきってしまっているが、ここまで来たら、ロシアとしては、欧州連合は信頼のできるパートナーではない、と言わざるをえなくなっています」

 ジョセップ・ボレル
欧州連合外務・安全保障政策上級代表は、モスクワを公式訪問中に、ラブロフ外相からきつい一撃をお見舞された。

 普段は完全な紳士であるラブロフ外相は、さらにこう付け加えた。「間もなく開催される欧州連合(EU)の戦略会議の議題の中心が、欧州連合にとっての利益とは何なのかについてとなり、この会談がロシアと欧州連合の結び付きをより建設的なものに変える内容になることを私は願っています」

 ラブロフ外相が言及していたのは、来月開催される欧州理事会における各国元首の話し合いのことだった。その場で、元首たちはロシアについて話し合うことになるだろう。ラブロフ外相は「信頼できないパートナーたち」が責任ある大人の振る舞いを見せるなどという幻想は夢にも抱いていないだろう。


 ラブロフ外相がボレル代表との面会の冒頭で語った内容には、さらに深く興味を引かれる内容があったのだ。「私たちが直面している主要な問題は、ロシアと欧州連合の間は正常さを逸している、ということです。私たちロシアと欧州連合はユーラシアにおける二大勢力です。この二つの勢力の関係が良くない関係にあることは、誰の得にもならないのです」

 ユーラシアにおける二大勢力。(斜字体は筆者による)。このことばは今は、置いておこう。後でまた触れる。

 現状では、EUは「良くない関係」をさらに悪化させざるをえなくなっているようである。ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、EUのワクチン・確保ゲームで記録的な大失態を犯してしまった。同委員長がボレル代表をモスクワに派遣した一番の理由は、欧州の複数の企業にスプートニクⅤワクチンを生産する権利を授与してくれるようロシア政府に依頼するためだった。スプートニクⅤの生産は間もなくEUによって承認されることになるだろう。

 それでもまだ、EUの役人たちはヒステリーに取り憑かれるほうを好むようで、NATOのスパイであり、有罪判決を受けているアレクセイ・ナワリヌイ(ロシアのグアイドと呼んでいい人物だ)の奇妙な行動を擁護している。

 さて、大西洋の向こう側では、「戦略的防衛」という名目で、米国戦略軍提督チャールズ・リチャード司令官は、うっかり口を滑らした。「我々とロシアや中国との間に地域紛争が起これば、即刻、核兵器が使われる戦争になってしまうことは十分ありえることだ。なぜなら中露が核兵器を使わなければ敗北し、政権や国家の運営が危機的状況になるからだ。」

 つまり、来たるべき、そして最終戦争の原因は、ロシアや中国の「破壊的な」行いのせいにされることにあらかじめ設定されている、ということだ。さらに中露がともに「敗れる」ことも前提になっている。それで、両国がカッとなって核戦争にうってでる、というシナリオだ。 そうなると、米国防総省はただの被害者だということか。結局、ミスター・米国戦略軍氏が言いたかったのは、我々は「冷戦からまだ抜け出せていないんだ」ということなのだろう。

 アメリカ戦略軍(STRATCOM)の政策立案者が、超一流の軍事分析家アンドレ・マルチアノフの書いた記事を読むことはまずないだろう。マルチアノフは長年、(核兵器ではなく)超音速機開発の最前線で何が起こっているのか、そしてその超音速機が戦争の形を変えてきたことについて詳しく取材してきた人物だ。

 技術的な分析を詳細に述べたあと、マルチアノフが明らかにしたのは以下のことだ。

 米国は現時点でよい選択肢は持てない。全く、だ。少しマシな選択肢は、ロシアと話し合いを持つことだ。
 しかしその際、地政学的な野望など持ってはいけないし、ロシアに中国との同盟関係を「破棄させる」ことができるという甘い夢を持ってもいけない。ロシアにそんなことを申し出ることができるような条件は、米国には何もないのだ。
 そうではなく、ロシアと米国は、最終的に、お互いの地政学的「覇権」について平和的に折り合いをつけ、もうひとつの椅子を中国に差し出し、中露米という三大国で覇権を分かち合い、今後の世界支配しようとの方法を話し合う、という方法ならとれるかもしれない。このやり方しか、米国が新しい世界秩序の中で影響力を持ち続けられる方法はない。

キプチャックハン国(金帳汗国 Golden Horde)の爪痕


 EUがロシアとの「良くない関係」を見直すチャンスを逃しているのと同じく、米国のディープ・ステート(裏国家、闇の政府)も、マルチアノフの話に耳を貸そうとするようすは全く見えない

 これから先も以下のような状況は避けられないだろう。ロシアに対する制裁は永遠に続く。NATO軍のロシア国境付近への拡張も永遠に続く。ロシアの周りの国々をロシアの敵国に変換することも。米国政府が、ロシアの内政問題に関与してくることも永遠に続く。そのため、ロシア国内に第5列の勢力(内部の撹乱者)を配置する。完全な規模での情報戦争も永遠に続く。

 ラブロフ外相がますますハッキリさせているのは、ロシア政府はそれ以上のことは何も期待していないことだ。しかし、その証拠は日に日に積み重ねられていくだろう。

 ノルドストリーム2は完成するだろう。制裁を受けようが、受けまいが。そしてドイツとEUには、必要以上の天然ガスが供給されるだろう。有罪判決を受けた詐欺師ナワリヌイ(彼に対するロシア国内の「人気度」はたった1%だ)は、牢獄につながれたままだろう。EU中の市民たちはスプートニクⅤのワクチンを接種するだろう。中露の戦略的同盟関係は、これから先も強化され続けるだろう。

        「ノルドストリーム2」:バルト海底を経由してロシア・ドイツ間をつなぐ天然ガスのパイプライン)

 なぜ私たちがロシア嫌いという醜い境地に追いやられてしまったかの理由を理解させてくれる指南書がある。その著書のタイトルは『ロシアの保守性』だ。これはノルウェー南東大学の客員教授であり、ロシア国立研究大学経済高等学院の教員でもあるグレン・ディーセンが、新しい政治的哲学に基づいて書いた非常に面白い本である。ディーセンは、私にとって他ならぬ、モスクワ在住の相談相手の1人でもある。

 ディーセンは大事なことを焦点化して書き始めている。それは、地理と地形と歴史だ。ロシアには広大な大地があるが、その割には海運に乏しい。ディーセンによると、ロシアでは地理的に、以下の三点が育まれてきた、とのことだ。それは、①専制政治を特徴とする保守的な政体。②野望的であるが複雑でもある国粋主義。③ギリシャ正教による支配の受容の三点だ。これらは一言でいえば、「徹底した政教分離」に対してはある種の抵抗感を保持していた、ということを示唆しているのかもしれない。

 常に念頭に置いておくべきことは、ロシアには国境を隔てる自然物が存在しないということだ。であるので、ロシアは、スウェーデンや、ポーランドや、リトアニアや、モンゴル帝国のキプチャック汗国や、クリミアのタタール人や、ナポレオンから侵略され、占領された過去を持つのだ。そして言うまでもなくナチスによる激しい侵攻も体験している。

READ MORE: Back in the (Great) Game: The Revenge of Eurasian Land Powers

 このような状況を表す言葉はあるだろうか?全てを表す言葉がロシア語にはある。それが、「безопасность(ベズ・オパースノスチ=ベゾパースノチ、[国家の]保安」だ。この言葉の意味は偶然にも否定を表す言葉だ。безは「~がない」という意味であり、опасностьは「危険」という意味だ。

 ロシアが、複雑で独特な形で形成されたという歴史は、深刻な問題を生み出してきた。ロシアはビザンツ帝国と親密な関係にあった。しかし、ロシアが、「自分たちは、コンスタンチノープルから帝国の権利を授かったのだ」と主張すれば、ロシアはビザンツ帝国を征服しなければならないことになってしまう。また、自分たちは、キプチャック汗国の後継者であり、キプチャック汗国の役割や遺産を引き継いでいると主張すれば、ロシアはアジアにおける勢力しか維持できない事になってしまう。

 ロシアが近代化するにあたり問題になったことは、モンゴル人による侵略は、地理的な分裂を引き起こしただけではなく、政体においても、モンゴルの影響が残ってしまっていたことだった。「モンゴルの遺産を引き継ぐことで、ロシア帝国は、専制政治を行うことが必要条件になり、さらに領土は広いが、地域の結び付きが乏しいという課題を抱えたユーラシアの帝国になったのだ」

        「キプチャック汗国」:モンゴル帝国の四ハン国の一。「欽察汗国」「金帳汗国」とも書く。1243年、チンギス=ハンの孫バトゥ(抜都)がキルギス草原にロシアのキプチャク草原を加えて建国。都はボルガ河畔のサライ。14世紀前半に最も繁栄したが、のちチムール帝国の創始者チムール(帖木児)に圧迫されて衰退し、1502年に滅んだ。)

「東と西の巨大なせめぎあい」


 ロシアというのは、ユーラシアの東側的要素と西側的要素とのせめぎあいが全ての国だといえる。ディーセンは、ニコライ・べルジャーエフのことを思い起こさせてくれている。ベルジャーエフは、二十世紀の代表的な保守派のひとりであり、すでに1947年の時点で、こんなことばを残している。
 「ロシア人の精神の不安定さや複雑さは、ロシアには世界史におけるふたつの潮流、西側的要素と東側的要素があるからかもしれない。このふたつの要素がせめぎあい影響しあって、ロシアは世界の中で独特な社会を形成しているのだ。そう、西側的要素と東側的要素がせめぎあう国なのだ」

 シベリア鉄道が建設されたのは、ロシア帝国内の内部の結び付きを強化し、帝国がアジア地域にも勢力を伸ばすための大変革だった。「ロシアの農地開拓が東に拡張されることにより、ロシアは、それまでユーラシアを支配し結び付けていた古い道をどんどん取りかえていったのだ」

 感嘆を覚えるのは、ロシア経済の発展が、マッキンダーのハートランド理論に落とし込まれるさまを見ることだ。ハートランド理論とは、世界支配のためには、巨大なユーラシア大陸を支配下に置く必要があるという理論だ。マッキンダーが恐れていたのは、ロシアの鉄道網が、海運国家である英国の権力構造全体の弊害になることであった。

 ディーセンがさらに明らかにしたのは、1917年のロシア革命後に亡命した人々の間で1920年代に起こったユーラシアニズムという潮流が、実はロシア保守主義の進化したものである、という事実だ。

 ユーラシアニズムは、いくつかの理由のせいで、政治的な潮流としてひとつにまとまったことは一度もなかった。ユーラシアニズムの核は、ロシアは単なる東欧国家のひとつではないと捉えることだ。13世紀のモンゴルによる侵略と、16世紀のタタール王国による侵略を経て、ロシアの歴史と地理をヨーロッパのものとしてだけでとらえることはできなくなった。これから先の時代は、よりバランスの取れた見方が必要となるだろう。そう、ロシアのアジア的要素も加味すべきなのだ。

 ドストエフスキーは賢明にも、誰よりも先んじそれを行っている。1881年のことだ。

 「ロシア人はヨーロッパ人であると同時にアジア人である。ここ二世紀、我々が政策上おかしてきた誤りは、ヨーロッパの人々に、我々こそ真のヨーロッパ人であると考えさせようとしてきたことだ。我々はヨーロッパ人たちにへつらいすぎてきた。ヨーロッパ内部の問題に口を挟みすぎてきた。我々はヨーロッパ人の前ではまるで奴隷のように振舞ってきた。そしてその結果得られたものは、ヨーロッパ人からの憎しみと蔑みだけだった。さあ、そんな礼儀知らずのヨーロッパから顔を背けよう。我々の未来はアジアにある」

 賛否両論はあるが、レフ・グミリョフ(ソ連の歴史家、民俗学者、人類学者)はユーラシアニズム論者の若い世代の中のスーパースターだ。
      ユーラシアニズム:ロシア新ナショナリズム、地政学的観点からヨーロッパ人でもアジア人でもないロシア人に思い描かせる強いロシア「ユーラシア連合」構想。

 グミリョフの主張によれば、ロシアは、スラブ民族、モンゴル民族、トルコ民族という三つの民族が自然に衝突する中でつくりだされた、とのことだ。
 1989年に出版された『古代ルーシとユーラシア・ステップ』で、グミリョフはソ連崩壊後のロシアに計り知れないインパクトを与えた。
 実は私自身もソ連崩壊直後のロシアを直接知っている。1992年の冬、シベリア鉄道に乗ってモスクワに行ったのだ。そこで、出迎えてくれたロシアの友人たちから話を聞いたことがある。

 ディーセンがそう捉えているのだが、グミリョフが提供してくれているのは第三の方法だった。それはヨーロッパ主義でもなく、ユートピア的国際人道主義でもない。レフ・グミリョフという名を冠した大学が、カザフスタンに建設されている。プーチンはグミリョフを評してこう言っている。「現代の偉大なユーラシア人だ」と。

 ディーセンはジョージ・ケナンのことさえも想起させてくれている。ケナンは1994年にロシアの保守派の結末をこう捉えていた。「この国は、悲劇的な傷を負い、精神的にも打ちのめされた」と。2005年に、プーチンはもっと厳しい評価をしている。

 「ソ連崩壊は二十世紀最大の地政学的な惨事だった。ロシアの人々にとっては本当に悲劇だった。昔からの理想が破壊されてしまった。多くの組織が解体され、ただ急いで再建された。節度のない情報が垂れ流され、オリガルヒ(新興財閥)集団が自社の利益だけのために動いていた。大衆の貧困は当たり前のことと受け止められるようになり始めた。これら全てのことが、最も厳しい経済不況や、不安定な金融や、社会の進歩の麻痺につながっていた」


「権威的民主主義」の導入

 さて、ここからは、1990年代以降の非常に重要なヨーロッパ問題について語ろう。

 1990年代には、大西洋主義者たちの先導により、ロシアの外交政策は「拡大されたヨーロッパ」という概念に基づいて行われるようになった。その考えは、ゴルバチョフの「欧州共通の家構想」がもとになっている。
      「大西洋主義または汎大西洋主義」: 西欧と北米各国の政治・経済・軍事における協調政策。その目的は、参加国の安全保障および共通の価値観を守ること
        「欧州共通の家構想」: 軍事同盟・経済同盟によって対立が続いていた東西ヨーロッパの分断状況を克服し、ヨーロッパに統一された一つの共同体をつくるべきであるとしたもの


 そして、冷戦後のヨーロッパでは、NATOが終わることのない拡張を始め、EUが生まれ、そして拡大していった。リベラル派が見せたこのような曲芸は欧州全てを巻き込んでいたが、ロシアは締め出されていた。

 ディーセンはこの全過程を上手に一文で要約してくれている。
 「新しいリベラルなヨーロッパは、海運国家である英米による支配の代表者である。マッキンダーの目的は、独露関係を全く成り立たせないことであり、この二国が共通の利益のもとで繋がることを阻止することだった」

 だからこそ、その後プーチンが「灰色の枢機卿(政権を裏で動かす人)」や「新ヒトラー」と揶揄されるようになったのは何の不思議もないことなのだ。プーチンはロシアが単なるヨーロッパの見習い学生になることをキッパリ拒絶したのだ。そしてもちろんヨーロッパの(新)自由主義による覇権に対しても、だ。

 それでもプーチンは依然として善良な振る舞いを保ってきた。2005年に、プーチンはこう強調している。「何よりも、ロシアが、過去もそうだったし、今もそうだし、これからもそうなのだが、ヨーロッパの大国のひとつであることは当然のことだ」と。プーチンの望みは、権力政治とリベラル的な考え方を切り離すことだった。リベラル派による覇権という基盤を拒絶することによって。

 プーチンが言っていたのは、民主主義にはひとつしか型がないわけではない、ということだった。後に概念化されたのだが、これが「権威的民主主義」だ。民主主義は権威なしには成り立たないという概念だ。この考えに立てば、ヨーロッパ諸国の「監視」の元で民主主義を普及させる必要はなくなるのだ。

 ディーセンの厳しい見立てによれば、ソ連が「真の意味で、左派としてのユーラシアニズムを大事にする国であったとすれば、その遺産は今の保守的ユーラシアニズムに移行できたかもしれない」とのことだ。ディーセンは、時に「ロシアのキッシンジャー」とも評されるセルゲイ・カラガノフの見解を記述している。
 カラガノフによれば、「ソ連は脱植民地主義の中心であり、西側から、軍事力を使っても世界を意のままに動かす力を奪うことにより、アジアの国々の発展に手を貸してきたのだ。そしてそのような軍事力を背景とした世界支配を、西側は16世紀から1940年代まで続けていたのだ」

 このことは、グローバル・サウスの国々(ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアの国々)に広く知れ渡っている。


ヨーロッパは、ユーラシアのただの西の外れになる

 さて、冷戦が終わり、「拡大されたヨーロッパ」構想もうまくいかなかったため、「拡大されたユーラシア」を打ち立てるためにロシア政府がアジア基軸戦略に移行するという流れは、歴史上避けられない潮流だったといえる。

 この論法に非の打ちどころはない。 ユーラシアの二大経済の中心地と言えば、ヨーロッパと東アジアだ。ロシア政府はこの二地域を経済的に結びつけ、超大陸経済網を実現しようと望んでいる。この構想が、拡大されたユーラシアという概念で中国の一帯一路構想と繋がる。しかしロシアにとっては、別の次元でもうひとつの利点が得られる。ディーセンはそのことをこう記述している。「従来の権力の中枢から離れて、地域作りという新しい中心課題が生まれるのだ」と。

 ディーセンが強調しているのは、保守的な観点からすれば、「拡大されたユーラシアの政治的な経済があれば、ロシアはこれまでの西側に対する執着心から解き放たれ、ロシアの近代化への道は、ロシアそのものから樹立できることになる」ということだ。

 そうなれば、次のような発展に繋がる。①戦略産業②幹線の接続③金融商品④ロシアのヨーロッパ側とシベリアや太平洋側を結び付けるインフラ整備計画だ。これらは全て産業化された保守的な政治経済という新しい概念の元に進められることになる。

 中露の戦略的協調関係はまた期せずして上記の地政学的分野のうちの3点①戦略産業・基盤技術②幹線の接続③金融商品で活性化されよう。

 このような状況は再びある議論を呼び起こすことになる。至高の定言命法の問題だ。すなわち、ハートランド理論と海運立国理論、どちらをとるかという議論だ。

        「定言命法」:カント倫理学における根本的な原理であり、無条件に「~せよ」と命じる絶対的命法である。定言的命令とも言う。
      「ハートランド理論」:ユーラシア大陸の心臓部を支配する国が世界を制覇できる、というマッキンダーが唱えた理論。ユーラシア大陸の心臓部を支配する国は、そこがいかなる海軍の攻撃も受け得ない「聖域」なので、そこを押さえることができれば世界を制することができる、というもの。以下の地図を参照。
        「海運立国理論」:アルフレッド・マハンの海上権力理論。軍事活動の分野だけでなく、平和時の通商・海運活動をも含めた広義のシーパワー理論。




 過去のユーラシアの三大勢力といえば、スキタイ族と、フン族と、モンゴル民族だ。これらの勢力が脆く長続きしなかったのは、勢力範囲が、ユーラシアの海回りの国境まで届かず、海回りを支配下におさめることが出来なかったからだ。

        「スキタイ族」は、イラン系遊牧騎馬民族および遊牧国家。ユーラシアでは紀元前9世紀~紀元後4世紀、中央アジアのソグディアナでは紀元後12世紀まで活動していた。
        「フン族」は、4世紀から6世紀にかけて中央アジア、コーカサス、東ヨーロッパに住んでいた遊牧民。
      「モンゴル民族」は、7世紀から歴史上に登場し、13-14世紀にモンゴル帝国を築いた民族。現在はモンゴル国と中華人民共和国の内モンゴル自治区、ロシア連邦構成国のブリヤート、カルムイクなどにその多くが住んでいる。


 そして、ユーラシアにおける四番目の巨大勢力が帝政ロシアであり、その後継者のソビエト連邦だった。ソ連崩壊の重要な要因は、繰り返しになるが、ユーラシアの海回りの国境まで勢力が届かず、海回りを支配下におさめることが出来なかったからだ。

 米国はそれを阻止するため、マッキンダー(ハートランド理論)やマハン(海運立国理論)やスパイクマン(地理の知識が最重要)の主張を組みあわせた戦略を採用したのだ。米国のこの戦略は、スパイクマン・ケナンの封じ込め作戦という名でさえ知られるようになった。これらの作戦は、ユーラシア大陸、つまり、西欧、東欧、東アジア、中東の全ての海周りにおける「前方展開」作戦である。

        「ニコラス・スパイクマン」:弟子にはまず第一に地理の知識を叩き込ませたという。地理の知識なしに地政学を理解するのは不可能だからである。
        「ジョージ・ケナン」:アメリカの外交官、政治学者、歴史家。1940年代から1950年代末にかけての外交政策立案者で、ソ連封じ込めを柱とするアメリカの冷戦政策を計画したことで知られる。
        「前方展開」:第二次大戦後の冷戦期に米国が採用した軍事戦略。欧州や東アジア・太平洋地域の友好国に駐留軍を配置し、敵対関係にあった旧ソ連による侵攻や威圧を抑止するというもの。


 今となっては、周知の事実だが、米国の海外戦略(それが、米国が第一次世界大戦と第二次世界大戦、両方にに参戦した理由だったのだが)は、ユーラシア大陸を席巻する覇権の誕生を阻止することだったのだ。そうだ、どんな手段を使っても、ということだ。

 覇者としての米国については、「偉大なるチェス盤」という威名をもつズビグネフ・フレジンスキー博士が、1997年に、欠くべからざる帝国的傲慢さをもって、大雑把に次のように概念化した。「隷属者同士の癒着を防いで安全保障上の依存関係を維持してやり、属国を手なずけ保護してやり、野蛮人が集まらないようにすることだ」。古き良き「分断して統治せよ」作戦を、「システムの優越性」を介して適用したものだ。

 しかし、このシステムこそが、いま崩壊しようとしているのだ。世界覇権を目指すお馴染みの連中にとっては大きな絶望を呼ぶことになった。ディーセンによれば、「過去においては、ロシアがアジア重視のスタンスをとることは、ロシア経済に弊害を生むことになり、ヨーロッパの大国としてのロシアの地位を消してしまうと考えられていた」とのことだ。しかし「地政学的な経済の中心地が東アジアや中国に移行している現状では、全く新しいゲームが始まろうとしている」と。

 四六時中、米国は中露を悪魔化し、米国の手下であるEU各国が、ロシアとの関係を「良くない関係」にすればするほど、ロシアはますます中国との連携を強めることにしかならない。そうなると、たった二世紀しか世界覇権を手にしていない西側は重大な岐路に立たされ、その覇権は、アンドレ・グンダー・フランクが結論づけていたとおり、終末を迎えることになるだろう。
      アンドレ・グンダー・フランクは、ドイツ生まれの経済歴史家、社会学者であり、1960年代に提唱された従属理論の生みの親の一人と認識されている。
        従属理論は、低開発国が貧困から抜け出せないのは、先進国に従属しているからであり、後進国が貧困から抜け出すには、先進国(中枢国)との関係を断ち切って保護貿易をおこなうしかないとしたもの。その例が、日本の江戸・明治時代だという。これがフランクの考え。

 ディーセンは、あまりに楽観的すぎる見方かもしれなが、こんなことを期待している。「ユーラシアの台頭という潮流の中で、ロシアと西側との関係も完全に変化するだろう。西側がロシアと敵対しようとするのは、ロシアには他に行くところがないから我々西側が差し出す「協調」を必ず受け入れる、という考えからくるものだ。しかし東方の台頭は、ロシアの協調関係を結ぶ選択肢を多様なものにし、ロシア政府と西側の関係を根本的に変えることになるだろう」と。

 少し気の早い話になるかもしれないが、独露関係について一言述べておこう。ロシアが、拡大されたユーラシア政策をとれば、ロシアはドイツに対して「ロシアと組んでハートランドを形成する」か、「ロシアの提携先を中国に任せてしまう」かの二者択一を提示できることになる。もしドイツが後者を選べば、歴史においては世界の脇役的役割しか果たせなくなるだろうが。もちろん、可能性としては針の穴を通すような確率しかないが、ドイツ-ロシア-中国が三国同盟を結ぶという方法もある。いつの時代もハッと驚かさせるようなことは起こってきたのだから、その可能性もゼロではないだろう。

 現時点で、ディーセンはこう確信している。「ユーラシアの陸の力(地上兵力)が、最終的にはヨーロッパとユーラシア内部の他の国々を組み込むことになる。政治的な忠誠心も、経済利益が東方に移動するにつれ徐々に変わっていくだろう。そうなれば、拡大されたユーラシア的観点から見れば、ヨーロッパは次第に、ただの西の外れにしかならなくなっていく」と。

 ロシアと「良くない関係」にある、西の外れの行商人たちにとっては、実に考えさせられる話ではないか。

 <訳注> 翻訳にあたっては次の論考も参考になりました。

* タタールのくびき
https://www.y-history.net/appendix/wh0602-056.html

  Pepe Escobar, born in Brazil, is a correspondent and editor-at-large at Asia Times and columnist for Consortium News and Strategic Culture in Moscow.
  Since the mid-1980s he’s lived and worked as a foreign correspondent in London, Paris, Milan, Los Angeles, Singapore, Bangkok. He has extensively covered Pakistan, Afghanistan and Central Asia to China, Iran, Iraq and the wider Middle East.
  Pepe is the author of Globalistan – How the Globalized World is Dissolving into Liquid War; Red Zone Blues: A Snapshot of Baghdad during the Surge. He was contributing editor to The Empire and The Crescent and Tutto in Vendita in Italy. His last two books are Empire of Chaos and 2030.
  Pepe is also associated with the Paris-based European Academy of Geopolitics. When not on the road he lives between Paris and Bangkok.

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